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ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所9

1 名前:管理人 ◆h6U6vDPq/A:2011/08/28(日) 11:25:11 ID:tHS5XxCA
ここはストライクウィッチーズ百合スレ避難所本スレです。

●前スレ
ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所8
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12483/1299248601/

●Janeで避難所を見る場合
・板一覧を右クリックして「新規カテゴリを追加」をクリック(板一覧が無い場合は「表示」→「板ツリー」→「板全体」で表示できる)
・カテゴリ名を入力してOKをクリックする(例:「したらば」)
・作成したカテゴリにカーソルを合わせて右クリックし、「ここに板を追加」をクリック
・板名を入力してOKをクリックする(例:「百合避難所」)
・URLに「http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12483/」を入力してOKをクリックする。

2 名前:管理人 ◆h6U6vDPq/A:2011/08/28(日) 11:26:07 ID:tHS5XxCA
規制について
★改行規制
避難所スレについて、投稿本文の文字制限は4096byte(全て全角文字の場合は2048文字)、
投稿本文の最大行数は100です。

★連投規制
今のところありません。

★スレの容量
管理人が500KB超えに気付いた時点でスレストを掛けます。

3 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/08/30(火) 23:10:27 ID:0IaCgNO2
>>1 管理人様
スレ立て乙です&毎日の管理に感謝です。

前スレ>>301 Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJ! まさかの夢オチw 夢の中でも夢から醒めても全力ですねヘルマはw


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
改めて、新スレおめでとうございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
ではどうぞ。

4 名前:joy-juice 01/02:2011/08/30(火) 23:11:04 ID:0IaCgNO2
「あっつー」
「なんかだるいよなー」
 普段はからりと清涼なロマーニャでも、夏はやはり、暑い。
 連日の暑さで食も進まず、うんざりしていた隊員達はミーティングルームで気怠さと暇を持て余していた。
「ねえシャーリー。なんかおもしろーい事ない?」
「有ったらとっくにやってるよー」
「ならサウナに入ったらドウダ? ここよりは暑いから、出たら一瞬だけ超涼しく感じるゾ」
「一瞬だけじゃやだー!」
 そこに、扶桑の魔女二人が何かを持ってやって来た。何か大事なものらしく、木の箱に入れて丁寧に持ち歩いている。
「ウジャ なにそれ?」
 面白そうなものを見つけたルッキーニが美緒の前に飛んで来た。
「ああ。皆を元気付けようと思ってな。扶桑から取り寄せた」
「まさか」
 その場に居た一同は、以前飲まされた肝油を思い出して戦慄した。
「皆さん違いますよ。肝油じゃないですよ。もうちょっと美味しくて、ガツンと効くものですよ」
 笑う芳佳。
「お前ら扶桑の魔女の言う事は信用できナイ!」
「あたしもちょっと、何が出てくるか心配で……」
 拒絶しサーニャを守るべく一歩出るエイラ、扶桑のウィッチを前にやや引き気味のシャーリー。
「ご安心下さい。今回ご用意したのはこちら! じゃーん!」
 芳佳が箱から一升瓶を取り出した。
 その瓶の中身を見たウィッチ達は、一目散に部屋から逃げ出した。
「何故逃げる」
「効くんですけどね……」
 瓶の中をたゆたう液体は琥珀色に染まりとろんとした蜜の様。そして瓶の底にびっしりと沈むのはスズメバチ。

「あら、皆何処へ行ったのかしら? ……って何それ」
 入れ替わりに部屋に来たミーナは、瓶と中身を見てぎょっとした。
「おお、ミーナ良い所に来た。どうだ、一緒に飲まないか」
「え、えっ、えええ?」
 色々な情報が一気に雪崩れ込み混乱するミーナ。
「何を驚いているんだ。これは滋養強壮に効くとされていてだな」
「こんな大きな蜂、扶桑に居るの? 怖い……」
「掴まえて、生きたまま焼酎に漬け込むんですよ。少しずつ飲むと身体に良いんですよ、とっても」
 芳佳の説明もそこそこに聞き流し……見た目のインパクトに圧されたミーナは、流石に一歩退いて、どうすべきか迷った。
「そ、そうねえ……」
「美容にも良いんだぞ? なあ宮藤」
「ですねえ。そう言う言い伝えですけど」
 二人のセールストークを聞くうちに、なら一口、と行きそうだが、一緒に美緒も飲むと言う事、その点がとても気に掛かる。
 また暴走してあんな事やこんな事になりはしないかと。
「おいミーナ、急ぎの仕事だ」
 扉の向こうからトゥルーデの声がする。僅かに扉が開いて、声だけ聞こえて来た。
「あ、あらそう。残念ね。またの機会にね」
 ミーナは書類の束を抱えたまま、逃げる様に部屋から出て行った。
「何故だ」
「何ででしょう」
 取り残された扶桑の魔女ふたり、そして酒。

「ふう。危ない所だった」
 扉の向こうでは、ミーナの手を引くトゥルーデの姿が。
「危ないってどう言う事?」
「あんな生物標本みたいなものを飲めるかと言う話だ」
 呆れるトゥルーデ。横でくすくす笑うエーリカ。
「でも、滋養強壮に良いし、美容にも良いって話だし……」
 名残惜しそうな501隊長。
「おいミーナ。問題はまだ有るんだぞ。仮にあの不気味な酒が栄養豊富だとしても、一緒に飲むのが少佐と言う事を考えろ」
「そ、それは……」
「良いのかそれで」
 じと目でミーナを見やるトゥルーデ。額に汗を一筋流し、答えに窮するミーナ。
「今度、少佐の居ない時に、ミヤフジに持って来て貰うといいよ」
 現実的な解決策を提案するエーリカ。
「それが良い。あの酒を試すにしろ、少佐と一緒に、と言うのはとにかく危険だ」
 先日の、基地でワインに「飲まれた」美緒の事を思い出し、少し頬を赤らめながらミーナの手を引くトゥルーデ。
 それに気付き、くすっと微笑むミーナ。そんな二人を見て、にししと笑うエーリカ。
 こうして501の危機は去ったかに見えた。

5 名前:joy-juice 02/02:2011/08/30(火) 23:11:30 ID:0IaCgNO2
「邪魔するぞ」
 美緒が執務室にやって来た。何をするとでもないが、深夜になってもミーナが執務室から出てこないので
また残務が溜まっているのではと心配になったのだ。
「あら、美緒」
 ミーナは椅子を窓辺に向けたまま、何かカクテルの様な物を呷っていた。言葉を続ける。
「ちょうど良い所に来たわ」
 液体を飲み干す。美緒に振り返りもせず、舌なめずりする音。
 不審に思った美緒が近付く。机の上には、かの「スズメバチ酒」の瓶があった。既に中身が半分無い。
「おいっ、ミーナ、これは一体!?」
 酒を見、慌てた美緒はミーナの顔色を確かめるべく彼女の前へと回った。うっとりとした目で美緒を見るミーナ。
「確かに美緒と宮藤さんの言う通りね。色々と、みなぎってくるわ。良いわね」
「この酒、一本しかないのにどうやって手に……」
「宮藤さんから、少し借りたのよ」
「借りたって……しかもこれは少量ずつ飲むモノだぞ。何でそんな一気に……」
 焦る美緒。頬を紅く染め、眼を細め微笑むミーナ。
「ふふふ。可愛い美緒。貴方の使い魔も素敵だけど、私の使い魔、何だか知っているでしょう?」
 答えを言わせる間も無く、ミーナはグラスを投げ捨て、美緒に襲い掛かった。
「うわっ! ミーナ待て、落ち着け! こら、服を裂くな! おい、誰か! 誰か助け…うわあああああ……」
 それっきり、執務室からの叫び声は途絶えた。

「やはり、恐ろしいな。扶桑の酒と言うのは」
 近くの物陰から、執務室の様子を伺っていたトゥルーデとエーリカ、そしてシャーリーは、顔を見合わせて頷いた。
「でも、それってミーナと少佐の酒癖の悪さじゃなくて?」
 エーリカは素朴な疑問を口にする。トゥルーデは時折執務室から聞こえてくる嬌声に顔を背けながら言った。
「と、とにかくあれは禁止だ。二人が落ち着いたら、あの酒を回収して封印する」
 シャーリーがぼそっと呟く。
「やっぱり、中身捨てちゃうのか?」
「……どうするか」
 はあ、と溜め息を付くトゥルーデ。指揮官不在ともなってしまった今、先任尉官に出来る事はただひとつ。
 見守る。
 そして頃合いを見計らって、酒を回収・封印する。
 不意に、扉が開いた。
 服が乱れきったミーナが、固有魔法を発動させたのか、トゥルーデ達の居る方向を正確に見て声を掛けてきた。
「貴方達も一緒にどう?」
 三人は振り返りもせず、全力で遁走した。

end

6 名前:名無しさん:2011/08/30(火) 23:11:45 ID:0IaCgNO2
以上です。
みなぎるミーナさんと言うのも見てみたいです。

ではまた〜。

7 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/02(金) 01:00:59 ID:uv3MLaJA
>>1 管理人様
スレ立て乙です。いつも素早い対応、ありがとうございます。

前スレ>>298 Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJです。夢の中でもお姉ちゃん、格好良いですね〜。
5年後のばいんばいんなヘルマちゃん、是非見てみたいです。

>>3 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。荒ぶるミーナ中佐、可愛いです。
隊長がみなぎっちゃうと、隊員全員が大変な事になっちゃいそうな気がします。

こんばんは。
ニコ生とか公式の基地探訪とか見てたら、芳リーネ熱がたぎって来たので2レスほど投下していきます。
ではどうぞ

8 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/02(金) 01:01:48 ID:uv3MLaJA

【キスも訓練のうち?】

「リーネちゃん、パラソルはこの辺りでいいかな?」
「うん。そこでいいよ」

ここは基地から少し離れた場所に位置する海岸。
今日はミーナ中佐の提案で、501のみんなで海水浴に来ています。
珍しく、私と芳佳ちゃんも訓練じゃない正式な休息を貰えたので、
隊のみんなにアイスティーを振舞う事にしました。

「はい、どうぞエイラさん」
「おお、悪いなリーネ」
氷がいっぱい入ったガラスのグラスに基地から持ってきた紅茶の入ったポットを注げば、簡易なアイスティーの出来上がり。
エイラさんは私からグラスを受け取ると、それを一気に飲み干してくれた。
「うん、美味い。おかわり貰えるか? あっ、それとは別にもう1杯」
「サーニャちゃんの分ですね。はい、どうぞ」
エイラさんは私からグラスを2杯受け取ると、浜辺で佇んでいるサーニャちゃんのもとへと駆け寄っていく。
「わぁ、リーネちゃんすごいなぁ。お店の人みたい」
「え? これくらい普通だよ」
「そんな事ないよ。注ぐのだって私より全然上手だし……それにこのアイスティー、リーネちゃんの優しい気持ちがいっぱい詰まってて、
本当に美味しいよ。私にとっては世界一のアイスティーだよ」
と、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞をさらっと言い切る芳佳ちゃん。
もう、そんな事言われたら芳佳ちゃんの顔、直視できないよ。
「え? あ、ありがと……」
私は胸をドキドキさせながら、隣の芳佳ちゃんにそう呟いた。
私の身体が今熱いのは多分、照りつける太陽のせいだけじゃないと思います……

――それからしばらくの間、私と芳佳ちゃんは折りたたみ式の椅子に座って隊のみんなの様子を眺めていた。
シャーリーさんとルッキーニちゃんはペリーヌさんを誘って、ビーチバレーをやろうとしているみたい。
そこから少し離れたところで、バルクホルン大尉とハルトマン中尉が水を掛け合って遊んでいるのが見える。
(というより、バルクホルン大尉がハルトマン中尉に一方的に水を掛けられてるようにも見えます。)
そして、その様子を微笑ましそうに見守るミーナ中佐。
あれ? 坂本少佐は……どこ行ったんだろう。
素潜りの練習でもしてるのかな。

9 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/02(金) 01:02:33 ID:uv3MLaJA

「ねぇ、芳佳ちゃん」
「なに?」
「その……2人きりだね」
「そうだね」
芳佳ちゃんとは日頃から常に一緒にいるけど、本当の意味での2人きりの時間は結構貴重だ。
だから、こういう時にこそ色々お話をしたいんだけど何を話せばいいのかな……?
「あっ、また揺れた!!」
「へ? どうしたの、芳佳ちゃん?」
芳佳ちゃんが急に大声をあげたのが気になり、私は彼女の視線の先を追ってみた。

「行くぞ、ルッキーニ! それ〜!」
芳佳ちゃんの視線の先に見えたのはシャーリーさんの姿。
芳佳ちゃんが言ってた揺れたものってシャーリーさんの胸の事だったんだ……
「ねぇリーネちゃん、見た? 良い揺れっぷりだったね〜」
「芳佳ちゃん、さっきからずっとシャーリーさんの事見てたの?」
「だって、すごいんだよ! シャーリーさんがビーチボールを投げるたびにおっぱいがぷるんぷるん揺れて……」
と、目をキラキラさせながら熱心にシャーリーさんの胸の魅力を語る芳佳ちゃん。
芳佳ちゃんが女の子の胸に並々ならぬ執着を持ってるのは知ってたけど、
2人きりの時にこうも熱心にシャーリーさんの胸について語られると、少しだけジェラシーを感じてしまう。

「芳佳ちゃんは私よりシャーリーさんの事が気になるんだ……」
本当はそれ程怒ってないんだけど、私はわざとらしく頬を膨らませて不機嫌なフリをしてみる。
「そ、そんな事ないよ! そりゃ、確かにシャーリーさんのおっぱいは魅力的だけど、私にとってはリーネちゃんの
おっぱいが一番で……違う、何言ってんだろ私……だからね、えーっと……」
私の反応を見て、芳佳ちゃんは悪戯がバレた子供のように慌てふためく。
ふふっ、慌ててる芳佳ちゃんとっても可愛いな。
「……気を悪くしたならごめんね。おっぱいとか関係なしに私、リーネちゃんの事が大好きだよ。
誰にでも優しいところも、射撃が上手なところも、三つ編みの髪も、縞々のソックスも、可愛らしいズボンも、
ネコちゃんの耳と尻尾も全部……私の事、許してくれる?」
芳佳ちゃんが上目遣いになりながら、私にそう訊ねてきた。
もう、その仕草は反則だよ……

「いいよ、許してあげる」
私は芳佳ちゃんを自分のもとに引き寄せて、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねる。
「リーネちゃん……あぅ」
「芳佳ちゃん、私も大好き……んっ」
私たちがしばらくの間唇を重ね合っていると、不意に聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「2人とも、冷たいお茶を一杯貰えるか」
「坂本少佐!?」
「坂本さん!?」
坂本少佐の声を聞いて私たちは、思わず飛び上がりそうになる。
い、いつからそこにいたんですか!?
坂本少佐は、驚いてる私たちの事なんておかまいなしに言葉を続ける。
「いや〜、休息の時にでも訓練とは感心したぞ」
「く、訓練……?」
「人工呼吸の練習をしていたんだろう? 私としては、どちらかが仰向けになったほうがより訓練らしくなると思うがな! はっはっは!」
「「ええ!?」」
「さて、もう一泳ぎしてくるとしよう」
少佐は私が注いだアイスティーを一気に飲み干すと、海岸のほうへと駆けていった。
……今の発言、少佐なりの冗談だったのか、それとも素だったのかな。

「ねぇ、リーネちゃん」
少佐が去ってから少しして、芳佳ちゃんが口を開いた。
「なに?」
「続き、する? その、訓練の……」
「……うん」

私はコクリと頷き、芳佳ちゃんと、坂本少佐が言うところの”訓練”を再開させるのでした。

〜Fin〜

10 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/02(金) 01:03:03 ID:uv3MLaJA
以上です。この2人はずっとイチャイチャしてればいいと思います。
ではまた

11 名前:名無しさん:2011/09/03(土) 16:34:03 ID:h5nKVrY.
>>10
GJ! 甘々いちゃいちゃな芳リーネいいですね。この二人はいつもくっついてればいい……。
てか、もっさんいい味だしてますwww 自重してwwww

12 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/10(土) 22:22:17 ID:5mTqHIik
>>10 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! 大甘な芳リーネ最高です。 もっさん流石というかw メディーック!な感じですね人工呼吸。


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

13 名前:wildrose 01/02:2011/09/10(土) 22:23:22 ID:5mTqHIik
「ねえトゥルーデ、知ってる?」
 昼食の後リーネから受け取ったお茶をのんびり飲んでいると、エーリカが唐突に聞いてきた。
「知ってるって、何を?」
「その顔じゃ知らなそうだね。ここの基地、とある場所に綺麗な花が咲いてるんだってさ」
「ほう」
「見に行こうよ」
 余り興味なさげなトゥルーデはうーんと首を捻ったが、エーリカに襟を掴まれ、そのままずるずると引きずられていった。

「確か、この辺りなんだけどなー」
 二人は基地の宿舎(代わりの建物)を出て、滑走路や周辺の小道を探していた。
 普段は基地とハンガーを往復し、必要とあらば基地の外へと出て行く事もあるが、基地の中を本格的に巡った事は無かった。
 いや、とある切欠から基地の地下で「冒険ごっこ」をした事は有ったが……あれは散々だったと思い返す。
「ねえ見てトゥルーデ」
 エーリカが指さす先には、草が群れを成して生育していた。
 名前は知らない。だが、確かにその花はそこに生え、可憐な花を幾つもつけ、風にゆれていた。
「こんな所に。健気だな」
 トゥルーデはそう言うと、立ち止まり花を愛でた。
 名も無き花。
 そこはちょうどアドリア海を一望出来る場所にあり、古代の遺跡の片隅、日陰と日向の境界に花はあった。
「なるほど。日当たりの問題と言う訳か?」
 トゥルーデは首を捻ったが、植物学的な事まではよく分からなかった。
「トゥルーデ、違うよ。これじゃなくて」
「違うのか」
「これも綺麗だけど、違うよ。聞いたのはもっと凄いの」
「凄い、と言われてもな」
 エーリカの無邪気さにどう返して良いか分からず、思わずふっと笑ってしまう。
「詳しい場所は聞いたんじゃなかったのか?」
「こっちの方、としか聞いてないから」
「その言い方だと、さしずめルッキーニ辺りから聞いたんだな?」
「よく分かったね」
「大体分かる」
 見つけたのも、恐らくルッキーニだろう。皆に花の事を話すも、正確な場所までは伝えきれなかったらしい。
 辺りを見れば、宿舎代わりの建物からだいぶ遠くに来ていた。昼下がり、戻るのも億劫になったトゥルーデは言った。
「仕方無い。もう少し探してみようか」
「いいね」

 トゥルーデは先頭をきって、草むらの中を分け入り、獣道に近い細道を歩いたり、遺跡の上をほいっと飛び越えたりしながら
……さながら「探検ごっこ」をする子供の様に、無邪気に先を進む。
「どうして道から外れるのさ?」
「良いかエーリカ。見たと言うのはルッキーニだろう?」
「そうだけど」
「ならあいつが行きそうな、道無き道をあえて進むのが正解だ。ルッキーニになりきった気分でな」
「トゥルーデ、真面目に分析するのは良いけど、やってる事が滅茶苦茶だよ」
 言いながら、なおも進む二人。
 垣根を潜り抜ける時、何かの草か枝に引っかかったのか、トゥルーデのシャツの端がびっと切れた。腕にも何か当たっていたらしく、
僅かな切り傷が出来る。
「おっと」
「大丈夫?」
「これ位平気だ」
 トゥルーデは自分で傷口を一舐めする。
「ばい菌が入ったら大変な事になるよ。消毒しないと」
「救急キットも無いしな」
「とりあえず」
 エーリカはトゥルーデの腕を取り、ぺろぺろと子犬の様に傷口を舐める。
「こ、こら……くすぐったい」
 そして上から自分のハンカチを一枚ぎゅっとあてがい、トゥルーデの持っているハンカチで固く縛る。
「これ位しないとね」
「大袈裟過ぎないか」
「これだけやれば、安心するっしょ?」
「ま、まあ……有難う」
「ふふ。良いって」
 二人は道を更に奥へと進む。

14 名前:wildrose 02/02:2011/09/10(土) 22:23:55 ID:5mTqHIik
 やがて、開けた場所へと出た。
 そこは、かつての闘技場の跡地。以前、基地の本格設営の前に来た事が有る。
 海に面した遺跡の壁側に、目指すそれは有った。
 垣根の様に群生するその植物。
 淡紅色に染まったその小さな花びらは五枚、それが房の様に無数にしだれ、吹き付ける海風にも負けず健気に咲き誇る。
「これだよ、トゥルーデ」
「なるほど。綺麗だな、エーリカ」
「だねー。これは気付かなかったよ」
 近くに腰掛け、海風に髪をなびかせ、その花をじっくりと観賞する。
 何の花だろう、と呟くトゥルーデに、エーリカが言った。
「野バラ、らしいよ」
「野生のバラか。花屋や庭園で見かけるバラとは全然違うな」
「野生だからね」
「なるほど……」
 野バラの群生地がまさか基地の中に有ったとは、と驚き、そして案外と簡素で、かつ爽やかなものだと感じる。
 庭先で丁寧に、丹念に育てられたそれとは違い……飾り気の無い野バラはたくましく、そして美しい。
「ミーナに聞いたんだけど」
 ぽつりとエーリカが呟いた。
「? 何を」
 何気になしに聞いたトゥルーデに、エーリカは悪戯っぽく笑って答えた。
「花言葉。野バラはね、色々花言葉が有るらしいけど」
「色々有るのか」
「『素朴な愛』らしいよ。ミーナが好きなのは」
「ミーナが好きって事は、彼女もこれを見たのか」
「ルッキーニが摘んできた花を一輪だけね」
「なるほど」
 トゥルーデは辺りを見回した。ちょうど宿舎の建物からも、僅かに見える位置にある。
「今度、この場所を皆に教えよう。良い気晴らしになるだろう」
 そう言うと、トゥルーデはカメラを持ってくれば良かったなと呟く。
「来るの大変だけどね」
「場所が分かれば、最短の道を造れば良い」
「言うと思った」
「ダメか?」
「途中の苦労がないと、この感激も半減しちゃうよ」
「けど、一応ここは基地の中だぞ。少し位……」
 言いかけたトゥルーデの唇を、そっと塞ぐエーリカ。ゆっくりお互いを確かめ合ったところで、そっと離す。
「トゥルーデ、花言葉、さっき教えたよね」
「ああ」
「じゃ、そう言う事で」
「何がそう言う事なんだ。外でこう言う事は……」
「何かこう、イケナイ感じがして良いよね」
「待て待て。誰かに見られてたりしたらどうするつもりだ」
「その時はその時。ね、トゥルーデ」
「まったく……お前という奴は。エーリカ、お前には振り回されっぱなしだ」
「でも、本当に嫌がってる顔じゃないよ」
「それは……エーリカだから」
 真っ赤な顔で、愛しの人をそっと抱きしめる。
「嬉しい」
 二人はもう一度、口吻を交わした。

「あら、あそこにいるのは、トゥルーデとエーリカじゃない」
 基地の執務室。ミーナは凝った肩をごきっと鳴らすと、しばしの気晴らしにと窓から外を見る。遺跡の隅で動く人影を見つける。
 美緒も何事かと魔眼を解放して様子を見る。二秒もしないうちに眼帯を元に戻し、呆れ返る。
「あいつら、何をやっているんだ、あんな所で」
「良いじゃない。好きにさせれば。でも、あの子達、見つけたみたいね」
「? 何をだ」
 ミーナは内緒、と笑って机の上に置いてあった本を閉じた。
 そこに挟まれていた押し花は、あの二人が見ている、そして見られている野生のバラ。

end

15 名前:名無しさん:2011/09/10(土) 22:24:55 ID:5mTqHIik
以上です。
あの501基地にはまだまだ謎があると思います。
探険といかないまでも、色々探索してみたいですね。

ではまた〜。

16 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/10(土) 23:19:04 ID:5mTqHIik
ふたたびこんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
>>13-14「wildrose」の続編を書きました。
一応保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

17 名前:flowers of the field 01/02:2011/09/10(土) 23:19:48 ID:5mTqHIik
「キノコ狩りいこー」
 午後の休憩の最中、唐突にルッキーニが言い出した。
「キノコ? なんでまた」
 お茶請けのお菓子をぱくつきながらのシャーリーの問いに、陽気なロマーニャ娘は笑った。
「だって食べたくなったんだもん」
 単純明快過ぎる答えを聞いて、シャーリーはうーむと唸った。

 シャーリーのストライカー整備を脇目に見ながら、ハンガーの中で退屈そうにごろごろ転がるルッキーニ。
「ねえシャーリー。キノコー、キノコー、ノコーノコー」
「キノコキノコって簡単に言うけどさ。毒キノコもたくさん有るの知ってるだろ?」
「うん、知ってるよ」
「じゃあ危ないからダメだな。素人には見分け付けられないぞ」
「あたし、食べられるキノコなら知ってるもーん」
「でも毒キノコ知らないだろ。……ルッキーニ、危ないからやっぱりダメ」
「そんなぁ」
 つまんなーい! とルッキーニは言うと、外へ行こうとする。シャーリーはすかさずルッキーニの腕を捕まえる。
「なに、シャーリー」
「一人でキノコ採りに行こうとしただろ?」
「そそそ、そんな事無いよ?」
「ルッキーニの考えてる事はお見通し。キノコ狩りはダメだけど、ちょっとの散歩くらいなら、付き合うよ」
「ホント?」
 ロマーニャ娘の顔に、ぱあっと笑顔が広がる。この娘は思った事がすぐ顔に出、それも猫の目の様にとても忙しい。
 シャーリーは工具を適当に片付けると、ルッキーニと連れ立って外へ出た。

 道すがら、思い出したかの様にルッキーニの名を呼ぶシャーリー。
「そう言えばさ」
「? どしたのシャーリー?」
「基地の中で、色んな場所に花が咲いてるって事、みんなに言ったろ」
「うん。あっちの方には青いきれーな花が咲いてて、こっちにはピンク色の……」
「それ。みんな気になったみたいで、あちこち探したりしてるみたいだぞ」
「そうなの? 簡単に行けるのに」
「そりゃルッキーニだからだ。藪の中潜ったり獣道通ったりとか、普通しないって」
「ふーん」
「お前、あんまりみんなに言いふらすから」
「でもきれいだったよー」
「ルッキーニが言うならそうなんだろうけどさ」
「じゃあ、みてみる?」
「へえ。行ってみよう。どっちだ?」
「こっちこっち〜」
 ルッキーニは手招きして、シャーリーを誘った。
 “キノコ狩り”の事はすっかり頭から消えてなくなった様で、その意味では安堵するシャーリーだった。

「ここはねー。下にヤブがあってチクチクして痛いから、上から行くのがいいの」
「おいおい、こんな遺跡の上登って大丈夫か?」
「へいきだよー」
 いとも簡単にするすると登っていくルッキーニ。おっかなびっくりでついて行くシャーリー。
「これは、流石に他の連中誘うのはきついかな」
「何か言ったシャーリー?」
「いや何でもない」
 遺跡の石をぴょいぴょいと飛び越え、少し開けた所に着地する。
「この先。もうちょっとだよー」
「……ん? 待てルッキーニ」
 慌ててロマーニャ娘を引っ張り、物陰に身を隠すシャーリー。
 行く先に、人の気配がする。
 一体、誰が?
 そっと見ると……、青空の下、痴態を繰り広げるカールスラントのバカップルがちらっと見えた。
(何やってるんだ、あいつら)
 目をつぶり、愕然とするシャーリー。
「うわっ、すごい事してるよシャーリー。……あのふたり」
「おわ、馬鹿、見るな見るな……てか静かに」
 目を隠し、口に指を当て、声を出すなと指図する。
 しかしどうしたものか。平然と出て行くのも何か気まずい。かと言ってこのまま引き返すのも釈然としない。
 どうすべきか。考えあぐねるシャーリーの頬に、ルッキーニの指が触れる。
「ねえ、シャーリー」
 ルッキーニの様子がおかしい。どうした? と目を合わせてぎょっとした。ロマーニャ娘の瞳が潤んでいる。
「あたし、あたしね」
「どうしたよルッキーニ」
「見てたら、なんか、せつなくなってきた……」
 シャーリーにしだれ掛かると、ルッキーニはぺろっと鼻先を舐め、そのままキスをしてきた。胸に顔を埋めるルッキーニの息遣いは荒い。
「ちょっ、それはまずい……。ここであたし達もってのは……」
 しかしルッキーニに抗えず、そのまま地べたに押しつけられ、唇を塞がれる。
「ねえ、シャーリー。おねがぁい……」
 ルッキーニの、甘くねだる声。シャーリーも次第に理性が失われていくのは感じていたが、これはさすがにどうかと踏みとどまっていた。
 しかし抵抗もむなしく、理性が飛んだシャーリーは驚異的な加速でルッキーニを虜にした。

18 名前:flowers of the field 02/02:2011/09/10(土) 23:20:24 ID:5mTqHIik
「はぁ……。んんっ……、うん? エーリカ、どうした? にやついて」
 キスを繰り返す二人。突然に行為を止めて、何処かを見るエーリカ。トゥルーデは不思議に思い声を掛ける。
「えへへ。私達見て興奮してるのが居るよ、トゥルーデ」
「えっ!?」
 乱れた服のまま起き上がろうとするトゥルーデを力ずくで押さえ込み、口に人差し指で合図するエーリカ。
「静かに。ゆっくりと。ほら、西側の物陰」
 そっと様子を窺うと……確かに居る。そして“いけない何か”をしている。
「リベリアン……とルッキーニか。何をしてるんだあいつらは」
「私達が言えた事じゃないよね」
「うう……。どうする、エーリカ」
「良いんじゃない? 頃合い見計らって、声掛けようよ」
「まるで悪魔だな、エーリカは」
「みんなで幸せになれればいいと思うよ。ね、トゥルーデ」
 小さな可愛い悪魔はそういうと、愛しの人の乳房を舐め、そのまま首筋へ舌を這わせた。負けじと頬にキスするトゥルーデ。

 夕暮れ。
 乱れきった服を直しつつ、カールスラントのバカップル、そしてリベリオン娘とロマーニャ娘は揃って花と海を愛でていた。
「しっかし、二人が先に居るとはね」
 頬杖ついてぼんやり海と花を見るシャーリー。
「花を探しに」
 エーリカが笑う。
「で、見つかったのかい」
 シャーリーの問いに、トゥルーデが当然だと言わんばかりに頷く。
「目の前にあるだろう」
 トゥルーデはそう言って、エーリカを見た。視線を感じ、へへっと笑うエーリカ。
「そう言う事か」
 やられたなー、と首筋に付いた痕をごしごしと擦って誤魔化し、シャーリーは呟いた。
「ね、シャーリー、きれいでしょ?」
 そう言って、野バラの咲く生け垣の前で笑うルッキーニ。シャーリーは夕日のオレンジ色に染まる景色と彼女を見た。
 もう一度愛しのロマーニャ娘を抱き寄せ、ほっぺたにキスをする。
「いやん、シャーリー」
「こうしたい気分なんだ。少し、させろ」
「シャーリーのえっちー」
 まんざらでもなさそうなルッキーニ。
「全く……」
 呆れるトゥルーデに、シャーリーもにやっとして言った。
「ま、お互い様って事にしといてやるよ」
「……なっ! お前達だって」
「ほらほら二人共」
 エーリカは二人をたしなめると、爽やかに吹き抜ける海風を感じ、笑った。そして皆に言う。
「見て。夕日綺麗」
 山裾の間に沈みゆく太陽は、大地を、海を、そこに見えるもの全てを美しく染め上げる。
「……そうだな」
 ふっと和むトゥルーデとシャーリー。ルッキーニはシャーリーの胸の中で甘えている。
「ここはまた良いとこだな。みんなで来てバーベキューでもするか」
「普通に花見で良いと思うが」
「そうか?」
「まあ、みんなで来ようよ。楽しいよ」
「だな」
 はにかみ、くすくすと笑う四人から伸びる影は、長くなり……辺りを金色に染め上げる。
 そろそろ帰ろう、と誰かが言った。
 のんびりと腰を上げ、そっと、その場を後にした。

 花は変わらず、風に揺られ、咲き乱れる。

end

19 名前:名無しさん:2011/09/10(土) 23:21:28 ID:5mTqHIik
以上です。
季節柄、色々な花が基地の周りに咲くと思うので
その意味で501基地はステキだなーと。

ではまた〜。

20 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/12(月) 21:40:13 ID:XOSTErA2
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
ではどうぞ。

21 名前:trude in the nightmare 01/04:2011/09/12(月) 21:41:21 ID:XOSTErA2
 ふと夜中に目が覚め、扉を開け放った時……
 扉を抜けた先が、今居る世界とはまるで別の「セカイ」だったら?
 アナタならどうする?

 エーリカは夕食後の雑談で、ミステリー雑誌片手にそんな事をトゥルーデに言った。
「馬鹿言うな。そんなのおとぎ話の世界だけで充分だ。我々はもっと厄介なものと戦っているだろう」
 お茶を一口含んだ後、呆れた様に返すトゥルーデ。
「またまた〜。頭カタイんだからトゥルーデは。もっと夢が無いと」
「そう言うのは妄想と言うんだ」
 くだらない、と言わんばかりにトゥルーデは席を立った。
「何処行くの?」
「先に寝る」
 さっさと部屋に戻ってしまう堅物大尉を見て、一同は呆れた。
「いいのかね、あれで」
 エーリカにシャーリーはぼやいてみたが、当のエーリカは
「ま、いいんじゃない」
 とかなり適当だ。

 やがて夜も更け、ひとり、またひとりと眠りに就く。

 トゥルーデはふと目が覚めた。少し喉が渇いて、厨房に水でも飲みに行くかと、扉を開けた。
 刹那、眩い光が彼女を包み込む。
 部屋の扉は彼女を飲み込むと、ばたん、と閉まった。

「何だ、今の閃光は?」
 トゥルーデは頭を振って辺りを見回した。
 そこは基地でもない、何処とも分からない、野原のど真ん中。
 辺りを何人もの女性が……今まで見た事も無い、重装備の防護服に身を包んだ娘達が行き来する。
「おいお前、そこで何してる」
 一人の女性から、カールスラント語で呼び止められる。
「何って、ここは何処だ」
 同じくカールスラント語で返す。
「爆発の衝撃で意識でも飛んだか? ホラ、お前の分だ!」
 手渡されたのは、ずしりと重い吸着型の地雷らしきもの、そしてパンツァーファウスト数本。
「これをどうしろと」
「私達が最後なんだよ。ここで食い止めないと、街が」
「街? 一体何を食い止めるんだ」
「お前、やっぱり頭の打ち所が悪かったんだな。見ろ」
 その女性……恐らく軍人だろう……が指差す先に見えるのは、不気味にそびえ立つ塔。いや、人間にも似た何か。
 目を凝らすと、人型に見えるが生物ではない様にも見受けられる。ゆっくりとだが動き、こちらに迫っている。
「しかし何だその格好は。って、お前まさか一般人か?」
「何?」
 トゥルーデは言われて初めて気付いた。自分の服装……パジャマだったような……いや、いつもの軍服を着ている。
「ここは一体何処なんだ」
「とにかく行くぞ!」
 答える暇も与えられず、トラックの荷台に詰め込まれ、目的の場所にまで近付くハメになった。

22 名前:trude in the nightmare 02/04:2011/09/12(月) 21:41:45 ID:XOSTErA2
 道行くトラックに揺られる少女達。周囲には同じ様なトラックやらサイドカー、バイク等が連なって走る。
 塞ぎ込んだ者も居れば、ヤケに饒舌な者も居る。
「簡単だよ。狙いを定めて、引き金を引く。次に皆に一、二、三、全員集合って合図して、突入。あとは地雷仕掛けて逃げるだけさ」
「何なら、あたしが先頭切ってぶち込んでやるよ」
 口先だけは威勢が良いものの、心底怯えている事までは隠せない。歴戦のトゥルーデには一目で分かる。
「そんな簡単に出来ると思うな小娘共! 英雄気取りは要らん! そんなアホタレが真っ先に死ぬんだ! 良いか? 言った事は守れ!」
 上官と思しき人物が怒鳴り散らす。
 私もそんな新兵に混じるとは……そう言えば、私にも新兵の時期が有ったな、と思い返す。
 しかし、ここは何処で一体何なんだ。夢にしてはリアル過ぎる。トゥルーデは分からず終い。
「おいそこのお前! そんな装備で大丈夫か!?」
 トゥルーデは自分が言われている事に気付かなかった。周りは皆、酷く滑稽に見える程の防護服を着込んでいる。まるで鋼鉄の救命胴衣だ。
 とりあえず、大丈夫だ、問題無いとだけ答える。
「全く、お前みたいな呑気な奴から死んでいくんだ! 良いかお前ら! 姿勢は低く、なるべく気付かれない様に! 
走る時は小刻みにジグザグに、なるべくすばしこく走れ! 死にたくなければな!」
 歩兵の戦いのイロハが即席で教えられていく。
 ふと、トゥルーデは気付いた。
 持たされているパンツァーファウストに記された文字は、カールスラント語で「人民共和国製」と書かれている。
 軍のマークも、今まで見た事の無いものだ。
 もう一つ気付いた事。目の前の少女達だけでなく、トラックを運転する者も、辺りで戦闘車両を動かす者も、全てが女性だと言う事に。年齢もばらばら。
 そして肝心のウィッチは……陸戦ウィッチも、航空ウィッチも、一人として居なかった。
 すぐ横で小刻みに震えている少女を肩で小突き、小声で聞いた。
「何で女性ばかりなんだ?」
「あれが、みんな食べたから……」
 少女が見上げる先には、例の不気味な“謎の巨人”の姿。
 近付いて分かったが、人間型に見えたものは、ボウリングのピンと言うか、円筒状の物体に、いくつもの触手にも似た腕が生えている。
 頭のてっぺんに、口と目らしきものが見える。
 まるで怪物だな、とトゥルーデが感想を言うと、少女は涙目で言った。
「じゃなくて本物の怪物だよ! あいつらネフィリムさえいなければ!」
 ネウロイじゃないのか。とトゥルーデはひとりごちた。ネフィリム……聞いた事のない言葉だ。それがあの物体の名称。
「良いかお前達、あと少しで降車ポイントに着くからフォーメー……」
 上官らしき人物の言葉はそこで途切れた。トラックの前面が「手」にえぐられ、荷台ごとひっくり返ったのだ。
 トゥルーデも持たされた武器毎、近くの地面に放り出される。
 横転した車体から散り散りになる娘達。戦う以前の問題だ。
 横転の衝撃で重傷を負った者が居る。ぴくりとも動けない。恐らくこのままでは助からないだろう。
 しかし、トゥルーデに出来る事は限られていた。
 横転で出来たかすり傷も気にせず、魔力を発動させ、倒れた少女達の分まで武器を担ぐと、一気に走り出した。

23 名前:trude in the nightmare 03/04:2011/09/12(月) 21:42:59 ID:XOSTErA2
 突然のトゥルーデの変異に驚く少女達。
 トゥルーデは時折空から打ち付けられる長く平滑な「手」を避けると、他の「兵隊」がしているのを見て真似、足元目掛けてパンツァーファウストを有りたっけ撃ち込み、吸着地雷を持って更に近付く。
 パンツァーファウストを撃つだけでも一苦労なのに……撃つと大抵目を付けられ、「手」で激しく殴り飛ばされ絶命する……トゥルーデは更にその先を目指す。
 そして足元に辿り着き、吸着地雷を仕掛けた。全部仕掛け終わった所で一斉にスイッチを入れ、離脱する。
 五十メートル程ダッシュで走った所で地面に伏せる。タイミングが良かったのか、連鎖的に爆発する吸着地雷。
 振り向くと……ネフィリムの外皮が剥がれ、何か筒状のものが一対、そして棒状のモノが二本、突き出ていた。
そこだけまるで、絵本のページを切り裂いたかの様に情景が全く違い、トゥルーデにはある種の懐かしさを覚えさせた。
 立ち上がり、近付く。
「逃げて! これ以上はもう無理よ! 撤退よ!」
 近くで足を引きずっていた少女がトゥルーデに叫ぶ。帰りのトラックを指差すも、上から降りてきた手に潰され、あっけなく爆発した。
「撤退も何も有るか」
 トゥルーデはそう言い捨てると、先程見えた「何か」目指して走る。
 やっぱりそうだ。
 ネフィリムの足に埋まっていたもの。ぼろぼろに朽ちていたが、それは紛れもない、トゥルーデのストライカーユニット、そしてMG42。
「何してるの! 逃げないと、潰されて食べられる……」
 別の少女も悲鳴を上げる。
「この魔物を倒してやる」
 トゥルーデには、確信めいた気持ちが有った。
「ええっ? どうやって」
「それは、多分……」
 トゥルーデはストライカーに手を掛けた。力を込める。
 引き抜く。
 泥状とも言える怪物の身体から抜かれたそれは、トゥルーデが手にした瞬間、新品へと変わっていた。MG42も、元の整備したての美しさが甦っている。
 トゥルーデは少々乱暴なやり方で……その場の地面にストライカーユニットの先を押し込むと、そのまま飛び乗るかたちで足をくぐらせる。
 頭に生える使い魔の耳、お尻の上にぴょこんと出る尻尾。
 MG42をたすき掛けにすると、トゥルーデは魔力を込める。軽快に回り出す魔導エンジン。
「飛べる」
 トゥルーデがそう言った瞬間、天から巨大な手が彼女を押し潰そうと襲い来る。だが手は空を切った。
 カールスラントの魔女が、空へと舞い上がる。

 トゥルーデはひとまず急上昇すると、戦況を一目で把握した。
 この付近に居るのは、目の前に居る“巨人”一匹で最後。但し図体はやたらと高く長く、頭頂部は地表から軽く三千フィート以上有りそうだ。
 迫る巨大な手をひらりひらりとかわしながら、一気に上昇し頂点を目指す。そしてMG42を両手に構え、トリガーを引いた。
 効果は覿面で、触手があっさりと千切られ、がりがりと体表面が削られ、粉と砕かれる。
 やがて口の近くに、見慣れた結晶を見つける。色はオレンジ色だったが、恐らく、と当たりを付ける。
 狙い澄まして、集中打を浴びせる。
 耐えきれずにコアが破壊され……巨人は巨体を粉と変え……まるでバランスを崩した粘土の様にぐにゃりとひしゃげ……どうと倒れ込み、爆発した。

24 名前:trude in the nightmare 04/04:2011/09/12(月) 21:43:26 ID:XOSTErA2
 地表に戻り、ホバリングする。様子を見ていた少女達が集まり、不思議な表情でトゥルーデを見ている。
「貴方、一体何者?」
 まるでトゥルーデを天使か神の使いかと思っている様だ。トゥルーデはそんな彼女達を見て、慌てた。
「いや、あの……私はウィッチ。航空歩兵だ。カールスラント空軍大尉……と言っても通じそうにないが」
 空に浮かぶトゥルーデを見て狼狽える少女達。
「何よそれ。聞いた事ない……」
「そう言えば、お祖母ちゃんが言ってた……遥か昔に、空を飛ぶ魔女が居たって」
「ま、魔女だって?」
 驚く少女達。
 トゥルーデは言葉を聞いて頷いた。
「魔女、か。確かにな。通りすがりのウィッチとでも言っておくか」
「なに、こいつかっこつけちゃってさ」
 少女の悪態も気にせずMG42を肩に担ぐと、トゥルーデは言った。
「悪いな。私には帰るべき場所がある。どうやらここではないらしい。そうだ、ここは何処なのか教えてくれないか」
「貴方、この状況でよくそんな呑気な事が言えるわね」
「何?」
「戦場のど真ん中で帰るだなんて、どうやって」
「言われてみれば……」
 その時、一人の少女が遥か先を指して言った。
「危ない! あれ!」
「まずい、遠距離砲だ、逃げろ!」
 突然皆散り散りになって、手近なトラックやらバイクに乗り込むと一斉に遁走した。
 一人取り残されたトゥルーデが振り向くと、遥か遠くで何かが光った。不気味な音と共に、辺り一面が爆発する。
 爆風に体勢を崩し、地面にぶつかった。

 ごしゃ、と床にしたたかに頭を打ち付ける。
「いたた……何ださっきのは?」
 トゥルーデは辺りを見た。真っ暗闇。軋む蝶番の音と共に、ばたん、と背後で扉が閉まる音がした。
 やがて物音で起きたのか、エーリカが明かりを付けた。
「どうしたのさトゥルーデ」
「ここは何処だ?」
「寝惚けてるの? 501基地に決まってるでしょ。ついでに言うと私達の部屋」
「そ、そうか」
「で、何でトゥルーデは完全装備で寝転がってるの」
「ん?」
 トゥルーデは自分の身体を見た。軍服を着、MG42を二挺たすき掛けに構え、足にはストライカーユニットを履いている。
「あれ?」
「やっぱり寝惚けてるよトゥルーデ。銃持ってストライカー履かなきゃいけないほど、夢が怖かったの?」
「いや、あれは夢じゃない」
「じゃあ、何?」
 自分の身体を見る。軍服は泥だらけ砂まみれで、手の甲には軽い擦り傷まで有る。
「……何だったんだ」
「もう。私が寝る前に言った事、真に受けたんじゃないの? 一緒に手伝ってあげるからさ。ほら、貸して」
 床でだらしなくストライカーユニットを脱ぎ、MG42のセーフティを掛けると、ハンガー目指して歩き始めた。

「どんな夢見たのさ」
 聞かれたトゥルーデは正直に全てを話した。謎の世界で、雲よりも高い怪物と戦う夢。
 エーリカは何かの妄想じゃない? と笑った。そんな馬鹿な、とトゥルーデはヤケになって反論した。
 例えば、この手のかすり傷は何だ、と。
「どうせ寝惚けてつけたんじゃないの?」
 ハンガーに辿り着いた。そしてトゥルーデのユニット格納装置を見た。
 そこで二人は驚愕した。
 格納装置には、既にトゥルーデ愛用のストライカーユニットが整備万全の状態で収まっていた。予備機も置かれている。
 慌てて武器庫を見る。
 やはり、そこにはトゥルーデが使うMG42がきちんと整備され、置かれていた。
 手元にあるストライカーユニットと武器を見る。機体番号からパーソナルマークまで全てが同じ。
「トゥルーデ、これって」
「だから言ったじゃないか……」
「どうするの」
「どうするか。それが問題だ」

 ……夢であって欲しいよ。
 トゥルーデはそう呟くと、外へ出て空を仰ぎ見た。
 あの世界は現実だったのか。それとも夢か。出来ればあんな世界、夢であって欲しいのだが……。

end

25 名前:名無しさん:2011/09/12(月) 21:44:21 ID:XOSTErA2
以上です。
某FPSやら色々なゲームが元ネタです>謎の世界
趣味丸出しですいません。

ではまた〜。

26 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/12(月) 23:04:06 ID:XOSTErA2
ふたたびこんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

27 名前:rainbow rainbow 01/03:2011/09/12(月) 23:04:57 ID:XOSTErA2
 望月が眩く空に輝く夜更け。
 その日の戦果を報告書としてまとめ終わると、トゥルーデは椅子に腰掛けたまま、うーんとひとつ伸びをした。
 ネウロイとの戦いは酷く危険で数々の技量を必要とするが、書類相手の格闘ともなるとまた別の能力が必要になる。
 幸い事務方の作業はさほど苦手ではなかったが、それでもデスクワークと言うのはどうにも自分には似合わないと感じる。
 出来ればウィッチとしての「あがり」を迎えても、可能な限り空の上に居たいと思う。
 勿論それは書類から逃げる為ではなく、ネウロイと戦う為なのだが。

 ふう。

 溜め息が口から漏れる。

 聞かれていたのか、エーリカがいつの間にか近寄って来て、不意にペンを握る手をわっしと掴んだ。
「うわ、エーリカ居たのか。驚かすな」
「トゥルーデ疲れてるっしょ。分かるよ」
「そんな事は無い」
「だって、もうこんな遅いし。さっきあくびしてなかった?」
「ちょっと深呼吸しただけだ」
「溜め息にも聞こえたけどな」
 尋問にも近い受け答えで調子が狂ったトゥルーデは、ああ、と頷いてエーリカに答えた。
「分かった。溜め息だ」
「素直になるといいよ」
 エーリカは意味深に笑うと、そっとトゥルーデの頬に唇を重ねた。
「おい、もうちょっとで終わるから待ってくれ」
 言葉とは裏腹にまんざらでもない様子で、トゥルーデはエーリカを抱き寄せると、すらすらと最後の部分のサインを済ませる。
「ほら、終わりだ」
 そう言って、もう一度エーリカにキスをすると、微笑んだ。
「じゃ、早速ミーナのところに持っていこう。待ってるよきっと」

 執務室に通されると、ミーナは机の脇に積まれた書類にうんざりした様子で、トゥルーデの戦闘報告書を受け取った。
「お疲れ様、トゥルーデ。もう遅いし、ゆっくり休むと良いわ」
「ああ。でも、ミーナも大丈夫か? その様子だと相当……」
 トゥルーデの心配を気にしたのか、ミーナは無理に笑顔を作って言った。
「大丈夫。私はこれが仕事だから。最近は空の上よりも机の上が多いけどね」
「それは良いのか? ミーナ程の腕前のウィッチが戦わないなんて」
 不満げな部下の言葉を聞いて、苦笑する501隊長。
「これも、戦いよ。分かるでしょトゥルーデ」
 それを聞いた隊の先任尉官は、椅子をひとつ引き寄せると、どっかと座り、書類のひとつに手を伸ばした。
「トゥルーデ」
 たしなめるミーナに、反論する部下。
「ミーナも、無理し過ぎは良くない。私にも少しで良いから手伝わせてくれないか。頼む」
 真剣な、真っ直ぐな眼差しで見られたミーナは、ふふっと笑った。
「じゃあ、少しだけお願いするわ」
「さっきの話と逆になるが、ミーナ有ってこその私達だからな。出来る事なら何でもするさ」
「ありがとう」
 二人は書類に取り掛かった。横のソファーではエーリカがくつろいでいる。

28 名前:rainbow rainbow 02/03:2011/09/12(月) 23:05:26 ID:XOSTErA2
「おや、バルクホルンとハルトマン、来ていたのか」
 そこへ美緒がやって来た。厨房で準備したのか、急須に湯飲み、幾つかのお茶菓子をお盆に載せている。
「美緒」
 ミーナが顔を上げた。
「バルクホルンも手伝いか? それは頼もしいな」
 感心する美緒に、トゥルーデが顔をちらっと見て言う。
「少佐も少しは手伝ってくれないか」
「私もそうしたいのだが、書類相手ではなかなか勝手が違ってな……」
「まあ、少佐はネウロイ斬ってる方が似合ってるよね」
「こら、ハルトマン」
 たしなめるトゥルーデを、美緒がまあまあとなだめて笑った。
「誰にでも得手不得手は有る。適材適所とも言うな。それに、ミーナが聞かないんだ。私がやるってな」
 そう言って、美緒はお茶をとぽとぽと注いだ。
 香り高き扶桑茶を、ミーナに、そしてトゥルーデに渡す。
「あら、有り難う、美緒」
「すまない少佐……って、これは少佐の湯飲みでは」
 気付いたトゥルーデに、美緒は笑った。
「書類に滅法弱い私の代わりに助けてくれているからな。せめても、な」
「なら、悪いが少佐の分……あと、ハルトマンの分も頼めないか。全員で少し休憩も良いと思う」
「なるほど。それは良い提案だ」
 美緒はすぐに二人分を追加で準備した。
「良いの? トゥルーデ。少佐をハナで使って」
 エーリカが呆れ半分、苦笑半分で言う。ミーナもそれを聞いてくすくす笑っている。
「少佐も言っていただろう。『誰にでも適材適所がある』って」
「トゥルーデ、良い指揮官になれるね」
「お前が部下の時は容赦しないからな」
 トゥルーデとエーリカのやり取りがおかしかったらしく、ミーナはペンを置くと、湯飲みを手に取った。
「もう、二人共。これじゃ作業が進まないわ」
「なら、少し休憩って事だね」
 エーリカが、にししと笑う。
 美緒が二人分のお茶を淹れる。
 エーリカは湯飲みを受け取ると、お茶菓子を片手にたわいもない話を始める。ペンを置き、待て待てと止めるトゥルーデ。
 執務室で、お茶菓子を片手にしばしの談笑が始まる。

29 名前:rainbow rainbow 03/03:2011/09/12(月) 23:05:47 ID:XOSTErA2
 暫くして、執務室から退室するトゥルーデとエーリカ。
「何だかんだで、長居しちゃったね」
 後ろ手に腕を組んで歩くエーリカがぼそっと言う。
「良いのか? ミーナの仕事、あんまり進んでなかった様だが」
 心配そうなトゥルーデの顔をじっと見るエーリカ。
「大丈夫だよ」
「何故言い切れる、エーリカ」
「だって、あんなに楽しそうに笑ってるミーナ久しぶりに見たよ。執務室に居るミーナっていつも渋〜い顔してさ」
「まあ、な。気分転換になってくれれば良いんだが」
「それに、トゥルーデ見て、少佐も少し手伝う気分になったんじゃない?」
「なら良いのだが」
 そのまま二人は部屋に戻ると、軍服を脱ぎ、パジャマに着替える。
「私達も明日に備えて寝よう。明かり消すぞ」
「おやすみ〜」
 一緒のベッドに寝、毛布をそっと掛ける。
 目を閉じる。
 お互いの呼吸が、耳に微かに聞こえて来る。
「ねえ、トゥルーデ」
 瞳を閉じたまま、エーリカはもぞもぞとトゥルーデの身体を手で確かめ、そっと抱きしめる。
「どうした、エーリカ?」
「皆で楽しむのも良いけど、もっと、トゥルーデとこうしていたい」
 ストレート過ぎる求愛の言葉に、愛しの人をぎゅっと強く抱きしめ、言った。
「そうだな。私も同じ気持ちだ。エーリカ」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、今夜はこのまま寝かせて」
 トゥルーデは額をそっとつけて小さく頷くと、そっと唇をエーリカに重ねる。
 柔らかな唇の感触を楽しむ様に、二人は長く、ゆるいキスを繰り返す。
 トゥルーデがつつっと舌を少し這わせたところで、エーリカがくすりと笑った。
「寝かせてくれないの? トゥルーデ」
「ああ、そうだった。つい」
「でも、トゥルーデがしたいなら、良いよ」
「いや。私も少しは自重しないとな。こうやって、お互い温もりを感じているだけでも十分だ」
「本当?」
「嘘は言わない」
「私も。じゃあ、お休みトゥルーデ」
「おやすみ、エーリカ」
 瞳を閉じたままの、行為と会話。
 お互いの鼓動を感じ、胸の中で、まったりとした微睡みの時間を楽しんだ二人は、やがて緩やかに眠りに落ちていく。

end

30 名前:名無しさん:2011/09/12(月) 23:06:13 ID:XOSTErA2
以上です。
何気ない日常的?な事も良いかなと。

ではまた〜。

31 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/13(火) 00:05:13 ID:2nmaE3QE
三度こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
ではどうぞ。

32 名前:club madonna 01/02:2011/09/13(火) 00:05:46 ID:2nmaE3QE
 誰も居ない夜更けの厨房。
 こっそりと現れた一人のウィッチ。明かりを灯すと、なるべく音を立てずに食器やら道具を準備する。
 パジャマ姿のまま、手元にしたためたノートに目を通し、準備を進める。
「ええっと、これを……少量入れて」
 ぼそぼそと確認し、化学の実験の如く、慎重に作業を進めていく。
 湯気が立ち上り、ほのかにハーブの香りが厨房から食堂に流れ出る。
「あとは仕上げに……」

「誰か居るのか!?」
 美緒の誰何に驚いた台所の主は、思わず手にしていたスプーンを落としてしまった。
「何だ、ペリーヌか。こんな夜中に何をやっている」
 安堵と呆れが混じった美緒は、“厨房の主”の姿を見た。あたふたしているのがはっきりと分かる。
「も、申し訳ありません。すぐ片付けますので」
「いや、真面目なお前が隠れてまでやる程の事だ、何か理由が有るんだろう? 私に構わず続けるが良い」
 その言葉を聞いたペリーヌは、ほっと安心すると、美緒に告げた。
「あの……以前ハーブティーをお作りしたことが」
「ああ。有ったな」
「新しいハーブティーをと思って、試しのつもりで……」
 ペリーヌの弁明を聞いた美緒は笑った。
「つもりと言うか、まるで何かの実験だぞ。そんなに正確な分量が必要なのか」
「いえ、完璧を期したまでで」
 いつものきりっとした制服姿でなく、清楚かつ淑女、何より「少女」たるペリーヌのパジャマ姿を見て、ほほう、と頷く美緒。
「どれ。その実験とやらを、私も見届けるとしよう」
「わ、わたくしにお構いなく。少佐もお早めにお休みになられた方が」
「たまには少し位夜更かしもするさ」
 美緒は笑うと、刀を脇に置き、興味深そうに様子を眺めた。
「では、失礼して……」
 言いながら作業を続けるペリーヌの動作が一層ぎこちなくなったのだが、美緒は知る由もない。

「出来ました」
 琥珀色に染まったお茶を、ポットから静かにカップに注ぎ入れる。
「ペリーヌ、これは?」
「ラベンダーティーですわ。先日、ラベンダーで良いのが手に入ったので、試してみようかと」
 美緒はカップを受け取ると、香りを嗅いだ。明らかに他のハーブと違う、甘くふくよかな風味。
 一口含むと、とてもすがすがしく、洗練された味わいが口の中に広がる。
「なる程。私は西洋の茶には疎いが、これは効きそうだ」
「はい。気分をリラックスさせるのに適していますわ。気落ちしている人を元気づける為にも使われていましてよ。
偏頭痛にも有効です。元はロマーニャからブリタニアにまで伝わったそうで、昔の薬草では欠かせないものだったそうです」
「さすが博識だな、ペリーヌは。話を聞いているだけでも効いてきそうだ」
「と、とんでもない!」
 慌てるペリーヌに、美緒は笑った。
「少しお口に合わなければ、蜂蜜で味を変えてみても大丈夫ですけど、如何ですか?」
「なら少しそうしてくれ」
「はい、かしこまりました」
 かいがいしく動き回るペリーヌを、じっと見つめる美緒。
「少し垂らしてみましたので、スプーンでゆっくりかき混ぜてお召し上がり下さい」
「ふむ。悪いな」
 蜂蜜で味を調えられたラベンダーティーは一層まろやかに、口当たりも良く、じわりと滋味が効いてくる。美緒は唸った。
「うーむ。身体全体に染み渡るな。ペリーヌ、将来は、こう言う職に就いてみたらどうだ」
「えっ、少佐、何故その様に?」
「研究熱心だし博学で、飲む人の事をしっかり考えて調合している。まるで名医か女神の成す技だ。これはなかなか出来ん事だぞ」
「いえ、少し分かれば誰にでも」
「謙遜するな! 自分を過小評価し過ぎじゃないかペリーヌ」
「とんでもない!」
 顔を真っ赤にして否定するペリーヌを見て、美緒は笑った。

33 名前:club madonna 02/02:2011/09/13(火) 00:06:16 ID:2nmaE3QE
 一服楽しんだ所で、美緒は言った。
「しかし、こうして厨房で一緒に茶をしていると、まるで……」
 言いかけたが、笑って誤魔化す美緒が気になったのか、ペリーヌは続きを聞いた。
「基地の中に、こう言った、皆が安らげる場所が有っても良いんじゃ無いかと思ってな」
「いえ、わたくしなど、とても……それに」
(わたくしがハーブティーを淹れた所で、どうせ茶化されるのがオチですわ)
 とペリーヌが内心思っていると、美緒がじっと見て、言った。
「私は良いと思うんだがな。どれ、今度ミーナにも言ってみるか」
「ちゅ、中佐にもですか!? それはちょっと」
「心配するな。変な事は言わん! ああ、そうだ」
「はい。何でしょう少佐?」
「今度、またこの茶を頼む。気に入った」
 ご馳走様、と言い残すと、美緒は刀を手に取り、厨房を後にした。

 それから暫く後、たまに夜更け、ひっそりと秘密の「お茶会」が開かれる。
 ペリーヌのハーブティーを楽しみに、美緒が訪れる。
 もっとも、美緒の傍らには必ずミーナが付き添っているのでペリーヌとしてはとても気を遣うのだが……。
 それでも、めいめいがハーブの香りに充たされ、気分を爽やかになるのは悪い事ではないとペリーヌは思う。
 美緒とミーナの笑顔を見ていると、……少々複雑だが、特にその気持ちは強くなるのだった。

end

34 名前:名無しさん:2011/09/13(火) 00:07:27 ID:2nmaE3QE
以上です。
ペリーヌさんとハーブティーを考えていたら
こんな感じになりました。

ではまた〜。

35 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/28(水) 19:02:54 ID:k2NBHjb.
>>34 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。
健気なペリーヌが可愛らしくて素敵です。
お久しぶりです。2年後のルッキとサーにゃんのお話を思いついたので、投下していきます。
ではどうぞ

36 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/28(水) 19:03:42 ID:k2NBHjb.
【DREAM & CREAM】

――1947年、オラーシャ

「あれ? もしかして……サーにゃん?」
隊長さんから一日のお休みを貰ったある冬の日、
必要な物を買い揃え、お気に入りのカフェで一息つこうと考えていたところをふと、懐かしい声に呼び止められる。
「ルッキーニ……ちゃん?」
「やっぱりサーにゃんだ! 久しぶり〜!」
振り返るとそこにいたのは、健康的な褐色の肌に長い黒髪をした、かつての仲間。
一緒に戦っていた時より顔も身体つきも大人っぽくなっていたけど、人を魅了させる可愛らしい笑顔とチャームポイントの八重歯は健在で、
そんな彼女の笑顔を見ていたら、私も自然と笑みがこぼれる。
「すっごい偶然! サーにゃんとこんな所で再会できるなんて」
「それはこっちの台詞だよ。ルッキーニちゃん、何でオラーシャに……?」
「さっきまでこの近くで会議をやってたの。本当はあたしんとこの隊長が出るはずだったんだけど、
急な用事が入っちゃって代わりにあたしが……ふぇっ、ふぇっくしょん!」
と、ルッキーニちゃんが全部を言い終わらないうちに大きなくしゃみをする。
ルッキーニちゃんの格好をよく見てみると、コートの下からは素足が覗いていた。
そんな格好じゃ、くしゃみが出ちゃうのも無理はない。
「ウジュ……こんなに寒いんなら、ストッキングでも履いてくれば良かった……」
ルッキーニちゃんが自分のハンカチで鼻をかみながら、溜息のように呟く。
私はそんなルッキーニちゃんの手をとって、彼女にある提案をする。
「この後、時間ある? 良かったら、私のお気に入りのお店で一緒にお茶しない?
ルッキーニちゃんと久しぶりに色々とお話したいな」
私がそう言うと、ルッキーニちゃんは目をキラキラさせながら大きく頷いてくれた。
「それ、いいね。賛成! 迎えが来るまでまだ時間があるんだ。ね、早く案内して」
ルッキーニちゃんは私の腕をぐいと引っ張て、目的地の案内を促す。
外はこんなに寒いのにルッキーニちゃんの手は不思議と暖かく感じられて、なんだかとても温かい気持ちになってくる。

37 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/28(水) 19:04:07 ID:k2NBHjb.

――数分後、カフェ

「いらっしゃいませ、お2人様ですか?」
「はい」
「かしこまりました、すぐにご案内いたします。こちらへどうぞ」
愛想の良い店員さんに案内され、私たちはお店の奥の席に着く。
「うん、暖房入ってて暖かい〜。コート脱いじゃおっと」
コートを脱いだルッキーニちゃんの形の良い胸が、私の目に飛び込んでくる。
2年間の間に大きくなったのが一目で分かる。
何でだろう……ルッキーニちゃんの胸を見てるとなんだかドキドキしてきちゃう……
「じろじろ見ないでよ〜。サーにゃんのえっち〜」
そんな私の視線に気づいたのか、ルッキーニちゃんが手で胸を隠しながら冗談っぽく笑う。
「あっ、ご、ごめん……」
女の子の胸を見てドキドキしちゃうなんて、まるでエイラみたい。
一緒にいるうちに似てきちゃったのかな……?

「ご注文はお決まりですか?」
少しして、注文をとりにやってきた店員さんに私は、ここに来るたびにいつも頼んでるコーヒーとショートケーキを注文する。
一方のルッキーニちゃんはと言うと……
「えっとね、ここのパフェ全部とショートケーキとモンブランと……あっ、それとチーズケーキもお願いしまーす」
「あっ、はい……かしこまりました」
「ルッキーニちゃん、頼みすぎだよ。全部食べれるの? 店員さんも驚いてたよ」
「大丈夫大丈夫。慣れない会議で疲れて、お腹ペコペコだもん。それよりさ、早くお話しようよ。
サーにゃんがこの2年間、何やってたか教えて教えて!」

――それから私たちは1時間ほど、2年間のお互いのことを話しあった。
今の部隊や仲間のこと、家族のこと、自分たちの趣味のこと――とりわけ、エイラとシャーリーさんの話題をお互いに一番話していたと思う。

「ねぇ、サーにゃんはエイラとはどうなったの?」
最後のパフェを食べ終わったルッキーニちゃんに、不意にそんな事を訊ねられる。
「ど、どうって……?」
「ちょくちょく逢ってるんでしょ? プロポーズとかされてないの?」
「え? プ、プロポーズってそんな……」
私は今、自分の胸がドキドキしているのを感じる。
エイラからプロポーズされるなんてそんなこと、考えたこともなかった……

「まだなの? 相変わらずエイラはヘタレだな〜」
「そ、そんなことない……最近は積極的にデートに誘ってくれるようになったし……
それに、逢う度にカ、カッコ良くなってるし……」
「わーお、ラブラブ〜!」
「恥ずかしいから茶化さないで……そう言うルッキーニちゃんはシャーリーさんとはどうなったの?」
「あたし? シャーリーとは相変わらずだよ。バカやって大騒ぎして、くだらないことで笑い合える最高の相棒……
それと同時に目標でもあるかな」
「目標?」
「うん。あっ、目標って言っても体型のことじゃないよ。あたし、シャーリーみたいな器の大きいオンナになりたいの」
と、珍しく真面目な口調でルッキーニちゃんが言葉を続ける。
「ほら、シャーリーって歳の割りにしっかりしてるとこあったでしょ? あれって実はかなりスゴイことだったんだなーって、
最近思うんだ。あたしなんて未だに、周りからは『落ち着きがない』ってよく言われるし……だから、シャーリーみたいに
普段はふざけてても、決める時はビシッと決めれるようなウィッチになるのが今のあたしの夢なんだ」
そう言い切ったルッキーニちゃんの瞳は、一点の曇りもなくとても綺麗だった。

「素敵な夢だね、ルッキーニちゃんならきっとなれるよ」
「へへー、ありがと。ねぇ、サーにゃんの今の夢ってなーに?」
「えっ、私の夢……? エイラやお父様、お母様……大好きな人たちとずっと一緒にいられること、かな」
「そっかー、じゃあその為には早くネウロイをやっつけて世界を平和にしないとね。あたしも頑張ってネウロイを
バンバンやっつけるからサーにゃんも頑張って!」
「うん」
私は大きく頷き、微笑んだ。
『世界を平和にする』なんて口で言うほど簡単なことじゃないのに、ルッキーニちゃんの笑顔を見てたら不思議とできそうな気がしてくる。
そう思えるのは、彼女の笑顔に人を惹きつける魅力がたくさんつまってるからかな……?

38 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/09/28(水) 19:04:34 ID:k2NBHjb.

――楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、気が付けば私がルッキーニちゃんとお話できる時間も残りわずかとなっていた。
私たちはカフェを後にして、近くの公園のベンチで佇んでいた。

「今日はありがとね、サーにゃん。サーにゃんといっぱいお話できて、とっても楽しかったよ」
「私も楽しかった……ありがとう、ルッキーニちゃん」
「へへー。あっ、サーにゃん頬にクリームついてるよ」
「えっ、嘘……」
「じっとしてて、取ってあげるから」
ルッキーニちゃんはそう言って私に近づくと、私の頬にそっと唇を寄せてきた。
これってつまり……キ、キス!?
「ル、ルッキーニちゃん……?」
「えへへー、クリームついてるってのは嘘だよ。サーにゃんって、頬っぺた柔らかいね」
「もう、ルッキーニちゃんの意地悪……」
私も仕返しとばかりに、悪戯っぽく微笑むルッキーニちゃんを引き寄せて、彼女の頬に自分の唇を重ねる。
「ちょっ……サー、にゃん……」
「ふふっ、ルッキーニちゃん、顔真っ赤……」
「あ、赤くなんかなってないよ! サーにゃんのバカ……」
言葉とは裏腹に顔を真っ赤にさせたルッキーニちゃんが可愛かったから、私は彼女の頭をそっと撫でてあげた。

「ルッキーニちゃんって、髪サラサラ……」
私は、2年間の間に伸びたルッキーニちゃんの綺麗な黒髪を撫でながら呟く。
「うぅ、あんまり撫でないでよ……」
「ねぇ、今度はいつ逢えるかな?」
「またすぐ逢えるよ。なんなら、今度のオラーシャでの会議も隊長の代わりにあたしが出てもいいし……その時はまた一緒にお話しよ?」
「うん。その時は私にオラーシャを案内させて」
「へへ、約束だよ? あっ、あたしもう行かないと……頬っぺにチューしたこと、エイラにはナイショだからね? じゃ、まったね〜!」
そう言ってルッキーニちゃんは、あっという間に去っていった。
私もまだ言いたいことがあったのに……

――ねぇルッキーニちゃん、私がキスしたこともシャーリーさんにはナイショだからね?

〜Fin〜

―――――――――――――
以上です。
IFのこの2人、美人さんすぎて辛いです
ではまた

39 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/09/28(水) 23:43:35 ID:ox6q6OCA
>>38 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! IFの二人は美人さん過ぎるので、この二人のほんわかいちゃいちゃは破壊力抜群です……。


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

40 名前:signal for:2011/09/28(水) 23:44:08 ID:ox6q6OCA
「エーリカ」
「トゥルーデ」
 朝食の席から、肩を寄せ合って名前を呼び合う二人。
 いつもの事かと思いきや、どうも様子がおかしい。
 トゥルーデの皿から蒸かし芋をひょいとさらって食べてしまうエーリカ。
「エーリカ」
 少し怒った感じでトゥルーデが言えば、
「トゥルーデ」
 にしし、と笑いながらエーリカが返す。
「エーリカ」
 溜め息をついてトゥルーデがエーリカの頭を撫でる。
「トゥルーデ」
 嬉しそうに、皿からもうひとつ芋を取るエーリカ。

 二人の様子を見るうちに胸焼けがしてきたのか、隊員達は二人から目を逸らして言い合った。
「どうしたんだヨ、あの二人」
「知るか。あたしが知りたいよ」
 ひそひそ声で話すエイラとシャーリー。
「ウジャーあたしわかった! 何するのもぜんぶ名前だけで一日過ごすごっこ!」
「どんな遊びだよ……」
 ルッキーニの正解にも関わらずげんなりするシャーリー。
「さ、作戦に支障がなければ、別にその……」
「ペリーヌ、顔がひきつってるぞー。無理しなくて良いんだぞ」
 ガリア娘をそれとなく気遣うリベリオンの大尉。
「しかし相手の名前だけで意志疎通か。無線が使えない等の非常時の訓練に役立ちそうだ」
「貴方ったら、いっつもそう。訓練の事しか頭に無いの?」
 頷く美緒、呆れるミーナ。
「リーネちゃん、私達もやってみようか」
「えっ、本当? 芳佳ちゃん」
 わくわくする食事当番の二人。
「私達は……もういいよね」
 ぽっと頬を赤らめてエイラの袖をついと引っ張るサーニャを見、一同はぎょっとした。
「サーニャ! それはここでは言わないで……」
 妙な汗をかきはじめるエイラ。

 訓練時や任務時こそ普通に周囲と会話するものの、ふたりっきりとなると名前しか呼ばないふたり。
 周囲は食傷気味に、誰ともなしに「そっとしておこう」と言う事になり、距離を置く。
 気付いているのかそれともわざとか、エーリカがにやっと笑い、名を呼ぶ。
「トゥルーデ」
「エーリカ」
 ほら見ろ、と言わんばかりの口調。でもエーリカはトゥルーデの袖を引っ張ると
「トゥルーデ」
 とだけ言い、部屋に連れて行く。そのまま腕を引かれ、連れて行かれる。
 一同はようやく居なくなったカールスラントのエース二人を後目に、はふう、とため息をついた。

 ドアを後ろ手に閉めるトゥルーデ。
「エーリカ」
 少し怒った感じで言う。
「トゥルーデ」
 気にしたらダメ、とばかりに笑って肩をすくめるエーリカ。
 何か言いたげだが、仕方なしにふう、と肩で息をすると、そっと愛しの人を抱きしめる。
「エーリカ」
 耳元で囁き、唇を耳たぶに這わせる。
「トゥルーデ」
 身をよじり、ふふっと微笑むエーリカ。トゥルーデの真正面に身体を置くと、改めて腰に手を回し、おでこを合わせる。
 揃って、微笑む。
 先に動いたのはエーリカ。ゆっくりと唇を重ね、目を閉じる。
 お互いの身体の温かさを感じ、浸り、そのまま溺れていくのも構わず、キスに夢中。
 あはあっ、と艶めかしい声を上げるトゥルーデ。逃さず、エーリカは首筋をつつーっと舐める。
 こらえきると、ゆっくり息をして、今度はエーリカが攻められる番。抱きしめられ、ゆっくりと身体を舐られ、
 きゃうっ、と小さく声を上げ、身体を震わせる。

 ひとしきりお互いをじっくり知り、体と心を通わせた後……乱れた服のまま、二人は微睡む。
「トゥルーデ」
「エーリカ」
 お互いの名を呼び合い、そっと、口吻を交わす。お休みの挨拶。
 ふたりは身体を寄せ合い、抱き合ったまま、ベッドの中で眠りに落ちる。
 明日はどんな楽しい事が待っているだろう。明日は何をしよう。それは明日決めること。
 今はただ、互いに欲し合い、そして分かち合いたい。ただそれだけ。

end

41 名前:名無しさん:2011/09/28(水) 23:45:24 ID:ox6q6OCA
以上です。
単に周囲がひく位のバカップルを書きたくなったと言う……。
エイラーニャは日常的に(こっそり)やってそうな雰囲気で。

ではまた〜。

42 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/10/03(月) 23:46:07 ID:6.HTs71A
>>41 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです! 名前を呼ぶだけで意思の疎通をしあうエーゲルに悶えます。
素晴らしいイチャイチャぶり、お見事です。

こんばんは。
あくしずのエイラとサーニャのナースピンナップを見てたら思いついたネタを投下していきます。
結構エロスな表現を含みますのでご注意を
では、どうぞ

43 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/10/03(月) 23:46:56 ID:6.HTs71A
【A Doctor's Imitation】

――それは、夜間哨戒から帰ってきて、エイラと部屋でぐっすり眠っていたある朝の日のお話……

「おっはよ〜! エイラっ、サーにゃん!」
勢いよくドアを開ける音とともに耳に入ってきたのは、ハルトマンさんの元気いっぱいな声。
私もエイラも突然の来客に驚いて、飛び上がるように目を覚ました。
「なっ、なんだよハルトマン……こんな時間に」
「はい、これ」
ハルトマンさんがニコニコ顔で、何かが入った箱を私とエイラにそれぞれ渡してきた。
私たちがその箱を開けてみると中に入ってたのは、白い帽子とエプロン、それに丈の長い水色の服。
これって……ナースさんの服?

