無題
ン? 今、ドアをノックする音がしたナ。
これはもしかしテ……。
ハイハイ、入っていいデスヨ。
――アッ、なんダ、リーネじゃないカ。
今日はなにしにここ二?
エ? 「オモテの看板を見た」ダって。
それはもしかして……ウン、やっぱりそうカ、私に恋愛相談がしたいってことカ。
ウン、そうそう、そうなんダ。私、恋愛相談室を始めたんダ。
エイラさんの豊富な恋愛経験からくる的確なアドバイスで恋の悩みをバッチリ解決、ってわけダ。
それに私、タロットも得意だしナ。
しかも実は、リーネが初めてのお客さんダったりするんダ。
金銭の受け渡しは隊で禁止されてるから、報酬は物品かサービスナ。
リーネならおっぱいを5分間揉ませてくれるだけでイイゾ。
……ダメ?
じゃあ4分間でイイ。
……触るの自体ダメ?
イヤ、そこをナントカ!
……ナニ!? 「このことをサーニャちゃんに言いつける」ダって!?
オイちょっと待テ、今のはただの冗談じゃないカ。
わかっタ、それじゃあ洗濯の当番を代わってくれないカ?
……ヨシ、それならいいカ。交渉成立ダナ。
それで相談したいことってなんダ?
えーとナニナニ、「芳佳ちゃんが好きなのは私なのか私のおっぱいなのかわからなくなってきた」ダって?
なるほどナ。たしかに宮藤のおっぱいへの執着は、さすがの私もびっくりダヨ。
入隊してすぐルッキーニに揉まれた時は、てっきり揉まれる側なんダと思ったもんダけど、
今ではすっかりおっぱい揉みが宮藤の代名詞だからナ。
特にシャーリーを助けようとしておっぱいを揉んだナンテ話を聞かされた時は思わず吹いたナ。
リーネも宮藤にいっぱいおっぱい揉まれたんダロ?
……ウンウン、やっぱりそうカ。いっぱいおっぱい揉まれたカ。
訓練で疲れて二人で地面に寝そべってる時に、リーネの胸にわざとらしく手を置いてたのカ。
ン? それにまだあるのカ?
「今思い返すと、芳佳ちゃんが私のおっぱいを揉む夢を見たことがあるんじゃないかって気がする」ダって!?
それはどういうことダ!?
ナニナニ……「ある日の朝、芳佳ちゃんがベッドから落ちたことがあった」ダって?
「部屋が隣の私はその音にびっくりして、芳佳ちゃんの部屋に行ってみた」ダって?
「それでどうしたのと芳佳ちゃんに訊いてみたら、芳佳ちゃんは訓練で私とそらを飛ぶ夢を見たって答えた」ダって?
「その時、芳佳ちゃんはものすごく顔が真っ赤にして、毛布をかぶってしまってた」ダって?
「でも視線はちらちら私の胸を見ていた」ダって?
「あの時の芳佳ちゃんはいつも以上におかしかった」ダって?
「あれは、もしかしたら私のおっぱいを揉む夢を見てたんじゃないか」ダって?
ウン、なるほどナ。それはリーネの推測が正しいと私も思うゾ。
……しかし、宮藤はホントにとんでもないキャラになったもんダナ。
――ところで、リーネのバストは何センチあるんダ?
ン? なんダ、その目ハ?
これはあくまで参考のために訊いてるんダからナ。答えてもらえないと相談に乗れないからナ。
エ……はち…………
スマナイ、よく聞こえなかったからもう一回頼ム。
エ!? はちじゅうさんダって!?
ウソつケ!! ていうかなんで私と変わらナイんダ!?
ナニ? 「バストのサイズと相談と、本当に関係あるのか」ダって?
実はこれにはものすごく深い関係があるんダけど、今回はもうイイヤ。
相談に乗ってやるからとりあえず落ち着ケ。ナ?
それで相談は、宮藤が好きなのはリーネなのかリーネのおっぱいなのかってことダったナ。
実は私にはその意味がよくわからないんダけどナ。
そもそもなんで分けて考える必要があるんダ?
たとえば牛タンが好きで、焼き肉屋で牛タンばっか注文する人がいたとするダロ?
