遠い空の向こうに


カールスラントに双子の姉妹がいた。
 名はそれぞれエーリカ、ウルスラ、姓はハルトマン。

 二人はいつも寄り添っていた。
 本を読むことが好きだったウルスラは、遊ぼうとせがむエーリカに困りながらも、そんな日常のやり取りに安心を覚えていた。
 エーリカはなかなかのってこないウルスラに頬をふくまらせながら、暇つぶしに空を眺めることが多かった。

 ――空を飛びたい

 姉妹の年齢が十代に差し掛かった頃、エーリカとウルスラは"空を飛ぶ魔女"の話を聞き、ほどなくして、カールスラント空軍基地にこっそりもぐりこみ、『ストライクウィッチーズ』を目の当たりにする。

 金属の箒――ストライクを操り、空を駆る少女たち。

 ほどなくして、魔女の素質があった二人は、幼いながらも、あっさりカールスラント空軍への入隊が認めらる。

 二人はマイペースでありながらも、戦闘に関する差は歴然と、残酷にあらわれていた。

 エーリカがウルスラに遊びをせがまなくなった頃、
 ようやく曹長になったウルスラと、
 すでに少尉にまでのぼりつめようとしていたエーリカは、別々の部隊の所属となっていた。

 そして、1939年、息を潜めていたネウロイが再度侵攻を開始し、二人の姉妹はそれぞれの部隊で戦争へ身を投じ、離れ離れになっていた。


 スオムス、カウハバ基地のある冬の夜。
 入浴を終えたビューリングは、少しばかり湿った銀髪をタオルで拭いながら、自室へ向う。
 寒さのせいと、すでに就寝時間を2時間ほど過ぎていたこともあってか、廊下はしんと静まり返り、一部、切れ掛かった電灯がちかちかと頼りなさげに廊下を照らす。
 ビューリングは数メートル先の自室のドアを見ると、足を止める。
「なんだ、こんなところで…」
 ドアを背に、しゃがんでいたウルスラが本から顔を上げる。
「鍵、開けて」
「……自分の部屋はどうした」
「この間の実験で、壁にひびが入って、寒い」浮かぶ、白い吐息。
「キャサリンやエルマの部屋にでも行けばよかっただろう」
「キャサリンは、寝相が悪い。エルマは寝言がうるさい。読書に集中できない…」
 ビューリングは鍵を解き、ドアを開ける。
 ウルスラは腰をかがめて、ビューリングの腕の下をすり抜け、彼女の部屋にすたすたと入っていく。
「なんなんだまったく…」

