daydream-飛べないウィッチはただのタラシ-


「よし!休憩していいぞ!」

坂本美緒少佐の快活な声が澄み渡った高い高い青空によく似合う
そんな天気の良いいつもの訓練風景をみながら、私は思う。
これは由々しき自体だ、と。何がって…―――、

「宮藤に、リーネ。お前らのここ最近の成長は目を見張るものがあるな!私は嬉しいぞ!あっはっは!」

―地面に足を投げ出して呼吸を整えている二人の間にはいりこみ、
それぞれの肩に腕を置いてイイ笑顔でそんなことを言う、彼女が、だ。
眩しい。眩しいわ美緒。青空に似合いすぎる。あなたは太陽の化身?一万年と二千年前から(以下省略)
ここだけみれば、上官と部下の微笑ましいやり取りにみえるのだろう。
――その部下が、頬を染めてさえいなければ。

「そ、そんな!坂本少佐の指導のお陰です!!」
「そうですよ!本当に感謝してます!坂本さんは私の憧れです!!」

宮藤さん、どこをみているの。
そういうことは、目を、みて、言いなさい。
そんな訴えを乗せた視線は彼女には届かない。
――と、

「少佐!!」

―――ああ、増えた。

「ペリーヌ!どうした?」
「い、いえ!坂本少佐のご指導されてる姿がみえたものですから、その、」
「お、自ら訓練を願いにきたのか?」
「あ、は、はい!!!」
「そうかそうか!流石私の(部下である)ペリーヌだ!あっはっは!」

そう言いながらぐりぐりと頭を撫でてやる美緒は気づいていないでしょう。
彼女の目が、もう、憧れとか、尊敬とか、そういう類のものを超越していることに。
ていうか今の台詞、素?素なの?ええ素でしょうね!!
……何人落とせば気が済むの、貴女は。
そしてそのことに無意識だから、尚のこと性質が悪い。


昼。
食堂には私と美緒、それからシャーリーさんにルッキーニさんがいた。

「そういえば、シャーリーはここにくる前バイク乗り…だったか?」
「そうだよー!シャーリーのバイクにのってる写真みたけどね、ちょーカッコいいんだよ!!」
「ほぉ…。ルッキーニには敵わないなぁ」
「ふぇ?なにが?」
「いや、シャーリーについてそこまで(上官として部下のことを)知らないというのは、すこし悔しいな。
 そういえばルッキーニについてもあまり知らない。…今度ゆっくり語ろうか」

…お願い。括弧を、括弧内の台詞をお願いだから口にだして言って!!!
そして2人とも赤くならないでー!!悩殺スマイルに騙されないで!
ああ、でも確かに惚れるわ。あの、笑顔は、反則だわ…!
…このままじゃ、駄目よ。しっかりなさい、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ!
私がちゃんと美緒のハートを射止めなきゃ!

――夜。
私はいま、美緒の部屋の前にいる。
意を決してドアノブに手をかけて、静かに開けた。ノックはしていない。
抜き足で近寄ったつもりなのだけれど、暗い部屋で顔もまともに見えない状況であるにも関わらず、

「……ミーナ?」

名前を呼ばれてしまう。バレるのが、はやすぎるわ。

「…こんばんわ」
「どうした?こんな遅くに」
「………正直に言うわ。夜這いしにきたの」
「…うん?」

流石の美緒でも正しく意味を飲み込むのに時間がかかったようだ。
疑問符を頭にぽつぽつと浮かべているところを、
襲った。

  ◇

次の朝。
裸のまま未だ眠る彼女の、キレイな黒い髪を撫で上げる。
掬ってみると、さらりさらりと手の平から落ちて、まるで美緒のようだと思った。
どこまでも毅然でいて、太陽のように暖かく笑い、青空のように人を包み込んでしまう。
彼女を捉えていることなど、私にできるのかと本気で不安になってしまうのだ。

「……ん」
「あら、起こしてしまった?」
「…いや、そろそろ訓練の時間だ」
「こんな朝でも行くのね」
「ああ、正直腰のあたりがひどく気だるい。」
「…ごめんなさい。」
「いや、いいさ。ミーナがそんなに私を想ってくれてるなんて思ってなかった。嬉しかったよ」