「これをどうしろって言うんだよ……」
エイラが戸惑いながら、ハルトマンさんに訊ねる。
「いや〜、朝からトゥルーデが部屋を片付けろってうるさくってさ……クローゼットの中を整理してたら
着なくなった服がいっぱい出てきたから、みんなにおすそ分けしようと思ってね。
で、このナース服はエイラとサーにゃんにプレゼントしようと思ったわけ」
「なんでお前がナース服を持ってるんだ? しかも2着も……」
「まーまー、細かいことは気にしない、気にしない。ねぇ、せっかくだから着てみてよ」
「な、何で私たちがこんな格好しないといけないんダヨ……」
と、私のほうを見ながらうろたえるエイラ。
もしかして……照れてる?
「着てみようよ。私、エイラのナース姿見てみたいな……エイラはナース服着るの、イヤ?」
私はエイラの手を取って、彼女にそう訊ねる。
「イ、イヤじゃない……サーニャがそう言うなら私は着てもいいんダナ……」
顔を真っ赤にして、俯きながらエイラが答える。
ふふっ、照れてるエイラ可愛い。
「決まりだね。ささ、着替えて着替えて」
ハルトマンさんにせかされながら、私たちは背中合わせでナース服へと着替えていく。
後ろから聞こえてくるエイラの衣擦れの音が、私の胸をドキドキ高まらせる。

「ねぇ、エイラ。着替え終わった?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、一緒に振り向こう? せーの……」

振り返った私の目に映ったのは、顔を朱に染めた青衣の天使さんだった。
帽子の下の、私より薄くて長い銀色の髪は束ねてあって、普段のエイラとはまた違う魅力を感じる。
早い話が、すごく可愛い。

「サーニャ、その……似合っててカ、カワイイゾ」
「ありがとう。でもエイラのほうが私よりずっと可愛いわ」
「そ、そんなわけないだろ……バカ」
そう言ってさっきより一層顔を真っ赤にさせ、俯くエイラ。
そんなエイラの表情を見てたら私も、胸がドキドキしてくる。
「うんうん。私のにらんだ通り、2人とも良く似合ってるよ。あっ、そうだ。サーにゃんにはこれを貸してあげる」
ハルトマンさんは軍服のポケットから聴診器を取り出し、それを私に差し出してくれた。
「えっと、これは……?」
「へへ、使わなくなった聴診器を女医さんから貰ったんだ。それで、エイラのこと診察してあげたら?」
と、私に悪戯っぽく微笑みかけるハルトマンさん。
”私がエイラを診察”……? なんだかとても心を揺さぶられる響きだ。

44 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/10/03(月) 23:47:42 ID:6.HTs71A

「それじゃ、私はこれで。次は宮藤たちのとこに行こっと。あとはごゆっくり〜」
そう言って、ハルトマンさんは私たちの部屋を後にする。
「お、おい! 待てハルトマン! 診察ってどういう意味ダヨ……へ? な、何やってるんだサーニャ……」
再び2人きりになった部屋で、私はエイラに迫り、彼女のナース服のボタンに手をかけていく。
「ねぇエイラ、お医者さんごっこ、しよ?」
「お、お医者さんごっこ……?」
「うん。私がお医者さんでエイラは患者さん……診察するからベッドに座って」
私は、ベッドに座ったエイラのナース服のボタンを2つほど開けて、彼女の首元に聴診器をあてる。
「うん。どこにも異常はないみたい」
エイラの首のあちこちに聴診器をあてながら、私はもっともらしいことを言う。
「サーニャ、こ、これって何の診察ナンダ……?」
「ふふっ、何だろうね……」
何の診察をしているのか、私自身よく分からない。
ただ一つだけ分かっているのは、私がエイラにもっと触れていたいということ。

一通り首の診察を終えた後、私はエイラのエプロンを脱がし、ボタンも全部外して、彼女の下着を露わにする。
今度は胸の辺りに聴診器をあて、エイラの胸の鼓動を聞いてみる。
「サ、サーニャぁ……」
ドクンドクンと激しく脈を打つエイラの鼓動が、私の耳に伝わってくる。
今、目の前にいるのは、はだけたナース服を身に纏って、顔を真っ赤にしている青衣の天使さん。
そんな状態のエイラを見て理性を保てるほど、私はまだ大人じゃない。

「エイラ……私、興奮してきちゃった……」
私はエイラをぐっと自分のもとに引き寄せて、彼女の唇に熱いキスをする。
「サーニャ……はぁっ……ぁんっ」
キスしただけでいやらしい声を出しちゃうエイラ。
じゃあ、ここを撫でたらどんな反応をするのかな……?
私は、ズボンの上からそっとエイラの一番敏感な部分な部分に触れてみる。
「やぁっ……んっ……サーニャぁ……ひゃぁっ……」
「あんまり大きい声出したら、みんなに聞かれちゃうよ……?」
そう言いながらも私は、一層激しくエイラの敏感なところを撫でる。
「だ、だって……ぁんっ……」
エイラが目を潤ませながら、私のほうを見てくる。
そんなエイラの表情を見てたら、彼女を責めたい気持ちが益々強まってくる。
「エイラ……いっぱい診察してあげるね」
私はエイラのズボンをするすると下ろして、彼女のお尻を揉みしだく。
柔らかさの中にもしっかりした弾力があって、とても気持ちいい。
「すごい、柔らかい……」
「サーニャ……や、やめっ……あぁんっ」
私はそのままエイラをベッドに押し倒して、さっきより激しいキスを交わす。
「サーニャぁ……んんっ」
「大好きよ、エイラ」

――ねぇエイラ、私の知らないあなたをいっぱい見せて……

〜Fin〜

――――――――――――――
以上です。
エイラに対してはドSなサーにゃん、たまんないです
ではまた

45 名前:Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA:2011/10/10(月) 13:25:06 ID:smmjnSS.
>>43 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2さま

エイラーニャをかき乱すエーリカ、最高ですね!
まあかき乱した結果、何かが生まれるって感じで何だかんだ手で「天使」っすね!
ナース服のエイラ…想像しただけでもう…!!

あ、ども。お久しぶりです。
スランプでなかなか投稿出来ずにスミマセン;;
皆さまはスランプ、どのように打破しているのでしょうか?ぜひ教えてください;;

未だスランプから抜け出せない自分ですが、本日はヘルマの誕生日!ってなことで、「ヘルマの発情」シリーズでこんなん書きました。
ぜひ読んでください、どうぞ!

46 名前:Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA:2011/10/10(月) 13:25:38 ID:smmjnSS.
【ヘルマの失踪】

「まだ…見つかってないの?」
「はい!現在、鋭意捜索中です」
「そう…」

一見、ぶっきらぼうに対応していると思うけど内心はとても心配して焦っているウルスラ・ハルトマン中尉。

あ、皆さんこんばんは。つい最近まで『夜のお菓子 うなぎパイ』のメッセージに卑猥なイメージを持っていました、ハイデマリー・W・シュナウファーです。
なんで基地内がこんな慌ただしいのか、これは私が解説します…。


***


話は遡ること3日前。

「パワーを2倍に…でありますか?」
「うん。流石に長距離は無理だけど、この基地周辺なら実験出来ると思う」
「でも…前にバルクホルン大尉が魔力を全て消耗したじゃないでありますか」
「大丈夫、ちゃんと計算した。そして改良も施した」
「…本当に大丈夫でありますか?」
「私を疑ってる気…?」
「ちっ、違うであります!」

いつもと同じような実験前の光景。
ハルトマン中尉とヘルマ・レンナルツ曹長はいつものやり取りをし、実験していました。
なお、この日は速度重視の飛行テスト。エンジンを通常の2倍付けたら何キロ出るのか…とちょっと危ない実験でした。
そんな危ない実験だったのに、いつもと変わらないやり取り…今となっては逆に不気味ですね。

「レンナルツ曹長!ハルトマン中尉!ジェットストライカーの準備が出来ました!」

同じ実験部隊の男性兵が呼びに来て、レンナルツ曹長はストライカーを履き準備をする。
あ、なんで私が知ってるのかって?実は私、そこにいたんです。部隊の回覧板的なものをハルトマン中尉に回してくるよう言われたんで;;;

すると………、

ゴオォォォォォォッ!!!!

今までに聞いたことのないような爆音…例えて言うなら、毎年正月に暴走行為をする『初日の出暴走』が集団で走ってるような音でしょうか?

「わっ、スゴい音…」

ハルトマン中尉は私に気付き、

「シュナウファー大尉、お疲れ様です」
「あ、どうも。なんですか、この音?!」
「改良したジェットストライカーMark.U」

47 名前:Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA:2011/10/10(月) 13:26:02 ID:smmjnSS.
「???」

レンナルツ曹長は既に使い魔の耳と尻尾を出し、目を閉じて精神統一をしている様子。

「行けそう?」
「はい、行けるであります!」
「じゃあ発進してちょうだい」
「シュバルツェカッツェ(黒猫)2番、発進するであります!!」

と言い、エンジン音は爆音だったもののいつものように発進…したように見えました………が!

「わっ…わわわわわっ!!!!」

ものすごい勢いで何処かへと吹き飛んでしまうレンナルツ曹長。
空中で、スポーンとジェットストライカーが抜き飛んで…

「あ…」

そのままレンナルツ曹長だけ、何処かへ飛んで行ってしまった様子です…。

「失敗…か」
「え?!救助しなくても良いんですか?!」
「………回収しなくちゃ」
「どっちをですか??!!」


***


そうして、レンナルツ曹長が実験中の失踪から早3日が経ちました…。

「…ハルトマン中尉」
「何?」
「少し寝た方が…」
「大丈夫」
「でも…」
「大丈夫だから!」
「っ?!」

普段静かなこの方が大声を上げるだなんて…

「す、すいません…」
「ごめんなさい」
「いえ…」
「………」
「………」
「………」
「…今日は、何日?」
「今日ですか?今日は…10日です、10月の」
「…そう」
「何か?」
「…今日はヘルマの誕生日」
「へ??」

今日、10月10日はレンナルツ曹長の誕生日。何かプレゼントでも用意してたのでしょうか?

ちょっと微妙な空気が流れてる時でした…、

「ハルトマン中尉!」
「っ?!」

研究室に捜索係の男性兵がやって来て、

「レンナルツ曹長が…っ!」
「っ??!!」
「ど、どうしたんですか??!!」
「見つかりました!」

よ、良かった…!!

「でも…」

どうも浮かない顔をしている捜索係の人…。

「どうしたの…?」
「意識が…」
「っ!!??」
「落下した時と、発見されてからだいぶ時間が経っており意識が…」
「…ハルトマン中尉、とりあえず病院へ行きましょう!」

そうして、私たちは病院へ向かった………。


***


私たちが病院へ着くと、そこには…

「ヘルマ…」

ガラス張りの病室の中が見える廊下。その部屋の中には、ベッドで横になっているレンナルツ曹長の姿が、そこにありました…。
そしてふと横を見ると、今にも泣きそうな顔のハルトマン中尉が…

「ご家族の方ですか?!」

病室の中から医師が出て来て…、

「いいえ。でも…家族同然…」
「そうですか。…覚悟をしておいた方が良いと思います」

48 名前:Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA:2011/10/10(月) 13:26:21 ID:smmjnSS.
「へ…?」
「今夜が…峠です」
「………」











「私のせいだ…」
「ハルトマン中尉…」

かれこれ1時間、ハルトマン中尉はレンナルツ曹長の手を握っています…。

「…っ!!」
「どうしたんですか?ハルトマン中尉」
「今…一瞬、手に力が入った…」
「え?!」

すぐレンナルツ曹長を見ると…

「ヘルマ!!」

少し控え目に目を開け、笑っていました…

「ハル…ト…マンちゅう…い…」
「良い、何も喋らなくて良い」
「ごめ…な…さい…」
「私の方がもっと悪いから…」
「ちゅう…い…と…一緒…に…」
「一緒に?」
「海が…見たかっ…たで…あり…ます」

そう言うと、私の目の前には粉雪が降ってきました。
それはレンナルツ曹長の「涙」なのでしょうか?
切なく、しとしとと………。

「ヘルマ?!ヘルマ??!!」

先ほどの一言を言い残すと、レンナルツ曹長は眠るように短い命を………。
















***


「どう?」
「………っ!!」

ウルスラの研究室にて、原稿用紙を手にして震えているヘルマ。

「なっ、何なんでありますか?!この小説は!!」
「今度の小説コンクールに応募してみようかと思う」

49 名前:Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA:2011/10/10(月) 13:26:37 ID:smmjnSS.
「いや、そうゆうのはどうでも良いんですが何ですか?!なんで私が死ぬんでありますか!!」
「誰かが死んだ方が、話が盛り上がるし泣けると思う」
「いやいやいや、そうゆう問題じゃなくてなんで実名なんでありますか!!」

話の内容に憤慨し、思わず立ち上がってしまっている。

「あとツッコみどころ満載ですよ!」
「…例えば?」
「ラストの!なんで病室なのに、雪が降るんでありますかぁ!!??」
「この間見た韓流ドラマの影響」
「いくら韓流でも部屋の中には雪は降りませんですって!!」
「このシーンで全カールスラント国民に泣いてもらおうかと思う」
「泣きませんって!それに、なんですか!?最後のセリフは!?」
「定番」
「定番じゃないですよ、何が定番で海が見たくなるんですか!?」
「文句多い」
「…なんで中尉が怒るんですか!」
「これ書くのに1カ月近くかかった」
「だったらもっとまともな作品書いてください!!」

そうしてヘルマが部屋から出ようとした瞬間、

「あ、ちょっと待って」
「何でありますか?!死んで欲しいヘルマ・レンナルツに何か用ですかぁ??!!」
「これ」

ウルスラはヘルマに紙袋を渡す

「…何です?」
「プレゼント」
「え…?」
「今日はあなたの誕生日…」
「ハルトマン中尉…っ!」
「おめでとう」

渡すと、少し控え目に笑うウルスラ。
ヘルマは思わず…

「中尉〜っ!」
「わっ」

ジャンプしながら飛び付く...

「先ほどはごめんなさいでありますぅ!」
「びっくりした…」
「中、開けて良いでありますか?!」
「もちろん、あなたのだから」
「では早速♪」

ウキウキしながら中を開けると………

「………何でありますか?」
「さっきの原稿用紙の文を、自費出版してみた」
「………」
「あげる」
「………」


ちなみに、自費出版は出版社によってまちまちだが、委託配本する場合には最低400部必要だ。
つまりヘルマにあげた1部と自分用の1部を除き、まだ398部残っている。

そうして、残りの398部は軍基地の売店で埃をかぶって積まれていたそうな。



【おわれ】

50 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/11/11(金) 23:17:34 ID:zNCBda.s
>>45 Hwd8/SPp様
GJです。ウルスラの小説、自分も1部欲しいです。
スランプの打破ですか・・・何かあるんなら自分も知りたいです(ノω・、)

さて、今日はポッキーの日ということでクルロスの現パロを1本書いてみました。
では、どうぞ

51 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/11/11(金) 23:19:31 ID:zNCBda.s
【Pocky Game】

ここはとある女子高の学生寮の一室……

「ねぇ、先生」
部屋の主であるクルピンスキーが先輩でルームメイトでもあるロスマンの愛称を呼ぶ。
「なに?」
ノートと睨めっこしていたロスマンが顔を上げ、クルピンスキーの方を見る。
「ヒマ」
クルピンスキーがそう呟くと、ロスマンは「そう」とだけ返しまたノートの方に視線を戻す。
「え? それだけ!?」
「暇ならあなたも勉強しなさい。赤点取っても知らないわよ」
「ボクなら大丈夫。テストは一夜漬けで大体なんとかなるから。先生も勉強なんかしないで遊ぼうよ」
「ダメ。まだまだ勉強しなきゃいけない教科があるもの」
「ちょっと休憩するのもダメ? 無理のしすぎは身体に毒だよ」
クルピンスキーの言うことも一理ある。気が付けば、かれこれ3時間以上机と向き合っていた。
無理をしすぎて身体を壊しては元も子もない。そう思ったロスマンは机から離れ、クルピンスキーの隣に腰を下ろす。

「それもそうね。少しは息抜きも必要よね」
「さすが先生、話が分かるね。ねぇ、ゲームしようよ」
「ゲーム?」
「うん。負けた方が勝った方のお菓子代を1ヶ月分持つってのはどう?」
「面白いわね。何のゲームをやるの?」
「へへ。これだよ、これ」
クルピンスキーがニヤリと笑いながらチョコの付いた棒状のビスケットを袋から取り出す。
それを見たロスマンはクルピンスキーが何のゲームをやろうとしているのか理解する。
「こ、これってまさか……!」
「そ、ポッキーゲームだよ。先にポッキーを折ったほうが負けってことで」
「ね、ねぇ……やっぱり他のゲームにしない?」
ポッキーゲームといえば、普通は恋人同士で行うゲームだ。
そのようなゲームをクルピンスキーとすることに少なからず抵抗を覚えるロスマン。
「あれ? 先生ともあろう人がボクに勝つ自信がないのかな?」
と、ロスマンを挑発するような口調でクルピンスキーが言う。
その言葉を聞いたロスマンは思わずむっとなって、クルピンスキーの申し出を受け入れてしまう。
「いいわ。やってやろうじゃないの」
「そうこなくっちゃ。先攻は先生からでいいよ」
「……ええ。じゃあ、行くわよ」

ロスマンはポッキーのチョコの部分を咥え、クルピンスキーも反対のスナックの部分を咥える。
(最初は一口分くらい……かな?)
ロスマンは頬を染めながら、ポッキーを一口かじる。
かじった分だけクルピンスキーとの距離が縮まることにロスマンは思わずドキドキを感じてしまう。
(伯爵って綺麗な顔立ちしてるわね……って、私ったら何考えてるのよ)
顔をポッキーの箱のように真っ赤にさせてるロスマンとは対照的に、余裕の笑みのクルピンスキー。
彼女はポッキーをスナックの部分から、小動物のように素早く食べ進めていく。
(ちょ、ちょっと! そんなに早く食べたらく、唇があたっちゃう……)
ロスマンが思った通り、クルピンスキーはポッキーを全部食べきると、
そのままロスマンの唇をとらえ彼女を自分のベッドへ押し倒す。
「んっ……やぁっ」
「ごめんね。先生の可愛い顔を間近で見てたら我慢できなかった」
「……こ、こんなの反則よ! あんたの反則負け!」
ロスマンは足をジタバタさせて精一杯の抵抗をするも、力では全くクルピンスキーに敵わない。
「先生とキスできるなら、お菓子代1ヶ月分くらい安いもんだよ」
クルピンスキーはそう言うと、今度はロスマンの首の辺りに自分の唇を重ねる。
「はぁっ……んっ」
「ねぇ、エディータ」
耳元に甘い声でロスマンの名前を囁くクルピンスキー。
「な、何よ……」
「今日一日ボクに付き合ってくれないかな? テストまでまだ時間もあるし、一日くらいならいいでしょ?」
ロスマンは俯き、考え込むような表情をする。
少しして、「……きょ、今日だけよ」と、どこかのスオムス娘のような台詞を顔を赤らめながら言う。
そんなロスマンの可愛らしい仕草を見て、クルピンスキーは満足気に微笑む。
(あはは、本当に可愛い人だな……)
クルピンスキーはベッドに押し倒したロスマンを抱き上げると、もう一度彼女の唇に口付けを落とす。

このキスがいつまで続くのか、それは2人のみぞ知ることだ。

〜Fin〜

52 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/11/11(金) 23:19:57 ID:zNCBda.s
以上です。伯爵誕生日おめでとう!
伯爵にデレデレなロスマン先生、可愛いです
ではまた

53 名前:名無しさん:2011/11/13(日) 01:02:13 ID:A8UwEi4E
>>52

gjです

まだ書いてくれるひとがいてくれてよかった〜

54 名前:6Qn3fxtl:2011/12/29(木) 15:10:03 ID:LE65CTeQ
>>52
遅レスすぎで恐縮ですが、GJ!!
ロスマン先生はお菓子1年分以上の価値はありますから、1ヶ月分なんて安い、安い。

皆さまずいぶんご無沙汰しております。
年の瀬ですね。飲酒の機会も増えますね。ということで、酔っぱらいビューリング投下していきます。

55 名前:天使のわけまえ(1/2) @ 6Qn3fxtl:2011/12/29(木) 15:11:02 ID:LE65CTeQ
「あぁ……体が軽い……。天使が後押ししているようだ……」
ウイスキー1本だけで天界まで飛べるとは何と手軽なことだろう。
これを教えてくれた何とかとかいう工員には感謝せねばなるまい。
「こっちは禁煙じゃないよな……」
いつものタバコに火をつけようとするが、ライターを持つ手が右に左にふらふら揺れて、
なかなかつけることができない。しまいには嫌になってタバコを投げ捨ててしまった。
この辺はよっぽど気流が乱れているらしい。
「仕方ない、迂回するか」
くるりと進路を変えると、よろよろと足が乱れた。
なるほど、天界の飛び方というのもなかなか難しい。


「あっ、ビューリングさん!」
……おや、ここは天への門か? やけに基地の入口に似ているのが気に障るが。
「もう、こんな時間までどこで飲み歩いてたんですかっ!!
門限はもうとっくに過ぎてるんですよっ!!」
どうやら、天国にも門限ってものがあるらしい。さすがに規律に厳しい。
これなら地獄へいったほうが気が楽かもしれないな。
「ほらっ!はやく部屋に戻って寝てください!! 明日も早いんですからねっ!!」
「はいはい」
言われるままに、ふわふわと揺らめく機体を操って部屋に入る。
それにしてもこの世話係、どこかであったことがあるような気がする。

「もう……。一体どれだけ飲んだらこんな風になるんですか!?」
「ん……、あぁ……」
無理矢理にベッドに座らされて、天使の説教を受ける。
おいおい、天国って奴は思った以上に堅苦しいところだな。
「どこで何をしていようと、いまさら文句はいいませんが、ちゃんと門限までに戻ってきてもらえないと……
その……いろいろと困るといいますか……」
天使の声が段々と弱くなる。
「あの……そんな目で見られると……その……怒りにくいのですが……」
「だめか?」
夢見心地のまま、私は切り返す。
「こんなことは滅多にないだろうからな。よく見ておきたい」
「……いつもいってるのに、聞いてないんですか……」
「天使の声を聞く機会なんて、そうそうないからな……」
「てっ、天使……!?」
「そんな顔もかわいいな」
怒られているばかりも癪なので、少々からかって遊んでみることにした。
さすがに天国なんてところで育っているだけあって、天使というのは純粋でからかいがいがある。
それにしても……。
「お前は知り合いによく似てる。そっくりだ」
「あの……ビューリングさん……?」
「真面目で一生懸命でな。ちょっと泣き虫だが、かわいい奴なんだ……」
「えっと……寝ましょう、ビューリングさん。寝たほうがいいです」
天使が顔を真っ赤にして、ぐいぐいと私を寝かしつけようとする。
そんな様子もあいつ、エルマにそっくりで、ひどく愛おしくかわいらしい。
「本当にそっくりだな……。エルマ・レイヴォネンに」

56 名前:天使のわけまえ(2/2) @ 6Qn3fxtl:2011/12/29(木) 15:11:22 ID:LE65CTeQ
「ちょっ、ちょっと……!!ビューリングさん!?」
私はすっくと立ち上がると、天使をぎゅっと抱きすくめる。
天使というのも、生身の人間と同じで温かく柔らかい。
「いい匂いがするな」
「……やっ、やめっ……!」
「あいつにそっくりだ……。あいつも天使なのかもな」
「はっ、恥ずかしいこと……言わないでください……っ!!」
じたばたと暴れる天使を強く抱きしめ、白磁のような耳を軽く唇で挟む。
その瞬間、天使の力がふっと抜けた。
触れたい。感じたい。もっと強く、もっとはっきりと。
エルマにそっくりな天使が相手だ。エルマも悪いような気はしないだろう。
私は天使のブラウスに手をかけると、一気に引きちぎった。
「ひっ、ひゃうっ……!!!」


しっとりときめ細やかな肌に、うっすらと浮いた鎖骨。
薄桃色に染まる、やや控えめな二つの頂。
細い腰。ほどよく引き締まった腹部。かわいらしいへそ。
すべてが完璧なバランスで調和していて、まるで一級品の人形のようだ。
「さすがだな……。すごく……きれいだ……」
「やっ……やめてください……。恥ずかしい……」
返事のかわりに唇を押し当てる。首筋、肩、胸、背中……。
同時に私の両手は胸を、腹を、やわやわと撫でる。
舌先に甘く、ちりちりとした味を感じる。
天使の体温と鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「……ビューリングさん……もう、やめっ……」
「かわいいな、エルマ……」
思わず、天使をあいつの名前で呼ぶ。
天使を慰めながら、天使の向こうにあいつを見る。
欲しい。あいつが欲しい。エルマが欲しい……。


「ひゃんっ……!!」
私の左手が天使のズボンの中に潜り込む。
天使のそこは人間のもののように熱く、とろけていた。
「だっ、ダメですっ……!!」
天使が私の手首をつかむが、その手にはあまり力が入っていない。
自由なままの指を軽く動かすと、天使の身体がびくりと跳ねた。
「天使も……人間と同じなんだな……」
ゆるゆると指を動かすと、天使が切なそうに唇を噛んだ。
「声……聞かせてくれ……」
「……他の人に……聞こえちゃ……」
「大丈夫だ。誰もいない」
一体、天国に誰がいる?智子もいない。ハルカもいない。聞かれて困るような相手など、誰もいない。
「お前の声が聞きたい。聞かせてくれ」
指の動きを速めると、動きにあわせて天使の肩と膝がびくびくと震える。
下唇を強くかんで、気をやってしまわぬようにひたすらに耐えている。
そんな様がひどくかわいらしくて、愛おしくてたまらない。
「んっ、はぁっ、くぅん……!」
抑え切れない嬌声が唇の端から溢れる。私はちろりと舌なめずりをして
ほのかに赤く染まった耳たぶを軽く噛んだ。
「はぁっ……!!んんっ……!!」
ひときわ大きく、天使の身体が跳ねる。私と天使はベッドに倒れ込み、そのまま気を失った。


---−−−


「うぅ……頭が痛い……」
不愉快なほどまぶしい朝の光に顔を背ける。
鉛の銃弾のように重たいまぶたを無理矢理に押し上げると、ひどく霞んだ視界の向こうに
見慣れた私の部屋があった。
昨晩は確か、基地近くのパブに繰り出して……。
どうやらパブでしたたか飲んだようだが、どうやって基地までたどり着いたものか、まったく記憶がない。
「水が……欲しい……」
やみくもに手を動かすと、何か温かいものに手が当たった。
驚いて目を開けると、そこにはエルマが何かいいたげな顔をして、ベッドに腰掛けていたのであった。
「なんで……お前がここに……?」
私の質問に、エルマはむっとした顔のまま何も答えない。
「それに……そのブラウス……」
「……何にも覚えていないんですかっ!?」
エルマの甲高い怒鳴り声が二日酔いの頭にがんがんと響く。
「……すまん、話があるなら後にしてくれないか……。
あと、水を一杯持ってきてくれ……」
「っ……!!! ビューリングさんはケモノさんですっ!!!!」
ばすんっと一発、枕で思い切り私の顔をひっぱたいたエルマは服の前を押さえたまま立ち上がり、
それこそ基地全体が壊れてしまうのではないかというぐらい乱暴にドアを叩きつけて出て行ってしまった。


その後、1週間にわたってエルマは私に口を聞いてくれなかったが、
誰に聞いてもその理由を教えてくれるものはいなかった。

fin.

57 名前:6Qn3fxtl:2011/12/29(木) 15:13:31 ID:LE65CTeQ
……すいません。エロ注意書き忘れてました……。
保管の際にはR18扱いでお願いします。

58 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/12/29(木) 21:36:45 ID:6NhZMZPM
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
>>43-44 うおぉこれはえろす! これは良いエイラーニャ! GJ!
>>51 艶めかしい感じが最高です! 伯爵と先生もアリですね! GJ!

>>49 Hwd8/SPp ◇ozOtJW9BFA様
GJです。小説オチとは!

>>57 6Qn3fxtl様
GJ! 何と言うえろす! ビューエルおいしいです。


こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。

59 名前:happy dream 01/02:2011/12/29(木) 21:37:26 ID:6NhZMZPM

「リーネちゃんは私の嫁だから!」

 自分の大声で、芳佳はがばと跳ね起きた。
 どうやら眠っていたらしい。
 訓練が続き身体が休息を求めていたのか、自室に戻るなり、午後の休憩も忘れ、ひとりベッドで仮眠を取っていた様だ。
 しかし、どんな夢を見ていたのか。
 更にはどうしてあんな事を言うハメになったのか、夢の内容を全く覚えていない。
「どうしたのかな私……疲れてるのかな」
 芳佳は鈍く痛む頭を二、三度振ると、よろっと立ち上がった。
 そこで、はっと気付く。
「まさか、誰かに……聞かれてないよね?」
 ははは、と冷や汗混じりにひとり笑って誤魔化した。
 その時、部屋の外からふと何かの気配が消えた事を、芳佳は気付いていなかった。

「ねえ、芳佳ちゃん?」
 部屋を出てすぐ、エイラとサーニャに出会った。出会うなり、サーニャは心配そうに芳佳の顔を見た。
「あれ、どうしたのサーニャちゃん?」
「宮藤、お前どんだけ溜まってるんだヨ」
 呆れ顔のエイラに肩をつつかれ答えに困る芳佳。
「えっ、何の事ですかエイラさん?」
「芳佳ちゃん、何か心配事とか困った事とか有ったら……私達で良ければ相談に乗るから」
 サーニャに心配され、えっと言う顔をする芳佳。
「な、何の事? 私大丈夫だよ?」
「私も特別に占ってやってもイイゾ。占い料は貰うけどナー」
「もう、エイラったら」
「嘘だってサーニャ。ま、頑張れヨー。私達はこれで」
「あ、はい……」

 ミーティングルームに着くと、トゥルーデとエーリカが何やら話をしていた。芳佳の姿を見つけるなり、こっちへ来いと手招きする。
「どうかしましたか、バルクホルンさん」
「宮藤、お前……」
「はい?」
 数呼吸の間を置いて、トゥルーデは顔を少し赤くして、ぷいと横を向いた。
「トゥルーデ、こう言う所は純粋なんだからな、もう」
 にやにや笑うエーリカ。
「ハルトマンさん、一体何の話です?」
 戸惑う芳佳に、エーリカがふふーっと笑って言った。
「こじれる前に、早くした方が良いと思うよ」
「ええっ!? 何の事ですか!? こじれるって?」
「気付いてないのか、宮藤。お前は本当に何処までも扶桑の魔女なんだな」
 心底呆れた顔でトゥルーデが言う。
「はい。扶桑の魔女ですけど、何か?」
「単なる国籍を言ってるんじゃない」
 トゥルーデに言われ、ますます意味が分からなくなる芳佳。
「は、はあ……何が何やら」
「とりあえず早く行ってやれ。待ってるんじゃないか?」
「誰がですか」
「はいはい、向こう向こう」
 エーリカに肩を押され、ミーティングルームから締め出された。

 執務室の前を通り掛かったところで、唐突に扉が開いた。
 ひょっこり顔を出したのは美緒。
「あ、坂本さん。どうかしましたか? 午後の訓練はもう終わりじゃ……」
「うむ。今日の訓練は既に終わっているぞ。しかし宮藤、お前も扶桑の撫子ならもっとしっかりせんか」
「は、はい?」
「そうね、宮藤さん。余りプライベートな事言うのも何だけど、お互いの事を理解する為にも、伝える事はしっかり伝えないと」
 いつの間に出て来たのか、ミーナまで芳佳に声を掛ける。
「ミ、ミーナ中佐? 私、一体」
「全く……師匠が師匠なら弟子も弟子ね」
 ふう、とせつなげに溜め息を付くミーナ。
「何だミーナ、その言い方は。トゲがあるぞ」
 呆れる美緒の肩をぽんと叩くと、ミーナは爽やかに迫力のある笑顔を作り、言った。
「なら美緒、ちょっと、良いかしら?」
「な、なんだ急に? おい、ミーナ……」
 身の危険を感じた芳佳は、一礼すると振り返らずに駆け出した。

60 名前:happy dream 02/02:2011/12/29(木) 21:37:53 ID:6NhZMZPM
 厨房に辿り着く。今日は食事当番だった事を思い出す。
「ウジャー! 芳佳来たぁ!」
「いよっ宮藤! この幸せ者!」
 厨房の向かいに有るテーブルに、シャーリーとルッキーニが座っている。芳佳を見つけるなり、主役登場とばかりにはやしたてる。
「シャーリーさんもルッキーニちゃんも、どうして……」
「ちょっと宮藤さん?」
 厨房から厳しい声が飛んできた。ペリーヌだ。眼鏡の縁をくいと上げると、じろりと芳佳を見る。
「貴方、もうちょっとマシな寝言を言えないのかしら」
「はいぃ!?」
 芳佳はようやく気付いた。

 寝言、聞かれてた。
 しかも全員に、話が回ってる。

「ちょっ、ちょっとペリーヌさん、誰から聞いたんですか?」
「501(ここ)で秘密なんて無いに等しいって、貴方も知ってるでしょうに」
「えうっ……だけど、寝言ですよ寝言?」
「甘いな宮藤は。あんだけ大声で言っちゃったんだから、ちゃんと責任取らないとな」
「取らないとナー、ナー! キャハハ」
「酷い! 聞いてたの、シャーリーさんとルッキーニちゃん!? 何も、言いふらさなくても……」
「だってー。おもしろーい事になりそ〜うだし」
 にゃはは、と八重歯を見せて笑うルッキーニ。
「さあ宮藤。言い訳はこの辺にして、お前の麗しき花嫁にしっかりと伝えるんだ!」
 シャーリーが指差したその先は厨房の奥。もじもじと、リーネが芳佳の事を待っていた。
「リ、リーネちゃん」
「芳佳ちゃん……」
「あのね……、私、その、夢で」
 リーネは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で呟いた。
「芳佳ちゃん。な、何事にも順序って有ると思うの。私達、その、結婚するなら、ブリタニアの法律じゃ出来ないし……
例えば私の家に養子縁組とか、色々手段はあると思うんだけど」
「リーネちゃん何言ってるの」
 余りの事に顔が青ざめる芳佳、正反対に沸騰しそうなリーネの頬の色。
 周囲には、いつの間に来たのか、501の面々が揃っている。
「ど、どうすれば良いの……私」
 芳佳は言葉が続かず、呆然と立ち尽くした。

end

61 名前:名無しさん:2011/12/29(木) 21:38:07 ID:6NhZMZPM
以上です。
初夢的なネタですが一足先に。
皆様良いお年を。
ではまた〜。

62 名前:名無しさん:2011/12/29(木) 21:58:39 ID:0iiiV6Ds
>>61
こうなったリーネちゃんは止まらないから諦めて責任をとるんだ!w
GJでした!

63 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/12/30(金) 23:33:49 ID:HulmA30k

>>54 6Qn3fxtl様
GJです。記憶があやふやになるほど飲んじゃうなんてビューリングさん重症ですね。
えっちなビューエル、ご馳走様でした。

>>58 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。芳佳はもう責任を取ってリーネちゃんと結婚するしかないですね、これは


こんばんは。もう5日も過ぎちゃいましたが、
クリスマスもといサトゥルヌス祭のお話を分遣隊で書いてみました
ではどうぞ

64 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/12/30(金) 23:35:58 ID:HulmA30k
【ウィルマサンタのプレゼント】

――12月24日、サトゥルヌス・イブのその日、ワイト島分遣隊基地ではパーティーに向けて
ウィルマとアメリーがケーキ作りに励んでいた。

「ウィルマさん、イチゴ洗い終わりました」
「ありがとう。じゃあ、そこに均等に盛り付けてくれない?」
「は〜い」
アメリーはショートケーキの上にイチゴを1個1個丁寧に乗せていく。
そんな彼女を尻目に、フランとラウラは乗りたてのイチゴをひょいと摘んで口へと運ぶ。

「イチゴ……おいしい」
「うんうん、甘酸っぱくていい感じ」
「あっ、フランさんもラウラさんもつまみ食いはダメですよ〜」
「何よ。ちょっとくらい、いいじゃない」
「ダメなものはダメです!……って、言ってるそばからつまみ食いしないでください〜」
よほどお腹が空いてるのか、尚もつまみ食いを続けるフランとラウラ。
そんな2人を見かねて隊長の美佐は、フルーツの盛り合わせをテーブルに乗せる。
「全く、フランもラウラもしょうがないわね……繋ぎにこれでも食べてなさい」
「わーい、隊長大好き〜」
「ん、おいしい……」
満足気にフルーツを食べる2人を見て、美佐も自然と笑みがこぼれる。
「ふふっ、サトゥルヌスにパーティーなんて久しぶりだから何だか楽しいわ」
「前の部隊にいた時はパーティーとかしなかったの?」
「うん。私、去年の12月24日は任務中に負傷しちゃって……それどころじゃなかったから」
美佐がそう言うと、場の雰囲気がしんと静まり返る。
ウィルマは悪いことを聞いてしまったと思い、申し訳なさそうな表情で美佐に謝る。
「あっ、ごめん……辛いこと思い出させちゃって」
「ううん、気にしないで。そりゃ、怪我した時は『何で私が』って思ったけど、今は療養でここに来れたことに感謝してるの。
こうやってかけがえない仲間と出会うこともできたしね……なんて、ちょっとクサかったかな?」
と、美佐が照れくさそうに頬をかく。
「隊長……」
美佐の思いもよらぬ告白に隊員たちは心をほっこりさせる。
ひょんな偶然からブリタニアの辺鄙な基地に集められた5人のウィッチ。
最初はバラバラだった彼女たちも心を通わせるうちにいつしか、お互いの存在がかけがえのないものになっていたのであった……

「さて、ケーキも完成したことだしパーティーを始めるとしますか。隊長さん、号令お願い」
「ええ。それじゃあ、楽しいパーティーにしましょう。乾杯!」
美佐の乾杯の号令のもと、パーティーが始まった。
ウィルマとアメリーが作った料理を食べながら、みんなで今年1年の思い出を語り合ったりした。
ウィルマの着任日にみんなでお風呂に入った事、赤城の護衛任務に就いた事、海水浴に行った事……
そんな思い出を語り合っていると、不意にフランが思いがけない言葉を口にした。
「1年ってあっという間ね……今年もサンタさん、来てくれるかな」
フランのその発言に他の4人は思わず目を丸くしてしまう。
「え?」
「ほら、サトゥルヌスにサンタさんからプレゼントを貰わないと1年って終わった気がしないじゃない? みんなはそう思わない?」

65 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2011/12/30(金) 23:37:36 ID:HulmA30k

「フランさん、もしかしてまだサンタクロースの存在を信じてるんじゃ……」
「……そうみたいね」
どう反応していいか分からず、困った顔で美佐とアメリーはヒソヒソ話をする。
「何よ、2人でヒソヒソして……あたし何か変なこと言った?」
「え? な、なんでもないです。あはは……」
「サンタって、ウィッチの基地にも来るのかな」
フランにさり気なく問いかけるようにラウラが呟く。
「絶対来るわよ。去年、あたしがリベリオンの養成学校にいた時だってプレゼント、届けてくれたもん」
と、胸を張って自信満々にフランが答える。
(きっと、養成学校の教官さんが良い人だったのね……こりゃ計画を変更する必要があるかな)
そんな目をキラキラさせながらサンタクロースの事を話すフランを見て、ウィルマはある事を考えていた……

――やがてパーティーもお開きとなり、片付けが終わった頃にはすっかり深夜と呼べる時間になっていた。
アメリーとフランとラウラはよほど眠かったのか、談話室のソファでぐっすり眠っている。
美佐は、そんなソファに並んで仲良く眠る3人にそっと毛布をかける。
「みんな、疲れちゃったのね……あれ? そう言えば、ウィルマさんはどこ行ったのかしら」
「隊長さん、隊長さん」
美佐が辺りをキョロキョロしてると、不意にウィルマが後ろから声をかけてきた。
「あら、ウィルマさん……って、どうしたの!? その格好?」
美佐が振り返るとそこにいたのは、赤と白の衣装に身を包んだウィルマの姿だった。
「しーっ! みんなが起きたら、計画が台無しになっちゃうから」
サンタクロースの格好をしたウィルマは、肩に背負った白い大きな袋から何かを取り出すと、
それを眠っている3人のそばに置いた。
「それは……?」
「えへへ、ウィルマサンタからみんなへのプレゼントよ。本当は、パーティーの時に私がこの格好でみんなに渡そうと思ったんだけど……
 サンタさんを信じてるフランには、こうしたほうが夢があると思ってね」
と、熟睡しているフランの頭を撫でながらウィルマが言う。
「あっ、そうそう。隊長さんにもプレゼントあるの。はい、これ」
そう言ってウィルマは、袋の中から箱を取り出してそれを美佐に渡す。
「あら、ありがとう。それにしても、準備がいいのね。今日のこの日のために、わざわざプレゼントとその衣装を用意したの?」
「まあね。私、パーティーとか好きだから、昔は兄弟たちとよくこういう事やっててね……今はここにいるみんなが家族みたいなものだし、
せっかくだから、家族と思いきり今を楽しみたいじゃない?……なんて、ちょっとクサかったかしら」
「もう、それさっきの私の台詞じゃない」
「あはは……さて、私もそろそろ寝るとしますか。お休み、隊長さん」
「ええ。お休みなさい」

(さてと、明日の朝が楽しみね……フランはどんな反応をするかな? みんな、喜んでくれるかしら……)
そんな事を考えながら、分遣隊基地のサンタさんは寝室へと向かうのだった。

〜Fin〜

―――――――――――

以上です。なんとか年内に完成できて良かったです。
それでは皆様よいお年を

66 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2011/12/31(土) 00:54:43 ID:5PMTp8hw
>>65 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! これは素敵な聖夜……ほっこりしました。ええチームですね、分遣隊。


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
またまた思い付いたネタ? をひとつ。
>>59-60「happy dream」の続き、と言うか
ほぼ同時間帯の出来事をちょこっと書いてみました。
ではどうぞ。

67 名前:happy dream II:2011/12/31(土) 00:55:19 ID:5PMTp8hw

「リーネちゃんは私の嫁だから!」

 って芳佳が言ってたよー。ニヒヒ。
 と、突然ただそれだけを聞かされたリーネは、ニヤニヤするシャーリーとルッキーニの前で頬に手をやり、
暫く言葉の意味を反芻した後、やがてあたふたと慌て始めた。
先程から始めていた夕食の下ごしらえも忘れて、厨房の壁にもたれ、はふうと溜め息を付く。
「わ、私、どうすれば。でも本当に芳佳ちゃん、言ったんですか?」
 シャーリーは力強く頷いてみせた。
「ああ、部屋の外まですんごい聞こえたよ。あれは、単なる寝言とかじゃない。もはや、れっきとした宣言だね」
「ダネー」
 ルッキーニがにんまりと笑うと、リーネの胸をつんつんと人差し指でつつきながら言った。
「アアアゥァー、この501で第二位のおっきなオムネも、芳佳のところにオヨメにいってしまうのか〜 ウジュー」
 リーネはひゃっと小さな悲鳴を上げてさと胸を腕で隠すと、ルッキーニに向かい問うた。
「ルッキーニちゃん、それってどう言う意味?」
「え? そのまんまだけど」
「ちなみに第一位は?」
「シャーリー。悪いけど渡さないよ?」
 ルッキーニに抱きつかれたシャーリーはまんざらでもない顔をして笑った。そんな二人を見て呆気に取られるリーネ。
「何か主旨が変わってきてるよ、ルッキーニちゃん」

「全く、宮藤さんは何を言ってるのかと」
 噂を聞きつけ、呆れ半分怒り半分のペリーヌは、厨房に来るなり、リーネを見て呟いた。
「あ、あの、ペリーヌさん」
「何ですのリーネさん?」
「芳佳ちゃんを悪く言わないで……多分、その」
「寝言にしては趣味が悪過ぎますわ」
「えっ、でも、芳佳ちゃんなら……」
「『なら』って、リーネさんまさか」
 ペリーヌの危惧は現実のものとなりかけていた。

「わ、私、どうすれば芳佳ちゃんのお嫁さんになれるのかなって、色々考えてみたんです」
「ふむふむ」
「ウキャーさすがヨメヨメ! で、どうすんの?」
「ちょっとリーネさん、考えが先走り過ぎてませんこと?」
 シャーリーとルッキーニ、ペリーヌを前に、顔を真っ赤にしながら、リーネは自分の考え……決意にも似た言葉を述べる。
「ブリタニアの法律でも、多分扶桑の法律でも、私達結婚は出来ないと思うから……」
「当たり前でしょうに」
 呆れるペリーヌ。
「だから、とりあえず、わ、私と、私の家族と、よよ芳佳ちゃんで養子縁組とか」
「おおー具体的だねー」
「ダネー。ニヒヒ」
「妙に生々しいですわね」
「えっダメですか? なら、結婚出来る法律がある、何処か他の国に二人で移住するとか」
「ああー。そう言えばあたしの国、確かどっかの州で、法的に同性婚出来るとこがあ……」
「教えて下さいシャーリーさん! 私、芳佳ちゃん連れて移住します! それもっと詳しく!」
「決断はやっ!」
 いきなり詰め寄って来たリーネに、少々焦るシャーリー。
「リーネさん、少し落ち着きなさいな」
 ペリーヌはハーブティーをリーネに飲ませた。
 ぐいっと一気に呷ると、ふう、と一息つく。途端にリーネの思考が更に加速する。
「他の手段としては、私が芳佳ちゃんの故郷の扶桑に、嫁入りと言うか事実婚と言う事もアリだと思うんです」
「ヤケに積極的だなー、リーネは」
「それ以前にリーネさん、宮藤さんの言葉が本当かどうか確かめなくてもよろしくて?」
「芳佳ちゃんは、有言実行のウィッチなんです!」
「言い切ったよ」
「でもあれは寝言って話じゃ……」
「私、今日を最高の日にしてみせます!」
「……何だか最悪の日になりそうな気がしますわ」
「リーネも一途だなあ」
「とりあえずの心配は……私、扶桑の料理で食べられないモノが幾つか有るんですけど」
「えっ心配するとこ、そこだけ?」
「ブリタニア人にも食べられないモノって有るんだね〜あたし知らなかった」
「ルッキーニちゃん酷い! お茶とお菓子には自信有りますから!」
「そこ自慢してどうするの」
 厨房に近付く足音。そのリズムを聞いたシャーリーはにやけた。
「……お? 話をすれば、ご本人様の登場だぞ」
「えっ? そんな、まだ心の準備が」
「あんだけ色々考えてたのに準備出来てなかったのか」
「大丈夫ですの、リーネさん?」
「じゃあ、あたし芳佳見に行く〜」
「ルッキーニ、宮藤にいきなり変な事するなよ? ……ま、あたしも見に行ってみるか」
「ちょっと二人共……で、リーネさん?」
「だだだだ大丈夫です。ももっ問題ないですから」
「そんなに緊張して何処が大丈夫なんですの」
 心配するペリーヌ。
 ひとり興奮と緊張が入り交じるリーネをよそに、やって来た芳佳をはやしたてるシャーリーとルッキーニ。

 リーネはごくりと、唾を飲み込んだ。

end

68 名前:名無しさん:2011/12/31(土) 00:56:16 ID:5PMTp8hw
以上です。
リーネちゃんはいざとなったら
一途な感じだと思うので……如何でしょう。

皆様、改めて良いお年を!
ではまた〜。

69 名前:名無しさん:2011/12/31(土) 10:49:47 ID:OL1M/9IM
>>68

GJです

皆さんよいお年を!

70 名前:<削除>:<削除>
<削除>

71 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/01/12(木) 00:07:10 ID:LufrtY86
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
またまた思い付いたネタ? をひとつ。
>>67「happy dream II」の続きを
ちょこっと書いてみました。
ではどうぞ。

72 名前:happy dream III:2012/01/12(木) 00:07:54 ID:LufrtY86
「リーネちゃんは私の嫁だから!」

「……ってお前ホントに言ったのカー?」
 エイラはにやけ半分呆れ半分の顔で芳佳を見た。
「はい、言った様な……シャーリーさん達に聞かれちゃったし」
 申し訳なさそうな顔で、ちらっとお騒がせな二人組を見る。
「あたしらは、ちゃんと、はっきりと聞いたぞ!? なあルッキーニ」
「ンニャンニャ シャーリーといっしょに聞いた聞いたー」
「芳佳ちゃん、実は、シャーリーさんとルッキーニちゃんの悪戯じゃなくて?」
 サーニャの問い掛けに、名指しされた二人は言いがかりだー、とぶーたれる。
「ま、こればっかりは宮藤さんに責任を取って貰うしか無いですわね」
 ペリーヌが突き放す。
「ああもう、みんな私が悪いんです!」
 錯乱気味に頭を抱えて叫ぶ芳佳。
「落ち着いて芳佳ちゃん」
 連れ添う妻の如く、芳佳を支えるリーネ。
「で? 言った以上は……、って話だったよナ」
 エイラは慣れた手つきでタロットカードをシャッフルし始めた。
「あの、エイラさん、何か占ってくれるんですか……?」
「宮藤が現在絶賛大ピンチ中だからナー。占ってやる代わりに、今度掃除当番か洗濯当番変わってクレ」
「ええ、酷い、なんか押し売りみたい」
「誰が押し売りダッテ?」
「いえ何でも……」
「じゃあ、占うゾ」
 エイラはカードを丁寧に一枚めくって、じっと凝視する。
「どうなんです? 私」
「おっ……」
「はい?」
 絶句したエイラに近付いた芳佳を振り払うエイラ。
「こら宮藤、覗き込むナ。お前の邪念が入ってくるダロ」
「ええっ? そういうもんなんですか?」
「そもそも、宮藤溜まり過ぎダロ。リーネの胸ばっかりって出てるゾ」
「えええ!? 私そんな邪な事は」
「じゃあその手は何ダ」
 部屋に居た全員が芳佳の手に注目する。今まさにリーネに寄り掛かったついでに、撓わに熟れた二つの乳房に顔を埋め指を……
「ちょっ、芳佳ちゃん!」
「宮藤お前大胆だなー」
「芳佳だいたーん」
 シャーリーとルッキーニが今更の様にびっくりした顔を作る。
「ちっ違うんです、これは」
「呆れたこと」
 ペリーヌがつまらなそうに髪をかき上げる。
「でも芳佳ちゃんとリーネさんはスキンシップ多くて良いな……エイラは、私に何も」
「えっ!?」
 サーニャの爆弾発言を聞き、一斉にエイラを見る。ぎくりとしたエイラは思わずタロットを一枚落とす。
「あれ? 何か、吊された人の描かれたカードが」
「ウワアアアア! 見るな馬鹿ッ!」
 そっと拾い上げた芳佳からタロットを引ったくると、エイラは顔を真っ赤にして無言でサーニャの腕を取り、部屋から出て行った。
「あの、エイラさん……」
「そっとしておいてやれ」
 何かを悟った顔で芳佳に呟くシャーリー。
「はあ」
「それでね、芳佳ちゃん」
「うん、どうしたのリーネちゃん?」
「芳佳ちゃん、私の家に住む? それとも私が芳佳ちゃんの故郷の扶桑に行った方が良い? あとはシャーリーさんの国に行って合法的に式を挙げる方法も有るって聞いたけど」
「リーネちゃん、話飛躍してない?」
「大丈夫、家族なら私が説得するから」
「そうじゃなくてね」
「私、芳佳ちゃんの為にも頑張る!」
「えっ……」
 絶句する芳佳。
 ペリーヌはこれ以上付き合いきれぬとばかりに、ふうと溜め息ひとつ付くと部屋から出て行った。
「あの……」
 助けを求め周りを見渡す。いつの間に移動したのか、シャーリーとルッキーニは部屋の扉からそっと様子を伺っている。
「シャーリーさん、ルッキーニちゃん、どうして逃げるの!?」
「二人を邪魔しちゃ悪いからな」
「ナー! ニヒヒ」
「ま、頑張りなよ」
 シャーリーは遠い目をして、ルッキーニを連れて部屋から去った。
「ねえ芳佳ちゃん聞いてる? この戦いが終わったら、私達、結婚するんだから、今からきちんと決めておかないと」
「リーネちゃん話を聞いて」
 芳佳はリーネの肩をがしっと掴んだ。
「芳佳ちゃん、まだ話の途中なのに、大胆……」
「そうじゃなくてね」

end

73 名前:名無しさん:2012/01/12(木) 00:08:09 ID:LufrtY86
以上です。
リーネちゃんは思い込んだら(ry

ではまた〜。

74 名前:名無しさん:2012/01/14(土) 21:22:31 ID:4I71nx.o
リーネ凄く可愛いです!

75 名前:名無しさん:2012/01/14(土) 21:23:05 ID:4I71nx.o
リーネ凄く可愛いです!

76 名前:名無しさん:2012/02/01(水) 01:27:17 ID:AGsiFfZE
リーネチャンハカワイイデスヨ?

77 名前:名無しさん:2012/02/03(金) 22:24:20 ID:mKLHP6oY
こんばんわ、はじめてで変なところもあるですが、できれば見てください。エイラーニャです。

78 名前:名無しさん:2012/02/03(金) 22:25:14 ID:f/8D.2SA
夜間懲戒を終えて疲れた私はストライカーユニットを脱ぎ、今夜の報告を済ませて、ふらふらとエイラの部屋に向かった、早くエイラに会いたい、そう思い少し早足で廊下を歩いた、エイラは私がいつも間違えて部屋に来ていると思っているみたいだけど、本当はただエイラと一緒に寝たいだけで、大好きなエイラの部屋を間違えるわけ無いのに、いつもエイラは「今日だけダカンナー」と私の気持ちに気づいてくれない、エイラは本当に鈍感で困っている・・・ん、エイラの部屋についた、着ていた軍服を脱ぎ捨て、気持ちよさそうに寝ているエイラの横に飛び込んだ、すると「サ、サーニャ!?」という大好きなひとの声が聞こえてきたので、眠るのを少し我慢するのだった。

79 名前:名無しさん:2012/02/03(金) 23:23:25 ID:mKLHP6oY
私が部屋で寝ていると、ボフッ!っと横から音がした、びっくりして横を見るとそこには・・・               「サ、サーニャ!?」                                                また夜間懲戒の後に間違えて私の部屋に来たみたいだな、やっばり間違いだったとしても自分の好きな人が自分の部屋に来てくれるのは嬉しい、ちょっとご機嫌な私はとりあえずサーニャの制服を畳みに起き上がる。                   「今日だけダカンナー」                                               もちろん今日だけじゃなくって、明日も明後日も一年間365日サーニャには来てほしいが、これはもう口癖なのでどうしようもない、べつに言っても言わなくてもサーニャは寝ているから意味は無いんだけどな。さてサーニャの服も畳んだし、私も寝よう、とサーニャの横に潜り込む、・・・やっぱりサーニャは可愛いなと思い、普段なら絶対恥ずかしくて言えないことを、いつか本人に伝えるための練習として、寝ているサーニャに向かって言ってみることにした。

80 名前:名無しさん:2012/02/04(土) 00:18:16 ID:lvqzVTIk
「サーニャは可愛い」
私は自分の耳を疑った、え?エイラは今なんて言ったの?私の服を畳んでくれたエイラは、戻ってくるなり爆弾発言を落としてきた。
「サーニャはふわふわな髪やエメラルドの瞳がとても可愛らしい」
理解の追いつかない私にさらなる追撃、訳が分からないということもあるが、何より大好きなエイラが私に可愛いと言ってくれたことに戸惑っていた。
「サーニャは恥ずかしがり屋だけど一生懸命頑張ってみんなと仲良くなろうとしているところが可愛い」
もはや小パニックだった、私の日頃の頑張りを見ていてくれたことの感動もあったが、なにより可愛いと言われるのが嬉しすぎて、思わず声が出るかと思った。
「サーニャは歌声がすっごく可愛い」
もうだめ、何が何だかさっばり分からないけど、エイラが私のことを可愛い可愛いと言ってくれてるってことが嬉しすぎて死んでしまいそう、・・・なんでエイラは私に可愛い可愛いって言うのだろう?・・・分かっていることはきっとエイラは私が眠っていると思っているんだということ、多分私が起きていると知ったら気まずい空気になるだろう、よし!今日はなにを言われても動揺せずに、さりげなく明日聞いてみよう、と決意を固めた。

81 名前:名無しさん:2012/02/04(土) 01:14:30 ID:lvqzVTIk
「私はサーニャのことが大好きデス」
「ふ、ふぇ?」
あっ、と口を押さえたが、時すでに遅し、エイラと目が合ってしまった。
「サ、サ、サァ、ニ、ヤ?」
もの凄く顔を赤くして、口をぱくぱくさせているエイラ、きっと私の顔も真っ赤だろう。
「サーニャ、えと、いつからお、起きてタンダ?」
「・・・・・ずっと起きてた、よ」
「最初からジャナイカヨ!」
頭を抱えて悶えるエイラ、涙目になってくねくね動いている、すると今にも泣きそうな顔で私の顔を見た。
「頼むから全部忘れてクレー!」
恥ずかしいのだろう、プルプルと震えている、だけど・・・
「いや、忘れないもん」
「!?な、なんでだよ、サーニャァ・・・」
「だって・・・嬉しかったんだもん」
「ふ、ふぇ?」
エイラが目をぱちくりさせているが構わず続ける。
「か、かたちはちょっと変かもしれないけど、エイラが私に、だ、大好きって、言ってくれて嬉しかった」
「サ、サーニャ・・・」
「私も、そ、その、エ、エイラのことが・・・、大好きだから!!」
「!わ、わたしもサーニャのことが好きだ!大好きだ!!!」
「エイラ・・・」
「サーニャ・・・」
そして私達は唇を重ねた。

82 名前:名無しさん:2012/02/04(土) 01:33:53 ID:lvqzVTIk
後日談、私とエイラは付き合うことになり、みんなに発表したところ、「え!?いままでは違ったの!?」と言われました。
エイラにもっともっと甘えたいけれど、顔をすぐに真っ赤にしちゃって、実はあの時以来キスもさせてもらえない、・・・まぁでも私達は私達のペースで少しずつ、ゆっくりと私達の道を進んでいこう、あなたとならどこにだって行ける気がするからもっと沢山思い出を作ろうね。
「ね、エイラ」
おわり

83 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/02/06(月) 00:10:14 ID:Nj4b4bOw
>>82
GJです! 初々しいエイラーニャ、良いですね。


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
>>72「happy dream III」の続きを
ちょこっと書いてみました。
ややエロスな部分がありますが……
ではどうぞ。

84 名前:rhythm red beat black 01/02:2012/02/06(月) 00:12:29 ID:Nj4b4bOw
 二段ベッドの上段で、並んで寝転び微睡む二人。一緒の毛布にくるまりながら、肌でお互いを感じ合う。
「ねえ芳佳ちゃん。私達、結婚はいつするの?」
「結婚……そもそも出来るのかな?」
 少し眠たげ、でも、そんなたわいもない話をひそひそと続ける。
「出来るってシャーリーさん言ってたし。出来なくても、私達二人っきりで。ね?」
「う、うん」
 リーネから妙に圧されて困惑気味の芳佳。
「だから、芳佳ちゃんは私のお嫁さんなの。それとも私が芳佳ちゃんのお嫁さん?」
「わ、私どっちでも」
「そう言えば言ってたよね、芳佳ちゃん。私の事お嫁さんだって」
 くすっと笑うリーネ。胸に視線が行き、そしてしっとりとして艶やかな唇に釘付けになる。
 はっ、と我に返る芳佳。慌てて顔をふるふると振り、誤解だとアピールする。
「あ、あれは寝言で」
「どんな夢見てたの?」
「それは」
「ねえ、どんな? 聞かせて、芳佳ちゃん」
 リーネは天然かそれとも故意か、ぐいっと芳佳に胸を当ててきた。
 501でも一、二を争う熟れた果実。芳佳の大好物。びくりと手が動きかけるも、必死に押し留める。
 これは邪念。だから、絶対に手を出しちゃ駄目。芳佳は心の中で反芻する。
 しかし、僅かに残った理性も、リーネの潤んだ瞳を見るうちに、融解した。

 欲しい。
 リーネちゃんのすべてを。

「あ、あのね、リーネちゃん」
 うわずる声で、目の前のブリタニア娘を呼ぶ。
「なぁに、芳佳ちゃん?」
「その……欲しい」
「え?」
「リーネちゃんが、欲しい」
「良いよ」
「本当? 全部、欲しい」
「うん。良いけど」
「けど?」
「ちゃんとお嫁さんに貰ってね?」
「貰う。貰うから」
 子犬の様に、浅く粗い吐息で、リーネに向かう芳佳。いつしか耳と尻尾も生えて……
我を忘れて、リーネの唇を舐りながら、同時に片手でパジャマを脱がす。
「んっ……芳佳ちゃん……」
「リーネちゃん……リーネちゃん……」
 囁き合いながら、お互いの身体を感じ、味わう。じんわりと汗で湿った肌に、舌を這わせ、柔らかな乳房を指先で感じ、
乳首を玩び、ちゅっと吸う。ひゃん、とリーネが恥じらうも芳佳は理性ここにあらずと言った表情で、まさにケダモノの如く、
リーネの身体に絡み付く。
 リーネも負けじと芳佳のパジャマを剥ぎ、ズボンの上からそっと手を入れ、熱く湿り気を帯びた敏感な場所に指先を入れる。
 びくりと身体を震わせる芳佳。
「ずるい、ずるいよ、リーネちゃん」
「やあっ、だって、芳佳ちゃんだって、私の胸」
「リーネちゃん、私のもの。全部」
 既に言語もあやふやになりかけていた。芳佳は目の前にあるリーネの全てを貰い受けようと、身体の至る所に舌を這わせ、
乳房を絞る様に、時に優しく褒める様に撫でる。芳佳の執拗な攻撃に、リーネは大きな胸をぶるっと震わせ、ううっ、と呻く。
そしてしばし身体を痙攣させる。何かを必死にこらえる表情を見て、芳佳はますますリーネを虐めたくなった。

 もっと。もっと。

85 名前:rhythm red beat black 02/02:2012/02/06(月) 00:12:57 ID:Nj4b4bOw
 乳房のあちこちに吸い口を付け、舐り、揉み、快楽の恍惚を共感へと換算する。もう一度、リーネと顔を合わせて、
ゆっくりと深くキスを交わす。
 リーネも負けず嫌い。芳佳の弱い所を知っている。芳佳と同じ様に身体を身体で押さえ込むと、芳佳の前から、そして背後から、
敏感な部分に指を入れ、そっとかき混ぜ、弄り、芳佳に甚大な興奮を与える。
 さながら空戦で言う巴戦の如く、もしくは蛇の受胎の如く、二人はベッドの上で絡み合い、平等に刺激を与え合い、昇華させる。
心の鼓動は早まり、息もより熱く荒くなり、お互いの吐息と汗の匂いを感じ取ると、更に高みへと昇る。
 次第に早まるペース。
「あっ……んあっ、芳佳ちゃん、芳佳ちゃん」
「んうっ、リーネちゃん、リーネちゃん、私、もうっ」

 二人の絶頂スイッチは同時に入った。絡み合ったまま、二人は秘めたる部分をお互い合わせ、がくがくと全身を震わせた。
ズボンはじっとりと濡れ、微かに雫が糸を引く。
 荒い息のまま、芳佳とリーネはお互いの名を虚ろに呼び合いながら、抱き合ったまま、眠りへと落ちていく。
 芳佳のパジャマははだけ、リーネのおさげは解け……素肌を合わせたまま、二人は束の間の快楽から休息へと向かう。
その先に見る夢は二人だけの秘密。

 リーネの解けた髪が、汗ばむ芳佳の腕に絡む。まるで得物を逃がさない魔法の糸の如く。
 薄目を開けて、浅い眠りに落ちた芳佳をそっと撫で、口吻する。
「私だけの、芳佳ちゃん」
 もう一箇所、はっきりと分かる場所にきつく吸い口を付ける。
「そう、私だけの、芳佳ちゃん。誰にも渡さない……」
 リーネは澱んだ瞳で微笑み、そのまま微睡んでいった。


「五月蠅くって眠れませんわ……」
 ベッドの下で、ぐぬぬと毛布の端を噛んで堪えるペリーヌ。
 いい加減一人で寝たいと思うも、リーネの事を考えると言い出しにくい事だった。

end

86 名前:名無しさん:2012/02/06(月) 00:13:14 ID:Nj4b4bOw
以上です。
リーネちゃんはいざとなったら独占欲が強いというか
もっと怖いと言うかそんな感じで……。

ではまた〜。

87 名前:LGA774:2012/02/25(土) 06:49:56 ID:mKePCBbQ
楽しめました

88 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/03/17(土) 07:00:55 ID:n8vRSAfc

>>78 mKLHP6oY様
GJです。サーニャに真摯に想いを伝えるエイラが素敵です。

>>83 mxTTnzhm様
GJです。甘々エロスなリーネ、堪能させてもらいました。

おはようございます。映画を観に行く前に芳リーネを1本、投下していきます。
では、どうぞ

89 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/03/17(土) 07:02:28 ID:n8vRSAfc

【Breakfast Love】

「芳佳ちゃん、サラダの盛りつけ終わったよ」
「ありがとう、リーネちゃん」

――日差しが燦燦と差し込む501基地の朝のキッチン。
芳佳とリーネがいつものように、朝食作りに励んでいた。
「ねぇ芳佳ちゃん、今は何を作ってるの?」
サラダを盛り付けたお皿をテーブルに並べ終わったリーネが、芳佳のほうを見て覗き込むように訊ねる。
「キャベツのお味噌汁だよ。サラダで余っちゃったキャベツを全部使おうと思って」
「わぁ、良い香り」
鍋から漂ってくる味噌汁の良い匂いがリーネの食欲をそそる。
芳佳が作ってくれるまで口にしたことのないスープだったが、今までに飲んだどのスープとも違うコクのある味わいが気に入り、リーネはすっかり味噌汁の虜となっていた。
「美味しそうだなぁ。ねぇ、何か手伝うことはある?」
「大丈夫。あとはキャベツを入れるだけだから」
そう言って芳佳は、キャベツをサクサクと手際よく切っていく。
そんな芳佳のことをリーネは、お菓子を待つ子供のようにじっと見つめる。
「どうかした、リーネちゃん?」
リーネの視線に気づいた芳佳が優しく問いかける。
「あっ、うん。芳佳ちゃんって指綺麗だなぁって思って……」
「へ? な、何言ってるのリーネちゃん!? 痛っ」
リーネの予想外の言葉に動揺した芳佳は、誤って自分の親指を軽く切ってしまった。
「よ、芳佳ちゃん! 大丈夫!?」
リーネは咄嗟に芳佳の親指を咥えて、傷口を吸う。
「わわっ、リ、リーネちゃん!?」
いきなり指を褒められたり、咥えられたりして顔をりんごのように真っ赤にする芳佳。
少しして、ある事に気づいた芳佳は顔を赤らめたまま、リーネに声をかける。
「あの……リーネちゃん?」
「にゃに? 芳佳ひゃん」
芳佳の指を咥えているので、呂律が回らないリーネ。
「もう離していいよ。そこに絆創膏あるから……」
台所に常備されている小さな救急箱を見ながら芳佳が言う。
万が一の時にミーナが用意してくれたものだ。
「あ、ごめん……」
リーネは慌てて芳佳の指から口を離す。
彼女の顔も芳佳と同じくらい真っ赤になっていた。

90 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/03/17(土) 07:02:54 ID:n8vRSAfc

「へへ、でも嬉しかったよ」
絆創膏を貼り終えた芳佳が、リーネの手をとって微笑む。
「え?」
「ほら、私っていつも治療する側だからこうやって誰かに手当てしてもらう事、あんまりなかったし……」
「手当てって……私、指咥えただけだよ」
「それだって立派な手当てだよ。だって、リーネちゃんは私の出血を早く止めたくて、指を咥えてくれたんでしょ?
恥ずかしかったけど……ありがとう」
「芳佳ちゃん……」
「それから、さっき私の指が綺麗だって言ってくれたけどリーネちゃんの指のほうがずっと綺麗だよ」
「え? そんなことないよ! 芳佳ちゃんの指のほうが綺麗だって」

「あ〜。お2人さん、イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、朝食はまだかな? 腹減っちゃってさ……」
シャーリーを初め、501の隊員たちが次々と食堂にやって来る。
みんなが来たことで芳佳とリーネはようやく、自分達の世界から抜け出すことができた。
「わっ、ご、ごめんなさい! すぐ用意しま〜す」
「全く、キッチンはイチャイチャする場所じゃなくってよ」
慌てて朝食の準備に戻る芳佳たちを見て、ペリーヌが呆れるように呟いた。

――そして、朝食の時間……

「はい。芳佳ちゃん、あ〜んして」
「ええ!? 私、自分で食べれるよ」
「遠慮しないで。芳佳ちゃんが怪我したのって私のせいでもあるんだし、今日は私が芳佳ちゃんの腕の代わりになるって決めたんだから」
「で、でも……怪我したの左手の親指だけだから……」
「いいからいいから。はい、あ〜ん」
「う、うん。あ、あ〜ん……」
最初は周りの目を気にして乗り気ではなかった芳佳も、リーネの可愛らしい仕草と表情には敵わず、口をあーんと開けてリーネが差し出したサラダを食べる。
「うん……リーネちゃんのサラダ、とっても美味しいよ」
「ふふっ、ありがと」

「なぁ、ペリーヌ」
「何かしら、シャーリーさん」
「なんか、朝から熱くないか?」
「そ、そうですわね。特に真正面が……」
芳佳とリーネの席と向かい合う形で座っているシャーリーとペリーヌは、朝から甘過ぎる2人を見せつけられてすでにお腹いっぱいの気分だ。
そんな2人を尻目に芳佳たちは尚も、イチャイチャを続ける。

「ねぇ、今度は私があ〜んしていい?」
「えっ、いいの?」
「うん。リーネちゃん、あ〜んして」
「あ〜ん……うん、芳佳ちゃんのお味噌汁も美味しいよ」
「えへへ、ありがと」

「……なるべく視界に入れないようにしよう」
「そうですわね。それが懸命ですわ」
他の隊員たちもシャーリー達と同様に、2人の好きなようにさせることに決めたらしく、みんな特に芳佳たちを注意することなく自分たちの食事を続けた。
その後2人は、昼食と夕食も同じようにあーんして食べさせあうのだが、それはまた別のお話。

〜Fin〜

―――――――
以上です。スクリーンでウィッチ達がどのように動くか楽しみです。
では、また

91 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/03/17(土) 22:00:31 ID:K9j6mSeQ
>>89-90 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! 芳リーネ最高です!これはお腹いっぱい!