 コートを着たまま、自分の部屋のように、ビューリングのベッドにうつぶせになり、ウルスラは早速読書にふけっている。
 ビューリングは頭をかきながらクローゼット代わりの木箱を開けると、ねずみ色のローゲージのタートルネックのセーターを引っ張り出し、ウルスラに向かって投げる。
 顔だけ向けるウルスラ。
「そんな重苦しいコートじゃ肩がこるぞ」
 ウルスラは何も言わず、体を起こし、メガネを外すと、コートを脱ぎ、セーターを着る。
 ビューリングにとっては、腰ぐらいのセーターだが、ウルスラが着ると、ワンピースのようにぶかぶかだ。
 ウルスラはメガネに手を伸ばすが、ビューリングがすかさず取り上げて、どんとベッドに座る。
「返して」
 ビューリングは、素直にしたがって、メガネを返すと、ウルスラはすぐにかける。
 やっぱり双子だな。そっくりだ、とビューリングは思ったが、あえて口には出さなかった。
 ウルスラが、姉の話題を出すと、顔が曇るのを何度か見たからだ。
 ウルスラはまた寝転がって、読書を再開する。
 ビューリングは、自分の使い魔であるダックスフントと戯れ始める。
 気がつくと、ウルスラが、読書を中断し、膝を丸めて、ビューリングを見つめていた。
「どうした?」
「……なんでもない」
「お前が読書を中断するなんて、たいてい"なんでもあるとき"だろ」
 ビューリングは声を荒げるでもなく、淡々と言い放つ。そういえば、と彼女は思い出す。ウルスラの姉の使い魔も自分と同じダックスフントだったはず。ビューリングはしばらく考え抜いた後、
「ウルスラ。前から聞いてみたかったんだが、自分の姉をどう思っている?」
「……わからない。たぶん…嫌いじゃ、ない。けど…」
 ウルスラがセーターの曲げた腕の部分をぎゅっと握る。
「悔しさを感じたときもある。だけど、それ以上に……寂しい」
 さらに縮こまるウルスラに、ビューリングの使い魔が近づいて、慰めるように頭をこすり付ける。
 ウルスラは薄く微笑み、頭を撫で返す。
 ビューリングは初めて見るウルスラの笑顔に、驚きながら、静かに彼女の隣に並ぶ。
「双子というのは、比べられるという点においては、普通のキョウダイよりもつらいものなのかもな。同じように見えても、やはり"違う"ところもあるはずだろうし。双子ではない私が言っても説得力に欠けているが」
「自分がエーリカほどの戦闘能力が無いことはもうあきらめている。それを悔しいと思ったことも否定しない。けど、今は、寂しい……。昔は、いつも一緒だった。私は本を読んでいて、エーリカが横で騒いでいて……。でも、気がついたら、エーリカは空の向こうに行ってた」
「空の向こう、か。……もう、どれぐらい会っていない?」
「戦争が始まってからは一度も」
「今は……確か、カールスラント空軍はブリタニアだったか」
 ウルスラはうなづく。
「なら、会いに行けばいいだろう。クリスマスも近い。どうせ他の連中は恋人もいないし、クリスマスに休みをとる必要性も無いだろう」
「でも…」
「気にするな。ブリタニアに行ってみろ」
 ビューリングは、柔らかい金髪に包まれたウルスラの頭をぽんとたたくと、ベッドにもぐりこみ、目をつぶる。
 ウルスラも、本を閉じると、ビューリングと同じようにベッドにもぐりこむ。
「……たばこくさい」
「お前だって、火薬臭いぞ」
 
 数日後、ウルスラは休暇の申請を出すとともに、エーリカに向け、手紙を出した。会いたいと。


 第501統合戦闘航空団、基地滑走路。
 とある満月の夜――とはいえ、ライトアップされた滑走路の向こうは決して明るいとは言いがたい。
 エーリカは、あくびをしながら、装備の確認をし、がしゃがしゃとストライカーをはいたまま位置につく。
 その隣には、サーニャが立っている。
「じゃ、行こっか」
「はい」
 エーリカとサーニャは暗い夜空へ向け、飛び立っていく。
 高度を上げ、雲よりも高く。
「たまには夜間哨戒もいいね。眠いけど」
「みんなそう言います」
 サーニャはくすくす笑う。二人はある程度基地から離れると、ホバリング体勢に入る。
 満月を背にした二人の少女の影が夜空に浮かぶ。
 エーリカは、眼下に広がる雲の海を鼻歌でも歌いだしそうな笑顔で眺めている。
 サーニャは何とか話題を探そうとして、自分が手にしている武器――フリーガーハマーを見つめる。
「あ、あの…」
「ん?」
「このフリーガーハマーって、ハルトマン中尉の妹さんが発明したんですよね?」
「うん。そうだよ。ウルスラって言うんだ」
 エーリカは誇らしげに、混じりけなしの微笑みをサーニャに向ける。
「ウルスラさんは、今はどこに?」
「えっと、カウハバ基地……かな」
「寂しいですか?」
「う~ん……。寂しくないとは言わないけど……、けど、約束したから」
「約束、ですか?」
 エーリカは大きくうなづき、昔話を始める。

