少佐×隊長


「今回もなんとか無事戦闘終了ね...。」
「ああ。」
エイラ、サーニャ、宮藤の戦闘が無事に終わった事に胸を撫で下ろし、暗闇の中、展望台から司令室に戻る。
「あの恥ずかしがり屋のサーニャさんとこんなにすぐ打ち解けれるなんて、さすがね、宮藤さん。」
「ん、人懐っこいとこがいい所だなアイツは。本当に犬みたいな奴だ。」
ミーナは少し苦笑した。二人にとって何気ない会話だが、少し美緒の様子が気になる。
ふと隣の美緒の顔を覗き込むと彼女は少し難しそうな表情で遠くの星空を見つめている。
彼女のこうゆう表情を見ると胸が少し苦しくなる。
原因は分かる。自身の魔力の低下を少しずつ自覚しているのだろう。
長年最前線で戦い続け、軍人として誰よりもウィッチーズに誇りを持っている彼女の事だ。
もうすぐなくなるであろうウィッチとしての力の事を考えると相当辛いに違いない。
いや、根っからの軍人である美緒の事だ、きっとなんとかして戦い続けたい、そう考えているのだろう。
「...美緒」
そんな彼女が少し心配になり、思わず声をかける。
「ん?」
「何を考えてたのかしら?」
「...いや、いかん、少しぼーっとしてしまったな!」
あっけらかんとした笑顔で答える美緒を見て、やはり胸が苦しくなる。
彼女は強い。いや、そう見えるだけなのかもしれない。
誰にも弱さを見せはしない。ミーナにはそれが苦しくてしょうがなかった。

薄暗い司令室に戻ると二人は向かい合ってソファに腰掛け、今回のネウロイについて話をした。

「...今回の敵に関しては、さすがに報告書の作成に悩みそうだわ。」
「ああ、上の奴らの動きも気になる。」

何て事ない会話、いつもの二人の時間が流れる。
しかしミーナの心は穏やかではなかった。
先刻の美緒の表情が頭をよぎる。
彼女の支えになってあげたいが、この問題ばかりはどうしようもないし、
これはウィッチーズの宿命でもある。
それに美緒自身、人に弱みを見せたり、頼ったり、ましてや甘えたり出来る性格ではない事はよく知っている。
せめて相談でもしてくれたらどんなに楽だろう。
何も出来ない自分が悔しくなる。

「ミーナ?...報告書が大変なら私も手伝うが...」
あまりに浮かない顔をしていたミーナを心配そうに美緒が覗き込む。
「い、いえ大丈夫よ。」
少し驚き、いけない、逆に心配されてどうする!と自分に言い聞かす。
「あまり無理はしない方がいいぞ、ミーナ中佐。何かあれば部下であるこの私にどんと頼っていいのだからな、わっはっは!!」
とても部下とは思えない態度で笑う。
美緒はすっかりいつもの豪快にして気さくな坂本少佐に戻っていた。
ずるいな、と心底思う。自分は人に甘えたり頼ったりしないくせに、それなのに名目上、上官であるミーナに私に頼れとサラッと言えてしまうのだ。
ミーナにとって今一番大切なのは目の前の美緒。それを自覚していても過去の別れを引きずってしまう弱い彼女を美緒は横で支えてくれる。
その優しさにミーナは甘えてしまうのだ。心の寄り所として。

