ずっと伝えたかったキモチ…


 「サーニャ……ジ、実は、ズット前からサーニャのことが好きだったんダ!」





ずっと伝えたかったキモチ…




 

 夜空にたくさんの星たちが輝くロマンチックな夜。エイラはウィッチーズ基地にあるバルコニーでサーニャに愛の告白をしていた。
 ヘタレのエイラがどうしてこんな思い切った告白をしているかというと、きっかけは今から数時間前のエイラの何気ない一言…





 「サーニャ。チョット散歩に行かないカ?」

 ウィッチーズの隊員たちは昼食を取り終え、それぞれの午後を過ごしていた。先日、ネウロイを撃退したばかりで、今度の襲来予想は最短でも1週間後。
今日は戦闘の疲れを癒すため、午後の訓練は中止となっている。
 そんな中、食堂でくつろいでいたエイラがその隣の席で同じくのんびりくつろいでいるサーニャを散歩に誘ったのだ。あわよくば夜間哨戒の時間まで
サーニャと二人っきりで過ごそうという魂胆だろう。
 そんなエイラの欲望など知りもしないサーニャは、快く承諾する。

 「うん、いいよ。どこに行くの?」
 「特には決めてないんダ。どこか行きたい所アルカ?」
 「エイラに任せるよ」
 「そっか。じゃあ適当に基地の周りでも歩コー」
 「うん」

 こうしてエイラとサーニャは散歩に出かけて行った。
 その様子を面白そうに見つめていたルッキーニはいいネタを見つけたとばかりにシャーリーに声をかける。ちなみに今食堂に居るのは
ルッキーニ、シャーリー、バルクホルン、ハルトマン、宮藤にリーネの6人だ。

 「ねぇねぇ、シャーリー。エイラってさー絶対サーニャのこと好きだよね!」
 「そうだな。私のカンだとサーニャもエイラのこと好きだから両想いだな!」
 「んにゃ?そうなんだー。サーニャってあんまり喋らないからよくわかんないんだよねー」
 「確かにあまり喋らないけどなんとなくな。いつも2人は一緒にいるし」
 「なーるほどー」

 ルッキーニとシャーリーがエイラとサーニャの話で盛り上がっているとバルクホルンが話しかけてきた。

 「それは甘いぞ、リベリアン。よく一緒に居るからといって好きだとは限らない。2人はよくペアを組んで任務に当たるからな。
常に一緒に居るほうが何かと都合がよいのだろう」
 「これだからカールスラントの堅物はー」

 シャーリーは呆れた口調でバルクホルンに言葉を返す。

 「好きでもないのにいつも一緒に居るわけないだろー?好きな相手と少しでも一緒に居たいと思うのは当たり前のことだろ。
お前もその気持ちくらいわかるんじゃないか?」
 「確かにそれはあるな…」

 そう言ってバルクホルン少し頬を染めてうつむいてしまう。
 バルクホルンにはクリスという可愛い妹がいて、さらに、クリスなら目に入れても痛くないと思っているほどのシスコンである。
今も、恐らく妹のことを考えているのだろう…

 「トゥルーデは、まぁーた可愛い妹のクリスちゃんのことを考えてるのかなー♪妄想もほどほどにねっ!」

 そんなバルクホルンを見てハルトマンがからかう。そうするとバルクホルンは顔を真っ赤にして反抗する。

 「だ、誰がいかがわしい妄想など!私はクリスをそんな目で見たことなど…」
 「誰もいかがわしい妄想だなんて言ってないよー♪」
 「カールスラントの堅物でもそんな妄想するんだな」
 「にゃにゃー♪」
 「お前らー!だからそんな妄想などしていないと言ってるだろ!」

 バルクホルンの失言をハルトマンだけでなくシャーリーやルッキーニまで一緒になってからかう。
その様子を食堂の少し離れた位置に座って見ていたリーネが不安そうに隣に座っている宮藤に声を掛ける。

