茹でとうもろこしのある食卓


「できたっ。さ、じゃんじゃん食べてくれ」
「なぁリベリアン、そう自信満々に皿に山盛りのとうもろこしを出されてもな。とうもろこしを茹でただけのものが、はたして料理と呼べるだろうか」
「お前だってじゃがいも茹でただけだったろ?」
「あれは伝統的なカールスラント料理で……」
「これは伝統的なリベリオン料理なんだ。イヤなら食べるな」
「誰もイヤとは言ってないだろう……まったく、ルッキーニは苦労するな」
「……なぜそこでルッキーニの名前が出てくる」

「おはヨウ、バルクホルン、シャーリー」
「エイラか。おはよう」
「おはよ、サーニャは?」
「夜間哨戒で帰ってきたばっかでまだ寝てるヨ」
「まぁサーニャは仕方ない。だが、他のやつらが一向に起きてこないのはどういうことだ」
「別にいいんじゃない? ――あ、誰か来た」
「みなさん、おはようございます」
「なんだペリーヌかよ。今日は早いな」
「坂本少佐は用事があって、今日は朝から出かけてるって聞いたゾ」
「ああ、だから今日は少佐の朝練に付き合えなかったわけか」
「それでまっすぐここに来たと」
「く、訓練はわたくしが自主的にやっているもので、し、少佐とはなんの関係も……」
「だってさ。どう思う、カールスラントの堅物?」
「動機は不純でも訓練をするのはいいことだ。そういうことにしておいてあげよう」
「そういうことにしといてやるカナ」
「だからわたくしは本当に……」
「わかったわかった、お前もとうもろこし食べろよ」

「どうかしたのかエイラ。やけに浮かない顔をしているが」
「なっ、なんでもナイ……」
「はーん、さてはサーニャとケンカでもしたんだろ」
「そ、そんなんじゃネーヨ……」
「それでケンカの原因はなんですの?」
「だからしてナイって……」
「昨日のあれじゃないか? サーニャのズボンをエイラが履いてたこと」
「!」
「図星のようだな」
「わかりやすいヤツだなぁ、お前」
「こういったことは速やかに謝罪した方が良いですわよ」
「だから本当にケンカなんて……。ダイタイ、なんで私を悪者にするんダ?」
「じゃあ悪いのはサーニャさんの方だと」
「オイ、ペリーヌ。私は別にそんなこと言ってナイダロ」
「落ち着いてよく考えてみよう。昨日のこと、サーニャ本人は知らないようだったが」
「つまり、エイラは勝手にサーニャのズボンを履いてったってことか」
「!」
「本当にわかりやすいなぁ」
「やはり悪いのはエイラ、お前の方だ」
「まったくですわ。人の履物を勝手に履くだなんてなんてとんでもない」
「ちょっと待て、ペリーヌ。オマエにだけは言われたくナイ。私聞いたゾ。オマエだって宮藤のを勝手に借りようとしたんダロ?」
「あ、あれはあくまでも未遂ですわ。それにあれは間違えて……。じゃなかったらなんであんな豆狸の……」

「なん……だと……!?」

「ちょ、ちょっと、バルクホルン大尉っ、いきなりなにを……」
「歯をくいしばれ、ペリイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィヌ!!!!」
「ヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィツ!!!!」
「落ち着け! 落ち着くんだ、カールスラントの堅物!」
「そうダ、いきなり胸ぐらを掴むのはよくナイ!」

「放せ、放すんだ、リベリアン、エイラ!
 こいつだけは許せない!
 こいつはなぁ、こいつは、芳佳の履物を履こうとしたんだぞ!
 その時くんかくんかしたかもしれないんだぞ!
 さすがの私だってまだしたことないんだよ!
 それをなんの悪びれもせずいけしゃあしゃあと!
 我慢して我慢して、耐えて耐えて、忍んで忍んで、なのにこいつは……!
 それなら芳佳に私の履物を履いてもらおうとしたら、なんかすごく断られちゃったじゃないか!
 なんだあれは!? ツンデレか!?
 じゃあいつデレ期がくるんだよ!?
 いい加減、私だってもう限界なんだよ!
 私だって履いたり履かれたりしたかったんだよ!!!!」