「...そうね、じゃぁ...少しだけ...」
「ん?何だ?」
「...キスして欲しいわ」
ミーナは恥ずかしそうにそう言うと、立ち上がり、目の前に座っている美緒の太ももへ向き合ったまま腰を下ろす。
二人の距離が一気に縮まる。美緒はミーナが後ろへ落ちないように彼女の腰へ手を回す。
ミーナも少し下にある美緒の頭を抱きかかえる。
「そんな事でいいのか?」
押し付けられたミーナの胸元からスッと顔を出し、美緒が優しく微笑みかける。
普段豪快な喋り方をする分、優しい口調なのがやたらとドキドキさせてくる。
自分から言い出した以上、この異常に高鳴る鼓動を悟られたくなくて、ミーナは自分から美緒に口付けた。
何度も何度も優しくキスをする。背中に回った美緒の手の動きがなんだかくすぐったい。
「...ん...はぁ...!」
急に強く抱きしめられたと思ったら、今度はゆっくりと美緒の舌がミーナの口内に侵入してくる。
勿論それを拒む思考などとっくに停止してしまっているし、どこで誰と覚えたのか美緒はこうゆう事に関してひたすら上手かった。
ふわふわと美緒の髪の香りがただよい、とても心地よい。ミーナは夢中で美緒との口づけを欲した。
頭のどこかでいけないな、いやらしいな、と感じているが、どうにも美緒の唾液にはそうゆう思考回路を溶かしてしまう成分が入っているらしい。
いや、そうゆう事にしておこう。
二人きりの司令室は激しいキスと衣服が擦れる音が静かに響く。
熱い。体はもうとっくにキス以上を求めている。
ミーナは体の火照りを少しでも納めるため、堅苦しくきちりと止められた制服のボタンをはずす。「...はぁ!...美緒!!」
美緒もミーナの要望に答えるように少しはだけた胸元に吸い付く。
暖かい快感がミーナを襲う。
だんだんと息もあがって、ますます盛り上がってきた所で
「ん?」
美緒が急に唇を離す。急にキスを止められたミーナはポカンとして美緒を見つめる。 
「どうしたの?」
「あの三人、帰ってきたみたいだぞ。」
「っえ!?....ええ!?」
人一倍気配を察知するのが得意な美緒の言う事だ、間違いない。
慌てて我に返ったミーナは自分の行動が心底恥ずかしかったのか急いで立ち上がり美緒に背中を向けた。
隊長である自分が、いくら無事戦闘を終えた後だからって、部下が疲れて任務から帰ってきている中こうゆう事をするのはまずかった。
耳まで真っ赤になり、あわあわとしているミーナを見て美緒はわっはっは!と豪快に笑う。
さっきまでの優しい囁き声が嘘みたいだ。
「まぁその様子だと皆と顔も合わせられんだろう。報告は私が聞いてこよう。」
美緒はスッと書類を取り、三人を迎えに司令室を出ようとする。
「美緒!」
ミーナは慌てて呼び止める。
「悪かったな。心配させたみたいだ。」
美緒には全てお見通しだった。
「...そんな事ないわ、私あなたに甘えてばかりで、今だって...」
「いや、それは私の方だよ。」
以外な言葉だった。美緒に何かしてあげたくて、でも上手く出来なくて、あげくの果てに
今回のように美緒に何かを望んでしまう。自分が心地良くなるための逃げ場所にしてしまっている。
ずっとそんな自分が卑怯な気がしていた。
「私はいつもミーナを頼りにしている。そうは見えないかもしれないがな。この先何があってもそれは変わらない。
だからプライベートな事でくらい、もっと素直に私に甘えていいのだぞ。
とりあえず今はとても報告を聞けるような状態じゃないだろう?わっはっは。」
美緒は笑いながら司令室を出て行った。

そうか。私は頼りにされているのか。ほっとしたと同時にまた胸が切なくなる。
いつまであの豪快な笑い声が聞けるのだろうか、この先この人を失うような事があれば...。
考えるだけであの悲しみが蘇る。いや、きっと2度目はもっと辛い。
ミーナはスっと息を吸い、ウィッチーズの隊長として、一人の女として、どんな事をしてでもこの人を守ろう、そう心に強く誓った。



ふと制服に目をやると制服のボタンははだけ、くしゃくしゃになっていた。
「...ふぁ、ああ!!」
さきほどまでの羞恥心が倍になってこみあげてくる。
ウィッチーズの隊長として、一人の女として、だらしない自分の格好にいたたまれなくなりへなへなと地面に倒れ込むミーナであった。


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