 「どうしよう、芳佳ちゃん。バルクホルン大尉が今にも爆発しそうだよ」
 「そ、そうだね。なんとかしないと…」

 そう言って宮藤は大騒ぎをしている4人に少し大き目の声で話題を変えようと声を掛ける。

 「エ、エイラさんとサーニャちゃんって付き合ったりしないんですかね?」
 「ど、どうだろうな。いずれはそうなるんじゃないか?」

 宮藤の振った話題に、助かったと思ったのかバルクホルンが反応する。

 「あっトゥルーデ、逃げたな」
 「そ、そんなわけないだろ!」
 「まぁ、今日はこの辺で簡便してやるか」

 そう言ってハルトマンは満足したように笑った。

 「あぁ、十分いいもの見れたしな」
 「そうだにゃ♪」

 
 シャーリーとルッキーニも珍しいものを見れて大いに満足したのかあっさりと引いた。

 「私もエイラさんとサーニャちゃんはそのうち付き合うと思います」
 「甘いなーリーネは」
 「えっ?」
 
 リーネの予想を甘いというのはシャーリーだ。

 「サーニャが自分から告白すると思うか?むしろ告白されるのを一途に待ってるタイプだ」

 「た、確かにそうですけど…」
 「大丈夫ですよ。リーネちゃん、シャーリーさん。エイラさんは自分から告白するタイプだと思います」
 「そうだね。さすが芳佳ちゃん」

 「甘いなぁ。2人とも肝心なことを忘れてるぞぉー」
 「「え?」」

 ハルトマンの一言に宮藤とリーネは不思議そうに声を揃える。

 「エイラはヘタレだ」
 「「あ………」」

 宮藤とリーネはハルトマンの言葉でエイラが超ウルトラスーパーヘタレっ娘だと思い出して沈黙してしまった。

 「何とかしてやりたいんだがな…」

 面倒見のよい、根っからのお姉ちゃん気質の持ち主、バルクホルンも何とかしてやりたいと思っているが、いい考えが浮かばないのか
黙り込んでしまう。

 「そうですね。私たちにも何かできることがあればいいんですけど……」

 宮藤もそう言って黙り込んでしまう。ほかのメンバーも同じ気持ちのようだがやはりいい考えが浮かばないのであろう。
さっきまで騒がしかった食堂に沈黙が訪れる。

 「なんだ宮藤。先日ネウロイを倒したばかりだというのに浮かない顔して。便秘にでもなったか?わっはっはっ!」
 「あらあら、みんなで何をしているの?」

 みんなが集まってる食堂へ残りの隊員であるミーナ、坂本少佐そしてペリーヌがやってきた。


 「ミーナ中佐、今エイラさんとサーニャちゃんのことを話してたんです」

 宮藤がミーナの質問に答えさらにバルクホルンが今来たばかりの3人に今までの話の内容を手短に伝える。

 「なるほどね、私にいい作戦があるわ」

 ミーナはそう言って笑った。さすがはウィッチーズ隊の隊長、経験豊富なお姉さんだ。みんなが頭を悩ませていた
ことに、素早くいい作戦を考えてくれる。

 「さすが中佐殿、頼りになるな。わっはっはっ!」
 「もぅ、美緒ったら。からかわないでよ」
 「はっはっはっ!すまんすまん。ミーナが可愛いからつい、な」

 突然バカップルみたいな会話を繰り広げるミーナと坂本少佐、ミーナは嬉しそうに頬を染めるが、坂本少佐は恐らく
天然で言っているのであろう。しかしペリーヌはそれを見て嫉妬に体を震わせる。隊員たちはこの三角関係については
深く触れないように、話を続けた。

 「ところでミーナ、その作戦というのは?」
 「よく聞いてくれたわ、トゥルーデ。私たちでエイラさんがサーニャさんに告白するしかなくなるように仕向けるのよ」
 「ミーナ中佐、そんなこと可能なんですか?」

 宮藤は不安そうな顔でミーナを見つめる。ミーナはそんな宮藤に優しそうに微笑み話を続けた。

 「作戦は簡単よ。宮藤さんがサーニャさんに告白するという嘘の情報をエイラさんに教えてエイラさんを焚きつけるの。焦った
エイラさんはサーニャさんに告白するしかないってわけね。でも、これにはみんなの協力が必要なの」

 ミーナの言葉にウィッチーズ隊のメンバーは頷く。大切な仲間の幸せのため今、みんなの心がひとつになる。

 「それでは役割を発表します。まず美緒とリーネさん。あなたたちはエイラさんとサーニャさんを見つけたらエイラさんを
サウナにでも誘って引き離して」
 「了解です」
 「了解」
 「ちょ、ちょっとお待ちくださいまし」

