シャーリーとルッキーニを追え!
それは、ある晴れた日に起こった。
トゥルーデとエーリカが、話をしながら歩いていると、エーリカがシャーリーとルッキーニを発見した。
「ねえ、トゥルーデ」
「なんだエーリカ」
「あの二人…キスしてない…?」
「まさか。確かにあの二人は仲は良いが…」
二人を見たトゥルーデが凍った。
「……………してるな…………」
背の低いルッキーニに合わせて、シャーリーが屈んでルッキーニにキスをしていた。それもルッキーニの頬に手を添えて。
「シャーリー…」
「ルッキーニ…」
ルッキーニは涙を浮かべていた。
「トゥルーデ…!!あの二人…!!」
「エーリカ!!この事は誰にも秘密だ!…誰にも話すなよ」
「任せときなさい!」
…しかし、その数時間後、エーリカによってその事はウィッチーズ全員の知る所となる。
―――シャーリーとルッキーニを追え!~キス疑惑事件~―――
「…エーリカ。これはどういう事だ」
トゥルーデの声には明らかに怒りが籠もっていた。
食堂にはエーリカの話を聞きつけた芳佳、リーネ、美緒、エイラ、サーニャがいた。
「いや~…なんというか…その…ついね…」
「はぁ…まあなんとなく分かってたよ…もういい」
トゥルーデはエーリカを見捨てた。
「ねえ本当にあの二人付き合ってるのかな?」
「確かに二人ともいつも一緒だもんね」
「まさかあの二人がそんな関係だったなんてナ…。世の中分からないもんダ」
芳佳達の間では、既に話が広がっていた。
盛り上がるみんなの横でトゥルーデと美緒は冷静にものを見ていた。
「はっはっは、みんな盛り上がってるなあ」
「まったく…みんな少し盛り上がり過ぎだとは思いますけど」
「みんなこういう話は好きだからなあ…よし…」
今まで黙っていた美緒がみんなに話しかけた。
「みんな、聞いてくれ!」
美緒の呼びかけにみんなが一斉に振り返る。
「みんながシャーリーとルッキーニの関係が気になるのは、よく分かる。しかしここでいろいろ話していてもしょうがないだろう。話はここでやめにしよう」
(うん、さずが坂本少佐だ)
トゥルーデが美緒に関心した瞬間、美緒はみんなが予想だにしなかった言葉を発する。
「そこでだ。明日はあの二人は非番だ。それで明日は街に買い物に行くらしい。その二人の様子を尾けないか」
「!?」
食堂がしばらくの沈黙に包まれた後、歓喜の坩堝へと化した。
「ちょっ…坂本少佐…っ…!…それはさすがにっ…!」
「はっはっはっ、たまには良いだろう。だが、全員は連れて行けん。そこでだ。ジャンケンで行くメンバーを決めたいと思う」
「ちょ…」
『最初はグー、ジャンケンポン!』
トゥルーデの抗議はみんなの「ジャンケンポン!」の声でかき消されてしまった。
《翌日
「よし!今からシャーリーとルッキーニ素行調査を始める!」
メンバーは芳佳、リーネ、エーリカ、美緒、そしてトゥルーデ(強制参加)となった。
「二人が出かけた瞬間から、あの二人の尾行を開始する!」
「楽しみだね、リーネちゃん」
「そうだね、芳佳ちゃん」
「はははー、みんな楽しそうだねー」
