幸福論
「んっ・・・やっあん!!」
窓から差し込む月明かりが彼女の白い肢体を仄かに照らす。
小さな部屋の中に響くベッドの軋む音と粘着質の絡まりあう音。
そして、情欲を含んだ彼女の鳴き声が私の理性を壊していく。
「リーネちゃん、可愛い・・・」
「よ、しかちゃん・・・そんなとこ、や、だぁ・・・」
汗ばんだ肌に指を滑らすと、鳴き声が更に上擦った。
泉のように潤ったそこを舐めあげると、甘酸っぱい聖水がとめどなく溢れ出してくる。
飲みきれなかったそれと私の唾液の混じったモノが滴り落ちて、真っ白いシーツに大きな染みを作っていく。
「リーネちゃんって胸だけじゃなくて、こっちも感じやすいんだね」
「いや、らぁ!・・・い、じわる・・・しな、いでぇ・・・」
「もっとリーネちゃんの可愛い声が聞きたいな」
「んっあ!!っやぁあっん!・・・よし、かちゃっ・・・ら、らめぇ!」
ハァハァという荒い息遣い。
さっきより掠れて、短くなっていく声が彼女の絶頂が近い事を教えてくれる。
もっともっと、乱れた姿が見たくて、私は彼女の弱い部分を少し乱暴に攻めた。
「リーネちゃん、大好き。世界で一番大好きだよ」
「あんっ!・・・わ、たしもぉ、よっ、しかちゃっ!! はぁ、あぁッ!ん、ぅ、あ、あぁぁぁっ!!」
白い咽喉を反らせて、彼女は大きく身体を震わせる。
飛び散った大量の愛液の生温かい感触が私の顔を濡らした。
「んはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もぅ、芳佳ちゃんのえっち・・・」
肩で息をしながら、彼女は上目遣いで私を睨み付ける。
餌をおねだりする猫みたいなその仕草が凄く可愛い。
「だって・・・リーネちゃんが可愛過ぎるからイケナイんだよ?」
私は顔に掛かったそれを軽く拭ってから、ちょっぴり拗ねている彼女に何度も何度もキスの雨を降らせた。
開け放った窓から吹き込む夜風が火照った肌に心地よい。
空には雲一つ浮かんでいなくて、まん丸のお月様がぽっかりと浮かんでいる。
聞こえるのは海岸に打ち寄せる波の音だけ。
とっても、綺麗で、静かで、平和な夏の夜。
「平和だね。毎日、戦ってるのが嘘みたい」
「うん・・・」
私の言葉に頷く彼女の頭を優しく撫でる。
彼女はくすぐったそうに身を捩ると私の腕の中で小さく丸まった。
「ねぇ、芳佳ちゃん。私、今、すごく幸せだよ・・・」
私の顔を見上げながら、彼女はぽつりと呟く。
曇りの無い、優しい眼差しが心地よい。
「ふふ。どうして幸せなの?」
そっと彼女の手を取ると、しなやかな指が絡まってくる。
小さいけれど温かい感触が愛しい。
「芳佳ちゃんが居てくれるから・・・」
「もぉ~、何それ?」
顔が赤くなっていくのがよく分かる。
面と向かってそんな風に言われると何だか恥ずかしい。
私のそんな気持ちを知ってか知らずか、天使の様な笑顔を彼女は浮かべる。
「私ね、ここに来た時は辛くて仕方なかったの。毎日毎日、厳しい訓練ばっかりだし、戦闘では皆が頑張ってるのに、私は何も出来ないし・・・」
ふと、初めて彼女に逢った時の事を思い出す。
彼女はいつも、自信が無さそうな、居心地が悪そうな、とても暗い表情をしていた。
私が話し掛けても全然返してくれなくて、嫌われちゃったのかなと不安でしょうがなかったのも、今ではいい思い出だ。
「だけど、芳佳ちゃんがここに来て、私と仲良くなってくれた・・・」
握った手にきゅっと力が込められた。
「一緒にお話して、一緒にお料理して、一緒に訓練して、一緒に出撃して。芳佳ちゃんがいつも一緒に居てくれたから、そういう気持ちはどっかに飛んでいっちゃったんだ」
「リーネちゃん・・・」
今まで見た事のないような極上の微笑みを彼女は私に向ける。
「芳佳ちゃん、ありがとうね。私、芳佳ちゃんに逢えて本当に良かった・・・」
優しい言葉と笑顔をくれる彼女をぎゅっと抱き寄せる。
「お礼を言いたいのは私の方だよ。私だって、リーネちゃんが居てくれるからこうやって、頑張れるんだから」
ここに来るまでの私は、昔の彼女と一緒だった。
口では誰かの力になりたいと言っている。
だけど、実際は何も出来なくて・・・戦う事が怖くて・・・結局はただ見ているだけだった。
そんな自分に自信が持てなくて、自分自身があまり好きではなかった。
でも、今は違う。
皆の為に・・・彼女の為に・・・そう思うと不思議と力が湧いてくる。
それに自分は一人じゃない。
自分の事を支えてくれる大切な人が傍に居てくれるのだから。
「リーネちゃん、ありがとう。私もリーネちゃんが居てくれるから、とっても幸せだよ」
感謝の気持ちと愛情を込めて、可愛らしい唇に優しく口付けをする。
蕩けそうなキスを交わすと、幸福感で胸が一杯になった。
重なった唇を離すと、自然と笑みがこぼれる。
私達は見つめ合いながら、クスクスと笑いあった。
「ふふ。そろそろ、寝よっか?
明日も朝早いし」
「うん。芳佳ちゃんが寝坊しないように、起こしてあげるね」
「あはは。お願いします」
指をしっかりと絡めあって、一緒に布団に潜り込む。
彼女の大きな胸は柔らかくて、温かくて。
まるでお母さんに抱かれているみたい。
「ねぇ、芳佳ちゃん・・・これからもずっと一緒に居てくれる?」
「うん。勿論だよ」
「私がおばあちゃんになっても?」
少し心配そうに訊ねてくる彼女に、私は心から答えを返す。
「うん!ずっとずっと。いつまでも一緒にいようね」