 ここで今までずっと黙っていたペリーヌが初めて口を開いた。

 「坂本少佐とペアを組むのはわたくしの方が自然ではないでしょうか?」
 
 ペリーヌが坂本少佐ラブなのはウィッチーズ基地に居る人なら全員知っている。知らないのは本人と宮藤くらいである。
坂本少佐と一緒にサウナに入りたいというペリーヌの思惑に、坂本少佐と宮藤を除く全員が一瞬で気付く。

 「いえ、ここはリーネさんが適任よ」
 「しかし…」
 「い い で す ね?」

 しかしミーナはペリーヌの意見を全く聞こうとせず話を続ける。坂本少佐をめぐっての三角関係は現在ミーナが優勢のようだ。

 「宮藤さんはサーニャさんを夜、自分の部屋にでも大事な話があるからと言って呼び出して」
 「わかりました」
 「シャーリーさんとルッキーニさんはエイラさんとサーニャさんが作戦通りに動いてくれるように2人の監視を」
 「了解っと」
 「りょーかーい♪」
 「エーリカとトゥルーデは2人の告白タイムに邪魔が入らないように周辺の監視」
 「了解した」
 「はーい」
 「そしてペリーヌさんにはこの作戦の最も重要な任務をお願いするわ…」
 「…な、なんでしょう?」
 「サーニャさんは今日も夜間哨戒の任務があります。しかしサーニャさんが夜間哨戒に行ってしまっては作戦が実行できません」
 「まさか…」
 「なのでペリーヌさんにはサーニャさんに代わって夜間哨戒の任務を命じます」
 「ちょ、ちょっと…」
 「い い で す ね?」
 「りょ、了解しましたわ…」

 ミーナの一通り説明を終えて隊員たちは作戦の細かいところを詰めていく。

 「これで完璧ね。みんなよろしく頼むわね。」

 ミーナの言葉に隊員たちは大きく頷き返す。

 「それでは、エイラさんとサーニャさんをくっつけよう作戦開始!」


 一方、こちらは散歩をしているエイラとサーニャ。2人は今、ウィッチーズ基地から少し離れた海が見える小さな丘の上に来ていた。

 「サーニャ、座って少し休憩しヨー」
 「うん」

 2人は丘の上に腰掛け、海を見ていた。聞こえるのは遠くからのさざ波の音、周囲の木々を通り抜ける風の音。それだけ。とても静かな午後だった。

 「静かダナ」
 「うん」

 会話が途切れる。しかし2人はそれを気にした様子はなく、ただ海を見つめている。それだけで十分だった。ただ好きな人と、こうして一緒に居られる。
常にネウロイとの戦いの最前線にいる2人にとって、それは最高の贅沢だった。エイラも、そしてサーニャもこの瞬間、確かな幸せを感じていた。





 「眠くなってきたナ」

 エイラはそう言って大の字にゴロンと寝転がる。見上げるとそこには綺麗な青空と、愛おしい人の横顔。



 この時間がずっと続きますように…



 エイラがそんなことを考えてるとサーニャも寝転がり、エイラの腕に顔をうずめる。

 「サ、サーニャ?」

 エイラはサーニャを腕枕した形になりドキリとする。

 「私も眠くなってきた。エイラ、もう少しこうしてて。ね?」

 サーニャに上目遣いで見つめられエイラは頬を染める。心臓の鼓動がいっそう大きくなる。それがサーニャに聞こえてしまわないかドキドキしながら、
エイラはサーニャの言う通りにする。

 「ッタクー、今日ダケダカンナー」
 「ありがとう。エイラは優しいね」
 「ソ、ソンナンジャネーヨ」
 「ううん。優しいの…」

 サーニャは知っていた。エイラの優しさを…
 夜間哨戒のあと、いつも部屋を間違ってしまうサーニャを、エイラはいつも今日ダケダカンナーと言って暖かく迎えてくれる。
 その言葉から、エイラの優しさが溢れ出てくるのを感じて。サーニャはいつもすぐに甘い、幸せな眠りに吸い込まれてしまう。

 「エイラ」
 「ナンダ?」
 「…幸せだね」
 「ソ、ソウダナ」

 そういってサーニャは目を閉じる。すぐにサーニャから規則正しい寝息が聞こえてくる。そんなサーニャを微笑ましく見つめながらエイラも寝ようと
そっと目を閉じる………






 「ダ、ダメダ。緊張して寝られナイ!」

 エイラは寝るのを諦めて聞こえてくる海の音と風の音に耳を傾ける…






 幸せな時間はあっという間で、太陽が水平線の向こうに沈んでいく。いつの間にかあたりは夕日に染まって、夕食の時間が近づいてくる。
それにサーニャには今日も夜間哨戒の任務が待っている。
 エイラはサーニャを優しく起こす。