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
映画初日と言う事で、ひとつ書いてみました。

映画はまだ見ていませんが某所での情報を元にしましたので
間違い等有ったらごめんなさい。
微妙にネタバレ気味ですが映画本筋とは関係無いと思うので……。

ではどうぞ。

92 名前:go my way:2012/03/17(土) 22:00:57 ID:K9j6mSeQ
 食堂で二人並んで座り、朝食を取るリベリアンコンビ。
「ねえ大将」
「なんだ、ジェーン」
 ドミニカは気怠そうにパンをもぐもぐと噛み、飲み込む。スープを一口飲んだところで、
横でマグカップを持っていたジェーンがかっと前を見、まくし立てた。
「どうしてあの三変人だけ出て、私達出てないんですか? 酷い事に、他誰も出てないんですよ?」
「ん? 何の話だ」
「何の話って……大将」
 はあ、と大きく溜め息をついたジェーンは、マグカップをだんとテーブルに置き、ドミニカの顔をじっと見た。
「私達、もしかしたら銀幕デビューかも、とか思ったじゃないですか。そうしたらこの扱いですよ! 
パティさんもアンジーさんも、おかしいと思いませんか?」
「いや、私は別に……」
「わりとどうでもいい」
 話を振られたパティとアンジーは、少々戸惑いつつも割と素っ気なく返した。
「他人に気を遣わせるな」
 ジェーンの脇をつつくドミニカ。
「でも、大将」
 ドミニカは一足先に食事を終えると、薄めに淹れたコーヒーで一息つきつつ、ジェーンに言葉を投げかける。
「ジェーン、501が羨ましいか?」
「えっ?」
「他のウィッチ達が羨ましいか?」
「えっ、いえ、そんな、事は……」
 答えに困るジェーンを見て、微かに笑みを見せるドミニカ。
「501には、いつぞやの借りがある。それに、奴らは奴らで頑張っている。ブリタニア、ロマーニャ、そして……」
「ええ」
「数ある統合戦闘航空団の中でも、彼女達は戦歴もトップクラスだ。そりゃ色々有るだろうさ。やむを得まい」
「だけど」
「まだ何か有るのか?」
「違うんです。羨むとか、そう言うんじゃないんです、大将」
「じゃあ何だ」
「せっかく、出られると思ったのに……」
 ぽつりと言葉を絞り出すジェーン。
 目に涙が溜まる。
「せっかく、504のみんなで出られると思ったのに……思ったのに……」
 目をごしごしこすり、ぐすっとなりかけたジェーンを見る。意図を察したドミニカは、彼女の肩をそっと抱いた。
「言いたい事は分かる。……そうだな、そのうち、私達も何か機会が有ると良いな」
「はい」
「実を言うとな、ジェーン。本当は出ても出なくても、私としてはどうでも良かったんだ」
「えっ!? 何で?」
「決まってるじゃないか。お前と一緒に居られれば、それが何処であろうと構わない。ただ、それだけだ」
 ドミニカはそう言うと、ジェーンの頬に軽くキスをした。
「や、やだ大将! そうやって話はぐらかさないで下さい!」
「慰めだ。さ、行くぞ」
 ジェーンは少々の食べ残しも構わず、席を立つとドミニカと一緒に食堂を出て行った。
ミーティングルームではなく何故か寝室に向かったのが気になるが……。
 そんな二人の熱々っぷりをたっぷり見せつけられ、言葉と食欲を失うウィッチがふたり。
「ねえ、アンジー」
 パティがアンジーの顔を見る。振り向くアンジー。
「ん?」
「どう思う?」
「ジェーンが言ってた、例の銀幕がどうこうとか?」
「違くて。さっきのおしどり夫婦っぷり……」
「わりとどうでもいい」
 本日二回目の投げやりな言葉を聞いたパティは、はふうと悲しげに肩を落とした。
「ん? どうした?」
「アンジーのバカ。私も、しちゃうよ?」
「えっ? ちょっ、それっとどういう……」
 パティにずいと迫られ、どきりとした拍子にスプーンを手から落としてしまう。
 からん、とスプーンの音がするのと、パティの唇が触れたのはほぼ同時。

「ん〜、ウチは皆元気でいいわね〜」
 フェデリカは気付かれない様に、そっと食堂を後にして、ふふ〜ん、と鼻歌交じりに呟いた。

end

93 名前:名無しさん:2012/03/17(土) 22:01:12 ID:K9j6mSeQ
以上です。
いつか504、そして502や506と言った魅力的なJFWが
映像化もしくはメディア化されると良いですね。

ではまた〜。

94 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:52:20 ID:1ZJbfS7w
はじめまして
初SSですがよろしくおねがいします
エイラーニャです

95 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:53:00 ID:1ZJbfS7w
オラーシャなどの寒冷国ではウォッカなどのアルコール度数の高い酒が好まれている。
成人だけの飲み物というわけではなく若者たちにも人気が高く国民的な飲料として広く浸透している。
それは連合軍第501統合戦闘航空団に所属するオラーシャ出身の無口な少女も例外ではなかった。
サーニャ・V・リトヴャク中尉は夜間哨戒から帰った後にウォッカを飲むことが習慣になっている。アルコールでぽかぽかとした状態で気持ちよく眠りに就くのだ。
ナイトウィッチにとっての睡眠は非常に重要な事なので寝ることに彼女は妥協しない。
そもそもの飲酒の始まりの原因は本国からの支援物資の中には毎回ウォッカが詰められていたからなのだが。
今回はどんなのが送られてきたのかな?
そんなことを考えながら送られてきた物資をチェックするのが彼女は好きだった。
というわけで今朝も彼女のお楽しみの時間が始まる。
棚からグラスを取り出してベッド横の机に酒瓶と並ぶように置き自身もベッドに腰掛ける。
あとはグラスに注いで一人で晩酌(朝だが)をするだけなのだが……生憎瓶は空っぽになっていた。
そういえば切れてたんだった、そんなことを半分寝ている頭で思考しながら部屋の隅に置かれた木箱から新しい瓶を取り出す。
その瓶には緑の字で『SPIRYTUS REKTYFIKOWANY』と書かれているのに、可憐な乙女気付くことはなかったが……。

96 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:53:25 ID:1ZJbfS7w
時と場所は変わって朝の食堂。
サーニャを除いた501メンバー全員が集まり朝食を摂っていた、ちなみにメニューは宮藤がロマーニャの市場で買ったスズキを塩焼きにしたシンプルな焼き魚と味噌汁だ。
「やはり扶桑料理は心に染みるな、宮藤!おかわりだ!」
「はい、どうぞ。みなさんもたくさんあるので遠慮せずに食べてくださいね!」
自分の料理を褒められた宮藤は嬉しそうにご飯をよそって坂本に手渡す。
「あれ?エイラさん、サーニャちゃんはどうしたんですか?」
「なに言ってんだオマエ?サーニャは夜間哨戒だったから今は寝てるゾ」
「え!!私うっかりサーニャちゃんの分まで作っちゃいました!!」
「よぉし!それなら私がもらおう!」
坂本がサーニャの分の料理を頂こうと手を伸ばしたその時、食堂のドアが開いた。
噂をすればなんとやら、開いたドアから出てきたのはサーニャ本人だった、パジャマ姿でしかも見るからにアルコールに冒されてはいたが。ちゃんとサーニャだった。
「よおサーニャ!おはよう!」
身なりについては敢えて触れずいつも通りの挨拶を投げかけてみるシャーリー。
「………」
サーニャは何も答えずにエイラの席まで歩いて行き彼女の手を握って席を立たせた。
「オ、オイサーニャ!?一体何のつもりダ!?」
愛しのサーニャに突然手を握られあたふたしながらエイラは問いを投げるがサーニャは何も言わずに食堂からエイラを引っ張って出て行ってしまった。
「どうしたんだろね〜、サーニャん」
エーリカ・ハルトマンはニヒヒとまさしく悪魔のような笑みを浮かべて”私は何もしてませんよ”的なオーラを出しながら朝食を終えた。

97 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:54:13 ID:1ZJbfS7w
サーニャの部屋

部屋に入るなりサーニャはエイラ共々ベッドに倒れ込み、サーニャの両腕を掴んで身動き出来ないようにした。
「サ、サーニャ?どどどどどうしたンダ……?」
突然押し倒されたエイラはひどく動揺しながらもいつもとは違うサーニャの異変を感じ取っていた。
(さ、サーニャの息が凄く酒臭いゾ!?いつもとは違う酒を飲んだノカ!?)
「エイラ…可愛い」
(サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!! サーニャが私のことをカワイイって言ッタ!!)
サーニャがアルコールに支配されているのは理解できたがサーニャに押し倒されているという状況のせいで気が動転して「あぅ…ぅぅ///」だとか「さ、さーにゃ…//」だとか「うぅ…ァ///」としか言葉を発せなくなってしまうエイラ。
そんな彼女を見て優しく艶美な笑みをサーニャは顔に浮かべる。
そしてサーニャはパニック状態のエイラに顔を近づけ……唇を重ねた。エイラはさらなるパニックに襲われ体が強張ってしまうのが分かったが、嫌な心地はしなかった。
サーニャはお構いなしにエイラの唇をこじ開け舌を口内に侵入させエイラの口内を蹂躙した。サーニャのキスはアルコールの香りがした。
熱いキスを交わしながら(サーニャの一方的な攻めだが)、サーニャは自らの手をエイラのズボンの中へと……。
「サ、サーニャ!!ストップ!ストップダ!」
ぎりぎりの所でエイラが叫んでサーニャを止めた、サーニャは不思議そうな顔をして
どうしたの、もっとイイことをしましょう、といった目でエイラを見つめた。
「サーニャ!私はサーニャが好きダ!大好きダ!付き合ってクダサイ!!」
彼女が今まで生きてきた内で一番勇気を振り絞った行動だった。エイラは真っ赤になり目をぎゅっとつぶってサーニャの反応を待っていたが……
数秒間の間が空いたあとサーニャがパタリとエイラの上に倒れ落ちた。
「やっと、言ってくれた……、ずっと待ってたのよ?エイラが『好き』って言ってくれるのを……」
かすれたような涙声でエイラを抱きしめるサーニャ。否、すでに彼女はエイラの長髪に顔を埋め子供の如く泣いていた。
一方のエイラは突然押し倒されてキスされるわ思い切って告白してみたら抱きついてくるわで何が起こっているのやら未だによく分からない。
サーニャが酒に飲まれたノカ?酒って怖イナ……。
冷静に今回の一事の感想を脳に浮かべていたエイラだったが不意にサーニャが起き上がり、エイラの目を見つめ返してきた。
うェ、まさかまたじゃないだろウナ……。
先程までのサーニャを思い出し少しギクリとするエイラにサーニャは天使のように言った。
「私もエイラが好き。エイラ、大好き」
「わわわわわ私も好きダゾ!!大好きダゾ!!」
「じゃあ、続きをしましょう?」
ニコッと天使のような微笑みを浮かべながらサーニャは再びエイラのズボンへ向け手を伸ばそうとする。
「ストップ!!ストップ!!サーニャ!!!」
エイラは再びサーニャの手を止めさせて言い放った。
「そそそそういうのはまだ早いと思うナ!!ああああ後2,3年経ってからにしヨウ!!それがイイ!!」
サーニャは思ったよりも幾分か外れた答えに一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になってエイラに抱きついた。
「じゃあ、それまで我慢するわ」
「そそそうダナ、それがイイ。ウン」
「でも、キスなら問題ないでしょう?」
「あゥ、ウン……キスなら…大丈夫ダ、問題ナイ」
二人は互いの思いを確かめるように優しくキスをした。今の二人にとってはそれだけで十二分に幸せだった。

98 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:55:06 ID:1ZJbfS7w
サーニャの部屋の外

「ちぇ〜、せっかくビデオ回してんのにィ〜これじゃあ面白くないよー!!」
悪態を吐くのは”黒い悪魔”ことエーリカ・ハルトマン。
二人の思い出を記録に残してやろう、という”親切”でサーニャの部屋の酒をすり替えたのだが、これではちっとも面白くない。いや、ちょっとは面白いけどわざわざ妹から最新のカメラを送って貰ったのにこれでは期待はずれだ。
あのヘタレめ、勇気を出す方向が違うわ!!とレンズの中のエイラを睨みつけるが残念ながらその思いは本人には届かない。
「あーあ、虚しくなってきちゃった、もっかい寝よ」
これ以上張っても事は進展しないだろう、そう決めてハルトマンは自室へ向けて歩き出した。
「今度は少佐に飲ませてみよっかな〜♪」
キューピッドのような悪魔のイタズラは更に加速する。

END

99 名前:名無しさん:2012/04/05(木) 14:57:32 ID:1ZJbfS7w
以上です
文章なんて学校の作文以来なので読みづらいところがあると思いますが時間つぶしにでもなれば幸いです
スレ汚し失礼しました

100 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/04/09(月) 02:09:26 ID:.hO4Sqa6
>>99
GJです。小悪魔というか悪魔的なエーリカが恐ろしいですw


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
>>21-24 「trude in the nightmare」の続きが出来ましたので
早速投下します。
ではどうぞ。

101 名前:girl next door 01/02:2012/04/09(月) 02:11:43 ID:.hO4Sqa6
 ふと夜中に目が覚め、扉を開け放った時……
 扉を抜けた先が、今居る世界とはまるで別の「セカイ」だったら?
 アナタならどうする?

 エーリカがぼそっと呟いた時、横に居たトゥルーデは血相を変えた。
「おい馬鹿やめろ」
 先日の、謎の件を思い出して寒気を覚えるトゥルーデ。
「でも、もしかしたら、あの“世界”に行く事が有るかも知れないよ?」
「もうゴメンだ。おかしな事に関わるのは」
「それにしては準備万端だよね、トゥルーデ」
 少し呆れてエーリカはトゥルーデを指差した。
 両肩にMG42、パンツァーファウストを担ぎ、ストライカーユニットを両腕に抱え、今から戦いに行くかの様な姿である。
「いや、万が一に、あの妙な所に……」
「ま、とりあえず、扉開けてみたら?」
「おいこら待てエーリカ、押すな! わあ!」
 刹那、眩い光がトゥルーデを包み込む。
 部屋の扉は彼女を飲み込むと、瞬間的に、ばたん、と閉まった。
 ぎょっとするエーリカ。慌てて扉を開けたが、いつもと同じ廊下が見えるだけで、トゥルーデの姿は無かった。

「くそぅエーリカめ、帰ったら説教だ! ええい、敵は何処だ!?」
 以前の惨状を思い出し慌ててストライカーユニットを装着しようとするが、ふと、辺りの情景が気になり、作業の手を止めた。
 視界一面に、菜の花畑が広がる。
 いや、これは菜の花なのか、はてさて秋桜なのかも分からない。とにかく形状し難い、しかし美しい花々。
 そして、さんさんと輝く太陽。陽射しも柔らかく、人影も無い。空気も澄んで柔らかく……戦渦どころではなく、まるで、平和な世界を絵に描いた様な空間。
「お姉ちゃん、なにしてるの?」
 不意に声を掛けられてぎょっとする。
「お、『お姉ちゃん』?」
 その言葉は確かにカールスラント語だった。慌てて振り向く。
 幼い少女が、花束を手にやってくる。後ろに付いて来た数体の物体? は、まるでボウリングのピンを少し大きくした様な、謎のモノ。
 ……何処かで見た様な、いや、こんなサイズではないし錯覚だろうと頭を抱えるトゥルーデ。
「君、ここは何処だ?」
「えっ、ここ? おはなばたけ!」
「いや、確かにそうなんだが……この国の名前とか、分からないかな」
「『くに』? なにそれ」
「あー、分からなければ良いんだ。そうだ、誰か、喧嘩とか、争いとか、してないか?」
「どうしてそんなコトするの?」
 幼女は首を傾げて言った。髪の毛はエーリカの様なブロンド、肌の色はルッキーニに近い褐色、顔つきはどことなくクリスにも似ていたが、それでいて異国情緒を漂わせる不思議な魅力を持っていた。
「お姉ちゃんもおはなかざり作る?」
「え? あ、ああ、うん」
 武器とストライカーユニットを傍らに置くと、花畑の真ん中に座り、幼女と一緒に花を摘み、言われるままに花飾りを作っていく。
「お姉ちゃんじょうず!」
「そ、そうか? はは、有り難う」
 場の空気に呑まれたのか、まんざらでもない感じの『お姉ちゃん』。出来た花飾りを、幼女の頭にぽんと載せる。
「お前にやろう。似合ってるぞ」
「ありがとう! お姉ちゃんもどうぞ!」
「ああ、これは有り難う」
 ちょっと崩れた形の花飾りを、頭に載せて貰う。
「じゃあお姉ちゃん、この子たちにもつくってくれる?」
「えっ」
 ふと辺りを見ると、幼女の後を付いてきた謎の物体……生命体なのか? が、トゥルーデと幼女の周りを囲んでくねくねと動いている。身の丈程もあるが、不思議と、敵意や殺意は感じない。
「なあお嬢ちゃん、こいつらは何て言うんだい?」
「ネフィリムだよ。わたしのともだち」
「な? ……なっ!?」
「どうかした?」
「いや……これは夢だ。そうだ夢に違いない……って、いてててっ服を引っ張るな! こらこら、銃をかじるな、パンツァーファウストを舐めるな、ストライカーは食べ物じゃない! 今花飾りを作ってやるから触るな! ちょっと離れろ!」
 周囲に居た小柄な「ネフィリム」と呼ばれる者共を手で追い払うと、せっせと花飾りを作り、機械作業的にほいほいと頭に掛けてやる。
「うわあ、お姉ちゃんすごい、あっというまにできた!」
「ま、まあな。これくらいは」
 手際良く花飾りを作り終える。

102 名前:girl next door 02/02:2012/04/09(月) 02:12:18 ID:.hO4Sqa6
「ネフィリム達も、とってもよろこんでるよ。おれいがしたいって」
「礼? そんなもの別に要らない……な、何だこれは?」
 一体のネフィリムから、そっと渡されたもの。それは小さなカケラ。ネウロイのコアにも似た結晶。
 しかしそれは青く澄み切った色で、普段トゥルーデ達が必死に敵の身体から探し、撃ち砕くものではない気がした。
「有り難う」
 大事にポケットに仕舞うと、やおら立ち上がる。
「さて、お嬢ちゃんも皆も有り難う。私は、そろそろ行かないと」
「どこへ?」
「帰る場所があるんだ。多分」
 トゥルーデはそう言って、持って来た武器やらストライカーユニットを担いだ。
「どこかわからないけど、きをつけてね。またあそぼうね」
「ああ。お嬢ちゃんも……」
 言い終わらないうちに、背後から物凄い吸引力を感じる。
 振り向く前に、ごうっと言う風と共に、その“世界”からトゥルーデは消え去った。

 どすっ、と床にしたたかに尻を打ち付ける。
「いたたっ……今度は何だ!?」
 トゥルーデは辺りを見た。ほのかにランプが灯る、元居た室内。軋む蝶番の音と共に、ばたん、と背後で扉が閉まる音がした。
 目の前には、真っ青な顔をしたエーリカが立っていた。
「トゥルーデ、大丈夫?」
 エーリカが駆け寄って来た。
 トゥルーデが手にしていたストライカーユニット、そして武器の数々は何の異常も無く、勿論本人も異常なし。
「大丈夫だ、問題ない」
 尻をさすりながら、エーリカに答えるトゥルーデ。
「ホントに? トゥルーデ、私の目の前で、扉に吸い込まれたんだよ? 扉がぴかーって光って、それで……」
 信じ難い、と言う表情のエーリカ。
「だが、戻って来ただろう。私に、何処かおかしい所は有るか? 私は私だ」
「じゃあ、私は誰か分かる?」
「訳の分からない事を言うな、エーリカ・ハルトマン中尉。……私の大事なエーリカ」
「トゥルーデなんだね? 良かった……」
 心配していたのか、ぎゅっとトゥルーデを抱きしめるエーリカ。
「ごめんね。トゥルーデ、ごめんね」
「本当、大丈夫だ。私は何とも無い。心配するな。それにな、今回“行った”先はなんだか妙に平和な世界でな」
「へっ? ……あれ、トゥルーデ、その頭の花飾り」
「ああこれ? 貰ったんだ」
 トゥルーデの頭から、そっと花飾りを外し、眺める。
「見た事無い花だね」
「ああ、そうなんだ。今度ペリーヌにでも聞いてみるか。あいつなら分かるんじゃないか」
 二人でじっと花を見るも、双方の意見は同じだった。
「図鑑に載ってないんじゃ」
 トゥルーデは、はっと思い出してポケットに手をやった。
「そうだ、こんなのも貰った。お礼とかで」
 トゥルーデはポケットから、青いカケラを取り出した。エーリカはその青く澄んだ結晶を覗き込む様に見た。
「えっ、これ……ネウロイのコア……じゃないよね?」
「色も大きさも、何やら違うと思うんだが……何だと思う?」
「私が分かる訳ないじゃん。これ、ミーナに持ってって聞いてみる? もしくは少佐に魔眼で見て貰うとか」
「何だか、話が大きくなりそうな気がするんだが」
「でも、どうしよう」
「どうしたものかな……」
 エーリカとトゥルーデは、不思議なお土産を手にしたまま、答えに困り果て、顔を見合わせた。

end

103 名前:名無しさん:2012/04/09(月) 02:13:12 ID:.hO4Sqa6
以上です。
劇場版絶賛公開中なのに空気読まずガン無視なSSだとか
今更な某ゲームに毒され過ぎじゃねとか
色々突っ込み有ると思いますが
まあこれはこれで……多分続きません(なげやり

ではまた〜。

104 名前:名無しさん:2012/04/13(金) 23:22:20 ID:SIG.SJKE
>>103
乙です

終わりですか〜
世界観とかが面白くてとても楽しめました

105 名前:名無しさん:2012/04/14(土) 01:48:22 ID:urL8aVgw
>>94です
性懲りもなくまたエイラーニャで書いてみました


〜с тобой〜

私が目を覚まして初めて見えたものは木で出来た壁だった。
ぼんやりとした頭でその壁を見つめていたけど、どうやら私はベッドに横になっているみたい。じゃあこれは壁じゃなくて天井かな……。
「知らない天井だわ……」
何気なくつぶやいた言葉を皮切りに意識と感覚が覚醒してくる。
体の感覚が戻ってくると同時に両腕からズキズキと痛みが伝わってくるのがわかって私は顔をしかめた。
私の両腕は包帯を巻かれて固定されている、ということは……骨折?
どうして骨折なんかしてるんだろう?
私は夜間哨戒に出て、そしたらネウロイに遭遇して……。
被弾しちゃったのかな……よく覚えてない。とにかく命は無事でよかった。またエイラに心配かけちゃったな……。芳佳ちゃんも治癒してくれただろうし……ありがとうって言わないといけないな。
しばらくすると廊下の方から足音が聞こえてきた。
コンコン、とドアが鳴らされて入ってきたのはエイラと芳佳ちゃんだった。
2人とも浮かない顔しながらドアを開けて入ってきたけど、私の事に気づいたら笑顔になって顔を綻ばせた、私も笑顔でそれに答えた。
「サーニャちゃん目が覚めたの!?」
「さ、サアアニャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
エイラが走り寄ってきてそのまま抱き締められた。骨折れてるんだけどなぁ……。
「サ−ニャが、サーニャが無事でよかっタ………サアアアアニャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
エイラが私の胸の中で泣いてる、いつものエイラは手を握るのさえ躊躇ってるのに……。
本当に心配してくれてたんだなって思うとなんだか恥ずかしくなってしまう。
「サーニャちゃん、ご飯持ってきたからエイラさんと食べて?」
「え…?芳佳ちゃんは一緒に食べないの?」
「そんな無粋なことできないよ〜!二人で楽しんでね!」
芳佳ちゃんはよくわからないことを言うとご飯を置いて出口の方へ歩いていった。
「おやすみなさいっ、サーニャちゃん!エイラさん!」
結局ご飯を持ってきただけで帰っちゃった。もっとお話ししたかったのに…。
「サーニャー…サーニャー…グス…」
そういえばエイラを忘れてた、ずっと泣いてたみたい。
私の名前を何度も呟いているけど、大丈夫かな。
「エイラ、私は大丈夫だから。ご飯食べましょう?」
頭を優しく撫でてからエイラを引き剥がして椅子に座らせた。まだ泣いてるけど……そんなもエイラは凄く可愛い……まるで子供みたい。エイラのほうが歳上なのに。
「うん、そうだナ…グス…食べようカ……」
エイラがトレイを私のところまで持ってきてくれた、でも両腕が使えない私は自分で食べることができない。ということは必然的に……。
「ねぇエイラ、エイラが食べさせて」
「そ、そういえば両手使えないナ……」
「うん、だからエイラが食べさせて」
「そ、そういうのはなんか恥ずかしいっていうかなんていうカ……///」
いつものエイラに戻っちゃった、でも私は両手使えないからエイラに食べさせてもらうしかないんだよ?
「エイラ、お願い。今の私はエイラがいないと……ダメ?」
「エーット……キョ、キョウダケダカンナー//」
やっぱりエイラは優しい女の子、もちろんずっと前からその事は知ってるけど。
「は、はいサーニャ。あ、あーン///」
「あーん」
「美味しいカ?サーニャ」
「うん、エイラが食べさせてくれるもの」
「そ、そんなコト……味なんて変わらないダロ」
「エイラが食べさせてくれるから美味しいの、理屈はいらないわ」
「な、なに言ってんダヨー、いつもとなんか違うゾ?」
「ううん、なんでもないの」
「?……ホラ、あーん」
「エイラ」
「どうした?他のもの食べたいカ?」
「そうじゃないの、エイラに言っておきたいことがあるから……」
「そうカ、何なんダ?」
「エイラ、いつもありがとう、大好きよ」
「な、なななななな何言ってんだサーニャ!?」
あ、やっぱりエイラはエイラだ。真っ赤になっちゃって可愛い。
「私はエイラがいてくれて幸せ、これからも一緒でいたい」
「も、もちろんずっと一緒ダ!約束スル!」
「うん!私もエイラとずっと一緒にいたい」
「そうダナ、二人なら何千マイルの旅も平気ダ!」
「これからもよろしくね、エイラ」
「こちらこそよろしくナ、サーニャ」


ずっと続くといいな、エイラと二人で……ずっと一緒に……。

106 名前:62igiZdY:2012/04/29(日) 01:51:46 ID:NdE7oDPQ
62igiZdYです。かなり久しぶりに投稿させて頂きます。
読んでもらえる嬉しいです!

107 名前:憧れの人 1/2:2012/04/29(日) 01:53:20 ID:NdE7oDPQ
  穏やかな潮風と波音の和声が耳に心地よいある晴れた日の昼下がり。
 時折反響する海鳥の鳴声に目を向けることもなく、少女は水平線の彼方を見つめていた。
 どこまでも続くアドリア海の蒼と碧。少女がその身に纏う衣服もまた青く、風にそよぐ金髪は水面を反射する太陽光の如く輝いた。
 少女は未だ帰らぬ旅人を待ち焦がれるような色をその瞳に宿し、遠くを、ずっと遠くを見つめ続ける。
 憧憬と不安と祈りと。様々な感情が綯い交ぜになった瞳は、心なしか揺れていた。
 いつからだろう。彼女がこんな風に海岸に立つようになったのは。
 出会った日からずっと追い続けてきた憧れの人が、何処か自分の知らない遠くへ行ってしまうような、そんな気がしてならないからだ。
 焦る気持ち。
 まだまだ足元にも及ばないのに。
 もっともっと教えて欲しいことがたくさんあるのに。
 少女はどうしても後ろ向きになってしまう心を換気するように、一つ大きく深呼吸をした。
(私が弱気になるなんて、あの人に顔向けできませんわ……)
 と、沈んでいた少女の表情に明かりが灯った。
 空気の振動が伝わってくる。
 空の彼方に幾つかの人影が見える。
 隠し切れない嬉しさの熱に頬を赤らめ、迫り来る影を見つめながら、少女はホッと息を吐き出した。

108 名前:憧れの人 2/2:2012/04/29(日) 01:54:14 ID:NdE7oDPQ
 
  この日の出撃も無事に全員が帰投し、基地内は再び束の間の静寂に包まれた。
 水平線の向こう側に陽が沈んでゆく。
 茜色に染まった滑走路。
 その真ん中で一人訓練を続けている人物がいる。
 坂本少佐だ。
 実戦から帰ってきて間もないというのにその姿から疲労は伺えない。
 そしていつものようにその様子を物陰から見つめる人物が一人。
「ペリーヌ、こんなところにいたのか」
 声をかけられたペリーヌは一瞬ギクリとして振り返り、そしてその意外な相手に少しだけ驚きを見せた。
「バルクホルン大尉……。あの、私に何か?」
「あぁ、宮藤とリーネがお前を探していたぞ。それを伝えようと思ってな」
「はぁ、そうでしたの……」
 そう言ってペリーヌは再び坂本の方へと視線を向ける。
「ん? どうした? あぁ、坂本少佐か。全く、あの人は本当にすごい人だ。今日は実戦があったというのにまだ訓練を続けるとは。並大抵の魔女が真似できることではない」
 カールスラントのトップエースでさえ驚嘆を禁じ得ない程の魔女。彼女の能力は間違いなく世界でも数本の指に入るであろう。
 だが、どんな魔女にも限界はある。
「バルクホルン大尉は、坂本少佐のことをどう思われますか?」
 ペリーヌは意を決してバルクホルンにその胸の内を暴露した。
「どうって。今言った通りだが」
「違います。坂本少佐が素晴らしい魔女であることは私だって百も承知ですわ。そうではなくて。坂本少佐の……魔女としての寿命のこと、です……」
 夕陽がほとんど姿を隠し、サーチライトの光と夜の闇が滑走路を支配する。
 真剣な眼差しのペリーヌに応えるように、バルクホルンも忌憚のない意見を述べた。
「魔女である限り、いずれは上がりを迎えるものだ。どれだけ肉体の鍛錬を積もうが魔力の問題はどうにもならない。それは魔女である我々が一番よく分かっていることだろう。坂本少佐もまだまだ飛べるとは言っているが、正直そう長く戦場に居られるとは、思えない」
 そう言い切ったバルクホルンに覚悟はしていたとはいえペリーヌは動揺を隠せない。
「私、怖いんです。もしも、坂本少佐がもう飛べなくなった時に、私はそれでも飛び続けることが出来るのか」
 ペリーヌにとって師匠であり、目標であり、憧憬の的である坂本。
 いつもその背中を追い続けてきた。そしてこれからも追い続けてゆくのだろう。
 だから……、
「まだまだ少佐には手も届かないのに。少佐みたいにはなれていないのに。それなのに少佐がいなくなってしまったら、私はどうしたら……」
 だから、抑え切れない焦燥にペリーヌの心は圧し潰されそうになっていた。
 暗闇の中、ペリーヌの瞳の端に一粒の涙が煌いたように見えた。
 少女の悲痛な告白を静かに見つめていたバルクホルンは優しく声をかける。
「そうだな……。時にペリーヌ、お前はよく宮藤やリーネの面倒を見ているようだが、最近はどんな調子だ?」
「え、えぇ……。まぁ、彼女たちも随分と力が向上してきましたわ」
 突然の話題転換に目を白黒させるペリーヌだがバルクホルンは構わずに続けた。
「そうか。それは宮藤もリーネも、ペリーヌも、坂本少佐の教えを実践できている証拠ではないか。そして今、二人を導いているのはお前だ、ペリーヌ。先刻お前は少佐みたいにはなれていないと言ったが、そんなことはないぞ。お前はいつでも誰よりも少佐の近くを飛んでいたんだ。あの坂本少佐の教え子が、一人で飛べない程度なわけがなかろう」
 迷いを断ち切る力強い言葉の閃光が、ペリーヌの心に走り抜けた。
「私も上がりを迎えた先輩魔女たちを多く見てきた。飛び続けたいという願いも。だがその願いは消え去るわけじゃない。坂本少佐が飛び続けたいと願った空は、今度はお前が飛べばいい。それだけのことだ。それともお前は、そんな大事なポジションを他の誰かに譲るつもりか?」
「そ、そんなことは……。少佐の後はこの私こそが!」
 元気を取り戻したペリーヌにバルクホルンも笑顔を見せる。
「だったら行ってこい。今はまだ少佐の隣を飛べるんだ。隠れてコソコソ見てるだけじゃつまらんだろ」
 ドン、とバルクホルンはペリーヌの背中を押す。照れを隠しながらも笑顔で応えたペリーヌは、もう一度振り向いてバルクホルンに礼を告げ少佐の下へと走っていった。
「全く、世話の焼ける奴だ。だが……」
 きっとペリーヌはもっと強くなる。そして次の世代の魔女たちを導いてくれるに違いない。
「あ、そう言えば。宮藤たちがペリーヌを探しているんだったか……」
 当初の目的を思い出し、苦笑交じりにバルクホルンは空を見上げる。
 無数の星が煌く中を一筋の流星が稲妻の如く駆け抜けていった。


   fin...

109 名前:名無しさん:2012/04/29(日) 05:43:27 ID:eNuMZXHI
>>108
GJ
これは物陰から見てたエーリカがトゥルーデを惚れなおしたハズwww

推敲された丁寧な文章で読みやすかったです
またぜひ書いてください

110 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/11(金) 13:54:01 ID:0O/8WYdY
>>106 62igiZdY様
お久しぶりです。お姉ちゃん格好良いですね。
劇場版の聖女ペリーヌさんとイケメンお姉ちゃんとの絡みも見てみたいです。


こんにちは。
芳リーネがひたすら静夏ちゃんを可愛がるという話を不意に思いついたので、4レスほど投下させて頂きます。
当然ながら時系列的には、劇場版より後の話なのでネタバレにご注意ください。
では、どうぞ

111 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/11(金) 13:54:32 ID:0O/8WYdY

【静夏、娘になる!?】

「見てリーネちゃん、このウィッチさん、すごくスタイル良いよ」
「芳佳ちゃん、そういうとこ見る本じゃないと思うんだけど……」
「あはは、ごめんごめん。つい癖で……」
「全く……相変わらずですわね、あなたは」
ここは、501基地の談話室。
カールスラント国境付近に、新たに出現したネウロイに対抗するため、新設された基地の一室だ。
午前の訓練を終え、この場所でくつろいでいた芳佳はリーネ、ペリーヌ、エーリカらと共に、
共用の本棚に置いてあった本の一冊、『ウィッチ名鑑』を読んで午後の休息を楽しんでいた。
この本には第一次ネウロイ大戦から現在まで、世界中のウィッチ達の活躍が記されていた。

「あっ、リーネちゃんやハルトマンさんのお母さんも載ってるんだ……格好良いなぁ」
「そりゃ、私の母様やリーネのお母さんは当時、凄いエースウィッチだったからね。ねぇ、リーネ?」
「はい。お母さんはブリタニアでも有数のウィッチだったって、お父さんからよく聞かされてました。
そう言えば、ペリーヌさんも代々ウィッチの家系ですよね?」
「ええ。クロステルマン家は代々魔法医の家系として、有名でしたのよ。
宮藤さんのところも代々、治癒魔法の家系でしたわよね?」
「はい、お母さんもお婆ちゃんも私よりもずっと凄い治癒魔法の使い手で……」
それからしばらくの間、4人のウィッチは自分たちの家族の話をした。
芳佳は、みんなと家族の話をするうちに娘を持つことに強い憧れを抱いたようで、リーネに対して思いがけないことを呟いた。
「ねぇリーネちゃん、私たちもウィッチの娘がほしいね」
「え? な、何で私に振るの!?」
「ほら、ウィッチ同士の娘って凄い子が生まれそうじゃない? リーネちゃんは私の娘、産むの嫌かな……?」
「い、嫌じゃないけど……それ以前に私たち、女の子同士だから子供なんて産めないんじゃ……」
「そこは魔力で何とかなったりしないかな? ほら、坂本さんだって言ってるじゃん。ウィッチに不可能はないって」
「ま、魔力で何とかなるのかな?」

「本当に宮藤さんは、いつも発想がメチャクチャですわね……いくら私たちがウィッチだからって、女性同士で子供が産めるわけありませんわ」
芳佳とリーネのやりとりを見て、ペリーヌが呆れるように呟く。
「そんなことないんじゃない? ほら、ペリーヌだってアメリーとの間に子供がいるわけだし」
「……誤解を招くような言い方、しないでくださるかしら?」
「あはは、ごめん。冗談冗談」

「とにかく、私たちに娘ができたらどうなるのか、せっかくだからシミュレーションしてみようよ」
「シ、シミュレーション? どうやって?」
「ちょっと待ってて。今、用意してくるから」
芳佳はそう言い残して、談話室を後にする。
残されたリーネは芳佳の背中を見送りながら、どこか不安げに呟く。
「芳佳ちゃん、何するつもりなんだろう?」
「……あまり良い予感がしないのは確かですわね」

112 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/11(金) 13:55:18 ID:0O/8WYdY

――――――◆――――――

「ねぇ、服部さん」
「何でしょう? リネット曹長」
「えっと、何でそんな格好してるの?」
「それは私が聞きたいです……」
それから十分後、談話室には可愛らしいピンクのワンピースを身に纏った服部静夏軍曹の姿があった。
坂本少佐の計らいもあって、芳佳の従兵となった彼女だがどうにも、いつも予想外の行動を起こす宮藤"少尉"には手を焼いているようだ。
今日だって、いきなり芳佳にワンピースを着せられたかと思いきや、そのまま流れで何も聞かされずに、談話室に連れてこられたのである。
「み、宮藤さん! これは一体どういうことですか!? この格好、その……凄く、恥ずかしいです」
静夏は振り返り、自分を連れてきた張本人である芳佳にどういうことかと詰め寄る。
普段は着ることがない、可愛らしい衣装に身を包んでとても恥ずかしそうだ。
当の芳佳は、いつもと変わらない笑顔で静夏に優しく語りかける。
「実はね、私とリーネちゃんに娘ができたらどうなるのか、シミュレーションしてみようって話になってね、
それで静夏ちゃんには今日1日、私たちの娘になってもらいたいんだ」
「む、娘!? 私がですか?」
「うん。私がお父さんでリーネちゃんがお母さん。これは私たちの将来に係わる大事な訓練なの……協力してくれる?」
「訓練ですか……?」
芳佳に真っ直ぐな瞳で見つめられ、少々戸惑う静夏。
状況はよく飲み込めないが、尊敬する芳佳が自分を頼ってくれているのだ、断るわけにはいかない。
「分かりました! 服部静夏、今日1日宮藤芳佳少尉とリネット・ビショップ曹長の娘として、頑張らせていただきます!」
静夏はピンと背を伸ばして、芳佳とリーネに向かって敬礼する。
その一連の流れを見ていたペリーヌは、呆れ顔で隣のエーリカに囁く。
「シミュレーションって、訓練のうちに入るのかしら?」
「まぁ、いいんじゃない? 面白そうだし」
呆れ顔のペリーヌとは対照的に、ニコニコ顔のエーリカが答える。
この状況が楽しくて仕方がない様子だ。

「それでは、改めてよろしくお願いします。お父様、お母様」
「うん……よろしくね、服部さん」
「ダメだよリーネママ。静夏は私たちの娘なんだから、名前で呼ばないと」
「あっ、そっか……静夏、お腹空いてない? ママが何か作ってあげるよ」
「いえ、結構です。お母様のお手を煩わせるわけには……」
静夏がそう言った直後、彼女のお腹から可愛らしい音が鳴り響く。
芳佳に連れてこられるまでずっと訓練に励んでいたので、今日はまだ昼食をとっていなかったのだ。
「ふふっ、遠慮しなくていいよ。ちょっと待っててね。今、何か作ってくるから」
お腹が鳴って、顔を真っ赤にした静夏にリーネが優しく言う。
「は、はい。ありがとうございます……」
「じゃあ芳佳パパ、私が料理してる間、静夏の相手してあげてね」
「うん。分かったよ、リーネママ」
芳佳はキッチンへ向かうリーネを見送り、それから、共用の本棚から本を一冊取り出しソファに腰掛け静夏を手招く。
「おいで静夏。料理を待ってる間、パパが読み聞かせしてあげる」
「読み聞かせ……ですか?」
突然の提案に戸惑いながらも、芳佳の隣に腰掛けて読み聞かせが始まるのを待つ静夏。
芳佳は静夏が隣に座ったのを確認すると、本を開いて朗読を始める。
「むかーし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは……」
いつもより大人びた声で芳佳は朗読を進めていく。
彼女の繊細で落ち着いた朗読に、静夏だけでなくペリーヌやエーリカも自然と惹き込まれていった。

113 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/11(金) 13:55:56 ID:0O/8WYdY

「……こうしてみんな、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
芳佳が最後の一文を読み終え、本を閉じると談話室から一斉に拍手が巻き起こる。
ペリーヌ、エーリカ、それに、芳佳の声に誘われてやってきたトゥルーデがそれぞれ賛辞の言葉を送る。
「意外とお上手ですわね。感心しましたわ」
「やるじゃん、宮藤」
「いい朗読だったぞ、宮藤」
「ありがとうございます。昔、よく読み聞かせしてくれたお母さんの真似だったんですけど……ねぇ静夏、パパの読み聞かせどうだった?」
「はい! お父様の声、凄く心地良かったです!」
と、静夏が目をキラキラ輝かせながら言う。
「えへへ。ありがと、静夏」
「お、お父様?」
芳佳を『お父様』と呼ぶ静夏にトゥルーデが困惑してると、トレーを持ったリーネが談話室に戻ってきた。
トレーには、静夏のために作ったパンケーキがいっぱい乗っている。
「お待たせ。パンケーキできたよ、静夏」
「ありがとうございます、お母様」
「わぁ、美味しそう。さっすがリーネママ!」

「お父様? お母様? 状況がよく飲み込めないんだが、宮藤たちは何をやっているんだ?」
いつもとどこか様子が違う芳佳たちを見て、トゥルーデがエーリカに訊ねる。
エーリカが簡単に事の経緯を説明すると、トゥルーデは、「なるほど。つまり、服部は私の姪にあたるわけだな」と言いながら納得したように頷く。
「いや、どんな理屈だよ」
トゥルーデのその発言に、エーリカがすかさず突っ込んだ。

――――――◆――――――

「静夏、おかわりはまだあるから遠慮しないでたくさん食べてね」
「はい。ですが、これ以上はさすがに……」
「あっ、静夏、口にシロップがついてるよ」
「え? どの辺ですか?」
「じっとしてて。パパが拭いてあげる」
「あ、ありがとうございます……」
静夏がパンケーキを食べている間、ずっと彼女の世話を焼く芳佳とリーネ。
擬似的とはいえ、自分たちに娘ができたことが嬉しくてたまらない様子だ。

「宮藤もリーネも、子供ができたら過保護になりそうだな」
そんな芳佳たちを見て、率直な感想を述べるトゥルーデ。
「そう言うトゥルーデも、将来親バカになりそうな感じするけどね」
トゥルーデの、妹クリスへの溺愛ぶりを思い出しながら、エーリカがうんうんと頷く。
「そんなことはない。私は将来、自分の子には時に厳しく、時に優しく接するつもりだ」
「ふ〜ん、じゃあ子供の教育はトゥルーデパパに任せるよ。遊ばせるのは、エーリカママに任せてくれればいいから」
「お、おいエーリカ! い、いきなり何を言い出すんだ」
「へへ、トゥルーデったら、顔真っ赤にしちゃって。可愛いな〜」
「う、うるさい! 大体、お前はいつも――」
「わ〜! トゥルーデが怒った〜」
慌てて談話室を飛び出したエーリカを、トゥルーデが追いかけ回す。
そんなエース2人のいつも通りのやりとりを見て、ペリーヌはくすくすと笑う。
「ふふっ、相変わらず大尉たちは仲がよろしいですわね……あら? 服部さんは眠ってらっしゃるの?」
ペリーヌが芳佳たちのほうに視線を戻すと、パンケーキを食べ終えた静夏が、ソファに腰掛けたリーネの膝の上ですやすやと眠っていた。
「うん。お腹が膨れて眠くなっちゃったみたい」
そう答えながら、芳佳は安心した表情でぐっすりと眠っている静夏の頭を撫でる。
静夏の膝枕になっているリーネも、芳佳に倣って彼女の頭を愛おしそうに撫で回した。

114 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/11(金) 13:56:22 ID:0O/8WYdY

「不思議だね。普段は私たちよりずっとしっかりしてるのに、今は本当の娘みたい」
「うん。そうだね」
そう言って、微笑むリーネに芳佳も頷く。
2人がしばらく頭を撫でていると、静夏がくすぐったそうな表情で「お父様……お母様……」と寝言を呟いた。
そんな静夏の寝言を聞いて、芳佳とリーネは顔を見合わせて笑いあう。

「「おやすみ、静夏」」
自分たちの"愛娘"の頬にそっと、おやすみのキスをする芳佳とリーネ。
やがて自分たちも眠くなったのか、そのままほとんど同時に眠りに就いてしまった。

「全く、何も掛けずに寝たら、風邪ひきますわよ」
突然眠ってしまった芳佳たちに気抜けしながらも、彼女たち"親子"に毛布を掛け、そのまま静かに談話室を出るペリーヌであった。

〜Fin〜

――――――
以上です。
静夏ちゃんは501のみんなに可愛がってもらえばいいと思います。
では、また

115 名前:名無しさん:2012/05/11(金) 20:49:33 ID:iSVmE/SA
乙です。新キャラハァハァ

116 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/21(月) 23:50:53 ID:I8KFGb8Q
こんばんは。夜中のテンションで書き上げたウィルマ×フランを投下していきます。
がっつりえっちなことしてるのでご注意下さい。
では、どうぞ

117 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/21(月) 23:51:26 ID:I8KFGb8Q

【ウィルマとフランの秘密の夜】

<ワイト島分遣隊基地、ウィルマとアメリーの部屋>

「ほら、もう泣かないで。一体どうしたの?」
「うぅっ、だって、だってウィルマが……」
深夜の1時を少し過ぎた頃、私はベッドで泣きじゃくるフランの背中をさすって、彼女が泣き止むのを待っていた。
フランが泣き止んでから事情を聞くと何でも、私が撃墜される夢を見て不安になり、慌てて私のベッドまでやって来たみたい。
う〜ん、この前死にかけた私としては、あんまり笑えない話ね。

「大丈夫よ。私はどこにも行かないから」
私は半分、自分に言い聞かせるようにフランに囁く。
「本当に? この前のことがあったからあたし、心配で……」
「本当よ。フランに救われた命、無駄になんてしないわ。こんなに可愛い上官さんを残して死んだら、罰が当たるわよ」
私がそう言って頭を撫でると、フランが頬を染めながら「……ウィルマのバカ」と呟く。
その仕草が可愛くて、不意に自分の中でもやっとした気持ちが湧き上がるが、何とか抑え込む。
いけない、私ったら。危うく、6つも下の女の子に欲情するところだったわ。

――それから数分後……

「ねぇ、落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、もう1人で寝れる?」
私はフランのことをじっと見つめながら、訊ねる。
ちなみに今日はアメリーもラウラも、夜間哨戒の任務に就いているので、お互いの相部屋の相手は朝まで帰ってこない。
「……今日だけ」
少しして、フランが小声で何かを呟いた。
「え?」
「……今日だけ、一緒に寝てくれない? そしたら、大丈夫だと思うから……」
消え入るような小さい声でそう呟くフランを見て、一度は抑えた感情がまた湧き上がってくる。
ごめん、やっぱ我慢できない。本当に好きなら、歳の差なんて関係ないわよね。

「フラン、大好き」
私は欲望のままにフランを押し倒して、彼女の唇に自分のそれを重ねる。
とても柔らかくて甘酸っぱい、少女特有の唇だ。
「んっ、ウィ、ウィルマ……」
赤らめた表情で、私のキスを受け入れてくれるフラン。
私はそんな彼女を愛おしく想い、更に深いキスを落としていく……

「んっ……ぷはっ」
数分後、私が唇を離すと、フランは半分涙目で私のことをキッと睨んできた。
うん、やっぱりフランはちょっと怒った顔も可愛いな。
「い、いきなり何すんのよ! バカウィルマ!」
「ごめんね。フランが可愛かったから我慢できなくて……フランは私とキスするの、イヤだった?」
「イ、イヤじゃなかったけど……あたしにも心の準備ってものがあるんだから……」
そう言って俯くフランを見て、私の胸は更に高鳴りを増していく。
もう、本当に可愛いんだから。

118 名前:名無しさん:2012/05/21(月) 23:51:45 ID:84ncVohw
はっはーパンツ砕いた

119 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/21(月) 23:51:47 ID:I8KFGb8Q

「ねぇフラン、もう1回キスしてもいい?」
「……うん」
今度は合意の上で、私はフランに唇を重ねる。
舌も絡めて、さっきより深く、激しいキス。
「はぁっ……ウィルマ……んむっ」
「フラン……んんっ」
――どのくらいの時間が経ったんだろう。
ほんの数分だったかもしれないし、もしかしたら、何十分も経っていたのかもしれない。
私にはフランと触れているこの時間が、無限に感じられた。

「んっ、はぁっ……」
「んんっ、やぁんっ……」
私が深いキスからフランを解放すると、銀色の糸がお互いの唇を繋いでいるのが見えた。
「ウィルマ……」
潤んだ瞳で私の名前を呼ぶフラン。
その表情はとてもいやらしくて、色っぽい。
そんなフランを見て理性を保てるほど、私はできた人間じゃない。
私は彼女のズボンに手をかけ、それをスルッと下ろす。
フランの女の子の部分からは、いやらしい汁がトロリと溢れていた。

「フランったら、キスしただけでこんなになっちゃうんだ」
私はフランのびしょびしょになったそこに手を触れながら、彼女に囁く。
「い、言わないでよバカ……」
「ねぇ、キスより気持ちいいこと、しよっか?」
そう言って、フランの秘所に自分の指を侵入させる。
「え? ちょっと待っ……やぁっ、ぁんっ……」
クチュ、クチュとえっちな水音と、フランの可愛らしい喘ぎ声が部屋中に響く。
彼女の甘美な喘ぎ声に、私は一層興奮を高めていく。
「指、もう1本入れるね」
私は指を2本に増やして、フランの中をかき回していった。
彼女の秘所からとめどなく溢れる蜜が、シーツに染みを広げていく。
「ウィルマぁ……そんなとこっ、ひゃぁんっ、あぅっ」
「フラン、一つになろっか」
「え?」
私もズボンを脱いで、フランの秘所に自分のそれをあてがう。
「ウィル、マっ……はぁんっ、ひゃぅっ」
「フランっ……あぁんっ」
私は腰を動かして、フランの秘所と自分の秘所を何度も重ね合わせる。
その行為を続けるうちに、フランが恍惚の表情になっていくのが分かった。
「ウィルマ、あたし……イっちゃうっ、ぁんっ」
「フラン、私も……はぁんっ」
「「ひゃぁああぅっ」」
私たちは、お互いのことを強く抱きしめながら、ほとんど同時に絶頂へと達する。
フランとえっちな事をするのが、こんなに気持ち良いなんて思ってもみなかった……

「うぅ、ウィルマのえっち、変態、スケベ……」
「本当にごめんね。フランが可愛かったからつい……私のこと、嫌いになっちゃった?」
「バカ、嫌いになんてなれるわけないでしょ……」
そんなことを言い合いながら、情事を終えた私たちはティッシュでお互いの身体を拭いていた。
私もフランも、汗といやらしい汁で身体中ベトベトだ。
「暑いね。上も脱いじゃおっか」
私は、タンクトップも脱いで何も身につけてない状態になる。
それから、フランも脱がしてあげようと思い、彼女のブラに手をかける。
「ま、待って!」
「どうしたの?」
「胸は恥ずかしいんだけど……あたしの、小さいし」
「いつもお風呂で見てるじゃない。それに私は、ちっちゃい胸も好きよ」
私はそう言って、フランのブラを外す。
小ぶりで可愛らしい胸が露わになった。
「うぅっ、本当に変態なんだから……」

生まれたままの姿になった私たちは、どちらからともなく抱き合った。
何も身に纏ってない状態で触れ合う素肌と素肌がすごく気持ち良い。
「ねぇ、ウィルマ」
「なに?」
「さっきの約束、守ってよね……どこにも行かないって奴」
「もちろんよ」
私は満面の笑みを浮かべて、フランの頭を優しく撫でる。
それから、最後にもう1度、キスを交わして私たちは深い眠りへと落ちていった……

〜Fin〜

120 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/05/21(月) 23:52:21 ID:I8KFGb8Q
以上です。
この後、アメリー達が帰ってきたら色々、大変なことになりそうですね(他人事)
ウィルマさんの誕生日なのに、誕生日と関係ない話でごめんなさい
ではまた。

121 名前:名無しさん:2012/05/21(月) 23:54:07 ID:84ncVohw
乙でした。

122 名前:名無しさん:2012/05/27(日) 02:09:08 ID:SSIWWslc
ご無沙汰しております。DXUGy60Mです。
ふと、気づいたことにアメリーのペリーヌの呼び方が
クロステルマン少尉(ドラマCD)→ペリーヌさん(ドラマCD)→ペリーヌさん(片翼)
→ペリーヌ中尉(キミ空)→ペリーヌさん(映画版)と、キミ空の周辺でちょっと変化が
あるんだなと思い、少しSSを書かせて頂きました。
最後までお読み頂ければ幸いに思います。

123 名前:それは外して下さって:2012/05/27(日) 02:18:15 ID:SSIWWslc

ペリーヌ中尉。
そう言われた時、最初は何の違和感も覚えなかった。
でも、過去とのちょっとした誤差。
「中尉」という言葉が作る、あの子との僅かな隔たり。
それらが合わさってようやく気付いた。
あの子の私の呼び方が変わったのだと。
クロステルマン少尉と私を呼んでいたあの子は、あの日私をペリーヌさんと呼んだ。
でも、今はペリーヌ中尉と私を呼ぶ。
別々の部隊に居たせいなのか。あの子が私と距離を取りたいと思っているのか。
その理由はわからない。
グッと近づいていたはずの距離が、何だか離れてしまったように思えた。
すぐそばにいるのに、手を伸ばせば届く距離に貴方はいるはずなのに。
ほんの些細な事なのだけど、やっぱり寂しくなってしまう。

ペリーヌ中尉。
パリの空の下、久し振りの再会に何でそう呼んだのかが未だにわからない。
「少尉」から「中尉」になったから?
でも、前はペリーヌさんって呼んでいたんだから、それをペリーヌ中尉に変える理由は無い。
何だろう?
ガリアを解放したペリーヌさんが別世界の人になったから?
英雄になったから? 遠い存在になったから?
・・・多分違う。
元々ペリーヌさんは私から見たら遠い人。
近付きたいとは思っても、離れたいとは思わない。
きっとあの時、やっと会えることにどこか緊張していたのかもしれない。
だから、つい「中尉」なんて格式ばった呼びかたをしたのかなと、今になって思う。
でも、やっぱり失敗だな。
一度、中尉と呼んだせいでペリーヌさんって言うのにどうしても尻込みしてしまう。
それに、ペリーヌさんは何も言ってこない。
別にペリーヌさんは、中尉って呼び方で全然構わないのかな?
それだと・・・少し寂しいな。

124 名前:それは外して下さって:2012/05/27(日) 02:20:15 ID:SSIWWslc

「おはようございます、アメリーさん」
「おはようございます、ペリーヌ中尉」
「今日もよろしくお願いしますわ」
「はいっ! 頑張ります!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・じゃあ、また後で」
「は、はい」

今日も聞き出せなかった。
今日も言い出せなかった。

それに何でしょう。
それに何だろう。

妙なよそよそしさを感じる。

何で中尉なんて付けるのかしら。
何で中尉なんて付けるんだろう。

何か理由があるの?
何も理由は無いのに。

私の名前をどう呼びたいのか。
私に名前をどう呼ばれたいのか。

その本心はわからない。

だけど。

それでも私は、ペリーヌさんと呼ばれたい。
それでも私は、ペリーヌさんと呼びたい。

どんな結果になるかはわからない。
だけど、そろそろ決着を付けないと。

125 名前:それは外して下さって:2012/05/27(日) 02:27:40 ID:SSIWWslc

「あっ、あのアメリーさん。ちょっとお話がごさいますが、よろしいかしら?」
ペリーヌはやや表情を固くし、メガネを軽く上げながらアメリーにそう問いかけた。
「あっ、はい。実は私も言いたいことがあったんです」
アメリーもやや強張った表情を見せたため、あらそうなの、
と何事も無いように返事をしながらも、ペリーヌの心は新たな動揺をきたしていく。
「それで・・・ペリーヌさん! お話ってのは、どういったことですか?」
え?
ペリーヌは、言ってもらいたかったセリフを実際に耳にしてしまい、たじろいでしまった。
「わ、私の話は後回しでいいですわ。まず、貴方からどうぞ」
両腕に力を込め、さっき発言をしたままの状態で返事を待つアメリーに、
できるだけ平静を装い、ついでに威厳と余裕をまぶしながらペリーヌは切り返す。
「へ? 私は・・・言いたいことは言ってしまいました」
そう言いながら、アメリーの顔は弛んだ。
え?
一方のペリーヌは事態が飲み込めず、頭の上に疑問符を浮かべた。
「だって、貴方。ただ、私に返事をしただけじゃ・・・!」
アメリーが何と言って返事を、いや名前を何て読んだかを思い出し、言葉の意味を理解できた気がした。
ただ、違うかもしれない。
ペリーヌは野暮になるのかもしれないと思いながらも、言葉を繋いだ。
「『ペリーヌさん』、私をそうお呼びになりなかったの?」
「・・・・はい」アメリーは目を伏せ、指先を玩びながら恥ずかしげにつぶやいた。
視界の中のアメリーの頬はだんだんと赤みを帯びていくが、当のペリーヌも自分の顔の温度が上がっていくのを感じていた。
結局、2人同じようなことを悩んでいたのだと気付いたから。
「ずっとペリーヌさんって言いたかったんです。でも、なかなか言い出せなくて。
もし、中尉の方がいいと言われたらどうしようと思って。あの・・・それでペリーヌさん。お話ってのは?」
「ふぇ!? その・・・私もその事が気になってまして。前は、ペリーヌさんと呼んでいたのに、
パリで再会してからはペリーヌ中尉と呼んでいるのは何でかなと思いまして」
「理由は・・・特に無いんです。ただお会いした時にそう言ってしまっただけで。
でも、なかなか言い換える機会がなくて」
「そうでしたの」
「あの・・・これからもペリーヌさんってお呼びしてもいいですか!?」
アメリーはグッと顔を近づける。ペリーヌの視界に潤んだ瞳が飛び込んだ。
「構いませんわ。そう貴方に申し出たのは、他でもなく私なのですから。それに」
「それに?」アメリーは首を右に傾げる。
ここで話を切ることは出来た。
でも、それはなんだかズルイと思い、ペリーヌは思っていたことを吐露してしまった。
「私も・・・中尉なんて堅苦しいものは付けずに、ただ前のようにペリーヌさん。
と、貴方に呼んでもらいたかったんですの。貴方に中尉と呼ばれて・・・少し寂しかったんですのよ」
「ペリーヌさん」
「え?」
「ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。
ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん。ペリーヌさん!」
「あ・・・あの、一体どうなさいましたの?」
驚きに目を見開きながら、ペリーヌはアメリーを見る。
「その、ペリーヌさん。って私が呼ばなかったせいで、ペリーヌさんに寂しい思いをさせてしまったのなら、
今まで言わなかった分のペリーヌさんを言おうかなと思って・・・す、すいません! 変な事をしてしまって!」
申し訳なさそうにするアメリーに対して、ペリーヌは楽しそうに笑った。
「貴方もずいぶん洒落たことをなさいますわね」
「・・・うぅ、すいません慣れないことをしてしまって」
「構いませんわ。でも・・・これまで私を中尉と呼んできた数と比べて、今のでは全然足りませんわね」
「そ、そうですね」
「これまでの不足分を返してもらうためにも、この先もっと私の名前をお呼びなさいまし、アメリーさん」

Fin

126 名前:62igiZdY:2012/05/29(火) 22:08:41 ID:PvRG.hcE
>>111 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
読ませていただきました! 芳リーネとエーゲルの合わせ技美味しすぎます。
何気にペリーヌとエーリカの二人が会話してる場面がグッときました。あまり見ない二人なのでw
静夏ちゃんもかわいいですね。

>>117
フランのデレっぷりに撃墜されましたw

>>123 DXUGy60M様
読ませていただきました! ペリーヌ×アメリーのカップリングも大好きなので全力でニヤリと。
名前の呼び方から心情が丁寧に描かれていて面白かったです。
この二人は幸福になってほしい。


こんばんは。
9スレほどお借りします。少しばかり長めですが読んでいただけると幸いです。
※黒リーネ注意。

127 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 1/9:2012/05/29(火) 22:11:01 ID:PvRG.hcE

T.翠色の瞳

 夜の帳が降りてゆく。
 濃紺に染まる空と海。
 静謐を纏った淡い月光に照らされた魔女たちの城もまた、宵闇の青に抱かれて静寂の底にあった。
 今宵は風も波も鳴りを潜めている。穏やかな空気は慈母にも似た優しさと共に、潮の満ちては干く音だけを反響させて基地中に浸透していった。
 食堂に佇む一人の影。窓外へと向けられた双眸は翡翠の煌きを湛え、北極星の方角をただぼんやりと観つめている。食卓を彩るのはサモワールとティーカップ、それに夜食として用意されたサンドイッチ。時折、紅茶とサンドイッチを口に運ぶ姿は、物憂げながらも安らいで見える。
 カタ、と茶器が音を立てる。それに谺するように食堂の扉も小さな音を鳴らして開いた。
「あら、サーニャさん」
 食堂の隅に腰掛けたサーニャをみとめたミーナは軽く微笑み、自らの分の茶器を手にしてサーニャの食卓に腰を下ろした。
「私も頂いていいかしら?」
 紅玉の瞳を優しく揺らして語りかけるミーナに、サーニャはどうぞと頷き、ミーナのティーカップにそっと紅茶を注いだ。
 仄かに湯気が立ち昇り、甘い香りと緩やかな沈黙が二人を包み込む。
 一口、紅茶を味わってミーナは驚きを声にした。
「美味しいわね、この紅茶。サーニャさんが淹れたの?」
「はい。この紅茶、オラーシャから送ってもらったものなんです」
「オラーシャの人もよく紅茶を飲むって聞くわ。やっぱり紅茶は一息つくには最適ね」
 固まった身体を解すように、ミーナは背筋を伸ばした。
「こんな遅くまでお仕事だったんですか?」
 サーニャの問いかけに、ミーナは静かに溜息を吐いて窓の外に目を向ける。
「今日はちょっと書類の数が多くてね。それに昼間は出撃もあったでしょ。だから余計に手間取っちゃって。もう嫌になっちゃうわ……」
「あの……私は何もお手伝い出来ることがなくて」
 思わず愚痴を零してしまっていたミーナは慌てて視線を戻した。
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったのよ。サーニャさんにはいつも夜間哨戒をしてもらっているじゃない。それだけでもう充分すぎるくらい助かっているわ。だから私のことは気にしなくても」
「いえ。私の方こそいつもいつも優しくしてもらって……、本当に、感謝しています。だから……」
 そう云ってサーニャはミーナの背後に回って、
「だから、少しでも何か出来ればと思って」
 せめて、今日一日分の疲労が癒えるようにと想いを込めて、肩を叩いた。
 潮の満ちては干く音と、トントントンと肩を叩く音と、サーニャが奏でる小さな唄と、ミーナが合わせて歌う声。
 暖かな音の波が幾重にも折り重なって広がっていく空間は、刹那の平和と至福の時間であった。
「ありがとう、サーニャさん。そろそろ……」
 茫漠とした夜の闇に吸い寄せられるかのように、舞台は再び戦場へと戻った。
「一つ訊いていいかしら? サーニャさんが、いつも独りで夜の空を飛べるのは……」
 それでもいつかの終わりを夢見て、決意の色を瞳に宿して、サーニャは答えた。
「守りたいんです。みんなと、この世界を……」
 願いを乗せた翼は、例え孤独な夜空であっても、月光に輝いて力強く羽ばたけるのだろう。
 それこそが、儚く見えた彼女の本当の姿で――。
「今夜も夜間哨戒、お願いするわね。無事に帰ってくるのよ」
「はい。いってきます!」

128 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 2/9:2012/05/29(火) 22:13:02 ID:PvRG.hcE

U.黒猫の尻尾

 黎明の光が空に蒼さを、海に碧さを、夜の闇から取り戻す頃。
 水平線の彼方よりエンジン音を響かせて魔女たちの城へと帰ってくる影がある。
 小さな欠伸をしながら滑走路へと進入してきたサーニャがふと基地の庭に視線を落とすと、そこに植えられた樹木の枝の上で寝ている少女の姿が映った。
「今日はあんなところで寝てる。落ちたり、しないのかな……」
 いつも変な場所で寝起きしているあの少女を夜間哨戒帰りに見つけることが、サーニャの密かな楽しみであった。

 その日、サーニャはいつもより早い時間に起床した。
 早いと言っても正午を少しばかり過ぎたところ。昇りきった太陽が燦々と日光を降り注いでいる。
 何の気なしに外の風を浴びようと庭へ出たサーニャは、そこであの少女と出会った。
「何してるの? サーニャン?」
 緑の黒髪を風に靡かせ何処からとも無く現れたルッキーニに、サーニャは少し驚きの声を上げた。
「わ、ごめん。サーニャン。おどかすつもりはなかったんだけど……。こんな時間に起きてるなんて珍しいなぁって」
「ちょっと早く目が覚めちゃって。それで散歩でもしようと思ったの」
「そか。でもまだ陽射しがきつくない? こっち来なよ」
 そう云うとルッキーニはサーニャの手を引き、木陰の下へと誘った。
「サーニャン陽射しに弱いでしょ。ここならだいじょーぶ」
「うん。ありがとう、ルッキーニちゃん」
 穏やかな潮風と波の声に耳を傾けながら見上げたその木は、今朝方サーニャがルッキーニを見つけた木であった。
「ルッキーニちゃん。今日はこの木の上で寝てたでしょ」
「うん! そうだよ! ここもね〜、あたしの秘密基地の一つなんだ。あ、バレちゃったら秘密じゃないかぁ。でもでも、他にもたーーーくさんの秘密基地があるんだよ!」
「うん。でも、お外で寝てて大丈夫なの? 風邪ひいたりとか。それに枝から落っこちたりしたら」
「だいじょーぶ! あたしはねぇ、あれがあればどんなところでも眠れるんだ」
 そう云ってルッキーニが指を差した先に、物干し竿に掛けられて風に揺れているロマーニャカラーのブランケットがあった。
 使い古されたブランケット。それにはどれほどの想いが込められているのだろう。
 祖国を想い、家族を想い、仲間を想い。戦いに身を投じた少女の気高くも美しい想いが……。
 サーニャとルッキーニはこの部隊で最も年齢の低い二人である。まだまだ幼い少女が戦わねばならない世界。時代の逆風に曝されながらも憾むことなく拒むことなく、力強く生きている。
 それが、暖かな昼下がりに木陰で談笑する彼女たちの境遇とは思えない。それくらいに今だけは、平和な一時であった。
「そうだ! 特別にサーニャンをあたしの秘密基地に案内してあげよう。ちょうど遊び相手が欲しかったところなんだ。さ、行こ!」
 普段は接する機会の少ない二人だが、本当はこうやって遊び回っているのが一番なのだろう。そしてサーニャも心の何処かでそう思っていたに違いない。だからこそ最高の笑顔で、
「うん! よろしくね、ルッキーニちゃん」
 差し出されたその手を握り返し、楽しげに駆けていった。
 束の間の平和はまだ終わらない。それは彼女たちが笑顔で在り続ける限り、いつでもどこにでも咲き誇るものなのだ。

129 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 3/9:2012/05/29(火) 22:14:16 ID:PvRG.hcE

V.真雪の肌

 サウナの中に珍しい組み合わせの二人がいた。
 いつもかけている眼鏡を外し水気を吸ってモサモサになった金髪を所在無さそうに弄っている少女と、白樺の葉を手に持ちどこか眠そうな瞳を虚空に彷徨わせている灰色の髪の少女。二人とも同じような体型で引き締まった身体つきに、湯気にも融けてしまいそうな白い肌をしている。時折、灰色の髪の少女が焼けた石に水を打ち掛け、シューっと蒸気の立ち込める音が響く。白に沈んでゆく部屋。少しばかり気不味い雰囲気に耐えかねたのか、金髪の少女が口を開いた。
「今日は一人なんですのね、サーニャさん」
 何処か刺のあるようにも聞こえるペリーヌの声だが、サーニャは気にすることなく答えた。
「はい。特に理由はないんですけど。ペリーヌさんこそ一人でサウナなんて」
 珍しいですね? と言い切る前にペリーヌが言葉を返した。
「私の方こそ特に理由はありませんわ。なんとなく。そう、なんとなくですわ」
「はぁ、そうなんですか」
 もう一度、サーニャは焼き石に水を浴びせる。サッと曇った視界に目を凝らすように、ペリーヌはサーニャを覗き込んだ。
 眼鏡をかけていないせいか、ジトッとサーニャを見つめる琥珀の瞳。目を細めたその表情に、はっとしてサーニャは問いかける。
「ペリーヌさん……。どう、したんですか?」
「どうってことありませんわ。その……、サーニャさんって本当に肌が白いですわね……って、思っただけでしてよ」
 ふっと顔を赤く染めてペリーヌは視線を外しながらそう云った。
 サーニャもまた照れたように顔を背けてペリーヌに言葉を返す。
「あ……、同じ事、芳佳ちゃんによく言われます。それに、ペリーヌさんだって、綺麗な白い肌ですよ」
 白皙の美少女は共に頬を紅に染め、お互いの身体をチラリと見つめ合った。
「宮藤さんが? 全く、あの豆狸は……、相変わらず破廉恥な」
「でも、ペリーヌさんも今同じ事を」
「わ、私は純粋な褒め言葉として言ったまでですわ! あの豆狸とは違って邪な感情など」
「芳佳ちゃんだって! そんな気持ちじゃ、ないと思います……」
「そ、そうですの。サーニャさんがそうおっしゃるのなら、いいんですけれど」
 珍しく声を荒げたサーニャ。
 ――意外と大きな声も出せるんですのね。と、驚き半分、感心半分といった表情を見せるペリーヌ。
 沈黙が場を支配するより速く、ペリーヌは再び話の口火を切った。
 日頃はほとんど会話をする機会のない二人だったが、いざ言葉を交わしてみると案外話が進むものである。その内容はペリーヌが特定の人物について愚痴を零して、サーニャが適当に意見を述べるといったものであったが。
「サーニャさん相手ですと、話しやすいですわね」
 しばらく会話が進んだあと、不意にペリーヌはそう云った。
「え、そんなこと……」
「いいえ。この私がそう言うのですから間違いないですわ。サーニャさんは聞き上手ですわよ」
「そんなことないです。私がただ、話すのが苦手なだけで」
「そう。なら、そういうことでいいですわ。でも、私はあなたとおしゃべりできて……、その、まぁまぁ楽しいですわ、よ」
 微妙な素直さを見せるペリーヌに、サーニャは明るく微笑んで云った。
「私も、ペリーヌさんとお話しできて嬉しいです」
 少し不器用なところのある二人だが、お互いに微笑み合えたなら、もう気不味い空気など何処にもない。
 今までのことだって、湯気のような幻想だったのだ。
「あなたも変わりましたわね」
「それはたぶん、ペリーヌさんも」
 それが誰の影響かは言葉にしないが、思い浮かべるのはきっと同じ人物で――。

130 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 4/9:2012/05/29(火) 22:15:26 ID:PvRG.hcE

W.踊る鍵盤

 戦いの中にあっても心の休まる瞬間。
 それは誰かの話し相手になっているときに他ならない。
 自然と溢れる小さな笑顔と、気付かない程のささやかな幸福。
 抱えた痛みの数だけ、それ以上の笑みがあってこそ、少女たちは幾度も空へと帰ってゆけるのだ。
 ここにもまたそんな少女たちがいる。
 談話室のソファーに腰を下ろし、他愛もない話に興じているのはエーリカとサーニャの二人だ。
 今日は既に三時間、この状態から動いていない。端から見てもありありと判る二人だけの世界。
 永遠の相にも届きそうなこの刹那、それを彩る魔法はきっと笑顔という名で出来ている。
「そういえばさぁ。こないだ久しぶりにサウナに入ったんだけど、やっぱり私には無理だったよ。暑いのは苦手だなぁ。サーニャンは、よくあんな暑いところに長いこと入っていられるね」
「慣れていますから。ハルトマンさんも、何回も入ったら慣れると思います」
「ええぇ〜、ムリムリ、絶対無理〜。私はもうあれで一生分入ったの。だから無理」
「でも、せっかくだから今度一緒に入りたいなぁ、って思ったんですけど」
「うぇぇ、サーニャンおーぼー……」
「そ、そんなつもりじゃ」
「にししし、冗談だよん」
「だったら、今度是非サウナに」
「そこは冗談じゃなくって……。ええと、なんかよくわかんなくなってきたや。サーニャンって案外頑固だね」
「そ、そうですか?」
「普段はあまり口に出さないだけでさ、ちゃんと自分の言いたいことは持ってるよね。悪いことじゃないと思うよ。それくらいが普通でしょ。まぁ、サーニャンはもっといろんな人に対しても積極的になれたらいいけどね」
 突然真面目な話を投げるエーリカ。日頃の振る舞いからは想像出来ないその姿こそが、彼女の本当の姿なのかもしれない。
「ハルトマンさんって、みんなのことよく見てますよね。たぶん、この部隊で誰よりも」
「そう思う? まぁ、危なっかしい人が多いからねぇ。私が言うのもなんだけどさ」
 そう云ってからからと笑うエーリカ。つられてサーニャもくすくすと笑った。
「そうだ! サーニャン、ピアノ弾いてよ。私が適当に歌うからさ!」
 そんな提案をしたエーリカは、サーニャをピアノ椅子に座らせ、意気揚々と歌い出した。
「もしも会えたら〜、あなたを見〜たら〜♪」
「その歌……」
 エーリカの歌に聴き覚えがあるのか、サーニャは驚きを声にした。
「宮藤が歌ってたんだ。良い歌だったから覚えちゃった」
「私も、その歌を芳佳ちゃんに教えてもらいました。大切な、会いたい人のことを歌った歌だって」
 大切な人。
 会いたい人。
 遥か遠くの地へと想いを馳せるように、サーニャはピアノをじっと見つめる。
「へー、そういう歌だったんだ。ちょっと切ない気もするけど、だからこそ歌うんだよね。会いたいって気持ちをさ」
 悲しいことも、辛いことも、思い出しそうになる時にこそ歌うためにある歌なのだと。
「サーニャンもそう思って歌い続けてるんだよね。いつか、届くといいね」
 天使の笑顔を見せるエーリカに応えるように、サーニャはそっと指を踊らせる。
 即興のピアノ伴奏で歌う二人だけの小さな演奏会。
 それは遠く離れた空の下にまでも響きそうなほどの、願いと共に――。

131 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 5/9:2012/05/29(火) 22:16:42 ID:PvRG.hcE

X.雨の日の夢

 しとしとと降り続く雨。
 ここ数日は崩れがちの天候が続き、湿った空気が基地中を取り巻いている。
 窓に寄りかかって雨を眺めている少女が一人。
 何処か物憂げな瞳は、窓の外の風景ではなく、遠い過去の情景を見つめているかのようだった。
 それは幼い日のとても大切な想い出で……。鮮明に色褪せていった記憶を、もう幾度色を重ねたかしれない記憶を、未来へと繋げるように思い出してはそっとしまい込んだ。
 カツカツカツ、と反響する靴音に気付いたサーニャは窓から目を離した。
「雨は、嫌いか?」
 いつの間にか隣に立っていた坂本はそう問いかけた。
 どう答えたものかと少し思案して、サーニャは小さく首を振る。
「そうか。いやな、少し寂しそうな表情をしているように見えたものでな。どうかしたのだろうかと思ったんだ」
 ――部下の精神状態を気遣うのも上官の務めだからな。と言いながらも、坂本は優しい表情を見せる。
 普段の坂本からは想像もつかないような柔らかな笑みに、サーニャは少し身を寄せて口を開いた。
「小さい頃に、今日みたいに雨が振り続いていた日があったんです。その時も私はずっと窓の外を眺めていました。雨粒の音を数えたりして。そしたらお父さまがそれを聴いて唄を作ってくれたんです。ピアノで、私のためだけに、私の唄を」
 窓枠で切り取られた風景は、サーニャの心象を映す鏡のようでもあった。
「確か、サーニャのご家族はオラーシャの東の方へ避難されていると聞いたが」
「はい。でも、もう会えないわけじゃないですし、無事でいることも確認しています。今でも雨を眺めていると昔のことを思い出しますけど、悲しいから、寂しいからじゃなくて……。私とお父さま、お母さまを繋いでくれる、とても大切な想い出だからです」
 雨粒が弾けては消える音が途切れることなく繰り返される。まるで壊れたレコードが円盤を逆転させたかのように。
 雑音の如く降りしきる雨。幻想を摑もうと伸ばした手は、冷たい窓硝子に阻まれた。
「でも……やっぱり思い出してしまうと、会いたくなってしまいます……」
 本当は今すぐにでも、ウラルの山の向こう側へ飛んでいきたい。いつだって飛べる翼はあるのに飛んでいけない。
 籠の中の小鳥が自由な空を夢見て歌うように、サーニャが大切な唄を口ずさもうとしたその時、ガラクタを落っことしたような面妖な音が背後から響き渡った。
 驚愕に目を見開いて振り返ると、ピアノに指をかけ同じように驚いた表情のまま固まった坂本の姿があった。
「あはははは……。いやぁ、なんだ。サーニャを、元気づけようと思ってな」
 弾けもしないピアノを叩いてみたら、予想以上に強い音が出て驚いたのだろう。坂本は苦笑しつつも続けた。
「故郷を離れ、家族と離れ、辛い思いをする時もあるだろうがな。そういう時はもっと頼ってくれていいんだぞ? 先刻みたいに話してくれていいんだ。私たちだって、家族なんだからな」
 それまでは怖い上官という印象が強かった坂本に対して、サーニャはようやく明るい笑顔を見せ、こう云った。
「坂本少佐って、お父さまみたい――」
「お、おと……」
「あ、ごめんなさい……」
 思わぬ言葉に面食らった坂本だったが、少しはそう言われる自覚があるのだろう、いつもの豪放さで闊達に笑った。
「はっはっはっはっ! なに、気にすることはない。それにしても、お父さまか……」
 慈しむようにサーニャを見つめるその瞳は、大空を舞う鷲のような透き通った温かさに満ちていた。
「聴かせてくれないか? サーニャの唄を」
 雑音混じりに聴こえた雨も、今では心の隙間に滲み入る和声となった。
 それはサーニャが歌う唄の、優しい伴奏のようでもあった。

132 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 6/9:2012/05/29(火) 22:18:05 ID:PvRG.hcE

Y.天使の歌声

 魔女たちの寝静まった城の一室。
 薄明かりの中で、なにやら黙々と作業を続ける少女の影があった。
 彼女が弄っているのは、基地の片隅で朽ち果てていた古ぼけたラジオである。ここ一週間ほどかけて修理した甲斐があって、なんとか雑音を吐き出すようにはなった。だが未だに本来の役目を果たしてはくれない。
 流れ続ける雑音が夜の深さを物語っている。
 ――今夜はここまでかぁ。と諦めかけたその時、雑音の向こうに何かが光った。
 捕らえたその声を逃さないように慎重に繊細な調整を続ける。そして漸く辿り着いた答えは――。
「この唄声は、もしかして……」

 夜間哨戒前の小休止。今日もサーニャは一人食堂で紅茶を嗜んでいる。
 消灯後の基地内を照らす仄暗い灯りに調和したサーニャの姿は、より一層その白さが際立っている。
 澄み渡る静けさの底で、サーニャの耳は遠くから聞こえる足音を捉えた。真っ直ぐに食堂へ向かってくるその気配。こんな時間に誰だろう、と思い巡らせているうちに、扉が押し開かれ意外な客人が姿を見せた。
「よっ! サーニャ」
 シャーリーは軽やかな口調で挨拶を投げかけ、サーニャの食卓に腰を下ろした。明らかにサーニャを訪ねて食堂へやってきた風である。
「何かご用ですか? シャーリーさん」
 機先を制したサーニャがシャーリーに問いかける。
「おっ、察しがいいねぇ。実は、サーニャに感謝と謝罪を言いたくてさ」
 シャーリーの思わぬ発言にサーニャは目を瞬かせる。なにしろサーニャには、何かシャーリーから感謝される、そればかりか謝罪されるような覚えなどなかったからだ。
 どういうわけだろうかと思案するサーニャに、シャーリーはある物を取り出して見せる。
「これは……、ラジオですか?」
 いかにも古めかしいその機械は、基地の談話室に設けられているラジオより幾世代か旧式の物のようだ。
「そう、ラジオだよ。ちょっと前に捨てられていたのを見つけてさ、なんかもったいないから修理してみようかと思ってね。最初はなかなか上手くいかなかったんだけど、遂に、昨日の晩に電波を捉えることができたんだ。そしたらびっくり、何が聴こえてきたと思う?」
 まるで誘導尋問のようなシャーリーの語り口に、サーニャはなんとなくだが事情を察する。
「もしかして、私の……」
 昨夜も、サーニャは夜間哨戒中に自分の唄を口ずさんでいた。それがシャーリーのラジオにも届いていたのだ。
 軽く笑ってシャーリーは首肯する。
「たまたま、こいつが受信しちゃってさ。私もサーニャの唄を聴くのは初めてだったけど、すぐに判ったよ。だからまずは感謝を、ね。素晴らしい唄をありがとう」
 まさかこんな風に聴かれていたとは。考えてもみなかったことに、サーニャは照れたように赤面する。
「それと、勝手に聴いちゃってごめんな。このことはまぁ、秘密にするからさ」
 そして軽く頭を下げるシャーリー。こういうところは意外と律儀な性格である。
「そんな、謝るほどのことじゃないですよ。それに、唄を褒めてもらえて、嬉しかったです……」
 柔らかな微笑みを見せるサーニャに、シャーリーもほっと息をつく。
 自分の唄を誰かに聴いてもらうのは、まだまだ恥ずかしいサーニャではあったが、それも悪くはないと思えたのだ。この唄は、誰かの為に歌われた唄。ならばサーニャも誰かの為に……。
「よかったらまた、いつでも聴いて下さい」
 音楽が自身の夢であったことを、思い出すようにサーニャは云った。
「サーニャがそう言うなら、お言葉に甘えようかな。まぁ、他の人には言わないでおくよ」
 ――誰かさんの耳に入ったらうるさそうだしさ。と、陽気に笑ってシャーリーは立ち上がる。
「じゃ、私はもうそろそろ寝るとするよ。夜間哨戒、頑張って」
「はい。おやすみなさい、シャーリーさん」
 ラジオを抱えて部屋に戻るシャーリーを見送って、サーニャは任務へと走る。
 今夜の唄はどんな人に届くのだろう、と少しだけ胸を弾ませながら――。

133 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 7/9:2012/05/29(火) 22:19:15 ID:PvRG.hcE

Z.夜の眷属

 夜の空は別世界である。
 濃紺の闇に支配された空。
 境界線がひどく曖昧な空。
 初めて夜の空を飛ぶ者は、恐怖心から足が竦んでしまうのも無理はないだろう。
 夜間飛行に慣れるには、実際に夜の空を飛んでみるしかない。
 訓練の一環として、今夜の夜間哨戒はゲルトルート・バルクホルン大尉が行なっている。サーニャの僚機として……。
「夜の空は怖くはないか?」
 不意に、バルクホルンはサーニャにそう訊ねた。
 一呼吸置いて、サーニャが返答するより早く、バルクホルンは言葉を継いだ。
「我が祖国カールスラントに来ても、ナイトウィッチとしてエースを張れるだけのお前に対して、愚問だったな。すまない」
「いえ、私だって……」
 遠く、夜の果てを探すように視線を彷徨わせるサーニャ。月明かりだけが、ぼんやりと世界を映している。
「私だって、最初は怖かったです。今でも月明かりのない独りの夜は、不安になることもあります」
 それでも、今この瞬間は独りではないと語りかけるかのように、サーニャはバルクホルンに視線を向ける。
「それにバルクホルン大尉ほどの実力があれば、夜の空だって……」
「いや、そんなことはないぞ。昼と夜は別世界だ。それを一番よく分かっているのは、サーニャ自身じゃないか?」
 サーニャは決して自らの技倆に自信がないわけではない。それを誇示するようなことがないだけで。それでもカールスラントの、ひいては世界のトップエースたるバルクホルンに、認められていることは嬉しかったのだろう、赤く染まる頬が月光に映える。
 沈黙の肯定を返すサーニャにバルクホルンは云った。
「空の上では階級は関係ない。最も敵を撃墜した者が上官だ」
 事実上の上官の意図を掴みかねて目を瞬かせるサーニャに、バルクホルンは続けた。
「これはJG52時代の私の上官の受け売りだがな。まぁそういうことだ。私が昼の空でどれだけの撃墜数を上げているかは、今は不問だ。夜の空では、私はサーニャの部下に過ぎない。この空は、サーニャ、お前の空だ」
 エースとしての風格、その力強い言葉の煌めきは、月の光よりも明るくサーニャの空を照らし出した。
 孤独な任務であることが多い夜間哨戒。それも全ては仲間のために。どこかで必ず繋がっている、この空は独りじゃない。
「バルクホルン大尉と夜の空を飛べて、嬉しいです……」
 そっと囁いたサーニャの心情は、さっとバルクホルンを赤く染めた。
「そ、そうか……」
「以前、芳佳ちゃんが夜間哨戒に付いて来ていたときにも思ったことです。誰かと一緒に飛ぶのは、やっぱり独りの空とは違った色が見えて、楽しいです」
「あぁ。私も、そう思う。またサーニャと一緒に夜間哨戒の任に就くのも吝かではないぞ」
「はい。その時は、よろしくお願いします」
 曇りなき笑顔は夜空に咲いた一輪の白き百合の花の如く。見惚れたバルクホルンは照れを隠すように、小さく呟いた。
「し、仕方ないな。かわいい妹の頼みだから、な……」
「え、何か言いましたか?」
「い、いや。なんでもない。なんでもないぞ!」
「でも今、妹って聞こえたような」
「そ、それはだな。妹のように慕っているという意味でだな。あくまで比喩だぞ! 例え話だ!」
 慌てて弁解するバルクホルンに、サーニャは苦笑しながら云った。
「バルクホルン大尉は、芳佳ちゃんに対してもそんな感じですよね。私なんかより」
「な、なぜそこで宮藤が出てくるんだ。いや、私はそんなに、分かりやすいか……?」
「はい」
「サーニャ……。案外、きっぱり言うときは厳しいな……」
 項垂れるバルクホルンに、サーニャは取り繕うように声をかける。
「わ、私も芳佳ちゃんのこと好きですよ!」
 その言葉は、他の隊員たちの想いの代弁として語られたに過ぎない。だが、サーニャ自身にもその本心は何処にあるのか、判然としなかった。
「そうだな。あいつは、ときに無茶をやらかすが……。憎めないやつだ」
 本当に、サーニャの気持ちはそれだけなのか。
 仲間として、親友として。それとも……?
 とりあえず、この話はここまでで終わった。
 遠く夜の彼方では、黎明の色が忍び寄って来ていた……。

134 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 8-1/9:2012/05/29(火) 22:22:06 ID:PvRG.hcE

[.月下の魔女

「サーニャさん……」
 夜という名の衣装に身を包み、滑走路に佇む一人の魔女。発した声は凛として、張り詰めた空隙を撃ち抜いた。
 曇天の暗幕に閉ざされた今宵の空は異様なほどに暗く、音一つなく、まるで異界に迷い込んだかのようであった。
 魔導針の微かな灯りと確かな導きを頼りにサーニャは視る。夜目の効くサーニャでさえもほとんど目視できないほどの闇の向こう。黙視する瞳はサーニャを的確に捉えている。
 滑走路という名の舞台上、キャストは揃った。
 刹那、幕が上がるかのように雲が裂ける。
 闇に穿たれた満月が煌々と二人を照らし出す。
 現実感の喪失した情景。
 ボーイズ対戦車ライフルのシルエットが、重く鈍く圧し潰すように伸びて来る。
 ストライカーを装着していないその姿が、不気味なほどアンバランスに感じられた。
「サーニャさん」
 リーネはもう一度、夜間哨戒へ飛び立とうとする仲間を押し留めるように云った。
「ちょっと、お話ししましょう。芳佳ちゃんのことで……」
 ――芳佳ちゃん。その一言が、いとも簡単にサーニャの翼を剥ぎ取った。
 激情を押し込めたリーネの表情。大海にも似た深さを湛えた蒼玉の瞳は、夜を纏って冥く沈んでいる。
 氷ったように冷たい月だけが、二人の行く末を静かに見つめていた。

 不思議な娘だというのが、サーニャの宮藤に対する第一印象であった。これは他の隊員にとっても同じことであろう。
 軍人としての教育を全く受けていない宮藤が、いきなりエースの集まる統合戦闘航空団に配属される。それだけでも充分にイレギュラーなことであった。
 そんな宮藤の存在が、501にとっての新しい風となった。
 足りなかった最後の欠片として、皆を導く灯りとなった。
 気付けば宮藤はいつでも輪の中心にいる。何事にも一所懸命で、誰とでも打ち解けられる。
 サーニャは宮藤のことが、少しだけ羨ましかったのかもしれない。
 そして、あの誕生日の夜の空。
 確かに二人の心は触れ合った。
 二人は同じ場所に立っていた。
 そのことが、サーニャには嬉しかったのだ。

135 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 8-2/9:2012/05/29(火) 22:22:59 ID:PvRG.hcE
 それからの日々で、二人の距離は確かに近づいていった。お互いに友と呼べる存在として。それはサーニャにとっても疑う余地のないことであった。ただそれは、誰もが宮藤に惹かれるように、サーニャもその一部なのだと。
 
 ――本当に、私の気持ちはそれだけなのか……?

