無題


珍しく起床のファンファーレの前に目を覚ました芳佳。
坂本少佐との早朝稽古のためでもなければ、今朝の料理当番だからでもない。
単に目覚ましの設定を間違えただけだ。
二度寝しようかとも思ったが、今度は寝過してしまうのが目に見えている。
「うぅっ…まだ4時間しか寝てないのに…」
あまりの眠さに目覚ましの確認を怠った昨夜の自分が恨めしい。
とりあえず顔を洗いに行って、頭をすっきりさせてこよう。
そう思って、ベッドからはい出し、部屋を出ようとした芳佳だったが…
ドアを開けるとそこには焼きたてほかほかのお好み焼きが鎮座していた。
わけがわからないものの、とりあえずお好み焼きを持って部屋の中に舞い戻る。

お好み焼きを前にして、「う~ん」と唸り声をあげている芳佳。
送り主は誰か、起きたばかりでいまいち調子の出ない頭で必死に考えているのだ。
普通に考えれば前科のあるサーニャの仕業だろう。
茸スープのパイ包み、ボルシチの鍋といった具合に、
今までも部屋の前の廊下にサーニャの手作り料理が置かれていることは度々あったのだ。
とはいえ、彼女のレパートリーにお好み焼きが入っているのか若干の疑問は残る。
ここにあるお好み焼きは見栄えがよく、漂ってくる匂いも一級品だ。おそらく味も悪くないだろう。
扶桑の人間でもない彼女にこんなに完璧なお好み焼きが作れるだろうか。

サーニャの件は後回しにして、他の候補を考えてみる。
基地内に芳佳と同じ扶桑出身者は一人しかいない。彼女をブリタニアに連れてきた張本人でもある坂本少佐だ。
しかし、あの坂本少佐がお好み焼きを作るところはちょっと想像できない。
よしんばそんなことがあったとしても、
坂本少佐ならば「どうだ宮藤!さぁ、遠慮せず食え!」といった感じで直球で進めてくるはずだ。
間違っても寝ている間にドアの前に置いておくなんて真似はしそうにない。
これは芳佳の親友であるリーネのおっぱいがでっかくてふにふになのと同じくらい確実なことだ。
そのリーネも料理好きという点では可能性はある。
現に親睦会の翌日、彼女とは一緒にお好み焼きを作っている。
その時は2人でわいわいとお喋りしながらお料理していたら作り過ぎてしまい、
夕食当番のシフトをぶち破って、隊のみんなに食べてもらったのだった。
「あっ、そっか!そういうことだったんだ!」
お好み焼きをみんなにふるまったのは夕食の席だ。
朝食の席ならいざ知らず、夕食の席にはサーニャもちゃんと座っていた。
みんなががやがや騒いでいる中、彼女はエイラの隣でもくもくとお好み焼きを食べていた。
そして、珍しいことにおかわりまで要求していたのだ。
「サーニャちゃん、お好み焼きが気に入って、それで自分なりに研究して、私に作ってくれたんだ…」
送り主の想いに気づき、さっきまでの小難しい表情とは打って変わって笑顔を浮かべる芳佳であった。

翌朝、いつものようにサーニャが夜間哨戒から帰ってきた。
疲れのあまり間違えてエイラの部屋で眠りこけてしまうことも多い彼女だが、今日は無事に自分の部屋へのコースをたどっていく。
欠伸をしながら部屋の前までたどり着くと、そこにはボルシチの鍋が置かれていた。
「……?」
混乱しながらも、鍋のふたに張られていた付箋を見るとそこにはこう書かれていた。
『サーニャちゃん、お仕事ご苦労様。昨日のお好み焼きとってもおいしかったよ!
今度はリーネちゃんと三人でなにかお料理作ろうね!
P.S. ボルシチ作ってみたよ。サーニャちゃんほどうまくは作れなかったけど、よかったら食べてね。
                                            芳佳』
「宮藤さん…」
鼻歌を歌いながら、お鍋を抱えて自室にっていくサーニャであった。


同日午後、サーニャと芳佳の距離が縮まったのを感じ、エイラが芳佳につめよる一幕があるのだが、それはまた別の話。


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