 「サーニャ、起きロ。そろそろ基地に帰らないと」
 「んん…」

 サーニャがゆっくりと目を覚まし、まだ眠そうに目を擦りながらゆっくりと体を起こす。

 「おはよう、エイラ」
 「オハヨウ、サーニャ」

 2人は笑顔で朝の挨拶を交わし、基地に向かってゆっくりと歩き始めた。





 基地への帰り道、サーニャは歌を歌っていた。エイラとずっと一緒に居たい。この幸せな時間がずっと続きますように。そんな願いを込めて…
 エイラは静かにその歌を聴いていた。未来への希望を歌っているのだろうその歌は、2人の未来を優しく包み込んでくれるようで、
そして、まるで綺麗な宝石のようにキラキラと輝いて、エイラの心を暖かなキモチで満たしていった…


基地に帰ってきたエイラとサーニャを迎えたのは珍しい組み合わせの坂本少佐とリーネだった。

 「ずいぶんと長い散歩だったな。いい気分転換になったか?」
 「ハイ」
 「サーニャはどうだ?」
 「はい。とてもゆっくり出来ました」
 「わっはっは!それはよかった。それとサーニャ、さっき整備の者から連絡があってな、
お前のストライカーの整備が遅れていて今夜の夜間哨戒に間に合わないそうだ。それで今夜の
夜間哨戒はペリーヌが行くことになった。よってお前は休みだ。」
 「よかったナ、サーニャ。それじゃ夕食の前にサウナでもイコー」
 「ちょっと待て、宮藤がサーニャのことを探してたからサーニャは宮藤のところに行ってやってくれ」

 エイラは宮藤と聞いてサーニャに付いて行くことに決めた。サーニャのことを変な目で見る宮藤と2人
きりにさせるのは危険だと考えたのだ。

 「じゃあ私も宮藤のところに付き合うヨ」

 そう言ってサーニャに付いて行こうとするエイラを坂本少佐が止める。

 「まぁ待て、何もお前まで付いて行く必要はないだろ。それより私とリーネは今からサウナに行くのだが、
スオムスはサウナの本場だろ?私たちにサウナの正しい入り方を教えてくれ」
 「デ、デモ」
 「わっはっは!風呂と一緒でサウナの中でも階級は気にせずゆっくりすればいい!」
 「エイラ、いってらっしゃい」
 「エ?ちょ、ちょっと…」

 坂本少佐は戸惑うエイラにお構いなく腕を引いてサウナへと向かう。

 「リーネも早く来い。楽しみだなまったく!」
 「今行きます、坂本少佐」

 こうしてエイラは坂本少佐とリーネとともにサウナに入ることになった。
 3人は服とズボンを脱いで裸になりタオルを巻いてサウナに入った。熱いサウナの中に入ると、
とたんに汗が噴出してくる。

 「ところでリーネ、宮藤はサーニャに何のようなんだ?宮藤と仲がいいお前なら知ってるだろ?」
 「え…」
 「なんだ?女同士、裸の付き合いだ。言ってもいいじゃないか?わっはっは!」
 「えっと…芳佳ちゃん、今日の夜にサーニャちゃんを部屋に呼んで…告白するって言ってました」

 リーネはいかにも宮藤に申し訳ないと思っているように答える。もちろんここまでの話は全部うそで
坂本少佐もリーネも演技しているだけなのだが。
 そうとは知らないエイラはいきなりの出来事に大いに動揺していた。

 「リ、リリリーネ!ソレは本当カ!?」
 「え、えぇ。本人から聞いたので間違いありませんが…」

 ピシリ。そんな音が坂本少佐とリーネには聞こえた気がした。見ればエイラは活動を停止し完全に
沈黙していた。
 リーネはその様子に焦り坂本少佐に耳打ちする。

 「どうしましょう?エイラさん固まっちゃいました」
 「どうしようもないな。まぁ私たちの役割は果たしたし気にするな。わっはっは!」

 そう言って坂本少佐はサウナを後にする。リーネも慌ててそれに続く。エイラをこのまま置いていくのは少々
心配だが、何もしてやれることはないのでしょうがない。
 エイラはサーニャが迎えに来るまでたっぷり10分間、固まったままだった。