 サーニャの気持ちに陰が差したとき、まるでそれを見透かしたかのように、リーネが眼前に立ちはだかった。
 月光によって分かたれた夜の海を前に立つ二人は、ただ茫漠とした闇を見つめている。
 夜の空以上に底知れない夜の海。時折、月が雲に隠されて一層その闇を深くする。
 何も言わないリーネに対して、サーニャはおずおずと口を開いた。
「あの、リーネさん……。お話ってなんでしょうか……? あの、何もないんだったら、私はもう夜間哨戒に」
「芳佳ちゃんは、あなたのことが好きなの」
 一瞬の言葉の閃光。リーネが放った透明な弾丸は、サーニャの心の奥深くに根差した疑惑の真中を、精確に撃ち抜いた。
「………………」
 突然の告白にサーニャは驚愕して動けない。リーネはもう一度、容赦なく引鉄を引く。
「芳佳ちゃんは、サーニャさん、あなたのことが――」
「それはっ……!」
 ようやく声を発することのできたサーニャはリーネに問い質す。
「私だけじゃなくて……他のみんなだって、同じように――」
 皆は宮藤のことが好きで、宮藤は皆のことが好き。仲間として、親友として……。
 そう問うたサーニャに、リーネは厳然として否定を返した。
「違うわ。芳佳ちゃんは、あなたのことを他のみんなと同じようには見ていない。もっと特別な存在として」
「どうして! どうしてリーネさんが、そんなことを……」
 明白な事実を告げるかのようなリーネの口調に、サーニャは困惑を隠せない。
 実際にリーネの発言が真実だとして、何故リーネはそれをサーニャに伝えるのか。
 雲に隠れていた月が再びその姿を現し、蒼白の光線が二人を対立させる。
 澱んだ静寂を切り裂くように、一陣の風が吹き抜けた。
「あなたは芳佳ちゃんのことをどう思っているの?」
 決意の潜んだ声色で、リーネはサーニャに問いかける。
 そして答えを返せないサーニャを待つことなく、リーネは毅然として宣言した。
「私は、芳佳ちゃんのことが好き!」
 これ以上留められるわけにはいかないと、サーニャは夜間哨戒へと飛び立つ。まるで現実から逃げ出すかのように。
 その背中に向けて、リーネは更に悲愴な叫びを撃ち放った。
「あなたなんかに、芳佳ちゃんは絶対に渡さない!!!」
 その言葉は漆黒の闇に吸い取られて反響することなく消えていった。
 だがサーニャの耳には消えることなく、いつまでも残留した。
 長い夜は、まだ始まったばかり――。

136 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 9-1/9:2012/05/29(火) 22:24:47 ID:PvRG.hcE

\.白百合の花

「どうしたの? サーニャちゃん?」
 不意に振り向いた宮藤が真っ直ぐな瞳でサーニャに問いかける。
 おそらくサーニャは無意識の内に宮藤をじっと見つめていたのだろう。
「ううん。なんでもないわ」
 少しだけ気不味く目線を外しながらもサーニャは簡潔に返答する。
 ここ数日、サーニャの宮藤に対する態度に不自然な点が少なからず見受けられた。宮藤はそれに気付いているのか、いないのか。表面上はいつも通りに見える気の置けなさで宮藤はサーニャに云った。
「そうだ、サーニャちゃん。今から一緒にお風呂に入らない?」
 唐突な宮藤の提案にサーニャは言葉を失う。そして言われるがまま、宮藤に手を引かれて風呂に入る運びとなった。

 小さな二人にとって大浴場はあまりにも広い。
 サウナに入ることが多いサーニャにとっては、馴染みの薄い場所でもある。
 上半身にバスタオルを巻いて入ろうとするサーニャに、宮藤はさりげなく注意した。
「サーニャちゃん、バスタオルなんかつけなくても大丈夫だよ。どうせ二人だけなんだし」
「え、でも……」
「それにタオルなんて巻いてたら身体洗えないでしょ」
 さっとタオルを引き剥がし、宮藤はサーニャの手を取った。
「お風呂に入るときは、まずは身体を洗ってから。サーニャちゃん、背中流してあげるよ」
 為されるがままに椅子に腰を下ろしたサーニャ。シャワーが熱い湯を二人に浴びせる。
 宮藤がサーニャの白い背中に手を伸ばす。一糸纏わぬ姿で、こんなにも近い距離。サーニャの顔が赤く染まるのは、湯の熱によるものだけではないだろう。幸いにして宮藤からはサーニャの表情は見えない。そしてサーニャからも、宮藤の表情は見えない。背中越しに鼓動の揺らめきが伝わってしまうのではないだろうか、と不安になるサーニャだが、その背中に触れた宮藤の手も心なしか震えているように感じられた。
 生きている証の響きがぎこちなく混ざり合う。サーニャが想像する宮藤の表情も、風呂の熱以上に赤く染まっていた。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
 藪から棒に囁かれた言葉。その意味がサーニャには解らない。沈黙するサーニャに宮藤は続けて云った。
「この言葉は扶桑の諺なんだよ。美しい女性を形容する言葉。サーニャちゃんにね、ぴったりだと思うの」
 リーリヤ。
 百合の花。
 サーニャの通称として語られることもある、その花の名前。
 壊れやすい花を包み込むような愛おしさで、サーニャに触れる宮藤の掌は、融けてしまいそうなほどに火照っている。
 そこから伝わる溢れんばかりの感情は、サーニャの心の深くに兆した傷痕にまで、確かに届いた。
 続く言葉を待つように、サーニャは息を潜める。
 それに呼応するように、宮藤は口を開いた。

137 名前:リーリヤ 〜サーニャのための九つの短編〜 9-2/9:2012/05/29(火) 22:25:48 ID:PvRG.hcE
「あと扶桑ではね、百合の花って女性同士の愛の象徴でもあるんだよ」
 そう云った宮藤はそっとサーニャを抱きしめる。
 背中に触れた小さな胸の感触と大きな鼓動。
 熱すぎる吐息に乗せて、サーニャの耳元で宮藤はその心情の全てを打ち明けた。

「わたしは、サーニャちゃんのことが好き――」

 その刹那、サーニャを取り巻いた情動は、過去から未来へ、地から天へ、世界を統べる一切の原理を超越した高みを廻り、真理の水面へと漂着した。
 永遠にも似た泡沫の真中。
 一瞬の交錯の後、二人の心はすれ違う。
 視線を交わすこともなく、言葉を交わすこともなく、お互いにそれが判ってしまった。
 だからこそ宮藤は、静かにその身を引き離す。
「ごめんなさい、芳佳ちゃん。私は、あなたの気持ちには応えられないわ」
 サーニャがようやくその身を翻し、二人は真っ直ぐ見つめ合う。
 不思議と二人の表情には、微笑みが宿っていた。告白の傷痕として、宮藤の目元に一雫の涙を残して。
 このところサーニャを悩ませていた問題も、今では綺麗になくなっていた。
 どんな形であれ、サーニャが宮藤に好意を抱いていることには変わりはない。
 それは仲間として、かけがえのない友として。
 そしてサーニャは、自らの本当の心の在り処にも気付いたのだ。
 宮藤よりも、もっと近き場所にいる、その存在者に――。
「そうかぁ……。サーニャちゃんには、もう既に還る場所があるんだね」
「うん。きっと、そうみたい――」
 ――ちょっと悔しいなぁ。と、涙を拭いながら宮藤は拗ねたように呟く。
 ごめんなさい、とサーニャはもう一度心の中で付け足し、自身を確かめるように瞳を閉じた。
 遥か遠くの過去からそうであったかのような幻想が実体をもって立ち現れる時、人は愛の理を知るのだろう。
 サーニャを満たした大切な想いは、未来を視つめるその人の下へと……。
 手を差し伸べるその姿が、自らを導く灯火となるのを、サーニャは確かに観つめていた――。


]...

「おかえり、サーニャ」
「ただいま、―――」


   fin...

138 名前:62igiZdY:2012/05/29(火) 22:31:36 ID:PvRG.hcE
以上です。(文字数カウントミスった恥ずかしいorz)
サーニャとあまり接点のない501メンバーとの会話を書きたいという思いつきから、
連作短編のような形にしてみました。ブリタニア時代のつもりです。
劇場版以降でも何か書いてみたいですね。
では失礼して。

139 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/05/29(火) 23:22:07 ID:sQsgmWK6
>>126 62igiZdY様
素晴らしくGJです! 501メンバーとの色々な場面。ほっこりもシリアスも有ってステキです!


こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
先日のフミカネ先生のイラスト&ツイートに触発されて
全然関係無いものをひとつ書きましたのでどうぞ。

140 名前:color of love II:2012/05/29(火) 23:23:17 ID:sQsgmWK6
「おおっ……これは!」
 トゥルーデは何気なくテーブルに置かれた一枚の写真を見るなり、目の色が変わった。そこをすかさずエイラがかっさらっていく。
「こらァ! サーニャをそんな目で見んナ! 汚れるダロ」
「何を言う、失礼な!」
「まあまあ二人とも」
 言いつつ、エイラの手元からするりと写真を取り上げて、へへーと見入るエーリカ。
「あ、おい中尉!」
「サーにゃん可愛いね。この服、戦勝記念だって」
 写真に写るサーニャの姿。それは常日頃見慣れた戦闘用の服ではなく、パレード用のものらしい。
「なるほど。それであんな可愛いらしい……」
「おッ? 大尉、今可愛いとか言ったカ? 言ったカ?」
 ニヤニヤしながらトゥルーデの脇を突くエイラ。
「トゥルーデは妹馬鹿だからね、仕方無いよ」
「何だその言い方は」
 腕組みしたままエーリカとエイラを交互に睨む。
「そうだ、エイラも気をつけるんだね。案外近い所に恐ろしい『お姉ちゃん』が居るかも知れないよ?」
「うえエ? それはちょっとナ……」
 トゥルーデをチラ見しながら、エイラはおずおずと去っていく。むっとする「お姉ちゃん」。
「ところでトゥルーデ。戦勝パレード用もそうなんだけど、ちょっと付き合ってくれる?」
 サーニャの写真をささっと胸ポケットにしまい込むと、エーリカは改めて幾つかの紙を取り出した。
「藪から棒に何だ、エーリカ」
「アグレッサー用戦闘服ってのも有るらしいよ」
「アグレッサー、か。ふむ。と言う事は、戦術教官に誰かがなると言う訳か」
「うん。トゥルーデと私」
「んんっ? どう言う事だ? 私達が教官? 教える前にまず戦うのが先だろう」
 いきなりの事でやや混乱気味のトゥルーデ。エーリカは顔を近付けると真顔で言った。
「まあ、私はあと数年時間があるけど、トゥルーデはウィッチとしてのあがりが近いんだよ? ミーナもそうだけど」
「それは、まあ」
「まだ現役で目一杯飛べるうちに、後輩にテクニックを教えるのも良いんじゃない? それもエースの立派な役目だと思うよ」
 言われてみれば、とトゥルーデは自分を省みる。常に戦いの最前線に居た。そして今も居る。だからこそ、と言う気持ちも強い。ゆっくり絞り出すかの様に呟く。
「確かに、教育は大事だ。だが、私は一匹でも多くの……」
「可愛い妹みたいな後輩が居るのにな」
 茶化すエーリカに、トゥルーデは肩透かしを食らった感じで思わずきつめのトーンで否定する。
「私を頭のおかしな姉みたいに言うのはやめないか! ……で、どんな奴なんだ?」
「興味ありありじゃん。トゥルーデってば」
 エーリカは先程取り出した何枚かのラフスケッチを卓上に並べ、トゥルーデに見せた。
「ま、とりあえずデザイン。アグレッサー用戦闘服案その一。ネウロイタイプ」
「……おい。ただ真っ黒な下地に薄いハニカム模様が描かれてるだけじゃないか。黒髪のカツラまであるし、何だこれ」
「ミヤフジや504が以前接触した、謎のネウロイに似せてみました〜」
「あれは特殊な奴だろ? そもそも腕からビームとか出せないからな。て言うか幾ら敵の色が黒だからって、ここまで無理矢理に似せなくても……」
「じゃあこれ。案その二。派手めの砂漠迷彩」
「アフリカにでも行けと言うのか」
「あれ、マルセイユの事でも思い出した? にしし。ならこっち。案その三。派手めの森林迷彩」
「ちょっと地味、かな」
「うーん。なら案その四、派手めの青紺模様」
「お、これは……」
「反応したね、トゥルーデ。私もこれかなーって思った」
「エーリカもか。何となくだが501に似合う感じがする」
 お互い顔を見合わせ、頷き合う。
「やっぱり仮想敵を演じるんだから、相手から『見えなかった』とか言い訳されないように、視認性良くないとね」
「確かにそうだ」
「それに格好良くないと。これイイ感じだよね。じゃあ、ミーナに言いに行こう」
「えっ、どう言う事だ?」
「服だよ。この柄に決めたって言わないと」
 腕を引っ張るエーリカに、トゥルーデは疑問をぶつける。
「待て、それはつまり、私とエーリカは飛行教導隊に行くと言う事なのか?」
「決まった訳じゃないよ。でもほら、とりあえず作って501も演習用に使うのも面白いと思わない? いつも同じ服でもねー」
「お前の好みか。……まあ、良いけど」
「二人お揃いの服って良いよね。これで私達無敵だね。相手を片っ端から……」
「エーリカ。お前は教育したいのか遊びたいのかどっちなんだ……」
「ま、とりあえずミーナのとこに行こう、トゥルーデ」
「分かった分かった……」
 悪い気はしないトゥルーデは、ひっついてくるエーリカの肩をそっと抱き寄せ、並んで歩く。
 ふふっと微笑むエーリカは、トゥルーデに身体を預けた。

end

141 名前:名無しさん:2012/05/29(火) 23:23:42 ID:sQsgmWK6
以上です。
カラー的には、現在の自衛隊や米軍アグレッサー部隊の
迷彩模様なんかを念頭に書いてみました。
501には青系が合うと思いますが、如何でしょうか。
誰かアグレッサー制服描いてくれないかなーとか……

ではまた〜。

142 名前:名無しさん:2012/05/29(火) 23:47:51 ID:sQsgmWK6
あ、忘れてました。
先程のSSは保管庫No.0450「ring」シリーズ続編と言う事で
宜しくお願い致します。
ではまた〜。

143 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/06/18(月) 23:44:48 ID:.ytfoJ4A
>>122 DXUGy60M様
GJです!
階級ではなく、さん付けで呼ばれたいと思うペリーヌさんが可愛いです。
アメリーの心情の描写も素敵ですね。
大好きな組み合わせなので、アメリーヌはもっと流行ってほしいです。

>>126 62igiZdY様
GJです! どの作品も非常に読み応えがありました。
サーにゃんにはいつまでも501のみんなに愛されていてもらいたいです。

>>139 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです! フミカネ先生の白サーにゃんは可愛すぎたので、お姉ちゃんが虜になるのも無理ないですね。
確かに501には青色が似合いそうですね、エーゲルの別バリエーションの軍服も是非見てみたいです。

こんばんは。ラジオウィッチーズ第30回でのエーゲルの絡みがおいしかったので、
それを元に(?)1本書いてみました。
いつも通り糖度高めなのでご注意を。
では、どうぞ

144 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/06/18(月) 23:45:10 ID:.ytfoJ4A

【妹じゃなくて――】

その日は、サン・トロン基地のハイデマリー少佐が501基地を訪れていた。
カールスラントの3人に、司令部からの書類を届けに来てくれたのだ。

「ミーナ中佐、こちらの書類にサインをお願いします」
「ええ。いつもありがとね、ハイデマリーさん」
「いえ……ところで、バルクホルン大尉とハルトマン中尉はどちらに? お2人にも記入してもらいたい書類があるのですが」
「トゥルーデは昼食を作ってるところよ。エーリカは部屋の掃除をしてるわ」
「ハルトマン中尉が掃除……? 1人でですか?」
「もちろん、宮藤さん達に手伝ってもらってるわ。あの子1人だと面倒くさがって、途中でやめちゃうもの」
噂をすれば影といったところか、そこに芳佳とリーネと静夏を従えたエーリカがやってくる。
「疲れた〜。もう掃除嫌だ〜」
食堂の椅子に腰掛けたエーリカが、ため息をつくように呟く。
そんなエーリカの肩を揉みながら、リーネは優しく語りかける。
「頑張ってください、ハルトマン中尉。あともう少しで終わりますから」
「でも、面倒くさいもんは面倒くさいし……あれ、ハイデマリー来てたんだ」
「はい。皆さんに記入して頂きたい書類がありまして……こちらにサインをお願いできますか?」
「了解……あっ、そうだ。今部屋の掃除してるんだけど、中々片付かなくてさ……良かったら、ハイデマリーも手伝ってくれない?」
「全く、お前はわざわざ来てくれたハイデマリーに、何をやらせようとしてるんだ」
と、大きめの鍋を持ったトゥルーデが呆れ顔で入ってくる。
彼女が鍋をテーブルに置くと、良い香りが食堂中に漂った。
「宮藤にリーネに服部、ご苦労だったな。疲れただろう? こいつの部屋の掃除は」
トゥルーデがエーリカの頭をもみくちゃにしながら言う。
エーリカは、トゥルーデに無理矢理髪をわしゃわしゃされ、不機嫌そうな表情だ。
「あはは、ええまぁ……あっ、今日のお昼はシチューですか?」
「ああ。たまには、茹でたイモ以外の料理を作ってみようと思ってな」
「凄く美味しそうです! リーネちゃん、静夏ちゃん、早く食べよ」
芳佳は、おやつを待っていた仔犬のように喜んで、リーネと静夏を両隣に座らせ自分も腰掛ける。
こう見えても、3人の中では1番階級が上である。

「ハイデマリー少佐も食べてくといい」
「あっ、はい。ではお言葉に甘えて……」
「わぁ、美味しそう! さすが、トゥルーデだね。私も頂こうっと」
シチューを食べようとしたエーリカを、トゥルーデがすかさず静止する。
「お前は、部屋の掃除を終わらせてからだ」
「ええ〜、食べ終わってからでいいじゃん」
「そう言って、お前はいつも後回しにして結局やらないだろう? 今できることは今やれ」
「うぅ〜、トゥルーデの鬼! 意地悪! 姉バカ!」
「姉バカは余計だ。お前の分は残しておいてやるから、早く終わらせてこい」
「……分かったよ。芋は多めに残しておいてね」
エーリカはそう言うと、渋々食堂を後にする。
「やれやれ、あいつの部屋をすぐ散らかす癖、なんとかならないものだろうか」
エーリカを見送った後、トゥルーデが呆れるように呟く。
それを聞いてミーナは、肩をすくめて苦笑いの表情を浮かべた。

145 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/06/18(月) 23:46:17 ID:.ytfoJ4A

――それから十数分後……

「宮藤、おかわりはいるか?」
「はい! ありがとうございます」
「リーネと服部も遠慮しないで、もっと食べるといい。たくさん栄養を採っておけば、有事の時にも存分に力を発揮できる」
「あっ、はい。少し頂きます」
「は、はい! では、お言葉に甘えておかわりを頂きます!」
芳佳とリーネと静夏のお皿にそれぞれ、トゥルーデがおかわりをよそう。
芳佳達に優しく声をかけるその姿は、3人の姉そのものだ。
「"あれ"を見てると、501に戻ってきたって感じするよな」
そんなトゥルーデのお姉ちゃんぶりを見ながら、シャーリーが隣のエイラに囁く。
「ああ。何だか安心するんダナ」
エイラはそう答え、シャーリーと顔を見合わせてニヤニヤと笑う。
何かイタズラを思いついたような不敵な笑みだ。

「お〜い姉ちゃん、私にもおかわりよそってくれヨ」
「姉貴、こっちも頼む」
と、からかうように501のお姉ちゃんを呼ぶエイラとシャーリー。
そんな2人にトゥルーデは、ニコリともせずに「お前達は自分でよそえ」と冷たく言い放った。
「冷たいねぇ。あたしらも一応、年下なんだけどな〜」
「差別ナンダナ」
それを聞いたトゥルーデは更にムッとなって、シャーリーとエイラに自分の妹論を語り始める。
「いいか? 妹とは素直で、可憐で、柔和な存在のことを言うんだ。お前達はそれに該当しない。
 特にエイラ、お前には姉がいるんだろう? もっと妹らしく振舞わないとお姉さんも悲しむんじゃないか?」
「いや、妹らしくって言われても私、姉ちゃんの前ではいつもこんな感じだし……」
やや興奮気味に詰め寄ってくるトゥルーデに、さすがのエイラもタジタジの様子だ。

「ミーナ中佐、何だかバルクホルン大尉の様子がいつもと違うような気がするのですが……」
「気にしないで。ある意味、あれが通常運転みたいなものだから……」
熱心に妹論を語るトゥルーデを見て困惑する静夏に、苦笑しながらミーナが囁く。
「あの、ハルトマン中尉もバルクホルン大尉の"妹"なんですか?」
今度はハイデマリーが、疑問に思ったことをミーナに訊ねる。
いつも一緒にいるエーリカとトゥルーデ、傍から見ると姉妹のようだが実際のところはどうなのだろう……?
「う〜ん、難しいところね……本人に聞いてみるのが一番じゃないかしら?」
ミーナはそう言って、シャーリーとエイラに妹論を語り続けているトゥルーデの肩をとんとんと叩く。
「どうした? ミーナ」
「ハイデマリーさんが、あなたに聞きたいことがあるそうよ」
「ん? 何だ、ハイデマリー」
「大尉、ハルトマン中尉も今語っていた"妹"に該当するんですか?」
ハイデマリーのその問いに、少々考え込むトゥルーデ。
「ふむ……確かにあいつは1番の相棒ではあるが、妹とは少し違うな。例えるなら……」
「夫婦みたいなものか?」
と、横で聞いていたシャーリーが、からかい半分に問いかける。
「……そうだな。この6年間、嬉しいときも悲しいときもあいつはいつも傍で、私を支えてくれた。
私にとってあいつは、嫁みたいなものかもしれない……って、な、何を言わせるんだ!」
言ってる途中で急に恥ずかしくなったのか、思わず声を荒げるトゥルーデ。

146 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/06/18(月) 23:47:08 ID:.ytfoJ4A
「いや、大尉が勝手にペラペラ喋ったんダナ」
「無意識に口から出たってことは、今のがあんたの本音なんだよ」
「と、とにかく! 今のは忘れてくれ。こんな話、もしあいつに聞かれでもしたら――」
「ふ〜ん。トゥルーデ、私のことをそんな風に想ってくれてたんだ」
「な!? エ、エーリカ!?」
自室にいるはずのエーリカの声を聞いて、トゥルーデは椅子から転げ落ちそうになった。
自分のエーリカへの想いをあろうことか、本人に全て聞かれていたのだ。
「へ、部屋の掃除はどうしたんだ?」
「頑張って終わらせたよ。トゥルーデの……ううん、ダーリンのお昼早く食べたかったからね」
「っ!?」
エーリカに『ダーリン』と呼ばれ、トゥルーデはこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にする。
「何でそんなに照れてるの? 私がお嫁さんなら、トゥルーデが旦那さんでしょ? ダーリンはホントに可愛いな〜」
「ダ、ダーリンと呼ぶのはやめろ! は、恥ずかしいだろ……」
「にしし、ダーリンがシチューを食べさせてくれたら、やめてもいいよ」
と、小悪魔のような笑みを浮かべてエーリカが提案する。
正直、それも相当恥ずかしい行為だが、トゥルーデはこのまま『ダーリン』と呼ばれるよりはマシだと考え、承諾する。

「……わ、分かった。ほら、あーんしろ」
「うん……あーん」
トゥルーデはスプーンでよそったシチューを、エーリカの口へと運ぶ。
「うん、美味しい。今度は私がトゥルーデにあーんしてあげる。ほら、口開けて」
「わ、私はいい……もう食べ終わったから」
「遠慮しないで。ほらほら、あーん」
「あ、あーん……」
周囲の目など気にせずに、自分達だけの世界に入ってしまっているエーリカとトゥルーデ。
その様子は、仲睦まじい夫婦の姿そのものであった。
退役後、2人は本当に夫婦同然の生活を送ることになるのだが、それはもう少し後の話。

〜Fin〜

――――――――
以上です。
ラジオでの「エーリカは相方で夫婦であって、妹でない」という未恵さんの発言が素敵だったので、
似たようなことをお姉ちゃんにも言ってもらいました。
すでに31回が配信されているタイミングでの投下になって申し訳ありません。
では、また

147 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/07/16(月) 22:37:01 ID:3KQ3S6BM
>>146 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
超GJ! こう言う「お姉ちゃん」を待っていました!
ラジオの園崎さんのお言葉も、流石と言う他無いです。


こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
激しく今更ではありますが……、
保管庫No.1219「fire on the moon」の後日談と言う事で
一本書いてみました。ではどうぞ。

148 名前:afters 01/03:2012/07/16(月) 22:38:51 ID:3KQ3S6BM
 執務室での報告と今後の検討を終え、ようやく“任務”から解放された一同。
「しかし疲れたな、今回は」
「『疲れた』ってまた〜。昨日の夜の方が疲れた癖に」
「しょうもない事を言うな……」
 相変わらずのトゥルーデとエーリカを先頭に、エイラとサーニャ、ペリーヌと芳佳の一同はぞろぞろとミーティングルームへ。お茶の時間だ。
 生憎の空模様で、こう言う時ばかりは野外で優雅に……と言う訳にはいかず、ミーティングルームで控えめな「お茶の時間」を楽しむのが恒例だ。
 先に待っていた一同がそれぞれのお茶やお菓子を準備していた。
「遅いぞ〜。随分時間掛かったな」
 リーネと一緒にエプロン姿で居たシャーリーは、出来たてのアップルパイをお皿に取り分けて皆に渡していた。トゥルーデ達の到着を見るなり、声を掛けた。
「仕方ない、あの戦闘の後だ、色々とな」
 トゥルーデはそう答え、溜め息混じりでソファーに座った。シャーリーはトゥルーデ達の後に、誰も来ない事に気付く。
「あれ、中佐達はどうしたんだ?」
「そのうち来るだろう。先に始めて構わないと言っていた」
「了解〜。じゃあ皆、食べるか……って食うの早過ぎだろルッキーニ!」
 エプロンを脱ぎながら“フライングスタート”なロマーニャ娘の面倒を見るシャーリー。
 トゥルーデは、紅茶のカップを口に付けた。湯気と共に立ち上る優しい香りが、先程まで報告でぴりぴりしていた頭脳をほぐしてくれる。
「ああ、今日の紅茶、リーネが淹れたハーブティーなんだ。良い香りだろう?」
 シャーリーがトゥルーデの表情の変化に気付き、自身も紅茶を飲みながら話す。
「ほう。何のハーブティーだ?」
「さあ。あたしはそこまで分からない。そこにいる本人に聞いてくれ」
「知らずに用意していたのか……」
「え、紅茶ですか? あのっ、ええと、今日はペリーヌさんにこの前教わったハーブティーで……」
「えっ、あら、そうですの? 確かこれはこの前の……」
 いきなりの振りに戸惑いつつも答えるリーネ、話を広げるペリーヌ。アバウトなやり取りもまた一興。とばかりに、会話が弾む。

 その一角で、一人、妙に緊張している者が居た。
 エイラだ。
 折角の紅茶とアップルパイに手も付けず……固まっている。
 昨日の夜はその場の流れで流れ許して貰えたものの、未だ、横に居るサーニャとは何となく話し辛い。
 そんな姿をちらりちらりと眺めていたトゥルーデと目が合う。ぎくりとするエイラ。
 堅物大尉はエイラを手招きして呼び寄せた。フラフラと席を立つ「ダイヤのエース」。
「何だヨ、大尉」
「やっぱり昨日の今日ではすぐには治らないか……」
「大尉に心配される様な事じゃないヨ」
「ならどうしてサーニャと目を合わせない?」
「良く見てるナ」
「最先任尉官だからな。部下の事は把握しておかないといけない」
「トゥルーデは気になってるんだよ二人の事が」
 横でトゥルーデの分のお菓子もぱくついていたエーリカが茶々を入れる。
「お前は黙っていろ、話がややこしくなる……って私のアップルパイが!」
「ヤヤコシヤー、アーヤヤコシヤー」
「何だか面白そうな話じゃないか、ええ?」
 ルッキーニが嗅ぎ付け、シャーリーと一緒にやって来た。エイラの周りが賑やかになる。エイラは苛立ちを隠せず立ち上がって喚いた。
「ああもう、ミンナ良いんだよ私の事ハ! 気に……」
「するだろう」
「するよな?」
「するね。ニヒヒ」
「サーにゃんが可哀相だもんね」
 一同に次々と言われ、へろへろとソファーに沈み込むエイラ。言い返す気力もない。のろのろと紅茶のカップを手に取る。
「じゃあこうしよう。あたしたちが応援するから、エイラ、お前サーニャと仲直りのジャンケンしろ」
 何故かノリノリのシャーリーがエイラに命令を下す。
「何でジャンケンなんだよ〜意味わかんネ〜ヨ」
「勝ったらサーニャと仲直りして、嫁にするんだ」
 シャーリーの言葉を聞いた瞬間、飲みかけの紅茶を派手に吹くエイラ。
「ナ!? ナニイテンダ! 何で嫁!?」
「エイラ、お前もそろそろ身を固めたらどうだ」
 何故かそこでうんうんと頷いて同調するトゥルーデ。
「私を行き遅れみたいに言うナ! そもそもサーニャを嫁にってどういう……」
「私じゃ、嫌なの? ……エイラ」
 ぽつりと呟くサーニャの言葉に、一同はばっと振り向いた。やがて、皆の視線はエイラ本人に向けられる。
「い、嫌な訳あるカー!」
 やけっぱちのエイラ、彼女の肩をぽんぽんと叩くシャーリー。
「じゃあジャンケンだな」
「ジャンケンする意味が分からなイ!」
「ノリは大事だぞ〜エイラ」
「ノリで結婚なんてねーヨ!」
「嫌なの? エイラ」
 サーニャの言葉がいちいち重いのか、微妙に身を逸らすエイラ。

149 名前:afters 02/03:2012/07/16(月) 22:40:57 ID:3KQ3S6BM
「だ、だってホラ、私は先読みの魔法が使えるから」
「このバカ。だからジャンケンだって言ってるんだよ。何でサーニャの事になるといちいちヘタレるんだよお前は」
 首根っこを捕まえてシャーリーがエイラに囁く。
「そ、そんな事の為に魔法使えるカ!?」
「他では日常的に使ってる癖に?」
「そ、そんな訳無い!」
「じゃあ試しにやってみよう」
「ねえ。しよう? エイラ」
 サーニャの言葉に抗えないスオムスのエースは、身体をサーニャの方に向けた。
「うう……何でこんな事に」
「エイラさん、サーニャちゃん、『最初はグー』ですよ。それで……」
「宮藤は黙ってロ!」

 最初はグー。ジャンケン……。

「……おい」
「エイラ。サーニャに負けるとは一体どう言う事だ」
 仁王立ちでエイラに向かう大尉ふたり。
「いや、どうもこうも、私魔法、その、ええっと、使ってないシ」
「使えよぉ」
「それで良いのか」
「だって、その、ほら……」
「……」
 エイラの意気消沈ぶりに、周りも空気が澱み出す。サーニャは残念そうな顔をして、自分の手を見た。
「敗者復活戦〜!」
 そこで声を張り上げたのはエーリカだ。おおっ、と周りもどよめく。
「よしエイラ、次こそ頑張れ。どんな手を使ってでも勝つんだ」
「魔法使えってのかヨー? 卑怯じゃないカ」
「勝たないお前の方が……」
「分かった、分かったヨ、でも魔法は使わないカラナ!」

 最初はグー。ジャンケン……。

「また負けた!」
「それでもエースか、この軟弱者!」
「正直見損ないましたわ、エイラさん」
「エイラはサーにゃんそんなに嫌いなの? サーにゃん私が貰っちゃうよ?」
「そんなつもりじゃないー! ってか何でサーニャが中尉のモノになるんだヨ!? フザケルナ!」
「じゃあ何で負けたんだ」
「ちっ違うんダ! 魔法、その、使わなかったシ……」
「もう一回、敗者復活〜!」
「イエー!」
「な、何回やるんだヨ!?」

 勝敗は五回目で決した。サーニャのグーに、エイラのパーで勝負あり。歓声が上がる。
「ぐ、偶然だからナ! 偶然ダッ! 私、使ってないし魔法!」
「良いんだよ勝てば。さあ、とっておきの告白タイム!」
 背中をどんと押すシャーリー。うむ、と頷くトゥルーデ。
「こっくはく! こっくはく!」
「お前ら五月蠅イ!」
 目の前には、少し頬を染めたサーニャが立っている。エイラの言葉を、じっと待っている。エイラはそんなサーニャを正視出来ず、ちらりちらりと姿を見ながら、言葉を絞り出す。
「サ、サーニャ……その、あの、ええっと……」
 固唾を呑んで見守る一同。
 エイラは顔を真っ赤にして、たどたどしく言葉を続けた。
「サ、サーニャ……あの、私と、その、つ、つきあ……付き合って下さい」
「バカ! そこは『嫁に下さい』だろ」
「ちょっとそのまま見守っていよう」
 暴走気味のシャーリーを押し留めるトゥルーデ。
「エイラ……私で良ければ」
 サーニャがそっとエイラの手を取り、そのまま、エイラの身体を抱きしめる。
 がちがちに固まったままのエイラは、今にも失神寸前。
 周りの隊員達は一斉に盛り上がった。
「やったなエイラ! これでお前達の未来は明るいぞ!」
「ウジャー、ケッコン!ケッコン!」
 抱き合って喜ぶシャーリーとルッキーニ。
「何か、私ほっとして涙出て来ました」
「宮藤さん、貴女という人は……」
「芳佳ちゃん、私達もする?」
「えっ?」
 芳佳とリーネ、ペリーヌもかしましい。
「結果的に良かったのか悪かったのか……」
「サーにゃんの為でもあるんだし。ね、トゥルーデ?」
「ま、良いのか?」
 カールスラントのエースは、二人してソファーに座ったまま辺りの様子を眺めている。
 そこに、ようやく一仕事終えたミーナと美緒がやって来た。
「何だお前達、随分と騒がしいな」
「あら。何か良い事でも有ったの?」
「あ、坂本さん、ミーナ中佐。聞いて下さい、エイラさんが……」
「こら〜宮藤! 余計な事言うナ!」

150 名前:afters 03/03:2012/07/16(月) 22:41:20 ID:3KQ3S6BM
 夜間哨戒前のハンガー。
 いつもと同じ、準備の時間。
 ストライカーユニット、武装共に異常なし。
 淡々と出撃に向けた作業が進む。
 月夜の空へと飛び立つ前の、慌ただしくも奇妙に冷静な思考が頭を巡るひととき。

「魔法を使っていない」と、あの時エイラは言った。
 だけど本当は……無意識のうちに使っていた。サーニャの出す手を読んで、わざと負けた。
 しかし何度も何度も繰り返すうちに、本当にそれで良いのか、そもそもサーニャの本心は……と考えているうちに、ついうっかり「読み間違い」をして、勝ってしまったのだった。
 未だにあれで良かったのかと迷うエイラは、今も続く動揺を悟られない様に、わざと平静を装っていた。
 ちらりと、サーニャを見た。
 サーニャはそんなエイラを見て、にこっと笑った。そして身体を寄せると、エイラにそっと唇を重ねる。
 数秒の事でも、エイラはどこか歯がゆく、心地良い。そして先程のもやもやした気分が、晴れていく。
 ……守ってみせる。どんな敵からも。
 そんな意志を滾らせるエイラ。
 同時にその思いは、サーニャをそれだけ強く想う事の証。
 二人はストライカーユニットを履くと、揃って滑走路へとタキシングを始めた。
「行こう、エイラ」
「ああ。サーニャ」
 サーニャが手を差し出す。エイラはぎゅっと強く握る。
 哨戒中、何を話そう。さっきの話、何て言おう。
 任務以外に色々と思いが駆け巡る。
 それを察したのか、サーニャが笑った。エイラも笑って見せた。
「サーニャとなら、何処へだって」
「有り難う、エイラ」
 二人は頷いて、ふわり、十六夜の空へと飛び立った。

end

151 名前:名無しさん:2012/07/16(月) 22:44:44 ID:3KQ3S6BM
以上です。
エーゲルを前提として、
(前回話から引き続き)不安定気味なエイラーニャ、
それを後押しするシャッキーニ&その他501メンバー的な感じで。

ではまた〜。

152 名前:62igiZdY:2012/07/22(日) 04:46:32 ID:Ntrvuxhs
>>139 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
トゥルーデでなくともあのサーニャにはやられますね。
エーゲルのペアルックとは妄想がはかどります!

>>143 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
これまた美味しいエーゲルをありがとうございますw
この二人はまさに夫婦というに相応しいコンビですね。

>>147 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
エイラーニャのじれったい感じが良いですね。
他のメンバーも巻き込んだ修学旅行的な雰囲気が素晴らしいです!

こんばんは。62igiZdYです。
たまにはウィッチーズがおしゃべりしているだけのギャグ的なものを書きたくなったので。
劇場版ネタバレ&微エロ注意ということでよかったらどうぞ〜。

153 名前:鼎談 おっぱい星人編 1/4:2012/07/22(日) 04:52:06 ID:Ntrvuxhs

エイラ「さて、宮藤がその本性を露にしてから、幾度季節は巡っただろうか」

宮藤「え? エイラさん? なに変なナレーション入れてるんですか?」

エイラ「最初は無垢な新人を装い、人畜無害な仔犬を装い、しかしながらその視覚と触覚は常にある特定の部位へと伸びていた。我等が同士ルッキーニよ、オマエはいつからそれに気付いていたか?」

ルッキーニ「あたしは最初から気付いていたよ。最初のミーティングのあとに、エイラが『リーネはおっきかった』って言った瞬間からね」

エイラ「さすがは同士ルッキーニ。仔猫の眼は誤魔化せないんダナ」

ルッキーニ「ホントは豹だけどねん♪」

宮藤「ルッキーニちゃんも……。なんなんですかこの尋問的な空気は」

エイラ「ふふん♪ 私はな、宮藤。同士としてオマエのことが誇らしく思うと同時に、末恐ろしくも思うのだ。だから今日はオマエに教えてやらねばならない。おっぱい星への道程は果てしなく長いということをっ!」

宮藤「おっぱ…って、え、えええええええぇ! エイラさん!? わ、私、別にそんな……」

ルッキーニ「またそーやって誤魔化そうとするー」

宮藤「ルッキーニちゃん!? べ、別に誤魔化してなんか……」

エイラ「さて、宮藤の弁解はその辺にしておいて。」

宮藤「弁解って、私まだ何も言ってない!」

エイラ「まぁ待て。まずは決定的な証拠VTRをご覧頂こう」

宮藤「って、このスクリーンどこから出てきたの!?」

ルッキーニ「1期、2期は見飽きちゃったからー、最新のヤツいっちゃおー!」

エイラ「ポチッとな」

 カラカラと回り出す映写機。
 夜、ペリーヌの居城の一室。

エイラ「さて、まずはこのシーンだぞ。もうお馴染みだから今更説明はいらないナ。そう、ターゲットはリーネだ」

ルッキーニ「必要以上にくっついちゃってるねー。甘い、甘すぎるよ! 芳リーネ!」

宮藤「こ、これはそのぅ……。私、そんなに寝相がいい方じゃないから……たまたまね。そう! 偶然そうなっちゃっただけで」

エイラ「眠りに落ちてさえ、無意識下でさえ、その手は在るべき場所へと還る。これがっ、宮藤の、固有魔法っ!」

宮藤「ちがいます! そんな都合のいい魔法なんか知りません!」

ルッキーニ「都合のいい? よしかー、それってどういう意味かなー?」

宮藤「い、いやぁ……あはははは、私そんなこと言ったっけ? 空耳じゃないのかなぁ」

エイラ「はぁ……ま、いいダロ。こんなのはいつものことだしサ。さて、お次はこのシーン。ここではなかなか高度なテクが使われているゾ」

 映し出されたのは天城の一室での場面。

 『服部さんっていくつだっけ?』
 『歳ですか? ……』

エイラ「セクハラだな」

ルッキーニ「よしかー、上官だからってこれはないなー」

エイラ「うんうん、セクハラにしてパワハラだな」

宮藤「ええええええええぇ!? なんでですか!? 普通に年齢を訊いただけじゃないですか!」

エイラ「いいや違うな。オマエは年齢を訊ねたのではない! それはオマエの視線がよーく物語っているじゃないか」

 巻き戻る映写機。
 問題の場面を繰り返す。

エイラ「ここだ! ここで宮藤は完璧に服部軍曹の胸を見ている。つまり、宮藤が訊ねたのは年齢がいくつかではなく、バストサイズがいくつかだったんだよ!」

ルッキーニ「な、なんだってー!!!」

宮藤「そそそ、そんなわけないじゃないですかー! 話の流れからも年齢だって明らかでしょう!」

エイラ「ちっちっち。宮藤、私はオマエの本能に問いかけているんだ」

宮藤「わ、私の、本能……?」

エイラ「そうだ。宮藤少尉にではなく、おっぱい星人宮藤芳佳にな!」

154 名前:鼎談 おっぱい星人編 2/4:2012/07/22(日) 04:54:16 ID:Ntrvuxhs

宮藤「だ、だから、おっぱい星人って、いったい……」

 唐突にルッキーニが宮藤の胸を掴む。

宮藤「ひゃ……」

ルッキーニ(?)「よしかのなかにいるもうひとりのよしか。ねぇ、きづいているんでしょ?」

 光の失せた瞳でルッキーニは宮藤の心を射抜く。

宮藤「あっ……る、ルッキーニ、ちゃん……あ…あん…そんなに、揉んじゃ、や……んん……」

ルッキーニ(?)「どうしたの? そんなにあかくそまっちゃって。せめられるのにはなれてない?」

 ルッキーニの追及の手は止まらない。
 宮藤に耳と尻尾が現出する。

宮藤「そ…そんなぁ……服の…ん…下から、なんて……だめだよぉ……」

ルッキーニ(?)「ねぇ……」

 徐にルッキーニが宮藤の耳に齧り付く。

宮藤「ひゃん!!?」

 宮藤は大きく身体を震わせて膝を着く。
 その表情は紅に染まり、その声には艶色が灯る。

宮藤「はぁ……みみ…かじったらあぁ……い、いやぁぁぁあ……っん……!」

ルッキーニ(?)「ねぇ、きこえてる? あたしはききたいな。よしかのほんとうのこえを。いつかのゆめがうつした、よしかのよくぼうを。ねぇ、きかせてよ!」

宮藤「あ、あぁ……いや……だ、だめぇぇえええっんんんんんんんっ……!!!!!!!!」

 撃墜された宮藤はそのまま地面にくずおれる。

エイラ「くくく、よくやったガッティーノ。これであとは覚醒を待つのみダナ」

ルッキーニ「うじゅ? ちょっとヤリすぎちゃったかなぁ〜。おーい! よしかー!」

エイラ「問題ない。むしろこれくらいでちょうど良い」

ルッキーニ「でも、ピクリとも動かないけど」

エイラ「今、宮藤は探しているんだ。一度崩壊した自己の還るべき場所を」

ルッキーニ「還るべき場所……?」

エイラ「そうだ。劇場版のキャッチコピーにもあったじゃないか。『還りたい胸(ばしょ)がある』と!」

ルッキーニ「なんか違ーう。けどまぁいいかそれで♪」

宮藤「うぅ……わ、わたしは……」

ルッキーニ「あ、起きた」

 よろよろと立ち上がる宮藤。
 次の瞬間、餌に飢えた野獣の如くエイラの胸に飛びかかるが、

エイラ「宮藤、これはとんだ御挨拶じゃないか。それとも握手のつもりかな? 私には悪手でしかないと分かっているだろう?」

 ヒラリと回避されてつんのめりながら着地する。

宮藤(?)「さすがはエイラさん。回避は最大の防御、か。でもエイラさん程度の胸なら未練はないですが」

エイラ「ほほう。言ってくれるじゃないか、宮藤。いや、真・宮藤とでも言うべきかな? やっとその姿を現したか!」

真・宮藤(?)「私は……ようやく思い出しました……その使命を……。そう、私は世界中のおっぱいをこの手中に収めるべく、おっぱい星より遣わされた使者だったことを!」

155 名前:鼎談 おっぱい星人編 3/4:2012/07/22(日) 04:55:55 ID:Ntrvuxhs

ルッキーニ「うじゅぁ〜、なんか電波入っちゃったよ。だいじょぶかー! よしかー!」

 さっと背後に回ったルッキーニが再び宮藤の胸を鷲掴みにする。

宮藤「きゃ……!?」

ルッキーニ「よしかー、めーさませー!」

宮藤「はっ……あ、あれ? わたし……どうして……」

エイラ「ふん、まぁいいダロ。さて宮藤、話はここからダゾ」

宮藤「え? 話って、なんなんですか、エイラさん?」

エイラ「宮藤、これから正義の話をしよう!」

宮藤「正義の……話?」

エイラ「正義と書いて『おっぱい』と読むんだけどナ」

宮藤「おっぱ…ってまたそう言う……私はただ」

エイラ「私は? なんなんだ?」

宮藤「わ、私は……ただ、ちょっと興味があるだけで。純粋な好奇心というか、憧れというか……」

エイラ「ふむ、そうだな。オマエの視線はいつも大きな胸に向かっているからナ」

宮藤「い、いつもって、そんなこと」

エイラ「ないって、言い切れるのか?」

宮藤「言い切れる、とは言わないけど……」

ルッキーニ「あいまいだな〜もう〜。だったら、証拠VTRでこれまでのおさらいを」

宮藤「あー! わかった! わかりましたよぉ。見てます! 気になるから見てました! ごめんなさい!」

エイラ「やっと認めたか。だが謝る必要なんかないんダナ。それがオマエの望んだことなら」

ルッキーニ「よしかもおっぱい大好きだもんね」

宮藤「大好きって……まぁ、否定はしないけど」

ルッキーニ「でもシャーリーのはあげないかんね!」

宮藤「うぅ、いいもん、リーネちゃんがいるから」

ルッキーニ「おおー、早くも俺の嫁宣言」

エイラ「なんかもう自棄なんダナ」

宮藤「そういうエイラさんはどうなんですか!? サーニャちゃんとはどうなんですか!?」

エイラ「さ、サーニャか!? な、なんでそこでサーニャが、でで出てくるんだ!?」

ルッキーニ「エイラの弱点を容赦なく突き刺す、よしか、恐るべし」

宮藤「サーニャちゃんはエイラさんが望むような大きさじゃないですよね?」

エイラ「そ、それとこれとは関係ないんダナ。それにおっぱいは大きさだけで語るものじゃないゾ。色や艶、形、いろいろ見て判断するものじゃないか」

宮藤「見るだけでいいんですか?」

エイラ「ヱ?」

宮藤「エイラさんは見るだけでいいんですか? 触らないと分からないこともありますよね?」

エイラ「い、いやぁ〜あはははは、そう、だよな〜。でも、さ、サーニャのを、触るだなんて……」

宮藤「エイラさんは触ったことないんですか?」

エイラ「だ、だって……サーニャは、サーニャで、サーニャだし……」

宮藤「私は触ったことありますよ? サーニャちゃんの」

エイラ「ふ、ふざけんなコノヤロー!!!!! わ、わたしのサーニャに! わたしの知らないトコで! な、なんてことを!!!」

ルッキーニ「わっ! エイラー、ちょっと抑えて抑えて!」

宮藤「と、まぁこれは冗談ですが」

エイラ「冗談かよ! 全く、タチが悪いぞ全く」

宮藤「ちょっとした仕返しですよ」

エイラ「ぐぬぬ」

156 名前:鼎談 おっぱい星人編 3/4:2012/07/22(日) 04:59:15 ID:Ntrvuxhs

ルッキーニ「おーい。話がそれてるぞー。戻ってこーい」

エイラ「おほん! えーっとだな、ルッキーニにとってのシャーリー、宮藤にとってのリーネに相当するようなおっぱい要員は私にもいるぞ」

宮藤「劇場版に出てきましたよね。確か、ニパさんでしたっけ?」

ルッキーニ「いたいた! いやぁ、いいおっぱいだったよねー。セーターにスラーッシュ! GJすぎるよ!」

エイラ「おいおい、ニパをソンナ目で見んナー。あれでも私の親友なんダゾ」

ルッキーニ「でも、よしかじゃなくてもだいたいの視聴者はまずあそこに釘付けになると思うけどねー」

エイラ「まぁ、それは認めるが」

宮藤「ニパさんはエイラさんのスオムス空軍時代の同僚なんですよね。久しぶりの再会だったんじゃないですか?」

エイラ「そんなに長いこと会ってなかったわけでもないぞ。(詳しくはキミ空を読んでくれ!)。でもそうだなー、また見ない間に結構成長していてだな」

宮藤「おおー!」

ルッキーニ「今度502に行くときはあたしも連れてってー!」

エイラ「シャーリーと交換なら考えないでもないぞ」

ルッキーニ「うぇー……」

宮藤「だったら私はリーネちゃんを生贄にニパさんを召喚」

エイラ「鬼畜だなオマエ。見境ないのは地獄逝きダゾ」

宮藤「でもエイラさんにはサーニャちゃんがいてニパさんまでいるなんて、ハーレムじゃないですか!」

エイラ「宮藤だってリーネがいるならペリーヌもついてくるんじゃないか?」

宮藤「ペタンコ? な、なんですか?」

エイラ「オマエ……雷に撃たれて死ぬタイプだな。気を付けた方がいいぞ」

宮藤「あ、そうですか。気を付けます」

ルッキーニ「よしかはホントに大きいおっぱいに目がないね」

宮藤「それはもう大きいことはいいことだよね」

エイラ「ほう、宮藤は大きければいいんだな。そうかそうか」

宮藤「それは違いますよ、エイラさん。論理のすり替えです。私は“大きいことはいいこと”だと言っているだけで、“大きければいい”とは一言も言ってません!」

エイラ「そうか、じゃあ大きさはいらないんだな」

宮藤「大きくなければ乳に非ずっ!!!」

エイラ「出たな! おっぱい大魔神!」

宮藤「なんかさらに酷いことになってる!? っていうか勝手に私の発言を捻じ曲げないで下さいよー!」

ルッキーニ「よしかも充分言ってることハチャメチャだけどねー」

宮藤「うぅ、なんかルッキーニちゃんに言われるとショック……」

ルッキーニ「ああー! 今、私の胸を見て言ったでしょー!」

エイラ「確かにルッキーニの胸はショッキングだが」

ルッキーニ「だーかーらー、いつも言ってるでしょ。あたしはこれからなの! こ れ か ら !」

エイラ「ま、妄想は自由だからナ」

ルッキーニ「うじゅー、信じてないなー」

宮藤「でもルッキーニちゃんは年齢的にも本当にこれからだから期待できると思いますよ」

ルッキーニ「さすがよしか! わかってる!」

エイラ「そう言う宮藤はどうなんだ? 宮藤も自分のはなかなか残念賞じゃないか」

宮藤「残念とか失礼じゃないですか! ルッキーニちゃんよりはありますよ!」

ルッキーニ「コラコラ。よしかも失礼だぞー」

宮藤「あぁ、ごめんねルッキーニちゃん」

157 名前:鼎談 おっぱい星人編 4/4:2012/07/22(日) 05:02:50 ID:Ntrvuxhs

ルッキーニ「でも、よしかは自分の胸がリーネみたいに大きくなったらいいなぁとか思ってないの?」

 ルッキーニのさりげない疑問に、宮藤は自らの胸に手を当てて考える。

宮藤「うーん、どうだろう。そりゃ、自分の胸が小さいのにはちょっと劣等感あるけど……。でも私は自分の胸より誰かの胸を、守りたいから……」

ルッキーニ「おおー! ついに!」

エイラ「宮藤の隠された本音がっ!」

宮藤「えへへー、なんか照れちゃいますね」

エイラ「まさか、宮藤がこれほどまでだったとは。私はどうやら侮っていたようだ。宮藤、オマエは今日から、おっぱい星人からレベルアップして、おっぱい聖人だ!」

宮藤「はい!」

ルッキーニ「いやー、いいハナシだなー」

 がっしり握手を交わすエイラと宮藤。
 ルッキーニは目に涙を浮かべて拍手を送っている。

宮藤「……って、よくなーい!!!!! なんなんですかおっぱい聖人って!? そんなヘンテコな称号いらないです!! 確かにさっきはなんか雰囲気に飲まれて変なことを口走ったかもしれないけど、なしです! さっきの全部なし! え? なんですか? 今までの、全部録音してある? ちょ、ふ、ふざけ……テープどこですか!? 全部壊して……あ!? 逃げた! ま、待てええええええええ!!! エイラさん! ルッキーニちゃん!」


   おしまい――。



―――――――――――――――
以上です。
鼎談シリーズ、もしかしたら続くかも(笑)
お目汚し失礼しました。

158 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/08/12(日) 23:33:46 ID:3M56ROoQ
>>152 62igiZdY様
GJ! おっぱ星人と言うかもはや……いや確かに芳佳ですw


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
またもや激しく今更ではありますが……、
保管庫No.1163「sister ban」絡みで一本。
例によってNo.0450「ring」シリーズ続編と言う事で。
ではどうぞ。

159 名前:thus spake elder sister 01/02:2012/08/12(日) 23:34:16 ID:3M56ROoQ
 その日の天気は荒れ模様で、夜まで雷が止まない。
 そんな中夜間哨戒に出たエイラとサーニャを見送った後、トゥルーデとエーリカはハンガーから部屋に戻る。
 途中、廊下でエーリカが袖を引っ張る。何か面白いものでも見つけたのか、そのまま袖をくいっと引っ張ると、とある部屋へ向かおうとする。何だ何だと言いながらも付いて行くトゥルーデ。

 そこはミーティングルーム。夕食後、暇を持て余したウィッチ達がくつろいでいた。
 ソファーに寝転び暇そうにトランプ遊びをしていたシャーリーとルッキーニがカールスラントのエース二人に気付き、手招きする。
「いよっ、どうしたよ、二人して。一緒に何かゲームでもするか?」
 シャーリーが何枚かの手札を持ちつつ、二人に声を掛けた。
「いや〜何か面白い事有りそうかなって」
 エーリカが答える。
「ねえシャーリー、あたしトランプ遊び飽きた〜」
 ルッキーニがカードを放り出す。
「おいおい、まだ少ししかやってないだろ」
「カードゲームか。今は良い」
 一瞥をくれた後、つまらなそうに言ったトゥルーデをちらっと上目遣いに見ると、シャーリーは懐から一本の瓶を取り出した。
「なら、これなんかどうよ?」
 トゥルーデは、差し出されたボトルを手に取った。装飾されたラベルにブリタニア語で何か書かれている。
「ん? これは酒か?」
「そう。あたしの国からやって来た、バーボ……」
「何だ、騙される様な話でも聞かされるのか」
「どうしてそう言う流れに?」
「いや、何でもない。……で?」
「これを景気付けに皆で飲もうじゃないかって話さ」
 シャーリーの台詞を聞いた直後、辺りに素早く目をやり確認するトゥルーデ。
「どうした?」
「もしこの場に少佐が居たら……と思った」
「あー……。今は居ないから大丈夫っしょ」
「ミーナもなんか色々悩んでるみたいだよ」
 エーリカがぼそっと呟き、大尉ふたりは溜め息を付いた。

 めいめいがグラス代わりに用意したカップに、琥珀色の液体が注がれる。
「水で割ると飲みやすいよ。氷が有れば良いんだけどな」
「簡単に水割りで良いだろう」
「まずはストレートで香りを楽しむ……ってね」
「何とも形容し難い匂いだな」
「まー、最初は皆そう言うわな。さあ、乾杯!」
 いつの間にか他のウィッチ達も加わり、さながらちょっとした宴会となった。

160 名前:thus spake elder sister 02/02:2012/08/12(日) 23:34:37 ID:3M56ROoQ
 程良く酔いが回ってきた所で、先に転た寝し始めたルッキーニを膝枕しながら、シャーリーがトゥルーデに向かって、不意に言った。
「なあ、あんたにとって『妹』って何だ?」
「何だいきなり。どう言う意味だ」
 片方の眉を上げて、ちらっとシャーリーの表情を伺うトゥルーデ。
「そのまんまさ。妹となると目の色が変わるのは501の皆が知ってる。いや、ひょっとしたら大陸を超えてアフリカまで……」
「アフリカぁ? まさかマルセイユか、あのお喋りめ」
 地名を聞いて即座に個人名を出して罵るトゥルーデを見て、横でくすくす笑うエーリカ。
「ま、ともかくどうなのよ。前にも確か妹について熱く語ってたじゃないか、中佐の前でさ」
 ニヤニヤ顔のシャーリーに対し、トゥルーデはこほんと一つ咳をすると、言葉を選ぶ様に語り始めた。
「ミーナの時のアレはまあ、勢いで言ってしまった事も有るが……つまり何が言いたいかと言うと、皆大切な仲間、つまり家族であると言う事はすなわち私の妹と言う事だ。だからミーナも私の妹だ。そこで一緒に飲んでいる宮藤もリーネも、勿論ペリーヌも私の妹だぞ」
「えっ、わたくしもですの?」
「芳佳ちゃん、私達家族なんだって! もうずっと一緒だよ。だよね?」
「えっ? う、うん……」
 突然名前が出て来て仰天するペリーヌ、言葉の意味を別のものと解釈して芳佳に迫るリーネ。そんな外野をよそにトゥルーデは話を続ける。
「エイラとシャーリー、ルッキーニは生意気な妹と言った感じだな。サーニャはいかにも可憐で儚げな妹と言った感じだが」
「じゃあ少佐は」
「兄か父と錯覚する事も有るが、家族という意味では妹だ」
「何か論理が飛躍してる様な」
「ならトゥルーデ、私も妹?」
 突然のエーリカの問いに、トゥルーデは即答する。
「エーリカは違う。エーリカの妹のウルスラ……ウーシュは妹である事に間違いは無いが」
「へぇ、私、妹じゃないんだ」
「当たり前だろう。見ろエーリカ」
 トゥルーデは横に座るエーリカの手を取った。そして自分の薬指にもある、美しく輝く同じデザインの指輪を見せる。
「お前は私の大切な相棒で、夫婦だ」
「トゥルーデ……」
「今度は惚気かよ〜。どうしたんだ堅物、飲み過ぎか?」
 シャーリーにつっこまれ、はっと我に返る。自分の言った事、した事に気付く。
 やおら立ち上がると、エーリカの腕を引っ張った。
「もう寝る」
 それだけ言い残して、残りのウイスキーを一気に呷ると、部屋から出て行った。
「参ったね、あそこまで言われちゃ」
 シャーリーは苦笑いした。

 部屋に戻るなり、そのままベッドに倒れ込む堅物大尉。
「しまった……失言だった」
 ベッドのシーツをぐいと握りしめ、歯がみするトゥルーデ。酔いのせいか恥ずかしさか、頬が真っ赤だ。
「さっきの言った事? 気にすることないよ。てか、今更だと思うよトゥルーデ。気にしない」
「私が気にするんだ」
「良いじゃない、私の素敵な旦那様? それともお嫁さん?」
「エーリカ……」
 絡み付く様に抱きついてきたエーリカを受け止めるトゥルーデ。
「お酒のせいってことにする? それとも」
「いや」
 トゥルーデは、エーリカをぎゅっと強く抱き返すと、唇を重ねた。
「これが私の答え、で良いか?」
「キザなんだかおバカなんだか本当に酔っ払ってるのか分からないよ。でもトゥルーデ、可愛い」
 エーリカは微笑むと、愛しの人を優しく抱きしめ、もう一度口吻を交わした。

end

161 名前:名無しさん:2012/08/12(日) 23:35:01 ID:3M56ROoQ
以上です。
501ラジオの、お姉ちゃんの中の人の発言を聞いて、ひとつ。
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様のSS「妹じゃなくて――」が素晴らし過ぎて
どの様に差別化を図るか色々考えましたが、
「酔ったお姉ちゃんならこう言う事言うかな……?」
という感じで書いてみました。
なんか色々とすみません。

ではまた〜。

162 名前:名無しさん:2012/08/19(日) 21:11:54 ID:xHRzFmLU
相変わらずいいエーゲルですね〜
いつも読んでます、頑張ってください!