 数年前のブリタニア。
 ネウロイの脅威に晒されているとはいえ、クリスマスイブのためか、街は密やかながらも活気付いていた。
 ブリタニアに即席で作られたカールスラント空軍用の詰所もご多分に漏れず、である。
 どことなく浮き足立った雰囲気の中、詰所の一室で、ゲルトルートが報告書を書く手を止める。
「落ち着け、ハルトマン。お前らしくもない」
 彼女の周りをうろうろしていたエーリカが足を止める。
 エーリカは少し照れくさそうにして、椅子にかける。
「ねえ、トゥルーデ」
「なんだ?」
「クリスマス休暇、取らせてくれてありがとう」
「さて何のことやら…」
「またまたぁ…」
「エーリカ」
 ゲルトルートは真顔で見つめ返す。
「妹を……、家族を大切にしろよ」
 エーリカは、ゲルトルートの妹のクリスを思い出し、笑顔を抑えて、うなづく。
 ドアをノックする音。二人が振り向くと、ミーナが立っていた。
「二人とも、久しぶりね」
「ミーナ、来週まで遠征じゃなかったのか?」
「それが、私の部隊だけブリタニア待機になったの、美緒たちはまだ向こうよ」
「……そうか」
「よかったじゃん、一人寂しいクリスマスにならなくて~」と、エーリカがにやつく。
 ゲルトルートは顔を真っ赤にして、からかうなと言い返す。
 ミーナはそんな様子を見て、にっこりと微笑む。


 同じ頃、飛行船でカウハバ基地から発ったウルスラは近づくブリタニアを窓から眺める。
 かばんには数冊の本を詰めてきたが妙に緊張して、本を開く気にすらなれないでいた。
 まず何から話そう。
 たくさん本を読んできたのに、肝心なときの言葉が見つからないもどかしさにウルスラは唇を噛む。
 その時、同乗していた人々がざわつく。
 ウルスラは目を見張る。見間違えでなければ、空に浮かぶあの黒点は――

 カールスラント空軍詰所一帯にけたたましくサイレンが響いた。
 ミーナはすぐさま立ち上がり、自分の部隊員の召集に走る。
 ゲルトルートも同様に、エーリカを引きつれ、自らの部隊の残りの隊員の招集に向う。

 ミーナの部隊とゲルトルートの部隊はそれぞれ隊列を組み、空を飛ぶ。
《敵は一機。けど、大型よ。進路はロンドン》
「ちょうど、ロンドンに向ってる飛行船がいるんだけど」
「まさか、お前の妹が……?!」
 エーリカは進行方向にいるネウロイを忌々しく見つめた後、ちらりと背後を見て、数キロ先の飛行船を見つける。
《時間が無いわね……。バルクホルン隊、準備はいいかしら?》
「ああ、いつでもいい」
《全機、敵ネウロイに攻撃開始!》
 ミーナの合図を皮切りに、ミーナの部隊とゲルトルートの部隊は左右に分かれ、ネウロイへの攻撃を開始する。
 ネウロイからのビームの応酬を華麗にかわしながら、踊るように空を舞い、カールスラントの魔女たちは徐々にネウロイの装甲を破壊していく。
 ネウロイを破壊できたとしても、少しでも殲滅が遅れれば、飛行船にネウロイの破片が当たりかねない。
 しかし、まだコアは見当たらない。
 いったん攻撃を終え、離脱したエーリカは思わず唇を舐める。
 上部の装甲はほとんど破壊しつくしたがコアが見当たらない。ということは――
 エーリカは攻撃を終え、離脱した他の隊員を見送ると、スピードを上げ、ネウロイの下部にもぐりこみ、装甲を破壊する。
 剥げ落ちた装甲からコアがのぞく。
 離脱していてはまた装甲が修復されてしまう。
 エーリカは離脱をせず、すぐさまUターンし、やや無理な体勢で再度ネウロイの下部に向かう。
「あの馬鹿……!」
 ゲルトルートが血相を変えてエーリカを追いかける。ミーナも、異変に気づくと、エーリカのほうへ速度を上げて近づく。

 隙間なく発射されるビームを最小限のシールドで防ぎ、エーリカはマガジンに残った弾すべてにできうる限りの魔力を込め、コアに叩き込む。
 コアが四散するとともに、巨大なネウロイも夕空に舞う雪のようにくだけていく。
 エーリカは飛行船がまだ安全なところにいることを横目で確認すると一息つくが、右腕に鋭い痛みを覚えて顔をゆがめる。
 黒い軍服が血で濡れて、冷える。
「やば、シールド……」
 ネウロイの破片は、右腕だけでは飽き足らないかのように、エーリカを貫こうと言わんばかりに降り注ぐが、追いついたゲルトルートとミーナが彼女を両脇から抱えると、シールドを張りながらその場から離れていく。


