君がいるだけで
「ねぇ、エイラ・・・エイラはどうして私に優しくしてくれるの?」
「ナ、ナンダヨ、急に?」
夜間哨戒の任務を終えて、基地へ戻る帰路の途中、不意に彼女がそんな事を聞いてきた。
月が綺麗ダナ・・・何て呑気にぼ~っとしてる時に聞いてくるものだから、かなりビックリした。
一体、どうしたんだろうか?
私には意図がよく分からない。
「いきなり、変な事言わないでくれヨ。ビックリしたゾ」
「ごめんなさい・・・」
私が苦笑いで誤魔化しながら話し掛けると、彼女はしょんぼりと俯いた。
元から話すのが苦手な静かな性格だけど、今日は何だかあまり元気が無いように見える。
少し心配だ・・・。
「何かあったノカ?
私で良ければ相談に乗るゾ」
近くに寄って彼女の肩に手を置くと、彼女はブルブルと首を振った。
「そうじゃないよ・・・でも・・・」
瞬く星のようなつぶらな瞳が私を見つめる。
「そうやって、エイラはいつも私の事を気にかけてくれる。私に優しくしてくれる。だから、私はとっても幸せだけれど・・・」
ポロリと一粒の流れ星が頬を滴り落ちた。
「だけれど、私はエイラに何もしてあげられてない・・・」
「サーニャ・・・」
「私もエイラに何かしてあげたい・・・エイラに幸せになって欲しいよ・・・」
そう言うと彼女の瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれ出す。
彼女の優しさに、愛しさと嬉しさとで胸が苦しくなった。
「・・・もう、そんなつまらない事を気にしてるなんて、サーニャはバカだナァ・・・」
えぐえぐと泣きじゃくる彼女の頭をよしよしと撫でる。
「だって・・・」
「いいか?
よぉ~く聞けヨ・・・」
何だかこっちまで泣きたくなるのをグッと我慢して、彼女に笑いかける。
「私は、不器用だし、頭も良くナイ。それに、サーニャが思っているほど優しい人間でもナイから、知らないうちにサーニャのこと、傷つけて不幸にするかもしれナイ」
「ううん・・・そんなこと無いよ・・・」
「いや、そんな事あるサ。だから、サーニャを幸せにしてあげてる自信はあんまり無いンダ・・・でもナ」
サーニャの涙を拭ってやる。
キラキラした涙はあったかくて、心がほんわりとしてきた。
「私が幸せでいられる自信はあるンダ。サーニャと一緒に居られれば、それだけでずっと幸せで居られると思う。私はサーニャが居てくれるだけでいいンダ」
「エイラ・・・」
「だからほら、そんなに泣くナヨ~。スマイル、スマイル」
「うん・・・わかった」
ぐちゃぐちゃの顔で彼女は微笑む。
少し、ぎこちないその笑顔が可笑しくて、私達は静かな夜空の上でケラケラと笑った。
「さ~てと、早いトコ帰るゾ。リーネが夜食にブルーベリーパイ作っておいてくれてるはずだからナ」
僅かに明るくなってきた東の空を見ながら、基地への家路を急ぐ。
手に持っていた機関銃を仕舞うと、彼女が空いた手をぎゅっと繋いできた。
「エイラ、ありがとう・・・だいすき」
「なッ・・・」
彼女の言葉に顔が熱くなっていく。
「バ、バカ。そーいう事を本人の前で言うなよナ・・・」
「だって、大好きなんだもん・・・」
何だか恥ずかしくて、身体中がムズムズする。
触れた手は小さいけれど、とても温かった。