163 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:02:44 ID:E54wvwHs

>>152 62igiZdY様
GJです。おっぱい聖人とは・・・芳佳らしい称号ですね。
おっぱいトリオの絡みは見ていてとても和みます。

>>158 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。やっぱりエーゲルは良い夫婦ですよね。
酔ったお姉ちゃんのさり気ない本音が素敵です。

こんにちは。保管庫様のキャラクター表を見ていたら色々と妄想が進んだので、
ちょっと長いですが学パロを1本書いてみました。
18日が誕生日だった3人がメインのオールキャラ物です。
ではどうぞ

164 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:03:31 ID:E54wvwHs

【School Life】

とある街の近郊に位置する、私立ウィッチ学園――700人近い女子生徒が在籍する中高大一貫校だ。
これは、ウィッチ学園に通う少女たちの日常を描いた物語……

<2012年8月18日、11時頃>

「みんな、パンが焼けたよ」
「わぁ、美味しそうなクロワッサンだね」
「おお、美味そうだな」
「うん、甘くて美味しい」
「ちょっと疾風! ちゃんと『いただきます』してから食べなさいよ」

ここは、ウィッチ学園部室棟の1階にある家庭科部の部室。
焼きあがったばかりのクロワッサンの香ばしい匂いが、部屋全体に漂っている。
「あはは……疾風ちゃん、いっぱい作ってあるから急いで食べなくても大丈夫だよ。ほら、みんなも遠慮しないでじゃんじゃん食べて」
茶髪で外ハネの少女が、4つのお皿にクロワッサンを均等に取り分けながら微笑む。
彼女の名前は宮藤芳佳、ウィッチ学園中等部の3年生だ。
料理が大好きで、所属する家庭科部でもその腕を如何なく発揮している。
部活動がない休日にも、部室に足を運んでは度々、友人に自分の作った料理を振舞っている。
夏休み期間中であるこの日も、同じく家庭科部に所属するリネット・ビショップと共に、
クラスメイトの黒田那佳、菅野直枝、中島疾風、諏訪五色らをお手製のクロワッサンでもてなしていた。

「しかし、芳佳たちの作る料理はいつ食っても美味いな。どうやったら、こんな美味いもん作れるんだ?」
直枝が手に持ったクロワッサンをまじまじと見つめながら、芳佳たちに問う。
料理が全くできない彼女は、2人の腕前にただただ感心するばかりだ。
「う〜ん、私はどんな料理でも、愛情を込めて作ることを心がけてるかな」
「愛情?」
「うん。例えばね、そのクロワッサンの生地をこねる時もリーネちゃんのおっぱいだと思って、愛情を込めてこう、優しく包み込むように……」
「ちょ、ちょっと芳佳ちゃん! 変なこと言わないで!」
何かを揉むようなジェスチャーをする芳佳を、慌てて止める親友のリネット・ビショップ。みんなからは、『リーネ』と愛称で呼ばれている。
クラスも部活も一緒で、寮でもルームメイトである芳佳とリーネは大の仲良しだ。
リーネは芳佳のことが大好きだが、彼女の過激とも言えるスキンシップには少々困惑気味である。

「だから、こんなに美味しいんだね〜。納得」
「芳佳のリーネちゃんへの想いが、美味しい料理を作る源になってるわけね」
「さすがバカップル」
と、三者三様の感想を述べる那佳と五色と疾風。
芳佳のリーネへの溺愛ぶり、もといおっぱい星人ぶりを日頃から見慣れている一同は、納得したようにうんうんと頷く。
「もう、みんなも納得しないでよ〜。何か恥ずかしいよ……」
顔を真っ赤にして俯くリーネを見て、芳佳は胸をドキドキさせる。
(うわっ、リーネちゃんその表情は反則だよ……そんな顔されたら私……)
芳佳が、リーネへのいかがわしい妄想をしかけた丁度その時、ポケットの携帯がブルルと鳴る。
携帯の鳴るタイミングがあまりにも絶妙だったので、思わずビクッとなる芳佳。
「わっ! ビックリした〜。ハルトマン先輩からだ……もしもし?」
『やっほ〜、宮藤。今、家庭科部の部室にいるよね?』
電話の相手はエーリカ・ハルトマン。高等部の1年生で芳佳やリーネと同じ501寮の住人だ。
学年でもトップクラスの成績の持ち主だが、私生活はズボラで部屋の掃除や洗濯は専ら、相部屋のゲルトルート・バルクホルンに任せっきりである。
ハルトマンとバルクホルン、性格こそ正反対の2人であるが仲は良く、部活も共に写真部に所属している。
「はい、いますけど……どうかしましたか?」
『急いで校舎前のバス停まで来てくれない? そうだな〜……できれば5分以内に』
「5分以内……ですか?」
『うん。そこで待ってるから。じゃ、よろしく〜』
「ええ!? もしもし? ハルトマン先輩〜? 切れちゃった……」
「どうしたの、芳佳ちゃん?」
「ハルトマン先輩が5分以内にバス停に来いって……よく分からないけど行かなくちゃ。
リーネちゃん、悪いんだけど後片付け頼んでいい?」
「うん。大丈夫だよ」
「ありがとう。じゃ、みんな。またね」
皆にそう告げて、芳佳は若干駆け足気味に部室を後にする。

「さてと、ハルトマン先輩たちが動いたことだし、私たちも行くとしますか」
芳佳が部室を去ってから少しして、那佳がリーネの方を見て笑顔で言う。
「うん。私たちも準備しよっか」

165 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:04:25 ID:E54wvwHs

<5分後、ウィッチ学園バス停前>

「宮藤、こっちこっち〜」
芳佳がバス停に到着するとそこには、エーリカとバルクホルン、それに後輩のサーニャ・V・リトヴャクと服部静夏の姿があった。
「ハルトマン先輩、バルクホルン先輩〜。それに、サーニャちゃんに静夏ちゃんも。珍しい組み合わせですね」
「サーにゃんと静にゃんは、宮藤と同じ理由で私たちが連れて来たんだ」
「私と同じ理由……?」
「うん。ハルトマンさんについさっき起こされて、そのまま流れでここに……」
と、寝ぼけ眼のサーニャが答える。彼女は、合唱部に所属する中等部の2年生。
趣味はピアノとラジオで、週末は相部屋のエイラと共に、深夜過ぎまでラジオを聴いて過ごすことが多い。
そのため朝には弱く、今朝も普段は寝てる時間に起きたせいか、どこか気だるそうだ。
「眠い……」
「わわっ! リトヴャク先輩、しっかりしてください」
寄りかかって眠ってしまいそうなサーニャを支える静夏。
芳佳と同郷の彼女は、剣道部に所属する中等部の1年生だ。
2つ上の芳佳より、背も高くスタイルも良いので2人で街を歩いても静夏より年下にしか見られないのが、芳佳の小さなコンプレックスでもある。

「はい、これ宮藤の」
そう言って、芳佳にスポーツバッグを手渡すエーリカ。
「水着とタオル……プールにでも行くんですか?」
「うん。君たち、今日が誕生日でしょ? これはささやかだけどお姉さん達からのプレゼントだよ」
エーリカが芳佳たち3人にチケット状の紙を配る。
それは今、テレビや雑誌で話題になっているレジャープールの1日無料券だった。
「これ、どうしたんですか?」
「えへへ、トゥルーデが商店街で買い物して集めた福引き券でね、」
「ハルトマンが福引きを回したら3等のそのプール券5枚セットを当ててな、せっかくだから可愛いいもう……
 いや、後輩であるお前達にプレゼントしようと思ってな」
と、頬を赤く染めたバルクホルンが言う。
同郷の友人からは『トゥルーデ』と呼ばれている彼女は、その可愛らしい愛称とは裏腹に、絵に描いたような堅物で何よりも規律を重んじる大学部の1年生だ。
一方で、愛妹家の一面もありその愛情は実妹のクリスだけでなく、所謂”妹キャラ”全般に向けられており、下級生には彼女のファンも多い。

「ありがとうございます! 私たちラッキーだね、今話題のレジャープールに行けるなんて」
芳佳が目をキラキラさせながら、誕生日が同じ2人の後輩の方を見て言う。
「うん。今からとっても楽しみ」
「いいんでしょうか? 私なんかが先輩方とご一緒して……」
「もう、静にゃんったら遠慮しないの。ちょっとは同学年のルッキーニを見習いなさい」
「逆にあいつはもう少し、遠慮を覚えるべきだがな……おっ、バスが着たようだ」
「よし! じゃあみんな、バスに乗り込め〜。ハルトマン探検隊の出発だ〜!」
「お〜!」
「……そのチーム名、もう少しどうにかならないか?」

166 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:04:58 ID:E54wvwHs

<同時刻、ウィッチ学園近くの商店街>

「え〜っと、買わなきゃいけないものは全部買ったかな」
オレンジ髪でグラマラスな少女が、メモを見ながら呟く。
彼女の名前はシャーロット・E・イェーガー、高等部の2年生で陸上部のエースで彼女もまた、501寮の住人である。友人からは『シャーリー』と呼ばれている。
「ふぇっくしょん! ウジュ、今誰かがあたしのウワサしてる〜」
シャーリーの隣の、黒髪ツインテールで褐色肌の少女が小さなくしゃみをする。
彼女の名前はフランチェスカ・ルッキーニ、中等部の1年生で寮でも相部屋のシャーリーとは1番の仲良しだ。
先ほど、エーリカ達の話題に出ていた『ルッキーニ』とは勿論彼女のことである。
「夏風邪じゃないの? 誰があんたの噂なんてするのよ」
ルッキーニ同様、ツインテールの少女が呆れるように呟く。
彼女はフランシー・ジェラード、愛称は『フラン』と言い、芳佳たちのクラスメイトで501寮の近くにあるワイト寮の住人だ。
同郷で陸上部の先輩でもあるシャーリーのことを尊敬しているがその一方で、彼女と仲が良いルッキーニには多少ジェラシーを感じている。

「へへっ、あたしはフランと違ってモテるからね〜。四六時中ウワサされてても不思議じゃないもん」
「ふ〜ん、どうせろくでもない噂しかされてないんじゃないの?」
「何さ、ツルペタのくせに〜」
「あんただってツルペタじゃない!」
「あたしはこれからおっきくなるもん!」
「……2人ともケンカしないで、荷物運ぶのを手伝ってほしいであります」
ルッキーニとフランの間の少女が溜息交じりに呟く。
彼女の名前はヘルマ・レンナルツ、静夏やルッキーニと同じクラスに所属する中等部の1年生である。
フラン同様シャーリーの陸上部の後輩であり、また、バルクホルンファンクラブの会長を自称しており同郷のトゥルーデを非常に尊敬している。
「はぁ、私もバルクホルン先輩とプールに行きたかったであります……」
「あたしもプール行きたかった〜! ねぇシャーリー、なんであたし達が買い出し担当で、バルクホルン先輩達が芳佳達の連れ出し担当なの?」
「仕方ないさ。福引き券を集めたのはバルクホルンで、プール券を当てたのはハルトマンなんだから」
「その福引きって、1等は薄型テレビなんですよね。何でも当選した人はまだいないとか……」
「薄型テレビか……それがあたしらの部屋にあれば、寮のリビングでチャンネル争いしなくても済むな」
フランの何気ない話題にシャーリーが食いつく。元々、家電製品が好きな彼女にとって、十分心揺さぶられる話題だったようだ。
「HDレコーダーとかないんでありますか?」
「あるにはあるけど、好きな番組はリアルタイムで観たいじゃん? 丁度さっきの買い物で福引き券も溜まったことだし、ちょっくら運試しと行きますか」

<数分後、福引き会場>

「あれ? あそこにいるのってカール先輩とブランク先輩じゃないですか?」
「あっ、本当だ。お〜い、マリアン、ジェニファー!」
福引き会場で友人を見かけ、手を振って声をかけるシャーリー。
「ん? 何だ、シャーリー達か」
シャーリーの呼びかけに金髪の少女が手を振って答える。
彼女の名前はマリアン・E・カール、シャーリーと双璧を成す陸上部のエースで506寮の住人だ。
「よっ、マリアンも福引きに挑戦したのか?」
「ああ。2等の温泉旅行券狙いだったんだけどね、結果は惨敗さ」
と、両手いっぱいに参加賞のポケットティッシュを持ったマリアンが答える。
「マリアンったらムキになっちゃって、普段使わない化粧用品とかも買い漁って福引き券を集めてたんですよ」
そう笑顔で言うのはジェニファー・J・デ・ブランク、マリアンのルームメイトで陸上部のマネージャーも務める彼女は、公私共にマリアンの良きパートナーだ。
「へぇ、そんなに温泉旅行に行きたかったのか?」
「まぁね。ジェニファーに温泉旅行をプレゼントしようと考えてたのさ」
恥ずかしげもなく、そう答えるマリアン。
「え? 私のために福引きを……?」
マリアンの福引きの目的が自分のためだと知って、頬が赤くなるジェニファー。
「ああ。ジェニファーにはいつも苦労をかけてるからね。骨休みになればと思ってたんだが、そんなに上手くはいかないか」
「マリアン……ふふっ、気持ちだけで十分ですよ」
「ジェニファー……」

「あー、はいはいごちそうさま。どれ、ちょっくらあたしが1等を当ててみるか」
「頑張れシャーリー!」
「イェーガー先輩ならきっとできます!」
「あの、皆さん。当初の目的を忘れてるような気がするんですが……」
盛り上がる一同に1人、冷静なツッコミを入れるヘルマ。

167 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:05:32 ID:E54wvwHs

<12時頃、レジャープール更衣室>

「静夏ちゃん、また大きくなったんじゃない? えいっ」
「きゃっ! い、いきなり何するんですか、宮藤さん!」
「サーにゃんは相変わらず肌白いな〜。しかもスベスベ」
「ハルトマンさん、く、くすぐったいです……」
「……お前達、公共の場で何をやっているんだ」
「何ってスキンシップだよ、スキンシップ。あれ? トゥルーデもおっきくなった?」
水着に着替えたトゥルーデの胸をエーリカが何気なく触る。
シャーリーやリーネには及ばないものの、彼女も中々の大きさである。
「ひっ!?」
「にしし、501寮の堅物もここは柔らかいよね〜。わぁ、やっぱりこの前触った時より大きく……」
そこから先の言葉は、更衣室中に響くようなトゥルーデのビンタの音によって遮られた。

「うぅっ、何も本気でビンタすることないじゃんかー」
プールサイドからビーチボールで遊んでいる芳佳を見ながら、エーリカが隣のトゥルーデにぶつくさ言う。
サーニャもすっかり目が覚めたのか、芳佳や静夏と楽しそうに遊んでいる。
「お前が、人前でいきなり胸を触ってくるのがいけないんだ」
「ふ〜ん、じゃあ人前じゃなかったら触ってもいいの?」
「な!? ど、どうしてそういう話になる」
「へへっ、トゥルーデ顔真っ赤だよ。可愛い〜」
「う、うるさい! 今日という今日はもう我慢ならん!」
「えへへ、捕まえられるものなら捕まえてごらんよ〜」
「待てハルトマン!」

「何だかバルクホルン先輩とハルトマン先輩、私たちより楽しんでるね……」
「うん」
プールで水を掛け合って騒ぐ先輩2人を、後輩たちは微笑ましく見守った。

<同時刻、501寮>

「リーネ、頼まれてたもの全部買ってきたぞ」
「ありがとうございます、シャーリー先輩。ところで、その大量のポケットティッシュはどうしたんですか?」
「いや〜、帰りに福引きに挑戦したら見事に全部外れてね」
「あんだけやっても3等のプール券すら当たらないなんて、シャーリーったら運なさすぎだよ〜!」
「う〜ん、こんなはずじゃなかったんだけどな、アハハ……」
今日の501寮は、いつもより多くの生徒で賑わっていた。
芳佳と静夏とサーニャの誕生日を祝うため、リーネを中心に皆で誕生会の準備をしているところだ。
「リーネ〜、この芋どうやって潰すんダ?」
雪色の髪の少女が独特のイントネーションでリーネを呼ぶ。
彼女はエイラ・イルマタル・ユーティライネン、高等部の1年生でエーリカのクラスメイトだ。
サーニャのルームメイトで、彼女には恋愛感情に近い気持ちを抱いている。
寮の食事当番に当たった時はサンドイッチ等の簡単なもので済ますので、料理はあまり得意ではないが、
今日は大好きなサーニャのために自ら進んで、誕生会の料理作りを名乗り出ていた。
「それならポテトマッシャーを使えば楽ですよ。ほら、こんな感じで」
「おお、これは便利ダナ」

168 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:06:00 ID:E54wvwHs

「ただいま……あら、良い匂いね」
「どうやら誕生会の準備は順調に進んでいるようだな」
皆が慌しく誕生会の準備をしているところに、寮長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと、副寮長の坂本美緒が寮長会議から帰ってきた。
ミーナは、合唱部の部長で物腰優雅で気品に溢れた大学部の1年生。
美緒は黒髪をポニーテールでまとめた剣道部の主将で大学部の2年生だ。
寮のメンバーを始め、部活の後輩たちからの信頼も厚い2人であるが、彼女達にはある致命的な欠点があった。

「ほう、エイラはポテトサラダを作っているのか。何か私たちに手伝えることはないか?」
美緒がボウルを覗き込みながら、エイラに尋ねる。
「あー、こっちは大丈夫だから先輩たちは飾りつけとか手伝っててくれヨ」
エイラがそう言うと、美緒とミーナはどこか残念そうな表情でキッチンを後にする。
「やれやれ。ミーナ部長は味オンチだし、坂本先輩は料理オンチだからナ。2人に料理させたら大変なことになるんダナ」
エイラが小声でぼそっと呟く。そう、2人は致命的に料理が下手なのだ。
「まぁ、人間誰しも欠点の1つや2つくらいあるものですわ。料理が苦手な坂本先輩もまた、人間味溢れて素敵ですわ」
目をキラキラ輝かせながら、エイラの隣で料理をしていた眼鏡をかけた金髪の少女が語る。
彼女の名前はペリーヌ・クロステルマン、501寮の住人でエイラやエーリカと同じクラスの高等部1年生。
「また始まったよ……本当、ツンツンメガネは坂本先輩のことになると盲目になるんダナ」
「あなただけには言われたくありませんわ。いつも『サーニャ〜、サーニャ〜』って騒いでばかりのあなただけには」
「む、誰がいつそんな風に叫んでたんダヨ!」
「あら、自覚がないなんて救いようがないですわね」
「何だと〜」

「2人とも、口より先に手を動かしなよ」
「そうですよ。喧嘩してたら終わるものも終わらないですよ」
言い争うエイラとペリーヌを、各々の友人が仲裁する。
エイラの友人であるニッカ・エドワーディン・カタヤイネンは、直枝と同じ502寮の住人で友人からは『ニパ』と呼ばれている。。
エイラの幼馴染であるが、彼女が早生まれなため、学年はエイラの1つ後輩に当たる。
ペリーヌの友人であるアメリー・プランシャールは、フランと同じワイト寮の住人で同郷のペリーヌを非常に尊敬している。
2人共、芳佳のクラスメイトの中等部3年生だ。
「宮藤さん達、いつも騒がしい先輩達に囲まれて、大変そうですね」
「ああ、確かに……」
顔を見合わせてニパとアメリーは苦笑いした。

「菅野、黒田、何か手伝うことはあるか?」
美緒が、リビングで飾りつけの作業をしている同郷の後輩たちに尋ねる。
「ん? 人手なら足りてるんで大丈夫ッスよ」
「会議の後で疲れてるんじゃないですか? 先輩たちはゆっくり休んでてくださいよ」
那佳はそう言って、美緒とミーナをソファに座らせる。

「ふむ、何もしてないというのも落ち着かないな」
「そうね。可愛い後輩たちの誕生日なのに、年長の私たちが何もしないわけにはいかないわよね」
「そこでミーナ、1つ提案があるんだが……」
「あら、何かしら?」
美緒がひそひそとミーナに何かを耳打ちした。
それを聞いたミーナの顔に笑みがこぼれる。
「名案ね。それじゃあ、早速準備に取り掛かりましょうか」

169 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:06:38 ID:E54wvwHs

<3時間後、501寮前のバス停>

「う〜ん、今日は疲れたね〜」
501寮前で停まったバスから降りたエーリカが伸びをしながら、呟く。
「ああ。こんなに身体を動かしたのは久しぶりだ」
「先輩たち、1番大きいウォータースライダーの方まで行ってましたもんね」
「あ、あれはハルトマンが逃げるから……」
「だって、トゥルーデが追っかけてくるんだもん」
「あはは……今日は本当に楽しかったです。ハルトマン先輩、バルクホルン先輩、本当にありがとうございました」
芳佳が頭を下げて、エーリカ達にお礼の言葉を述べる。静夏とサーニャも芳佳に続いて頭を下げる。
「礼を言うのはまだ早いよ。君たちの誕生日はまだ終わってないんだから」
エーリカはそう言うと、ニコニコ顔で寮のドアを開ける。
芳佳たちが寮に入るのと同時に、玄関からクラッカーの音が鳴り響く。
「へ?」

「芳佳、静夏、サーにゃん! 誕生日おめでと〜!」
玄関では、寮の仲間や友人達が口々に芳佳と静夏とサーニャにお祝いの言葉を掛けてきた。
その普段とは異なる光景に3人は思わず目を丸くする。
「アハハ、ビックリしたか? そんだけ驚いてくれれば、サプライズパーティーを企画した甲斐もあるってもんだ」
「サプライズパーティー……?」
「そうさ。リーネが中心になって色々動いてくれたんだ。ほら、上がった上がった」
シャーリーに急かされながら、芳佳達がリビングへと足を運ぶ。
「芳佳ちゃん、サーニャちゃん、静夏ちゃん。誕生日おめでとう」
リビングでも玄関と同じくらい熱烈な歓迎が、芳佳達を待っていた。
直枝が書いたものだろうか、壁には『芳佳 サーニャ 静夏 Happy Birthday!』と書かれた横断幕が飾られ、
テーブルにはケーキや美味しそうな料理が数多く並んでいる。

「みんな、コップは持ったか? よし、それじゃあ宮藤とサーニャと服部の誕生日を祝して……乾杯!」
シャーリーの乾杯の号令のもと、賑やかな誕生会が始まる。
芳佳と静夏とサーニャは、ケーキに刺さったロウソクの灯を吹き消しその後は、各々の友人達との時間を過ごす。

「サーニャ、誕生日おめでとナ」
「うん。ありがとう、エイラ」
「これ、私からのプレゼントナンダナ」
サーニャは、エイラから綺麗な飾りがついた袋を受け取る。
中には、大きくて可愛らしい猫のぬいぐるみが入っていた。
「嬉しい……! ありがと、エイラ」
感謝の気持ちを込めて、エイラのことを抱きしめるサーニャ。
エイラは取れたてのイチゴのように顔を真っ赤にさせる。
(サ、サーニャにハグされた!? し、幸せナンダナ……)

「静夏、誕生日おめでと〜。これ、あたしとヘルマからのプレゼントだよ」
「こ、これはもしや……!」
「はい! 服部さんが敬愛されている宮藤先輩であります」
静夏は、クラスメイトのルッキーニとヘルマからプレゼントを受け取る。2人で作ったというお手製の宮藤人形だ。
「ありがとうございます! 私、凄く感激です」
感激のあまり静夏は、2人の同級生をぎゅっと抱きしめる。
自分達のよりずっと大きい静夏の胸に当たり、ルッキーニとヘルマはたじたじだ。
「ちょっ、静夏……苦しいよ」
「ど、同級生とは思えない大きさであります……」

「芳佳ちゃん、誕生日おめでとう」
「おめでと、芳佳」
クラスメイトから改めてお祝いの言葉を掛けられる芳佳。
彼女の周りにプレゼントの箱が次々と積み重ねられていく。
「みんな、本当にありがとう。あれ? おかしいな、嬉しいのに涙が出ちゃう……」
「芳佳ちゃん」
嬉し涙が頬を伝う芳佳を、リーネが優しく抱きしめる。
それを見ていた他のクラスメイト達が思わず『おおっ』と声をあげる。
「リーネちゃんがこの誕生会、企画してくれたんだよね? ありがとね、私今最高に幸せだよ。大好きだよ、リーネちゃん」
「うん……私も」

「あー、こりゃ私たちお邪魔かな。みんな、あっちの方でケーキでも食べてよ」
「賛成」
芳佳とリーネが良いムードになったのを察したのか、那佳たちクラスメイトは2人のもとをそっと離れる。
みんなが去った後、芳佳は顔をあげてリーネに自分の唇を近づける。
「リーネちゃん、私」
「ダ、ダメだよ芳佳ちゃん。こんなところで……」
「えへへ、でも今は誰も見てないよ。ね、ちょっとならいいでしょ?」
リーネは顔を真っ赤にして、押し黙ってしまう。
それを肯定の意と受け取った芳佳は、リーネの唇と自分のそれをそっと重ね合わせる。
「んっ……リーネちゃんの唇、さっき食べたケーキよりも甘くて、柔らかい」
「もう、芳佳ちゃん変なこと言わないでよ……」
それから2人は顔を見合わせ、少しの間笑いあった。

170 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:07:19 ID:E54wvwHs


「ねぇ、ところで坂本さんとミーナ寮長は?」 
パーティーが始まってから暫くして、芳佳が美緒とミーナがいないことに気づき、リーネに訊ねる。
「あれ? そう言えばどこ行ったんだろ……誕生会の準備をしてた時にはいたんだけど」
「呼んだか、宮藤?」
「坂本さん、ミーナ寮長! どこ行ってたんですか?」
「ごめんなさいね。これを仕上げるのに手間取っちゃって」
鍋を持ったミーナが芳佳の問いに答える。鍋からは怪しげな煙が立ち込めていた。

「ま、まさか2階のキッチンで料理してたんですか?」
おそるおそるシャーリーが2人に尋ねる。
「ああ。私とミーナが、じっくり煮込んで作った肝油とその他諸々の特製スープだ」
「そ、その他諸々って何ですか!?」
「色々あるぞ。ラー油に塩辛、アンチョビにウスターソース。あとはブルーハワイのシロップと……」
「あっ、それ以上言わなくていいです」
「たくさん作ったから、遠慮しないで食べてね」
ミーナはそう言って、鍋の蓋を開ける。
鍋の中身を見た一同の顔が、みるみるうちに青白くなっていく。
(遠慮するなと言われても……)

「おいニパ」
「な、何だよイッル」
「ちょっとこれ飲んでみろ」
エイラがスプーンで特製肝油スープをすくい、それをニパの口へ運ぶ。
「……!」
スープを飲んだニパは、何も言葉を発せずにその場にバタンと倒れてしまった。
「あらあら、倒れるほど喜んでくれるなんて」
「作った甲斐があるな、はっはっは!」
「……」

あくまでマイペースな2人に、もはや突っ込む気にもなれない一同であった。

――十分後……

「ニパ……なんだかんだでいいヤツだったヨ」
「オレ、お前のこと忘れないからな」
「いや、私を勝手に殺すなよ」
ソファで横になったニパが、自分の前で手を合わせ拝んでいるエイラと直枝に突っ込みを入れる。
「すまなかったな、カタヤイネン。ミーナ達も悪気があってやったわけではないんだ。
最も、あの2人にはもう少し、自分達が料理できないことを自覚してもらう必要があるがな」
そう言って、ニパに水の入ったコップを渡すトゥルーデ。
ちなみにミーナと美緒の作った特製スープは、トゥルーデが2人にジュースやお菓子の追加買出しを頼んで、彼女達がいない間にこっそり処分した。
「いえ……でもイッル、ひどいじゃないか。私に毒見させるなんて……」
「ごめんナ。悪運の強いお前なら大丈夫かなと思ったんだけど……あれ? そう言えばサーニャは?」
「サーにゃんなら、疲れたからちょっと横になるって、静にゃんと宮藤の部屋に行ったよ」
「何? 宮藤のヤツ、まさかどさくさに紛れてサーニャにあんなことやこんなことを……ちょっと止めてくるんダナ」
宮藤の部屋へ向かおうとするエイラをエーリカが静止する。
「まーまー、1年に1度の誕生日なんだし3人で色々、語りたいこともあるんじゃない? それに、宮藤なら大丈夫。"浮気"なんてしないと思うよ。ね、リーネ?」
「え? は、はい……」
自分に目配せするエーリカを見て、顔を真っ赤にするリーネ。
誰にも見られていないと思った芳佳とのキス、どうやらエーリカにはバッチリ見られていたようだ。

171 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/08/20(月) 14:08:37 ID:E54wvwHs
<芳佳とリーネの部屋>

「今日は楽しかったね」
ベッドで大の字になって横たわった芳佳が、両隣で横になっているサーニャと静夏に話かける。
「うん。疲れたけど楽しかった」
「はい、凄く凄い1日でした」
「あっ、そう言えばまだ言ってなかったっけ……誕生日おめでとう! サーニャちゃん、静夏ちゃん」
「うん。誕生日おめでとう、芳佳ちゃん、静夏ちゃん」
「おめでとうございます! 宮藤さん、リトヴャク先輩」
「えへへ、来年も再来年もその先もずっとこうやって3人で祝い合おうよ」
そう言って芳佳は、サーニャと静夏の手を握る。
サーニャと静夏も芳佳に答えるように彼女の手を握り返す。
「私は幸せだな。沢山の友達に囲まれて」
それから芳佳は、目を瞑って今日一日のことを思い浮かべた。
リーネと作ったクロワッサン、静夏やサーニャと一緒に遊んだプール、自分達以上に楽しんでいたトゥルーデとエーリカ、
友人達のサプライズパーティー、色々な意味でインパクトのあった美緒とミーナの料理、そして、リーネとのキス。
それらはきっと、忘れられない思い出としていつまでも芳佳の心の中に残ることだろう……

〜Fin〜

―――――――
以上です。
これからは通常の話と並行して、学パロの方もまったり不定期に書いていこうと考えています。
スレ汚し失礼しました。ではまた

172 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/08/30(木) 05:32:28 ID:m0rasAQU
>>171 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! オールスターの学園パロディ、賑やかで楽しいです!
良い誕生日ですね。ほっこりしました。


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

173 名前:nostalgia 01/03:2012/08/30(木) 05:33:01 ID:m0rasAQU
「何? リベリアンが怒っているだと?」
 昼食後、廊下でしゅんとしたルッキーニから聞いたトゥルーデは唖然とした。
「あいつが怒る……一体何が有ったんだ。何か怒らせる様な事でもしたのか」
「そんな事してない! てか、あたしが分からないから聞いてるのに!」
「いやすまんルッキーニ、私も事情がよく分からないんだが」
 トゥルーデの横に居たエーリカが、んー、と顎に手をやり少し上を向く。そしてぽつりと一言。
「ねえ、シャーリーが怒る前、何やってた?」
「え? 怒る前?」
 聞かれたルッキーニは、しばし朝の様子を思い返した後、二人を引き連れてハンガーへと向かった。

「ここで、いつもと同じ様に、ストライカーユニットいじってた」
 ルッキーニが指差す所。そこはシャーリーの“指定席”。暇さえあれば、部屋かハンガーの一角に陣取り、籠もりっきりでユニットの調整や魔導エンジンの分解整備等に明け暮れる。
 朝、食事を皆で一緒にした時、彼女は普段と何も変わらなかった。
 突然の豹変の理由は一体?
 格納装置には、シャーリーが置いていった彼女のストライカーユニットが整然と置かれていた。綺麗に磨かれ、傷も無い。
「確か、朝に試験と訓練を兼ねて飛行に出た筈だな」
「そうだね」
 シャーリーのスケジュールを確認するトゥルーデとエーリカ。
「まさかエンジンを壊したとか」
 適当に推理してみるエーリカ。
「なら、ミーナか少佐に言うだろう」
「でも、思う様に速度が出なかったって、確か報告に……」
「そうだな」
 執務室で偶然目にした報告書の事を思い出す二人。
「シャーリー超怖かった……なんであんなに怒るの」
 ルッキーニはそれ以上多くを語らないが、全身のジェスチャーが多弁に事を語っている。小さく震え、涙目のルッキーニを見、トゥルーデはぽんと肩に手をやり、頭を撫でる。エーリカも倣って、ルッキーニを優しく抱きしめる。
「心配ないよ、何とかなるって」
「本当?」
「大丈夫だ、私達に任せろ」
 トゥルーデとエーリカは頷いた。
「何が大丈夫だって?」
 ハンガーの入口から聞こえる、酷く苛ついた感じの言葉。普段の彼女のものとは思えない、シャーリーのやさぐれた声。彼女の表情は暗く、険しい。瞳の色も何処か濁り、それでいて鈍く錆び付いていて、刺々しい。トゥルーデは憶することなく、声を掛ける。
「丁度良いところに来たなシャーリー。聞きたい事が有る」
「あたしは何も無い。てかなんであたしのストライカーユニットの前に居るんだ。退けよ」
 今にも殴り掛かりそうな勢いのシャーリー。びくっと震えるルッキーニ。エーリカは頭を撫でつつ、ルッキーニを連れて一歩後ろに下がる。トゥルーデも心得たもので、二人をシャーリーから庇う位置に付くと、真正面から向き合い、顔を見据え、ゆっくりと口を開いた。
「ルッキーニから聞いた。何をそんなに怒っている?」
「あんたらに解るもんか」
 吐き捨てる様に言うと表情を歪めるシャーリー。
「まずは話さなければ何も分からないだろう。エスパーでもあるまいし」
「今度は説教かよ? てか堅物、そこ退け。あたしはあたしのストライカーユニットに用がある」
「生憎だが私はお前に用がある、リベリアン。そんな精神状態でまともに飛べると、整備が出来るとでも思うのか」
「くっそ! 邪魔だって言ってるだろ!」
 シャーリーが先に手を挙げた。ストレート気味に振られた拳は、素早く反応したトゥルーデの掌にすっぽりと収まる。そのまま怪力で拳を握り、相手が痛がるのも構わず、そのまま強引にねじり上げ、関節を決め、背後を取る。そして耳元で冷静に言う。
「いきなり暴力とは、らしくないなリベリアン。本来なら懲罰モノだぞ」
「いたたたっ! 痛い痛い! それ以上力を込めるな! 腕が千切れる!」
「なら、ストライカーいじりは少しやめて、私に付き合って貰うぞ。良いな?」
「堅物からデートのお誘いかよ……ッ!」
 くそっ! とシャーリーはもう一度悪態をついた。

174 名前:nostalgia 02/03:2012/08/30(木) 05:35:13 ID:m0rasAQU
 基地のバルコニー。そよ風が心地良いその場所に、四人は居た。
 トゥルーデの決め技から解放されたシャーリーはわざとらしく腕をぶんぶんと回すと、手摺に寄り掛かり身体を預けると、空を見上げた。
「なあ、堅物……じゃなくてバルクホルン」
 傍らに置かれたマグカップ。薄目、甘めに淹れたミルクコーヒーを一口すすり、気持ちが少し落ち着いたのか、目を合わせないまま、空に顔を向けたまま、ぽつりぽつりと呟く様に喋るシャーリー。
「今朝もあたしは快調だった。いつもと同じ様に愛用のユニットを整備して、最高の状態にチューンして……」
 同じくマグカップを片手に、じっと話に聞き入るトゥルーデ。エーリカとルッキーニは、少し離れた場所にある椅子に腰掛け、お茶とお菓子をつまみつつ、二人の様子をじっと見、聞いている。
「そして試験飛行。調子は良かった。イイ感じに上昇。加速してさ」
「……」
 黙ったまま、シャーリーの言葉を待つトゥルーデ。そんな彼女をちらりと見て、シャーリーは言った。
「喋れよ」
「いや、話の続きが聞きたい」
「何だかな。……で、そんなこんなで飛んでる時に、ふと、鳥に逢ったんだ」
「鳥?」
「ああ。何の鳥かは知らないけど。大きくて、風に乗って……渡り鳥かな。大きな翼を広げて、ゆったりと、ほんと、止まる位にゆっくり、空を飛んでいた。一キロでも速度を上げようとしてるあたしになんてお構い無しさ。まるであたしが馬鹿みたいに」
「そこまで言わなくても」
「で、羽根がひとつぽろっと落ちて、あたしはそれを掴んだ」
 そう言うと、シャーリーは胸元から大ぶりの羽根を取り出し、トゥルーデに見せた。
「これだよ。これ見てたらさ……よく分からないけど、あたしがやってる事、一体何なんだろうって思ったら、情けなくなってね。気付いたら墜落寸前まで速度が落ちてたよ」
 自嘲気味に笑うシャーリー。鳥の羽根をトゥルーデに押しつける。何の鳥かのものは分からないが、とにかく芯の強いその羽根は見事で、飾りに出来そうな位に白さが美しい。
「鳥は気付いたら遠くに飛んでったよ。まっすぐにね」
「そうか」
「ああ。あたしなんか眼中にないって位に」
 シャーリーは、そこで初めて自分の足を見た。
「鳥の去っていく姿見て思った。……あたしは一体何だ? バイクをかっ飛ばしてた、ボンネビルの頃から何も変わってない。何も。何一つ。ただ速さだけを追い求めるスピード狂? それなのに」
 そう言うと、シャーリーは、ああもう、と呟いて頭をかきむしる。トゥルーデは、そう言う事かと内心独りごちると、羽根を持ったまま、優しく言った。
「お前は、変わった」
「何処が?」
 即座に聞き返すシャーリーに、ゆっくり聞かせる様に答えるトゥルーデ。
「501(ここ)に来て、変わった筈だ。それはお前だけじゃない。私も。そしてそこにいるルッキーニも、ハルトマンも」
「具体的にどの辺が」
「らしくなく、理詰めで来るんだな。変わった事は、人それぞれだ。性格が柔らかくなったり、色々だろう」
「じゃあ、あんたから見てあたしはどこが変わった?」
「そうだな……それは、お前に一番近い奴が一番知っている筈だ」
「?」

175 名前:nostalgia 03/03:2012/08/30(木) 05:35:54 ID:m0rasAQU
 会話を聞いていたエーリカが、トゥルーデと目くばせすると、横でしょんぼりクッキーをかじっていたルッキーニを立たせて、出番だよと耳元で囁き、シャーリーの元に送り出す。
「ルッキーニ……」
「シャーリー……」
 二人は久しぶりに出会った恋人みたいに、気まずそうに、言葉を交わせないでいる。
 二呼吸分程もじもじした後、不意にルッキーニが呟く。
「ね、ねえ。もう、怒ってない?」
「え? あ、ああ……ごめんな」
「シャーリー、変わってないよ? いつもと同じ。いつも楽しくて、どんな時も頼もしくて、あたしのそばに居て、あたしに構ってくれる……だから」
「そっか。そうだよな。ごめん、ルッキーニ」
 シャーリーはルッキーニをそっと抱きしめると、額にキスをした。抱きついて来るルッキーニをきゅっと抱き返すうちに、いつもの楽天的で、柔和なシャーリーの表情に戻る。
「シャーリー、いつものシャーリーでいて?」
「勿論、あたしはあたしだ。ごめんな、心配掛けて」
 ルッキーニを優しく撫でる。そして彼女の言葉を反芻した後、トゥルーデの方を向いて訝る。
「おいバルクホルン、どう言う事だ? あたし、変わってないってさ」
「そうだよ、それだよシャーリー」
 エーリカがトゥルーデの横に来て、そう言って笑った。
「?? ハルトマン、意味が分からないぞ」
「ルッキーニが言ってたじゃん。その通りだよ。いつもニコニコ貴方のそばに……ってさ」
「501(ここ)に来る前、そしてルッキーニが来る前のお前はどうだった?」
 エーリカとトゥルーデの言葉を聞き、頓知でしてやられた様な表情をした後、不意にくすっと笑った。
「これはお前に宛てた鳥からのメッセージじゃないか? 大事にするんだな」
 トゥルーデはシャーリーに純白の羽根を返した。
「なんだかえらく詩人だな。らしくないぞバルクホルン。悪いモノでも食べたか?」
「失礼な奴だな。これでも……」
「心配なんだよ、シャーリーの事がね」
 ふふーんと笑って袖を引っ張るエーリカ。
「そ、そんな事有るか!? 私はあくまでも最先任尉官としてだな」
「はいはい。じゃ、行こうか。じゃあ二人共、夕食でね」
 エーリカはまだ何か言いたそうなトゥルーデを連れて、バルコニーから退出した。

176 名前:nostalgia 04/03:2012/08/30(木) 05:36:40 ID:m0rasAQU
 バルコニーに残されたシャーリーとルッキーニ。
「なんか、ゴメンな。本当ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いいの。シャーリーいつもと同じに戻ってくれたから」
「許してくれるのか。そっか、ありがとな」
「だって、シャーリーだいすきだもん」
「あたしもお前が大好きだぞ、ルッキーニ」
 二人は西日差すバルコニーの中で、そっとキスを交わす。
 そして、シャーリーはルッキーニの手に、鳥の羽根を握らせる。
「これ、やるよ」
「いいの?」
「なんか、欲しそうな目してたし。それにこれ、あたしがずっと持ってても、あんまり意味無い様な気がしてさ」
「でも、これ大事なものじゃ?」
「お前が無くさずに持っていてくれたら、いつでも見られるからそれで良いよ、ルッキーニ」
「ありがと。だいすきシャーリー」
 二人はもう一度、強くお互いを抱きしめた。

「あれで良かったのか?」
 廊下を歩きながら、呟くトゥルーデに、エーリカは微笑んで言った。
「あれが正解。多分。だって、最後いつものシャーリーだったじゃん」
「まあ、な。誰しも、ふとした切欠で我を見失う事は有る」
「そうだね。トゥルーデも……」
「何か言ったか?」
「なんでも〜。あ、もしかしてあの羽根ちょっと欲しかったりする?」
「要らん。ただ、クリスが見たら喜ぶかなとか思った……」
「またまた。これだから」
「な、何がおかしい? 言いたい事が有るならはっきりと……」
「じゃあ、キスしたら言ってあげる」
「な、何? それは……」
「したくない?」
「それは……その」
 思わず立ち止まった隙を見逃さず、エーリカはトゥルーデと唇を重ねる。微かな触れ合いが、やがてゆっくりとした口吻へと変わる。
「言いたい事、ある?」
 問い掛けに、はあ、と大きく息を付いて、ゆっくり答えるトゥルーデ。
「愛してる、エーリカ」
 トゥルーデの台詞を聞いて、ふふっと笑う金髪の天使。
「その言葉聞きたかった。私も愛してる、トゥルーデ」
 二人はもう一度、お互いの唇を味わった。

end

177 名前:名無しさん:2012/08/30(木) 05:39:44 ID:m0rasAQU
以上です。
文字オーバーで急遽分割したのでナンバリングが適当に……すみません。

普段温厚なシャーリーでも、何かの切欠に怒ったりするのかな、
そうした場合は誰がフォローするのかなと色々妄想して書きました。
ちょっとキャラ的に違うかも知れませんが……。

ではまた〜。

178 名前:名無しさん:2012/08/30(木) 20:16:57 ID:YBnsfyZs
>>177
シャーゲルでもありシャッキーニーでもありそしてやはりエーゲルである……
素晴らしかったです

179 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/09/13(木) 07:05:58 ID:YdzWE07Q
>>172 mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。
シャーリーの年齢相応の"弱さ"が人間味溢れていて素敵です。

おはようございます。
フミカネ先生HPの残暑見舞いイラストの静夏ちゃんがエロ可愛かったので、
それを元に(?)、1本書いてみました。
では、どうぞ

180 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/09/13(木) 07:06:30 ID:YdzWE07Q

【真のウィッチへの道は遠し?】

「はぁ……」
「どうしたんダ? ミーナ中佐。手紙見ながら溜息なんかついて」
「もしかして、あたし達の予算が減らされるとか?」
或る日の昼下がり、ミーティングルームで手紙を見て溜息をつくミーナを心配して、エイラとルッキーニが声をかける。
「ううん。そういうわけじゃないんだけど……504のドッリオ少佐にまた、無茶なお願いをされてね」
そう言って、自分が今読んでいた手紙をルッキーニに手渡すミーナ。
エイラとお茶を持ってきた芳佳も手紙の内容が気になり、ルッキーニを囲むように覗き込む。
「ルッキーニちゃん、何て書いてあるの?」
「えっとね……来年のせくしーカレンダー用の写真を各部隊から募集してるみたいで、あたし達からも1枚提供してほしいんだって」
「せくしーカレンダー? そんなものがあるんですか!?」
興味津々そうに身を乗り出す芳佳。
『せくしー』という言葉に釘付けのようだ。
「ええ。元々、前線の戦意高揚のためにドッリオ少佐が企画したものなんだけど、ロマーニャ公に止められてからは彼女が趣味で
色々撮ってるの。この前、挨拶に行った時もトゥルーデとエーリカがバニーガールの衣装を着せられたりして、大変だったわ」
「あたしとシャーリーがこないだまで504にいた時も、色んな服着せられたよ。『これも任務の一環』だからとか言われて」
ミーナとルッキーニから、カレンダーの全容を聞いた芳佳の目がみるみるうちに輝きだす。
その表情はまるで、獲物を狙う肉食獣のようだ。
「それは素晴らしい企画ですね。ミーナ中佐! その写真の撮影、私たちに任せてください!
 いざとなったら責任は取ります! エイラさんが」
「おい、何で私ナンダヨ」
「だって、エイラさんが私たちの中で1番偉いじゃないですか」
「そーそー。エイラは中尉であたし達は少尉だもん」
芳佳に同調するようにルッキーニも頷く。
「こういう時だけ上官扱いすんナー!」
「まーまー、責任ある立場って凄いことじゃないですか。501のせくしー団長さん♪」
「いよっ! カッコイイよ、せくしー団長!」
エイラを取り囲んで、彼女を囃し立てる芳佳とルッキーニ。
エイラもエイラで、『せくしー団長』と呼ばれて満更でもない様子だ。
「悪い気はしないけど、何か上手く乗せられてる感じがするんダナ……」
「まぁ、私もそこまで手が回らないから、あなた達がやってくれるのならありがたいわ。今回の件は任せるわね」
「はい、お任せください!」
芳佳が元気良く返事をする。こうして、501のせくしー団の写真撮影が始まった。


「さて、誰を撮りましょうか? せくしー団長さん」
「う〜ん、やっぱりリーネじゃないカ? シャーリーも捨てがたいな……」
トゥルーデからカメラを借りて、撮影の準備は万端の一同。
今は、基地の廊下で誰を撮るか相談しているところだ。
「ねーねー2人とも、あそこ見て。ターゲットはっけーん!」
ルッキーニが指差した方向に芳佳とエイラが目をやるとそこには、坂本美緒少佐と服部静夏軍曹の姿があった。
静夏の年齢の割りに発達した胸を見て、3人は顔を見合わせてニヤリと笑う。
「良いところに目をつけたナ、ガッティーノ。確かに新人のスタイルはある意味エース級……」
「静夏ちゃんのせくしーカレンダー……それは良いですね」
と、半分ヨダレを垂らしながらニヤつく芳佳。
「よし、突撃だ。行って来い特攻隊長!」
「はい!」

181 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/09/13(木) 07:07:01 ID:YdzWE07Q

「すまなかったな、服部。支援物資の運搬を手伝わせてしまって」
「いえ、坂本少佐のお役に立てて嬉しい限りです」
「静夏ちゃーん!」
美緒と静夏の間に割って入るように、飛び込む芳佳。
「み、宮藤さん! 一体どうなさったんですか!?」
「今から、カレンダー用の写真を撮ろうと思ってるんだけど、静夏ちゃん協力してくれないかな?」
「それはつまり、私の写真を撮るということですか?」
「うん。せくしーカレンダーっていうちょっとえっちな写真をね。静夏ちゃんスタイル良いから、いいモデルになると思うんだ」
「い、いけません! 軍人がそんな不埒な写真の撮影など……」
顔を真っ赤にしながら、芳佳のお願いを断る静夏。
しかし芳佳も、断られるのを織り込み済みのようで今度は美緒に何かを耳打ちする。
彼女にも静夏の説得を頼んでいるようだ。

「行ってこい服部、新兵は数多の経験を重ねることで成長し、一人前のウィッチになるものだ」
「そうだよ! 何事も経験だよ、静夏ちゃん」
そう言いながら、静夏の肩を叩く芳佳と美緒。
憧れの上官2人にここまで言われては、断るわけにもいかない。
静夏は覚悟を決め、芳佳の手を取って答える。
「わ、分かりました! 不肖この服部静夏、微力ながら協力させていただきます!」
「うん、ありがとう。それじゃ、行こっか」

静夏の手を引っ張って、基地のゲストルームへ連れて行く芳佳。
そこではすでにルッキーニとエイラが撮影の準備をしていた。

「おお、よく来てくれたナ、新人」
「早速だけど、それ脱いだ脱いだー!」
「きゃあっ!」
ゲストルームに入るや否や、いきなりルッキーニに上着を脱がされる静夏。
彼女が身に付けているものはボディスーツのみとなる。
「手際がいいナ、さすがせくしー団の技術長」
「へへ〜ん、あたしにかかればこれくらいどうってことないよー!」
「ル、ルッキーニ少尉! いきなり何をするんですか!」
「せくしーカレンダーの撮影なんだから、格好もせくしーじゃないと。ほら、こっちも脱いだ脱いだー!」
次にルッキーニはボディスーツに手をかけ、あっという間に静夏を生まれたままの姿にする。
「うぅっ、ひ、ひどいです……」
「ごめんね、静夏ちゃん。ちょっとの辛抱だから。次はこれに着替えて」
そう言って芳佳が持ってきたのは、白の水着。
露出度が高めの、上下に分かれたタイプの水着だ。
「静夏ちゃんはさあ、こういう水着も似合うと思うよ〜」
(どうしてサイズぴったりなんだろう……)
後ろに回って、芳佳は水着のトップスを装着させていく。
静夏は、芳佳が持ってきた水着が自分にぴったりなサイズであることに疑問を覚える。

182 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/09/13(木) 07:07:42 ID:YdzWE07Q

「静夏ちゃんのって、やっぱり大きいな〜」
「ひゃぁっ!?」
どさくさに紛れて水着の中に手を入れ、静夏の胸をそっと触る芳佳。
それを見ていたルッキーニも芳佳に負けじと静夏の胸を揉みしだく。
「芳佳ばっかりずる〜い! あたしも静夏のおっぱい触る〜」
「きゃっ! ルッキーニ少尉、そ、そんなとこっ」
「フフ、じゃあ私はお尻のほうを……ほほう、こっちも中々……」
水着のボトムスを穿かせながら、静夏のお尻を揉んでいくエイラ。
「やぁっ……ダ、ダメですユーティライネン中尉……あぅっ」
「そんな事言われたら、もっと触りたくなるナ……って、いけない。あやうく当初の目的を忘れるとこだった」
「そうだよ。あたし達の目的は、静夏のせくしー写真を撮ることだよ」
「静夏ちゃんがあまりにも可愛い声出すから、忘れちゃってたね」

数分後、当初の目的を思い出した3人は静夏を解放して、写真の撮影に撮りかかる。
3人に散々揉みくちゃにされた静夏は、抵抗する気にもなれず、好き勝手に写真を撮られていた。
「もう、煮るなり焼くなり好きにしてください……」
「おお、潔いナ新人。それじゃあ、もうちょっと前屈みになってくれ」
「そうだなー、その上でもっとせくしーなポーズ、取ってくれない?」
「いいね、そのポーズ。素晴らしいよ静夏ちゃん!」
静夏のせくしーな姿を次々写真に収めていく芳佳たち。
一通り写真を撮り終わった後で、ルッキーニが疑問に思ったことを口にする。

「ねぇ、水着の写真をこんな部屋で撮るのって変じゃない?」
「言われてみればそうだね……ビーチまで行ってみる?」
「おお、それは名案ダナ」
「え? そ、外で撮影するんですか?」
「うん。そのつもりだけど……どうかしたの?」
「あの、さすがにこの水着で外に出るのは、は、恥ずかしいです……」
「耐えろ新人。その羞恥心を乗り越えた先に、お前の目指す理想のウィッチへの道が続いているんダ」
「この試練を乗り越えれば、あたし達みたいに飛べるようになるよ。ほら、行こっ」
そう言って静夏の腕をガッチリ掴むエイラとルッキーニ。
彼女を半ば強制的に、外へ連れて行くつもりのようだ。
(一人前のウィッチになる事が、こんなに大変な事だったなんて……お父様、真のウィッチへの道のりはまだまだ険しそうです……)
エイラとルッキーニに引っ張られながら、故郷の父親を想う静夏。
彼女の苦難はこれからもまだまだ、続きそうである……

〜Fin〜

――――――
以上です。ストッパー役がいないとおっぱい星人トリオは好き勝手暴走しちゃいますね
ではまた

183 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/10/11(木) 09:28:28 ID:QkT.so0I
おはようございます。
保管庫NO.1644「School Life」の続編を2レス投下していきます。
那ちゃんとナオちゃんの話です。では、どうぞ

184 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/10/11(木) 09:29:03 ID:QkT.so0I

【ファーストキスはどんな味?】

「ナオちゃ〜ん、お疲れ〜」
「おお、那佳。お疲れさん」
剣道部の部室を後にして、寮へ帰ろうとしていたところを同級生の那佳に呼び止められる。
良い写真でも撮れたのか、首に下げたカメラを持ってニヤニヤしている。
「えらく上機嫌だな。良い写真でも撮れたのか?」
写真部の那佳は、部活動の風景や広報誌の写真を撮るためいつも学内を奔走している。
その行動力と体力には、ただただ感心させられる。
「うん。今日はね、広報誌に載せる学食の写真を撮ったんだ。我ながら結構美味しそうに撮れてね……」
その直後、会話を遮るようにオレと那佳のお腹が鳴る。
2人のお腹が鳴るタイミングがあまりにも絶妙だったので、オレ達は思わず吹き出してしまう。
やっぱ、部活の後ってすげー腹減るよな、うん。
「あはは、食べ物の話してたらお腹空いてきたね」
「ああ。部活の後だから尚更な」
「ねぇ、帰りに家庭科部の部室に寄ってみない? 芳佳ちゃん達なら何か恵んでくれるかも」
「そうだな。芳佳達、今日は部室の掃除当番だって言ってたから、まだ残ってるだろうし」
オレは那佳の提案に乗って、家庭科部の部室へと歩みを進める。

「灯りが点いてないな」
――家庭科部の部室前、灯りはすでに消えていて人がいそうな気配はない。
芳佳とリーネは掃除を終わらせて、もう帰ったんだろうか。
「もう帰っちゃったかな……あれ、鍵は開いてるね」
部室に鍵がかかってないことを確認した那佳が、そっとドアを開ける。
そこでオレ達は、目の前に広がっていた予想外の光景に息を呑むことになる。
「なっ……」
真っ暗な部室の奥に見えたのは、深いキスを交わす芳佳とリーネの姿。
(な、何やってんだあいつら……)
月明かりの下で接吻を交わす2人が妙に色っぽくて、オレの胸はドキドキと高鳴りを覚える。
って、見惚れてる場合じゃない。2人に気づかれる前にここを離れたほうがいいな。
オレは部室の扉をそっと閉めると、呆然と立ち尽くしている那佳の手を引っ張ってその場を後にした。

「んっ……ねぇ、今何か音しなかった?」
「気のせいじゃない? それより、もうちょっとだけキスしてもいい?」
「え? もう、芳佳ちゃんったら甘えん坊さんなんだから」

185 名前:5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2:2012/10/11(木) 09:29:36 ID:QkT.so0I
――――――◆――――――

「しかし、芳佳達にはビックリしたな」
「うん。あんなところでキスしてるなんて……」
家庭科部の部室を後にしてから20分後、オレ達はコンビニ買ったアイスを食べながら帰路に着いていた。
話題は専ら、さっき目撃した芳佳とリーネのキスの話。
「あの2人がイチャついてるとこなら、今までイヤというほど見てきたけどさ、いざああやってキスしてるのを見ると
なんか……照れるよな」
「……うん」
消え入るような声で那佳が頷く。それから暫らく、オレと那佳の間に沈黙が流れる。
……なんなんだろうな、この気まずさは。

「ねぇ、ナオちゃん」
アイスを食べ終わった那佳が、そっと口を開く。
「なんだ?」
「キスって、どんな感じなのかな?」
「どんな感じって、そりゃきっと甘くて柔らかいもんなんだろ。オレも小説で得た程度の知識しかないけどさ」
「ふーん。ね、私たちもキスしてみない?」
那佳が遊びに誘うような気軽さでとんでもない提案をしてくるものだから、オレは思わず度肝を抜かれる。
「な!? い、いきなり何言い出すんだよ」
「私、あの2人のキス見てたらどんな感じなのか気になっちゃって……ナオちゃんも興味あるでしょ?」
「そりゃ、興味ないって言えばウソだけどキスって普通、好きな人とするものだろ」
「私、ナオちゃんの事好きだよ」
そう言ってオレの手を握って、笑顔を向けてくる那佳。
いや、お前の言ってる好きは『ラブ』じゃなくて『ライク』のほうだろ。
そんなキラキラした瞳でオレを見つめないでくれ、反応に困るじゃないか。

「……しょうがないな、ちょっとだけだぞ」
那佳の純粋な瞳に折れたオレは、彼女の手を引っ張って、近くの自販機の陰に連れて行く。
「じゃあ、行くぞ」
「……うん」
オレは那佳を自分のもとに引き寄せて、彼女の唇を自分のそれで塞いだ。
「ナオちゃ、ん……」
想像してた以上に那佳の唇は、甘くて柔らかい。
唇を重ねれば重ねるほど、那佳の全てが伝わってくるような気がしてオレの胸は自然と高鳴っていく。
キスって、こんなに気持ちいいものだったのか……

「んっ……」
少しして、オレは那佳から唇を離した。
時間にして数十秒ほどのキスだったが、妙に長く感じられた。
気まずさからオレも那佳も、中々言葉を切り出せずに押し黙ってしまう。
少ししてから那佳が口を開いた。
「ナオちゃんの唇、甘酸っぱかったな」
「……っ! な、何恥ずかしいこと言ってんだよ」
「へへっ、ナオちゃんったら照れちゃって。可愛いんだから。ね、今度またキスしよっか?」
「だ、誰がするかバカ!」
言葉とは裏腹に、胸を高鳴らせるオレがいた。
あの甘くて柔らかい感触をまた味わうのも悪くないと思った事はもちろん、那佳には内緒だ。

〜Fin〜

――――――――
以上です。
一線を越えた関係ってドキドキします
ではまた

186 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2012/11/20(火) 21:56:39 ID:pogSsp42
>>182 >>185 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! 501せくしー団ワロタw これはひどいw(誉め言葉)
そして学園ウィッチ、良いですね! これは素敵な青春です!


こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
以前ふと思った疑問を、SSにしてみました。
時期的には2期終了後〜劇場版までの間に起きたお話しと言う事で。
ではどうぞ。

187 名前:flashpoint 01/07:2012/11/20(火) 21:57:15 ID:pogSsp42
 501基地の空気が、そして隊員全員の気持ちが、張り詰めていた。
 間も無く合図をもとに開始される「模擬戦」。ただの模擬戦の筈だ。だが、それが色々なものがまぜこぜになって、どうにもならなくなったものだと、したら。

 事の発端は、数時間前に遡る。
 とある用事で501基地に降り立ったのは、欧州よりも南、地中海を越えた砂漠の煙る地で戦果を上げる、有名な連合軍第三十一統合戦闘飛行隊「アフリカ」「STORM WITCHES」のエース、そして隊長の二人。少々お茶がてら休憩でも……とミーナは基地の隊員全員を集めて歓迎のお茶会を開いた。
 そこで、「人類最高」のエースと褒め称えられるあのウィッチが、やらかしたのであった。
「やあ、この前の合同作戦以来だね……って、殆ど喋ってなかったっけ? ともかくリトヴャク中尉。久しぶり。何度見ても、噂通りのオラーシャ美人だ」
 それまでマルセイユは他の隊員達と呑気に話していたが、サーニャのそばにそそっと近寄ると、声を掛けた。人見知りの気があるサーニャは、「は、はい、どうも」とぎこちなく答えたが、それがマルセイユにまた響いたらしい。
「君、ナイトウィッチなんだってな。是非とも欲しい。アフリカに来ないか」
「でも、私は501のナイトウィッチですから」
「確かにそうだ。でも私は欲しいんだけどな、君を」
 マルセイユはサーニャを気に入ったかの如く、褒め称えた。そして盛んに勧誘する。
「あんまりサーニャを困らせるナヨ。ウチもナイトウィッチはサーニャだけなんだから」
 エイラが口を尖らせる。501から貴重なナイトウィッチを引き抜かれるのが嫌なのか、それとも露骨に誘っているマルセイユが嫌なのか。はたまた両方か。
 待ってましたと言わんばかりに、マルセイユはちらりとエイラを見た。いや、見下した。
「おや。『極北の私』と言うのは君かな?」
 その一言がエイラに火を付けた。
「それはハンナだ! 私じゃナイ! 大体、私達が何でお前の名前を渾名につけられなきゃいけないんダ!?」
「私位に褒められる奴が居るなら、相当強いんじゃないかと思ってね。君じゃないなら失礼した。さてリトヴャク中尉……早速だがこんなとことは早くおさらばして、私の部隊に……」
「待てヨ」
「なんだ、まだ何か有るのか」
「こんなとこ、とは何ダ」
 珍しくエイラが初対面に近い相手に、感情を露わにしている。
「こんなとこ、とは文字通り『こんなとこ』、じゃないのか」
「それは侮辱と取るゾ」
「ほほう。では、どうする? どっかの怪力バカみたいに、力で私をねじ伏せようとでも?」
「エイラ、やめて」
「サーニャは黙っててクレ。ここまで虚仮にされて引き下がれるカ?」
「可哀相に、こんなのと一緒に居るなんて……」
 マルセイユはサーニャの顎をすっと撫でると、唇を近付けた。見ていた芳佳とリーネがきゃあ、と黄色い悲鳴を上げる。
「オイお前!」
 エイラが動く。だが先にマルセイユの肩を掴んだのはシャーリーだった。その速さは一瞬だったが、加速の固有魔法を使ったかどうかは本人のみぞ知る事。
「アフリカじゃあ色々世話になったから言うけどさ」
「お、イェーガー大尉か。どうかしたか?」
「あんた、ここ、アウェーって事、少し考えた方が良いよ」
 シャーリーの口調は気楽だが、目は笑っていない。
 ふっと口の端を歪めると、マルセイユはサーニャから離れ、シャーリーの手をさっと払い除けた。
「どうやらその様だ。あっちからも痛い視線を感じるしね。ご忠告感謝」
 マルセイユは部屋の片隅に居る同胞二人に一瞬視線を送った後、エイラに向き直る。
「全く。あいつと来たら何て事を」
 遠くから様子を見ていたトゥルーデは、苦々しげに呟いた。エーリカは、そんなトゥルーデを宥めるので手一杯。
「よし。スオムスのウィッチ、私と勝負だ。模擬戦で良いだろう。負けたら……」

188 名前:flashpoint 02/07:2012/11/20(火) 21:58:56 ID:pogSsp42
 そこに割って入ったのは、「ストームウィッチーズ」の隊長、ケイ。
「はいはい。ならこうしましょう。勝ったら一週間リトヴャク中尉を私達の部隊にゲストとしてご招待。負けたら、貴方がブロマイドにサインを百枚、追加で501全員にもサイン入りブロマイドをプレゼント、それで良いかしら」
「何でも良い。何故なら私は絶対に負けないからな。でも、ここは結構強い奴が多いんだろう?」
 その言葉を紡ぐ時、ちらりとエーリカの方を見て……、その後改めて501全員を見回して、マルセイユは続けた。
「そんな奴等がどんなもんか、試してみたかったんだ」
 マルセイユはにやっと笑うと、自身のストライカーユニットが積まれた輸送機目指して……それが駐機するハンガーに向かって……、駆け出した。エイラも負けじと立ち上がったが、トゥルーデに押し留められた。
「何するんダ大尉?」
「奴のペースに乗せられているぞ。……どうした、サーニャの事になると普段の冷静さは何処かへ消えてしまうのか?」
「えッ、それは……」
 やれやれ、とトゥルーデは呟くと、改めてエイラの両肩をぎゅっと掴んだ。そして言葉を続けた。
「どうせ止めろと言ってもお前は模擬戦に行くんだろう。だから501の最先任尉官として、そして501の仲間として忠告したい事がある。いいか、よく聞け」

 二十分後、基地滑走路から二人のウィッチが飛び立った。無線で基地指揮所と交信を続ける。美緒が双方に呼び掛けた。
「双方、所定の位置に付いたら正対状態(ヘッドオン)から開始だ。準備飛行中のついでに、もう一度、今回の模擬戦のルール確認をする。制限時間は三分。空戦で一発でも弾を受けシールドが発動した方の負けだ。制限時間内に決着が付かない場合は引き分けだ。再戦は無し。良いな」
『了解』
『了解』
 501の隊員、そしてケイは同じく無線のインカムを聞きながら、基地のバルコニーから双眼鏡やら色々持ち出して、空を眺めていた。
「人類最高のエースがねえ……無傷のエースと戦うって、どうなる事やら」
 ケイがぼそっと呟く。横に居たミーナは苦笑した。
「お互い大変ですね。やんちゃな部下を持って」
 ミーナの年不相応な落ち着き方に少しの違和感と敬意を抱くケイ。相当な場数を踏んできたんだろう、と察するも口には出さず、ケイはミーナの問い掛けに応じた。
「そうね、あの娘はいつもあんな感じ。良くも悪くも自由で……そう言えば隊長さんは、マルセイユの事」
「私の直接の部下ではなかったから、トゥルーデ……いえ、バルクホルン大尉やハルトマン中尉程、詳しくはないです。でも、名前と戦功はよく知っていますよ。有名人ですからね」
「なるほど。あの娘、アフリカでも……」
「色々大変でしょう?」
「分かります?」
 二人の隊長は顔を見合わせると、苦笑した。
「本当、今回はうちの娘の我が儘に付き合わせてしまってごめんなさいね。後でこの借りは必ず」
 ケイはミーナに詫びた。ミーナは諦めが少々混じった笑みをもって、ケイを宥めた。
「いいえ。たまには私達の中にも、刺激を与えないと」
「そう言って貰えると助かります」
 ミーナとケイの、ほのぼのとした会話。そんな彼女達をさしおいて、美緒は指揮所でひとり、無線を使い、また双眼鏡で時折位置を確認しながらエイラ、マルセイユの双方に指示を出す。
「よし、定位置に付いたな。銃器に異常は無いか最後の点検だ。確認を怠るなよ」
『了解』
「準備が出来たら応答を。同時に正面に直進しつつ、模擬戦開始だ」
『了解、最終チェック中だ』
『こっちもダ』
「美緒……いや、坂本少佐も頑張ってるねー。いつの間にか、第二の“師匠”って感じでまた」
 ケイがそんな美緒の姿を遠目で見ながら、微笑んだ。
「えっ? み……坂本少佐に、師匠が?」
 ミーナの驚いた顔に、ケイは笑って答えた。
「まだ彼女が駆け出しのこんなちっちゃなウィッチだった頃の話なんだけどね、その時の師匠がまた……」
「こっこらそこ、余計な事を言うな!」
 インカム越しに聞こえていたのか、美緒が慌ててケイを止める。
「まーまー焦っちゃって。変な事は言わないから安心して頂戴な」
「ま、まったく……」
「あとで詳しくお話し聞かせて頂きたいものです」
 少し頬を染めたミーナに、ケイはふっと笑顔で頷いた。
「まあ彼女の事は後で話すとして……この模擬戦、どうなりますかね」
「さあ……」

189 名前:flashpoint 03/07:2012/11/20(火) 21:59:23 ID:pogSsp42
「やんちゃなのは確かなんだけど、こうして501の皆さんに迷惑掛けちゃうのも申し訳無いんだけど、……だけど」
 ケイはインカムをオンにした状態で、声を大きめにしながら、“呟き”を続けた。
「そういうマルセイユ、私は大好きなのよね」
『こっこら! おい、ケイ! 皆の前でなんて事言うんだ! そう言うのは止めてくれ!』
 上空からインカムを通じてマルセイユの赤面っぷりが伝わって来る。
「これで、さっきの挑発とおあいこって事で」
 ケイはそっとミーナに耳打ちした。なる程、と頷いたミーナはご配慮感謝しますと応えた。

『……良いかエイラ。相手は仮にもカールスラント空軍(ルフトバッフェ)、いや「人類最高のエース」と言われるマルセイユだ。固有魔法は「偏差射撃」とも言われるが正確には分からん。未来視、三次元空間把握、魔弾の三種類の魔法の組み合わせではないかとも言われる程、奴の射撃技術は恐ろしいものだ。残念だが、今の私では恐らくあいつには勝てないだろう。この前見た様に、このハルトマンですら互角に持ち込むのがやっとだ』
 エイラはいつもと変わらぬ手順でMG42の点検をしながら、トゥルーデの「助言」を反芻していた。
『だが、お前には「絶対に当たらない」と言う「完全回避」の固有魔法がある。お前のその能力なら、可能性は十分に有る。良いか、絶対に負けるな』
「……簡単に勝てたら苦労はしないってカ。まァ、負けるつもりは無いけどナ」
 誰にとでもない呟きと共に、準備完了のエイラ。その旨を指揮所の美緒に伝えると、模擬戦開始の指示が出た。時間は三分。

 戦いが、始まった。

 両者正対位置から挨拶代わりに、軽く一、二発の弾丸を発射する。当然の事ながらさっと回避する。そうしてすぐに相手のバックを取る為にターン、絡み合いもつれる毛糸の如く、両者の激しいドッグファイトが始まった。的確な位置取りを目指し、マルセイユのBf109G-2/tropとエイラのBf109K4が魔導エンジンを全開にして、空を翔る。

 501の面々が揃って空を見上げる中、ぼんやりとバルコニーの手摺に肘を付き、話す二人のエース。
「どう、トゥルーデ? どっちが勝つと思う?」
「分からん。普通に考えればマルセイユだろう。何せお前と同格、いや、ウィッチとしても別格のウィッチだからな」
「まー、そうだよね」
 つまらなそうにちらっと上空を見た後、基地の眼前に広がるアドリア海に目を向けるエーリカ。先日のマルセイユとの合同作戦を、その後の“決闘”を思い出したのか、表情はどこか曇りがちだ。
 そんなエーリカの頭をトゥルーデは優しく撫でた。
「あの時の決闘、感謝してる。有り難う、エーリカ」
「あのねトゥルーデ、私はただ……」
「いいんだ。もういい」
 トゥルーデは微笑んで、エーリカの肩をそっと抱いた。
「で、答えの結果聞いて無いよトゥルーデ。どっちが……」
 エーリカはトゥルーデに寄り添う格好で、答えを聞いた。トゥルーデは言葉を選びつつ、エーリカに言った。
「そうだな……。何処までエイラがマルセイユの射撃をかわし続けられるか。勝負はそこだろう。マルセイユにしても、今まで相手にした事のないタイプのウィッチだ。初戦では特に、エイラの能力を前に焦りが出るんじゃないだろうか」
「あのマルセイユが、焦る?」
 訝るエーリカに、トゥルーデが答える。
「ウィッチは意外にふとした切っ掛けで、焦り出すものさ」
「まあね」
「私の正直な気持ちを言うと……カールスラント空軍(ルフトバッフェ)のエースとして、マルセイユには負けて欲しくない。一方で、501のエースの一人であるエイラにも、絶対に負けて欲しくない」
 ふう、と溜め息を付くトゥルーデ。エーリカはくすっと笑った。
「何だかんだで、二人共気になるんだね」
「それは……まあ」
「だから私はトゥルーデを……いや、何でもない」
「全く……」

190 名前:flashpoint 04/07:2012/11/20(火) 22:00:01 ID:pogSsp42
 地上のトゥルーデとエーリカにはお構いなしに、激戦を繰り広げる二人。

 エイラは、恐ろしいまでのマルセイユの正確無比、そして未来を読むかの如き偏差射撃能力に恐怖していた。
「何でこんなに狙って来るんダ、こいつハッ!」
 未来予知を駆使しても躱しきれないのではと思いかける程……、射撃は弾数こそ少ないものの、一発一発がずしりと重い空間的なプレッシャーとして、エイラを背後から、後方から、そして側面から容赦無く追い立てる。いやむしろ最初から確実に当てに来ている。追い立てる意味の牽制射撃など皆無で、全てが確実に致命的な部位を貫く様な射撃。背後のプレッシャーだけで追われ、更に止めの鋭い一撃が飛んでくる。それだけ相手の腕は確かだ。
 その都度、エイラは身を捩って、針の穴を通すが如き精度、襲い来る圧力と弾丸を避けながら、反撃のチャンスを伺う。翼端から糸を引く高速旋回から唐突な高Gロール、横滑りまでを無意識に織り交ぜる機動を駆使し、シャンデルで反撃を伺うも、相手の空戦機動も大したものですぐに背後に回られる。逃げる余裕が次第に失われていく感覚。それでもエイラは、固有魔法から得られるおぼろげな将来の“イメージ”と本来持つ天性のセンスをミックスさせ、回避を重ねる。
 脚を交互に動かしてのロールだけでは物足りないのか、舵面と逆に動かす事で見た目と異なる動きすら交えて一見複雑で、それでいて美しいまでの極限ぎりぎりの回避。エイラの本能か身体能力か固有魔法か或いはそれらのミックスか、そう言った見事なストライカーユニットの使い方、飛び方で、機動を続ける。
 試しに、後ろにだらりと流し持った状態でMG42を数発撃って牽制してみるも効果は無い。着実に、狙いが定まるのを肌で感じる。MG42を構え直す。エーリカとやる模擬戦と同レベル、いや、狙われると言う意味では更に恐ろしい程の、正確さ、そして空間把握能力。エイラは時折飛んで来る銃弾をギリギリ紙一重で幾度となくかわし、魔導エンジンに魔力を注ぎ込み、飛び続ける。

 一方のマルセイユは、表面的には冷静さをアピールしつつも、何故か掠りもしない弾丸にまず驚き、そして間も無く、相手のウィッチが何かしらの能力(チカラ)で、全て避けている事に驚愕していた。
「何だ、こいつ……」
 一発も、当たらない。
 愛用の武器MG34はセミオートとフルオートを撃ち分けられる。元々精密射撃、偏差射撃で殆ど弾丸を浪費せずネウロイを屠ってきたマルセイユにとってはなかなか優れた武器だった。しかしいざ模擬戦となり、何度狙いを定めて正確に撃っても、極々軽い上等な羽毛を掴もうとした時に手を近付けると逃れてしまう……そんな様を思わせる動き。まるで弾よりも奴の方が軽く、このMG34の弾丸が鈍重に空気を掻き分けているのかと当たり散らしたくなる気分。額ににじむ嫌な汗、こんなの初めての経験だ。模擬戦開始からこれまでに発射した弾数を数える。
 確実に追い詰めてはいる。その筈だ。普段のマルセイユなら、相手のちょっとした動きから、狙いを定めて着弾位置まで予測出来る程の感覚を有している。今もそう。その筈なのに。……当たらない。
 機動そのものでも確実に「回避する為の機動の余地」を奪っている。しかし牽制では無い、必中の射撃は悉く当たらない。MG34に問題は無い。そこに来ると確信する位置に、思った通りの弾道で思った通りのタイミングに音速の2倍で弾丸を送り届ける。にも関わらず、其処に奴は居ない。しかも必ず。
 ……何故外れる? 単純に固有魔法(チート)の力か? たまたまのラッキー? いや、そんな偶然がそう何度も繰り返される訳がない。ならばそれ程に、相手の総合的な回避能力とは優れたものなのか? もしや機体と空気(気温)の差? いや違う、向こうはスオムス出身でアドリア海での戦闘、こちらはカールスラントからノイエカールスラントを経ずにアフリカ戦線、条件にそんな差が出る訳じゃない筈だ……。マルセイユは自問自答を繰り返す。だがしかし、何度狙って撃っても答えは出ない。
 ……面白い。絶対に勝って、あのオラーシャのナイトウィッチをアフリカにお持ち帰りしてやる。オラーシャも確か大半をネウロイに奪われてる筈、なら(もっと状況が深刻な)カールスラントの私が彼女を連れていっても何の問題も無い筈だ! ……そう気張ってはみるものの、しつこいまでに回避を繰り返されると、野望はおろか、自身の腕にすら、少々の疑問が出てくる。
 舌打ちをすると、マルセイユは更にエイラを追い立てるべく、ストライカーユニットに魔法力を注ぎ込んだ。

 双方はもつれ合ううち、徐々に高度を失いつつあった。やがてどちらからとでもなく、ゆるゆると上昇機動に転じた。そうして暫く高度を稼いでから、またも激しい一騎討ちへと突き進む。

191 名前:flashpoint 05/07:2012/11/20(火) 22:00:33 ID:pogSsp42
 先程のマルセイユの舌打ちをノイズ混じりに聞いたのか、ケイがちらりと空の一点を見やる。……のめり込み過ぎなければ良いのだけど、とマルセイユを案じるケイ。しかし見た感じでは、マルセイユ優勢のまま勝負は進みつつあった。
「ユーティライネン中尉、かなり追われてますね」
「でも、マルセイユ大尉も決め手に欠けますね」
 ケイとミーナは上空の空戦を見ながら、ぽつりと呟く。既に模擬戦開始から二分が過ぎている。このままだと時間切れとなり勝負は引き分けとなる。

「ふむ。エイラにしてはよく凌いでいる」
 美緒が空戦の模様を見ながら感心する。思わず本音に近い呟きを漏らす。
「ハルトマンとの時とは違って、また見応えがあるな……」

「エイラさん、少しは反撃されたらどうですの?」
「ペリーヌさん、多分エイラさんは逃げるので精一杯なんじゃ」
「えっ、でも芳佳ちゃん、エイラさんの事だから、何か秘策でも」
「えっ、そうなのリーネちゃん?」
「エイラさんに秘策? どうかしら……」
 ペリーヌとリーネ、芳佳は三人で揃って空を見上げていた。

「見て見てシャーリー。エイラ凄いよ、本気出してる」
「ああ。あのマルセイユ相手に一歩も退かないとは、なかなかやるなー」
「あたし、鬼ごっこで負けたしー」
 アフリカでの出来事を思い出して苦々しい顔を作るルッキーニ。あははと笑ってあやすシャーリー。
「ま、あいつもあいつなりにプライドが有るだろうから、何とかなるだろ」
 楽天的に、後ろ手に腕を組み、空を見上げた。

「どう思うエーリカ。エイラの機動は」
「流石『当たらない』ってだけあるよね。私も模擬戦じゃ当てるのに苦労するからさ、エイラ相手だと。マルセイユの気持ちも少しは分かるよ」
 それを聞いたトゥルーデは、ふふっと笑った。そしてエーリカに言った。
「まあな。絶対に当たる筈の弾を完璧に避けてしまう。それが良くも悪くも、あいつの凄い所だ。ただ……」
 トゥルーデは心配そうに空を見上げた。
「このままだといずれは時間切れだ。二人はそれを『良し』とするだろうか?」

「エイラ」
 サーニャはただ、エイラの身を案じていた。自分の事などどうでも良い。だけど、大切なエイラがムキになって模擬戦をやるなんて……それが切っ掛けで怪我や事故でも起きたら、と思うと、心が張り裂けそう。
 だけど。
 エイラには、負けて欲しくない。そう言う気持ちも混ざり合い、うまく言葉が出てこない。
 だから、彼女の名を、呼ぶ。

 そろそろ時間。このまま逃げ切れば勝負は「引き分け」となり全てが終わる。ただ、エイラは研ぎ澄まされた身体感覚を駆使する中で、考え続けていた。
 ……撃たれ続け、全てを避けるだけで、果たして良いのか? 時折反撃も加えるが、流石「人類最強」と言われるだけあって一筋縄では行かない。ならばどうする? どうしたい?
 ふと、スオムスに居た頃を思い出す。訓練がてら、ストライカーユニットを履いて空を飛んだ頃の事。無邪気に鬼ごっこする感覚で、相手を捉えようと必死に魔導エンジンを吹かした頃の事。厳しい戦いの中、それなのに、仲間と一緒で楽しかったあの頃……
 そう、あの時……。そう、それだ。

 エイラは本能的に身を翻すと、がむしゃらにエーテル流を掻き分けるのを止めて、峻烈な頂に立つ程の勢いで加速し急上昇した。マルセイユも負けじとハイGバレルロールで身を捩り、真後ろに付く。

 ウィッチのストライカーユイット装備重量に対して大推力を絞り出す魔導エンジンは垂直上昇でも完全に失速する事は無い。しかし、運動エネルギーが位置エネルギーに変換されるその全てを補填する事は出来ない。平衡点に向けて漸近線を描く速度……その瞬間が訪れた時こそ、決着のとき。
(このまま急上昇を続けても、いずれ失速する。諦めたか)
 マルセイユは間も無く訪れるであろうチャンスを待ち、MG34を構えた。

192 名前:flashpoint 06/07:2012/11/20(火) 22:00:56 ID:pogSsp42
 刹那。
 エイラは不意に上昇から急下降に転じた。突然の停止、そして墜落にも似た落下。
 極端に不安定な挙動だが、エイラはそんなのお構いなしにMG42を構えて居た。
 確実にマルセイユを狙っている。

 エイラの挙動はマルセイユの意表を衝くものだった。トルクと舵面と体技のなせる技なのか? そうすべきだとの未来を視たからなのか? その過程は解らない、だが現実に、そして全く唐突にエイラは静止し、急降下に転じた。一見航空力学を無視したかに見える挙動に照準が追いつかない。
「ハンマーヘッドターン? いや、ストールターンか!?」
 マルセイユは思わず声を上げた。
 推力軸線と機動が全く合わない不安定な姿勢にも関わらず、エイラはMG42を構え、マルセイユを狙っていた。無理な構え直しはせず一見無造作な構え、それはしかし、射線上にマルセイユが入る瞬間が視えているが故の自然体。マルセイユにはそれが解った。
 咄嗟に「回避機動」を行わざるを得ない。マルセイユにとってはある意味屈辱でもあった。そして照準しなおして今度こそ確実に捉え得る網を投げかけるべく、トリガーに指をかける。

『そこまで! 両者射撃止め!』
 凛とした美緒の声が両者のインカムに届く。

 ぴくり、と動き掛けた指先を玩びながら、マルセイユはゆっくりと落下してくるエイラを見た。途中でバランスを立て直したエイラと、空中でホバリングしつつ、相対する。

「何だ、今のは」
 マルセイユの怪訝そうな、そして少々むっとした顔に向かって、エイラはニヤッと笑って言った。
「思い出しただけサ」
「何を」
「こう言う遊びも必要だって事をナ」
「何、馬鹿な事言ってるんだ……501は本当、おかしい奴ばかりだな」
 呆気に取られ、マルセイユは軽い皮肉を言うのがやっと。
「そうでもないとここではやっていけないゾ。あと、サーニャはやらないからナ」
「分かったよ。……そう言えば、ちゃんと名前を聞いて無かった」
 マルセイユはエイラと同じ高度に顔を合わせると、問うた。
「私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。あんたの事は知ってるヨ、マルセイユ大尉」
「ユーティライネンか。ああ、思い出した。501には『完全回避』のウィッチが居るって聞いた事が有るが、あれは君か」
「実戦でシールドを使ったのは今まででたったの一回だけだからナ。そこらのウィッチと同じにするなヨ?」
 えっへんと誇らしげなエイラを前に、合点が行った様子のマルセイユはそうか、と頷いた。
「なるほど、当たらない訳だ」
 どんなに追い詰めても当たらなかった。大した奴だと、マルセイユは戦いを振り返った。そしてもうひとつの事実を思い出し、口元を歪め、呟いた。
「ま、常時優勢にあったのは私の方だけどな」
「結局一発も当てられなかったのにそんな事言うカ?」
「それは痛いツッコミだな」
 いつしかエイラもマルセイユも、銃器を背負って互いに笑っていた。

 そんな二人の声を聞いた地上の仲間達は、色々な意味で安堵した。

193 名前:flashpoint 07/07:2012/11/20(火) 22:01:19 ID:pogSsp42
「今度は、冗談抜きでアフリカまで遊びに来てくれ。歓迎するよ」
 帰りのJu-52に乗り込む際、マルセイユは名残惜しげにサーニャに声を掛けた。
「しつこい奴は嫌われるゾ?」
 サーニャの前に立ち塞がり、頬を膨らませるエイラ。
「いや、ウィッチとしての戦力でなく、純粋な観光でも構わないって事だよ。余裕はないけど、歓迎するぞ。ユーティライネン中尉も是非来てくれ」
 マルセイユはエイラにも声を掛けた。
「ホホウ、そりゃドウモ。でも暑いのはちょっとナ」
「『住めば都』ってね。ここ程恵まれてはないが、なかなかいいとこだ」
「今度、考えておきます……」
 サーニャはぽつりと呟いた。マルセイユはそれを見込みアリと思ったのか、ふっと笑みを浮かべる。
「おいサーニャ……」
「エイラと、二人で」
「えッ?」
 サーニャの言葉を聞いたエイラは驚き、マルセイユは参ったとばかりに顔に手を当て、笑った。
「これはまた失礼した。……分かった、二人で一緒に来ると良い。歓迎する」
「有り難う御座います」
「ありがとナ、マルセイユ大尉」
 タラップを乗りかけたマルセイユは、エイラに近付くと耳元で何か囁いた。それを聞いたエイラは耳を真っ赤にして
「大きなお世話ダ!」
 と怒鳴った。マルセイユはひとしきり笑ったあと、
「じゃ、そう言う事で。面白かったよ。また」
 と別れを告げると、ゆっくりタラップを上がり、“ユーおばさん”のコルゲートの奥へと消えた。

「良いの? カールスラントの仲間に挨拶しなくて」
 先に乗り込んでいたケイに問われ、マルセイユは座席にもたれると、首を振って答えた。
「あのシスコン石頭は相変わらず。ハルトマンも相変わらず。ヴィルケ中佐も変わらずってとこだった。特に何も。まあ、少し安心したが」
「なら良いんだけど」
「それに、501(ここ)にはまた近いうちに来る様な気がするんだ」
「その予感、当たりそう?」
「さあ。どうだろう」
 ケイは窓の外を見た。501の隊員達が手を振って見送りしている。マルセイユは適当に手を振って応えた。ケイは懐からライカを取り出すと、記念に数枚撮影した。
「ストライクウィッチーズ、ストームウィッチーズの双方に幸あれ……ってとこかしらね」
 ケイも皆に向かって手を振った。間も無く扉を閉めた輸送機はタキシングを始め、ゆっくりと滑走路から離陸し、基地を離れた。
 マルセイユは、腕組みしたまま何か考え事をしている様だった。ケイは聞いた。
「そう言えば、ブロマイドにサインの罰ゲームは?」
「勝負では負けてないんだし、する必要ないだろう」
「でも、勝ってもいないわよね?」
「そりゃ、まあ……」
 ケイはふふっと笑い、マルセイユに声を掛けた。
「あら。珍しく、マルセイユにしては歯切れが悪いこと」
「扶桑のウィッチは嫌味もきついな」
「ま、良いけど」
 ケイは知っている。帰り際マルセイユがこっそり、ミーナに一枚のサイン入りブロマイドを託した事を。誰宛てに……とは特に言わなかったが、受け取るに相応しき人に渡り、きっと有益に使われるだろう。相手がミーナなら、安心出来る。
「ともかく、もうあんな無茶しちゃダメよ、マルセイユ。あと挑発もあんまり……」
「分かった分かった、少し寝かせてくれ、疲れたんだ」
「はいはい」
 ケイは苦笑すると、ブランケットを取り出してそっとマルセイユに掛けた。微笑んで、マルセイユは緩い眠りに就いた。

 “嵐”が去った夜。サーニャはベッドに横になり、タロットをめくるエイラに声を掛けた。
「ねえエイラ」
「どうしたサーニャ?」
「エイラが今日模擬戦やったのって、……やっぱり私の為?」
「あっ当たり前ダロ!?」
 顔を真っ赤にするエイラ。サーニャは続けて問うた。
「他に理由は?」
「それは……もう何だって良いじゃないカー!」
「最後にマルセイユさんは何て?」
「内緒ダゾ」
「ずるい。教えてくれないと私一人でアフリカ旅行に行くよ?」
「それはダメダナ」
「もう、エイラったら」
 サーニャはタロットに手を伸ばしたエイラの手を取った。そのままそっと、唇を手に這わせる。
「有り難う、エイラ」
「べ、別に……私ハ……」
 勝てなかった。でも守りきった。そんな敗北とも勝利ともつかぬ曖昧さ、何よりの安堵感、そして今も横にサーニャが居る事を、エイラは喜んだ。サーニャの為なら。エイラはそっとサーニャを抱き寄せ、二人だけの時間を楽しんだ。

end

194 名前:名無しさん:2012/11/20(火) 22:02:24 ID:pogSsp42
以上です。

2期10話でハルトマンvsマルセイユの戦いはありましたが、
じゃあ「人類最強のエース」と「絶対に当たらない(『完全回避』の)エース」が
戦ったら一体どうなるの〜? と言う疑問からこのSSを書きました。
大方の予想はマルセイユ勝利でしょうが、エイラならもしかしたら有り得るかも、
と思った次第です。それでこう言う結末に。……異論は認める。

なお、当SS作成に当たり、M−鈴木様から多大なご支援ご協力を賜りました。
ここに感謝の意を述べさせて頂きます。

ではまた〜。

195 名前:名無しさん:2012/12/24(月) 09:37:56 ID:0oqdEQjo
>>194
GJです!相変わらずmxさんの空戦は素晴らしいです…!
本編ではあまり出張らない(7話以外)エイラですが、他のウィッチと模擬戦をしたらすごく映えるんだろうなあ…
エーゲル&エイラニャすきーの自分にとってはご褒美のような一作でした…!

