恋と風邪はよく似てる
それは訓練終了後突然起こった。
「うう~…」
「どしたの?シャーリー」
「ん…いや…ちょっと頭が痛くてさ…」
「大丈夫?」
「…いや…大丈夫じゃ…ない…」
バタッ
「えっ?ちょっとシャーリー?…ちょっとしっかりしてよ!シャーリー!」
私はあまりの頭痛でその場に倒れ込んでしまった。
―――恋と風邪はよく似てる―――
「うーん、まあ軽い風邪ね。しばらく眠っておけば直に治ると思うわ。それにしても運が悪かったわね…。こんな時に限って宮藤さんは非番でいないし」
「…まあ、ただの風邪なんで…別に治癒魔法とかなくても」
「とりあえず休んだ方が良いわね。今日はゆっくり眠っておきなさい」
「…はい…」
そう言うとミーナ隊長は出て行った。
はぁ…風邪をひくなんていつ頃以来だろ…。
…それにしてもヒマだ。天井を見るのがこんなにヒマな事なんて初めて知ったよ。
と、どうでもいい事をボンヤリと考えていたらドアがノックされた。
「はーい」
ガチャリ
「シャーリー…大丈夫?」
「おお!ルッキーニ!見舞いに来てくれたのか?嬉しいよ~」
私はルッキーニが見舞いに来てくれたのが嬉しくてつい抱き締めてしまった。
「ちょ…!
一応病人でしょ?大人しく寝とかなきゃ!」
「ちえっ、冷たいなあ」
「…もう、ビックリしたよ。いきなり倒れるんだもん…」
「ニャハハ、ゴメンゴメン。あん時はどうにも我慢できなくてさ。でももうほとんど大丈夫!…っとと」
「まだちょっとフラフラしてるじゃん!やっぱり寝とかなきゃダメ!」
「……」
「…何?」
「…いや、ルッキーニってさ……」
「?」
「本当に可愛いな、って思ってさ」
「なっ…///」
お、ルッキーニの顔がが真っ赤になった。
「ちょ…///
熱で頭おかしくなったんじゃ…///」
「失礼ゆーな。私の頭は正常だ。ルッキーニが可愛いってのは本心だよ」
「…もう…心臓に弱いよ…///」
「ハハハ。っともう薬の時間かな。ねえルッキーニ、薬飲ませて」
「薬くらい自分で飲めばいいじゃん」
「粉薬だから苦いんだよ。だからせめてルッキーニに飲ませて欲しい」
「…わがまま」
と、ルッキーニは粉薬を手に取った。
私はここでちょっとイタズラを思いついた。
「はい、口開けて」
「いや、違う違う。ルッキーニが飲ませてよ。く・ち・う・つ・し・で・♪」
ありゃ、ルッキーニが固まった。
「くっ…くちうつし…?///」
「うん、口移し」
すると、ルッキーニは若干涙目になって、
「バッ、バッ、バカー!シャーリーのエロ魔神!自分で飲め!」
「いやだー。私はルッキーニの口移しじゃないと飲めなーい。それともなに?このまま私の風邪が治らなくてもいいの?その場合一番困るのはルッキーニだと思うんだけどなー」
「うぅ…っ」
数秒戸惑っていたルッキーニは意を決したように粉薬を口に含み始めた。
「うぅっ…苦っ…」
「そりゃま薬だからね♪」
「……」
「なに?」
「そのニヤニヤ顔やめ。ちょっと気持ち悪い」
「だって今からルッキーニが薬をくれるんだよ?ニヤニヤが止まらないよ~♪」
「…ファファ(バカ)!」
「ほらほら、そんなに叫ぶと薬がこぼれちゃうよ。…早く薬、頂戴」
「…いふほ(行くよ)…」
「どんと来い」
私とルッキーニの唇が合わさった。お互いの唇の僅かな隙間からは粉薬がこぼれているけど、そんなの気にしていられない。
そしてしばらくして唇が離れた。
「薬、ほとんどこぼれちゃった」
「…だから口移しなんてやめた方が良かったのに…///」
口の周りに粉をつけながらルッキーニがボヤく。
「どう?ルッキーニ」
「どうって何が?」
「私とのキスの感想だよ。私はファーストキスを大好きなルッキーニにあげたんだよ?
それなりの感想は欲しいね」
「…やっぱりキス目的だったんだ」
「そのとおり!薬の時間まであと30分もある!」
「いっ、いばるなぁっ…///!シャーリーの……」
「え?なんて?聞こえない」
するとルッキーニは大きく息を吸い込んで、思いっきり叫んだ。
「…シャーリーの…バカ―――――――ッ!!!!!」
「いいっ…!」
耳が凄くキンキンするっ…!
私は仮にも病人だぞっ…!?
「バカ!バカ!バカー!」
ルッキーニはバカを連発しながら私の部屋を出て行った。
「ありゃりゃ…ちょっと調子に乗りすぎたかな…。……私がルッキーニの事、好きってのは本当なんだけどな…」
その頃のルッキーニ
「……もしかするとシャーリーって私の事が本当に好きなんじゃ…///!
…いやいやダメダメ…!女同士だなんて…!…でもシャーリーとだったら嫌じゃ…いやダメだって絶対!…でも…シャーリーとだったら嫌じゃ…いやダメだって絶対!…でも…///」
ルッキーニはこの夜一人で悶々と悩み続けていた。その結果寝不足になり、翌日の訓練に遅刻し、坂本少佐に怒られたのは言うまでもない。