続・幻のWW2(空戦と百合は女の華)


―はじまり―

ブリタニアは今日も晴れていた。日差しの差し込む司令室、ミーナと美緒。
「今日の訓練は…あの二人の模擬戦か…楽しみだな」
「ふふふ…そうね、機材を壊さなきゃいいんだけど」

―続・幻のWW2(空戦と百合は女の華)―

シャーリーはハンガーで機材のセッティングに余念がなかった。
さっきまで寝ていたルッキーニが梁から降りてくる。

「シャーリー何のじゅんびしてルノ?」
「おはよう!ルッキーニ。今日はバルクホルンと模擬戦なんだ!」

バルクホルンの名前を聞いてルッキーニはビクンッと固まる。まだこの間の件を忘れていないからだ。
「シャ、シャーリー、ガンバ…フシュルシュルルフルフル」

仔猫のようにルッキーニがすり寄ってくる。サラサラとした髪が太腿に触れてくすぐったい。
私はルッキーニの頭をわしわしとなでる。
「ま、この間のは前哨戦て所だしな…頑張るよ!」

その時、ハンガーにもう一人の人影が。バルクホルンだ。

「おはよう、シャーリー、ルッキーニ」
「おう、おはよう。今日はよろしくな!」
「あぁ、今日はジャガイモのようにはいかないぞ」
「それでこそ、不屈の精神こそ、カールスラントの美徳って訳か」

バルクホルンは満足そうに頷く。
「ああ、何事も諦めはしない。今回も、な」

「まったく、暑苦しいなぁ。ただの模擬戦なのに」
「そう言うシャーリーこそ早起きして整備してたんじゃないか?」

私はレンチを操る手をとめ、バルクホルンを見返す。

「う…、そういえばそうだな。はっはっはは」
「今回は負けないぞ、リベリアン」
「なんの、返り討ちだ」


基地上空、500フィート。南南西の風、風力2。雲量1、雲高無限。
絶好の模擬戦日和だ。審判員のペリーヌがルールを説明する。

「今日の模擬戦は同位戦です。基地の南北から相対して200km/hですれ違った瞬間から開始となります。何か質問はありまして?」

私たちは二人とも首を軽く振る。空は青く、優しい風に乗せて遠くからツグミの鳴き声が聞こえる。

「これはミーナ隊長からですが、く!れ!ぐ!れ!も機材を壊さないようにとのお達しですわ。お気を付けてあそばせ」
「了解!」「了解だ」

ペリーヌが手に持った旗を高く掲げる。

「それでは反航開始です!」

私はゆっくりと北へと身体を向ける。マーリンの調子は今日も絶好調。こう言っちゃんだが、負ける気がしないね。
魔導エンジンの回転数に合わせて、震動が少しずつ小さく細かくなっていく。気持ちが昂ぶってくる。ゆっくりと、目を閉じ、そして開ける。戦闘へのイニシエーションだ。

身体を傾け、風を掴んで南を向く。2000フィート先に小さな点が見える。バルクホルンだ。
私はペイント銃の安全装置を外し、2発ほど試し撃ちをする。問題無い。
エンジンに圧力を加える。ゆっくりと、エンジンが息を付かないように。私のピーキーなエンジンは急なスロットル操作をすれば簡単にフレームアウトしてしまう。だがその分、伸びは誰にも負けない。

スピードが乗ってくる、120km/h、150…180…、200。さっきまで視界の中の小さな点だったバルクホルンが、あっという間に表情が見える程になる。
「いくぞ!」「おぅ!!」

ペリーヌが旗を振り下ろす。「バルクホルン大尉対イェーガー大尉!模擬戦開始!!」

私はすれ違った瞬間に身体を地面へと向ける。スロットルも限界まで開く。重力を利用して、まずは最大戦速まで加速するのだ。マーリンが喜びに震えている。
加速しながら私は上空を注視する。加速の為とは言え、上位を譲るのは本来得策ではない。特に太陽の中を見る。…居ない?

「どこだ…?」

最大戦速まで乗った私は徐々に機体を引き揚げる。機位の変更によって風に揉まれる。しかし注意は怠らない。

「…っ!いた!」

バルクホルンは私の後方上位300フィートにつけていた。

「リベリアンの加速が良いのは認めよう、だが、私のフォッケだって捨てたものではないんだ!…いくぞ!」

バルクホルンが身体を反転し、頭から私に突っ込んでくる!この高度差はまずい!
しかし私は姿勢を変えない、バルクホルンが迫ってくるのをゆっくりと待つ。今、旋回しては速度に乗ったバルクホルンに易々と追撃されてしまうからだ。
バルクホルンもそれは分かっていて、降下しながらも身体を細かく左右にゆらし、フェイントを掛ける。

さすがカールスラント…やるなぁ。

私は頭の片隅でそんなのんきなことを考えながらタイミングを図る。まだ早い…早い…バルクホルンが銃に手をかけた!今だ!