196 名前:21X2w2Ib:2012/12/24(月) 09:40:55 ID:0oqdEQjo
劇場版を見てから、ハイデマリー→ミーナさんが果てしなくキテルので3レスほど失礼します。

------

 憧れている、ばかりだった。レコードは擦り切れるくらい聴いた。私を護るための鳥籠、薄暗い部屋の中で彼女の
綺麗な声ばかりが、私の世界の全てだった。

 彼女はウィッチなのよと、私の世話役は語った。幼い頃から音楽の才能を認められ、その道を澄んだ瞳で見つめて
いた彼女は、このレコード一枚を残して空を飛ぶことに決めたのだと。神がもしこの世にいるとしたらそれは祝福な
のかそれとも重荷なのか、私にはわからない。ウィッチとしての能力がなければ、こんな絶望的な世界の中でも自分
の望む道を細々と進むことができたかもしれない。しかし天が彼女に与えた二物は、相反するものだった。

 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。今や世界中で、彼女の名前を知らない人のほうが少ないのではないだろうか。
ただしその名声は決して、声楽家としてのものではなく。
 伝説の魔女─ストライクウィッチーズの隊長にして、カールスラント空軍きっての優秀なウィッチ、つまりは軍人
としての、ものなのであった。

 ガリア開放と同時に第501統合戦闘航空団が解散と相成り、そこに所属していたカールスラント空軍のウィッチ
3名がここサン・トロン基地にて第1特殊戦闘航空団を結成したのが、確か一年ほどほど前のことだったか。そこか
ら、ロマーニャでの501の再結成とネウロイ撃退を経て2週間ほど前、再び彼女らはカールスラントに戻ってきた。
夜間戦闘航空団にいた私がそこに合流したのが、今日付けの話。

「紅い瞳をしているのね」

 唐突にかけられたのは、そんな言葉だった。声がかけられるとは思っていなかった私は、ビクリ、と肩をびくつか
せる。手に持った備品を取り落としそうになるほどだったことには、さすがに気づかれていないだろうか。そうだっ
たらいい。そうでなければ困る。
 なるたけ平静を装ってそちらを見やる。明かりのつけていない薄暗い備品庫の中は小さな窓から差す西日だけが
たったひとつの光源で、けれどなぜだろう、彼女にいるその場所が、ひどく眩しく思えるのだ。


 はい、と小さく返すことがやっとだった。それも消え入りそうなくらいの弱々しさで。だって声を掛けられるとは
思っていなかったのだ。ここにこうして私と彼女がふたりでいるのも、彼女が備品の受け取りを行なっているのを
見かけた私が、半ば押しかけるように彼女の行動に付き添ったからに過ぎない。目を丸くして驚いた様子をしていた
彼女は、けれども私の行動の意味を推し量ったようで「ありがとう」と微笑んだ。そのときも今に至るまでも、会話
らしい会話などしていない。それでいいのだと、そう思っていたから。いざ話しかけられても一体何を答えればいい
というのか。私と言葉を交わすことで彼女がいったい何を得するというのか。考えても答えなどない。むしろ必要
ないのだと思っていた。

「きれいな色だわ」

 彼女は続ける。私とよく似た色の瞳で、私をじっと見つめたまま。吸い込まれそうなその紅に、私はただただ立ち
尽くしていることしかできなくなる。

 だって、私はこの人に、ただただ憧れているばかりだったのだ。ずっと、ずっと。

 出会いは子供の頃だった。私がまだあの薄暗い部屋の中にいた頃だった。陽の光の下にいることができなかった。
真っ白い髪と、真っ赤な瞳。何もかもが他の子どもと違って、異質で。いつも何かに後ろ指をさされているような
気持ちで生きていた。人には見えないものが見える、どう比べても他の人と違う私。
 一言で言い切ってしまえばたぶんそれは孤独というもので、だけれども幼い私はだからといってどうすればいいの
かもわからないくらいに脆弱で。だから鳥籠の中に入って鍵を厳重に閉じていた。薄暗い部屋の中で一人ぼっちで
いた。与えられる本やレコードが私の世界で、私の友達だった。
 中でも擦り切れるくらいに聴いたものが、ミーナという少女の歌声を収録したものだ。少女と言っても彼女の声は
すでに大人のそれと比べても遜色のない美しさを誇っていて。針をのせる度に何度でも繰り返してくれる私のため
だけのコンサートは、幼い私の心をこれ以上なく癒してくれたのだ。

197 名前:21X2w2Ib 2/3:2012/12/24(月) 09:41:42 ID:0oqdEQjo

「私と、おんなじね」

 そんな、出会いとも言えない出会いのことに思いを巡らせている私のことなどいざしらず、彼女は続ける。ああ、
やっぱり綺麗な声。それだのにどうしてだろう。私の目の前にいるその人は、決して華やかなドレスをまとっている
わけではなく。彼女も、そして私も、身を包んでいるのは軍服─戦装束なのだ。

 彼女はウィッチではないかしらと、教えてくれたのは家を出て入れられたウィッチの養成機関の世話役だったと
記憶している。好きなものはとの質問に、ミーナという歌手が好きですとようやく答えた私に世話役は一度首を傾げ
たあと、同じ名前のウィッチがいるよと言った。音楽の名家の出だったような気がする、そういえばレコードの一枚
や二枚出していたかも、と。

 あなたもウィッチになるんだから、もしかしたら会えるかもしれないわね、いつか。そう笑った世話役に対して、
私はなんと答えたのか、実はよく覚えていない。それでもきっと、今この瞬間と同じような気持ちになったのでは
ないかと、そう思うのだ。
 そう、いまこうして、このサン・トロン基地で、ふたりきりで彼女と相対しているこの瞬間と。だって泣いていい
のか笑っていいのか、よくわからずにいるのだ。柔和な笑顔で語りかけてくる彼女に、そうですねの一言すら返せず
に固まっている。西日を浴びているのは彼女の方で、私は暗がりにいるというのにどうしてだろう、私の顔ばかりが
熱くなっていますぐにでもそむけてしまいたいと思うのだ。それだのにそれをすることはできない。だって、あの
ひとの瞳が私を捕らえて離さないから。

 そう、いつのまにか私もウィッチになって、いくつもいくつもネウロイを墜として。
 昇格を重ねて、少佐になって。気がつけば彼女に手が届く場所に来ていた。けれど未だに実感がわかない。あれ
ほど憧れたあのひとが、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケそのひとが、こうして目の前にいて私の目を見て私の姿
についての言葉を発しているだなんて。

「ヴィルケちゅうさの、ほうが」
 たっぷりの沈黙も、ミーナ中佐は苛立つ素振り一つなく待っていてくれた。ああ、やっぱり素敵な人だわ。声ばか
り、噂ばかりだった彼女の印象が、またひとつ美しく彩られていく。一年前は、こんなことになるだなんて思いも
しなかった。同じ国で生まれて同じ国でウィッチになって、けれども届くはずなんてないと、彼女の瞳に私が映る
ことなんてないと、そう思っていたのに。
「…私のほうが?」
「…なんでも、ありません」
 続きをうながされたのに、私はどうしてか、その続きを口にすることは出来なかった。その続きを考えただけで
どうしてか涙がこみ上げてくる。

 あなたのほうがずっと、ずっと、きれいですだなんて、そんなこと。

(私はサーニャ。第501統合戦闘航空団の、サーニャ・リトヴャクです。)
(第501統合戦闘航空団って、あの、ミーナ中佐の?)
(そうです)

 遠くて近い、ナイトウィッチの友人と始めて通信越しに会話を交わした時のことが不意に記憶に蘇った。サーニャ
と名乗る彼女はその当時ブリタニアにいた。どこの所属ですかと尋ねたら、今は第501統合戦闘航空団にいると
語った。ごーまるいち。耳に取り付けたインカムから流れてきたその単語に、そういえば私は心をびくつかせたのだ。
憧れの人と同じ部隊に所属する友人がいる。一年前はたったそれだけのことでも心が踊るくらいだったというのに。

 どうしたことだろう。いまはこんなにも近くにいる。心臓が情けなく高鳴っていることに、感づかれていやしない
だろうか。そんなことが心配になってしまうほどに。

198 名前:21X2w2Ib 3/3:2012/12/24(月) 09:43:08 ID:0oqdEQjo

「ねえ、ハイデマリーさん。あなた歌をよく歌うって聞いたのだけれど。」

 手を伸ばせば届く場所にいる彼女が、私の名前を読んでそんな言葉を言う。それは私についての噂で、ああそう
いえば夜間哨戒の時、気分が良くなって鼻歌を口ずさむことが稀にあった。けれどそんなこと、私は誰に言った覚え
も、誰かに言って欲しいと頼んだ覚えもない。…調べていてくれたというのか。同じ基地で、同じ部隊で、しばらく
過ごすことになるぐらいの私のことを。
 …いや、もしかしたら彼女にとってみたら、それはとてもとても大事なことなのかもしれなかった。

 はい、とまた、小さな小さな声で返す。それだけなのに彼女はひどく満足気に微笑んでくれる。

「今度聞かせてちょうだいね?そうだ、一緒に歌いましょうよ、私歌うことがとても好きなの」

 その上、その人ときたら私の幼い頃から願ってやまなかった願望をいともたやすく口にしてしまうのだ。そうして
私はようやく実感する。私の幼い頃に憧れた、あのレコードの歌声の主と、今後して目の前で柔和な微笑みを浮かべ
ているその人が、同一人物であるということを。

 面と向かった憧れの彼女が、もしも実際は尊敬に足らないような人物であったなら。心のどこかで怖れていた展開
はいい意味で裏切られる事になってしまった。話せば話すほど、理想通り、いやそれ以上に素敵な人物であることを
思い知らされる。かと言って、あなたにとてもとても憧れているんですだなんて、きっと私には到底言えないのだろ
うけれども。

 それでも、想いが届く日なんて来なくても、彼女の瞳の端に私が映るのなら。それだけでも幸福なことだと、思っ
てやまない私がいるのだ。

「手伝ってくれてありがとう。そろそろ行きましょうか。」
 彼女が微笑んで私を促す。夕食の用意はバルクホルン大尉がしてくれているはずだわ。一緒に食べるでしょう?
当たり前のようにそんな言葉をかけてくれる。

「さあ、ハイデマリーさん。…それと」
 立ち尽くしているばかりの私を促すように背中に手を回して、促して、そして。


「私のことはミーナで構わないのよ?」


 そう言って笑いかける顔は、私が今まで見た誰の、どの笑顔よりも美しくて愛らしくて、涙が出て来てしまいそう
になる。私はもしかしたら、今この瞬間のためにウィッチになったのではないかとさえ考えてしまう。

 ミーナ中佐。
 先に行っちゃうわよ、といたずらっぽく呟いて歩を進める彼女を慌てて追いながら、心のなかで彼女に呼びかける。
胸が温かくなる。今すぐは無理でもそのうち、私は彼女をそう呼びかけるようになるのだろう。だって今日から、
私はこの基地で、この部隊で、彼女と一緒に過ごすのだ。

 ああ、けれどもきっと。呼びかける度に去来するこの胸のあたたかさには、何時まで経っても慣れないのだろうと、
そんなことを考えた。


おわり
---------------
劇場版でハイデマリーさんがミーナさんの名前を呼ぶときにすごく安心してる感じだったり
ほめられて頬を赤らめてたりするのがものすごく素敵だと思います。

199 名前:名無しさん:2012/12/27(木) 21:18:20 ID:YK2laVkY
>>198
BRAVO! さすが2の人!
ハイデマリーさんのミーナさんに対する熱い思いが伝わってきます。
思わずハイデマリーさんを応援したくなりました。
素敵なSSありがとうございました。

200 名前:<削除>:<削除>
<削除>

201 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2013/01/08(火) 18:39:15 ID:pHbg7GAs
>>198 21X2w2Ib様
GJです! ハイデマリーさん、素敵です!
オトナに見えるミーナさんもちょっとお茶目で可愛いです!


こんばんは。mxTTnzhmでございます。
以前ふと拝見したイラストを元に妄想を膨らませて、SSにしてみました。
ではどうぞ。

202 名前:alone in the dark 01/02:2013/01/08(火) 18:41:11 ID:pHbg7GAs
 灯りも付けない真っ暗な部屋。ベッドに寝る事も、椅子に座る事もなく、ただふたりは床に座り込み、文字通りお互いの身体を支えに、そこに居た。
「いいのかヨ、行かなくて」
「構いませんわ。……貴方こそ」
「私は良いんダ」
 二人は微睡んだ様子で、ただじっと、お互いの温もりを感じていた。

 切っ掛けは、お互い些細な事だった。
 ペリーヌは、珍しく訓練でとあるミスをしてしまい、ストライカーユニットを故障させてしまった。「たまにはある事だから、とにかく無事でなにより」とミーナは宥めたが、美緒は「らしくない」といつになく強い口調でペリーヌを責め、彼女はすっかり参ってしまった。
 エイラは、サーニャとの関係の中で起きた些細なすれ違い……口喧嘩からちょっとした絶交状態に陥り、それだけで全てに対するモチベーションががた落ちした。
 その後ペリーヌは今日の当番だからと、洗い終えた洗濯物を皆に配って回っていたのだが、エイラの部屋だけ真っ暗。何事かと思って踏み込んだ所……部屋の入口近くで両膝を抱えて座り込むエイラに蹴躓き、それを抱き留める格好で交錯し……、エイラはペリーヌの身体に顔を埋め、ペリーヌは眼鏡が外れた格好でエイラを抱きしめ……二人はそのまま、そこにいる。

「聞きませんの?」
 ペリーヌは、ぼんやりとエイラに問うた。こうしている理由。部屋から出て行かない理由を。
「聞いて私が解決出来るのか、ソレ?」
 エイラは面倒臭そうに聞き返す。
「無理ですわね」
「なら聞かなイ」
 エイラはそう言った後、ペリーヌの胸に顔を埋めた。ペリーヌも自然と、それを受け入れ、まるで抱き枕を抱く感じで、エイラの身体に腕を回した。
「で、エイラさんは何故……って聞くだけ野暮ですわね」
「そう。良いんだヨ、私の事ハ」
 彼女の言葉を聞き、ペリーヌもそれ以上の詮索をしなかった。
 普段なら詰問したり怒鳴ったり……からかいからかわれ、嫌味を言い口答えし……そんな「水」と「油」の様な二人が、まるで溶けきった液体の様に、身体を絡みつかせて、じっとしている。
 気まずさ、羞恥心……、そう言った負の感情も沸き上がることなく、ただ、二人はそこに居る。時間も忘れ、己の役割も忘れ。

 夕食の時間を過ぎても、誰も二人を呼びに来なかった。風のせいか部屋の扉は閉まったまま。窓はカーテンが遮り、外の様子は全く見えない。ただ、隙間から微かに見える様子からも、もはや「昼」の域は過ぎている事は分かる。
「エイラさん」
 腕にしがみつくひとの、名を呼ぶ。
「何だヨ? 食事なら要らない」
 ぶつぶつと呟く程の、小さな声。ペリーヌは、ふと気になって小声で聞いた。
「サーニャさんは……」
「その名を出すナ」
 弱々しくも、明確に聞こえたその言葉。それっきり、ペリーヌは何も言わずにじっとしていた。
 お互いに、具体的に何が有ったのかは知らない。分からない。ただ何かしら、心に傷を負い、それが疼く以上、放っておく事も出来ず、さりとて何かをしてやれる程の気持ちも起きず……ただ、お互いがつっかえ棒の様に、それ以上倒れ込まない様、身体で支え合うのみ。
 端から見たら、抱き合っているとか、愛し合ってるとか、そう言う風に見られるかも知れなかった。しかし、気にする事もなく、ペリーヌとエイラは身を寄せ合う。
 ペリーヌは随分と経ってから、最初エイラの身体で躓いて倒れた時、眼鏡が顔から外れてる事に気付いた。憂鬱そうにそっと当たりを見回す。暗い部屋の中、視力も元々悪いので、全てがぼんやりとして、ピントが合わない。少し眉間にしわを寄せて辺りを見回すも、分かる筈もない。
「何も見えないのか」
 気付いたのか、そんなペリーヌを前にエイラが問う。
「何も見えませんわ」
 エイラは、ペリーヌの眼鏡が偶然か必然か、自分の腕に引っかかっている……床への落下が無い……事を知っていた。でも、眼鏡を返す訳でもなく、ただ、宙ぶらりんのまま、そのままにしておいた。
「お前って馬鹿ダナ」
「貴方程じゃありませんわ」
 いずれ眼鏡が床に落ちれば……この高さなら壊れる事も無いだろうが、音に気付いてペリーヌが視力を取り戻した時、どうなるか。それを機に今の極めて微妙かつ曖昧、やや背徳的な関係も終わってしまうのではないか、と言う考えに達したエイラは、眼鏡の事は何も言わなかった。ペリーヌには見えないだろうから、と言った魂胆も有った。
 実はペリーヌは、自分の眼鏡らしきものがエイラの二の腕辺りに有るのが、眼鏡の蔓の端を見て知っていた。けれどそこに手を伸ばしたら、エイラが何と言うか。怒りはしないだろうが、今の奇妙な関係が終わってしまうのが怖くて……ただ、エイラだけを受け止める。

203 名前:alone in the dark 02/02:2013/01/08(火) 18:41:38 ID:pHbg7GAs
 こんなに身体が密着しているのは、いつぞやの特訓の事を話し合ったサウナ以来だ。あの時もそう。何だかんだで巻き込まれ……今回も、エイラが部屋の真ん中に居なければ、こうはならなかった筈。だけど不思議と、今はこの方が有り難い。
 音も無く、しんと静まりかえった部屋。ただ聞こえるのは二人の呼吸の音だけ。
 何を求める訳でもなかった。狂おしい程、と行くまでもなく、かと言って「じゃあ」とすぐに離れる事も出来ず。二人はゆるゆると身体を重ねる。そうする事で、お互い負った“傷”を修復しているのだろうか。犬や猫が傷口を舐め合う様に。
 だけど、それだけではない気持ちも、少なからず有った。互いには無い、気高さと強さと。そして同じ位の思いやりの心、慈愛。普段は鼻持ちならない相手でも、こうしてみると、案外居心地が良いものだ。お互いの服の香り、肌の香り、髪の香りも、自然と知る事になる。悪くない。
 分かってはいる。このまま続けていてはいけない事も。続けていればいずれどんな事が起きるのかも。でも、離れたくないこの気持ちは一体何故。二人は同じ事を想い、考え、答えが出せないまま、ずるずると同じ時を刻む。
 お互いに孤独なのかも知れなかった。今も一緒に居るけど、心は孤独。それが故の、どうしようもない寂しさ。だけど単なる気晴らしや遊び、もしくは心の過ちと言う理由だけで、こんなに何時間も、二人で居られる筈がない。かと言って盛んに求める訳でも無く……。
 認めたくない過ち。
 分かっては居る。だけど……。
「お前って馬鹿ダナ」
「貴方程じゃありませんわ」
 茫洋と同じ事を繰り返し、笑うでもなく、怒る訳でもなく、ただ、抱き合う二人。
 カーテンの隙間からうっすらと輝きが見える。月だろうか。微かなひかりが一瞬二人を照らす。だが、風に揺れたカーテンのせいで、すぐに暗黒の世界に逆戻り。
 それで良かった。

 私達には、お似合いの明るさ。

 意見が合った事にも気付かない二人は、奇妙な居心地の良さを感じながら、ただ、互いの体温を感じ続けた。ただひたすらに。

end

204 名前:名無しさん:2013/01/08(火) 18:51:38 ID:pHbg7GAs
以上です。
友達以上、恋人未満の奇妙な感覚……。
ペリーヌとエイラはこう言う感じかなと思い、書いてみました。

ではまた〜。

205 名前:名無しさん:2013/01/20(日) 21:29:32 ID:KKYaFxWQ
ドーモ、初めまして。今からエイラーニャ投下したいと思います。
オリキャラと言える程度ではありませんが本編にいない人物が出ます。
そして長いです。なんと今から18レスほどを一人で使わせていただきます。
それでは、投下開始いたします。

206 名前:Key To My Heart 1/18:2013/01/20(日) 21:30:43 ID:KKYaFxWQ
 ブリタニアはロンドン、その街角。
 小さな化粧品店の店先で一人の少女が立っていた。色素の薄い肌に、肩で揃えた銀の髪。
 サーニャ・V・リトヴャク。
 軍属であるはずの彼女だが、この日の装いは軍服ではなく、私服のブラウス姿だ。ハンドバッグを片手に、どこか落ち着かない様子でロンドン名物である大時計を見上げる。
 午後三時過ぎ。
 まだ時間的余裕はあったが、かといって余りのんびりもしていられない。今日は大事な日なのだ。万が一にも遅刻はできない。
「ごめんサーニャ! お待たせ!」
 慌てた調子で店から飛び出してきたのは、ごく淡い亜麻色の長髪を翻す少女――エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ。こちらも本来は軍属だが、今日は私服のジャケット姿。手には小さな紙袋を持っている。
「もう、エイラったら。真剣に選んでくれるのは嬉しいけど、時間をかけ過ぎよ」
「ごめんごめん。でも、妥協は出来ないしさ」
 言いながら、紙袋を開き、改めて今買ってきたものを確認する。中身はリップに、マニキュア、その他化粧品。どれもエイラが吟味に吟味を重ねて選んだものだ。袋を覗き込んだサーニャも、思わず感嘆の吐息を漏らす。見とれるほど可愛らしい色合いが袋の中にある。
 二人並んで歩みだす。
 ロンドンはガリア解放以来で、なんだか少し懐かしい。ゆっくり観光などしていきたい気持ちがあるのはお互いさまだったが、今日はどうにもそうはいかない。
「なんてったって、今日は結婚式だろ? 中途半端じゃなくて、きちっと決めていかないと」
「それはそうだけど」
「楽しみだな、サーニャのドレス姿」
 うきうきと言いながら、スキップしかねない調子のエイラである。
 そう、今日は結婚式だ。人生一度の大舞台である。その身支度に油断などあってはならないのだから、衣装も化粧も拘りぬくというのがエイラの言い分で、化粧品店の前に立ち寄った貸衣装屋でもサーニャ以上の真剣さでサーニャの着るべきドレスを選び、そして時間を費やしていた。
 社交的なノウハウに乏しいサーニャとしては、エイラが色々と選んでくれるのは助かるし、似合う服やお化粧を見繕ってくれるのは素直に嬉しい。しかしそれで遅刻してしまっては元も子もないので、待っている間ははらはらし通しだった事も本当だ。
「でも、エイラ。別にわたしの結婚式ってわけじゃないのよ?」
「だからこそさ。招待客として呼ばれた以上、それ相応に気合を入れるのが礼儀だろ?」
「そんなものかしら……」
「そんなものだって」
 そう。
 今日はサーニャの――恩師の、娘さんの結婚式なのだ。


   Key To My Heart

207 名前:Key To My Heart 2/18:2013/01/20(日) 21:31:35 ID:KKYaFxWQ
 買い物前にチェックインしておいたホテルの一室に入ると、貸衣装屋で選んだドレスが先に運び込まれていた。イブニングドレスというやつで、つまり礼服である。
 軍人であるエイラとサーニャの正装は基本的に軍服で、なんなら冠婚葬祭専用の礼装もあるにはある。が、今日結婚式を挙げる関係者の多くは、サーニャがかつて留学していたオストマルクのウィーンから疎開して、ここロンドンに来ているという経緯がある。戦争を想起させる軍装ではさすがにデリカシーに欠けるだろう、というのが二人の共通見解で、現地で貸衣装を見繕うことになった、というわけだ。
 部屋の掛け時計を見やれば、午後四時くらい。式は六時からだから、着替えやお化粧をする時間を見込んでも、十分間に合う。そのことにエイラは密かな満足を覚えた。なんのかんのと急かされつつも、きちんと段取りくらいは考えているのである。抜かりはない。
 まぁ、それを口に出したりはしないが。
「でも急だよな。招待状が着いた三日後にはもう式だってんだから」
「仕方ないわ。丁度、わたし達が居場所を転々としてた頃に出されたみたいだから」
「まぁなー。逆によくペテルブルグに到着したとさえ思うよ」
 ガリア解放後、二人はサーニャの両親の手がかりを求め、オラーシャへの進入を試みた――が、ネウロイの占領下であるオラーシャ中心部に渡るのは容易ではなく、仕方なく国境付近の502JFWの本拠地、ペテルブルグ基地へと引き返すことになってしまった。居候として他の隊員の手伝いなどをしながら転属の辞令を待っていたところ、今回の結婚式の招待状が届いた、というわけである。
 そこまではいいのだが、問題は本来501がロマーニャに基地を構えていた頃に届くはずの招待状が、501の解散によって宛先を見失い、ほとんど式の直前になってようやく到着したというところだ。
 慌てて休暇の申請を出したのが三日前。移動手段の確保に奔走し、なんとかペテルブルグとブリタニア間の空輸便を捕まえ、無理を言って同乗させてもらい、現地入りしたのが昨日の深夜。ついでに基地に戻るのは明日の早朝と、かなりタイトなスケジュールだ。
「ていうか今更だけどサーニャ、私なんか一緒に来て良かったのか? 招待されたのはサーニャなんだし、別にサーニャ一人でも……」
「……迷惑だった?」
「いや! 全然そんな事はないけど!」
「招待状には、エスコート役として一人まで同伴しても大丈夫って書いてあったから。やっぱり、エイラに一緒に来てもらった方が安心できるし」
「へ、へぇー。ま、まぁそういう事なら構わないんだけどさ」
 安心できる、というサーニャの言葉で蕩けそうなくらい幸福な気持ちになりつつも、顔には出そうとしないエイラである。まぁ実際には表情に大分滲み出てはいたのだが、エイラはそれに気付かないし、サーニャにはあえてそこを指摘しない優しさがあった。いつものことだ。
「とりあえず、そろそろ着替え始めないとな。サーニャ、着方は大丈夫か?」
「多分。こういう本格的なイブニングドレスは初めてだけど、小さい頃、演奏会で着ていたドレスと基本は同じだと思うから」
「じゃあメイクの前に先に着ちゃった方が良いな。マニキュアは塗ると、乾くまであんまり動いたりしない方がいいし」
「わかったわ」
 その返答とともにサーニャがブラウスのボタンに手をかけ、気付いたエイラは慌ててそこから目を逸らした。
 ――いや、別に目を逸らす必要はあるのか私は?

208 名前:Key To My Heart 3/18:2013/01/20(日) 21:32:23 ID:KKYaFxWQ
 頬の紅潮を自覚しながらそんな疑問が生じた。冷静に考えれば別にこれから全部脱ぐわけではないし、というかサウナなどで裸を見たことだってあるが、なんだか直視していてはいけない衝動に駆られてしまっていた。しかし、同性の着替えに対して変に意識しているようなこの態度はサーニャに不審がられないだろうか。
 ――普段ならこんな風に意識はしてないハズなんだけどな……。
 少なくとも、最近は。
 やはりこう、普段見慣れない私服姿のサーニャと、ホテルの一室に二人きりでいるというこの状況に対して、少なからず心のどこかが昂揚しているのかも知れない、と自己分析。
 視界の外から聞こえてくる衣擦れの音にひどく悩ましい気持ちになりながらも、待つ事数分。
「……エイラ、どう、かしら」
 その言葉で着替えの終わったらしい事を悟り、エイラが視線をサーニャへと戻した。
 ――……。
 言葉が出なかった。
 イブニングドレスは深い藍と漆黒のグラデーションを描き、それはまるで夜の帳のようで、色素の薄いサーニャの肌と髪によく似合っていた。ドレス自体は決して華美ではなく、むしろシンプルでさえあるが、それが均整のとれた身体をかえって際立たせている。ともすれば幼い子供が、背伸びをして大人の真似をしているかのように映りかねないのに、どういうわけか、少女っぽい可憐さと大人の色艶とが、全く違和感無く同時に存在してそこにあるのだった。
 きっと、いや、間違いなく似合うという自負をもってエイラが選んだドレスである。
 が、これは想像以上だ。
「……綺麗だ」
 それしか言えなかった。それ以外の言葉で表現できる気がしなかった。何か他の形容詞を下手に用いれば、目の前にある美しさを一気に陳腐にしてしまう気がした。
 サーニャの頬に赤みが差し、それがまたエイラの心を掻き立てんばかりに愛らしかった。
「その、あまり見ないで……は、恥ずかしいわ」
「ご、ごめん。でも、うん、綺麗だ……すごく綺麗だ」
「あ、ありがとう」
 照れ照れと身をよじらせるサーニャを、今後は逆に見詰め続ける。
 なんならこのまま一晩中そうしていたいような気持ちにすらなりかけたが、さすがにそうは行かないと我に帰り、エイラが化粧品の紙袋を手に取る。着替えが済んだら次はお化粧で、さらに髪のセットもしなくてはならない。
「……よし。じゃあサーニャ、そこの椅子に座って」
 部屋の中に据えつけられたテーブルの、横の椅子へとサーニャを促し、エイラはテーブルを挟んだ対面に着席する。紙袋の中の品を広げれば、中身はリップにチーク、マニキュアなどだ。数ある化粧品の中でも、本当に最低限だけ揃えたといった具合である。
「えーと、まずチークからがいいかな」
「いまさらだけどエイラ、お化粧、出来るのね」
「意外か?」
「少し」
「まぁ私も自分でするって機会はあんま無いんだけどさ。子供の頃によく姉ちゃんに着せ替え人形にされたことがあって、その時ついでに覚えちゃったっていうか……」

209 名前:Key To My Heart 4/18:2013/01/20(日) 21:33:13 ID:KKYaFxWQ
 ――あの時の写真、まだ残ってんのかなぁ。
 出来れば原因不明の小火かなにかで焼失していて欲しいというのがエイラの本音だが、あの姉のことなので、きっと懇切丁寧に保管されているのだろうとも思う。願わくば誰の目にも触れないままであって欲しいものだが。
「さって、始めようか」
「ええ。お願い、エイラ」
 チークは淡い色合いで、白いサーニャの肌にほんの少しだけ血色を足すようなものだ。ファンデーションなどの下地はあえて使わない……というか、必要がないだろうと判断した。サーニャの肌はエイラの贔屓目で見てもきめ細かいし、十分に瑞々しい。十代の特権だ。
 サーニャの頬にチークを乗せる。薄く、限りなく自然に見えるように。
 その手順の中でエイラは新たな発見をしていた。誰かの顔に化粧を施すというのは、緊張もあるのだが、それ以上に楽しいということを。なるほど姉があれほど夢中になるわけだ。なんというか、サーニャをある意味自分色に染めているような、そんな感覚だった。
 チークの次はリップを手に取った。これもチークと同じで、少しだけ紅を足す色合いである。
 サーニャの唇に、リップの先端で触れる。幼い子供みたいに小さく、柔らかそうな唇だとエイラは思った。リップ越しに触れるエイラの指に、その弾力が伝わってくる。
 ――うわー。
 正直、少しいけない気分になってきた。
 いやしかし、この唇を目の前にして、平常心が保てる人間がこの世にいるのだろうか? 少なくとも自分はそうではない。平常心という言葉の意味さえ解らなくなりそうなくらいだ。
 サーニャはチークを乗せ始めたときからずっと目を閉じている。あるいは今ここでその唇に、リップ以外のものが触れたところで、それが何なのかサーニャは気付かないのではないか? そう、例えば。
 ――キスしても、解らなかったり……。
 しないだろうか。
 と、一瞬だけ想像し、直後に激しい自己嫌悪が襲ってくる。
 何を考えているのだ自分は。私を信じて任せてくれているサーニャの心に付け入るような真似は、想像だってしてはいけないはずではないのか、と。
 酷い不義理をしてしまった気持ちになり、リップを持つ手が止まる。
「……エイラ?」
 順調に動いていたはずのエイラの手が停止した事を不思議に思ったのか、サーニャが思わず問いの声を漏らす。動く唇から慌ててリップを離し、エイラがすかさず取り繕う。
「いや、何でもないよ。少し頭がかゆくってさ」
「……?」
「じゃ、残りを一気に塗っちゃうぞ」
 今度こそリップを完璧に塗り終わる。エイラの気分は自業自得で何となく晴れないままだが、とりあえずこれで顔のメイクは完成だ。
 とは言ってもやったことと言えばチークとリップだけなので、大した事はしていない感じもあるが、あまり派手にしてしまってもどうかと言うエイラの判断がある。式において主役はあくまで新郎新婦であり、サーニャはあくまでそのゲストなのだから、主役より派手なドレスや化粧はいかにもまずい。幸いな事にサーニャはそのままでも十二分に愛らしいので、そこまで念入りに化粧をする必要はないだろうとエイラは思うのだった。
「次、マニキュアだな」

210 名前:Key To My Heart 5/18:2013/01/20(日) 21:33:45 ID:KKYaFxWQ
 マニキュアの色はごく淡い薄桃色――色の白いサーニャの爪に塗るのでなければ人目に付かないような、可愛らしくも慎ましやかな色合いだ。これはエイラが今回特に拘ったもので、この色一つ選ぶのに、小一時間はかかってしまった。しかし、それだけに自信はある。きっとよく似合うだろう。
「それじゃ、指を」
 エイラの差し伸べた掌の上に、サーニャの手指が乗せられた。細い指に、小さな爪。ほんの少し力を加えるだけで折れてしまいそうなほど華奢な指だ。思えばサーニャと手を繋ぐ事は多々あるが、手を凝視する機会と言うのはなかなか無いもので、改めて見ると、なんだか新鮮な印象だ。
 まずアルコールを含ませた布で、爪の油分を落とす。本当は甘皮を処理したり爪も磨いたりした方が最終的な見栄えもいいのだが、そこまで気にすると時間をさらに要する事になるので今回は無しだ。
 しっかり拭いたら、マニキュアの小瓶を手に取り――とはいかない。まずベースコートという透明な色のマニキュアを塗る必要があるのだ。これを下地にしないと、爪の微妙な凹凸のために最終的な色にムラが出たり、爪を傷めたりするので、必需品である。
 ベースコートの瓶のフタを片手だけで器用に外し、フタに付いている筆を、サーニャの爪に、
「んっ」
「どうしたサーニャ!?」
 予想だにしなかった突然のサーニャの艶めいた吐息でエイラの心拍数が急上昇した。激しい鼓動がそのまま手の震えとなり、危うく筆がサーニャの爪からはみ出る寸前だ。
「ご、ごめんなさい。何だか、くすぐったくて」
「ああ……マニキュアって塗る時、結構独特の感触あるからな……」
 そういえば昔、姉にマニキュアを施された時は、やけに指先がもどかしかった記憶がある。ただ声を上げるほどでは無かった気がするのだが……個人差というところか。
「じゃ、じゃあ、続けても平気か?」
「大丈夫、だと思う」
 気を取り直して。
 筆をサーニャの爪に当て、満遍なく、かつ爪からはみ出さぬよう慎重に塗ってゆく。ここをしくじると後々色を乗せた時にも影響が出るので最もミスの許されない部分だ。なのでエイラは息を吹きかけてしまわないように呼吸を抑え、一筆一筆に細心の注意を欠かさない。
 が、
「ん、ふ。……っん、ぅ……んん」
 サーニャの、艶かしい吐息がもう気になって気になって仕方が無いエイラだった。
 ――……うわぁ。
 なんだか大変なことになってしまった、とエイラは思う。
 正直に言ってしまえば、今回メイクをすることを申し出たことに下心が無かったわけではない。しかし、それはあくまで、化粧を完璧に決めてみせることで「エイラ、ありがとう」という一言を聞ければ、という程度のささやかな幸福を期待していたのであって、今の状況は断じて想定外だ。先程の自己嫌悪さえ吹き飛んでしまうくらいの衝撃的な事態である。
 顔に体温が集まるのが自覚できる。きっと今、自分の頬は真っ赤になっているだろうが、幸いな事に筆塗りのためにエイラが俯き加減になっているため、互いの表情は解らなくなっている。なんだかいたたまれない。ただマニキュアを塗っているだけなのに、どうしてこう変な空気になってしまったのか? と疑問を抱く間も、サーニャのほのかに熱い吐息は収まる気配が無い。

211 名前:Key To My Heart 6/18:2013/01/20(日) 21:34:17 ID:KKYaFxWQ
 手早く終わらせてしまいたい気持ちと、もう少しサーニャの艶声を楽しんでいたい気持ちがせめぎ合うが、現実的な問題としてマニキュアと言うのはとても時間がかかる化粧なのだった。まずこのベースコートを十指全てに施し、一通り乾いてから今度は色を乗せ、さらにそれが乾いたらトップコートで保護をする、という一連の作業全てをしないと意味が無いのである。
 乾燥待ちの間はもとより、筆塗りに関しては手順を覚えているだけでしかないエイラでは効率に限界がある。作業の完了にどれほどの時間がかかるかは定かでないが、その間、ずっとサーニャがこの調子であると想像すると、なんだかもう全て投げ出してしまうのが一番いいのではないかとさえ思える及び腰のエイラであった。
 しかしこのマニキュアは、結婚式という晴れ舞台に招待客として参じるサーニャのために施しているものなのだ。途中で放り出すのは当然、論外である。
 ――無だ。心を無にするんだ、エイラ・イルマタル・ユーティライネン……!
 自分に言い聞かせる。心を凪に。そうだ、なにかひどくどうでもいいことを想像しよう。今日の夕飯、なに食べようか。ブリタニア料理ってまずいって言うよな……でも、スオムス料理も実は似たようなレベルだからなぁ。ミヤフジの手料理とか食べた後だと改めてそう思わされるなー。とかなんとか。
「んっ」
 ――ムリだな。
 一瞬で動悸が激しくなってきた。
 諦めに似た感情がエイラの頭をかえって冷静にしてくれたが、それで心の動揺がどうにかなるわけではない。もうどうにもならないという事を自覚できただけだ。
 結局エイラは胸中でくるおしく身悶えしながら、たっぷりと時間をかけて、サーニャの爪にマニキュアを塗り続けるしかないのだ。
 やがて、
「…………終わったぁー」
 ぷはぁ、と大きく息を吐いてエイラがマニキュアの小瓶をテーブルの上に放り出す。色々な意味で神経を使ったし、猫背で俯いていたから背筋が凝っている感じがした。
 これでメイクはお終い。あとは髪をセットすれば、祝いの席に相応しい装いの完成だ。
「お疲れさま、エイラ」
「なんのなんの」
 十指に施されたマニキュアの色合いを確かめるように、サーニャが左右の掌をじっと見つめる。エイラの思った通り、薄桃色に塗られた爪は白い指の先端で自己主張し過ぎず、それでいて確かな存在感をもって部屋の照明にきらめいている。
「きれい……ありがとう、エイラ」
「いやぁ、気に入ってもらえたんならなによりだよ」
 短時間で色々とありすぎたが、その一言で全部救われる気がした。
 そこで、不意に。
「ん? 誰か来た、か?」
 部屋の呼び鈴が鳴らされた。
 ルームサービスだろうか。しかしエイラは頼んだ覚えはないし、サーニャも何か注文していた様子は無かった。誰かが部屋間違えてるのか? と思う。
 しかしサーニャには心当たりがあるようで、不審がる様子も無く椅子から立ってドアの方に向かう。サーニャの声と、事務的な感じの男の人の声がやり取りしているのが聞こえたが、内容はよく聞き取れなかった。

212 名前:Key To My Heart 7/18:2013/01/20(日) 21:34:40 ID:KKYaFxWQ
 まぁ、いいか。そう結論付けてぐっと伸びをする。どうせ大したことじゃないだろう。
「エイラ、頼んでおいた正装が届いたわ。こっちの方だけ、少し遅れてしまったみたい」
「へ?」
 前言撤回。
 これは、なにか。
 妙な予感がする。
「え、礼服なら今着てるじゃないか?」
「? だから、エイラの正装よ。このドレスを選んでくれてる間に、注文しておいたの」
「ふぇ?」
「エイラも出るのよ、結婚式」
「えぇぇぇえ!?」
 思わず椅子を跳ね除けて立ち上がる。どういうことなのかさっぱり理解が追いつかない。
「え、何で? サーニャが呼ばれたんだからサーニャが行くんじゃないのか?」
「エスコート役に一緒に来て欲しいって、言ったと思うけれど」
 確かに言われた。
 しかしエイラとしては、それは式の直前の身支度まで、もしくは会場への送り迎え、という意味で把握していたのであって、式に参加するなんて事は、ひとつも想像していなかったのだ。
「い、いや、私なんか言っちゃなんだけど、完全に赤の他人だぞ? そんなのが式場の中に入っていいもんなのか?」
「招待状には、そこは別に気にしなくてもいいってあったから、大丈夫だと思う」
「まじか……変わった結婚式だなぁ」
「さぁ、エイラ。これを、着ましょう」
「サ、サーニャ……さん?」
「今度はわたしが、おめかししてあげる」
「…………」
 ――もう、どうにでもなれ。
 エイラは、全てを諦めた。

◆◆◆

 ロンドンの街中。日もすっかり暮れて、人通りもまばらな中で、一際賑わう建物があった。小さなコンサートホール。
 今日、ここで結婚式が開かれる。
 新郎新婦は著名な音楽家の家系の出身で、それを思えばこれ以上相応しい会場もないだろう。
 やがてエントランス前の小さなロータリーに、一台のリムジンが滑り込んできた。緩やかに減速し、ぴったり入り口の前に横付けするかたちで、止まる。
 道路側のドアが開き、中から現れるのは、一人の少女だ。
 凛々しい顔立ち、乱れのない亜麻色の長髪、すらりとした四肢。ただでさえ人目を引くであろう美しい少女がライトグレーのスーツ・ドレスを、それだけで絵になるくらいに完璧に着こなしている様は、例え同性だとしても恋に落ちかねないほどに麗しい。

213 名前:Key To My Heart 8/18:2013/01/20(日) 21:35:22 ID:KKYaFxWQ
 周囲の注目を集めている事も全く意に介さず、少女はリムジンの反対側に回り、歩道側のドアを開いた。中の人物の手を恭しく取り、優しくリムジンの外へと導く。
 もう一人の少女の登場に、道行く人々がまた溜息を零した。
 柔らかく波打つ銀の髪を肩で揃えた、可憐な少女だった。深い藍から黒を描くイブニングドレスの上に、白のボレロを羽織る姿はどこか儚げで、纏うドレスの色とは裏腹に、見る者に純白の百合を思わせた。そしてその眼差しには、エスコートを担う長髪の少女に対する深い信頼が一目で解るくらいに表れており、それが不思議な事に、銀髪の少女の魅力を何倍にも高めているのだった。
 銀髪の少女が車から道路に降り立つと、エスコート役の少女は重ねていた手をそっと離し、代わりに曲げた腕を差し出した。銀髪の少女は一瞬、その意図を図りかねたようで、困惑の顔を見せるが、すぐに得心したらしい。
 腕に、腕を絡める。
 自分でそうしたくせに、亜麻色の髪の少女の表情が照れくさそうに緩む。それを見る銀髪の少女が、優しげに目を細めた。
 二人並んで、コンサートホールの中に入ってゆく。

  ◆◆◆

「先生、お久しぶりです」
「お久しぶりね、サーニャさん。来てくれた事に感謝するわ」
「こちらこそ、呼んで頂いてありがとうございます」
 入り口の受付を招待状を見せて通過した後、出迎えに来た一人の老婦人と、サーニャが抱擁を交わす。『先生』と呼ばれたこの婦人こそが、どうやらウィーン時代の恩師であり、今回招待状をサーニャに送った人物であるらしい。
 エイラは何となく、その老婦人を見やった。多分年齢は、エイラの母親よりも一回り上くらい。彫りの深い顔立ちで、結い上げた髪の色は艶のある灰色。背筋は芯でも通っているみたいに真っ直ぐに伸びており、その立ち姿から、決して衰える事のない気品のようなものが漂っていた。
 ――先生、かぁ。
 確かにその肩書きは、この老婦人にぴたりと当てはまる。
「少し、大きくなったわね」
「身長はほとんど変わっていませんよ、先生」
「背の事ばかりではないわ……何か、素晴らしい経験をしたみたいね。軍隊は大変なばかりのところだと思っていたけれど、これなら大丈夫そう」
「……はい。色々なことが、ありました」
「それを大切にね、サーニャさん。あなたは今、ウィッチとして生きる事で手一杯だろうけど、人生の中で見れば、その期間はほんの一瞬よ。今のあなたが得ているものは、きっとウィッチでなくなった後でも、尊いものになるだろうから」
「はい」
「良い表情をしているわ。あなたにピアノを教えていた頃を思い出すわね」
「ありがとうございます、先生」
「今日は楽しんでいって頂戴、サーニャさん――そちらのお嬢さんも」
「ッは、はい。ありがとうゴザイマス」

214 名前:Key To My Heart 9/18:2013/01/20(日) 21:35:52 ID:KKYaFxWQ
 急に話を振られたことに少し驚きながら、思わず敬語で返してしまう。
「それではね、また後で」
 去り際すらどこか優雅に、婦人がパーティ会場の雑踏の中に消えてゆく。
 エイラはふぅ、と大きく息を吐いて、無意識のうちに伸び切っていた背筋を少し解した。決して不快ではないのだが、何とも言いがたい緊張から解放された気分だった。
 サーニャの方はと言えば、久方ぶりに恩師と会えた興奮からだろう、肌に少し赤みが差し、表情には明らかな喜色があった。うむ、とエイラは思う。この表情が見れただけで、ここに来た甲斐はあった。最近のサーニャは以前より明らかに社交的になっていて、新しい友人も増えてきているが、やはり懐かしい人物との再会というのは、新たな出会いと同じくらい大切だ。今後のサーニャにとっても、今日の出来事は良い糧になるに違いない。
 などと、エイラがお節介な考えをしている事を知ってか知らずか、サーニャが、
「エイラ、わたしたちも会場の方へ行きましょう」
 そう促してくる。もちろん拒む道理はエイラには無く、揃って会場の方へと移動した。
 今回、式場としてあつらえられたコンサートホールは、大体百人くらいが入れそうな広さがあり、本来ずらりと並べられているのであろう椅子は全て片付けられていた。代わりにサンドイッチなどの軽食が用意されたテーブルがいくつも置かれ、立食パーティの形式を取っている。
 その一番奥にはコンサートホールらしく、壇が据えられていて、今は緞帳が下りて中が見えなくなっている。
 見渡せば会場内は既に多くの人で賑わっており、壮年の紳士淑女がいるかと思えば、エイラ達よりも年下の子供まで顔ぶれは多種多様だった。この結婚式の主役と、その親類縁者の人望が窺い知れるというところである。
「サーニャ……今あそこにいる蒼いドレスの人、確かレコード何枚も出してるピアニストじゃないか?」
「ええ。あのひとも昔、先生の教え子だったって聞いたことがあるわ。その隣にいる黒い燕尾のひとも先生の知り合いで、確かロンドンの有名な楽団に所属している方のはずよ」
「す、すごい人なんだな、サーニャの先生って」
 そして、サーニャもその教え子の一人なのだ。
 つまりサーニャもまた、ウィッチにならなければ、この会場にいる名立たる音楽家たちに名を連ねるような歌手か、あるいはピアニストになっていたのではないか?
 と。
 それはこれまで、エイラの中に無かった考えだった。
 ウィッチになってからのサーニャは、よく知っている。
 しかし自分は、音学生としてのサーニャを、ほとんど知らない。
 もし。
 ――サーニャが、ウィッチになってなかったら。
 その先を考えようとして、エイラはほとんど本能的にそれをシャットアウトした。それがきっと、ひどく、醜い考え方になるのが解っていたからだ。
 ぐっと唇を引き結んだ、苦虫を噛み潰したみたいな表情になってしまった事をサーニャに悟られなかったのは幸運だった。苦味に満ちた思考をそっと頭の中からはたき落とし、なんでもないような顔を取り繕う。 
 会場のきらびやかな空気に中てられたみたいに、色々なものに目移りしているサーニャの隣に、エイラはそっと寄り添う。これでいい、と思えた。
 こうしていられるだけでいい、と。

215 名前:Key To My Heart 10/18:2013/01/20(日) 21:36:16 ID:KKYaFxWQ
 頭を振って気分を強引に切り替えたエイラは、サーニャとともにしばし式場の空気を楽しむことにした。実際、楽しもうと思えば、このホール内は引っくり返した宝石箱のようなもので、あちらにオペラのプリマドンナがいるかと思えば、こちらには新聞に顔の出た事のあるヴァイオリニストが立っているなど、とにかくどこを見ても驚かされるような状況なのだ。
 会場内を散策していると、不意に、
「サーニャさん」
 と、呼ぶ声。視線をそちらの方に移すと、そこにいるのはサーニャの先生だった。
「先生、どうかされましたか?」
 サーニャが応じると、老婦人がその手に持ったものを差し出してくる。一瞬、雑誌か何かに見えたが、それにしては装丁がしっかりしていた。
「実は、あなたに頼みたいことがあるの」
「これは……?」
「楽譜よ。この後、ちょっとした演奏会があるのだけれど、そのピアノを貴女に演奏してもらえないかと思って」
 その申し出にサーニャは戸惑ったようで、楽譜を受け取りかけていた手がびくっと震えて、止まった。
「……とても光栄ですけど、先生。わたし、ピアノの演奏にはブランクが……」
「貴女の演奏の腕前が、少し離れていたからと言って容易く衰えるものではない事は私が知っているわ。そう教えたのは私だもの」
「でも」
「勿論、無理にとは言わないわ。これは言うなれば、私の我侭。貴女の演奏を聴きたいだけの老人のお願いだと思って頂戴」
 サーニャの手は動かない。中空で、なにか縋るものを探すように、指が虚空を握り締める。
 エイラはあえて黙っていた。ここで例えば、エイラが「やってみればいいさ、サーニャ」とでも言えば、それが後押しになってサーニャは楽譜を受け取るだろう。
 けれどそれでは、意味が無いと思った。ここはサーニャが、本当に、自分からそうしたいと決意しなければならない場面なのだ。口を出すのは野暮だろうし、なにより。
 ――今のサーニャなら、私が背中を押す必要も無いさ。
 これは自惚れの一種だろうか、と苦笑が浮かびそうになる。
 数秒の逡巡があり、果たして。
「……少し、練習の時間を下さい」
「構わないわ。ありがとうね、サーニャさん」
 サーニャの手が、楽譜を掴んだ。
「緞帳の向こうに、全て用意してあるわ」
「はい」
「行ってらっしゃい、サーニャ。頑張ってな」
「うん。行ってきます、エイラ」
 緊張を顔に滲ませながらもサーニャが微笑む。楽譜を抱えてホール奥の壇上へ向かい、緞帳をくぐってその中に消えた。
 さて、自分はどうしたものか、とエイラが天井を仰ぐと、意外なことに、
「少し、お話をよろしいかしら。ミス・ユーティライネン」
 先生から声をかけられた。

216 名前:Key To My Heart 11/18:2013/01/20(日) 21:36:57 ID:KKYaFxWQ
 ん? と疑念が浮かぶ。エイラ、という名前の方はサーニャとの会話の中で聞かれていてもおかしくはないのだが、ユーティライネンという姓をこの人が知っているはずは無いのでは?
「あー、ええと。構いません、けど」
 やはり、思わず敬語が出る。上官相手でさえあまり敬語で会話した記憶がないのだが、どういうわけかこの老婦人の前だと、自然とそうなってしまうのだった。
「いきなりでごめんなさいね。でも、どうしても貴女と話したかった事があって」
「私と、ですか」
「ええ。今回サーニャさんにエスコートを一人頼むように伝えたのは、そうすれば貴女をまず連れて来るだろうと思っての事よ。ミス・ユーティライネンの事は、手紙に何度か書いてあったから」
 なるほど、実際に会うのは久しぶりだが、手紙のやり取りは何度もあったらしい。その中でエイラのフルネームも登場したのだろう。しかし、サーニャの出した手紙の中で、自分がどんな風に書かれているのかは気になるところだった。
 ――変な風に書かれてたらどーしよう……。
 そんな事は無いと思うのだが、サーニャと話すようになった直後くらいの時期の手紙だと、少し自信が無い。
「どうしても、お礼が言いたかったのよ」
「お礼?」
「サーニャさんの傍に居てくれた事を。そして、あの子を変えてくれた事も。ご両親と離れ離れになった頃のあの子は、自分に閉じ篭りがちで、他人となるべく距離を取ろうとさえしていたわ。でも、手紙のやり取りをしているうちに、そうではなくなっていった」
「…………」
「貴女のおかげなんだろうと思ったわ、ミス・ユーティライネン。手紙の文面から、貴女に対する信頼が伝わってくるほどだったもの。だから会ってみたかったのよ、あの子の特別な人に」
「……特別っていうのは、買い被り過ぎですよ」
 思わず、そう返す。
「確かに今、私はサーニャの一番近くにいますけど……でもそれは、きっと本当は、誰でも良かったんだと思います。サーニャの事を変える事が出来たのは私以外にたくさんいて、その中でたまたま、私がその時、その場にいたってだけで」
 それは例えば。
 エーリカ・ハルトマンだったり。
 宮藤芳佳だったり。
 あるいは、どこかの街角の、誰かだったり。
 エイラ・イルマタル・ユーティライネン以外の誰かでも、最初にサーニャの心に触れることは出来たのだろうと思う。だからもし、自分と出会わなくても、サーニャは――
「あまり自分を卑下するものではないわ、ミス・ユーティライネン」
 ぴしゃり、と。エイラの思考を、強い語気で先生が遮った。
 思わず息を呑む。エイラには、実はあまり学校に通っていた経験が無い。ローティーンの頃にはもう軍に入っていて、だから『学校の先生』というのがあまり想像できなかった。
 けれど、はっきり解る。今、目の前にいるこの人は、間違いなく『先生』だ。それが実感として、初めて感じられた。

217 名前:Key To My Heart 12/18:2013/01/20(日) 21:37:25 ID:KKYaFxWQ
「確かに、あの子の傍に居ることが出来たのは、誰でも良かったのかも知れない。けれど、最初にあの子に寄り添ってあげたのは、貴女なのよ。あの子が必要としている時に傍に居る事が出来たのは、唯一、貴女だけなのよ。
 それをどうか、誇ってあげて。あの子のためにも」
「……サーニャの、ために」
 その言葉は、不思議と、胸の中にすとんと納まる感じがした。完成の見えてこないパズルと格闘しているところに、新たなピースがもたらされたような感覚だった。
「……余計なお節介を言ってしまったかしらね」
「いえ。うまく言えないけれど、なんていうか……少し、すっきりした気がします」
「そう。なら良かったわ」
 ところで、と。先生が、ここでこの話はおしまいだ、とばかりにウィンクを一つ。その仕草はとても茶目っ気にあふれていて、不思議なくらい似合っていた。
「貴女はカールスラント語は得意な方かしら」
「得意って言うか、まぁ、聞き取る程度なら。それがなにか?」
「この後の曲はカールスラント語の合唱が入るから。歌の意味が解らないよりは解る方が、聴いていて楽しいものでしょう?」
「そりゃあそうでしょうケド」
「ではね、私はこれで」
 お話ができて良かったわ、と言い残し。先生が去ってゆく。
 再び一人になり、エイラは先生との会話を反芻した。正直言ってしまえば、先生に言われた事が実感として得られたと言うわけではない。サーニャにとって、特別な誰かであること。そうでありたい、と望みながらも、必ずしも自分がそうである必要は無い、とも思う。この矛盾は、そう簡単に解消できるものではなかった。
 しかし。先生の言葉は、ほんの少しだけ、それでも確かにエイラの心に何かを残していた。
 考え事にふけってぼんやりしかけていたが、招待客の一人と肩がぶつかりそうになった所で我に帰る。いけない。ここは会場のまんなかだ。立ち尽くしていると迷惑になってしまう。
 慌てて会場の隅に移動した、その時。緞帳がするすると上がり始めた。
 壇上の上にはすでに楽器とその弾き手が整列していて、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスの弦楽器に、ホルンなどの管楽器といった、オーケストラではおそらくお馴染みの面子が並んでいる。皆、服装自体は正装なのだが、いまいち統一感が無く、きっと招待客の中から我こそはという有志が、ああして壇上に上がっているのだろう。
 そしてサーニャ。サーニャもまた、壇上に端に据えられたピアノのチェアに控えていた。
 会場の誰もが注目する中、舞台袖から一人の老紳士が現れ、壇上手前の中心に置かれた台の上に移動する。指揮者だ。楽譜を整えると、会場の聴衆に対し、一礼。
 そして指揮者がタクトを構える。すると、観客のざわめきがすっと消えた。緊張と待望の入り混じる沈黙。身動ぎさえ憚られるような重苦しい静寂。
 エイラはサーニャを見た。ピアノの鍵に指を添え、すっと目を細めるその表情は驚くほど真剣なもので、それは夜間哨戒の出撃前に一瞬だけ見せる表情と同じだった。それほどの緊迫がエイラにも伝わる。身震いがした。
 指揮者は、沈黙に対し、まるでお構いなしにタクトを切り上げるように振り翳した。
 そしてサーニャのピアノが静寂に力強く踏み込む。
 指は鍵を叩くというより、鍵盤の上で踊るかのよう。

218 名前:Key To My Heart 13/18:2013/01/20(日) 21:40:49 ID:KKYaFxWQ
 演奏の始まり、ピアノが旋律を奏で始めるのへ、チェロとコントラバスが割って入る。その旋律を低く唸る音で『否定』する。低弦はまるで「違う、その音ではない」と告げているかのようで、ピアノの音が止まる。
 ピアノがもう一度音を生む。今度はもっと軽やかに、より激しく。
 だが再び低弦が割って入り、否定の音色をもってそれを中断させてしまった。
 負けじとピアノが応える。今度はもっと甘美な音を。低弦はまだそれでもお気に召さない。
 ピアノは戸惑うように、自分の音を模索し始めた。二つの旋律は交わらず、対話のような応酬の音が繰り返される。
 やがてピアノは見出した。一つのモチーフを。己が歌うべきその意味を。
 低弦は迎え入れるかのように肯定の響きを返し、そのモチーフを自らが歌い始めた。ピアノがそこに加わる。いまや壇上にある全ての楽器が、ピアノが探し出したモチーフに唱和している。
 エイラは聞き入りながら、肌が総毛立つのを感じていた。なんという豊かな音なのか。音楽の教養の無い自分にさえ解る。対立する旋律を奏でていた二つの音色が、もはや一つとなった事が。音色はただ、共に歌うという歓喜に満ちている。
 そして壇上にて控えていた声楽の一人が立ち、よく通るバリトンで朗々と謳い始める。


O Freunde, nicht diese Töne!
Sondern laßt uns angenehmere
anstimmen und freudenvollere.

おお、朋よ! このような音ではない!
我々はもっと快い
歓喜に満ちた歌を謳おうではないか


 声は否定の意を歌いつつ、しかし既に存在するモチーフを無かった事にしない。むしろこれは音の重なりに対する羨望なのだと直感できた。共に謳おうと望んでいるのだ。
 既に歌う音色達はそれを優しく受け入れる。人の声であれ楽器であれ、この歌の中では平等なのだと言わんばかりに。


Freude, schöner Götterfunken,
Tochter aus Elysium
Wir betreten feuertrunken.
Himmlische, dein Heiligtum!

歓喜よ、煌く神の霊感よ
楽園より来たりし娘よ
我々は焔に酔い痴れながら
天なる貴方の聖所に踏み入ろう!

219 名前:Key To My Heart 14/18:2013/01/20(日) 21:43:34 ID:KKYaFxWQ
Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt;
Alle Menschen werden Brüder,
Wo dein sanfter Flügel weilt.

汝の魔力は再び結び付ける
時の流れが厳しく切り離したものを
全ての人々は皆同胞となる
貴方の柔らかな翼の休まる場所で


 音色に乗せられた祝福と慈愛とが、会場の中を満たしてゆく。
 はっきり言ってしまえば、エイラはこの結婚式には特に縁も所縁も無い。だから思い入れもある訳ではなく、ただただサーニャの付き添いとして付いてきただけである。
 それでも解る。解ってしまう。今日ここで結ばれる新郎と新婦が、どれだけ周囲から愛されているのかを。奏でられる音の響きがそれを教えてくれる。


Wem der große Wurf gelungen,
Eines Freundes Freund zu sein,
Wer ein holdes Weib errungen,
Mische seinen Jubel ein!

一人の友の朋になるという
大いなる試みに勝ち得た者
優しき乙女を伴侶に得た者は
皆諸共に歓喜の声を上げよ!

Ja, wer auch nur eine Seele
Sein nennt auf dem Erdenrund!
Und wer's nie gekonnt, der stehle
Weinend sich aus diesem Bund!

そうだ、この世界の中でたった一つでも
己のものと呼べる魂があるのなら!
そしてそれが無き者は
涙とともにこの集いから去るがいい!

220 名前:Key To My Heart 15/18:2013/01/20(日) 21:46:06 ID:KKYaFxWQ
Freude trinken alle Wesen
An den Brüsten der Natur;
Alle Guten, alle Bösen
Folgen ihrer Rosenspur.

この世の全ての生命は
自然の乳房より歓喜を飲む
善きも悪しきも全ての人は
薔薇の道跡の上を往く

Küsse gab sie uns und Reben,
Einen Freund, geprüft im Tod;
Wollust ward dem Wurm gegeben,
und der Cherub steht vor Gott.

世界は我々に唇づけと葡萄酒を与え
生死の試練を共にする朋友を巡り会わせる
快楽は虫けらにも与えられ
天使は神の御前に立つ


 壇上でピアノを弾くサーニャは、どこか苦しげだった。ブランクのあるピアノの演奏で、しかも難度の高い曲を、恩師の娘の晴れ舞台で弾いているのだから当然と言えた。その緊張と重圧のほどは、きっとネウロイとの戦闘で感じるものに引けを取らないだろう。
 しかし、それでも。サーニャはそれすらも楽しんでいた。遠目にですら見て取れるくらいに汗を流しながらも、微笑んでいた。自分が奏でているということに歓喜していた。
 その姿は、エイラの知らないサーニャだった。ナイトウィッチとしてではない、音楽家の卵としてのサーニャだった。


Froh, wie seine Sonnen fliegen
Durch des Himmels prächt'gen Plan,
Laufet, Brüder, eure Bahn,
Freudig, wie ein Held zum Siegen.

運命の妙なる計らいで
太陽が喜ばしく天を駆け巡るように
同胞よ、己が往くべき道を往け
勇敢なる英雄のように勝利を目指せ

221 名前:Key To My Heart 16/18:2013/01/20(日) 21:47:46 ID:KKYaFxWQ
Seid umschlungen, Millionen!
Diesen Kuß der ganzen Welt!
Brüder, über'm Sternenzelt
Muß ein lieber Vater wohnen.

抱き合おう、諸人よ!
この唇づけを全世界に!
同胞よ、この星の輝く天幕の彼方に
愛しき神が居られるに違いない


 エイラは頬を伝うものがある事を自覚した。
 それが何故流れるのかは、解らなかった。


Ihr stürzt nieder, Millionen?
Ahnest du den Schöpfer, Welt?
Such' ihn über'm Sternenzelt!
Über Sternen muß er wohnen.

諸人よ、跪いたか?
世界よ、創造主を予感するか?
星空の向こうに神を求めよ
星々の彼方にこそ
必ずや神は存せり


  ◆◆◆


「おかえり、サーニャ」
「エイラ……ただいま」
 演奏が終わり、万雷の拍手が響く中、サーニャが壇上から会場の方へ戻ってきた。エイラはハンカチで、サーニャの額を丁寧に拭ってやる。すごい量の汗だ。あまり濃い目に化粧をしなくて正解だった。きっと汗で崩れてひどい事になってしまっていただろう。
「演奏、凄かったよ。なんていうか……心に響くっていうか、とにかく凄かった」
「ありがとう。でも、わたし一人で演奏したわけじゃないわ。みんなのおかげよ」
「だな。でも、私にはやっぱり、サーニャのピアノが一番良く聴こえたよ」
 足元のおぼつかないサーニャを壁際の椅子に導き、座らせる。夜間哨戒後だってこれほどまでに消耗しているのは珍しい。演奏の疲労と緊張がどれほどだったのかが良く解る。

222 名前:Key To My Heart 17/18:2013/01/20(日) 21:48:22 ID:KKYaFxWQ
 近くを歩いていたウェイターに水を頼み、エイラもサーニャの隣の椅子に座る。会場は大盛り上がりで、これでは結婚式と言うよりお祭りみたいだった。
 まぁそれも仕方ない。目の前であれだけ凄い演奏が繰り広げられたのだ。気持ちも昂ぶるというものである。サーニャが疲れ切っているので自重しているが、エイラだって飛び上がって喝采を上げたいくらいに感動しているのだ。
 氷入りの水のグラスが到着し、サーニャに手渡したところで、会場がさらに一段と盛り上がりはじめた。何があったのか、と壇上に目をやると、タキシードとウェディングドレスを纏った男女が立っているのが見えた――新郎新婦だ。
 花嫁は、なるほどあの先生の娘さんなんだな、と思わせるくらいに、どこか気品のようなものを漂わせていて、花婿はどこか朴訥で、誠実そうな男性だった。お似合いの二人だな、と素直に思う。二人とも幸せ一杯という表情をしていて、見ているだけでその幸福が伝わってくる感じがした。
 舞台袖から白いひげをたくわえたお爺さんが登場し、新郎新婦の前に立つ。確かあれはコントラバスを演奏していた人の一人だと思うのだが、今は手にロザリオを持っている。どうやら神父さまだったらしい。
「――あなたは健やかなる時も、病める時も、これを敬い、これを助け――」
 神父さまの口上が聞こえる。結婚式のクライマックスだ。会場内の人々も自然と口を閉ざし、新郎新婦を見守っている。
 ふと視線を舞台袖の方に向けると、そこに先生がいるのが見えた。表情までは解らなかったが、きっと微笑んでいるのではないかとエイラは思う。そしてその隣には、指揮者を担っていた老紳士がいた。ああ、あの人が花嫁のお父さんなんだ、と直感した。
 そちらも、表情は見て取れない。だが、なんとなく、涙を浮かべているのではないだろうか。結婚式で泣くのは花嫁の父親というのが相場だし、それに。
 ――そういう気持ち、ちょっと解る気がするしな……。
 愛しいひとが、自分の手を離れて幸せになるということ。それに対する祝福と、少しの切なさ。それを想像した時、思わず隣に座るサーニャの手に自分のそれを重ねていた。手離したくないと切実に思った。サーニャの指が、エイラの手を自然と握り返してくる。その柔らかさと温かさが、エイラの心に沁みた。
 やがて花婿と花嫁の、誓いの言葉が響く。それを聞き届けた神父さまが鷹揚に頷き、そして。
「それでは、指輪の交換を!」
 結婚式の締めくくりだ。
 花婿と花嫁が、互いの愛の証を交換して。
 その最後に、キス。
 それが、本当に美しくて。
「二人とも、幸せそう……」
 サーニャがそう呟きながら、エイラの肩に顔を寄せる。エイラも耳打ちするみたいにサーニャへと寄り添い、囁いた。
「幸せそうじゃなくて、幸せなんだよ。それでこれからもっと、ずっと幸せになるんだ」
「そうね……とても素敵」
「……なぁ、サーニャ」
 一つの問いを口にしかけて、そのことに自分自身が戸惑う。これを訊いてしまって良いのか、と。先生の言葉を思い出す。サーニャのために、今、自分がここにいられるのを誇ると言うこと。その確信は、まだ自分の中にはない。だから、何かを確認しなければ前に進めない。

223 名前:Key To My Heart 18/18:2013/01/20(日) 21:48:56 ID:KKYaFxWQ
 嗚呼。
 行こう、と。
 そう、決めた。
「サーニャは……やっぱり、音学校に戻りたいか?」
「え?」
「ネウロイなんかいなければ、そもそも軍人になんてならずに済んだし。ピアノだって毎日弾けてたはずじゃないか。今でもあんなに凄い演奏が出来るんだから、きっと軍に入らなければ、有名なピアニストの一人になってたに違いないしさ。だから、サーニャは」
 軍に入らない方が、幸せになれたんじゃないか、と。
 私と出会わない道に行った方が、良かったのではないか、と。
 そんな事を口に出そうとして。
 頬に触れる、サーニャの手にそれを止められた。
「……そうね、わたしは音楽とピアノが、好き。ネウロイもなにもなければ、音学校で勉強を続けたかったと思ってる。それは、本当。
 でも、ネウロイはいて、だから軍に入って、その間に悲しいこともあったけれど……でも、エイラと出会えたのは、幸せ。それも、本当。
 音楽家になりたいわたしも、軍人になったわたしも、どっちも本当だから。わたしは、エイラと出会えて、本当に良かったと思ってるし……それが、今のわたしよ、エイラ」
「……さ、さーにゃぁ……」
「エイラ?」
「わ、私も、色々あったけど……でも、サーニャと出会えて、本当に良かったと思ってるぞ!」
 感極まって、思わず、抱きつく。
 サーニャが驚いたみたいだけれど、その後にそっと、抱き返してくれる。
 ひとさまの結婚式で何をやっているのかと頭の冷静な部分が思わないでもないが、さいわいな事に、みんな花嫁花婿に見とれていて、会場の隅の自分たちを見てはいない。けれどもしかしたら先生は気付いていて、微笑んでいるのかもしれなかった。
 このひとが自分にとって、特別であるのと同じくらい。
 このひとにとって、特別な誰かでありたい。
 心から、そう願った。どうすればいいのか、どうすればそれを確かめられるのかは、まだ良く解らないが、それでも、だ。
 祝福の拍手が花嫁たちに注がれるなか、自分たちの周りだけが切り取られたみたいに静かで。
 その二人だけの静けさのなかで。
 ずっと、抱き合っていたかった。

224 名前:KKYaFxWQ:2013/01/20(日) 21:55:20 ID:KKYaFxWQ
以上です。
このネタってエイラーニャでやる必要あるの? という感じもありますが、まぁそこは気にしてもしょうがないかなぁと開き直り気味です。
スレ汚し失礼いたしました。またお目にかかる機会があれば幸いと思います。
サヨナラ!(爆裂四散)

225 名前:KKYaFxWQ:2013/01/21(月) 00:46:13 ID:F1YRnuBc
ギャーすいません。2/18部分において「ガリア開放」と書いてしまってますが、正しくは「ロマーニャ解放」です。
要するに一期終了後ではなく、二期終了後から劇場版までの時間軸になります。
締まらなくて申し訳ない……!

226 名前:名無しさん:2013/01/21(月) 19:52:58 ID:ePmUPOrg
>>225
良かった!
情景が目に浮かんで、長さを感じなかった。
化粧とマニキュア場面でこっちまでドキドキし、ラストはウルッと来てしまった。
次の作品も期待!!

227 名前:KKYaFxWQ:2013/01/22(火) 00:52:07 ID:PBaO4qtU
>>226
感想大感謝です! マニキュア部分とラストはぶっちゃけ本当にそこだけ書きたかっただけなんで伝わって嬉しいです。
で、次の書いてきました。また投下しますエイラーニャです。短いよ!

