Call you
食堂にはもうみんなそろっていた。
カウンターに食事を取りに行くと、そこには私の後輩…いや、い…いも…妹の芳佳がいた。
「おはようございます、バルクホルンさん」
あぁ…芳佳が、…芳佳が私に挨拶を…(至福)
そ、そうだった。ここは、おはよう、宮藤。とにっこり笑って返事をするべきところだ!
がんばれ自分!
「…あ、ああ。しんじ…じゃない。えっと…
あー、んー…み…」
なぜ出来ないんだ私!
「バルクホルンさん?」
「…いや。お、おは…よう、みやふ…」
「え?」
芳佳が私の顔を覗きこむ。かわいい…。
「う!な、なんでもない!気にしないでくれ!!!」
(どうしちゃったんだろバルクホルンさん…
ちゃんとは聞こえなかったけど、おはよう、って言ってくれていた気がする)
「はぁ…」
自己嫌悪になりながら席についた。
「あれ?トゥルーデ、顔が赤いぞ?」
「‥ハルトマン。気にするな…いつものことだ」
(いつものことって…おい…)
ひととおり食事を済ませた後。
ミーナが私の部屋へやってきて一言。
「トゥルーデって、ほんと照れ屋さんよねv」
「な‥‥、ミーナ!」
「“みやふじ”くらい言えなさいよ」
完璧お姉さん目線。まさかこいつに見られていたとは。
「たった四文字でしょ?」
「その四文字が…どれだけ…」
「はぁ~、あなたって…」
やれやれといった顔をしながら、ミーナは出ていった。
「なんなんだあいつ…」
いや、むしろ私の方がなんなんだ?
名前ひとつ呼ぶのにこんなに苦労して…
まるで思春期の男子みたいじゃないか!
‥‥そもそも男の考えていることなど知らんが。
いいか、ゲルトルート。
みやふじ。みやふじだ。
何もいきなり芳佳と呼ぶわけじゃない。
みやふじ、だ。かんたん。簡単だぞ!
ちょっと部屋から出よう。ここにいても悶々するだけだ。
ガチャ――ドアを開けた瞬間―、
(よ……芳佳っ!!)
目の前にたった今まで考えていた妹(仮)の姿が!
「あ、バルクホルンさん。こんにちは~」
なんて人当たりのいい子なんだ…!
――なんてことを思っている場合じゃない。
ここは『こんにちは、宮藤』と言う場面だ。
がんばれトゥルーデ!いけいけトゥルーデ!
「こ…こんちには、…み…みや…みやふじ…」
噛 ん だ っ ! (恥)
「…え?」
な…なんだコンチニハって!絶対変な奴って思われた!
「あはっ」
芳佳の唇から笑いのような息が漏れた。
「あはははははっ!ばっバルクホルンさん!
こんちにはって!」
「頼む…忘れろ…」
「ムリですっ…」
「頼むから!」
「ダメですよ」
「なぜだ!」
「だって、照れ屋のバルクホルンさんが初めて私の名前呼んでくれたんだもん」「……え」
一瞬状況が判断できなかった。
な、なんだって?
「お、お前、」
「もう呼んでくれないんですか?」
「な…」
ああ、暑い!なんかここ暑くないか!?
「かわいい。バルクホルンさん」
「――はぁっ!?だれが!わ、私は寝る!」
なんだこれ…。完全に芳佳のペースじゃないか。
姉失格にも程がある。
言ってから気づいたが、今は明らかに寝る時間ではない。
顔を真っ赤にしながら歩いていると…
げ。ミーナだ。
「あら?トゥルーデ、うまくいったの?」
私を見てうれっしそーに笑っている。
「う‥‥うるさいバカ!」
「バカって…同郷といえども私は上官よ?」
「うるさい!私は寝るんだ!」
そう言い放ってスタスタ歩いた。
夢中で歩いた。
「そっちは貴女の部屋じゃないでしょ~?」
最悪だ。最悪すぎる。
反対方向に歩いていた…。
仕方なく踵を返した。
「まったく。かわいいわね、トゥルーデは」
「ふん、なにが!!」
怒り飛ばして、部屋へと早歩き。
私という奴は…。どれだけダメ人間なんだ。
こんちには
こんちには
こんちには
頭の中で、さっきの失態と恥ずかしさが何度もリフレインする。
…あの後、芳佳何て言ってたっけ…
(照れ屋のバルクホルンさんが初めて私の名前呼んでくれたんだもん)
ドッキーン!
思い出した途端心臓が跳ねた。
そうだ。私は宮藤と呼ぶことができたんだ。
やったんだ、私は。
私の心は、満足感でいっぱいになっていた。
そして、こちらは…
「ねぇねぇリーネちゃん聞いて!」
「どうしたの?芳佳ちゃん」
「あのね、バルクホルンさんが初めて私の名前呼んでくれたんだよ!」
「えっ!バルクホルン大尉に!?」
「うん!もう、なんかうれしくって。
すっごいかわいいんだよあの人!」
(わあ…芳佳ちゃんがいつになく興奮してる…
大尉、どんな呼び方したんだろ…)
「真っ赤になって照れちゃって。挙げ句の果てにこんちには、だよリーネちゃん!」
「うん…?」
(なんのことかしら…)
「あぁ~v」
「よっぽどうれしかったんだね、芳佳ちゃん」
「うんvおかげでバルクホルンさんの胸に一歩近づけたよ!」
(え…?今の、どういう意味…?)
トゥルーデは、次芳佳に会うときのため挨拶の練習をし、
芳佳は、ゲルトの美乳に触れる作戦をたてるのであった……。
Fin...