「「「……………………………………」」」

「あ、いや…………急に取り乱したりしてすまなかった」
「いえ、気になさらないでください。わたくしの方こそ、大尉に謝罪せねばなりません」
「そうダ、なんてことナイって。みんな気にしてないからオマエもキニスンナ」
「い、いいのか……? だって私は……」
「正直、みんなドン引きだったけど、別に気にしてないよ。さ、とうもろこし食べよ」
「みんなありがとう……嬉しいのになんだか涙が出てきたよ」

「でもそもそもの原因は、ルッキーニが私のズボン持ってっちゃったからなんダゾ、シャーリー」
「そうですわ。わたくしのズボンを持っていったのだってルッキーニですのよ、シャーリーさん」
「ちょっと待て、なぜあたしに言う?」
「それはナァ……」
「それはねぇ……」
「…………もういいよ。たしかにルッキーニは悪かったさ――でもそもそもの原因はエーリカじゃないか、カールスラントの堅物」
「ちょっと待て、なぜ私に言うんだ?」
「それはさぁ……」
「…………なにやら勘違いしているようだが、私とハルトマンとはお前たちのような関係では――」
「ア、そういえば私、夜、ハルトマンがバルクホルンの部屋に入ってくの見たことあるナ」
「まあ、そのようなことがあったんですか!?」
「本当なのか、カールスラントの堅物?」
「あっ、あれは、ハルトマンが自分の部屋が散らかって眠る場所がないからと私の部屋に……」
「で、一緒のベッドに眠ったと」
「でも、一つのベッドに女二人が寝て、なにもなかったなんて考えられませんわ」
「邪推するな、ペリーヌ! ハルトマンとは別になにも……」
「『とは』ってなんダ、『とは』って」
「あ、そういえばわたくし、大尉が朝方ミーナ中佐の部屋から出てくるのを見たことがありますわ」
「ナニ、そんなことがあったのカ!?」
「どうなのさ、カールスラントの堅物?」
「あっ、あれは、ミーナが久しぶりにゆっくり話がしたいと……あいつとは旧知の仲だし、積る話もあるさ」
「で、同じ部屋で一晩過ごしたと」
「でも、女二人が同じ部屋で一夜を共にして、なにもなかったなんて考えられませんわ」
「邪推するな、ペリーヌ! ミーナとは別になにも……」
「『とは』ってなんダ、『とは』って」
「とにかく私は、どちらともそんなことにはなってない!!」
「あーあ、そんなに顔真っ赤にしちゃって」
「ますます怪しいですわね」
「いい加減白状しロヨ、バルクホルン」

「――なぁ、もしかしてこれって二股なんじゃないか?」
「まあ! それは由々しき事態ですわよ」
「バルクホルン、オマエは女の敵ダ」
「わ、私は、断じてそんなことは……」
「いいですか、バルクホルン大尉。女の子というのは、好きになった相手に、自分一人だけを愛してほしいものなのです」
「気が合うなペリーヌ。あたしもおんなじ」
「ワ、私は……」
「そこ、乙女会つくるな! あとエイラは悩むな! そんなことくらい私にだってわかってるさ」
「では大尉はどちらをお選びになりますの?」
「…………喋りたくない」
「優柔不断なやつダナ。じゃあみんなでバルクホルンにどっちがいいか決めてやらないカ」
「いいね、それ」
「な、なに勝手に話を進めてるんだ!」
「では僭越ながらわたくしはミーナ中佐を選ばせて貰います」
「ほうほう、その理由は?」
「中佐は清楚で凛々しく非の打ちどころのない素晴らしい女性です。それに大尉とは隊長と副官の間柄。年齢も同じです。これほどぴったりのお相手は……」
「ペリーヌ、さては中佐が坂本少佐とも怪しい関係になってるから、中佐とバルクホルンがくっつけば――とか考えたんダロ」
「なーる、お前結構計算高いな」
「そ、そんな打算で申し上げたんじゃありませんわ! エイラさん、じゃああなたはどちらがよろしいんですの?」
「エ、私? そーダナ、ハルトマンカナ」
「ほうほう、その理由は?」
「バルクホルンは妹萌えなんダロ? じゃあハルトマンなんてぴったりじゃナイカ」
「エイラ、お前はなにもわかってない。ハルトマンが妹なはずないだろう……」
「なんかいろいろあったみたいダけど、触れないでおいてやルカ。――シャーリーはどっちがいいと思うんダ?」
「え、あたし? うーん、別にどっちでもいいや」
「それじゃ困るダロ、シャーリー」
「そうです。それではわたくしも困ります」
「そう言われてもなぁ……あ、でも、『どっちでもいい』ってのと、『どっちも』ってのは違うからな」
「そんなこと当たり前です!」
「だってなぁ。カールスラントの堅物、お前がマゾで、あの二人はサドだろ? どっちも相性いいじゃん」
「待て、リベリアン! さも確定事項のようにものを言うな!」
「あたしの見立てでは、中佐が直接攻撃系で、エーリカが精神攻撃系とみた」
「だから憶測でものを言うな!」
「じゃあ実際はどうなのさ?」
「そ、それは……いや、ちょっと待て。そもそもなぜ二択になってるんだ!? 他の選択肢はないのか!? た、たとえば……み、み、み、宮藤とか」
「ムリダナ」
「ありえない」
「考えるだけ時間の無駄ですわ」

