もしもピアノが弾けたなら


それは戦争が終わってからしばらく経ってからのこと。
サーニャさんはエイラさんから、街にある小さなピアノバーに呼び出されました。

"本日、貸切り"の看板の掛かったドアを開けて小さなバーに入ると、サーニャさんの事をウィッチーズの仲間達が拍手が迎えてくれました。
そして、サーニャさんが案内された席には、タキシードを着て何だか強張った顔をしたエイラさんが待っていました。

「サ、サーニャ・・・よ、よく来てくれタナ・・・」
「どうしたの、エイラ?
へんな格好・・・それにガチガチに緊張してる」
「そ、そんなは事ナイ・・・き、今日は君に伝えたい事があるンダ」
「なに?」
「ま、まずはこれを聞いてクレ・・・」

そう言うとエイラさんはお店の真ん中に置いてある大きなピアノの前に進みました。
席に着いているみんなからは、大きな拍手と頑張れという声が聞こえます。
ピアノの前でエイラさんが大きく息を吐くと、ぴーんとした緊張感が漂いました。
「こ、この曲をサーニャに捧げマス!」
高らかにそう宣言すると、エイラさんはゆっくりとピアノに指を置きました。

エイラさんが弾き始めた曲は、世界中の誰もが知っているカールスラントのある作曲家が、好きになった人の為に作った曲でした。
その曲はサーニャさんも子供の頃によくお父さんに弾いてもらっていた曲で、サーニャさんがピアノで始めて練習した曲でもありました。
聞き慣れた旋律にサーニャさんはとても懐かしい気持ちになって、何だか涙が出そうになりました。

ところが、耳を澄まして聞いてみると、エイラさんの演奏があまり上手ではない事にサーニャさんは気づきました。
ところどころ音程が間違えていたり、指がもつれそうになって、曲調がバラバラになったり。
ついには楽譜の一部を見間違えて、全く違うところをエイラさんは演奏していました。

それでも、エイラさんは一生懸命にピアノを弾きました。
顔を真っ赤にして、額に汗を浮かべながら、一生懸命にピアノを弾きました。
サーニャさんに聞いて欲しくて。
サーニャさんに気持ちを伝えたくて。
下手くそでも、間違いだらけでも、一生懸命にピアノを弾きました。

曲の演奏が終わると、お店の中がしーんと静まり返りました。
エイラさんは黙ったまま立ち上がるとサーニャさんの顔を真っ直ぐ見て、大きな声で叫びました。

「わ、私はサーニャの事が大好きダ!! 大好きで・・・大好きで・・・愛しているンダァァァ!!」

愛しているンダァァァ、という叫び声が小さなお店中に響き渡ります。
しばらくして、おぉ~、という感嘆の声が上がりました。
大きく息をして、エイラさんは続けます。

「私はサーニャといつも一緒に居たいンダ。 ずっとずっと・・・一緒に居たいンダ。 だ、だから・・・こ、これからも、隣に居させてもらってもイイカ?」

エイラさんがそう問いかけると、またお店の中が静かになりました。
告白されたサーニャさんは、いつものようにあまり表情を変えずにエイラさんを見ていました。
そして突然、クスクスと笑い始めました。

「ふふふ。エイラ、ピアノ弾くの下手だね・・・」
「うっ・・・」
「間違いばっかで、私の子供の時みたいだった」
「面目ナイ・・・」
「・・・でも、大丈夫。私が教えてあげる」

そう言うと、サーニャさんは笑顔を浮かべたまま、エイラさんの頬っぺたにキスをしました。

「サ、サ、サーニャ!
なっ、何ヲ・・・」
「大好きだよ、エイラ」

サーニャさんはそのまま、エイラさんに抱きつきました。
途端に、やったぁ! おめでとう! という歓声と拍手がみんなから上がります。
静かだったお店の中はお祭のように賑やかになりました。

「エイラ、大好き・・・ずっと一緒だよ・・・」
「う、嬉しいけど、恥ずかしいから、くっつくなヨナ・・・」
「エイラ、鼻声だよ。 泣いてるの?」
「さ、サーニャだって泣いてるじゃナイカ・・・」

ポロポロと嬉し涙を流しながら、二人は笑顔で笑い合いました。
二人のクシャクシャの顔が面白くて、みんなも笑顔で笑い合いました。


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