EXTRACTION
―――宮藤、お前は私にとって誇れる部下だ。
思えば私が扶桑からお前をここに連れてきたのは、一種の一目惚れだったのかもしれない。
そんなお前も私の事を想っていてくれたのを知ったのは1ヶ月前。
両想いだった。嬉しかった。
だが、私達は結ばれてはいけない運命なんだ。
それでも、私はお前との愛に溺れてしまう。
私は……どうしたらいい…?
―――EXTRACTION―――
《芳佳の部屋
「んー…」
「うん、よく眠っているな。まったく、飛行中はあんなに凛々しい顔つきだと言うのに、こういう時は子供の顔だな」
自分の想いを抑えきれなくなった私は、いつの間にか宮藤の部屋にいた。
別に何をするという事もなく、ただ宮藤の傍にいたかっただけなのだが。
「…宮藤の唇…柔らかそうだな…。
…いや、ダメだ、この一線を越えてしまうと、私達はただの上官と部下ではいられなくなってしまう…!」
私が葛藤していると、宮藤が起きた。
「坂本さん…」
「みっ、宮藤っ…起こしてすまん」
「なんで坂本さんがここに…?」
「…ちょっとお前の顔が見たくなってな」
「…嬉しい…です…//////」
「……宮藤」
宮藤は顔を赤らめてそう言う。
「こんな夜中に私に逢いに来てくれるなんて…。……坂本さん…私、やっぱり…」
「…宮藤、それ以上言うな。それ以上言ってしまうと、私達は普通の関係に戻れなくなってしまう」
「私は、それでも…!!」
私は宮藤を強く抱きしめた。
「坂本っ…さん…」
「私達は…結ばれてはいけないんだ。私達は上官と部下という身。それに私達にはそれぞれ恋人がいるだろう?」
「それでも私、坂本さんと一緒にいたいですっ…!」
「宮藤…」
「…一度だけ…一度だけ、坂本さんに…抱いて欲しいんです…!」
「……いいのか?宮藤。そんな事をしてしまったら、私達、本当に戻れなくなってしまうかもしれないぞ」
「…私は、それでも…」
すると、宮藤は私の手を引いて、私は宮藤を押し倒した形となった。
「坂本さん……私を抱いてください…」
「……一度…だけだからな…?」
私達は深い口付けを交わす。宮藤の口内はとても甘く、リーネはいつもこれを味わっているのかと思うと、少し嫉妬心が芽生える。
「坂本っ…さぁっ…」
「宮…藤…っ」
キスをしている間も、宮藤は目を潤ませて、私を見ている。それがあまりにも可愛くて私は唇を離す。
私達の間には銀色の糸がかかっていて。
「宮藤…もう止められないぞ…?」
「…坂本さん………好き、です…」
「……私もだ、宮藤……」
―――――――――――――――――――
「すー…」
私は隣で寝ている宮藤を見届けて、宮藤の部屋を出た。
「少佐」
外に出ると、バルクホルンがいた。
「バルクホルンか。どうしたんだ」
「宮藤に手を出したんですか?」
「手を出したという言い方はやめてくれ…」
「…貴女にはミーナがいるでしょう。それに宮藤にはリーネもいる」
「…一応合意の上だがな」
「…私はまだミーナを愛してます。でもミーナは貴女の事が好きだから、私は身を引いた。
…でも、貴女はミーナの想いを裏切った事になる。もしそうなら、私は少佐を許す事は出来ない」
「…そう、だな…。…私は、ミーナもそしてリーネも裏切ってしまった。結ばれてはいけない恋だと知りながら…な」
「……」
「私も宮藤もダメな女だ。私にも、宮藤にも恋人がいると知りながら、互いを求めてしまった」
「坂本少佐」
「…私達は出口の無い迷路に迷ってしまったんだ。ミーナも、お前も」
「……そうかも知れませんね」
「…ミーナには私から謝っておく。まあ、しばらく口は利いて貰えそうにないけどな」
「……少佐、仮に私がミーナと一晩だけ関係を持っても、少佐は許してくれますか?」
「今の私なら、誰も責める事は出来ないな」
「…そうですか」
「……したのか? ミーナと…」
「……」
「した、んだな…。いや、これでおあいこだな。私達は同じ罪を犯した」
「……私は」
「あとでちゃんとハルトマンに謝っておけよ。ハハハ、みんな同じだな。
みんな同じ罪を犯した。…まったく、ただれているな」
すると今まで出ていた月が雲で隠れた。
「もう遅いな。もう寝るか、バルクホルン」
「…はい」
「じゃあ、おやすみ、バルクホルン」
「おやすみなさい」
そう言うとバルクホルンは自分の部屋へ戻っていった。
…バルクホルンの奴、泣いていたな…。
「…本当に、汚れすぎたな、私達は…」
今日も、夜は更けて行く。
答えの無い想いを、抱きながら。
END