「痛い痛い痛いって!」
「自業自得だ。我慢しろ!」
 軍医に右腕のぱっくりひらいた傷口を縫われ、包帯を巻かれながら、叫ぶエーリカに、ゲルトルートも負けじと叫ぶ。
 ミーナは二人のやり取りに苦笑いしながら、エーリカに新しい軍服を渡す。
「フラウ、今回みたいな無茶はもうしないでね」
「……うん。ごめんね、心配かけて」
 エーリカはミーナに謝りながら、ゲルトルートに視線を向けるが、彼女は部屋から出て行ってしまう。
「怒らせちゃったかな…」
「あの子なら大丈夫よ。それより、そろそろロンドンへ行ったほうがいいんじゃない?」
「そうだった! じゃあ、またね、ミーナ」
「ええ、いってらっしゃい」
 エーリカは軍服に袖を通すと部屋を後にする。
 詰所を出たエーリカは辺りを見回し、車を探す。
「エーリカ」
 という声と同時に、車のキーが弧を描いて飛んでくる。
 すかさずキャッチすると、ゲルトルートがジープの運転席から降りるところだった。
「急ぐんだろう?」
「うん! ありがとう、トゥルーデ」
 今日一番のまぶしい笑顔を向けるエーリカ。
 ゲルトルートは少し頬を染めると手に持っていた軍帽をエーリカにかぶせる。
「は、羽目を外しすぎるなよ」
「了解!」
「あと……、メリークリスマス」
「メリークリスマス! いってきま~す」
 エーリカが乗ったジープを見送ると、ゲルトルートは詰所に足を向ける。
 ミーナが見守るような視線を向けて立っていた。その手には2つのグラスが握られている。
「お相手してくださるかしら、バルクホルン大尉」
 ゲルトルートはふと微笑んで、グラスを受け取り、ミーナを見つめる。
「喜んで」


 予定より多少遅れたものの、飛行船は無事ブリタニアに降り立ち、ウルスラはロンドンへたどり着いていた。
 飛行船から見えた黒点はやはりネウロイだったようだが、カールスラント空軍が撃破したと聞き、胸をなでおろす。
 ウルスラは、本の詰まったかばんを持ち上げると、エーリカが指定した場所へ向かい、歩き始める。
 街の中心部に向かうにつれ、徐々にお祭りのような騒ぎに包まれ始める。
 ウルスラは戦争が始まる前、まだ、カールスラントが平和だった頃に、エーリカと二人でクリスマスに色めき立つ街を歩いたことを懐かしむ。
 また、あの頃のような時間を取り戻せるだろうか――

 ウルスラは、エーリカが指定したブリタニア屈指の高級ホテルにたどり着くと、正面入り口を支える柱のうちの一本の元にしゃがみこんで、本を開くが、集中できず、数分おきに顔を上げては群衆の中にエーリカを探してしまう。
 しかしながら、彼女の影すら現れようとしない。
 ため息をついて、再び視線を落とすと、急に目の前が真っ暗になる。
 帽子?
 払いのけると、エーリカがしゃがんでひじを突いた姿勢で、にっと微笑む。
「ひさしぶり、ウーシュ」
 エーリカだけが呼ぶその愛称に、ウルスラは胸がいっぱいになるが、突然の事で、言葉が出ない。
 ただ、しがみつくようにエーリカの胸に飛び込んでいた。
 