228 名前:KKYaFxWQ:2013/01/22(火) 00:53:35 ID:PBaO4qtU
  なんでもないこと


 雨の音が聞こえる。
 わたしはゆっくりと目を開いた。目の前には、まくら。前に、エイラに買ってもらったもの。カーテンの隙間から、光。太陽の光。曇り空越しだから、少し暗い。
 今、わたしはベッドのなかにいる。ゆっくりと体を起こす。思わず、あくび。
 朝。いや、もしかしたら、もうお昼かも。夜間哨戒の任務をしていると、どうしても朝起きて夜に眠るという生活はしにくくなる。直したいとは思うけれど、これもお仕事だから、しかたない。
 ふとした違和感。部屋がなんだか見慣れない。わたしの部屋ではないし、エイラの部屋でもない。どこか知らない世界に迷い込んでしまったみたいな感じがする。
 ああ。
 それもそうだった。ここは501の基地じゃなくて、502の基地の寝室。いま、わたしとエイラは、ペテルブルグの基地にお世話になっているという事を、ようやく思い出した。寝ぼけた頭がうまく回らない。
 眠いのは苦手。
 でも、今日がお休みだってことは、覚えてる。エイラも、お休み。
 エイラ。そう、エイラはどこにいるだろう。いつもみたいにわたしより先に起きて、どこか部屋の外に飛び出していってしまったのかもしれない。
 わたしを起こさないよう気を遣ってくれるのは嬉しいけれど、それは少しだけ寂しい。置いていかないで欲しいのに。一緒にどこかに行こうと言ってくれても良いのに。
 わかってる。これは、わたしのわがまま。エイラは優しいから、つい甘えてしまう。
 ふと、寝る前にエイラがいた場所に手を伸ばすと、そこはまだ温かい……むしろ、温かくて柔らかい。
 これは、もしかして。
 毛布をめくると、そこにエイラが寝ていた。
 思わず、くすりと笑う。まだ明るい時間に、わたしが起きていて、エイラが寝ているのは、本当に珍しい。そういえばエイラはペテルブルグの基地でいろいろ手伝っているから、夜まで起きていることもあるみたい。だからたまたま今日、こういうめぐり合わせになったのだと思う。
 エイラの寝顔を見るのも、少し新鮮。夜間哨戒のあと、エイラのベッドに行ってしまうときに見ているはずだけど、わたしはそれをよく覚えていない。覚えてないなら、見てないのと同じ。だから本当に、もしかしたら、エイラの寝顔を見るのはこれが初めてなのかも。
 すうすうと寝息をたてる表情は、いつものりりしい顔とも、笑っている顔とも違う。
 なんとなくその顔に触れようとして……やめておくことにする。起こしてしまったらかわいそうだから。こんなに気持ち良さそうに寝ているのに。
 ああ、じゃあ、エイラがわたしを起こさないのも、こういう気持ちだからなんだろうか。
 少し納得して、わたしは枕元に置いてあった読みかけの本を取った。
 オラーシャ語版の『不思議の国のアリス』。
 家にいる頃は何度も読み返した、お気に入りの本。子供の頃読んでいたものと、今ここにある本は違うものだけど、書かれている物語は同じで、懐かしい気持ちにさせてくれる。
 買出しに出かけた時に本屋さんで見かけて、思わず買ってしまっていた。厚くて重い本だから、次の異動のときは、これも処分しなくてはいけないだろうけれど。
 栞の位置のページを開く。場面はちょうど、帽子屋さんとのお茶会のシーン。
 外はとても静かで、ただ、雨の音が聞こえる。
 その静かな空気の中で、本を読む。となりには、エイラが寝ている。
 こういうのも、たまには良い。
 今日は、なんでもない日。
 でも、きっと幸せな日。

229 名前:KKYaFxWQ:2013/01/22(火) 00:54:57 ID:PBaO4qtU
以上です。短いね。
またなんか書けたらお世話になるかと思います。サヨナラ!

230 名前:名無しさん:2013/02/04(月) 23:15:54 ID:irVCk5o6
>>229
GJ! これはなごむエイラーニャ。
どんどん書いて下さい!

231 名前:KKYaFxWQ:2013/02/09(土) 00:44:45 ID:4wTiVXyo
>>230
レスどうもー。
いろいろ触発されてまさかのイザ×グリュSS書いてきました。
公式設定の開示量が少ないので色々妄想で補ってます。

232 名前:1/6:2013/02/09(土) 00:46:14 ID:4wTiVXyo
「ブリタニア空軍所属、アイザック・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉、着任の報告に参りました」
「長旅、お疲れさまでした。私が506JFW隊長、ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネです。これから同じ506として、よろしくお願いしますね」
「はい。以後、よろしくお願いいたします」
 握手を交わしながら、ロザリーは目の前の人物を観察した。中性的で端正な顔立ちに、短く整えたライトブラウンの髪。狩猟コートを身にまとい、ハンチング帽を左手に持つ姿は、軍人らしからぬ気品を漂わせていた。まぁ、これは既にこの基地にいる他の二人の部下にも言えることではあるが。
「基地内の設備の場所は大丈夫ですか?」
「宿舎には今、荷物を置いてきたところです。それ以外はまだ……」
「では、夕方に一通り案内しましょう。それまで、自室で休んでいてください」
「ありがとうございます。では、これで失礼いたします」
 敬礼の後に、アイザック少尉が退室する。
 執務室の椅子に座りなおしたロザリーは、その落ち着いた態度とは裏腹に、内心で激しく沸き起こる疑問符に苛まれていた。そう、その疑問とは。
 ――アイザックさんは……女性の方? それとも、男性の方なんでしょうか……!?
 ロザリーは頭を抱えた。


 Blood and tide


「――と、いうわけなんですが」
 午後三時のティータイム。
 ブリタニア軍に所属していたロザリーにとってはおなじみの習慣だが、普段は執務室で一人、お茶を楽しむ程度に留めている。今のロザリーの立場は、506の名誉隊長。隊の規範となるべき人物が毎日、三時にお茶とおやつを並べて寛いでいるというのは、いかにもまずいと考えたためだ。
 しかし今日はあえてその自戒を破り、スコーンなどを執務室のテーブルに並べている。なぜか、と言えば、一種の口実作りで、部下二人をティータイムに誘い、どうしても相談したいことがあったのだ。
 が、
「ほぅ」
 と、応じるのは、506の戦闘隊長を任ずるハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン大尉だ。長い金髪に碧眼の、いかにも貴族然とした美しい少女で、実際に名家の出身である。仕草の一つ一つが上品で、スコーンをついばむ姿さえ絵になるのだが、お菓子に夢中になるさまは素直に愛らしい。
「へぇ」
 と、答えたのはアドリアーナ・ヴィスコンティ大尉で、こちらもロマーニャの伝統ある家系の出身である。赤毛を肩で揃えた長身は、どこか猫科の大型獣のようで、ソファに腰掛けて寛ぐ姿は、まるで木陰でまどろむ豹を思わせた。
 ロザリーは気付いた。二人とも、リアクションが薄い。
「え……気になりませんか? アイザックさんが男性のかたか、女性のかたなのか」
「別に気にならんのう」
「右に同じ」

233 名前:2/6:2013/02/09(土) 00:46:36 ID:4wTiVXyo
 ロザリーは困惑した。あまりに反応が薄い。これは相談する相手を間違えた予感がする。
「グリュンネは気になるのか。アイザック少尉の性別が」
 ハインリーケが逆に意外そうな顔で問うてくる。うわぁ、これは本当に気にしていない顔だ、とロザリーは戦慄した。
「き、気になります……だからこうして相談に乗ってもらっているわけで」
「ふうむ」
「二人は、その、アイザックさんが男性だったらどうしようとか思わないんですか……?」
「わらわが部下のあやつに求めるのは、有能であるかそうでないかの一点じゃ。男か女かで付き合い方は変えん」
「ハインリーケはそれでいいんでしょうけれど」
「私は可愛ければ美少年でも美少女でも構わんと思うのだが」
「すみませんアドリアーナ。その境地には私、至れません」
 ふぅ、と嘆息をひとつ。
「私の立場としては、男性の方なのか女性の方なのかで、部屋割りとか、お風呂とか、色々考えなくてはなりませんし、結構切実なんです」
「なるほど、確かにそれはあるのう。さすがのわらわも男と一緒の湯船につかるのは御免被りたいところじゃ」
 逆に言えば、それくらいしか気がかりが無いと言うことだろう。ハインリーケのこの様子に、ロザリーは逆に自分の方がおかしいような気がしてくる。
 いや、基本的に女性のみで構成された集団であるウィッチの部隊に、男性が来たのかもしれないのだから、もっと気にしていいはずなのだ。ハインリーケが浮世離れしすぎなのである。
「しかしだね隊長殿、歴史上魔力を持つ男性が存在したというのは記録に残ってはいるが、現代において、ウィッチとして実戦で通用するレベルの魔法を扱える男児の報告例は無いんだ。普通に女性ではないかな? 確かにアイザックと言うのは男性名で、普通女児に付けるものではないが……まぁ、名付けのルールは法律で決められているわけではないし、そういう事もあるだろうさ」
 と、アドリアーナが結論付ける。そうなのだ、基本的にウィッチは、女性である。これが原則だ。ゆえにアイザックも女性なのだろう、とは思うのだが。
 そこにハインリーケが反論する。
「ヴィスコンティよ、前例が無いからと言って、それが絶対に無いとは言い切れんぞ。万が一というやつが実際に起こることもあるじゃろう。第一、この506に来たと言うことは、あやつも貴族の血筋に連なるもの。ならば名は重大な意味を持つ。親があえて異性の名を付けるかは疑問じゃぞ」
「まぁそれはあるがね……うーん、服も長丈のズボンだから、男性用のような女性用のような、絶妙に微妙なところで、本人が自分の性別をあえて解り難くしている感じもあるのがちょっと引っ掛かりはするな」
「でしょう。そうでしょうアドリアーナ。やはり気になるでしょう」
「正直さっきまで気にも留めていなかったが、一度疑問に思うと確かめたくはなるな」
「剥けば済む話ではないかの」
「よし」
「いや、やめてくださいね?」
 そんな事をしてしまったら、メンバーが揃いつつある506から早速欠員が出てしまう。
「そういえば隊長殿の立場なら、経歴書の類くらい閲覧出来るのではないかな? それを見れば早いと思うのだが」

234 名前:3/6:2013/02/09(土) 00:47:07 ID:4wTiVXyo
「……実は、もう見てはいるんです。ただ……」
 ロザリーは傍らに置いておいた封筒から、本人直筆の経歴書を取り出す。名前や性別、誕生日、出身地と簡単な経歴が書いてあるだけの簡素な書類で、一般隊員でも閲覧自体は可能なレベルのものだ。テーブルの上に、他の二人に見えるように置く。
「……一度『Isaac』と書いてから、訂正して『Isabelle』と書き直してあるな。イザベルね……本人は確か、アイザックとしか名乗らなかったが」
「性別欄も見てみろヴィスコンティ。ここも一度『Male』と書いた後、『Female』と直してある。普通人間、性別の項目なんか書き間違えそうにないものじゃが」
「名前だってそうさ。これはいよいよ解らないな」
 場が沈黙に陥る。二人がこの疑問に大して乗り気になってくれたのは助かるが、答えが出る気配はない。
「というか、グリュンネよ。本人に訊けばはっきり解ることであろう」
 ハインリーケが、何気なく核心を突いてきた。ロザリーだって、それが一番早く、確実であることくらい自覚している、のだが。
「それはそうなんですが……ご本人に、男性ですか? 女性ですか? と訊ねるのは、なんだか失礼な気がして……」
「それはどうかな、隊長殿」
 アドリアーナが、そう意味深に囁く。
「……アドリアーナ?」
「こうして本人の居ない所で好き勝手詮索する方が……余程無礼ではないかな」
 ロザリーは、はっとなった。そうだ、こうして他人の事情をよってたかって暴こうとするこの行為こそが、何よりの不義理なのではないか。自分は知らず知らず、そんな配慮に欠けた振る舞いをしてしまっていた……!
「目が覚めました……! そうですね、私、直接訊くことにします! 丁度この後基地の中を案内する予定ですし!」
「そうするのがよいぞ、グリュンネ」
「幸運を祈るよ」
「はい! それでは少し早いですが、行ってきます!」
 晴れやかな気分になりながら、ロザリーは執務室を出た。きっとアイザックは自室にいるはず。予定の夕方には早いが、善は急げというし、早期決断、即行動だ。
 そんな想いを胸に、ロザリーは宿舎の方向へ歩き始めるのだった。


 主のいなくなった執務室の中で、残された二人の間には、
「……ちょろい……」
「ちょろ可愛いね」
「正直、あれで成人後もやっていけるのか不安なのじゃが」
「今は私たちで守ってあげればいいさ、姫。その後は、信頼できる誰かに任せればいい」
「うむ」
 そんな会話があったのだが。
 ロザリーは知る由のないところである。

235 名前:4/6:2013/02/09(土) 00:47:24 ID:4wTiVXyo
「いやぁ、話には聞いていましたが506の基地はやはり豪華ですね。元いた基地とは大違いです」
「ここまでお金をかける必要はないと何度も言ったんですけれどね……司令部には変に気を遣っていただいて申し訳ないと言いますか……」
 基地内の案内が済んだ後、ロザリーは執務室にアイザックを招き、お茶を淹れて休憩することにした。使った茶葉はロザリーは手ずから買ってきたもので、少し香りの強いものなのだが、アイザックには好評なようでなによりだ。
 ロザリーはティーカップの中身を一口含み、
 ――結局訊けませんでしたぁぁぁぁぁあ。
 決して表情に出さないまま懊悩した。
「それでは僕はこれで失礼しますね。お茶、ごちそうさまでした」
 そう言い、アイザックが席を立ちかけたのへ、
「ま、待ってください!」
 自分でも驚くほどの声量で、思わず呼び止めてしまった。
 ――はっ!? 私ったらなにを……!
「? どうかしましたか?」
 アイザックの怪訝そうなまなざしが痛い。まずい。流れ上、やっぱりなんでもありませんでしたと流すのは不可能だ。かといって他の適当な話題を振って誤魔化そうにも、なにも思いつかない……!
 これは、もういくしかない。
 ままよ。
「アイザックさんは……男性のかたなんですか女性のかたなんですか!?」
 ――あぁ……!
 ついにやってしまった。絶対に変な人だと思われた。
 隊長としての威厳、人望、そして個人としての信頼関係……そういったものが音を立てて崩れていくような気がした。
 ロザリーがそんな悲嘆に心をのまれかける。しかし、とうのアイザックはといえば、びっくりしたような表情になったのも一瞬。逆に、ああ、と納得したような顔になり、
「ああ、申し訳ありません隊長! 僕、ついいつものクセで……」
「?」
「ちょっと、ご説明しますね」
 席を立ちかけていたアイザックが、椅子に座りなおす。
「結論から言うと、僕はちゃんと女の子です。本名もアイザックでなくて、イザベルといいます。ただ少し事情があって、男の子として育てられた頃がありまして」
「男の子として……?」
「ええ。僕はバーガンデールという家の一人娘なんですが、このバーガンデール家というのはこれまでウィッチを出した事の無い家系なんです。ですからまぁ、僕がウィッチである事が判ったときに、親が大慌てしたらしくて。このままでは娘が軍にとられてしまう! とね。軍人の家系というわけではないですし、かといって自分の子供に万が一があったときの対策もしていませんでしたから」
「なるほど……」
「ですのでまぁ、こう考えたわけですね。男の子と偽る事で、軍の目を誤魔化そう! と」

236 名前:5/6:2013/02/09(土) 00:47:44 ID:4wTiVXyo
「え、えぇ?」
「いやまぁ、自分で言ってても変な話だなとは思うんですが、事実でして。実際、僕は物心つくかつかないかぐらいの年齢から、男の子の名前と、男の子の服を与えられて、男の子として振舞うようになりました。まぁ、それも空しく今僕はこうして軍にいるわけですが、おかげで男の子のフリをする必要ももうありません。けれど何年もそうしていたせいで、未だに男の子の時の名前――アイザックを名乗ってしまうんですよね」
 直そうとは思うんですが、とアイザックが微笑みながら言う。
 その表情からして、アイザック――いや、イザベルと呼ぶべきか――が、その過去自体を重荷に感じているようではない、とロザリーは直感した。しかし、陰が無いわけではない。その過去がイザベルの心の中で、小さな、しかし濃い陰を作っているように思えた。
 その考えが頭の中に生じた直後、ロザリーは、無意識のうちにテーブルの上のイザベルの手に、自分の手を重ねていた。温かく、柔らかで、華奢な掌。
「?」
「私、隊長ですから」
 イザベルの目を真っ直ぐに見つめて、そう告げた。
「だから、何でも話してくれていいんです。なにか悩みがあって、話して楽になる類のことなら、私を便利に使ってください。力になれる、なんて自惚れた事は言いません。けれど、貴女の力になりたいのは、本当ですから」
 イザベルが驚いた表情になり、直後に。
 すっと、目を伏せた。
「……不思議なひとですね、隊長は」
 ふぅ、と吐息がひとつ。そして少しの間の、決して不快ではない沈黙。
「……時々、どっちが本当の自分かというのが解らない時があるんです」
「本当の、自分?」
「ええ。男の子として育てられたアイザックと、女の子として生まれたイザベル。持って生まれた性別は女の子ですけれど、男の子として過ごしていた期間の方が長いんです。だからよく解らなくなってしまうんですよ。僕がアイザックなのか、イザベルなのか、と」
「……そんなの、簡単です」
「?」
「アイザックも、イザベルも、貴女です。どっちが本当か、なんて決める必要はきっと、ありません。イザベルとして生まれたのも、アイザックとして育てられたのも、今、ここにいる貴女なんですから」
 そこまで言って、不意にひどい羞恥に襲われた。頬が赤くなって、熱が頭に昇ってくるのが自覚できる。
「す、すみません! 私ったらでしゃばった事を言ってしまって……!」
 自分としては、とても失礼な事を言ってしまったつもりだったのだが、
「いえ……ありがとうございます」
 イザベルは、そう言いながら柔らかく微笑んでくれた。
 その笑みは先程の、どこか陰を感じさせる笑みではなくて――晴れやかで、慈しむような笑みだった。それをロザリーは、素直に、きれいだと思った。
「そうですよね……イザベルもアイザックも、僕でした。どっちかに決め込んでしまったら、残された方の僕を否定してしまうのと同じ……その事に今、ようやく気付けました」
 隊長のおかげですね、と。重ねていた掌を、そっと握り返してくれる。
「改めて自己紹介します。僕の名は、イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデールです。これから、よろしくお願いします」

237 名前:6/6:2013/02/09(土) 00:48:02 ID:4wTiVXyo
「はい。よろしくお願いしますね……えっと」
「隊長には是非、イザベルと呼んで欲しいですね。それが僕の、生まれた時に貰った名前ですから」
「解りました、イザベルさん」
 再びの、握手。最初に交わした時よりも、少しだけ強く握りしめる。お互いに。
「それでは、今度こそ失礼します。まだ荷解きが残っているもので」
「こちらこそ、お引止めしてしまってすみません」
「よろしければ、またお茶をご一緒しましょう。今度は僕が淹れますよ」
「それは素敵ですね……楽しみにしています」
 アイザックが退室する。
 残されたロザリーは、ティーカップの残りをぐいと飲み干した。頬に手を当てると、少しだけ熱をもっているのがわかる。そして、胸にはほんの少しの高鳴り。
 これは緊張から来たものだろうか……? それとも。
 そんな考えが頭をよぎりかけた時に、不意に、
「これはお互い脈ありじゃな」
 廊下側とは別方向のドアが開き、ハインリーケが現れた。手にはコップを持っている。
「うむ。当初の目的を果たしつつ、好感度も上げることができたようだね」
 アドリアーナも現れた。手にはコップを持っている。
「ふ、二人ともまさか、ずっと盗み聞きしていたんですか……!?」
「失敬な。見守っていたと言って欲しいものじゃな」
「うむ。まぁ残念ながら直接目視していたわけではないんだが」
 二人して、うんうんと首肯する。
「しかしヴィスコンティよ。一つ問題が」
「なんだい姫」
「このまま二人の関係が発展した場合、双方の家に家督の存続の危機が訪れてしまう。これには対策が必要じゃぞ」
「確かにそれはあるね。とりあえずスタンダードに養子を取るというのはどうだろう」
「なるほど、定番じゃな。しかしそれでは家督は継げても血筋は途絶える。同じ貴族としてそれは偲びないのう」
「逆に考えるんだ姫、『家督なんて継がなくたっていいさ』と考えるんだ」
「ほう?」
「二人のご両親にそれぞれ頑張っていただいて弟をつくってもらえばいい。『長男』さえ確保できていれば家督はどうとでもなるさ」
「……それじゃな!」
「か、か、か」
 ロザリーがわなわなと身を震わせ、吼えた。
「勝手に話を進めないでくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
 その叫びは、506基地の中に、空しく木霊するだけだった。

238 名前:KKYaFxWQ:2013/02/09(土) 00:50:29 ID:4wTiVXyo
お粗末さまでした。
グリュンネさん、姫、ヴィスコンティさんはプライベートの範疇だとこれくらいの距離感ならもえると思います。
あと勢いでイザベル君をボクっ子にしていますが、フミカ姐SSでも未判明のところなので、あとで後悔する部分かもしれません。
それではまたいつか。

239 名前:名無しさん:2013/02/14(木) 05:37:51 ID:69dxnD6s
>>238
面白かったです。未知のキャラを書く時は色々大変ですね。
次回も期待してます。

240 名前:62igiZdY:2013/02/23(土) 13:10:49 ID:wnJRVljI
>>238 KKYaFxWQ様
506いいですね。ここに邦佳が加わることを思うと更に妄想が捗ります。


黒江×エイラで一本書いてみましたので久しぶりに投稿させていただきます。
読んでいただけると幸いです。どうぞ〜。

241 名前:魚釣りと未来予知 1:2013/02/23(土) 13:15:33 ID:wnJRVljI
 エイラが鼻唄交じりで歩いている。
 暢気な声色と表情から、いたく上機嫌であることが伺える。
 それは、よく晴れた日の昼下がりのことであった。
 海岸線の断崖に打ち寄せる波の音と海鳥の鳴声が高らかに響き渡る陽気な午後のことであった。
 真珠にも例えられるアドリア海の眺望を眼前にして、気分のノッてきたエイラの鼻唄に変な歌詞が浮かび上がってきた。

「とお〜く〜彼方〜の〜こお〜きょお〜から〜♪」

 アドリブに定評のあるエイラの唄は、大自然の中で異容な存在感を醸し出している。まさに不思議な妖精さんといった趣だ。
 ふと、道行く先の海岸線に視線を投じると、断崖に腰を下ろして海を眺めている人影が見えた。自然と風景に溶け込んでいるその姿は、ある意味エイラよりも妖精然としている。
 麦藁帽子に軍服の人影。その脇に置かれているのは扶桑のカタナ。アドリア海の秘宝の一部にしてはあまりにも不自然な存在である。だが一片の不協和音も感じさせないその佇まいは、エイラに東洋の仙人とはこんな風であろうという想像を抱かせた。
 よくよく見ると、その人はどうやら釣りをしているらしい。それで気配を殺して自然と一体化しているのにも合点がいった。
 気分上々のエイラはその勢いに任せてタロットカードの束を取り出し、慣れた手つきでシャッフルしてカードを一枚めくる。その結果にニヤリとしたエイラは、悪戯を企む子供の心で、釣り人の背後へ忍び寄り声をかけた。

「今日は釣れないと思うぞ」

 どこか得意気な響きで忠告するその声に、釣り人は一瞬ピクリと耳を動かしたが、それ以上の反応はない。
 エイラは更に“余計なお世話”を続けた。
「これでも私は占いが得意なんだ。私の“未来予知”にハズレはないんだな」
 エイラは胸を張って宣言する。
 その刹那、不動の釣り人が俄に立ち上がった。
 吃驚したエイラは思わず一歩後退る。
 何事かと凝視してみると、釣竿が大きくしなっているではないか!
 その様子から推察するに、獲物は相当な大きさであるらしい。
 つい先刻吐いたばかりの大言を反芻して、エイラは少し青くなった。
 しばらくの間、膠着状態が続いた。
 竿と糸を通じて、釣り人と魚との熾烈な格闘が目に見えるようであった。
 そして、タイミングを見計らって一息に釣り上げる。
 大物が、空へと舞い上がるように宙を漂い、着地した。
 見事なまでの手際の良さに、エイラは空いた口が塞がらない。
 そんなエイラに向かって、彼女は徐に口を開いた。

「誰の占いが、外れないって?」

 勝ち誇ったような笑みに射抜かれたエイラは更に一歩後退り、ぐぬぬ、と低く唸って負け惜しみを云った。
「き、今日はチョット調子が悪かっただけだかんな。ホントだぞ! あ、当たるときは当たるんだからな!」
 その様子を見て釣り人は呵々大笑した。
「あっはっはっは、いやいや、ご忠告痛み入る。実を言うと今日はかれこれ五時間、全く当たりがない状態が続いていてな。そろそろ諦めようかと思っていたところだったんだ。そんな時に天の声が聞こえてきたわけだ。私も大概負けず嫌いでな、そう言われたら退くわけにはいかなかったのさ」
 もしも、エイラが声をかけなかったなら。
 余計な忠告をしなかったなら。
 占い通り、釣れないままに終わっていたであろう。
 なんにせよエイラの占いが外れたことに変わりはないが。

242 名前:魚釣りと未来予知 2:2013/02/23(土) 13:16:24 ID:wnJRVljI
「しかし、かのダイヤのエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネンその人に占ってもらえるとは。今日は粘った甲斐があったというものだ」
 まさか見知らぬ釣り人から自分の名前が出てこようとは。エイラは再び驚愕の色を見せる。
「な、なんで私のこと知ってるんだ? オマエ、本当に仙人とかいうヤツなのか?」
「仙人? なんだそりゃ? さすがにロマーニャに仙人なんぞいないだろう」
 ――それとも、誰かが私のことをそんな風に噂しているのか? と釣り人は少し思案する。だが、考えても詮方なしと思ったのだろう、開き直って続けた。
「まぁ、いいさ。それよりもなんで知っているかって? そりゃ、知ってるさ。自覚がないようだが、君は有名人だからな。それに同業者でもある」
 同業者。エイラはその言葉に何か思い当たる節があったが、完全に思い出せないらしく半信半疑といった口調で切り出した。
「もしかしてオマエ……、ちょっと前に欧州の前線を飛び回っていたっていう、魔のクロエ、なのか?」
「ご名答。私もまだまだ名は知れているようだな」
 どこか懐かしそうに空を見上げ、彼女はエイラに手を差し出した。
「扶桑皇国陸軍航空審査部所属、黒江綾香だ。一度はあがりを迎えた身、階級など気にせず接してくれ。よろしく」
 その現役時代には鬼神の如き勇猛敢闘ぶりが語り草となったあのクロエとは思えない気さくな態度に、エイラは好感をもってその手を握り返した。そして今一度自己紹介をする。
「今は501に所属している、スオムス空軍のエイラ・イルマタル・ユーティライネンだ、よろしく」
 エイラは黒江に、どこか姉に似た気の置けなさを感じ取った。決して容姿が似ているわけではないが、心の部分に通じるものがありそうだと思ったのだ。
「そうだ、エイラ。この魚は君のおかげで釣れたようなものだ。持って帰って今晩の食事にでもするといい」
「えっ? いいのか? でも釣ったのクロエじゃないか」
「気にするな。別に、私は食事に困って釣りをしていたわけではないからな。だから遠慮せずに貰っておいてくれ」
 そう云った黒江は、エイラに獲物を半ば押し付けるようにして渡した。
「そこまで言われたら貰わないわけにはいかないな。ありがとな」
 そしてふと思いついたことをエイラは黒江に提案した。
「せっかくだし、うちの基地まで来ないか? 扶桑の料理上手がいるんだ。それで一緒に」
「すまんな。今日はもう帰らないといけない。ちょっと長居しすぎたみたいだ」
 エイラの申し出は嬉しい黒江だったが、残念そうに断りを入れた。
 エイラも少し寂しそうな表情だ。
 それを見た黒江は頭を掻きつつ、
「まぁ、しばらくはこっちにいる予定だから、私はまたこの辺りで釣りをしているかもしれない」
 と云って、笑った。つられてエイラも笑顔を見せる。
「だったら私も、またこの辺りを散歩するかもしれないな。今度は、ハズさないぞ」
「あぁ、また占ってくれ。今度はもっと大物が釣れるように、とな」
 そして二人はまた笑い合って、それぞれの帰途に着いた。

243 名前:魚釣りと未来予知 3:2013/02/23(土) 13:17:15 ID:wnJRVljI


- Interlude -

 基地に帰り着いたエイラは早速夕食の算段をつけるために宮藤を探し出した。
「いたいた。お〜い! 宮藤ぃ〜!」
「あ、エイラさん……って、どうしたんですか!? その大きな魚は?」
「いやぁ、さっき釣り人の姉ちゃんと知り合いになってさ。それで獲物を貰ったんだ。ということで、はい。なんか作ってくれ」
「いいですよ〜。これだけ大きな魚だとみんなで食べられそうですね。獲りたてなんですか?」
「そうなんだよ。こう、ぐいぃぃぃ〜っと、しゅぱぁぁぁ〜っと釣り上げてさ。なかなかカッコ良かったんだな」
「へぇ〜、そうですかぁ。新鮮な魚だったら刺身にも出来そうですね」
「サシミ? なんだそれ?」
「扶桑ではですね、新鮮な魚を生のままで食べることもあるんですよ」
「ナマでって……。それ、腹壊したりしないのか?」
「獲りたてなら大丈夫です。お醤油につけて山葵をのせて食べるのが美味しいんですよ。あ、でもさすがに山葵は手に入らないかなぁ」
「そ、そうなのか。相変わらず、扶桑はなんかアレだな。まぁ、シュールストレミングよりはマシかもな」
「え? シュール……なんですか?」
「あれだ、その、ナットウなんかよりも強烈な……。まぁ、いいや、忘れてくれ。とりあえず、そのサシミってのでもいいから、美味いやつを頼むぞ!」
「はい! 晩御飯、楽しみにしててくださいね!」


………………
…………
……

244 名前:魚釣りと未来予知 4:2013/02/23(土) 13:17:48 ID:wnJRVljI
 数日後。
「なぁ、クロエはなんでこんなところで釣りなんかしてるんだ?」
 件の海岸線の断崖に腰を下ろした影が二つ。麦藁帽子の軍服姿は今日も釣糸を垂らしている。
「ちょっとした休暇も兼ねて、欧州にいる旧友を尋ねて回っているんだ。釣りは旅の途中の息抜きといったところか」
「へー、そんなに釣りが好きなのか」
「そうだな。忙しい時分にも暇を見つけてはやっていたこともあった。習慣みたいなもんさ」
「私にとってのタロットみたいなものかな」
 さっと一枚のカードを捲り取ったエイラは、それを太陽に翳してみせた。
「エイラはどうして占いをやっているんだ?」
「んー、昔うちにあったタロットカードでよく遊んでいたからかな。あ、でもマジメに占いをやり始めたのは魔法力が発現してからだな。“未来予知”の触媒としてタロットカードを使っているんだ」
「ほう、そのカードにはそんな秘密があったのか。しかし、予知能力とは羨ましい。私にもあれば魚釣り放題、なんてな」
「べ、別に秘密とかそんなんじゃねーよ。それに未来予知って言っても、ホントに占いみたいなもんなんだ。未来が“視える”わけじゃないぞ」
「でも何もないよりはマシというものだ。要は判断材料の一つとして使うという訳だろう? それで実績を出しているんだから、たいしたことじゃないか」
「ふふん、褒めても何も出ないぞ?」
「じゃあ、さっき捲ったカードの結果でいいから、教えてくれ」
「今日は、大漁だってさ」
「本当か?」
「さぁな、どうなるかはここからのクロエ次第なんだな」
「なるほど。だったら当たりを証明してやらないとな」


………………
…………
……


 夕陽が水平線に浮かんでいる。
 オレンジの光に照らされて長く伸びた二つの陰を、寂しい風が包み込むように吹き抜けた。
「釣れなかったな……」
「あぁ、釣れなかった」
 先日の大当たりとは裏腹な静けさである。釣竿も何処か落胆の陰を落としているみたいだ。
「大漁じゃなかったのかよ」
「うぅ……ごめん……」
 拗ねたように呟いた黒江に対して、今日のエイラはやけに元気がない。
「あ、いや、冗談だ。ちょっとからかってみただけさ。それにエイラが言った通りじゃないか。占いにすぎないって。落ち込むことはないさ」
「そうなんだけどさー。なんかハズレが続くと、自信なくすなーって」
「そんなこと気にするタイプには見えないがな。らしくない、って言うんじゃないか? そういうの。私には分からないが」
 まだ出逢って間もない二人だが、黒江はエイラのことを的確に捉えているようだ。エイラも言われるまでもなく、指摘された通りだと分かっている。分かっているのにどこかいつも通りでないのは、エイラの今日の占いが自身の願望が色濃く反映されたものだったからだろう。
「見たかったんだよ。クロエがさ、カッコ良く魚を釣り上げるところ……」
 その気持ちから“予知”した未来は、叶うことはなかった。あるいは、本当は釣れないことが視えていたのかもしれない。それを隠すための方便だったのかもしれない。
「それは、期待に添えなくて悪かったな。また」
「またもう一度……! ここで、逢えるかな……?」
 夕陽が隠したエイラの赤く染まった感情は、空気の振動となって黒江の心の奥深くを揺さぶった。
「そろそろ、次の旅に移ろうかと思っていたんだがなぁ……。いや、もうしばらく、ここに留まるのもいいか」
 海の向こうを見つめ、そう呟く黒江の表情も、煌く夕陽に赤く染まっていた。

245 名前:魚釣りと未来予知 5:2013/02/23(土) 13:18:22 ID:wnJRVljI


- Interlude -

 次の日。
 昨日の快晴が嘘のような大嵐がアドリア海を荒らしている。
 雨と風の猛威に曝された窓硝子は大きな悲鳴をあげて今にも破れそうだ。
 ランプの灯りは何処か弱々しく、不吉な未来を予感させる。
 エイラの心中も同様に穏やかではなかった。嫌な想像を払拭するように、エイラはタロットカードを取り出して見つめるが、なかなかその一枚をめくることができないでいる。デッキに手を伸ばしてはすぐまた引っ込める。そんな所作を先刻から何度となく繰り返している。漠然とした不安が現前することへの恐怖。それがエイラの手を押し留めていたのだ。
 所詮は占い。当たるも八卦当たらぬも八卦。そんなことはエイラ自身が一番よく分かっていることなのに。
(いつもはなにがあっても気にしないのになぁ……)
 黒江に出逢ってから、そんなことが気になって仕方ないのだ。
「どうしたんだ、エイラ? 窓の外ばかり眺めて」
「坂本、少佐……」
「なんだ、やけに元気がないじゃないか。青い顔して。外の様子が気になるのか?」
「そんなに私は酷い表情をしているのか……?」
「あぁ、お前らしくもない。何か悩みでもあるなら相談にのってやるぞ」
 頼れる上官の心遣いはありがたいエイラであったが、少しの間、逡巡した。そして徐に口を開いた。
「少佐は、魔のクロエって知ってるか?」
「ほう、お前から黒江大尉の名前が出てくるとはな。当然知っているさ。かつて共に戦った友でもある。もしかして、お前が知り合ったっていう釣り人は」
「そうなんだ。そのクロエだ」
「そうだったのか。なんだ、こっちに来ているのなら、連絡の一つでも寄越してくれたらいいものを」
「それで、約束をしたんだ。今度また一緒に魚を釣ろうって。いやまぁ、私は見ているだけなんだけどさ」
「相変わらず釣りばかりやっているのか。ロマーニャに来てまでなぁ。あの人らしいと言えば、らしいがな」
「やっぱり、クロエは……!」
「ん? さすがの彼女でも、こんな嵐の日にまで釣りに出かけたりはせんだろうさ。それとも……」
 エイラの手の中にあるタロットカードを見つめて坂本は云った。
「占いで良くない結果でも見えたのか?」
「いや、そういうわけじゃ、ないんだけど……。変な結果が出るのが嫌でさ、カードがめくれないってだけで」
「それこそ、エイラらしくないな。お前の未来予知は何のためにあるんだ? 最良の可能性を掴むためだろう。悪い結果が出たからってなんだ。お前はそれを回避するだけの力を持っているんじゃなかったのか?」
「私の、チカラ……」
 未来を視ることだけではない。視えた未来を思うがままに描くこと!
 その手に掴んだ一枚を、確かに観つめて――。
「そう、だったな……うん。少佐! ありがとう!」
 そう云うが早いか、エイラは一散に駆け出していた。しばらくその後ろ姿を見つめていた坂本は、エイラが見えなくなるとすぐさま司令室へと足を向けた。


………………
…………
……

246 名前:魚釣りと未来予知 6:2013/02/23(土) 13:19:40 ID:wnJRVljI
 酷い荒れ模様の海上を、エイラはあの場所へと向かって全力で飛んでいる。
 この行動は、命令無しの独断専行だ。もしかしたら脱走の誹りを免れないかもしれない。もちろんエイラはそこまで深刻な覚悟を決めていたわけではない。坂本に諭されて迷いが晴れたら、身体が自然と動き出していた。そしてストライカーに飛び乗って、最悪の可能性を回避するために、エイラは自分にできることをやるだけであった。
 件の海岸線は基地から歩いていける範囲内だ。ストライカーで飛んだなら、瞬く間に辿り着くだろう。それがどんなに激しい嵐の中だとしても、ウィッチに不可能はないのだから。
 占いを通して視えるものは漠然とした未来像でしかない。結局は解釈の問題だ。それでも、悪い結果が訪れたら……。そんな不安に呼応するかのように、遠くで雷鳴が轟いた。これほどまでに、占いが外れてほしいと願うことがあっただろうか。エイラは、黒江を無理に引き留めたことを今更ながら後悔していた。
 そして、雨に煙る視界の向こう、魔法力で強化された視力は確かにその姿を捉えた。
 それは、果たして、この悪天候の中で海釣りをしている黒江綾香の姿であった。
 占いが的中してしまった。いや、これは外れたと言うべきだろうか。海は今にも黒江を飲み込みそうなほどに荒れているが、とりあえず無事であった。
(まったく、なんでこんな中で釣りなんかしてんだよ。早く止めないとな……)
 心の中で毒吐いたのは、少しの余裕ができたからだろう。エイラが想起してしまった最悪の未来は、そこにはなかった。それだけで安堵の笑みが浮かんできた。
(まぁ、なんにもなくてよかったかな)
 今やエイラは完全に安心し切っていた。だから、一際大きな波が、黒江を目掛けて猛然と押し寄せているのに、気付くのが遅れてしまった。
「おーい! クロエー! こんな日に釣りなんかしてたら…………! あ、危ない!!!」
 エイラが悲鳴を上げた時には、もう既に黒江の姿は大波に覆い隠されていた。
 時が凍り付いた。一瞬の出来事だった。結局、何もできなかった、のか。
「クロエー!!!」
 エイラは、ただただ叫ぶことしかできない。
 凝縮された時の中、身体がうまく動いてくれない。
 ゆっくりと、ゆっくりと、エイラは黒江に手を伸ばす。
 ゆっくりと、ゆっくりと、波が大地を洗い流そうとしている、次の刹那……、

 波が、いや海が、真っ二つに破れた!

 白刃一閃。それは、激烈なる疾風の斬撃であった。

 エイラは、ただただ呆然として空中を漂っていた。波に攫われたように見えた黒江はしかし、居合腰でそこに固まっていた。
(あの技って……。少佐のオリジナルじゃなかったのかよ……)
 あまりにも不意の光景を目の当たりにしたエイラは、まともな感想を抱くことすらできなかった。エイラの感情は瞬きひとつ分ほどのほんの僅かな間に、慄然が蒼然に、呆然が唖然に変わり、少しだけ憮然を挟んで、飄然に落ち着いた。そして、隊長が事あるごとに口にしている、あの言葉の意味を噛みしめたのであった。
(これだから、扶桑の魔女は……)
 しかし、その表情には、今度こそホッとした微笑と、雨粒に紛れた一雫の涙が浮かんでいた。


………………
…………
……

247 名前:魚釣りと未来予知 7:2013/02/23(土) 13:20:28 ID:wnJRVljI
「おおー! エイラじゃないか。こんな酷い嵐の日にどうしたんだ? 出撃か?」
 開口一番、黒江は何事もなかったような口調でそんなことを云った。そのあっけらかんとした様子に対して、エイラは全力で突っ込みを入れた。
「それはこっちのセリフだぞ! こんな酷い嵐の日に海釣りなんて非常識にもほどがあるんだな。そんなだから、扶桑の魔女はって思われるんだぞ。まったく……ホントに……」
 そしてストライカーを脱ぎ捨てて、黒江に走り寄ったエイラは、その身体にしがみついて吐き出すようにして云った。
「ホントに、心配したんだからな……!」
「……すまん。そんなに気にしてくれていたとは思わなかったよ。ここまで飛んできたのも占いか? ありがとう。今度こそ当たりだったみたいだな」
「当たったって嬉しくねーよ。それに、私がいなくたって……」
 もしものときは黒江を助けなければと飛び出したエイラであったが、結果的に見ればその必要はなかったのかもしれない。
「そんなことはないぞ。ここでエイラが来なかったら、私は無茶な釣りを続けていたかもしれないからな。それでもう一度大きな波がきていたら、その時はどうなっていたかは分からない」
 海は、依然として凶暴なうねりを見せていた。黒江は無事だったが、釣具は先刻の大波に飲まれて海の藻屑となったようであった。
「と、とにかく! こんな日に釣りなんかするもんじゃないぞ! それにこんな海で魚が釣れるわけがないんだな」
「そうだなぁ、釣竿もなくなってしまったしな。今日はここまでか。いや、ありがとう、エイラ。おかげで命拾いしたみたいだよ」
 そう云って黒江は、エイラを優しく抱きしめた。黒江の身体は、心なしか震えているようにエイラには感じられた。
「バカ」
 エイラは、そう小さく呟いて、黒江の胸に顔を埋めた。
 最初は黒江を姉に似ていると感じたエイラだったが、今では少し違ったかなと思い直していた。むしろいつも無茶ばかりしている親友に似ているのかもしれないと思い始めた。それもたぶん錯覚なのだろう。けれども、心地良い安心感を与えてくれる黒江に、今はもう少し寄り添っていたいエイラであった。


- after episode -

「まさか、あの嵐の中で釣りをしていたとはな……。私はあなたという人に対する認識を、改めなければならないらしい」
 坂本は受話器に向かってそう云った。もちろん通話の相手は魔のクロエこと、黒江綾香である。
「いやぁ……ま、そういうこともあるもんだ。そういう気分だったということで」
「まったく、私も心配したんだぞ。本当にもしものことがあったら、すぐ救援に向かえるように構えていたんだからな」
 あの嵐の日、エイラを見送った坂本は司令室へ駆けつけてミーナに事情を説明していた。そして黒江だけでなくエイラの身にも危険が及ぶようであれば、直ちに飛び立てるように準備をしていたのだ。
「すまない。ホントいろんな人に迷惑をかけてしまったみたいだな。今後は自重するようにするさ」
「是非ともそうしてくれ。いくらウィッチと言えども、限界はあるんだぞ」
「なんだよ、不可能はない、じゃなかったのか?」
「魔法力を失えば、ウィッチではいられない。もう無理を通せる歳ではないだろう」
「私も、お前も、な」
 しばし、二人の間に沈黙が漂った。だが、黒江も坂本も諦めの悪さは目を瞠るものがある。出来得る限り長く、いつまでも空を飛び続けることだろう。
「いつまで、こっちにいるんですか?」
 改まったような口調で、坂本は云った。
「明日にはロマーニャを発つ予定だ。結局、501には挨拶に行けなかったが、そのうち顔を出したいと思う」
「そうしてくれるとありがたい。エイラも喜ぶだろう」
「そうそう、エイラが基地を飛び出したのは、人命救助という尊い使命があったからだ。まさかとは思うが、くだらん懲罰なんか課してはいないだろうな?」
「あぁ。お咎め無しで済ませておいた。まぁ、こういうことはあまりあってほしくはないがな」
 再三、釘を刺す坂本に、黒江も苦笑混じりに謝罪を繰り返した。
「本当にすまなかった。エイラにも、よろしく伝えてくれ。本当に、感謝していると」
「相判った。それじゃ、良い旅を」
「あぁ。ありがとう。今度逢うときは、何処かの空で」



   fin...

248 名前:62igiZdY:2013/02/23(土) 13:23:40 ID:wnJRVljI
以上です。
黒江さんのモデルとなった人物のエピソードと『キミとつながる空』第7話「扶桑で醒める光」から着想を得て書きました。
なので同じようなことをやってる方が既にいそうな気もしますが……。
では、失礼しました〜。

249 名前:名無しさん:2013/03/01(金) 17:19:18 ID:8bGEYqKM
>>248
投下乙です!黒江さん命知らずすぎるwエイラもイイ!

250 名前:<削除>:<削除>
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251 名前:<削除>:<削除>
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252 名前:KKYaFxWQ:2013/03/21(木) 22:16:17 ID:4ibGibxI
先日は乙あざっしたー。
今度はリーネイラ!

253 名前:All is shut down 1/2:2013/03/21(木) 22:18:10 ID:4ibGibxI
「おはよーさん」
「おはようございます、エイラさん」
 もう二時すぎですけどね、と。リネット・ビショップは心の中で付け加える。
 基地の食堂。非番で手持ち無沙汰のリネットが、余った食材でちょっとしたことをしているところに、エイラが入ってきた。
「あれ、リーネひとりか。宮藤はいないのか?」
「芳佳ちゃんは、街に買出し中です。エイラさんこそ、サーニャちゃんは一緒じゃないんですか?」
「サーニャはまだねてる。昨日は夜も風が強くて、哨戒がきつかったみたいだからさ。寝かせといてやりたいんだ」
 言いながら、エイラがどこかふらふらとした足取りで着席し、テーブルに頬杖をつく。いかにもけだるげで、目の下に少しくまもある。きっと心配で心配でたまらなくて、サーニャの帰りを寝ずに待っていたのだろう。
 ――相変わらずだなぁ。
 そう思い、ほほえましいような気持ちになる。本当に、このひとは。
「ごめんリーネ、なんか食べるもんあるか? 昨日っからなんも食べてなくてさ」
「お菓子と、お茶くらいでしたら」
「じゃあ、それ頼むよ」
 てなぐさみに作っていたちょっとしたものが、早速役に立つようだ。オーブンの中からは、すでにクッキーのいいにおいが漂ってきている。まもなく出来上がるだろう。
 ケトルに水を入れて、火にかける。クッキーはもう少しかかるだろうし、お湯が沸くまでは、少し暇な感じだ。
 何をするわけでもなく待っていると、甘い香りの中で、かつてあったことが思い起こされた。宮藤芳佳が501に来る前のこと。はっきりとした記憶ではない、あいまいな追憶。
 あの頃の自分はただただ卑屈で、自信というものが持てなくて、悩んで、迷っていた。自分の手で故郷を守らなくてはならないというプレッシャーに、圧し潰されそうになってしまっていた。それを出来ない自分が、嫌いで堪らなかった。

“なんか悩んでるなら、相談くらいのってやるよ”

 そんなふうに、差し伸べられた手のことを思い出す。ぶっきらぼうな感じを装っているけれど、実際のところ、ひどく優しいその手のことを。
 自分はそれを、取ることができなかった。
「なんかいい匂いがする」
「ちょうどクッキーを焼いていたんです。そろそろ出来上がりますよ」
「へぇ。じゃあ、早起きしなくて正解だったな」
 エイラが、にっと微笑む。小さい子供のようなその笑顔は、普段の大人びた感じとも、悪戯っぽい感じとも、りりしい感じとも、違う。けれど紛れもなく、それもこのひとの一面だった。一枚めくるたびにまったく違う絵柄が現れるカードのように、めまぐるしく表情を変えて、そのどれもが鮮やかな、そんなひとなのだ。
 ケトルがことことと音を立て始める。
 さらに、追憶が来る。

254 名前:All is shut down 2/2:2013/03/21(木) 22:19:12 ID:4ibGibxI

“私じゃ、おまえの力には、なれないのかな”

 違う。
 貴女がそこに居てくれるだけで、良かったのです。でなければ、私はもっと早くに、折れてしまっていたでしょう。
 けれども、貴女の手は、取れないのです。
 貴女はとても優しいけれど――それだけなのです。
 私はそれだけでは、駄目だった。
 貴女の手を取ってしまったら、きっと貴女を私と同じ泥沼に引き摺り下ろしてしまうだけだったから。
 それとも、これは、私の自惚れだったでしょうか?

「リーネはいろいろ作れるし、美味いしですげーなー。羨ましいよ」
「そんなことないですよ。芳佳ちゃんの方がよっぽどです」
「まぁ宮藤は宮藤ですげーうまいけど、リーネの料理もうまいしな。どっちも好きだけど、やっぱなんだかんだで私はリーネの洋食の方が合うかなー」
「芳佳ちゃんが聞いたらおかず一品抜かれちゃいますよ、そんなこと言ってたら」
「あ、やべ。今の内緒だぞ、リーネ」
 お互いに、くすりと笑う。
 さぁ、そろそろクッキーに良い焼き色がつく頃だろう。お湯もすっかり沸騰している。そろそろ出来上がりだ。
 追憶を頭の片隅に追いやりながら、ふとした事を想像してしまう。
 たとえば、501に宮藤芳佳が来ることが無く、エイラの傍らにサーニャ・V・リトヴャクが居ないという、もしもの世界でなら……あるいは、自分は彼女の手を取れただろうか。
 いや。
 そんな栓の無い想像の中でさえ、無理なのだと。はっきりと解ってしまう。
 エイラは優しい。ひどく優しい。優しすぎて、時折、酷い。
 優しいだけでは、救いにならない事だって、あるのだ。
 エイラの優しさというのは、太陽の光に似ている。誰にでも、平等に降り注がれる温かさ。けれどその平等な温かさに満足できずに、太陽に目を向ければ、眩しさで目がつぶれてしまう。
 太陽と向き合える特別なひとは、お月様だけで、それはこの世にたった一人しかいなくて、そのお月様は、絶対に自分ではないのだ。
 自分に必要だったのは、太陽の温かさではなくて、誰かの特別な、温もりだった。
 それだけの、ことなのだ。
 それだけで、終わってしまうお話なのだ。
 だから、好きだった、とか。
 あるいは、愛していた、とか。
 そんな言葉は、このお話には出てこない。かたちになる事さえなかった想いが、幻のように追憶の中にある。けれど、それが無ければ良かったとは思わない。たとえ幻だったとしても。
 もう終わってしまったお話に、かつて確かに存在した優しさの。
 その残り香だけが。
 今でも胸の中にある。
「さぁ、出来ましたよ」
「ああ、さんきゅ、リーネ」
「どういたしまして、エイラさん」
 それだけの、お話。

255 名前:KKYaFxWQ:2013/03/21(木) 22:19:30 ID:4ibGibxI
お粗末!

256 名前:名無しさん:2013/03/25(月) 20:38:45 ID:224SfMFc
>>255
リーネイラ(・∀・)イイ!!

257 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2013/08/16(金) 00:16:31 ID:EqGvTZS2
こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

258 名前:black pressure 01/03:2013/08/16(金) 00:17:34 ID:EqGvTZS2
「暑いよ、トゥルーデ」
 絡み付いた彼女の腕をそっと退けると、エーリカはむくりと起き上がり、しょぼしょぼする目を擦った。
 もう明け方だと言うのに、珍しく昨日昼間の熱気が取れていない。
「こう言う時も体力を落とさない様にするのが、軍人たるつとめだ」
 と寝惚け眼を手の甲で一拭いした後、額にこびり付く汗に気付くトゥルーデ。
「そんな事言って。トゥルーデだってめっちゃ汗かいてるじゃん」
「それは……人間の身体は、暑い時には汗をかく様に出来ている」
「やっぱ暑いんじゃん……」
 二人はベッドを見た。一緒に寝ていたせいか、熱気も倍に籠もっている気がした。
「ねえトゥルーデ、ちょっと涼しいとこ行かない?」
「涼しい所? 何処がある? 基地の倉庫とか、件の洞窟とかはゴメンだからな」
「そういうとこじゃないくてさ……どっか無いかな」

「そうねえ……涼しい所、ねえ」
 朝も早くから書類に目を通していた……もしかしたら夜通し仕事をしていたかも知れないミーナは、二人から話を聞くと、手にしていたペンを置いて基地の中をあれこれと思いやる。
「ハンガーなんか結構涼しいんじゃないかしら?」
「整備兵が居る。邪魔する訳には」
「そうね、後は何処かしら……しかし最近は暑いわね。何時何処で何をしていても汗が止まらなくて」
 ミーナはそう言うとハンカチで頬の雫を拭った後、書類の一つをまとめてトントンと端を揃え、テーブルの隅にひとつ積み上げる。書類の山は大分積み上がっている。
「ミーナも、少しは休んだ方が良い。こんな朝から……」
「気遣ってくれるだけで十分よ、トゥルーデ」
 そう言うと、ミーナは作り笑いをした。こう言う時の彼女は、無理を承知で話をしている。トゥルーデには長年の付き合いから分かっていた事だが、職務上、彼女を止める事もそんな権限も無い。
「分かった」
「基地の中なら、ルッキーニさんとか詳しいんじゃないかしら?」
「あいつは基地の中で遊び過ぎだ」
「でもどっか知ってる気もするけど」
「……けれど、その前に今何処に居るか誰も分からないって感じもするわね」
「それもそうだね」
「参ったな」
 カールスラントのウィッチ三人は、天井を仰ぎ見た。

「涼しい所? 場所じゃなきゃ駄目なのか?」
 朝稽古の途中だと言う美緒に出くわした二人は、何処か涼しい所は無いかと尋ねた。すると、美緒の口からは、かの様な意外な言葉が返ってきたのだった。
「場所じゃない? と言うと?」
 トゥルーデの問いに、美緒は至極当然と言った顔で答えた。
「私が設営隊に作らせた風呂があるだろう」
「ああ。あの扶桑式の……やたらと豪華な」
「水風呂だ。水を一杯に溜めて、入ると良い」
「水風呂……涼しいを通り越して寒そうな」
 しれっと平気でとんでもない事を言う……流石扶桑のウィッチと感心しつつ、顔を見合わせるエースコンビ。
 そんな二人を見た美緒は笑った。
「ものは試しだ。どれ、ミーナも連れて来て、皆で涼むとするか。私もそろそろ朝稽古を終えるかと思っていた所だ」

259 名前:black pressure 02/03:2013/08/16(金) 00:17:58 ID:EqGvTZS2
 仕事途中のミーナも強引に引きずり出し……四人は豪華に作られた浴場に向かった。
「別に風呂は熱くても構わないんじゃない? シャワーを浴びる位でも」
「冷たい風呂と言うのも、夏らしくて良いんじゃないか?」
 豪快に笑う美緒。時々付いていけなくなるが、その豪毅さが頼もしい事もしばし。
「先に係の者に連絡して、水を張らせておいた。早速入るとしよう」
 脱衣所で服を脱ぐと、タオル一枚で浴槽に向かう。
「冷たっ!」
「これ位の涼しさで丁度良い」
 美緒は笑うと、ざぶんと水に浸かり、笑った。
「ミーナも入れ。疲れが吹き飛ぶぞ」
「ちょっと寒そうじゃない?」
「一晩中仕事をしていたのだろう? 徹夜したままでは頭も鈍くなろう。入るとシャキッとするぞ」
 美緒は美緒なりに、ミーナを気遣っているらしい。きちんと見ているところは、流石と言うべきか。
「仕方ないわね……」
 そろりそろりと身を浸け、身を震わせ、ふうう、と一息付くミーナ。
「さて、私達も入るか」
「だね」
 トゥルーデとエーリカは揃って湯船に身を沈めた。
 しんしんとした冷たさが身体を包む。
 これは数分入れば良いか……トゥルーデがそんな事を思っていたところ、エーリカが身を寄せてきた。
 彼女の体温が、密着した肌、相対的に周囲を覆う水の冷たさと相まって、とても温かい。むしろ、彼女の熱気に驚く。
 そうこうしているうちに、彼女の身体が絡み付いてくる事に気付くトゥルーデ。まだ陽の明かりも少ない中、ほの暗い湯船の中で、エーリカの身体そのものが“プレッシャー”としてトゥルーデの身体を縛り付ける。そのうちに、何か変な事をされそうで……少し気が動転して、思わず声がうわずる。
「こ、こらエーリカ」
「あ、これ良いかも」
 エーリカは笑った。
「え?」
「一人だと少し寒いけど、こうやって一緒にくっつくと、ちょうど良いよ」
「なる程。そう言う楽しみ方も有るか。どれ」
 美緒はさも当然とばかりに、ミーナに背を預けた。
「ちょ、ちょっと美緒……」
「今更恥ずかしがる事も無いだろう
 笑う美緒。そんな二人を見、思わず苦笑いするトゥルーデとエーリカ。
「お熱いね〜」
 エーリカの茶化しに、ミーナも顔を紅く染めて反論する。
「もう、二人だって私達の事言えた義理?」
 トゥルーデの身体に密着したエーリカ。そんな彼女を違和感なく抱き寄せるトゥルーデ。二人は顔を見合わせた。
「ま、私達相棒で、夫婦ですから」
「ま、まあ、そうだな」
 エーリカは悪戯っぽく笑い、トゥルーデは少し恥ずかしそうに肯定する。
「全く、お前達には敵わんな。流石最強の二人だ」
「いや、そう言う意味では」
「おっと、皆、唇が真っ青だぞ。そろそろ上がるとするか」
 美緒は皆の顔色を見やると、ざばあっと湯船から立ち上がった。

260 名前:black pressure 03/03:2013/08/16(金) 00:19:17 ID:EqGvTZS2
 脱衣所で、服を着る。湯船で火照った身体はすっかり冷やされ、すっきりした清涼感が心地良い。
「たまにはこう言うのも悪くないな。他の隊員達にも使わせてやらないと。なあミーナ?」
「そ、そうね」
「どうしたミーナ、眠いのか? 少し仮眠を取ったらどうだ。ちょうど涼んだ事だし、少しは眠れる」
「はじめからそう言うつもりで私を誘ったの? 全く貴女って人は……」
 トゥルーデとエーリカは、二人のやり取りを聞きながら、もそもそと服を着ていた。冷たさが指先にまだ残り、少しかじかむ。
「ねえトゥルーデ」
 呼ばれた彼女は、エーリカの方を向いた。
「ん? どうし……」
 不意に、唇を塞がれた。一瞬の出来事。すぐに離され、目の前には悪戯っぽく笑う天使の姿が有った。
「唇、まだ青かったから」
「お前だって、まだ戻ってないぞ、エーリカ」
「じゃあもう一度する?」
「いや、そう言う事では……」
 トゥルーデの戸惑う言葉を聞いて、にしし、と笑うエーリカ。

 こう言う朝も悪くないか、とトゥルーデは胸のリボンを留め、独りごちた。

 真夏の明け方、少々の涼と幸せ。

end

261 名前:名無しさん:2013/08/16(金) 00:20:29 ID:EqGvTZS2
以上です。
エーゲルと美緒ミーナな感じになりましたが、たまにはこう言うのも。

ではまた〜。

262 名前:名無しさん:2013/08/16(金) 02:56:39 ID:2mqmx8Uo
乙ですん。やはりエーゲルはいいものですねえ

263 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2013/12/02(月) 22:44:03 ID:gO1sI8UA
こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

264 名前:skyfall 01/03:2013/12/02(月) 22:45:51 ID:gO1sI8UA
「二人が墜落した!? もう収容したのか? 容体はどうなんだ?」
 無線でやり取りをかわすトゥルーデ。
 どうも体が先に動いてしまうらしく、落ち着き無く色々質問を続ける。都合立ち寄っていた軍の連絡所からの帰り、エーリカに車を急がせ基地を目指す。
 オーバースピード気味に建物に近付き、テールスライドしながらワーゲンを横付けすると、エーリカの言葉も待たずにトゥルーデは車から飛び降りた。目指すは病室。
「無事か!?」
 だん、と勢い良く扉を開けた。

 トゥルーデの叫びを聞いた一同はぽかんとした表情で彼女を見返した。
 その中で、もっしゃもっしゃと林檎を食べている呑気なシャーリーとルッキーニ。
「ウジュー 見てみて、ウサギさん! 芳佳うまい!」
「え……いや、そんなでもないよー、ルッキーニちゃんたらもう」
「おぉい! 話を逸らすな!」
「トゥルーデ、一応病室なんだから静かに……」
 横に居たミーナに促され、コホンとひとつ咳をすると、ベッドの際にそっと寄った。
「元気そうで何よりだ」
「お陰様でねー」
 呑気にくつろいで見せるシャーリー。体の所々に巻かれた包帯ギプス、首にあてがわれたコルセットが痛々しい。
「……確か、哨戒任務だったよな。何が有った」
「報告書は少佐に代筆して貰って提出済みだけど、もう一度話した方が良いか?」
「お前の調子が良いならな」

「と言う訳で、お前と私で飛んでいる、と言う訳だ」
 重武装で出撃し、目標ポイントを目指すカールスラントの最強コンビ。
「あんまし説明になってないなー。トゥルーデ、敵討ちしたいの?」
「仇討ちとかそう言うのは……まあ、全く無い訳では無いが、シャーリー程の熟練したウィッチがああも簡単に返り討ちに遭うんだ。残るは、私達しか居ないだろう?」
「まあね。でも、私達も同じ目に遭っちゃったら?」
「なる筈がない」
「慢心は禁物だよ」
「大丈夫、シャーリーから色々聞いている」
「あれは尋問に近かったけどね。シャーリー、後で文句言ってたよ」
 エーリカが苦笑いする。トゥルーデは腕時計型の計器類に目をやりながら、現場へと急いだ。

 周囲を薄い霧に巻かれる。やがて霧は深い闇となり、辺りは視界が無くなった。基地との無線も途絶。
「これがシャーリーの言ってた……」
「間違い無い。オカルトでも何でもない、ネウロイの仕業だ」
「見てトゥルーデ。計器類が」
 計器類を見やる。高度、方位……位置を示す計器類全てがでたらめな値を示しており、信用出来るものではない。
 そして、全周囲からの飽和攻撃とも言えるビーム。

265 名前:skyfall 02/03:2013/12/02(月) 22:46:55 ID:gO1sI8UA
「そう。あれは突然の出来事だったよ」
 芳佳が剥いた林檎をしゃくっと一かけ食べると、「あの時」を思い出したのか、忌々しそうに呟くシャーリー。
「いきなり黒い霧に巻かれたかと思ったら周囲がさーっと暗くなって、計器類も全部ダメになった」
「方向感覚も狂ったと?」
「それが、全方位からビームが飛んでくるんだ。慌てて回避してたら、いつの間にか空間認識能力が……」
「そうか」
「あたしとした事が」
「敵が強力なら、仕方ない事だ。今はゆっくり休め」
「なんだよカッコつけて。あたしの敵討ちにでも行くみたいじゃないか」
「考え過ぎなんだお前は……ルッキーニの事を頼んだぞ」
 トゥルーデは上着の裾を直すと、病室を出た。


「理論上は、敵の範囲内に入ってしまうとどうしようもない、と言う訳か。一体どうすれば」
 バルコニーで、美緒が代筆したシャーリーの報告書をぺらりとめくる。自然と片手で頭を抱える格好になる。
「大尉。どうかなさいまして?」
「ペリーヌか。お前こそどうした」
 ガリアのウィッチは、少し心配そうな顔でトゥルーデを見た。
「大尉が深刻そうなお顔をしてましたので、様子を伺いに」
「それは悪い事をした……いや、今回の敵の事だ」
「シャーリーさん達から聞きましたわ。その様子、まるで『空が落ちてくるみたい』……なんて雑な表現ですこと」
「……」
「でも、攻撃を受けている当人達からすれば、それが理に叶った表現、だとしたら?」
「?」
 訝るトゥルーデに、ペリーヌはふふっと悪戯っぽく笑うと、空を見て言った。
「大尉。昔のラテンの法律はご存じ?」
「いや全く。お前みたいに博識ではないからな」
「ラテン語では‘Fiat justitia ruat caelum’ つまり訳すると『天が落ちても正義を成就せよ』と言う事になりますわ」
「それが今回のネウロイと何の関係が?」
「大尉なら、何かのお役に立てるかと思って……ご武運を」
「有り難う」
 いつの間にか、ジョークを言える程成長していたペリーヌ。はじめの頃の、少し突いたら弾け飛びそうな危なっかしさが消え、余裕の有るベテランウィッチになっている。トゥルーデは彼女の後ろ姿を見、ふっと笑った。そして呟く。
「そうだな……その言葉、覚えておこう。『天が落ちても正義を成就せよ』、か」

266 名前:skyfall 03/03:2013/12/02(月) 22:47:26 ID:gO1sI8UA
 ペリーヌの言葉を思い出す。そして口にする。
「天が落ちても……」
「えっ? トゥルーデ何?」
 トゥルーデはエーリカの身体をぎゅっと抱きしめた。
「ねえトゥルーデ。どうすれば。これじゃ私達……」
 いつになく弱気なエーリカを見、優しく笑うトゥルーデ。
「エーリカ」
「えっ?」
 戦闘中なのに、名前で呼んで来るなんて。
「この状況で、お前は何を望む?」
「いきなり何? 意味分からないよ」
 トゥルーデは、エーリカの耳元で囁いた。
「ちなみに私は……“復活”」
 そう言うと、抱きしめる力を少し強めた。そしてエーリカに“作戦”を伝える。
「覚悟は良いか? これより、このまま自由落下する」
「ええ? シャーリー達みたいになるよ」
「一か八か……流石のネウロイも水と直接の接触は出来ない筈だ」
 シールドで四方八方から来るビームを防ぎつつ、トゥルーデはエーリカを抱いたまま、身体を重力に預けた。
 時々、ビームを弾くシールドの輝きが周囲に見える。闇は続く。
「トゥルーデ……」
「大丈夫」
 確かに“空が落ちてくる”、と言う表現は相対的には正しいのかも知れなかった。その原因がネウロイであったとしても。

 トゥルーデの狙い。それは海面ぎりぎりで、水平線を見つける事。
 ネウロイの本体(コア)は、きっと海面ぎりぎりに居る。でなければ、座標を見失ったウィッチを海面に墜落させる事など出来ない筈……だから。

 霧が晴れる。人間の身体は部位別では頭が重いから、高高度からの落下では、理論上は頭を下にして落下する筈。それはつまり……
 見えた。
 水平線の暁。
 それは二人にとって勝利の目印。
「ハルトマン、こっちだ!」
 トゥルーデはエーリカを連れて、思いっきり身体を捻った。急上昇にも似た、強引な機動。
 突然、高度計が現在の正確な位置を指し示す。
 海面が、ほぼ間近に迫っていた。波間の飛沫が、もう少しで掛かりそうだった。
「トゥルーデ、危なかったよ」
「大丈夫と言っただろう?」
 エーリカを抱きしめ、頬をくっつけたまま、指で差し示した。
「見えるか、あそこの黒い塊。あれがコアに違いない。現在高度は?」
「十フィート」
「それだけあれば十分だ。行くぞ!」
 トゥルーデとエーリカはコアを目指し、海面とネウロイの霧の間の僅かな隙間を全速で飛ぶ。本体が見えた。まるで黒い雲だ。突然の容赦無い銃撃に怯んだネウロイは、高度を上げた。それがかえって仇となった。

 間も無く、カールスラントのエース二人により、ネウロイの撃墜が確認された。

 途絶えていた、基地からの無線が入る。良い感度だ。
『よくやったな。流石はカールスラントのエースだ』
 美緒の声。安堵と信頼が混じる、いつもの彼女だ。
「当然の事をしたまでだ。そうだ、リベリアンとルッキーニの容体は?」
『もうギプスやコルセットを外して、遊んでるわ。健康体そのものね、あの娘達は』
 ミーナの声。嬉しそうで、少し呆れていそうで。そんな声も懐かしい。

「ねえトゥルーデ」
「ん? どうした?」
「自由落下の時、どうして、私の頭をずっと抱いてたの?」
「それは……」
「かばってくれた? 海に落ちても大丈夫な様に」
「無理矢理巻き込んだからな。せめてお前だけでも」
「そう言うところ、トゥルーデ、無理し過ぎなんだってば」
「すまん」
「でも、だからこそトゥルーデなんだろうね。そうじゃない?」
 答えを返す前に、エーリカに唇を軽く塞がれる。
「これは、ひとまずのお礼。あとは帰ったら……楽しみにしておいてね」
「全く、エーリカ、お前って奴は」
 苦笑するトゥルーデ。

 二人は揃って鈍色の空を見上げた。

end

267 名前:名無しさん:2013/12/02(月) 22:48:49 ID:gO1sI8UA
以上です。
色々混じってるけどキニシナイ!
タイトルから、「ああ……」と思って頂ければ幸いです。

ではまた〜。

268 名前:名無しさん:2013/12/04(水) 21:31:20 ID:iBGduXb6
乙です。

269 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2014/01/01(水) 16:44:59 ID:/z5z1/9U
あけましておめでとうございます。mxTTnzhmでございます。
新年早速ダッシュで書いた短めの一本。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

270 名前:calendar:2014/01/01(水) 16:46:14 ID:/z5z1/9U
「まったく、年も暮れてもう新年だと言うのに、出撃とは」
「まあまあトゥルーデ。無事片付いたから良かったじゃん」
 海上を高高度で飛行するトゥルーデとエーリカ。ネウロイ出現の報を聞き、即出撃即撃墜を果たして帰還の途中である。
 新年祝いでうかれていた501のメンバーに緊張が走るもそこは最先任尉官たるトゥルーデ、敵の規模を聞くやエーリカただ一人連れ、すぐさま空へと駆け昇る。皆が出る幕ではない、のんびりしていろと格好付けたが、正直な所、皆が楽しみにしていたせっかくの新年祝いを“敵”に台無しにして欲しくなかった。
 それに。
 トゥルーデは独りごちた。
(自分には、そう言う祝いの場は……)
「相応しくない、とか思ってるんでしょ」
 突然耳元で囁かれ、ぎくりと身を翻すトゥルーデ。エーリカはにししと笑って言葉を続けた。
「トゥルーデも勿体ない性格してるよね。新年祝い、年に一度しか無いんだよ? ならいっそ楽しく祝わないと」
「どこぞのお気楽リベリアンみたいな事を言うな。それに、私は軍人だ。遊びに来てるんじゃない」
「どうしたのトゥルーデ? なんかちょっと昔に戻ったみたい」
 ずい、とエーリカに顔を近付けられて思わず仰け反る。
「お前こそ何だハルトマン。新年祝いを私にフイにされて不満か?」
「まあ、それも少しは有るけどさ。それよりも、ね」
 指差されて戸惑うカールスラントの堅物エース。
「な、何が言いたい」
「じゃあ、こうすれば分かる?」
 手を取られ、指を絡められる。そこで、はたと気付く。
(……そうだった。私達は)
「ね? 分かったって顔してる」
 エーリカが悪戯っぽく笑う。
 今は戦闘の最中、失いたくないので二人を結ぶ指輪はポケットの中に仕舞ってある。だけど、外してもその痕は消える事無く残り、再びそれが戻る事を待ちわびている。つまり……。
「私達だけでも、少しは分かち合おうよ」
「……」
 無言のトゥルーデに、エーリカは遥か遠い地上、海の端に見える街の光を見つけ、トゥルーデにほらあれ、と意識を向けさせる。
 何処の街か、地名は分からなかったが、ちらちらと瞬く街路の灯りからは、間違い無く新しい年の始まりを祝っている事が見て取れる。
「例えば、あの街もそう。私達が居るから、平和で居られるんだよ」
「お仕着せがましい言い方だな、ハルトマン」
 苦笑するトゥルーデ。
「確かにちょっと言い過ぎたかな。でも、事実でしょ? 現にさっき私達倒してきたし」
「まあ、な」
 もう一度エーリカはトゥルーデと指を絡ませた。そのままそっと空の上で抱き合う。
 街の灯りがより明るくなった。ちらりと腕時計を見る。十二時を過ぎていた。つまりは、新しい年が今まさに始まったと言う事実。
「今年も宜しくね、トゥルーデ」
 くっつきそうな程の距離で、とびっきりの笑顔で言われ、流石の堅物大尉も、完敗だとばかりにふっと笑みを零す。
「そうだな。宜しく、エーリカ」
 そのまま二人の唇が軽く重なる。
「続きは、帰ってからね」
「帰ったら、皆まだ起きて祝いだの何だのやってるだろう? 大丈夫なのか?」
「それが終わってからだよ。色々楽しんじゃおうよ。付き合って貰うからね、トゥルーデ」
「分かったよ、エーリカ」
「やった。愛してるトゥルーデ」
「私もだ」
 もう一度キスを交わす二人。二人の帰るべき“わが家”が遠くに見える。トゥルーデは流れゆく風に髪を揺らしながら、思う。
 皆はどんなどんちゃん騒ぎをしているのか……容易に想像出来るが、とりあえずは無事に帰れる事を感謝しないと。
 それは、横に居る彼女に対しても。ちらりと愛しの人を見る。視線が合った金髪の少女は、にかっと笑顔を見せた。
「トゥルーデ、やっといつものトゥルーデに戻った」
「何だそれ」
「さあね」
 くすくす笑うエーリカ、やれやれと苦笑するトゥルーデ。
 二人の「飛翔」は、まだまだ続く。

end

271 名前:名無しさん:2014/01/01(水) 16:46:35 ID:/z5z1/9U
以上です。
2014年もスト魔女に幸あれ!

ではまた〜。

272 名前:名無しさん:2014/01/16(木) 16:54:25 ID:.OSZ1N5I
乙!