 エイラがショックで固まっていた時サーニャは宮藤を探して食堂に来ていた。どうやら宮藤は今日の夕食の準備を
しているようだった。

 「宮藤さん…」

 サーニャが遠慮がちに宮藤に話し掛ける。それに気付いた宮藤は一旦、調理のしていた腕を止めて笑顔でサーニャ
に言葉を返す。

 「あ、サーニャちゃんおかえり!」
 「ただいま。宮藤が私に用があるって坂本少佐から聞いたんだけど…」
 「うん!サーニャちゃん、今夜大事な話があるから私の部屋に来て欲しいんの」
 「今夜?」
 「そう、今夜。あ、でも途中でエイラさんに声を掛けられたらそっちを優先していいから。私の用事は大切な話なんだけど、
急ぐ話でもないから」

 サーニャは何故そこでエイラがでてくるのかよくわからなかったがとりあえず了承する。

 「わかった」
 「ありがとう。じゃあそろそろ夕食が出来るからエイラさん呼んで来てもらってもいいかな?たぶんまだサウナに居ると思うから」
 
 何故宮藤がエイラの居場所を知っているのか。サーニャは不思議だったが、特に気にせず宮藤の頼みを了解した。

 「うん」
 「ありがとう。よろしくね!」

 そう言って宮藤は調理を再開する。サーニャは食堂を後にしてエイラを呼ぶためにサウナに向かった。
 サーニャがサウナに着くとまだエイラはサウナに入っているところだった。サーニャは全く出てくる気配のないエイラに声を掛ける。

 「エイラ、いつまで入っているの?夕食の時間だよ」

 サーニャの言葉にエイラは反応しない。サーニャは不思議そうに再びエイラに声を掛ける。

 「エイラ、エイラ」
 「うおっ!サ、サーニャ!」
 「なに驚いてるの?夕食の時間だよ。早く行こう」
 「わ、わかった」

 エイラは水を浴びて汗を流し体を拭いて服を着る。サウナから出たばかりのエイラの肌はほんのりピンク色に染まり、すらっと伸びた
綺麗な足や、すっかり大人になった胸元が言葉では表せない色香を放って、サーニャはその姿に釘付けになる。そこに不意にエイラが
声を掛けてきてサーニャはドキリとする。

 「サ、サーニャ…」
 「な、何?エイラ」
 「み、宮藤の用事ッテ、ナ、何だったんダ?」
 「えっと、大事な話があるから夜部屋に来てくれって…」
 「ソ、ソウカ。ナ、ナンダロウナ。宮藤の話ッテ」
 「わかんない」
 「ソ、ソウダヨナ。じゃあ食堂にイコウカ」
 「うん」

 リーネの話は本当だった。エイラは頭のなかが真っ白になり、ふらふらとした足取りで食堂へ向かう。その後をサーニャが付いて行く。
 サーニャはエイラに見惚れていたことがバレないか心配していたが、どうやら大丈夫なようだった。エイラは何か考え事でもしてるのか
ぼぉーっとしながら歩いてるように見えた。


 食堂に着くと夜間哨戒に出かけたペリーヌ以外もう全員揃っていた。エイラとサーニャは急いで席に着く。

 「みんな揃ったわね。今日は宮藤さんが扶桑料理を作ってくれたのよ。それじゃあ頂きましょう」

 ミーナの挨拶の後、隊員たちは料理に手を伸ばす。

 「わっはっは!すっぽん鍋とは、また精がつきそうだな!」

 坂本少佐の軽快な笑い声が食堂に響く。扶桑料理をよく知らない隊員たちに宮藤が料理の説明をする。

 「ええっと、これはすっぽん鍋といって扶桑では精力がつくと有名な料理なんです」

 宮藤の説明にエイラは驚愕した。そして悟った。間違いない!今夜アイツはサーニャを…


 エイラは宮藤が今夜サーニャに告白して、あろうことかサーニャにアンナコトやコンナコトをしようとしているという事実に頭に中が大混乱していた。
このままではサーニャを取られてしまう…
 エイラの頭はもはやサーニャのことでいっぱいで食事が喉を通らない。そんなエイラを気遣ってミーナが声を掛ける。