私は上昇を中断し、身体を水平に一瞬だけ戻す。上昇するために乱れていた空気の流れが正常にもどる。
バルクホルンのペイント銃から模擬弾が発射される!だがまだ遠い!
「よし!つかんだ!」
私は思い切って身体を九十度傾け、引上げるように左旋回する。儀装がガタガタと嫌な音を立てる。
この速度で無理な旋回をすれば、たちまち高速失速するだろう。

速度に乗ったバルクホルンは急な引き起こしができず。私の右下方へ飛び去る。私に追従する様子を見せない所をみると、そのまま一撃離脱をするつもりだろう。案の定、バルクホルンは1000フィートほど私から離れると、上昇行動に移った。

「そんな一本槍な戦闘方法じゃ飽きられちゃうぜ、バルクホルン」
「そーゆー事は、私に勝ってから言って貰おう」

私は機位を水平に戻し、また上昇に移る。バルクホルンは私の遥か下方だし大丈夫。上昇しながらバルクホルンを正面に捉える様、向きを変える。
バルクホルンは上位から覆いかぶさろうとする私など関係ないように上昇を続ける。

「いくらフォッケでも過信は禁物、だよ、っと」

バルクホルンの前方上位に位置した私は身体を翻し、ヘッドオンの体勢を取る。ペイント銃の照門と照星ごしにバルクホルンを捉える。バルクホルンも銃を構ええ、発射態勢をとる!

「貰ったぁぁ!」「うおぉぉぉ!!!」
引き金に力を入れる!乾いた音と共にペイント弾が発射され、曳航弾がバルクホルンに吸い込まれる!同時にバルクホルンが発射した弾丸が私の身体の周りで唸りをあげて飛び去る!

反航が完了した瞬間に私は身体を姿勢に変え、上昇に移る。
そしてそのまま後ろを向き、バルクホルンの背中を狙う。しかしバルクホルンはヘッドオン後にまた下降に移り、下方に逃れる。

ペリーヌからの通信が入る。
「バルクホルン大尉被弾あり!軽!同じくイェーガー大尉被弾、軽!続行します!」

そうでなくっちゃな!私はますます気分が高揚してくる!視界が広がり、すべてを見渡せるような気分だ!

「カールスラント!なに逃げてやがる!怖気づいたか!!」
「はっ!これだからリベリアンは単細胞なんだよ!」
「たっ!単細胞だとぉ!!馬鹿にしやがって!いくぞぉぉ」

私は全身の血がたぎり、バルクホルンのいる方位やや上方へ身体を傾ける。マーリンが唸り、チーム随一の速度でバルクホルンに迫る!いくら下方への加速をしてもユモ製魔導エンジンだ、マーリンの敵じゃない!!

私はバルクホルンの上位後方500フィートにつける!絶好のポジションだ!

「ははは!どうしたもう終わりかぁ!」

準星にバルクホルンを捉える、この速度差、この距離では外しっこない。人差指に力を込めると同時に曳航弾がバルクホルンに向かって迫る!
その時、インカムから不敵な笑いが聞こえてきた。

「ふふふっ、…フォッケの素晴らしさはな!速度の格闘性の両方に秀でた所なんだよ!!」

そう言うとバルクホルンは身体をユニットが軋むほど引き上げ、易々と弾幕から逃れる!そのまま身体を傾け、回転を始める!

「くそっ!バレルロールだとっ!!」

このままじゃ後ろを取られる!私は身体を捻り、バルクホルンの射線から逃れる!このまま負けられるかぁ!!!

― ― ―

司令室。ミーナ隊長と美緒が二人の戦闘を見ている。
「いい勝負だな。シャーリーも思ったよりやる」
「そうね、これなら主力も任せられるかも知れないわね」

「しかし、なんだか昔の私たちを見るようだ」
「ふふふっ、全くね」

― ― ―



その日の夕刻。模擬戦はとうに終わって、私たちは一日の疲れを風呂で落としているはずだった。はずだったんだけど…。

私とバルクホルンは整備長に呼び出されていた。
ティアドロップ型のメガネをかけた、初老の紳士と言っても良い年齢の整備長のこめかみには血管が浮かんでいた。

「あのなぁ、姉ちゃんがた。俺たちはなぁミーナ隊長から必要以上に接触するなって言われてるんだ…わかるな」
「はいっ!」「わっ!」
「だが今回ばかりは言わせてもらうぜ…」

整備長の視線が刃よりも鋭く光る。

「ばっかやろぅ!!!どこに模擬戦でストライカーここまでぶっ壊してくる奴がいるんだぁ!!」

整備兵が作業中のハンガー内に怒号が響く。
ストライカーは模擬戦のあまりの激しさにカウルは吹き飛び、構造材の到る所にひびが入ってしまったのだ。
ネウロイ相手でもこんなにボロボロになる事はそうは無かった。

ルッキーニはとうの昔に逃げた。ペリーヌと一緒に。

「おめぇ、明日ネウロイが来たらどうすんだ!俺たちゃ、せんでも良い仕事で徹夜じゃねぇか!」

「はっ!申し訳ありませんでした!」
バルクホルンは踵を揃えて謝る。カールスラントは本当によく訓練されているなぁ。

「おう!そっちのおっぱいのでけぇ方はどうしたぁ!」
「なっ!もっ!申し訳ありませんでしたぁ!」

整備長は満足そうに頷くと、手を下向きに振る。
「まぁ、元気があるのは悪いことじゃねぇ。次からは気を付けてくれ、この話はしめぇだ」

「「はっ!失礼します!!」」

そう言うが早いが私とバルクホルンは逃げるようにハンガーを後にする。
「なぁ、バルクホルン。やりすぎたかなぁ」
「私としたことが熱くなりすぎたかもしれん」
「実は私もだ…」

「風呂、行くか…」
「あぁ…」

しかし、この時の二人は知らなかった。
風呂上がり後にはミーナ隊長からも正式に、そしてこってりと絞られることになるとは。

―おわり―

作者注:最後の整備長はパトレイバーのおやっさんのイメージでお願いしますww
こんなかんじね。
元URL:ttp://www.production-ig.co.jp/contents/works_sp/images/minipatopsp/sakaki.jpg


前話:0055

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