第4話その後


「あら、指先も怪我していたのね、ふふ」
入室して間を置かず茶目っ気のある声でミーナがそう言って、ゲルトルートの指先に触れた。
先程の戦闘でネウロイの攻撃を受け、銃が暴発してしまったのだ。
右手人差し指と中指の先が浅く裂けていたが、出血する程ではなかった。
「こんなもの、皮膚がちょっとささくれ立っただけだよ」
日もすっかり暮れ、一人自室でリラックスしていたゲルトは、触れるか触れないかのミーナの指の暖かさを感じながら声色も明るくこたえた。
「あなたの休暇申請が受理されました。明後日からでいいのよね、トゥルーデ」
ゲルトは室内灯も点けず、出窓のそばの椅子に腰掛けていたが、昨夜とは違ってその心の内は暖かい感情で満たされていた。
今夜は満月だった。青白い光が二人の姿をはっきりと浮かび上がらせていた。

出窓の上に載せられた二人の指先はまだ触れあったままだった。
「ミーナ、隊のみんなには迷惑掛けると思うけど……ひゃん!」
ゲルトは素っ頓狂な声を上げてしまった。
出窓にのせられていたゲルトの右手を、ミーナは両手で包み込むようにしながら自分の口元に寄せ、
舌先でつつくように舐め始めたのだ。
「んちゅっ、迷惑って、まだそんなこと言ってるのトゥルーデ? ふふふっ、ちゅっ」
「こ、こらっミーナ! 怪我は別に酷くないだろ? くすぐったい! くふっ」
立ち上がって腕を引こうとするゲルト。それを離さずにいるミーナの顔がいたずらっ子のように輝き始めていた。
「逃げちゃダーメ。自分の事を大切にしない人はお仕置きです」
「指っくわえるな、はわっ、噛むなったら」

窓際に追いつめられた形となっているゲルトは、首をすくめて指を甘噛みされる刺激に耐えた。
「んっ、実は、宮藤さん程でも無いけど私だって治癒魔法ぐらい使えるのよ? はむ、力を抜いて」
「はは、嘘だよ、そんなの初耳だ。包帯だってろくに巻けないクセに、ふふふ」
「いいじゃないの、もう。信じる心こそが魔法に最大の効果をもたらすのよ、じっとしてなさい」
「やれやれ。では隊長直々の治癒魔法とやらをありがたく受けさせてもらいますか」
共に戦いの空を舞うようになってかなりの月日が流れていた。そんな二人だからこそ言える台詞。
ミーナは膝をつき、ゲルトの手を取りつつ熱心にその指先をしゃぶり始めた。
立ったままのゲルトは抵抗することをやめ、少し熱のこもった目付きでミーナを見下ろした。
「どう? しみない? それともくすぐったいかしら?」
ミーナの舌が探るように、時折くすぐるようにゲルトを刺激した。
「くっ、大丈夫だ。頭がぼうっとして……い、いや、すごく満ち足りた気分になる。くはっ」
ゲルトの身体が軽く跳ねた。
彼女は空いているもう片方の手を自分の口元に寄せていたが、やがて無意識に前歯で噛みしめた。目を閉じ、肩をすくめて声を抑えている。
「ふう、トゥルーデの指、細くてしなやかでスベスベしてて美味しい。んふ」
ミーナは横顔に掛かりつつあった自身の髪を片手で耳へと掻き上げた。
もはや彼女は夢中になってゲルトの人差し指と中指を根本まで口にくわえ込んでいる。
んんっ、ふっ、くぅ。
しばらくの間、ゲルトの微かな声と、ミーナが指をしゃぶるピチャピチャという音が青白い室内に静かに響いた。

「ああっもうっ! やめやめ、やめてくれ!!」
ゲルトがいきなりぶっきらぼうに言った。
彼女自身もよく理解できなかったが、とにかくこの行為はやめさせるべきだという危機感が瞬間的にわき上がっていた。
ゲルトの言葉が耳に入らないのか、ミーナは大胆な舌使いでまだゲルトの指を愛し続けている。
やーめーてーくーれー。
ゲルトはいたずらの笑みを浮かべながら大きめの声でそう言って、空いている方の手でミーナの髪の毛をくしゃくしゃとやった。
「あ? ふえ、ふええ?」
彼女に相応しくない間の抜けたイントネーションで言葉を口にしながらミーナが我に返った。
しかし、伊達にウィッチーズ隊を束ねてはいない。彼女はすぐさまいつもの調子に戻った。
「あらあら! 私ったら夢中になっちゃって。うふふ、トゥルーデの指、いっぱい食べちゃった」
「ご賞味中のところ恐縮でございますが、わたくしの指めがそろそろふやけ始めましてね。今日のところはご勘弁願いますかな?」
どこぞの紳士のような口振りでゲルトはそう言うと、左手で脱帽するフリをしながら戯けてお辞儀をしてみせた。

静かに立ち上がったミーナが言った。
「やっと柔らかい顔をするようになったのね、トゥルーデ。これも宮藤さんの治癒魔法のお陰かしら」
宮藤芳佳が入隊して以来、思い詰めたような表情をすることが多かったゲルトだったが、いまやその面影は完全に消え去っていた。
「ミヤフジには胸のキズ以外にも、大切な部分を治してもらったような気がする」
「宮藤さんにはちゃんとお礼を言ったのよね?」
「い、いや、実はまだなんだ、彼女には辛く当たってしまったのに」
ゲルトは初めて少しだけ目を伏せた。
まあっ、まあまあまあ!
ミーナは目を見開きながらそう言うとゲルトに触れんばかりに顔を寄せた。
「このかわいいお口は”ありがとう”っていう言葉が言えないのかしら?」
彼女はゲルトの右頬を軽くつねった。その瞬間、ミーナの思いもよらない程ゲルトの身体が大きく反応した。
「っつ!」
つねるというよりはほんの僅かに指先で頬をつまんだだけなのだが、それにしてはずいぶんな痛がりようだった。
「……ごめんなさい。私が思いっ切り引っぱたいちゃったものね」
「魔法のシールドを解いた瞬間にあれだったから、結構効いたんだ」
ゲルトは照れながらそう言った。