「…ハルトマン、元はと言えばお前のせいだと言う事は忘れるなよ」
「分かってる分かってるー」
「……」
「あ、坂本さん、二人出かけましたよ!」
「よし、私達も行くぞ!」
「「「おーっ!!」」」
「…………」
嫌がるトゥルーデを尻目に、美緒筆頭とするシャーリー&ルッキーニ追跡隊が動き出す。
続く
尾行…もとい調査を始めて一時間。
「おっ、これなんかルッキーニに似合うんじゃない?」
「えー、これ子供用じゃーん」
「良いんだよ、だってお前まだ子供だろ」
「えーヒドいよ、シャーリー」
「ハハハ、ごめんごめん」
「もー、シャーリーのイジワルー!」
シャーリー&ルッキーニ追跡隊は物陰に隠れながら、二人の様子を見張っていた。
「…なんか良い雰囲気ですね」
「そうだな。しかし、まだこれからだ。これから劇的な展開があるかもしれん」
「でも、ちょっとロマンチックだねー。好きな人のために服を選んであげるって素敵だな」
「なんか心なしかルッキーニちゃん、顔が赤くない?」
「そりゃ好きな人の近くにいられるんだ。顔も赤くなるだろう」
「ああ、手なんか繋いじゃって…///」
美緒、芳佳、リーネはすっかり追跡に夢中だった。
その更に後ろでトゥルーデはやる気なさそうにエーリカと話していた。
―――シャーリーとルッキーニを追え!2~追跡、そして~―――
「…どうするんだ、エーリカ」
「なにが?」
「なにがじゃなくて。あの二人が恋人じゃなくて、ただの友達だったらどうするんだって言う事だよ」
「ま、その時はその時じゃない?」
「…貴様…」
「仮にこの調査で何にも分からなくても、本人に直接聞けばいーじゃん」
「お前は本当にバカだな。そんなの直接聞ける訳ないだろ!少し常識を把握してから物を言え」
「あーへいへい」
「…っ……!」
軍人として、いや、人間として言ってはいけない言葉を飲み込んだトゥルーデはとりあえず、二人の様子を見守る事にした。
それ以降も、二人の行く先々(映画、食事、そして買い物等)を追跡した追跡隊だが、それらしい展開は見られなかった。
「…んー…やっぱりただの友達同士なのかなー」
芳佳が少し残念そうに呟く。
「でもキスしてたって言ってたよね…?」
「…本当なのか?ハルトマン、バルクホルン」
「いや、私達は確かに見たよ!ね、トゥルーデ!?」
「……まあ、確証は無いがな。…ただキスしていたように見えただけで、別の何かをしていたという可能性も捨てきれない」
「逃げた」
「逃げた訳じゃない。もし外れた場合の保険をかけただけだ。お前が無責任だから私が責任を被ってやる」
「…それを逃げって言うんじゃないの…?」
「何を言う。元はと言えばお前が(ry」
二人が明らかに無意味な言い争いをしていると、後ろから誰かに話しかけられた。
「ん?あれ、みんな何してんの?」
「なんかコソコソしてるー!あやしー☆」
「「「「「!?」」」」」
なんとみんなの後ろからシャーリーとルッキーニが話しかけて来た。
その瞬間、一斉に凍りつく追跡隊。
そして不思議そうな顔をするシャーリー&ルッキーニ。
どうする、追跡隊!
どうなる、追跡隊!