 「エイラさん、あまり食べていないようだけど具合でも悪いのかしら?」
 
 エイラは頭の中のことを気付かれないように焦って言い訳をする。

 「あ、あぁ、サウナに入りすぎてのぼせてしまったみたいダ。」
 「エイラ、大丈夫?」

 サーニャはエイラの言い訳を信じ心配している。

 「大丈夫ダ。心配スルナ、少し休めば治る。私は先に部屋に戻るヨ」
 「エイラ、ゆっくり休んでね」
 「ア、アリガトウ…」

 そう言ってエイラは元気なく食堂を出て行く。サーニャに嘘をついてしまったがほんとのことを言えるわけもない…
 みんなはエイラのことを気にしながらも食事を続ける。






 「みなさん食べ終わりましたね。明日からは訓練を再開します。各自ゆっくり休んで明日に備えてください」

 ミーナの一言で本日の夕食は終わり解散となった。みんな自分の部屋へ戻っていく。その後、人が居なくなりガラリとした食堂に、エイラとサーニャを除く
隊員たちがこそこそと再び集合する。
 
 「ついに作戦も本番よ。みなさん準備はいい?」

 隊員たちは頷き、インカムを装着してそれぞれの持ち場へと赴く。

 「なにかあったら私に報告し、指示を仰いでください」
 
 いよいよ作戦は大詰めを迎える。



 エイラとサーニャをくっつけよう作戦が本格的にスタートしたそのとき、エイラとサーニャは自分の部屋でぼーっとしていた。
 サーニャは自分の部屋で具合の悪そうだったエイラの事を考えていたが、宮藤に呼ばれたことを思い出し宮藤のところへ向かうため部屋をでた。
 その様子を影から観察するルッキーニ。ルッキーニは素早くミーナに現状を報告する。

 『こちらルッキーニ。サーニャが部屋を出てきましたー!どうぞ♪』
 『了解ルッキーニさん。シャーリーさん、そちらの様子はどう?』
 『こちらシャーリー。エイラはまだ部屋にいるみたいだ』
 『まずいわね。ルッキーニさん、エイラさんの決意が固まるまで、サーニャさんを宮藤さんのところに行かせないよう足止めして』
 『りょうかーい!』

 ルッキーニは指示通り、足止めをするためサーニャに声を掛ける。

 「サーニャーいまひまー?」
 「ううん。暇じゃない。宮藤さんに呼ばれてるの」
 「そっかー。私ひまなんだー。何かして遊ぼうよ♪」

 暇じゃないと答えるサーニャをルッキーニは強引に引き止める。

 『その調子よ。ルッキーニさん。』
 『シャーリーさん。エイラさんはまだ出てこない?』
 『こちらシャーリー。エイラはまだだ。』
 『しょうがないわね。シャーリーさん、エイラさんが告白できるように励ましてあげて』
 『了解!』

 シャーリーはミーナの指示通り、エイラを励ますため、部屋のドアをノックした。

 「ハイ」
 「シャーリーだ。入るぞ」

 エイラの返事を待たず、シャーリーが部屋へ入ると、そこには服も着替えないままベッドに倒れこんでいるエイラの姿があった。宮藤がサーニャに告白する
という話を真に受け、そのショックから立ち直れてないようだった。
  シャーリーは部屋の中央にある椅子に腰を下ろし、エイラに問い掛ける。

 「エイラ、何か心配事があるのか?具合が悪いなんて嘘なんだろ?」

 シャーリーはエイラがどうしてこんな状況になっているか知っている。エイラの本音を聞きだすためずばり核心を突く。

 「シャーリー」
 「なんだ?」
 「シャーリーはもし、例えばダゾ、ルッキーニが、他の人から告白するために呼び出されていると知ったらドウスル?」
 
 エイラは自分がどうすればいいか、わからなくなっているようだ。あまりにも真剣なエイラの質問にシャーリーは作戦を忘れて、いつになく真面目に答える。

 「そうだな。私はルッキーニが好きだ。だからルッキーニが誰かに告白されたり、付き合ったりなんて絶対に認めたくない」
 「ウン」

 エイラはシャーリーの言葉に相槌を打つ。エイラはいっぱいいっぱいの状況でシャーリーがルッキーニを好きだとカミングアウトしたことを華麗にスルーする。

 「だから私はもしそんな事実を知ったら先にルッキーニに告白して私のものにする!」
 「ソウカ。でも、その決心が付かないときはどうすればイイ?」
 「なに言ってるんだ?ルッキーニのことを一番好きなのは私だし私が幸せにしたい!だから迷うことなんてない!」