273 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2014/06/05(木) 23:06:23 ID:fv6NGg4k
こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
ではどうぞ。

274 名前:looking at you 01/03:2014/06/05(木) 23:07:01 ID:6Fewj5Wg
「ねえトゥルーデ」
 午前中の訓練を終え、食堂にて皆で一緒に軽い昼食を済ませた時、横に座っていたエーリカが不意に呟いた。
「ん? なんだハルトマン」
 空になった皿を見、トゥルーデの顔をじっと見、金髪の美しい少女は言った。
「トゥルーデの手料理、最近食べて無いよね」
「なっ!? いきなり何を言うかと思えば」
 たじろぐ“お姉ちゃん”。
「あれ? 有ったっけ?」
 確かめるエーリカ。
「食事当番で振る舞っているだろう」
「蒸かし芋ばっかりじゃーん。やだやだ、もう飽きたよー」
 首をぶんぶんと振るエーリカ。
「じゃ、じゃあシチューを付けて」
「それもお決まりのだよー。どうせ蒸かし芋を砕いて一緒に食べるんでしょ? 最前線の食事でもよくそれ食べてたじゃん」
 戦友の指摘に頷くトゥルーデ。
「まあ、手頃に食べられるからな」
「そうじゃなくてさー」
 つまならなそうにだだをこねるエーリカ。
「じゃあどうしろって言うんだ」
「凝ったものじゃなくていいから、何か作ってよ〜」
「言ってる事がメチャクチャだぞ……うーむ」
 トゥルーデは……助けを求めた訳ではないが……思わず辺りを見回した。ニヤニヤしながら二人を見る者、しらけている者、頬を赤らめてひそひそ話をする者……つまり今のトゥルーデにとって何らかのプラスになりそうな“人材”は無かった。
 トゥルーデは無言で立ち上がると、使い終わった食器を持って立ち上がり、台所に向かった。
「あーもう。トゥルーデの意地悪ー」
 エーリカはテーブルにだらーっと上半身を投げ出すと、つまならそうにぼやいた。
「そりゃお前、堅物にああ言う言い方するから」
 ルッキーニをあやしていたシャーリーが横でニヤニヤ笑いながらエーリカをつつく。
「だってー。たまにはいいじゃん、そう言うのもさ」
「まあな。でもねだるのも良いけど、時間と場所を弁えた方が良いかもな」
 シャーリーは意味ありげに辺りを見て言った。確かに、皆カールスラントのエース二人の事で何か話をしている様だった。
 つまならそうに、エーリカはシャーリーの肩をぽんと叩いて彼女への返答とすると、食卓を離れた。

275 名前:looking at you 02/03:2014/06/05(木) 23:07:34 ID:fv6NGg4k
 午後の訓練が終わる事、エーリカは厨房から良い香りがするので、ふらっと引き寄せられる様にやって来た。訓練の指導にトゥルーデは姿を見せなかった。お昼の事、まだ怒っているのかな、と気になりもする。
 果たしてそこには……、大鍋を前に、あれやこれや食材と格闘しているトゥルーデが居た。食事当番の“定番”たる芳佳もリーネも居ない。ただ一人で、黙々と料理を作っていた。
 エーリカの視線に気付いたのか、はっと振り返るトゥルーデ。おたまを手に咄嗟に出た声が上ずる。
「な、何だ? どうした」
「それはこっちの台詞だよ、トゥルーデ。一人で何やってるの? 今日の夕食当番ってミヤフジとリーネじゃ……」
「ちっ違う、違うんだこれは、その」
 トゥルーデの表情を見たエーリカは、ぱっと顔を明るくして言った。
「もしかして、お昼の事覚えててくれたの?」
「そ、そう言う訳では無いが……宮藤とリーネは訓練で忙しいから、私が代わったまでだ。本当だぞ」
「本当に?」
「ああ……その証拠に」
 トゥルーデは、煮込んでいる鍋の蓋を取って、中身を見せた。ことことと煮込まれる様子を見、ぼそっと呟くエーリカ。
「またシチュー?」
「あり合わせの材料で如何に栄養バランスを考えるか。それが私の……」
「じゃあこれは?」
 横に有った皿を見、指差す。一人分だけ、こっそり取って置いたかの様に、茹でたてのソーセージが数本並んでいる。
「それは……、目ざといな。見つかったなら仕方ない。ほら」
「私に? これどうしたの?」
「たまにはカールスラントのブルストも食べたくなるだろうと思って、前に取り寄せたものだ。……特別だからな?」
「シチューには入ってないの?」
「そっちの大鍋は皆で食べるからな。他にも、あり合わせの肉を入れてる」
「なるほどね」
 トゥルーデはフォークと、茹でたてのソーセージをエーリカに渡す。
 エーリカは早速カールスラントの名物を口にした。香ばしく燻された腸詰めは皮はぱりっと、中身はジューシーで、懐かしの故郷を思い出す。
「美味しい。これに付け合わせでザワークラウトがあればね」
「そこまで贅沢は出来ないな。あとはシチューで我慢だ。これでも真剣に作ったんだからな」
「誰の為に?」
「そこまで言わせる気か」
 ちょっと意地悪な事を聞いたエーリカは、愛しの人の反応を見て、くすっと笑った。
「ま、いいや。トゥルーデ、ありがとね」
「私は今、お前にこれ位しかしてやれない」
「十分だってば……じゃあ私からお礼に」
 エーリカはトゥルーデにそっと唇を重ねた。トゥルーデの唇からは(味見していた)シチューの味が、エーリカの唇からはブルストの味がした。

276 名前:looking at you 03/03:2014/06/05(木) 23:08:00 ID:fv6NGg4k
「へえ。今夜はバルクホルンのシチューか」
 シャーリーは昼間の事を思い出し、トゥルーデの脇をつんつん肘でつつきながら言った。
「悪いか?」
「いや、悪くないよ。なかなか美味いね」
「そうか」
 もう少し何か言いたげなシャーリーだったが、ルッキーニに袖を引っ張られ、ほいよーと声を掛けつつ背を向ける。
「ふむ。よく材料と栄養を考えて、質素だが……質実剛健な味だな」
 ミーナと食事の席を共にしていた美緒が一口食べ、満足そうに呟いた。
「貴方が言うと何か重そうに思えるわ」
 美緒の言葉を聞き、くすっと笑うミーナ。そして気付く。
「あら、トゥルーデ。このシチュー美味しいけど、何か隠し味でも?」
 言われた当の本人は、まんざらでもなさそうな顔で返事をする。
「よく分かったなミーナ。でもすまない、今日のは秘密だ」
 ふふ、と笑って返すミーナ。
 食卓では、蒸かし芋やパンを付け合わせに、和気藹々と皆が食事をしている。
 例えメニューは少なくても、美味しければ。皆が楽しく食事出来れば……そう考える様になったのは何故か。誰の影響なのか。
 横に居る相棒であり仲間であり“夫婦”の顔を見る。
 美味しそうにシチューを頬張る姿を見て、何となく分かった気がした。
 ふと、目が合った。
「トゥルーデどうしたの?」
「いや。何か変な顔でもしてたか?」
「ううん。別に」
「そうか」
「やっぱり、トゥルーデの作ったシチューは美味しいね」
 一口食べて、言葉を続けるエーリカ。
「そう。これだよ。これだよ、トゥルーデ」
 頷いて笑うエーリカ。トゥルーデも思わずふっと笑みがこぼれる。
 夕食の時間は、そうして和やかに過ぎて行く。

end

277 名前:名無しさん:2014/06/05(木) 23:09:06 ID:fv6NGg4k
以上です。
OVAも有るし、戦いはこれからですね!

ではまた〜。

278 名前:名無しさん:2014/06/12(木) 12:08:20 ID:sMqQJfco
乙です。
OVA第一弾の舞台はサントロンらしいのでエーゲル期待ですね。

279 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2014/08/15(金) 20:30:17 ID:ReaXWKVQ
こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

280 名前:shocking party 01/03:2014/08/15(金) 20:30:59 ID:ReaXWKVQ
 その“戦闘用衣装”を渡されたトゥルーデは固まった。服を持つ手がわなわなと震える。困惑は怒りへと変わり、無表情なままの中尉に矛先が向けられた。
「これは一体どう言う事だ!? 説明して貰おうか?」
 怒鳴り声に憶する事なく、エーリカと瓜二つの双子の妹、ウスルラ・ハルトマン中尉は黒板にチョークで数式と簡単な図を書きながら答えた。
「試着して頂く理由は二つあります。まず、その衣装が戦闘時の機動に与える影響を調べます」
「空気抵抗軽減と言う意味では、これではかえって悪くないか? なあ、ハイデマリー少佐」
 同じ服を渡されたハイデマリーは、何故かうっとりと見惚れている。
「……ハイデマリー少佐?」
 名前を呼ばれ、はっと我に返るハイデマリー。こほんとひとつ咳をして、トゥルーデに向き直る。
「いえ、ハルトマン中尉の提案ですから。私も今夜、ナイトウィッチとして試験飛行したいと思います」
 答えを聞いたトゥルーデは、ええー、と思わず幻滅が声に出る。もう一度服を見る。可愛いフリルで飾られ、フリッフリの……まるで酒場か劇場のダンサーが着る様な服。しかもご丁寧に、ベルトにまでしっかりとフリルが付いている。
「このベルト……ストライカーユニットを装着する時邪魔になりそうだが」
「ならない様にぎりぎりの部分で採寸してますから問題有りません」
 トゥルーデの詰問口調の疑問は次々とウルスラに向けられる。それにすらすらと答えるウルスラは技術者の顔をしていた。
「ハイデマリー少佐の服は、確かに黒系統の色が使われているから夜間戦闘ではそこそこ良いだろう。腹部の白い部分が気にはなるが。しかし私のは何故赤なんだ? 迷彩にも何もなってないぞ。この色の意味は? 敵を引き付けるとかそう言う事を意図しているのか?」
「大尉の服が赤いのは、ファンサービスです」
 ぼそりと呟くウルスラ。
「は? ファン……サービス? 一体誰に?」
 固まるトゥルーデ。
「わったしだよー」
 ウルスラの肩をもみもみしながら現れたのは、トゥルーデの相棒、エーリカ。
「何故だ!?」
 トゥルーデは頭を抱えてしゃがみ込んだ。全く意味が分からない、と言った表情。
「まあ、半分は本当って事で良いじゃない」
「良くない! 何でお前を喜ばせる為に……」
「近々ミヤフジが留学で近くに来るらしいから、その服で出迎えたら驚いて喜ぶんじゃないかって、ウーシュと話してたんだよ。ね?」
 ウルスラの顔を見てにやけるエーリカ。
 トゥルーデはすっと立ち上がると、真顔で我先にと更衣室に向かった。

「どうだハルトマン? 似合ってるか?」
 両手を腰に当て、誇らしげに服装を見せるトゥルーデ。
 本当に着るとは思わなかった、とは口が裂けても言えないエーリカ。
「流石は姉さま。バルクホルン大尉の事をよく分かってらっしゃる」
 感心するウルスラ。
「まあねー、何だかんだで付き合い長いし」
 少々呆れが入った顔でトゥルーデを見るエーリカ。ウルスラは早速メジャーを持ち出すと、再度、服の採寸を行った。
「腕を伸ばして下さい、そう、そんな感じで……事前の測定通りですね。問題有りません」
「流石はハルトマン中尉だな。で、テストは? すぐか?」
「まずはストライカーユニットを装着出来るか、試験的に装着して頂きます」
「装着だけならおやすい御用だ。さあ行くぞ!」
「……ノリノリだよこのお姉ちゃんは」
 完全に呆れるエーリカ。
「何か言ったか?」
「別にー。何でもなーい」

281 名前:shocking party 02/03:2014/08/15(金) 20:31:28 ID:ReaXWKVQ
『……ああ、飛行も問題無い。これから何通りかの戦闘機動を行ってみるが、よく観察していてくれ』
「了解です、大尉。お気を付けて」
 ストライカーユニットの調子が良い、とそのまま格納庫から滑走路に出て、飛行するトゥルーデ。ウルスラは地上から観測機材を持ち出し、その様子を記録する。時折メモを取りながら、双眼鏡を片手に上空のトゥルーデを追う。
 フリルの服は、ベルトもストライカーユニットに干渉しないぎりぎりの部分で作られ、装着や動作には問題無かった。
 一度空に昇れば見事な軌跡を描き、教科書通りの完璧な機動をこなすトゥルーデ。フリルの服が風に靡き、まるでワルツを踊る娘のよう。
『悪くないな』
「良かったです」
 短くも率直な感想を聞き、まんざらでもない様子のウルスラ。
「やっぱり私の理論は間違ってなかった。あとは……」
「良くない」
 むすっとした声、そしてBf109の特徴的なエンジン音が迫る。ストライカーユニットを装着し、タキシングで近付いて来たエーリカだった。
「え? 姉さま?」
 意味が分からない、と首を傾げるウルスラ。その仕草が癇に障ったエーリカは、先程の言葉を繰り返した。そしてウルスラの脇を強引に抜けると、そのまま空へと昇った。

「トゥルーデ!」
 それまでるんるん気分で飛んでいたお姉ちゃんは、苛立ちが籠もった呼び方をされ、びっくりして振り返る。
「んんっ!? ハルトマン、どうした?」
 エーリカはトゥルーデの周囲をぐるりとロールして服のひらひら加減を確かめると、不意に呟いた。
「私と模擬戦しよう」
「何をいきなり」
「まだ魔法力充分残ってるよね? 今夜の食事当番を賭けて、勝負!」
「おいおい、どうしたって言うんだ? 待てハルトマン。今は……」
 制止するトゥルーデをよそに、エーリカはドッグファイトの構え。模擬戦の武器は無い。しかし、背後を数秒取ったら勝ちと言うシンプルなルールで挑んで来るのは明白。
(何だか分からんが、とりあえず実力で黙らせるしかないか)
 トゥルーデは頭を二度軽く振ると、鋭くターンしてエーリカを追った。

「これは……素晴らしいデータが取れそうです」
 思わぬ展開に気分が高揚し、記録するメモが増えて行くウルスラ。機材を見てデータをチェック、双眼鏡で二人のマニューバを観察、大忙しだ。
「困ったものね、二人共」
 そこに現れたのはミーナだった。
「あ、ヴィルケ中佐」
「ハルトマン中尉。あの二人を止められない?」
「何故ですか? 飛行テストに模擬戦、これは絶好の機会……」
「既にそう言う事でなくなっているから」
「えっ?」

282 名前:shocking party 03/03:2014/08/15(金) 20:31:56 ID:ReaXWKVQ
「どうしたミーナ……何、模擬戦中止? 理由は? ……分かった。了解だ」
 無線越しに聞こえるミーナの指示に従い、速度を落とす。すぐさまエーリカが真後ろに貼り付くので、ついつい反射的に身を逸らしてしまう。
「待てハルトマン! ミーナからの連絡だ。模擬戦は中止だ。基地に帰投するぞ」
「やだ」
「駄駄をこねるな。ミーナも困るし」
「やだ。私、やだ!」
「ちょ、ちょっとハルトマ……」
 構わず向かってくるエーリカ。焦るトゥルーデ。速度が落ちている。このままでは……

 危うく交錯すると言う場面で……

 トゥルーデはエーリカをがっしと捕まえた。
「待て。らしくないぞハルトマン。勝負はお預けだ」
「だって……嫌なものは嫌だから」
 トゥルーデにしっかり抱きしめられる格好で、しゅんとするエーリカ。トゥルーデは落ち着いた優しい声で、エーリカに問い掛けた。
「どうして嫌なのか、言ってくれないか?」
「トゥルーデのバカ!」
「な、何故怒る?」
「だって……」
 トゥルーデの服の裾をつまらなそうに弄るエーリカ。
 それを見て、はたと気付くトゥルーデ。
 改めてエーリカに向き直ると、微笑んで、話し掛ける。
「悪かった……。はしゃぎ過ぎた。お前が居るのに。私とした事が」
 疑いの眼差しを向けるエーリカ。
「本当にそう思ってる?」
「ああ、本当だ」
 優しく笑い、ぎゅっと抱きしめる。
「本当に本当?」
「本当に本当だ」
 トゥルーデはその印にと、そっとエーリカの頬にキスをする。
「さあ、帰ろう、エーリカ。ミーナが、そして皆が待ってる。お前の大切な妹も」
「……うん」
「今夜は私が食事を作ろう。お前の好きなもの、作るからな」
「本当?」
「ああ」
 二人は手を取り合い、ゆっくりと滑走路を目指し降下した。

 日も暮れ、夕食の時間となり、食卓を囲むウィッチ達。
「……それで、どうしてバルクホルン大尉が今夜の食事当番なんです?」
 いまいち状況が飲み込めないハイデマリーは、出されたシチューに蒸かし芋、よく茹でられたヴルスト、添えられたザワークラウトの数々を見て、首を傾げた。
「あー、その話は後で。とりあえず食べてくれ」
 いつもの服に着替え直し、食事当番のエプロン姿のトゥルーデに促される。
「はあ……」
 つい生返事になってしまうハイデマリー。
 その横ではエーリカが満足げにヴルストを頬張っている。ミーナにどう言う事かと視線を送るも、妙な苦笑いで返される。
 エーリカの横では、何だか少し残念そうなウルスラが黙々と食事をしている。
「元気無いわね?」
 ミーナに聞かれると、ウルスラは計測途中で“強制終了”した模擬戦の事を少しだけ話して、はあ、と溜め息を付いた。
「それはまたの機会にすれば良いわ。ねえ、二人共?」
 ミーナに問われたトゥルーデとエーリカは、揃って頷いた。
 ああ、そう言う事なんだ、とトゥルーデとエーリカを交互に二度見した後、ハイデマリーはシチューに手を付けた。
 “温かい”食事。
 それも二人の関係を知る答え。

end

283 名前:名無しさん:2014/08/15(金) 20:33:02 ID:ReaXWKVQ
以上です。
公式サイトのPV第2弾を見て思い付いたネタです。
OVA2作目も発表されて盛り上がってきましたね!

ではまた〜。

284 名前:名無しさん:2014/08/28(木) 23:31:41 ID:UlBl01Ig
乙です。
お姉ちゃんすっかりああいう服を着させられるキャラに・・・

285 名前:mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c:2015/03/12(木) 03:37:45 ID:NKiZysoc
こんばんは&お久しぶりです。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

286 名前:alive 01/02:2015/03/12(木) 03:38:23 ID:NKiZysoc
 トゥルーデはベッドの上に居た。包帯姿が痛々しい。

 ちょっとの無理のつもりだった。それが油断を招いたのか、戦の最中MG42が暴発し、胸と腕を痛めてしまった。不時着した際にストライカーユニットが破損し、足も捻挫する始末。熟練ウィッチのする事ではない、と自省する。
 幸い重傷ではなく命に別状はなかったもののミーナから絶対安静を言い渡される。まるで拘束されているかの様な扱い。
「貴女は普段から頑張り過ぎなんだから、少しはゆっくり休まないと……って事じゃない?」
 ミーナは苦笑混じり、冗談半分で戦友を気遣ったが、トゥルーデはそうかもな、と呟いたきり、ふい、と窓の外を眺めた。

 その日もトゥルーデは病室の窓から、空を眺めていた。
 飛行訓練をしているウィッチ達の姿が目に入る。
 その中にはエーリカも、ハイデマリーも。たまにデスクワークを中断してミーナも空に上がる。綺麗なラインを引いて、空を舞う彼女達。
「実に見事だ」
 ぽつりと呟くトゥルーデ。
 今まで若い、ヒヨッコのウィッチ達を沢山見てきたせいか、彼女達が人一倍の努力をして一人前の「魔女」として羽ばたき、活躍する姿を見るのはとても心強い。今一緒に居る仲間達も、背中を預けられる程の全幅の信頼を置いている。
 だけど。
 トゥルーデは同時に、出来れば見たくない、多くのものを見てきた。いや、見過ぎたと言った方が良いかも知れない。
 負傷して野戦病院に担ぎ込まれる未熟な魔女。“上がり”を迎えて“無力”になった先輩達。いずれもウィッチとして傷付き力尽き、二度と空へ上がれなくなった、不幸な娘達。
 焼き払われる故郷。炎と障気に呑み込まれる人々、街や自然。
 守りきれなかった、最愛の妹。
 その時自分は何が出来た? 何をすべきだった? ……いや、何も出来なかった。幾ら撃墜数を稼いだところで、幾ら独りで奮闘したところで、事態が好転するとは限らない。
 今だってそうだ。結局気持ちだけが空回りして、病室のベッドを無駄に温め続けている。ヒナが孵る訳でもないのに、
 もっと窓辺に近付きたい。ベッドから出て、もう一度空を……体を起こす。胸に、腕に、激痛が走る。顔をしかめる。
 くそっ。私は結局あの時から……、いや、今も何も変わってない。何一つ。
 トゥルーデは口にはしないが内心叫ぶかの勢いで毒付いた。
「その顔は、またイケナイ事考えてるんでしょ」
 耳元で聞こえた声に、はっとして振り返る。エーリカだった。
「な、何だハルトマン? 訓練はどうした?」
「午前の訓練はとっくに終わったよ。ちょっと様子見に来た」
「冷やかしか」
「トゥルーデってば。その顔見ればすぐ分かるよ。また暗い事考えてたでしょ?」
 図星。
 言葉を失い、そんな事は無い、と強がるも、エーリカは微笑むと、トゥルーデの手を握る。
「トゥルーデって、分かり易いんだから。何年一緒に居ると思ってるのさ」
 その一言で、毒気を抜かれた様に、へなへなと力が抜けるトゥルーデ。ベッドに沈み込む程に身を任せ、そうさ、と言葉を続けた。
「寝たきりになるとな。他にする事が無くなって……色々とな。考えてしまうんだ」
「考え過ぎ。それならすぐに治して、早く空に……」
「出来ればとっくにそうしている!」
 思わず怒鳴る。そして、一瞬悲しそうな顔をしたエーリカを見て、慌てて言葉を選ぶ。
「す、すまない。そう言う、つもりじゃないんだ。お前が気遣ってくれるのは有り難いんだが……私も、その、ええと」
「焦っちゃダメだよ」
 エーリカは笑顔を作るとトゥルーデのおでこに軽くキスをして、そのまま部屋を後にした。
 トゥルーデは何故か、焦がれる思いに駆られた。
 行かないで。もう少し一緒に居て欲しい……せめてあと数分でも良いから。
 しかし、無情に閉じられた病室の扉を見て、暗澹たる気分になった。
 彼女に当たり散らすのは、正直褒められた行為ではなかったし本意でなかった。しかし、エーリカの言う通り焦っている証拠でもあった。
 なら、せめて。
 悲鳴を上げる体に鞭打ち、強引に身を起こす。行ってしまったなら、せめて窓辺から、姿を見たい。
 しかし、彼女の体はまだ歩ける状態にはなかった。起き上がったは良いが、その次が全く踏み出せない。姿勢を崩しベッドから転げ落ちる格好になり、床に頭と顔をぶつける。余計な傷を作ってしまった。
 苦痛に顔を歪め、床を這いずりながら、それでもトゥルーデは力を振り絞り、窓辺を目指す。
 せめて、少しでも見たい。空の青さを。外の光を。彼女の姿を。

287 名前:alive 02/02:2015/03/12(木) 03:38:50 ID:NKiZysoc
 部屋の扉が開いた。扉を開いた主は何も言わずトゥルーデの元に駆け寄る。
「大丈夫!? どうしてこんな事に?」
 エーリカだった。
「いや……お前が空を飛ぶ姿を見たいと思って」
「だからってベッドから落ちちゃダメじゃん」
 エーリカは魔力を発現させると、トゥルーデをそっと抱きかかえ、ベッドに戻した。
「すまない」
「もう、無茶して。後で看護婦さんに言って、ベッドの位置を窓辺に移して貰うから。それで良いでしょ?」
「あ、ああ。そうしてくれ」
 無様な姿を見られてしまった。エーリカの顔を直視出来ない心境。
 エーリカはトゥルーデの頬に出来たかすり傷を、消毒液を含ませたガーゼでそっと撫でる。
「う……しみる」
「全く、怪我人なのに怪我増やしてどうするのさ」
「それは……」
 言葉が続かない。とりあえず、有り難う、とだけ呟くのが精一杯。
「もしかして、トゥルーデ」
「?」
「さっき私が行っちゃったから、後追い掛けようとしたとか?」
「そ、そんな……事……」
 エーリカはくすっと笑った。そうして、トゥルーデの頬をそっと撫でた。
「トゥルーデ、本当、分かり易いんだから。何処へも行かないよ」
「……」
「さっき外へ出たのは、ちょっと取りに行くものがあったから」
「取りに? 何を?」
「お昼ご飯。トゥルーデと一緒に、お昼食べようと思って」
「私の事など、気にする必要は無い」
「私は気にするよ。それに、ちゃんと痛み止めの薬飲んでる? 飲まないと痛み引かないよ?」
「それは……」
「ほら、一緒に食べよう?」
 エーリカは廊下から、用意してきた小さなワゴンを引っ張り込んだ。
 そこには、バスケットにパン、食器にブルスト、スープ皿に簡素なシチューを盛り付けてあった。
 それを見て、ぐう、と腹の虫が鳴るトゥルーデ。怪我人だが病人ではないので、食欲は一応有る。
「トゥルーデ、体は正直なんだから。にしし」
「その笑い方止めろ。何かいやらしいぞ」
「トゥルーデこそ、私をどう思ってるのさ」
 ベッドの脇にテーブルを寄せると、小さく簡素な食卓を作り、さあどうぞ、と勧める。怪訝な顔をするトゥルーデ。
「これ、お前の料理か?」
「私は禁止されてるし。今日はミーナが食事当番」
 ちょっとばかりむっとするエーリカを見て、少々の罪悪感が胸を過ぎる。
「そ、そうだったな。そうか、ミーナか。後で礼を言っておかないと。勿論、持って来たお前にも、……有り難う」
 病室に香る温かい食事を見て、トゥルーデは少しほっとした気分になった。食事が出来るから、それは勿論の事、大切なひとと一緒に居る時間が増えるから。
 エーリカはそんなトゥルーデを見て、笑顔を見せた。向けられた微笑みを見、変な所で堅物な大尉は彼女の名を呼んだ。
「どうしたエーリカ」
「さっきも言ったよね。トゥルーデの考えてる事は何でもお見通しだよって」
「なっ……!」
「食べたら添い寝してあげようか? なんてね」
 笑うエーリカ。嬉し恥ずかしさ、照れを隠す為か、ついつい口答えするトゥルーデ。
「添い寝って、お前、訓練とかしたくないからじゃないのか?」
「半分は当たってるかもね。でももう半分は……」
 そっと手を重ねる。あえて抱きついてこないのは、トゥルーデの体を気遣っての事か。
「分かるでしょ?」
 耳元で囁かれ、思わず溜め息が出る。そして笑みがこぼれる。
「そうだな……そうかもな」
「だよね。私達、仲間だし、家族だし、戦友だし、夫婦ですから」
 さらっと言ってのける愛しの人を前に、トゥルーデはもう降参だとばかりに苦笑するしかなかった。

end

288 名前:名無しさん:2015/03/12(木) 03:39:07 ID:NKiZysoc
以上です。
時期的に、OVAの頃に起きたifなお話だと思って頂ければ。

ではまた~。

289 名前:mxTTnzhm#e3/9j ◆xYuZ0hfvr.:2015/04/09(木) 02:32:33 ID:Ki/fkaTA
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
今回は一部R-18G描写が有りますので苦手な方はご注意を。

ではどうぞ。

290 名前:mxTTnzhm ◆JH7EiLzP12:2015/04/09(木) 02:35:41 ID:Ki/fkaTA
トリップがおかしくなったので新しく付け直し。
これでどうでしょうか。

291 名前:名無しさん:2015/04/09(木) 02:36:05 ID:Ki/fkaTA
では改めて。

292 名前:alive II 01/02:2015/04/09(木) 02:37:13 ID:Ki/fkaTA
 そこは戦場。空も地も、ネウロイに埋め尽くされたこの世の地獄。
 トゥルーデは部下に指示を出し戦闘を継続しつつ、後退し防衛ラインを下げるよう司令部に無線で連絡する。帰って来た答えは「否」その場で持ちこたえろの一点張り。即ちそれは物量で押してくる敵に磨り潰され呑み込まれる、いわば全滅を意味していた。
「気が狂ってるのか司令部は!?」
 無線で毒づくと、トゥルーデは部下を集める。動ける者に負傷者の救助、搬送とこの戦場からの撤退を命じた。それは司令部に対し命令違反になるのではと部下が問うと「無線の故障でよく聞こえなかった」とだけ答えた。そうしてすぐに撤退開始を命じた。
「背中は守ってやる。とにかく飛べ! 行け!」
 負傷した部下から託された銃をどっさり背負う。これなら当分銃と弾薬に困る事はなさそうだ。もしくは自身の魔力が尽きる方が早いか、どちらかだろう。そうして、大勢の負傷者を抱えた、のろのろとした撤退が始まった。
 前を行く部下から悲鳴が聞こえた。撤退ルートの先に、ネウロイの群が現れた。挟撃に遭った様だ。このままだと全滅は不可避。トゥルーデは一気に前進すると、立ち塞がるネウロイをMG42で粉微塵にしていく。
 爆発音が聞こえ振り向く。後方でシールドを破られたウィッチ二人が、被弾して墜落するのが見える。ストライカーユニットは破損し完全に機能を停止しているが、まだ高度は有る。
「焦るな! 落ち着いてパラシュートを開け!」
 無線で必至に呼びかけながら、墜落する部下達を追う。手が届けば……。しかし間に合わなかった。影はみるみる小さくなり……燃えさかる町の狭間に消えた。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
 トゥルーデは自分で毒突くのも分からないまま感情を露わにする。そのままホバリングし、墜落した部下の容態を確かめた。二人共即死だった。地面に激突したダメージで、体のありとあらゆる骨が折れていた。一人は顔面から落ちた衝撃か、顔はぺったりと潰れて、穴と言う穴から血が吹き出ていた。もう一人の体を動かすと、肩が崩れ、固まったままの指先と腕がぼとっと落ちた。
 そっと集まった部下達は動揺を隠せない。トゥルーデはそれでも部下の骸を背負い、千切れた腕をポケットに押し込むと、撤退の続行を命じた。部下だった肉塊……二人分の体から流れる血がトゥルーデの首筋を、耳の裏を伝う。体を掴んだ手のひらにも、どす黒い血がこびり付いている。服に黒っぽい染みが広がる。しかしそんな事に構っていられない。まだまだ防衛ラインまでは距離が有る。到達するまで、これ以上落伍者を出してはいけない。だが、よく見ると集まった部下は当初の半分にも満たなかった。迷子になったか、ネウロイの波に呑まれたか……。
「とにかく生き残れ! 犬死には許さん! 行くぞ!」
 雪崩の如く押し寄せる黒い渦と化したネウロイに向かい銃を連射し牽制すると、残った部下に飛び立つ様命じた。
 でも、部下は皆、消えていた。いつの間に、一体どこへ行ったのか。トゥルーデが担いでいた部下も、消えている。ぬるっとした血の痕だけがこびり付いている。
 独りぼっちの、戦場。
「何処へ行った!? 全員、応答しろ! 現在位置を伝えろ! 生存者は居ないのか!? おい! 誰か!」
 無線からは、ざーと無機質なノイズだけが聞こえる。空が紅蓮の炎に染まり、また何処かで爆発が起きた。飛んでくる火の粉が頬を焦がす。体から吹き出る汗は、部下を全員失った冷や汗か、それとも燃え盛る炎の熱さ故か。
「畜生」
 トゥルーデは飛び立とうとした。気付けば、周囲をぐるりネウロイに囲まれている。異形の者達、妙な形をした「何者か」つまりは彼女の敵。トゥルーデは、独り吠え、両手にMG42を構え、銃撃を続けた。防衛ラインまで、絶対に帰る。たった一人になったとしても。
 しかし。
 何か、大切な事を忘れてないか?
 ふと、思いが胸を過ぎる。
 その僅かな隙を突いて、至近距離から禍々しい光線が放たれる。回避出来ない。シールドはもう限界。
 砕かれ、灼かれる。自分の血飛沫の熱さを感じる。それはまるで……

293 名前:alive II 02/02:2015/04/09(木) 02:37:45 ID:Ki/fkaTA
「起きた? トゥルーデ」
 天使の声に導かれる様に、かっと目を開ける。飛び起きる。
 血の痕が、無い。あれから一体どうなった? 部下は? 武器は? 敵は? 焦るトゥルーデを前に、金髪の同僚は彼女の頭を撫でた。
「怖い夢、見たんでしょう? また昔の夢?」
 夢? 一体何の事だ? ここは何処だ? トゥルーデは周りを見る。見覚えの有る、部屋。窓の外を見る。そう、ここは……つい最近赴任した、サン・トロンの基地。地平の彼方から微かに覗く朝日が眩しい。視界の隅にちらりと見えた、空を飛ぶウィッチはミーナかハイデマリーか。
「わ、私は」
 混乱が隠せないトゥルーデは、わなわなと両手を見る。綺麗な手も、べっとりこびり付いていた血の痕がまだあるみたいに思えて、声を震わせる。
「助けられなかったんだ。部下が、皆居なくなって」
 黙って聞いている同僚は、続きを促した。
「墜落死した奴等も居た。体の骨が全部砕けて、ボロ布みたいになって……。あいつの血が、血が、私の手と、首に。腕は? 腕の欠片は何処だ?」
「相当怖い夢見たんだね」
 呆れ半分、慰め半分で、同僚は言葉を続けた。
「で、そこに私は居た?」
 はっとして、トゥルーデは声の主を見る。
 エーリカ・ハルトマン。大切な同僚。撤退戦での、生き残りの一人。
「お前は……、居なかった」
 目の焦点がまだ定まらない。しかし、彼女の姿かたち、表情は判った。
「そう。夢だよ。夢じゃなかったら、私が横に居るもの」
 そう言うと、エーリカはそっとトゥルーデを抱きしめた。彼女の体の温もりが、トゥルーデの凍えていた心を溶かす。
 大きく深呼吸すると、トゥルーデはエーリカを抱き返した。全身で、彼女の感触、匂い、存在そのものが絶対的に確かなものである事を改めて確認する。もうひとつ大きく息を付くと、ぎゅっと強く抱きしめた。

「生々しい夢だった。本当に、あれは夢だったんだろうか」
 トゥルーデはもう一度横になり、脳に刻まれたおぼろげな記憶を辿り、エーリカに聞かせた。
 一緒に添い寝するかたちのエーリカは、まだあやふやな反応を見せる相棒を気遣った。
「たまにぞっとする夢を見る事はあるよ、トゥルーデ。でも、夢は夢だから」
「あ、ああ。でも」
 まだ事態を飲み込めないトゥルーデに、エーリカは頬を撫で、笑顔で言った。
「疲れてたんじゃないの? それか疲れが一気に出たか」
「疲れ? そういうものか」
「じゃなきゃ、そんな夢見ないでしょ。すっごいうなされてたし」
「そ、そうか。色々と、すまなかった」
 ベッドに横になり、天井を見る。まるでついさっきまで戦場に居たかの記憶、あれは夢だったとは信じ難い。けれど、エーリカが横に居るなら、彼女がそう言うなら、確かにそうなのか、とも感じる。
「ねえ、トゥルーデ」
 エーリカは名を呼ぶと、指を絡ませてきた。指に当たる感触に、トゥルーデは覚えがあった。二人の愛の証、絆の印。お揃いの指輪。つまりは、今ここに居る二人は真実(ほんとう)の二人。
「そうだ……。そうだった」
 トゥルーデは一人頷く。記憶の霧が晴れていく感覚。そうして、ふうと息をつくと、愛しの人の名を呼ぶ。
「ありがとう、エーリカ」
「どうしたしまして」
「でも、本当に、夢じゃない位にリアルだったんだ。感触が、今も……」
「それねー」
 エーリカは悪戯っぽく笑った。
「トゥルーデうなされてるから声掛けたけど起きないし。じゃあ、って、首とか色んな所にキスしてた」
 言われたトゥルーデは呆気に取られてエーリカを見た。
「はあ? お前は私に何てことを」
 トゥルーデは、夢の出来事をおさらいした。首筋、手のひら、耳の裏、頬……そう言う事か、なんてこった、と一人呟く。
 どうしたの? とにやけるエーリカに、トゥルーデは言った。
「お前は天使なんだか悪魔なんだか分からない」
「何それ酷い。心配してたんだから」
「本当に?」
「勿論」
 ふふ、と微笑む天使を前に、力が抜ける。
「まあ、良いか……。何だかほっとしたら、また少し眠くなってきた」
 ふわわ、とあくびをするトゥルーデ。エーリカは少し驚いた様子で彼女を見た。
「いつも早起きのトゥルーデにしては珍しいね」
「まだ起床時間じゃないだろう」
「そうだね。それにトゥルーデ具合悪そうだもんね。大丈夫、私も一緒だから」
「今度は、変な事、するなよ……」
 うとうとと、トゥルーデはエーリカに向き合ったまま、瞼を閉じた。
 お互いに絡ませ合った指は解けそうもないが、解くつもりもない。
「今度は、一緒に同じ夢を見られれば良いんだけどね」
 エーリカはそう呟くと、愛しの相棒が見せる安らかな寝顔を見つめ、ふっと笑った。

end

294 名前:名無しさん:2015/04/09(木) 02:38:05 ID:Ki/fkaTA
以上です。
時期的に、OVAの頃に起きたifなお話だと思って頂ければ。

ではまた~。

295 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2015/04/09(木) 16:12:17 ID:Ki/fkaTA
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。
前作「Alive II」の続きです。

ではどうぞ。

296 名前:alive III:2015/04/09(木) 16:12:54 ID:Ki/fkaTA
 結局二人して寝過ごした後、遅い朝食を取るカールスラントのエース二人。温かいコーヒーに、ハムと野菜を挟んだ簡単なサンドイッチを食べる。ミーナとハイデマリーは、それぞれ既に任務に就いている様だった。この日は特に出撃も無く、気怠いとも言うべき、珍しく平和な雰囲気が基地内に漂っている。
 食事の最中、思い出したかの様にエーリカが呟いた。
「そう言えばさ」
「ん? どうした?」
「夢は夢占いで使われる位に重要、って話もあるよね」
 コーヒーを飲んでいたトゥルーデの手が、ぴくりと止まる。じろり、とエーリカを見据える。
「何が言いたい」
「いやーそれってさ、つまりはトゥルーデにとって何かの暗示じゃないかなって」
 そう言うと、エーリカはサンドイッチを一切れ、もくっと口にし、もぐもぐと噛み砕く。
「暗示って、何の?」
「私も分からない」
 訝しげに聞くトゥルーデに、素っ気なく答えるエーリカ。
「言っておいてそれか」
「これが例えばエイラなら占いに詳しいから何か知ってるかなーとか思ったんだけどね」
 数ヶ月前まで501JFWに居た仲間を思い出し、懐かしそうにエーリカが言った。スオムスのエースを思い出したトゥルーデは疑惑の眼差しでエーリカを見て言った。
「あいつはそう言うとこ、結構適当な感じがするが」
「まあねえ」
「そもそも。お前は、最初は夢だから心配するなと言っておいて、今になって何かの暗示とか言い出すとか、一体どう言うつもりだ」
 寝直してやっと落ち着いたのに、とぶつくさ言いつつ、もう一切れ、サンドイッチを口にする。さっぱりしたパンにみずみずしい野菜、しっかりした味のハムがなかなか食欲をそそる。
「夢で苦しんでるトゥルーデ見たらさ、何か良い解決法とか無いかなって」
 エーリカの弁明を聞いたトゥルーデは、じと目で言った。
「本心は?」
「色々調べたら面白いかなーってね」
 さらっと言ってのけたエーリカを見、トゥルーデは思わず声を上げた。
「お前! やっぱり私で遊んでるじゃないか」
「そんな事無いよ。トゥルーデの事、色々知りたいなって」
「今更、私の何を知ろうと言うのか……」
 そう呟きかけて、サンドイッチを持つ手が止まる。
「あれぇ? トゥルーデ、顔赤いよ?」
「何でも無い」
「自分で言ってて恥ずかしくなったとか」
「う、うるさい!」
 ぱくっとサンドイッチを食べたエーリカは、目の前で恥じらう愛しの人を見て、ふふふと笑った。
「大丈夫だって」
「何が」
「今夜一緒に寝る理由、出来たよね」
 意味有りげににやけるエーリカ。
「全く、どこまでも享楽的だな」
「人生は楽しまないとね」
「お前だけ楽しんでも……」
「何言ってるの、トゥルーデも一緒に、だよ?」
 当り前の様にさらっと言われ、返す言葉も無いトゥルーデ。
 呆れた顔を前に、エーリカは涼しい顔。
 続く食事。
 暫くして、金髪の天使は、にしし、と笑った。
「また何か悪い事考えてる顔してるぞ」
「酷いなあ。今夜の事考えてただけだって」
「何だかな」
「トゥルーデも、まんざらでもない顔してるし」
「なっ!? そ、そんな事は……」
「お互い様。今更、だよね。私達」
 けどね、と言葉を続けるエーリカ。
「だからこそ、楽しいし、嬉しいんだけどね」
 そう言ってから、とびきりの笑顔を見せられては、トゥルーデも、ただ苦笑いするしか無かった。

end

297 名前:名無しさん:2015/04/09(木) 16:14:22 ID:rQqXnZas
以上です。
時期的に、OVA~劇場版の頃に起きたifなお話だと思って頂ければ。

私信ですが、再度トリップ変更しました。よしなに。

ではまた~。

298 名前:名無しさん:2015/04/19(日) 22:39:32 ID:Qxnqp33s
乙です。

299 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2015/08/14(金) 23:56:51 ID:tfwBIjAc
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

300 名前:meteor shower 01/02:2015/08/14(金) 23:57:26 ID:tfwBIjAc
 ハイデマリーが苦戦している。その報を受けたトゥルーデとエーリカは急ぎ出撃の準備を行い、暗闇の支配する空へと飛び立った。計器飛行でハイデマリーの交戦ポイントへと急ぐ。
「カールスラント一のナイトウィッチが苦戦する程の相手だ。我々も気を付けないとな」
「そうだね。で、敵のサイズに形状は?」
「……そう言えば、ハイデマリー大尉からの連絡では、そこまでは聞いていない様だが」
 二人はMG42の動作確認を改めて行い、ストライカーユニットのエンジンに魔力を注ぎ込み、力強く加速する。
 エーリカが、何かに気付いた様で、さっきからちらちらと何処かを見ている。
「どうしたハルトマン。何か有ったか」
「うん? 後で話すよ」
「戦う前から気を散らすな。油断大敵だぞ」
「はいはい。そう言えばトゥルーデには……」
「……ん? どうかしたか?」
「何でもない。さっさと行こう」

 接近しているうち、ハイデマリーの交戦ポイントはすぐに判別出来た。時折断続的に放たれる銃弾と曳航弾、漆黒のネウロイから放たれる禍々しいビームの束が、闇夜に時折見える。
「あそこだ。高度を上げて、一気に突っ込んでカタを付ける」
 二丁の銃を構え、戦闘の構えを取るトゥルーデ。二人揃って上昇する。
「了解。おーい、ハイデマリー大尉、助けに来たよー」
 無線で呼び掛けるエーリカ。
『二人共、気を付けて。このネウロイは闇に紛れて、なかなか手強い』
 既に長時間対峙しているハイデマリーは呼吸がやや荒い。掩護しないと危険だと無線越しに分かる。
「大丈夫かハイデマリー大尉? しかしハイデマリー大尉がここまで苦戦するとは相当だな」
 呼び掛けつつ、周囲を見回すトゥルーデ。
「ハイデマリー大尉には姿が見えないの?」
 エーリカは思い出したかの様に問い掛けた。ハイデマリーの固有魔法は夜間視能力。月明かりの無い夜でも、魔導針と合わせてネウロイを容易に捕捉する事が可能な筈であった。
『まるで敵の周辺に靄が掛かったみたいです。恐らく自身から何かの妨害物質的な何かが出ているみたいで、私の固有魔法でも……っ!』
 無線にノイズが走る。ハイデマリーのシールドが一瞬光る。相当の衝撃である事が分かる。
「いかん。ハイデマリー大尉を一刻も早く……」
「あ」
「どうした?」
 エーリカの呟きに、思わず空を見上げるトゥルーデ。
 一瞬、ひゅんと何かが光った。まるで夜空を一瞬だけナイフで裂いた様に輝きを見せ、ぱあっと明るく輝いてから、何事も無かったかの様に静けさが戻る。
「何だ、今のは」
「流星群、かなあ」
「今の時期に流星群など有ったか? 予定変更、まずはハイデマリー大尉と合流だ」
「了解」
 二人は牽制の射撃を行いながらハイデマリーの傍に寄り添った。
「大丈夫かハイデマリー大尉、怪我は」
「何とか。でも残弾僅少」
「三人居れば何とかなるよ」
「数が揃えばと言う問題でも……ん?」
 トゥルーデも気付いた。先程エーリカが言った様に、“流星群”らしき星の輝きが見える。しかも、少しずつ増えている事に。
「どうしましたバルクホルン大尉」
 ハイデマリーは夜空を見上げるトゥルーデの顔色を窺った。
「なあ、ハイデマリー大尉」
「何でしょう」
「ナイトウィッチにこんな事を言うのも何だが……、この空の一瞬の輝き、使えないか?」
 真顔のトゥルーデに、ハイデマリーは控えめな笑顔で答えた。
「奇遇ですね。私も同じ事を考えていました。流星が光る瞬間、僅かにですが、本体が見えるんです」
 トゥルーデは、力強く頷いた。
「なら、我々に指示を頼む。同時に攻撃すれば、或いは」
「天体任せとは、面白い作戦ですね。……行きましょう」
「二人してずるいな。先に見つけたの、私だからね」
 エーリカは面白半分にからかいながら、二人と共に飛行する。時折飛んで来るビームをトゥルーデと一緒に防御しつつ、ハイデマリーを護る。
 三人は編隊を組み、ネウロイと交戦を続ける。夜空を観察していると……時折、流星が重なり、まるで雨の様に降るタイミングが有る。ハイデマリーも魔力を使い、敵の位置を見極めていた。
「バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、良いですか。敵、前方右斜め四度……いえ、五度」
 刹那。
 三人を支援するかの如く、空がぱあっと輝いた。まるでシャワーの様に、流星嵐が到来したのだ。トゥルーデとエーリカには見えずとも、ハイデマリーの瞳には、はっきりとそのシルエットが浮かんだ。
「今です!」
 揃って銃弾を撃ち込んだ先には……確かな手応え。靄の中に紛れていたネウロイが金属的な断末魔を上げ、爆発した。すぐに靄も晴れ、辺りはネウロイの遺した塵が舞った。
 その上空から、降り注ぐ流星群。

301 名前:meteor shower 02/02:2015/08/14(金) 23:57:51 ID:tfwBIjAc
「凄いね。こんなに流星見えるなんて」
 エーリカはさっさと銃を担ぐと、後ろ手に腕を回し、空を見上げた。
「今回は、助かりました。二人の掩護が無ければどうなっていたか」
「いや。強敵を相手にたった一人で持ち堪えたハイデマリー大尉があればこその武勲だ。流石はエースのナイトウィッチだ」
 謙遜し合う二人の大尉。
「もう、カタイんだからトゥルーデも、ハイデマリー大尉も。ほら」
 エーリカはトゥルーデとハイデマリーの肩を掴むと、ぐいと引っ張り空へと顔を向けさせる。
「え?」
「おい何するんだ」
「多分、あそこから飛んで来るんだと思う」
 エーリカが指す方向から、あちこちへと流星が煌めく。
「放射点、ですね。流星群は放射点から色々な方向へと輝くんです」
「博識だな、ハイデマリー大尉」
「いえ、本で読んだだけですから」
 少し会話している間でも、流星群はその勢いを強め、三人を明るく輝かす。
「それにしても凄い数だ……こんな星空は、今まで見た事が無い」
 トゥルーデは、しばし見とれた。
「私もです」
「私もー」
 ハイデマリーとエーリカが揃って相槌を打つ。
「ミーナもこの空、見えているだろうか」
 ぽつりと呟いたトゥルーデ。耳元にセットした無線に、すぐに返事があった。
『基地からも綺麗に見えているわよ。みんなお疲れ様。無事で良かったわ』

「ねえ、もう少し見ていたいな」
 エーリカはトゥルーデの肩を抱き寄せ、悪戯っぽく笑った。
「我々は流星群の見物に来たんじゃないんだぞ」
「でも、もう少しだけ、“観察”したい気持ちは有ります」
 ハイデマリーも微笑んだ。
「ほら、トゥルーデ」
 エーリカは二対一だといわんばかりにトゥルーデの腕をぐいと掴む。
「ああもう、分かった。だから引っ張るなハルトマン」
 頭上に煌めく光のシャワーは、三人を祝福するかのよう。
 三人はゆっくりと漂うかの様に空を浮かび、夜空の輝きに酔いしれた。

end

302 名前:名無しさん:2015/08/14(金) 23:58:05 ID:tfwBIjAc
以上です。
時期的に、OVAの頃に起きたifなお話だと思って頂ければ。

ではまた~。

303 名前:名無しさん:2015/08/20(木) 14:22:31 ID:1.nj5rFs
綺麗で面白かった(小並感)

304 名前:名無しさん:2015/08/30(日) 00:18:05 ID:NhVpbZNY
面白かったよ

305 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2015/11/13(金) 04:07:59 ID:9miF8XqM
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

306 名前:deep red 01/02:2015/11/13(金) 04:08:28 ID:9miF8XqM
「珍しい食材? 一体、何だ?」
 扶桑から届いた荷物。その幾つかを芳佳と美緒が取り分けせっせと梱包を解き、いそいそと厨房へ運ぶ姿を見、トゥルーデは首を傾げた。
 それから一日、芳佳は厨房に掛かりっきりで……たまにリーネが手伝っていた様だ……翌日になってもまだ厨房で作業を続けていた。そんな彼女を見て、トゥルーデは一体何が起きているのか、と疑念を抱く。
「さあね~。気になる?」
 横を歩いていたエーリカに脇をつつかれ、うーん、と唸った後感想を呟く。
「まあ……またこの前の肝油みたいにきついのは勘弁して貰いたいが」
「じゃあ、ちょっと様子、見に行こうか」
「いや、扶桑の食べ物は扶桑人に任せた方が良い」
「珍しく乗り気じゃないね、トゥルーデ。肝油で懲りた?」
「懲りたと言うよりも……いや、何でもない」
「じゃあ行こうよ」
 結局エーリカに袖を引っ張られ、厨房へと向かった。

 厨房の中は湯気に満ちていた。
「何だこの大量の水蒸気は? 何が有った?」
「おお、バルクホルンとハルトマンか」
 腕組みして様子を見ていた美緒が二人に気付き、顔を向けた。
「やっほー。遊びに来たよ」
 エーリカは手を振ると、のんびり厨房を眺めている。
「少佐。これは一体?」
 トゥルーデは美緒に問うた。
「赤飯を蒸している」
「赤飯?」
「あ、バルクホルンさん」
 蒸し器の前で火加減を見ていた芳佳もトゥルーデ達に気付いて、姿を見せた。
「宮藤、お前昨日から何をやっているんだ? そんなに時間の掛かる食材、というか料理なのか」
「はい。お赤飯を作るには、時間が掛かるんです」
「そうだぞバルクホルン。昨日から餅米を漬け込み、小豆を下茹でして……まあ、私は横で見ていただけだがな」
 豪快に笑いながら、美緒は説明した。
「はあ……」
「ミーナとペリーヌも先程様子を見に来ていたぞ。リーネも時々宮藤を手伝っている。実に有り難いな」
「そうか、なるほど」
 説明を受け、少々引っ掛かる部分を感じたトゥルーデは、素直に疑問をぶつけてみた。
「しかし、何故にそんなに手間の掛かる料理を? 扶桑ではこれが当たり前なのか?」
 芳佳は火加減をもう一度確認すると、トゥルーデに顔を向けて説明した。
「お赤飯は、扶桑ではおめでたい席には欠かせない料理なんです。あと栄養もあって腹持ちも良いので、海軍でも活用していますよ」
「ほほう。そういうものなのか」
 少しほっとした表情のトゥルーデを見て、美緒はまた笑った。
「安心しろ、味は悪くないぞ! 是非とも食べて貰いたいものだな!」
「あ、もう出来ますよ。坂本さん、少し味見してもらえます?」
「ご苦労、宮藤! 戴くとしよう」
 大きな蒸し器から、蒸し布ごとどっさりと湯気の立つ塊が取り出され……ゆうに501の人数分は有りそうだ……、芳佳は慣れた手つきでおひつに移すと、赤飯をお椀によそい、箸と共に美緒に手渡した。
「では早速」
 美緒は頷いて箸を取った。
 トゥルーデにとって、赤飯は初めて見るものだった。米に豆が混ざっているが、何と言ってもピンクにも見える不思議な色をしているのが気になる。色使いから、扶桑の米菓子か? とも思う。
 一口二口、ぱくっと食べた美緒はひとつ頷いた。
「流石だ宮藤! 美味いぞ! よく頑張ったな。皆も喜ぶぞ」
「ありがとうございます! あ、良かったらバルクホルンさんとハルトマンさんも食べます?」
「夕食で出るのだろう? なら……」
「出来たても美味しいですよ?」
「貰おうよ、トゥルーデ」
 エーリカに促される。
「まあ、少しなら」
「はい、どうぞ」

307 名前:deep red 02/02:2015/11/13(金) 04:08:56 ID:9miF8XqM
 二人にもお椀が渡される。トゥルーデはてっきり普通の米と思っていたが、箸でつまんだ瞬間、粘度、いや硬さが違う事に気付く。怪訝な表情のまま口にする。粘り気と硬さも、普段出される白米と全く異なる。豆は小さめで、特徴的な色味だ。味は……想像していたものと違う。
「なるほど。これが扶桑の」
 不思議そうな顔をして、一口、二口と食べるトゥルーデ。
「へー。変わってるね。いつも食べてる白いご飯と違う」
 エーリカが素直な感想を口にする。
「まあ、初めて食べる時はそうなるかもな。ああ、胡麻塩を掛けると良いのだがな。有るか、宮藤?」
「勿論です坂本さん。はい、お二人共、どうぞ」
 既に用意してある辺り手際が良い。胡麻塩をぱらぱらと掛けられると、ほのかな塩分がまた風味を引き立たせる。
「ほう。これはまた……」
 改めて口にして、頷くトゥルーデ。それを見た美緒は頷き、芳佳にご苦労、と改めて声を掛けた。
 味見を終えたトゥルーデは芳佳に礼を言ってお椀とお箸を返す。エーリカはおかわりしたい様子だったがトゥルーデが止めた。

「しかし、何故に今日、赤飯を? 今日は特に何かを祝う日ではないと思ったのだが」
 味見を終えて、美味しかったと芳佳に感想を言った後、またも浮かんだ素朴な疑問を呟くトゥルーデ。
「それは、久々に扶桑から様々な物資が届いたからな。その祝い……、と言う事では駄目か?」
 美緒は珍しく、少し言い訳めいた口調で答えた。
「坂本さんが久々に食べたいって言うので作りました」
 しれっと言う芳佳に、おいこら、と少しばかり顔を赤らめて小言を言う美緒。
「なるほど、まあ、良いんじゃないか。少佐も宮藤も。確かに補給はめでたい事だし」
 トゥルーデはそんな二人のやり取りを見て、くすっと笑い、二人に言った。
「ねえトゥルーデ」
 エーリカが腕を絡めて、トゥルーデに聞いてきた。
「ん? どうしたハルトマン」
「私達もお祝いする時に、これ作って貰おうよ」
「何故に?」
「んー。何となく? 色が綺麗だから? じゃダメかな?」
「私に聞かれても困る。第一、作るの大変だから迷惑だろうに」
 話を聞いていた芳佳は、二人を見て聞いた。
「お二人共、何かお祝い事でもあったんですか? ご希望と有ればいつでも」
「まあ、毎日がお祝いだよね。私達って」
「何だそれ」
 二人の会話を聞いていた芳佳は、意味がよく飲み込めないながらも、頷いた。
「? 分かりました。またすぐお作りします。まずは今晩お出ししますから」
「ありがとね、ミヤフジ」
 ウインクして喜ぶエーリカを前に、トゥルーデは想わず名前で聞き返してしまう。
「おい、エーリカ良いのかそんな簡単に頼んで」
「だって、そうだし。違う?」
「いやまあ、お前が言うなら……」
「お前達も、蒸し上がりの赤飯みたいに熱々だな!」
 カールスラントのエース二人を見ていた美緒は、腕組みして大いに笑った。

end

308 名前:名無しさん:2015/11/13(金) 04:09:20 ID:9miF8XqM
以上です。
扶桑以外の人が「お赤飯」を初めて目にしたらどう言う反応をするか……
そんな感じで書きました。


ではまた~。

309 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2015/12/25(金) 00:42:02 ID:GT4DC8Wg
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

310 名前:sisterhood 01/04:2015/12/25(金) 00:42:46 ID:GT4DC8Wg
 とある週末。午前の訓練飛行を終え基地に帰還したトゥルーデは、シャワーもそこそこに部屋へと戻る。
 珍しい光景を見た。通り掛かった食堂で、テーブルに突っ伏しているロマーニャ娘を見つけたのだ。普段は何処か謎の隠れ家へ行く筈なのに、どうしてこんな所に。
「おや、ルッキーニどうした」
 声を掛けると、珍しくらしくない悲壮な表情で、ぼそぼそと呟いた。
「シャーリーが……」
 ああ、と思い出し、説明して聞かせる。
「あいつなら本国陸軍への連絡か用事で朝から出掛けている筈だが。何か問題でも?」
「だって、遊んでくれる人いないー」
 じたばたと腕を振って、テーブルを叩くルッキーニ。
「遊んでる暇が有るなら訓練でもしろ」
「坂本少佐みたいな事いわないでよー……」
 トゥルーデをちらっと見た後、しゅんとしてしまった。

 ああ、なんだかな、もう。

 トゥルーデは心の隙間にもやもやを感じる。普段は快活な筈なのに、寂しそうな彼女が何だか気の毒で。

 そうしてると、ルッキーニの腹がぐるる、と鳴いた。
「あーお腹減ったー」
「まだ昼まで時間有るぞ」
「お腹減ったお腹減ったお腹減った」
「お前は子供か……ってまあ年齢的にはそうか」
「一人で納得してるの何かずるい!」
 怒らせてしまったか。トゥルーデはそれでも冷静に観察していたが、このままでは埒が開かない。やれやれと呟くとルッキーニの名を呼んだ。
「仕方無い、付いてこい」

 厨房の脇に座らされるルッキーニ。トゥルーデは置かれていた誰かのエプロンを借りると甲冑宜しくぎゅっと身体に纏い、鍋を用意した。
「何か軽めの食事を作ってやる」
「ウエェ、バルクホルン料理出来るの? 芋料理以外に」
「馬鹿にするな? これでもアイスバインは得意なんだぞ? いや、あれは時間掛かるけど」
「軽めじゃないしー!」
「仕方無い。特別にリクエストに応えてやる。何が食べたい」
「マンマのパスタ!」
「私はお前のママではないが……ふむ、パスタか。確か何処かに乾麺があったはずだ」
 がさごそと厨房の棚を漁り始める。
「ソースは何でも良いよ」
 後ろ手に腕を組んで、のほほんと指示を出すルッキーニ。
「そう言われても作り方知らないのだが」
 聞かれたロマーニャ娘は、マンマの作り方を思い出して、指で空中の何かをなぞる様に、時折大きな身振りを交えてレクチャーする。
「んーとね。確かフライパンにオリーブオイルドバーッと入れて、ニンニクをトントントントンって刻んで入れて、ザクザクッて切ったトマトを入れて、グジュグジューって煮込んで、茹でたパスタと混ぜる……んだったかなあ」
「教え方があやふや過ぎだ! 擬音ばかりで通訳が必要なレベルだぞ」
「ひどい!」

 シャーリーは、よく付き合ってられるな。
 トゥルーデはそんな事を思いながら溜め息をつきつつ、ガスコンロの火を付けた。

 寸胴鍋に張った水が熱せられ、ぐつぐつと沸騰する。手にした乾麺を適当にぱらっと入れる。
「さて、これからどうすればいい?」
 聞かれたルッキーニは仰天した。
「えっ、パスタの茹で方も知らないの? それじゃ良いマンマになれないよ?」
「私はロマーニャ人ではないから知らなくて当たり前だろう! ……で、どうすればいいんだ」
「アルデンテで」
「それはどう言う意味だ」
「え、説明必要? うーんとね、中に火が通ってないの」
「生煮えはダメだろう」
「いやそうじゃなくて。火は通ってるんだけど、芯が少しカタイの」
「つまり微妙な火加減というわけだな……しかし微妙ってどの位だ」
 トングで茹だる麺をつまんだり、火加減を細かく変えてみるのを見て、ぼそっとルッキーニは言った。
「まるで実験してるみたいだね」

311 名前:sisterhood 02/04:2015/12/25(金) 00:43:21 ID:GT4DC8Wg
 そうこうして、あちこちから食材を見つけてフライパンも使ってソースらしきものを作り……何とか「料理」と呼べそうなものが出来上がった。
「で、お前の言う通りに作ってみたが。トマトはあいにく新鮮なのが無かったから、瓶詰めしてあった油漬けの乾燥トマトを使った」
 一口食べて、無言のルッキーニ。
「……」
 じっと、トゥルーデの顔を見る。
「せめて何か言え」
「……空腹は最高の調味料だって、マンマもシャーリーも言ってた」
「そ、それはどう言う意味だ?」
「初めてにしては上出来かなーって」
「何だその上から目線は」
「でも、まあ、食べられない事は無いし。うん。ありがと、バルクホルン」
 ルッキーニはそう言うと、ぼそぼそとパスタを食べ始めた。余り美味そうではない風にも見える。
「どれ、私も少し味見……」
「へー。トゥルーデがロマーニャ料理ねー」
 すっと肩に手が置かれ、耳元で覚えのある声が聞こえた。
「うわハルトマン? いつからここに?」
 思わず仰け反るトゥルーデを前に、意地悪くにっと笑って見せる。
「面白そうな事してたから、こっそり様子覗いてた」
「何故見てた?」
「見てた方が面白いかなって。トゥルーデ、私の分も有るよね?」
「……無いと言ったら作らせるつもりだな? ほら、私の分を食べると良い」
「やったー」

 試食したエーリカも、一口食べて、じっとトゥルーデの顔を見た。
「で、ハルトマンも何故黙る」
「ちょっと塩気足りない?」
 エーリカの言葉に、ルッキーニもそれそれ、と頷く。
「バルクホルン、パスタ茹でる時塩入れた?」
「塩?」
「塩ね。どばーって入れるの。マンマはいつもそうしてた」
「そんな事したら麺がしょっぱくなるだろ」
「それが不思議とならないんだけどなー」
「なら分量は?」
「そこまで知らない」
「適当過ぎだろう」
「でも美味しかった。ありがと」
 ルッキーニは皿をシンクに持って行くと、そこで初めて、微かに笑みを浮かべた。
 トゥルーデは時計を見た。何故か彼女を直視出来ない雰囲気がして。適当に言葉で誤魔化す。
「もう少しでシャーリーが帰って来る筈だが」
「ホント? あたし、基地のゲート前行って待ってる」
 そんな二人のやり取りを見ていたエーリカは、もくもく、とパスタを一口食べて、へえ、とだけ呟いた。

312 名前:sisterhood 03/04:2015/12/25(金) 00:43:46 ID:GT4DC8Wg
 ルッキーニはそそくさと出て行った。厨房の片隅に居るのはトゥルーデとエーリカ二人だけ。
「ねえ、トゥルーデ」
「どうしたハルトマン」
「ちょっと、味気ないな」
「ルッキーニと同じ事を言うな。ロマーニャのパスタ料理は初挑戦だったんだ、少しは……」
「どうして初挑戦したのかなー?」
「あんまりにも五月蠅かったからだ」
「普段は芋料理ばっかりなのにどうしてロマーニャ料理?」
「何だ何だ、まるで尋問みたいじゃないか」
「そりゃあねトゥルーデ、訓練終わったらふっと居なくなって、彼女厨房に連れてくの見たら、どう思うか分かる?」
「勘ぐり過ぎだろう」
「そこがね、やっぱりまだまだ“堅物”って言われちゃう理由なんだよね」
「何が言いたい」
「でも前に比べたらトゥルーデは進歩してるよ、私が言うんだもの。間違いないよ」
 このパスタとか。と、エーリカはくるっとパスタをフォークに絡めると、トゥルーデの口元に持って行く。
「食べてみなよ」
「そう言う食べさせ方は……分かったよ」
 一口食べて、ようやく二人が言っていた事が分かる。
「確かに、塩気が微妙に足りないな」
「でしょう? 私もそう思うし、これは間違いの無い事実だね。不合格」
「おいおい、そりゃ酷いな。ルッキーニは一応食べたぞ?」
「お腹減ってたからでしょ」
 ニヤニヤしながら、フォークを唇に当てて、目の前の彼女を見るエーリカ。
 トゥルーデは一体何をして欲しいのか最初分からなかったが……フォークでつんつんとつつかれて、ようやく理解する。おずおずと手を伸ばし肩を抱き、唇を重ねる。
 暫く、そっと抱き合ったまま、お互いを味わい……ふう、と息をつく。
「合格」
「何が」
「私のおヨメさんとして合格って事かな」
「そう言う意味か」
「ルッキーニにあれだけするんだから、私の時はもっとちゃんとしてよ?」
「それは当たり前の事だ」
「なら良いんだけど。とりあえず“今夜”が楽しみだね」
 エーリカの言うそれは、食事ではない事は明白。
 彼女なりの嫉妬か、同じ指輪をはめている者としてのプライドか。
 トゥルーデはそんなエーリカの感情をいまひとつ理解出来ないながらも、目の前の愛しのひとをそっと抱き寄せたまま、同じ時を過ごす。

「あれ、バルクホルンさんにハルトマンさん、どうしたんですか? お昼当番私達ですけど」
「ああミヤフジ、ごめんね私達ちょっと厨房借りてた」
「いや、それは私が」
 言い掛けたトゥルーデを遮って、芳佳に声を掛けるエーリカ。
「良いから。じゃあ悪いけどミヤフジ、後片付け宜しくね」
「あ、はい。分かりました」
 微妙に納得出来ないながらも、命令とあっては……と言った顔をする芳佳。

「良いのか、任せてしまって」
「だって、ミヤフジだって一人で料理する訳じゃないでしょ?」
「??」
「分かるでしょ?」
 握る手の強さで……ようやく言いたい事を把握する。
「そうだな。とりあえず、何処へ行こうか」
「シャーリーのお出迎えでも?」
「そうするか」
 二人手を繋ぎ、厨房から外へ。

313 名前:sisterhood 04/04:2015/12/25(金) 00:44:09 ID:GT4DC8Wg
 ちょうど二人がゲート前に付くと、見慣れたトラックが轟音を立て、土煙を上げながら戻って来た。あのエンジンサウンドに走りっぷり、誰が乗っているか、そして誰がチューニングしたかすぐに分かる。
「シャーリー! おかえり!」
 ルッキーニが大きく手を振る。
 ずささ、とドリフト気味にトラックを操り皆の前にぴたりと停めて見せるシャーリー。運転の腕は確かだ。
「いよっルッキーニ、ただいま! ……って、どうしたんだ二人共。あんた達までお出迎えって珍しくないか?」
 カールスラントのエース二人を見つけて、疑問を口にするリベリアン。
「まあ、暇潰し?」
「見せつけてくれるな、二人して」
 エーリカの言葉に、笑って返すシャーリー。
「なあ、シャーリー」
「ん? どうしたんだバルクホルン。あたしに何か用事か? ストライカーユニットの調整とか?」
「お前は本当に凄い奴だ」
 そう言うと、うん、とひとつ頷いた。
「はあ!? いきなり何だよそれ?」
 驚き半分、笑い半分の顔をしたシャーリーを前に、トゥルーデは平然と言った。
「それだけ言っておきたかった。じゃあな」
「おいおい、意味がわかんねーぞ」
 呆気にとられるシャーリーを置いて、トゥルーデは基地に戻る。エーリカも一緒。
「良いの? もっと詳しく言わなくても」
 とりあえず聞いてみたと言う顔をするエーリカに、トゥルーデは事も無げに答えた。
「言わなくてもあれこれと喋るだろう。ルッキーニが」
「そう言うところは鋭いのにねー」
 エーリカはトゥルーデの脇をつんつんとつついた。こらこら、と返す二人は、まるでじゃれ合う子居ぬのようで。
 やがて、時計の針が、ぴたりと頂点を指して重なった。二人の将来を暗示するかの如く。

end

314 名前:名無しさん:2015/12/25(金) 00:44:26 ID:GT4DC8Wg
以上です。
お姉ちゃん風を吹かそうとしても結局上手く行かないお姉ちゃん的なものを。

ではまた~。

315 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2016/01/01(金) 05:04:09 ID:OI0yXhJ2
あけましておめでとうございます。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

316 名前:sisterhood II:2016/01/01(金) 05:04:33 ID:OI0yXhJ2
「何をしているハルトマン! 新年だからと言って我々のやる事に変わりはないぞ!」
 腰に手を当て言い放つ堅物大尉。ミーティングルームでくつろぐエーリカはソファに埋もれそうな位だらっと身体を預け、眠たそう。
「またまたトゥルーデ、カタいんだから~」
 エーリカはふわあ、とあくびをしながら答えた。哨戒任務明けで、身体がだるそうだった。
「だからー」
「ダカラー」
 横でコーヒーを飲みながらお喋りしていたシャーリーとルッキーニも、同じ口調でからかった。
「お前ら……揃いも揃って」
 怒りに震えるトゥルーデを前に、コーヒーの入ったマグカップに一口口を付けると、シャーリーはルッキーニの頭を撫でながら言った。
「まあ、年明けなんだし、アンタも何か少しは祝ってみたらどうだい」
 呆れるトゥルーデ。
「これだからお気楽リベリアンは……それどころじゃないだろう」
 悪戯っぽく、顎で指し示しながら反論するシャーリー。
「そう言うアンタの左指にはめてるそれはなんだって話だよ」
「ぐっ……こ、これは」
 言われて片方の手で指輪を隠す。二人の絆の証を指摘され、咄嗟に反論出来ない。
「良いんです、トゥルーデはこれで」
 珍しく真顔のエーリカは、トゥルーデの腕をぐいと引っ張ると、無理矢理座らせて肩を抱いた。そうして真顔で言葉を続ける。
「私達、夫婦ですから」
 今度はお気楽大尉が呆れ顔。
「夫婦って言われてもなあ……ハルトマン、お前の性格ホント羨ましいよ」
 言われてエーリカは不敵な笑みを浮かべる。
「イイナー、ふうふ」
 ルッキーニは指をくわえて羨ましそうに呟いた。
「良いなって。まあ、ルッキーニにはまだ少し早いかもな」
 あやす様に諭すシャーリー。その言葉を聞いて、少し拗ねるルッキーニ。
「えー、だってー」
「そうだなー。ルッキーニがどうしてもって言うなら、今度街に出て見てみるか?」
「ヤッター! じゃああたしネックレスが欲しい」
「ネックレス? 指輪じゃないのかよ」
「あれ?」
 どこかちぐはぐな仲良し二人を見て、トゥルーデに身体を預けたまま腕を絡めたまま、くすっと笑うエーリカ。
「どうかしたか」
 トゥルーデは真面目な顔でエーリカに問う。
「何か、ちょっと昔のトゥルーデと私を思い出したかな」
「私はあんなだったのか」
「幼いとかそう言う意味じゃなくてさ。鈍いって言うか」
「本人の前でそう言う事言うか」
「だってほら。トゥルーデ、自分で言った事、もう忘れてるし」
「言ったって、何を?」
「『新年だからと言って我々のやる事に変わりはない』ぞ~って。つまりはね」
 エーリカは耳元でこそっと囁いた。途端に顔を真っ赤にするトゥルーデ。
「ちっ違っ! 私はそう言う意味で言ったんじゃない! 大体エーリカお前はいつもいつも……」
 つい我を忘れて相棒を名前で呼んでしまうトゥルーデ。そこにも気付いて、言葉が止まる。
「さ、じゃあ変わらない事、証明して貰おうかな。早速行くよ~」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか……」
「だーめ。楽しみだなー」
 エーリカはトゥルーデの唇を人差し指で塞ぐと、自分の唇にも当てて、内緒のポーズを取った。余計に困惑するトゥルーデ。そんな彼女の腕を引き付けてぐいぐいと引っ張ると、じゃあね、と残った二人に手を振って、一緒にミーティングルームから出て行った。
「ンニャ? ハルトマン達何処行くの?」
「まあ……部屋だろうな」
「何で?」
「それはルッキーニがもう少し大きくなったら教えてやるよ」
「ふぅん。二人で一緒にトレーニングするとか?」
「それはある意味当たってるかもな」
 シャーリーはそれ以上言及せず、コーヒーをぐいと飲み干した。意味が分からず、首を傾げるルッキーニ。
「ま、今日も平和ってヤツだよ。お菓子食うか?」
「食べる食べる」
 シャーリーの言う通り、基地は今日も平和らしかった。

end

317 名前:名無しさん:2016/01/01(金) 05:05:02 ID:OI0yXhJ2
以上です。
お気楽なミーティングルームでのひとこま。

ではまた~。

318 名前:mxTTnzhm ◆.7r9yleqd.:2016/01/02(土) 18:37:49 ID:3az8RllY
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編になります。

ではどうぞ。

319 名前:the point of lover's night 01/02:2016/01/02(土) 18:41:42 ID:3az8RllY
 カールスラント空軍の用事で501基地を離れ、ロンドンに一人到着したトゥルーデ。寒空の下、軍支給のロングコートを着込み、書類の入った鞄を抱え込むと、早足で軍の連絡所を訪れる。
「……以上だ。書類に何か問題は」
 受付に出た係員は、手早く501から(ミーナが書いたものだが)送られた書類の数々に目を通していく。
「すみません、この部分、もう一度司令官殿に確認願えますか」
 一枚の書類を見せられた。トゥルーデが見たところ単純な誤字だが、正式な書類では許されない。
(ミーナ、疲れているのか)
 トゥルーデはふむ、と頷くと、電話を借り、交換手に501基地に繋ぐよう要請する。
「ああ、ミーナか。預かった書類だが、一枚だけミスが有った……なに、単なる誤字、それも一文字だけだ。一応確認の為連絡した」
『あら、ごめんなさいね。何度もチェックしたのだけど』
「仕方ない。誰でもミスはする。完璧な人間など居ないさ。それよりミーナ、最近疲れてるんじゃないのか?」
『有り難う。でも、電話口で心配されてもね』
 耳元から聞こえるミーナの声も、どこか疲れ気味の様だ。トゥルーデが何か言おうとした時、ミーナが言葉を続けた。
『それよりトゥルーデ、貴方の事をもっと心配してる子が一人居るから、早く帰ってきた方が良いかもね』
「それはどういう……」
『遅い、トゥルーデ。何やってるのさ』
「その声はハルトマンか。お前こそ執務室で何をやっている? ミーナと少佐の邪魔をしてるんじゃないだろうな?」
『遅いと罰ゲームだよ』
「なんだそれは」
『ともかく、早く帰って来てよね。待ってるから。それとも、少しお喋りする?』
「こら、軍の回線を使って私話など出来るか!」
 受話器に向かって怒鳴るトゥルーデ。
「あの……用件は」
 横で待機する受付の係員も、困惑気味だ。
「ああすまない……後でもう一度連絡するから、少しだけ待て。一度切るぞ」
『えーっ、ちょっと、トゥルーデ』
 がちゃり、とまだ声の余韻が残る受話器を置き、連絡を絶つ。
「さて済まなかった。やはり単なる誤字と言う事で、私が訂正出来るのであればこの場で手続を行うが」
「ではお願いします」
 トゥルーデは用意された席に着くと、すらすらと訂正書類の作成を始めた。

320 名前:the point of lover's night 02/02:2016/01/02(土) 18:42:07 ID:3az8RllY
 小一時間掛けて用事を済ませたトゥルーデは、軍の連絡所を急ぎ後にする。
 日も暮れてきた。急ぎ、街角に有る筈の公衆電話を探す。
 確か、目立つ赤い色のボックスが有る筈だ。
 早足で歩きながら、電話ボックスを探す。すぐに見つかった。扉を開けると、中は独特の臭いがするのもロンドン流か。
 公衆電話に立ち寄る途中、通話用の小銭を売店で崩してもらい、早速電話する。
 さっきの、エーリカの言葉が、気になる。
 先程と同じ様に、501基地に繋いで貰う。基地のオペレータが出たので、早速呼び出して貰う事にする。
「ああ私だ、バルクホルンだ。ミーナを……いや、ハルトマンは居るか」
 掛け放題の軍の電話と違い、公衆電話なので、時間が気になる。
 早く出て欲しい。ポケットに溜め込んだコインを適当に放り込みながら、エーリカが出るのを待つ。
 何度かコインを投入した所で、受話器に反応が有った。しかしまだ出ない。
(あいつは何をやってるんだ。こっちは急いでるんだぞ)
 焦りが手に出る。コインを一枚落としてしまい、隙間からボックスの外に転がって出て行ってしまった。気にしている暇は無い。
 暫くして、不機嫌そうな声が受話器越しに聞こえて来る。
『何さ、トゥルーデ』
「酷いなエーリカ。お前が電話しろって言ったから」
『今何処』
「まだロンドンだ。軍で私用の電話は出来ないから、今街角の公衆電話から掛けてる……えらい勢いで小銭が減っていくぞ」
『大変そうだね』
「全くだ。それで、何か必要なものは有るか? せっかくのロンドンだ、何か……」
『要らない』
「珍しいな」
 言いつつ、一枚またコインを入れる。
「菓子のひとつでも買って帰っても良いんだぞ」
『トゥルーデが帰って来れば、それで良いから』
「随分と大人しいんだな……さては横にミーナと少佐が居るな?」
『もう、トゥルーデのバカ! 早く帰って来ないと、後で怖いよ』
「お前が言うと本当に怖く感じる……分かったよ。とりあえずお前が好きそうなもの、手短に何か買って帰る」
『本当、そう言うとこ、鈍いんだから』
「何故怒る」
『じゃあ、好きって言ってよ』
「電話口でか? まあ、好きだが」
『全然心こもってない』
 電話が切れそうになり、慌ててコインを何枚か入れる。
「ああもう。……愛してる。これで良いか? 続きは帰ってからだ」
『うん。待ってるから。待ってるからね』
「分かった。すぐに……」
 続きを言おうとしたが、小銭が無かった。そのまま通話はぶつりと切れた。
 途切れたエーリカの声。余韻が、ぼろぼろにすり切れた受話器の奥にまだ残っている気がして。
 名残惜しいが仕方ない。受話器を下ろすと、ボックスから出た。
「さて、アイツは何が好みだったか……お菓子でも買って帰るか」
 言い聞かせる様に呟くと、トゥルーデは鞄を持ち直し、再び歩き始めた。
 二人の約束を守る為に。

end

321 名前:名無しさん:2016/01/02(土) 18:42:22 ID:3az8RllY
以上です。
公衆電話での二人のやり取りを書いてみました。

ではまた~。

322 名前:<削除>:<削除>
<削除>

323 名前:名無しさん:2016/01/10(日) 13:56:34 ID:T/5XuC.2
500KB達していたので次スレです。

ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所10
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