最終章へ続く
シャーリー&ルッキーニを尾行していた追跡隊は、とうとうシャーリー&ルッキーニに見つかり、声をかけられてしまう。
「シャ、シャーリー、ルッキーニ…」
その場にいたシャーリーとルッキーニ以外のメンバーは一斉に青ざめた。
―――シャーリーとルッキーニを追え!最終章~遭遇、そして真実~―――
「ってか、珍しい面子だなー」
「ニヒヒ、なになに、デート?」
二人はニヤニヤしながら、話しかける。
「い、いや、明日の訓練用の買い物だよ。宮藤がヘアピンが欲しいだなんて言うもんだからな?なあ宮藤?」
「はっ…はいっ…!」
混乱した美緒は訳の分からない言い訳を二人にする。
その身振り手振りはさながら、壊れたマリオネットの様だった。
「(…訓練とヘアピンのどこに関係が…?)そうなんですか…」
「そ、そういうシャーリーさん達は何をしていたんですか?」
「ん?ああ、ルッキーニがあまりにもヒマだヒマだって言うから、買い物に付き合ってあげてるんだよ」
「違うよ!私が付き合ってあげてるの!」
「ハハハ、どっちでも一緒だろ?」
「違うもーん!」
「そう、ですね…ははは…」
芳佳は芳佳で変な相槌を打ち、妙な笑いを浮かべた。
そんな二人の様子を見かねたリーネが、ついに切り出した。
「あっ、あの、シャーリーさん、ルッキーニちゃん!」
「なに?リーネ」
「…お二人は…付き合っているって、本当ですかっ…!?」
「は」
「え」
空気が凍った…ようにトゥルーデは感じた。
するとその空気を破る様に、シャーリーの豪快な笑い声が響いた。
「ハハハハ!何、それ?誰が言ってたの?」
すると、三人はトゥルーデとエーリカに視線を向けた。
「…おいおい…」
「なんで私達がそんな関係だなんて思ったのー?」
「昨日、キスしてたじゃん。しかもルッキーニの背に合わせてシャーリーが屈んで」
さらさらと話すエーリカの横でひたすら青ざめたトゥルーデがいた。
すると、シャーリーはまた豪快に笑い出して。
「ハハハハハ!!それで私達が付き合ってるって思ってたんだ?違う違う!」
「え?」
「あれはさ、ルッキーニの目のゴミを取ってやってたんだよ。ルッキーニがあまりにも目が痛い目が痛いって言うもんだからさー」
「だって本当に痛かったんだもんー」
「涙なんか出しちゃってさ。ああまだ子供だなーとか思って」
「子供じゃないってばー!」
「アハハ、ごめんごめん♪」
驚愕の事実を前にただ愕然とし、生ける屍と化す追跡隊。
そしてあっけらかんと真相を語るシャーリー&ルッキーニ。
その絵面はかなりシュールで。
「…というワケだからさ。私達はみんなが思ってるような関係じゃないんだ。
…なんかゴメンね。期待に添えられなくて」
「いっ、いや良いんだ。勝手に勘違いした挙げ句、お前達を追跡した私達に非がある」
正気を取り戻したトゥルーデが、二人に陳謝する。
「でさ、悪いんだけど、私達まだ用があるんだ。時間ももうあまり無いし、もう行って良い?」
「ああ、そうだな。いや、二人の邪魔してスマン。…もう暗いから早めに帰って来いよ」
「うん。じゃあ行こうか、ルッキーニ」
「うん♪」
そういうと、二人はどこかへと消えて行った。
そして取り残された五人は、棒立ちで突っ立っていた。
そしてトゥルーデが(寒い)言い訳を始める。
「……保険があって良かっただろ?ほら、こうして…なんというか…………いや、なんでもない…。スマンな、みんな…」
「……ゴメン……」
「いや、悪いのは私達だ。話を聞いただけなのに、勝手に盛り上がって…。…非常に恥ずかしい思いだ」
「…そうですね、なんか恥ずかしいですね…」
「…二人に合わせる顔が無いね…」
「…………」
「……帰るか…」
「……はい」
かなりテンションが落ちたメンバーは、大人しく帰る事にした。
ミーナに鬼の如く怒られる事を覚悟しながら。
夕陽に照らされた地面に五人の影が、寂しく映る。
明日からは真面目に訓練しよう。
トゥルーデは心の中で呟いた。
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《その頃のシャーリー&ルッキーニ
「あーっ、ビックリしたよー」
「見られてたんだね…。だからあそこではやめようって言ったのに…//////」
「アハハ、ごめんごめん。でもいいじゃん、みんな目のゴミで納得してくれたんだしさ」
「もう、シャーリーったら…//////」
「……なあ、ルッキーニ、みんなもいなくなったしさ…キス…しよ……?
私、やっぱ我慢出来ない。ルッキーニとキスしないと死ぬ」
「…バカシャーリー…//////」
「…好き…だよ…ルッキーニ…」
「私も好き…シャーリー…//////」
END