 ルッキーニへの愛について熱く語るシャーリーにエイラははっとする。次の瞬間にはエイラはベッドを飛び起き、シャーリーに礼を言って勢いよく部屋を飛び出す。

 「アリガトナ、シャーリー!」



 エイラは走った。ものすごいスピードで廊下を走り抜け宮藤の部屋を目指す。そして、宮藤の部屋への途中でルッキーニに捕まって
いるサーニャを見つけた。
 エイラは息を整え、サーニャを誘う。

 「サーニャ、今少しイイカ?」

 ルッキーニに捕まりどうしようと悩んでいたサーニャは宮藤の言葉を思い出す。

 『エイラさんに声を掛けられたらそっちを優先していいから』

 宮藤が何故こんな事を言ったのかはわからないがエイラ優先していいと言われていて、そのエイラに誘われた。

 「うん。ルッキーニさんごめんなさい。私行かないと…」
 「いいよー♪私シャーリーに用事が出来たんだ♪」

 さっきまでしつこく絡んできたルッキーニがあっさりと引き下がる。上機嫌で去っていく。

 『こちらルッキーニ。無事2人が揃いました!これからエイラが告白するにゃー』
 『了解。トゥルーデ、エーリカ。そちらはどう?』
 『こちらゲルトルート。基地内の2人が向かいそうな場所に居る人は邪魔者として全員排除完了』
 『同じくー』
 『了解よ。ここまでくれば作戦は成功したも同然だわ。みんなさんお疲れ様。あとはゆっくり2人を見守りましょう』

 ミーナによる作戦は無事成功した。あとはエイラが告白するだけである。





 ルッキーニが居なくなり、サーニャと2人きりになったエイラは、サーニャに告白するため、緊張で固まってしまいそうになる自分に気合を入れ直し、
意を決してサーニャに話し掛ける。

 「サ、サーニャ…」
 「エイラ、具合はどう?もう平気?」
 「ア、アァ。ソレよりコンナところじゃなく別の場所で話さないカ?」
 「うん、わかった」

 そう言ってエイラは歩き出す。サーニャが後ろを付いてくるのをしっかりと確認する…
 




 エイラにとって人生最大の大勝負が始まる!


 エイラは告白をするため、サーニャを基地内のバルコニーへと連れてきた。エイラはサーニャのほうへ向き直り、
緊張しながら言サーニャに話しかける。
 ここで場面が冒頭に戻るのである。




 いつのまにか、物陰には隊員たちが揃っており、2人を見守っている。そのとき、ペリーヌから通信が入った。

 『ペリーヌですが、少佐、そちらの様子はいかがでしょうか?』
 『作戦は無事成功よ。今からエイラさんがサーニャさんに告白をするわ。ペリーヌさんのインカムにも2人の話が
聞こえるようにしているから』

 少佐に尋ねたはずなのになぜかミーナがペリーヌに答える。ペリーヌはミーナに対して嫉妬してしまうが、今は
それよりもエイラとサーニャのほうが気になって仕方がないので余計なことは話さない。

 『感謝いたしますわ』
 『いいのよ、気にしないで。告白が上手くいくように祈りましょう』

 こうしてエイラは隊員全員に見守られながら告白するのだった…




 「サーニャ」
 「何?エイラ、話って」

 サーニャはエイラの用事がなんなのかまだ気付いていないようだった。

 「実はナ、大事な話なんダ。コレカラ言うことは全部本当だし、冗談じゃナイ。真剣に聞いてクレ」
 「うん。でもどうしたの急に」
 「どうしても今言わなきゃダメなんダ」
 「そっか」

 エイラは、宮藤に先を越されることは許せない。サーニャを一番すきなのは私だ。と強く心に思って告白しようと
している。しかし、いざ告白しようとすると緊張してエイラは上手く声が出せない。言葉を発することがこれほどに
パワーが必要なことだとは思っていなかっただろう。
 しかし、今日のエイラには絶対告白するんだという覚悟があった。エイラは自分の思いを精一杯、言葉に込める。



 「サーニャ……ジ、実は、ズット前からサーニャのことが好きだったんダ!」

 ついにエイラはサーニャに自分の思いを伝えた。その瞬間エイラは自分の体がカーッと熱くなるのを感じた。自分の言った
言葉の意味に興奮しながら、止まらない想いをさらに言葉にしていく。不思議なもので、どうしても言えなかった言葉も、
1度言ってしまえばどんどん言えるようになる。

