白い天使


夜。
電気を消し、今日は平和な一日だったな…と考えながらベッドに腰掛ける。
干されたばかりの布団がとても心地いい。
ゴロンとうしろに倒れて、天井を見つめていたときだ。
ガチャッ
ドアの開く音。誰だ、ノックもなしに。
いや、ノックもなしに入ってくるのは一人しかいないっけ。

「…ハルトマン」
声を先にかけてやったというのに反応がない。不思議に思って上体をおこす。
思ったとおりそこに立っていたのはエーリカ・ハルトマンであった。
「ハルトマン?どうしたんだこんな時間に…」
さっき時計を見たとき、短い針はたしか10の文字を通りすぎていた。
「トゥルーデ…」
「ん?」
質問に答えず、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「!」
ガシッと両肩をつかまれた。光ってみえる青い眼が近づいてきている。
「おい、何を…んっ!」
突然の口づけ。瞬時に溶けてしまうような感覚。
いや、頭がクラッとしたぞ。こいつまさか…

ハルトマンの舌が侵入してきた。
「‥ん…ふ…っ」
歯列をなぞられ、思わず声が漏れる。
ゆっくりと唇をはなしていくハルトマン。熱い吐息が私の鼻にかかり、確信した。

「お前、酔ってるな…?」
「んふ…トゥルーデ…」
明らかに酒くさい。そして話を聞いてない。
まったく…、夜にネウロイが攻めてくることだって珍しくないんだぞ?今の状況では。
いつでも気を引き締めているべきカールスラント軍人のくせして酒に溺れるとは…

「酔ってるんだろ?さっさと寝て酔いをさませ!」
「酔って…らいもん…」
いや‥呂律が回ってないし。
「よってらい‥!よってらい!」
「わ、わかったわかった」
なんか声が強くなってきた。

「トゥルーデ!」
「はひ!」
急に名前を呼ばれて驚いているうちに、ドンと胸を押された。
どさりとベッドに倒れこみ、先ほどと同じ体勢になる。
またハルトマンにキスをされた。

こいつは、やたらとキスがうまいんだ。
キスだけで私の脳はまるでとろけたかのように鈍い働きになってしまう。

気づくと私の上にハルトマンが覆いかぶさっていた。
口づけの合間にハルトマンの瞳を見つめると、
なんだかいつもより澄んでいるようにも、濡れているようにも見えた。
彼女の頬に手を伸ばしたら、思った以上に熱くて、びっくりした。
「ねぇ‥‥」
「…なんだ?」
「………」

ハルトマンの身体が私に乗り、軽い体重が私に預けられる。
そして細い腕が私の背中の下へ入りこんできた。
私は小さな彼女を抱きしめ、そのまま彼女が下になるよう、くるりと寝返った。
「‥トゥルーデ、…して…」
大胆でストレートな言葉にドキリとする。

こいつ、きれいな顔…してるんだよな…。

いてもたってもいられなくなった私は、ハルトマンの首筋に顔をうずめて――金色の髪の香りを感じつつ――強く吸った。

「ん…っ」
紅く跡がついたそこにもう一度唇を落として…


見ればひどく扇情的な表情をしているではないか。
速い脈と、赤くなった耳。
乱れた髪、そして濡れた青の瞳。

私はこいつのことを愛しているんだな…と感じながら―――ならそれをすべて伝えたいと―――
細い身体を抱きしめたんだ…。



次の日
チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。
…ふぅ…。朝か…
ゆっくりと起き上がる。
「あ、トゥルーデ起きた?」
「…ん」
布団の中から声がした。
……ん?
「っは、ハルトマン!」
「なに。急におっきな声ださないでよ」
び、びっくりした。いたのか、ハルトマン。
布団から顔だけ出している。
「ふぅん…」
「な、何だ」
「やっぱトゥルーデでも寝起きは頭はたらかないんだ?」
「……」

そうだった。結局昨日ハルトマンに一回してあげた後、体勢を逆転されて、何度も何度もこいつに…
思い出しただけで顔が熱くなる。
2つも歳上なのに…情けない。
そのうえ私は疲れて先に寝てしまい…、ハルトマンもその場で寝たというわけだろう。
「ずぼんずっぼん~♪」
布団の中でモゾモゾと服を探している。
私も自分の服を探しにかかる。

見つけた服を着てハルトマンが言った。
「…ホントはね、昨日私酔ってなんかいなかったんだよ」
何を言いだすんだ、こいつ。
「は?でも」
「お酒のニオイがしたのは、口にちょっとウイスキーを含んでたから」
「…なんでそんな」
まわりくどいことを…。
「…だって」
ん?なにやら赤面しているハルトマン。

「そうでもしないと言えそうになかったんだもん」
「…え…な、」
まさか、照れているのかこいつは。
そっと私の左耳に唇をよせて、

「“して”って…」

うっ。なんだ、おい…こっちが照れるじゃないか。
ハルトマンはベッドから降りてドアの方へすたた、と走った。
そして振り向く。
「きのう…、すごくよかったから。また…来る、かも…」
言うが早いか、ガチャン!バタン!と乱暴とも思える速さで部屋を出ていった。
そしてベッドに取り残された私。
思わず自らの口を押さえる。

「‥‥‥‥エーリカ」

なんなんだ。なんなんだあいつは。可愛すぎるじゃないか。

“また…来る、かも”

ハルトマンにあんなしおらしい部分があったなんて。
ドキドキと鳴り止まない胸の鼓動。
なんだろう、この気持ちは…。
あいつは、悪魔なのか天使なのか…。いや、今のは絶対天使だったけれども。
彼女のことで頭がいっぱいになってしまった。

…もうすぐ朝食の時間だ。
食堂に行けば、隣の席にきっとハルトマンがいる。

意味もなく深呼吸をした。えほん、と咳払い。

よし、今夜は覚悟しろハルトマン!
とりあえず心の中で叫んで、左耳をきゅっとおさえてみる。

…やっぱりまだ熱かった。

Fin.


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