譲れないたった一つのもの
―――私は軍人だ。
軍人である以上、戦場で散る覚悟もあるし、そうするつもりでもある。
……しかし、ミーナ、私はどうしてお前の前では一人の人間になってしまうんだ…?
―――譲れないたった一つのもの―――
訓練中、私はちょっとしたミスが原因で、軽傷であるが、怪我を負ってしまった。
そしてその怪我をミーナに治療して貰っていた。
「…すまんな、ミーナ」
「いいのよ。…でも治療なら宮藤さんがいるんじゃない?」
「ああ、あいつには前に一度迷惑を掛けてしまっているからな。少し頼みづらいんだ。まあ、負い目という奴かな」
「…強情ね」
「私が強情なのはミーナが一番よく知っているだろう?」
そうね、とクスクス笑いながら、ミーナは私の腕に包帯を巻く。
穏やかな空気を壊すのを覚悟で私は、話を切り出す。
「…なあ、ミーナ、もしも、もしもの話だが、私がネウロイとの戦いに散ったらどうする?」
「…何いきなり」
明らかにミーナの声のトーンが落ちたのが分かった。
「私達はネウロイという得体の知れん化け物と戦っている内はいつ命を落とすか分からない。しかし死して栄誉を得られるのなら、それは軍人としてとても名誉ある事だ」
「……ええ」
「…だが、最近、私はそれが怖くなって来ている。……死にたく無いとさえ思っている……」
「……」
「なあ、ミーナ、教えてくれ…。私は…弱い人間なのか…?」
ミーナはしばらく黙ったまま、呟くように話し始めた。
「…そうね、トゥルーデ、貴女は弱いわ。ウィッチとしてじゃなくて、人間として」
「…そうか」
「でも、それは普通よ。死ぬ事が怖くない人なんていないわ。…私は、貴女のそういう所が好きよ」
「…だが、それでは軍人失格だ…。死ぬのが怖いようでは、私は誰も守れない……ミーナ、私はどうしたら良いんだ…!?」
するとミーナは優しい声で…
「私は…何か一つ怖いものがあった方が、人は強くなれると思うわ」
ミーナは私の頬に手を添えて。
「人は、弱さを失ってしまったらそこで終わりなの。私はね、弱さを乗り越えた強さがあると信じてるの」
「弱さを乗り越えた…強さ…?…ミーナ、それは…」
私の言葉は、ミーナの唇によって、塞がれた。
「ミッ…ミーナッ…///」
「そこから先は自分で見つけ出さなきゃ意味が無いわ。人に言われて自分を乗り越える事が出来たらみんなそうしてるでしょ?」
「…そう、だな……すまんな、ミーナ」
「フフッ、でもトゥルーデなら必ず見つけ出せるわよ。本当の強さを…」
「…ありがとう…ミーナ…」
「もし本当の強さを見つけ出せたなら…」
「?」
ミーナは優しく微笑んで…
「私を守ってね? トゥルーデ」
ミーナのその言葉は、私を腰砕けにするには十分だった。
「…なっ…/// …なんでお前は、素でそんな事が言えるんだっ…///」
「あら、私は別に恥ずかしくないわよ? ……でも、本当の私は貴女にしか見せないわ♪」
「…すまん、謝るから許してくれ…///」
「フフッ…♪ …今夜は一緒に寝る?」
「…私が嫌だと言っても、どうせ無理矢理連れて行くんだろ…?」
「…どうかしら♪」
私はため息を一つ吐いて。
「…好きにしろ…」
《翌日の訓練
「…怪我はもう良いのか? バルクホルン」
「ええ、いつまでも腐っている訳にはいかないので」
「しかし、昨日のお前の動きには迷いが見られたぞ。もう少し休んでいた方が良いんじゃないか…?」
「……私は…弱さを乗り越える為に飛ばなきゃいけないんです。…そう、約束したので」
少佐はクスッと笑って言った。
「…そうか…約束…か…。…約束は守れよ」
「…はい…!」
見ていてくれ、ミーナ。私は、強くなるために飛ぶ。
お前を、守るために。
END