「ごめんナ」


 ぼやりと微睡む意識、半覚醒の状態でぼうとする……
 耳の端でガチャと部屋の扉が開く音を拾う。
 微睡んだ瞼を押し上げ、目を薄く開くと、ぼやり部屋の景色が瞳に映る。
 扉の方に目をやれば、ふらふらとぬいぐるみを抱えた少女が、私のベッドに向かってくる。
 眼は半分閉じており、口は微かに開いている。
 手に抱えたぬいぐるみを丁寧にベッドに置き、着ていた衣服を脱いで捨てたと思うと、そのまま私のベッドにぱたりと倒れ込み、すやすやと眠りについた……

「わっ、サーニャ…!」
 私はとなりで眠りについた少女の名を呼ぶ……

「んーっ……」私は思案する
 しばしの逡巡の末――
「もーっ…本当に…今日だけだかんナー……」ひとり呟きを漏らす。
 そんな私の気を知ってか知らずか、少女はすやすやと眠る。
 無邪気な寝顔を覗くと、私の事を信頼しているのか、単に自分の部屋と思いこんでいるのか、安心しきって眠っている。
「私の隣…だからカナ……?」そう小声に出してみる……うぬぼれだろうか…?
 ときおりサーニャは寝ぼけたまま私の部屋でそのまま眠る。
 その都度、私は同じ独り言を漏らす。

「むにゃ……」少女の喉から可愛らしい声が漏れる。
 その声につられ視界に入れた少女の口元に私の意識は釘付けになる。

 少女の唇はふわりと柔らかそうで、少し潤みを帯び、白い肌の上にほんの一筆、桜の花の淡薄紅をなぞったような淡い色をしている。

 少女は多分、何をしても起きないだろう……
以前、肩を揺すっても全く起きる気配がなく、ただふらふらと身体が揺れただけに終わったこともある……

 そんな事を考えていると、私の目線は無意識に少女の顔と同じ高さの位置に、また唇は少女の唇に触れそうなほど近づいていた。
 バッ――
 私は思わず飛び退き、自らの胸に手を当ててみる。
 どくん…どくん……
 ふわりと柔らかく沈む感触の奥で、脈打つ心臓は信じられない勢いで早鐘を鳴らしている。
 少女の無邪気な寝顔を間近で見つめてしまったせいか、頭の芯が一気に熱くなり、自分でも頬が赤くなっているのが分かる。

 私は何を……
サーニャに……キスしようとしタ?
「ゴメン…サーニャ……」私は眠ったままの少女に向かって呟く。
 ぴくりと少女が動く気配を感じる。

「んっ……」
 少女はもぞと動き、ころんと体勢を変えて仰向きになる。
 下着の下にはほんのり膨らんだ乳房が小さな丘をつくり、その白い肌を伝って少女の顔を覗くと、薄く閉じられた瞼が、可愛らしい少女の瞳を隠す。
 ほんの少し口元が開かれ、微かな呼吸の音が漏れる。唇は変わらずぷるんと潤み、柔らかそうで……

「ゴメン……サーニャ……」
 再度、私は少女に向かって呟きながら、少女の顔――唇に自らの唇を近づけていく……

 私は少しづつ少女の寝顔に近いていく……
 どくん…どくん……
 あぁ……あとほんの5cm程、しかしそれ以上はどうしても近づけずに止まってしまう……
 目前にはすやすやと眠るサーニャの唇から寝息が漏れる。
 そのまま、しばし逡巡して、ふっと顔を離す。
 私はベッドの上にあぐらをかき、窓の外に目をやる。
 先ほどまで暗く、星が瞬いていた空には白みがかかってきている。
「何やってんダロ……」
 そう呟き、私はガクリと肩の力を抜き…
 
 はぁ……と溜息を漏らす……


 ギシッ
 ふとベッドが揺れる。私は何だろうと思い少女の様子を確認しようと顔をくると後ろに向けた。
 可愛らしい目をぱちと開けた少女が、のそと起きあがり私のほうに倒れかかる…
 瞬間、少女の柔らかな唇は私の唇に重なっていた――


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