 「初めて会ったときはサ、ずっと俯いてて、世話係の私が何を言ってもサーニャは喋らなかったダロ?私はどう接すれば
いいのかわからなかったし、そんなサーニャのことを何だコイツって思ってたンダ。デモその夜、ボルシチを作って私の部屋に
もって来てくれたダロ。そのとき、サーニャはただ恥ずかしかっただけで、私とも仲良くしたいと思ってたいたことを教えてくれたヨナ。
そのキモチを精一杯の言葉と料理で伝えてくれた。嬉しかったんダ。ソノ日から私たちはずっと一緒だったヨナ。辛いときも、楽しい
ときも、悲しいときも、嬉しいときも、一緒にサウナやお風呂に入ったり、歌を歌ったり、占いをしたり。そして私は気付いたんダ…
サーニャが好きだって…もちろんひとりの女としてナ」




 エイラはそこまで一気に喋り通し、大きく息を吸い込む。夜の透き通って、少しひんやりした新鮮な空気も、エイラのカラダの熱を
冷ますことはない。興奮しているエイラは、サーニャに自分の欲望をぶつける。

 「だから……私と付き合ってクレナイカ!?」

 サーニャはずっと黙ってエイラの話を聞いていた。あまりにも突然なエイラの告白に俯いてしまう。エイラはそんなサーニャを見て
少し不安そうな表情をする。
 長い沈黙が訪れる………





 そして次の瞬間、サーニャの頬を一筋の涙が伝った。それは、いきなり告白されたことに対する驚きと、感動の涙だった。
 しかし、それを見てエイラは自分の体からサァっと血の気が引いていくのを感じる。さっきまでの興奮が嘘のように冷めて
なにも出来ないで立ち尽くす。

 「エイラ…」

 まだ顔を伏せたままサーニャがエイラの名を呼ぶ。

 「ゴ、ゴメンナ!サーニャ。突然変なことを言って…私のコト嫌いになっちゃったか?」

 エイラの胸は恐怖でいっぱいだった。サーニャに拒絶されてしまうのではないかと不安でしょうがなかった。
 嫌われたくナイ…
 そんなキモチで必死にサーニャ謝る。


 一方、サーニャはエイラからずっと待っていた言葉を貰って喜びで満たされていた。しかし、あまりにも突然過ぎて嬉しい
はずなのに涙が出てしまったのだ。だめ。ちゃんと言わないと。エイラ、誤解してる。サーニャは悲しそうな顔をするエイラに笑顔を向ける。

 「嫌いになんかなるわけないよ。私もずっとエイラのこと大好きだったから。突然過ぎて驚いちゃっただけ」

 その言葉は、絶望のどん底に居たエイラの心を、優しく天国へと掬い上げてくれた。






 「ソ、ソレジャ…」
 「これからもずっと一緒に居てね。エイラ…」

 そう言ってサーニャは勢いよくエイラに抱き付く。エイラはそれだけで嬉しくて、顔を真っ赤にして、昇天してしまいそうになる。

 「サ、サーニャ。いきなり抱き付くなんテー」
 「ごめんね、でも今日だけは特別。今日はエイラが私に告白してくれた日。私たちが付き合った日。」
 
 そう言ってサーニャは少し照れたように頬を染めてエイラに微笑む。

 「ッタクー、今日ダケダカンナー」
 「うん。ありがとう、エイラ…」





 そこには、いつもおなじみの会話をする、幸せそうな…2人が居た。エイラとサーニャはこうしているだけで十分幸せなのだ。
 でも、今日からはもっと幸せになれる。二人の想いは、キモチはしっかりと通じ合っている。お互いが、自分と同じように、
幸せを感じてくれていることを知っている。そのことが、さらに2人を幸せにしてくれる…
 エイラもサーニャを抱きしめ返す。



 2人はしばらくの間、そのままで居た。
 きつく抱き合った2人。頬から、背中に回した腕から、触れ合う胸から、触れ合っているところ全てから、相手を愛しいと思う気持ちが伝わってくる…
 2人は嬉しくて。嬉しくて、幸せで……、もう限界だった。







 「ア、アイシテいるゾ!サーニャ!アイシテル!」
 「ありがとう。私も……、いっぱいいっぱい愛してるっ!」




 Congratulations☆ Eila & sanya!


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