で、牛タンは焼き肉のメニューの一つダヨナ?
じゃあ、牛タンが好きな人っていうのは、つまり焼き肉が好きな人ってことダロ?
それと同じサ。
宮藤がリーネのおっぱいを好きっていうのは、つまり宮藤はリーネのことが好きってことダヨ。
これはもしかしたら逆かもしれないナ……。
でもこれだけは言えるゾ。
宮藤がリーネのおっぱいを好きな分だけ、宮藤はリーネのことが好きってことダヨ。
それに、好きな人に、自分のなにかを好きって思って貰えるのはものすごく嬉しいもんダと思うけどナ。
どうダ? 納得してくれたカ?
……ウン、そうカ、納得してくれたカ。よかっタよかっタ。
エ? 「まだ相談したいことがある」ダって?
でも相談は一回ごとに報酬が発生するって決まってるんダヨナ。
ン? そうカ、それでもイイのカ。
じゃあ10分間おっぱい揉ませてクレ。
ナニ!? 「絶対サーニャちゃんに言いつけてやる」ダって!?
ちょっと待テ、それだけはホントにやめてクレ!
ホラ、少し前までだけ、ほんのちょっといい雰囲気ダったじゃないカ! ナ?
……ダメ?
じゃあ今回の分の報酬はナシでいいヨ。
……ダメ?
じゃあさっきの洗濯の当番代わってクレってのはナシでいいヨ。これならいいカ?
……ダメ?
じゃあ一体どうしたらいいんダ……?
エ? 「私の洗濯の当番を代わってくれたら赦してあげる」ダって!?
そ、それはちょっと……
エ? 「じゃあサーニャちゃんに全部言いつける」ダって!?
ま、待テ! わかっタ! 報酬ナシで相談にのってやるし、洗濯も私が代わりにするヨ!
ウン、そうか、それならいいカ。
はぁー………………オマエって実は結構黒いヨナ。
アッ、いや、なんでもナイ!
私は何も言ってナイゾ!
言ってナイから、とにかくその手に持ってる物を置ケ!
それで、もう一つの相談ってなんダ?
ウンウンナニナニ……「芳佳ちゃんが男の人からラブレターを貰ったことなんだけど……」ダって!
ちょっと待テ! メチャクチャタブーなんダゾ、それ。
いいカ、世の中にはナ、女の子同士がいちゃついてさえいれば、
ペリーヌいじりたおしたり、バルクホルンのキャラを崩壊させたりしても、笑ってGJと言ってくれるとても気のいい人たちがいるんダ。
ところがそんな気のいい人たちは、話に男が絡んだだけで、突如豹変するんダ。
そりゃもう荒れに荒れまくるサ。あるいは泣くサ。
私にもその気持ちはよーくわかるゾ。
さすがの私も、その相談にはちょっと乗れないナ。
――ア、今回は特別にお許しが出たようだから、その相談に乗ってやれるみたいダ。
まあ、あんまり行き過ぎないように気をつけなきゃダけどナ。
で、そのことダけど、私にはあの時のリーネの行動は、ある意味ミーナ中佐の過去以上にショックダったサ。
それで、どうしてリーネはあの時、ラブレターを受け取るように宮藤に言ったんダ?
ウンウン、その前に宮藤が私たちが男の人と接触しちゃダメってのはおかしいって話をリーネにしたのカ。
それでリーネは、宮藤は男に関心があるんだと勘違いしちゃったわけカ。
それに、あんな風にいきなりラブレターなんて渡されたら、場の空気とかもあるしナ。
まあ心配スンナ、アイツも間違いなくこっち側ダヨ。
けどアイツは優しいヤツだから、こうやって誰にでも構わず優しくしちゃうんダナ。
それが時に、こうやって勘違いを生むってことダ。怖いヨナ。
それにナ、リーネ。オマエも優しいヤツダヨ。
自分の気持ちにウソをついてまで、宮藤のことを考えられるんダから。
でも間違った優しさってのはナ、ときにとてつもない暴力になるんダからナ。
そういうことをちゃんと理解すべきダヨ。オマエも、宮藤もナ。
で、あの時、ラブレターは風で飛ばされちゃったんダロ?