「私ばかり責めているが、お前の方こそどうなんだ、リベリアン」
「え? あたし?」
「昨日の夜、お前の部屋にルッキーニと二人で入っていくのを私は見たが」
「あ、あれは、昨日のことで落ち込んでるルッキーニを慰めようとしただけで……」
「『慰める』ダって。聞いたカ、ペリーヌ」
「ええ、しかと耳にしましたわ、エイラさん」
「おいそこ、曲解するな! だいいち、ルッキーニはまだ子供だぞ! まだそんなこと……」
「顔が真っ赤だぞ、リベリアン」
「あんまりルッキーニのこと、子供扱いスンナヨ」
「そうですわ。女の子というのは、体の方は成長していなくとも、心の中はちゃんと成長しているものなのです」
「そ、それはお前の胸がぺったんこなことの言い訳か?」
「そ、そう言ってはぐらかすつもりですか!」
「ペリーヌの言いたいこと、私もちょっとわかるゾ。逆もまた然り、ってナ」
「それはどういうことだ、エイラ?」
「実はそういうことに子供なのはシャーリーの方じゃナイカと私は踏んでるんダけどナ」
「バッ、バカ言え! そ、そんなはずないだろ!」
「なんだますます顔が赤くなったじゃないか、リベリアン」
「これは非常に怪しいですわね」
「アレ? もしかして私、図星ついちゃっタカ?」

「待ってくれよ。あたしのことは置いといて、エイラの方こそどうなのさ」
「エ? 私?」
「夜間哨戒から帰ってきたサーニャが、そのままお前の部屋に入っていくのを見たことあるぞ」
「それ、私も見たことがある」
「わたくしも何度かありますわ」
「それにあたし、ルッキーニに聞いたぞ。昨日の朝も同じベッドで寝てたって言うじゃないか」
「あ、あれはサーニャが部屋を間違えて……」
「でも一度や二度じゃないんだろ?」
「まあそうダけど……」
「それで、昨日はサーニャが部屋に入ってきて、どうなったんだよ?」
「そ、そんなことなんで喋らなくちゃいけナイんダ!」
「ふーん、つまりあたしたちには言えないようなことがあったわけだ」
「そんなわけナイダロ! ――サーニャが私のベッドでそのまま寝ちゃうから、私はびっくりして飛び起きタ……」
「それでそれで」
「サーニャに布団を掛けタ……」
「それでそれで」
「サーニャの脱ぎ散らかした服を畳んダ……」
「それでそれで」
「眠かったから私も寝たヨ……」