 ウルスラはホテルの部屋を見回していた。
 広さこそそこまででないものの、部屋に飾られている調度品や家具などは、たった一つでカウハバ基地の備品の数年分に相当するのではないだろうか。
「気に入った?」エーリカが頭の後ろで手を組んで、ウルスラの顔を覗き込む。
 ウルスラは、照れた顔を隠すように顔を背ける。
「こ、こんな高い部屋でなくてもよかった…」
 エーリカはきょとんとしつつも、やれやれと息を吐き、ベッドに倒れこむと、体を伸ばす。
「あ~、今日も戦ったなあ…」
 ウルスラはかばんを床に置くと、恐る恐るベッドに這い上がって、寝転がるエーリカのそばにちょこんと座る。
 エーリカは、ウルスラにじっとやわらかな表情を向ける。
 ウルスラはその視線から逃げないように努めて、意を決したように言った。
「助けてくれて、ありがとう…」
「怖かった?」
 ウルスラは、首を振る。「ネウロイは怖くない。会えなくなることのほうが、怖い…」
 一瞬の間があって、エーリカは体を起こすと、ウルスラの頬に触れ、
 珍しく真剣な面持ちで、そのままウルスラの薄い下唇にそっと自分の唇を重ね、離す。
 ウルスラは体をぐるりと回して、エーリカに背を向ける。
「姉妹で……、こんなの、おかしい…」
「……相変わらずマニュアルどおりだなあ」
「マニュアルとか、それ以前の問題」
「でも、好きだからさ」
 迷いもなく言い切るエーリカに、ウルスラは頬を染める。エーリカはすばやくウルスラの前に移動すると、メガネに手をかける。
「外しても、いい?」
 ウルスラは、拒まない。拒めない。
 エーリカは静かにメガネを外し、今度は頬に口づける。
 ウルスラは小動物のように震えるばかりで、抵抗はしなかった。
 エーリカは軍服とシャツのボタンをすばやく外し、脱ぎ捨てると、ウルスラの着衣にも手をかける。ウルスラはエーリカの右腕の包帯に気づく。
「怪我……」
「ああ、ちょっとしくじっちゃって」無邪気に返すエーリカは、ウルスラのシャツのボタンを外しきり、開く。
 肌をさらしたウルスラは、小さくつばを飲み込む。
 エーリカは、ウルスラの首筋に顔を沈め、下着の上から、薄い胸に手を触れる。
「まだまだだなぁ」
「お互い様……」
 エーリカはウルスラの下着に指を滑り込ませると、ウルスラの体が大きくびくつく。
「声、出していいよ」
「絶対いや…」
 エーリカとウルスラは手を重ねあい、互いの熱を共有し、クリスマスイブの夜を消化していった。

 翌朝、二人はぶかぶかのバスローブを羽織って部屋の中で朝食を摂っていた。
 昨夜は一食も摂っておらず、戦闘の負傷で血もだいぶ失っていたせいか、エーリカは少しお行儀悪く、がっついている。
 ウルスラは静かにスープを口に運ぶ。
「……行儀悪い」
「そんなミーナやトゥルーデみたいな事言うなよ~」
「誰?」
「あれ、もしかして妬いてる?」
「……違う。単純に興味を持っただけ」ウルスラは照れながら、つっけんどに返す。
 エーリカはいたずらぽく笑いながら、ウルスラと離れていた時期の戦いの日々を話し出す。ミーナやゲルトルートとの出会いも含めて。
 ウルスラも、カウハバ基地での日々を話す。妙に冷静な人物評を付け加えつつ。


 エーリカはサーニャの周りをぐるりと旋回する。
「……それで、ブリタニアのホテルで待ち合わせして、二人で泊まって、語り明かしたかな」
「それきり、会っていないんですか?」
「なかなか機会がね……。そのあとここに配属になったし。でも、別れ際に約束したから。
 私は必ずウーシュのところに生きて帰る!
ってね」
 サーニャのアンテナが桃色に染まる。
「あれ? もしかしてクサいとか思ってるんじゃないだろうなあ?」
「ち、違います。そこまで想われててうらやましいなって…」
「エイラはこういう台詞言わなそうだもんなあ。いや、意外に言うのか。どうなの、そこんとこ?」
 サーニャのアンテナの桃色の度合いがますます強くなり、エーリカから逃げるように速度を上げる。
 エーリカが面白がってサーニャを追いかける。
 そうして、夜が更けていく。

 同じ頃、寝つけなかったウルスラはまだ読書をしていたが、思い出したように顔を上げ、つぶやく。
「私は必ずウーシュのところに生きて帰る、か……」
 ウルスラは、口元を緩ませ、窓の外に広がる夜空を眺めた。



遠い空の向こうに 終わり


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