どこまでも天然でそんなことを言ってのける彼女に顔が熱くなるのを感じた。
正妻ルート?正妻ルートなの?
そんなことをガッツポーズしたい気持ちで考えていると、美緒はさっさと着替え終えてしまう。

「じゃあ、次は午前の訓練後…かな?」
「え、ええ…。あの…、いってらっしゃい」
「いってくる」

そんな夫婦さながらのやり取りを終えて、私はひどく安心していた――。

 ◇

昼食前、各々訓練を終えた隊の面々勢ぞろいで浴場に集合していた。
特に示し合わせたわけではないのだけれど、大体みんな同じ時間にはいるから、
浴場はなんだかんだいつも騒がしい。
――訂正しよう。いつも は 、騒がしい。

やけに静かなこの場に疑問を持ってるいるのは、恐らくその原因である美緒だけだ。

「ね、ねぇリーネちゃん…。」
「う、うん。こう、なんていうか…今日の少佐…」
「ありゃー何かあったナ」
「な、なんかって!?」

それぞれ身体を石鹸で泡々させながらそんな会話を繰り広げるリーネさん宮藤さんエイラさんの3人。
髪を洗ってもらい上機嫌なサーニャさんはとくに興味がなさそうだ。
一方で湯船に浸かりながら身体を洗い流す美緒をちらりと眺めやはりこちらもこそこそとではあるけれど、
今日の美緒についての会話をはじめている大尉2名にガッティーノ、そして黒の悪魔。

「うわー。今日少佐、色っぽいね」
「…ハルトマン。自重してくれ」
「いやいやいや、でもあれはこう…一線越えちゃった、みたいな?」
「リベリアンお前は誰もが言おうとしていないようなことをさらりと言ってのけるな」
「いっせん?」
「…いや、ごめんルッキーニ。そのままのルッキーニが好きだよ」
「ちょ、なんなのさシャーリー!」
「ていうか、トゥルーデも色っぽいと思ってたんだ」
「う、…まぁ、…流石にな…」
「へぇ…。あとで部屋行っていい?」
「すまなかった。思ってない。全然思ってないぞー」
「ねぇねぇ坂本少佐のさ、身体に赤い点がいーっぱいついてるけど、あれ何かなー?」
「ルッキーニ、君が知るにはまだはやいことだよ…」

なんでよー!!と叫ぶルッキーニさんに美緒がふと振り返る。
目が合いそうになると咄嗟に逸らす辺りで、私は中学生男子ですかという言葉を飲み込んだ。
ああ…逆効果…。本末転倒ってこういうことを言うのよ…

私はどうすることもできず静かに浴場から退室した。

  ◇

みんなで昼食を食べ終わりその日の午後。司令室で書類の整理をしていたときだった。
ノックが響きどうぞと応えると入ってきたのは美緒だった。

「どうしたの?」
「いや、それはむしろこっちの台詞なんだが…。ミーナ、どうした?元気がなさそうだったが」

…どうしてこんなことには良く気づくのかしら、この人。

「何でもないわ。」
「そうか…?」
「本当に何でもないの。ちょっと疲れただけよ。昨日の夜で」
「あっはっは!散々されていたのは私なのにな。体力が落ちたのかな?ミーナ中佐」
「そうかもしれないわね」

微笑んで返すと一応は安心したようで、じゃあ私は訓練を見なきゃならないからと部屋を出て行く。
貴女が女っタラシだからよ!叫べたらどんなにかいいだろう。
なんとなくもやもやした気持ちを抱えながらその日の夜はベッドにはいりこんだ。

 キィッ

僅かにドアの開く音がして、気配を研ぎ澄ます。
こんな時間に、いったい誰?暗闇に問うと私だ、と返ってくる。
珍しいお客さんねと本当にびっくりしていると、服を脱いでいる気配がした。
…ちょっとまって、おかしいわ、それ。

「み、美緒!?」
「ん?」
「なんで脱いでるの!」
「…いや、やっぱり今日はミーナの元気がなかったような気がしてな。
 別に疲れてたわけじゃないんだろう?」
「それはっ…」
「…よし。正直に言おう」

そうして彼女は自分が昨日言ったのと同じ台詞をもって、私の戸惑いを捻じ伏せた。


「夜這いだよ。」


 ○Fin!


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