朝日のその先へ!
~プロローグ~
だからやだったんだ
私は知っていた、こうなる事を
うねる荒波、どよめく暗雲、鳴り止まぬ雨音、横には…ハルトマン
同じだ、夢で観たのと同じ風景だ
~第一章~『私はイルカ、迷子のイルカ』
「だってしょーがないじゃん」
『しょうがなくないダロ!』
ここが何処かはわからない
わかっているのはここが大西洋のどこか、名も無い小さな無人島であること
いや無人島というよりは岩礁と言うべきか
その小さな岩礁の小さな洞穴で二人途方に暮れている
事の始まりは長距離飛行訓練だった
実戦では堅実でも何かと破天荒なコイツのお目付け役として隊長は私に白羽の矢をたてた
だが隊長は見誤ったんだ私にコイツの暴走を止めるだけの気迫がない事を
私が言えた義理じゃないんだけど
「ねえエイラ~」
訓練中ハルトマンは私に微笑んだ、コイツがこういう顔をする時は危険だ
「ほらイルカの群れだよ!追撃かいし~♪ババババァーン」
いちお上官のコイツの命令に従っただけなど言い訳はしない
ただコイツは時々、相手のツボを弁えた攻撃をして来る
正直こういう遊び心、私だって嫌いじゃないんだ
だけど今は、ちょっと楽しいナなどと感じた自分を後悔している
私達は時間を忘れ、ただひたすら空を泳いだ
気付くと辺りは暗雲に包まれイルカどころか基地の方角さえ見失っていた程に
そんなしょーがないどころかしょーもない理由で私達は今こうしているんだ
おそらくとっくに日は暮れているだろう、腹時計もあてにならない
ただ雨音だけが単調なリズムを刻んでいた
~第二章~『夜空を見上げて』
隣にいるのがコイツじゃなくてサーニャなら…
そっと肩を抱き寄せ…いゃそうじゃない、そうじゃない
サーニャになら方角を知る事くらいわけないだろうからだ
確か今夜は新月だ、雲が退けば星座が帰路を示してくれるだろう
そんなの待たずにあの雲を飛び越えればいいだけの話じゃないか?
いやこのたぐいの雲は激しく放電している、突っ切るのは危険だ
「せめて風でも吹いてくれてたらな」
ずっと空を見上げている私の考えを察したのかハルトマンはそう呟く
そうか…晴れ上がるのを待つばかりじゃない
この一帯は偏西風の通り道だ雲の流れを追えば…
それは即ち東、基地への方角を指す!
雲は?…雲はただ混沌と蠢いていた
「まぁなるようになるって、はっはっはっ」
彼女は何も考えてない様に見え冷静に状況を分析している所がある
私にだって一歩下がって周りの状況判断をしている自負はある
だけどそんな私なんかの二手三手は先を読んでいるんだろう
そして今は何もしない事が最良の策と踏んだんだ
『そうダナ』
私はただそう返した
~第三章~『くしゃみ』
「ねえスオムスってさ、どんなとこ?」
『どんなトコって、寒くて、とても寒いトコ』
なんでそんな事聞くんだ?と続けようとしたけど思い留まった
確か妹がスオムスにいるんだっけ…
会話の焦点がスオムスではなく別の所にある事に軽い嫉妬を憶えた
「寒いとこ寒いとこって…ひっ…ふっ…へっ…くしゅん」
うゎ~鼻水垂れてるよ、この娘
それによく見ると小さく振るえて…いる?
私は上着を脱いでそっと差し出した
「びちょびちょじゃん!これじゃ余計寒くなっちゃうよ」
そう言いながらも、ちゃっかり羽織ってるじゃないか!
文句の一つも言ってやろうとした矢先、先手を取られた
「ゴメンね…」
え?
『別に遠慮すんナヨ、こんくらい、寒いんダロ』
「そうじゃなくてさ~」
んん?
「実はさ、エイラじゃなくてトゥルーデだったら良かったのにぃ~って」
「そ~ぅ思ってたんだよね、さっきまではね、…ありがとね」
なんなんだ、なんなんだよ、それは今わざわざ言うべき事なのか
「でも多分、お互いさまだよねぇ~、あたしがサーニャじゃなくてゴメンね!」
…
うぎゃ~!
なんだよコイツ!なんだよコイツ!
~第四章~『能力者』
コイツ好きな人いたんだ、そんなの微塵も感じさせなかったのに…
それより何で私がサーニャのこと好きだってわかったんだ?
何故だ?私だって必死に隠して来たのに…
ひょっとしてコイツ…エ ン パ ス か !
私は未来予知が出来る、他のウィッチーズも何かしらの特殊能力を持つ
だけどコイツの能力はまだ一度も見た事がない、間違いない!
うわ~こっち見てる!?こっち見んな!
どーしよーバレる!読まれる!悟られる!
そうだ別の事を考えるんだ!頑張れ私!
{おっぱい!いっぱい!夢いっぱい!}
ちっ、違うぅ~だろ!もっと別の事考えろ
「あっ言っとくけど、あたしエンパスじゃないよ」
嘘つけ!読んだだろ!今、私の心読んだだろ!
