リンゴ日和


「坂本少佐、お体の具合はいかがですか?」
「もうすっかり良くなったよ。……しかし、ずっと寝てばかりだと退屈でな」
「そう思って、リンゴをお持ちしました」
 メロンにするか小一時間迷いました。
 でも、やっぱりリンゴにしました。
 だってかわいらしいネコさんにして、少佐に召し上がっていただきたかったんですもの。
「気が利くな、ペリーヌ」
「はい。今すぐお剥きしますね」
 わたくしは包丁を手にとって、リンゴと向き合った。
 あれ?
 4つに切ったまではいいのにそのあとが……
 思ったとおりに……
「なぁ、ペリーヌ。刃を外側に向けるのはどうかと思うが……大丈夫か?」
「はい、もちろん……」

 ブシュー。

 大丈夫じゃありませんでした。

「大丈夫か!? ペリーヌ、ちょっと見せてみろ」
 わたくしは少佐にさきほど切った指先を差し出した。
「血は派手に出ているが、傷は浅いみたいだな」
 と言うと、少佐は私の指先を滴る血をペロッとなめた。
「ひゃっ!」
「どうしたんだ?」
「いえ、ただちょっと……」
 ただちょっと、心臓の鼓動が高まって、逆に出血が激しくなっただけです。

「すみません。実はわたくし、包丁に触るのも初めてで……」
 わたくしの視線が自然と下がる。
 指に張られた絆創膏が目に入ると、痛々しいやら情けないやら。
「そんなこと見ていればわかる。どれ、ちょっと貸してみろ」
「はい」
 わたしは促されるまま、少佐に包丁とリンゴを手渡した。
 すると、さきほどのわたくしとは大違い、少佐はするするとリンゴの皮を向いていくではありませんか。
「意外か?」
「いや、そんな……」
 そうは言ったものの、それはわたくしの今まで知らなかった少佐の一面であった。
 扶桑刀を振るいネウロイに立ち向かうご雄姿からはかけ離れた行動に、わたくしの心が揺さぶられる。
 もちろんそれは、さらに惚れ直すといった意味で。
「子どものころは母の台所仕事をよく手伝ったもんだ。今でもこれくらいはな」 わたくしは相槌も打たず、リンゴを剥く少佐の姿にただ見惚れていた。
「剥いたはいいが、実はあまり腹が減ってなくてな」 リンゴを剥き終え、手を置いた少佐がそう口にする。
「一つやるよ」
 そう言うと、少佐はリンゴを一つ、わたくしのぽかんと開いた口に入れた。
 食べてしまうのがなんだかもったいなくて……
 そのリンゴを長い時間、わたくしは口の先でくわえたままでいた。


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