ふたりは身を寄せ合ってベッドに腰掛けた。深く親密な雰囲気になると良くそうやって語り合う。
「そぉ~いえば、胸の傷はどうなったのかしらん? ケロッとしてるものだからすっかり忘れていたわ」
「ふふっ、今ドクターチェックを受けたばかりじゃないか。もうどこを負傷したのか分らない程に治っている」
「ああ~ッ、まだ制服を替えてないのね。穴が空いたままよ!」
これは確かめる必要性を認めます!
ミーナが興味津々の顔で更にそう言ってゲルトの胸元へ手を伸ばした。
固いクッションのベッドが一瞬大きく波打った。
「ひっどいなぁ、ボタンが全部飛んで行ってしまった。いくら廃棄するからってあんまりだ、ははは」
ゲルトはボタンを引きちぎらる形で制服の胸元をはだけさせている。その勢いでミーナに押し倒されてさえいた。
「ふふんッ、思った通り。こっちまで裂けるちゃってる。ほらっ」
暴発の破片がゲルトのスポーツブラまでも裂いていたが、そこの裂け目へミーナは無造作に指を差し入れた。
「はひゃ、ひゃひゃっ、くす、くすぐったいよ、ミーナ、くすぐったいってぱっ、くふッ」
「んもう、相変わらず素っ気ない下着よね。トゥルーデも年頃の女の子なんだから、もっと可愛らしいのをお召しなさいな。えいっ」
ミーナは懲らしめるかのように指先で刺激したかと見るや、更に乳房にまで手を掛けてきた。

ゲルトの左の乳房を下から持ち上げるかのように優しく揉みしだく。
「いやッ、そこっ、そこ違うから! そこ違うからぁっ!!」
初めは負傷した左乳房だけであったが、ゲルトの反応にすっかり興に乗ってしまったミーナは、両手で二つの乳房をゆっくり押し開くように掴んだ。
あらぁ、傷口が見当たらないわぁ。傷口が見当たらないのよトゥルーデぇ、ここかしらぁん?
鼻息も荒くわざとらしいことを言いながらミーナの揉み込みは強くなるばかりだ。
「くは、ダメッ……ダメぇっ! これ以上は、そんなっ……でっ、出ちゃうからっ、出ちゃうよぉっ!!」
ビクンっと仰け反ったゲルトの身体から何かが勢いよく飛び出した。
「やん、これこれ! ジャーマンポンターの耳とシッポ、感じ過ぎちゃうと出ちゃうんでしょ!? この垂れたお耳が最高にカワイイのッ」
ミーナは新たに飛び出したゲルトのもうひとつの耳を噛むともなく、舐め回すでもなく、撫でるのでもなく、好き放題に愛撫し始める。
隊長命令とやらの触診が、ゲルトの意向を当然のごとく無視して、しばらくの間繰り広げられた……。

窓から差し込んできたまばゆい朝日と天使の歌声でゲルトは目を覚ました。
最近感じていなかったこの充足感はミーナのお陰なのだろうか、そう考え始めた刹那、ゲルトは自分が何も着衣していないことに気付いて血の気を失った。
ま、まさか、ミーナのヤツ、私の身体をどこまでも?
そんな考えが彼女の頭をよぎったが、馬鹿げた妄想だとすぐに追い払った。
身体のどこにも違和感を感じなかったし、ミーナとふたり裸で抱き合って寝ることは、実はしょっちゅうなのだった。
ゲルトは声を出さずに苦笑いしてベッドの上で身を起こした。

ミーナは朝日を浴びて窓辺に立っていた。
彼女も一糸まとわぬ姿だったが、窓枠に両肘をついているのでご自慢のお尻をゲルトに向ける形となっている。
微かな声で歌を口ずさんでいて、まるでゲルトを誘うように形の良いお尻を小さく揺らしていた。
みんなが笑ってるぅ~。お日様も笑ってる~。
悟られることもなくミーナの背後を取ったゲルトにはその歌が酷く呑気に聞こえた。
「……んがッ!? ぐッ! ぐッ?」
ミーナはまるでひきつけでも起こしたように硬直して細かく震えだした。悶絶して歯を食いしばり、白目まで剥いていて普段の清楚さは微塵もない。
ゲルトの指がミーナのどこよりも敏感なお尻の窄みを容赦なく突き上げていたのだ。
ゲルトルート乙女のリベンジ、刻は、来たれり。
「魔導エンジンスタート! 今日は一日フルスロットルだよ? ミーナ隊長」
ゲルトは突き込んだままの指をイグニッションキーよろしく九十度ほど捻った。

その日、ネウロイ襲来が無かったのがせめてもの救いだったが、ミーナの異常テンションはウィッチーズ隊全員を震撼させた。
ただ、ゲルトだけは休暇を一日前倒しにするという裏技を用いてこれを回避した。撃墜王はたとえ戦闘以外であろうともやられっぱなしでは済まさないのである。


(糸冬)


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