(注:顔に書いてありました)
私が本当は脳味噌エロエロだらけのエロエロ妖怪だってバレた~
も~おじまいだ~生ぎでいげない
~第五章~『いっしょダナ』
「でもさ、お互い辛いよな」
「いつも傍にいるのに想いが伝わらないのって」
『うん…』
エンパスじゃなくたってこのくらい私にもわかる
今の言葉は本音だ
その表情が薄明かりに照らされる
この娘、こんな顔もするんだ…この娘のこんな顔、初めて見た
ちょっと物憂げな…毎晩私が眠りにつく前と…同じ表情だ
正直何考えてるかわからない奴だと思ってたけど
悪戯好きで、思慮深く、強がりで意地っ張り、だけどちょっぴり純粋で
私はそういう奴を他にもう一人知っている…もう十五年の付き合いになる
なんだ私達二人似た者同士じゃないか
「へっくちっ」
彼女は二度目のくしゃみをした
~第六章~『真夏の雪山』
体温が下がった時、どうすればよいのか知っている
私は知っている、スオムス人なら誰だって知っている事だ
そして私がこれから何をするのか知っている、私は知っている
その光景は既に夢の中で予見していた事なのだ
これは人命救助だ、止むを得ないんだ
スオムス軍人としての誇が私を駆り立てる
暗闇の中、心なしか薄紅に染まった彼女の顔がぼんやり視界に入る
それだけじゃない確か今夜は満月だったはず
月の魔力が私をルナティックにさせてる、私の本心じゃない
…そうだよ違うよ、私の心、わかってるんだろ、もうバレバレなんだろ
あぁそうさ私はエロエロな事が大好きなエロエロ妖怪だよ!
エロエロ妖怪の底力、その身でとくと味わうがいい!
『あのナ、スオムスじゃ雪山で遭難したらこうやって体を温め合うんダ』
私の手の平が彼女の頬にそっと触れる
その瞬間、私の腕は意識を離れ何か別の生物へと生まれ変わる
やがてソレは首筋を経て襟元から胸元へと伸びていった
彼女は抵抗しなかった
~第七章~『雨音の旋律』
そっと彼女を抱き寄せる
彼女の短い髪を伝った雫は胸元を通り私のおヘソを刺激する
生温い雫と熱く火照る彼女の体温
それはずっと私が求めてきたぬくもり…そのものだった
私の心臓は鳴り止まない、いや違うこの音は私じゃなくて彼女の鼓動だ
彼女の胸から私の胸へと伝わる心地好い調べだ
そして彼女は私の耳元で歌声を奏でる
《タン タン タラー ラー ラ タラ ラ ラー♪》
そう、いつものあの歌声だ
私をやさしく包み込むその旋律
あぁ大好きなサーニャ
私の大切なサー…ニャ
サーニャ!?
彼女の歌声は聞えない
ただ雨音だけが単調なリズムを刻んでいた
私はひたすら、ただひたすら雨粒の音を数え続けた
~第八章~『朝焼けに抱かれて』
(にひゃくい~ち、にひゃくにい、にひゃ…ひゃ…)
何度目の二百を数え直した頃だろうか
洞窟内が次第に赤く染まってゆく
火事なのか?違う熱は感じない、ストライカーも二組とも正常だ
その光は洞窟の入り口から差し込んで来ている
太陽だ!朝日が昇って来たんだ
この光の先で、みんなが待っている!
帰れる、基地へと、みんなの所へ帰れるんだ
…、…、ハッ!?
気付くと辺りは依然、暗闇のままだった
雨音が単調なリズムを刻んでいる
夢だった…私はいつのまにか眠っていたみたいだ
だけど…これはただの夢なんかじゃない
そう、予知夢だ!
そうだハルトマンは?
「す~ぴぃ~」
私の膝の上で寝息をたてている
大丈夫、風邪をひいている様子はない、それに…何かしちゃった様子もない
『ハルトマン!起きロ!帰れるゾ、ワタシたち帰れるンダ!』
~第九章~『朝日に向って翔べ』
あれからおそらく四十分は経過したのだろう
ようやくハルトマンは目を覚ました
『本当なンダ!見たンダ!ワタシを、ワタシの力を信じてクレ!』
「いいよ!もちろん信じるよ!だってあたしたち…戦友じゃん!」
雨はまだ降り続いていた
大丈夫、魔力は回復している、それに二人なら
私達は暗闇に向って翔び立った
私達には見えるその光に向って翔び立った
そして私達は自然に手を繋いだ
何の下心もない、一夜を戦い抜いた戦友として
手を繋いで飛び続けた
~エピローグ~
『だってしょうがないダロ』
「しょーがなくないじゃん!」
ここが何処かはわかってる
わかっているのは私が予見したのが朝日ではなく、夕日であったこと
そしてここがブリタニアではなくリベリオンであること
その広いリベリオンの小さな砂浜で二人途方に暮れていた
「やぁ~い、このヘタレ大魔神!」
『ヘッヘタレ!せっ戦友じゃなかったノカ!?』
『こんな安っぽい友情、夕日と一緒に沈めちゃうンダカンナ』
「でもまた日は昇るっていうでしょ?えへへ」
ハルトマンの笑い声と私の怒鳴り声、
そして寄せては返す波の音だけが、ただただ砂浜に鳴り響いていた
~おしまい~
~おまけ~
エーリカ's Side「夕日のその先は?」
エピローグ
「なんとかなるんじゃない」
第一章
「イルカだよイルカほらイルカだってば」
第二章
「雨ウゼ~よな」
第三章
「まぁぶっちゃけね」
第四章
「何かテンパってる」
第五章
「愚痴ってもいいかな」
第六章
「え?そうなん」
第七章
「色よし、張りよし、いいおっぱい」
第八章
「す~ぴぃ~」
第九章
「もう七十分だけ~」
エピローグ
「大切な友達だよ」
~おわり~