「「「…………………………」」」

「な、なんダヨ……?」
「なんでなにもしないのさ?」
「据え膳食わぬは女の恥ですわよ」
「そうだ、貴様それでもスオムス軍人か!」
「そ、そんなこと、私がするはずないダロ!」
「だからなんでなにもしないのさ? あたしには、サーニャがお前のことを誘っているように思えるけどな」
「そ、そんなことサーニャに訊かなきゃわからないダロ!」
「やれやれですわ」
「こんなことじゃそのうちサーニャに愛想尽かされちゃうぞ」
「そ、それは……」
「安心しろ、エイラ。その時は私がお前を妹にしてやろう」
「いや、やめロ」
「ほらこのとおり、いつ妹が出来てもいいように こうやって柏葉剣付騎士鉄十字章を持ち歩いているんだ」
「見せるナ。そもそも勲章ってそういうことするために貰うんじゃナイダロ」
「なんならサーニャも一緒に私の妹にしてやろう」

「サ ー ニ ャ を そ ん な 目 で 見 ン ナ――――――――――――――――――ッ!!!!」

「叫ぶな、エイラ。ただの冗談じゃないか」
「オマエが言うともう冗談に聞こえナイんダヨ。ダイタイなんで何人も妹を作ろうとするんダ?」
「なにを言っているんだ? 妹は何人いてもおかしくないだろう。リーネの家は八人姉妹だと言うじゃないか」
「それとこれとは話が違うダロ。オマエは年下ならなんでもいいのカ?」
「そんなことはない! お前が私の守備範囲なのは事実だが」
「今すぐそこから外してくレ」
「……なぁ、カールスラントの堅物。もしかしてあたしもその守備範囲に入ってるのか?」
「いや、リベリアン。お前はあんまり年下って感じじゃないから別に……」
「あーよかったー」
「……バルクホルン大尉、もしかしてわたくしもその守備範囲に入っているのでしょうか?」
「いや、ペリーヌ。お前は……」
「あれ? どうしましたの、大尉?」
「――とにかく、私は妹が何人出来てもいいように、こうやって勲章を複数個持ち歩いているわけだ」
「見せるナ。そして机に並べるナ」
「なんせ私はネウロイの撃墜数が250機以上だから、勲章などいくらでもある」
「そういやお前ってうちのエースなんだっけ」
「そういえばそういう設定でしたわね」
「今となってはとても信じられナイけどナ」
「…………………………」

「なんだ、みんなやってるんじゃないか」
「いや、カールスラントの堅物。お前だけどうかと思うが……まぁ、みんなやってることだし、もう詮索するのはやめるよ」
「みんなやってることだし、とりあえず痛み分けということにしておくカナ」
「…………………………」
「ん? どうかしたのか、ペリーヌ」
「あっ、いえ、なんでも……その、わたくし、ちょっと用事を思い出したので、これで失礼します」
「あ、そうなの? じゃあまたな」

「――行っちゃったカ」
「まぁ、こんな話が続くとねぇ」
「なぁ、実は前々から思ってたんだが……」
「どうしたのさ、カールスラントの堅物がえらくかしこまって」
「……あいつってなんだかかわいくないか?」
「あーわかるわかる」
「ついからかいたくなるヨナ」

「なぁ、賭けをしないか。ペリーヌの恋がかなうか否か」
「リベリアン、人の色恋でそういうことを――と言いたいところだが、良いだろう。乗ろう」
「私もやル」
「よし、みんなやる気だな。といっても、相手はあの少佐だからな……」
「あの天然ジゴロの少佐だからな……」
「あの超ニブチンの少佐だからナ……」

「恋がかなうに5ドル!」「恋がかなうに2マルク!」「恋がかなうに10マルッカ!」

「おい、みんな同じじゃ賭けにならないだろ」

「ふー、もうお腹いっぱい。さてそろそろ行くか」
「今日もストライカーのセッティングか? 精がでるな」
「まあね」
「じゃあ私も自分の部屋に戻るとするか。妹のいる病院に返事の手紙を書かなきゃいけないんだ」
「私も行くカナ。そろそろサーニャが起きるころだし、とうもろこし持っていってヤロ」
「ちゃんとサーニャと仲直りしろよ」
「わ、わかってるヨ……」

「じゃあまた昼に」
「ああ、また」
「またナ」


参考:0054

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