あれはやっぱりオマエの仕業なのカ?
エ? 秘密ダって?
それじゃ答えてるようなもんダけど、そういうことなら仕方ないカ。
私にも教えてくれないカ?
……ダメ?
まあ、別にいいけどナ。
私たちにはめくれるという概念がナイから、実はあんまり必要性を感じないしナ。
ついでにあそこにミーナ中佐がいたのも、やっぱりオマエの仕業だったわけダナ。
エ? それも秘密ダって?
でも、顔にはちゃんと出てるじゃないカ。
なんダヨ、実はやることちゃんとやってるんじゃないカ。見直したゾ、リーネ。
エ? 「なんだか芳佳ちゃんがどんどん私から離れていっちゃう気がする」ダって?
どういうことダ、それ?
エ? 「でも、芳佳ちゃんはどんどん立派なウィッチになっていくのに、私は……」ダって。
アー、そうカ。
まあ、宮藤の入隊はリーネよりあとダったし、そういう風に比べちゃうのも仕方ナイかもナ。
たしかに宮藤の成長ぶりは私も目を瞠るものを感じているサ。
でもナ、リーネ。私から見れば、オマエダってちゃんと成長してるヨ。
ホントダヨ、ウソじゃナイ。
それにサ、こないだ、ペリーヌの二番機についたことがあったダロ?
あのあと、ペリーヌがオマエのこと誉めてたゾ。
「もう安心してあの子に背中をあずけられますわ」ってナ。
アイツってツンデレだから、坂本少佐以外の人を褒めるなんてめったにナイの二。
他のみんなだってリーネのことちゃんと認めてるサ。
リーネが自分でそのことに気づいてナイだけダヨ。
オマエだってちゃんと成長してるってことサ。
なぁ、リーネ。この話を宮藤にしたことはあるカ?
きっと宮藤も私と同じことを言ったんじゃナイカ?
……ウンウン、訓練の後にシャワーを浴びてる時にそんな話をしたわけカ。
で、やっぱりそうカ。宮藤も私と同じこと言ったのカ。
ナ? 私の言うとおりダロ?
宮藤だってオマエのことをちゃんと見てるってことダヨ。
そろそろ元気出てきたカ?
エ? まだダメダって?
しょうがないヤツダナ。
――なぁ、リーネ。そこに飾ってある花の花言葉を知ってるカ?
ウン、そう、その花は百合ダ。
その百合はリーガルリリーって言ってナ、私の好きな花の一つなんダ。
実は私は、不安になったり落ち込んだりした時には、この花を見て元気を出すようにしてるんダ。
それでナ、リーネ。リーガルリリーの花言葉は「威厳」なんダ。
茎なんてこんなに細いのに、綺麗な白い花びらをめいっぱい広げてるダロ?
この花を見てると、なんだか元気が湧いてこないカ?
……そうカ、そうカ、だいぶ元気が出てきたカ。そういうことにしといてクレるカ。
まあカラ元気も元気のうちダヨ。
イイカ、リーネ。
恋は気合ダ! ぎゅっと抱きしめて好きって言えばイイんダ!
こういうことは誰かに話を聞いてもらうだけで自然と落ち着いてくるもんダヨ。
またなにか話したくなったら、遠慮せずにいつでも来いヨ。
じゃあ最後にタロットでリーネのこと占ってやるヨ。
ウントコショドッコイショ…………よし、出たゾ、リーネ。
【死神】のカードだ。
ン? どうしたんダヨ、そんなにしょげテ。
安心シロヨ、だって【逆位置】ダからナ。
新しいスタートを切るには最高のカードダ。
今日はリーネにとって、諦めていたこととか上手くいかなかったことが全部逆転する日ダヨ。
心機一転、気持ちを切り替えてことにのぞんでみろヨ。きっと全部上手くいっちゃうゾ。
人を思いやれる心を持ってるのはリーネのいいところダヨナ。
でも、まわりばっかり気にして、自分のことをちゃんと見ないのは良くないゾ。
それにあともう少し、自分の気持ちに素直に生きてもイイんじゃないカ。
私はいつも、リーネのこと応援してるからナ。
ガンバレ、リーネ。