無題
ストライカーユニットを装備して、滑走路に立つ。
見上げた空には隠すもののない、眩いまでの星々と満月が浮かんでいた。
サーニャとの夜間哨戒。この前は宮藤もいて三人だったけど、今は私達二人だけ。
「・・・・・・行くか、サーニャ」
私の後を追うように格納庫から出てきたサーニャに振り返る。
「・・・・・・」
「・・・サーニャ?」
ぼうっと空を見つめたまま、サーニャは何も応えない。
ここ数日、サーニャは今まで以上にぼんやりと、心ここにあらずといった様子が続いている。
理由は訊ねなかったけれど、宮藤と三人で夜間哨戒中にネウロイを撃墜したあの日から、こんなことが続いている。
サーニャの歌を模し、サーニャだけを狙ったネウロイ――。
そこには何らかの意思や目的があった。
恐らく、私達には分からない、サーニャにしか分からない『何か』がサーニャの心を惑わせている。
「おーい」
目の前で手を振って見せて、ようやく気付いてもらえた。
「・・・ご、ごめんなさい。また、私・・・」
「いーよ。気にすんな」
軽く笑ってみせても、サーニャは沈んだ表情のまま立ち竦んでいた。
そんなサーニャを見ていると、何故だろう。あの時の、夜の空に怯えた宮藤の姿が思い返された。
私の的外れな考えかもしれない、あまりにも安直な考えかもしれない。
けれど、私の体はもう動いていて――。
「・・・・・・エイラ?」
部隊の誰よりもサーニャの傍にいて、誰よりも遠かった私。
純粋な心を映したかのような白い肌が穢れてしまうのを恐れるように、触れられなかったサーニャの手。
そこに私の手が重なり合っていた。
「・・・あの時も言ったけどな」
「・・・?」
「サーニャは一人じゃない。皆がいる、私がいる」
「・・・うん」
ようやく、小さくだけど笑ってくれた。だから、今はもう満足。
「それじゃ、行くぞ」
「うん」
展開された魔方陣の淡い光を引きながら、私達は空へと舞い上がった。
哨戒任務を終え、基地へと戻る帰途。
基地が見え始めた頃、
「・・・エイラ」
「んー?」
「その・・・・・・ありがとう」
「どした、突然」
「・・・私はこんなだから、他の皆ともあまり上手に話が出来なくて。・・・でも、エイラがいてくれたから。私一人だと出来なかったことも、エイラがいてくれたから。だから、ありがとう」
その言葉に私は、嬉しさと・・・寂しさを感じていた。
サーニャが私の傍から離れていってしまう、そんな錯覚。それが怖くて、寂しくて。
「・・・うん」
だから、そんな一言だけしか返せなくて。
ゆっくりと目を閉じる。
幾千もの輝く星々と満月の光が遮断され、完全な闇が私を包む。
――ふと、考えてみたことがある。
この戦いが終わったら、私達はどうなってしまうのだろう。
部隊は解散し、みんな祖国へ、家族の許へ戻っていくのだろうか。サーニャも、そして私も、それが当然となってしまうのか。
そんないつかの未来を、私は見たくなかった。
もし、戦いが終わった後でも、今のように皆一緒に過ごせる日々を送れたら、それはどれだけ幸せだろうか。
未来予知能力。未来を見る力を持った私が、未来を見たくないとは、どんな皮肉か。
遥か先まで見えるわけじゃないこの力は、その時を見せてはくれない。
どんな未来が私達を待っているのか。誰にも分からない。
だから、だからこそ。
ゆっくりと目を開ける。
幾千もの輝く星々と満月の光が、私の様子を窺うサーニャの顔を、そして、ずっと繋がれていた私のひだりてとサーニャのみぎてを照らし出す。
「・・・サーニャ」
「・・・?」
せめて、今だけは――
「ずっと一緒だ」
「・・・うん」