無題
ああ、もう。
全部お前のせいだ、エーリカ。
私は隣でぱくぱくと朝食を食べる人物を軽く睨み付けた。
昨晩は本当に恥ずかしかった。
エーリカと夜を共にするのは、まぁ…恋人として不自然じゃない行為とはいえ、その……一人で、…してる所を見られた事はこのゲルトルート・バルクホルン一生の不覚だ。
朝だって、横で眠るこいつを起こそうとしたら、「トゥルーデを朝ごはんにもらう」なんて言ってのしかかってきた。
もちろん全力で阻止したが。全く、こいつには羞恥心というものがないのか。
ふと、向かいの席に座る坂本少佐と宮藤に目を移した。
この二人も、私と同じものを食べていた筈だが…大丈夫だったのだろうか。
「トゥルーデ、食べないんならもらっちゃうよ」
「すぐ人の飯を持っていくな!手癖が悪いぞ!」
誰のせいで箸が進まないと思っているんだ、全く!
朝食を終え、特に予定もない私は部屋へと向かった。
エーリカにはカールスラントにいた頃から色々と振り回されていた。いつの間にか私は突っ込み役のようになってしまっていたが、嫌にならないのはやっぱり……好き、だからなのだろうか。
そんな事を考えて、少し頬が火照った。廊下に誰もいなかったのが幸運だ。
「トゥルーデ」
部屋に入ろうとしたら、エーリカとは他のよく知った声に呼び止められた。
「ミーナ、…!」
振り返り、思わず体が固まった。
後ろに立っていたミーナは笑顔だ。しかし、目が笑っていない。
何があったかわからないが、機嫌が悪い証拠だ。
「ちょっといいかしら」
「あ…あぁ」
断る理由もないし、むしろこの状況で断るのは私も少し怖い。
私は頷いて、ミーナの後ろについていった。
ミーナの部屋に着き、中に入った。
バタンとドアを閉めると、途端に空気が張り詰める。
…これはかなり機嫌が悪そうだ。
「トゥルーデ、座って」
ベッドに座るように促され、私は素直に従った。
ミーナは立ったまま、腰を下ろした私を見下ろす。
「昨日の夜の事だけど、」
「なっ…!」
昨日の夜、という言葉に過剰に反応してしまった。
い、いや、落ち着け。カールスラント軍人たるもの、冷静さを欠いてはいけない。
第一ミーナが昨晩の私とエーリカの事を話してくる筈が……
「フラウと一緒にいたわよね」
……甘かった…
「そ…それが、どうかしたか?」
まずい。どもってしまった。
おまけに昨日の出来事を思い出して、顔が熱くなってきた。
私はなるべくミーナに顔が見えないように、視線を下げた。
「あなたたちは付き合ってるんだもの。夜に二人きりで部屋にいても、それは自然な事だわ」
ミーナの言葉に、少しだけ顔を上げる。そう思ってくれるのなら、一体ミーナは何に怒っているのか…
「でもね、」
ミーナの腕が伸びてきて、くいと顎を取られ上を向かされた。
整った美しい顔が近付いてきて、少しだけ体が強ばる。
しかし、次のミーナの言葉に、完全に私は固まってしまった。
「せめて、ドアをちゃんと閉めてからしたらどうかしら?」
…………
おのれエーリカの奴……!!
ドアを閉めていなかった…ということは、廊下に…声が…!
正直、エーリカに服を脱がされたあたりから意識が朦朧としていてあまり覚えていない。
…私は一体どれだけはしたない声を…!
「私以外に聞いた人がいるかはわからないけれど、何にしろ注意力が不足している事に変わりはないわね?」
「……あ、…あぁ…その通りだ…」
パニックになりかけた私はミーナの声でなんとか覚醒した。
だがそれも束の間。
「悪い子のバルクホルン大尉には、お仕置きです」
半分ふざけた上官口調でそう言うと、ミーナは私の体をベッドへと押し倒した。
「なッ、ミーナ!?」
慌てて押し返そうとするが、凄い力で押さえつけられる。
伊達に中佐を任される人物ではないな…
…と感心している場合じゃない。
「ミーナ、やめっ…」
「言う事を聞きなさい!トゥルーデ!」
突然の張り上げた声に、体がすくんだ。
ミーナのこの声は苦手だ。澄んだ声なのに威圧感があって、息が詰まるような感じがする。
私の抵抗が止んだのを見て、ミーナは服を脱がし始めた。また変に感心してしまうほど、鮮やかに。
「いい、大人しくしなさい。そうすれば、早く終わるから」
指先でつん、と唇をつつかれる。
その間に下着も取られ、私は全裸になっていた。
「っ…ミーナ…」
明るい部屋の中で、裸体がミーナの視線に晒されている…
恥ずかしさに耐えられず、ぎゅっと目を瞑った。
「んっ…」
ミーナの顔が首筋に降りてきて、ぺろりと舐められた。
背中がぞくっとして、体が強ばる。
「これだけで感じるなんて、トゥルーデはいやらしいのね」
「ち、違っ…」
くそ、エーリカもミーナも人の事をいやらしいいやらしいって…!
反論する間もなく、ミーナの手は露になった私の胸に伸びてきた。
「ひゃっ…!」
「あら、可愛い声」
ミーナは楽しそうに笑うと、両手でゆっくりと乳房を揉み始めた。
「っ…ん、く…」
シーツを握り締めて押し寄せる快感に耐える。少しでも気を抜いたら、流されてしまいそうだ。
「我慢する顔も素敵よ、トゥルーデ。いじめたくなっちゃう」
何を言うか、この上官は…!
口を開きかけた瞬間、先端の突起をきゅっと摘まれ体が跳ねた。
「いい反応ね、ちょっと強いくらいがいいのかしら」
「あっ、や…やめろミーナッ…んん…」
「なぁに、上官に向かってその口の聞き方は」
「ひゃっ!ぁ、ダメ…そんな、強くしたらっ…!」
頭がだんだん働かなくなってきた。このままじゃ…
「…?…ミー、ナ…?」
すると突然、ミーナが私から離れた。
目を向けると、私の膝の間に座り、にこっと微笑む。
「脚を開いて、トゥルーデ」
「…なっ…!」
かっと顔が熱くなる。自分から脚を開くだなんて…そんな恥ずかしい事できるか!
「トゥルーデ、聞こえた?」
「み、ミーナ…それは…」
「開いて」
「い…いや、あの…」
「開きなさい」
「……」
仕方なく、私はそろそろと脚を広げた。
「自分で脚を抱えて、…そうよ。いい子ね、トゥルーデ」
言われるまま太ももを両手で抱える。脚が左右に大きく広げられた状態がキープされる。
恥ずかしさで死にたくなりそうだ。…しかし、今はミーナを怒らせない方が身のためだ。
「フラウにもこんな格好、見せるの?」
「っ…誰が見せるか、こんな…」
くすくす笑いながら、ミーナは脚の間に手を伸ばしてきた。
「ひっ…」
ぴちゃ、と響いた水音に息を飲む。
「トゥルーデったら…触ってもいないのに、こんなにして…」
「や…やめ…音、いやだっ…」
ミーナはわざと音を立てるようにそこに触れる。
私はこの音が凄く苦手だ。自分から発せられるものなのだと考えるだけで…熱くなって、更に量が増してしまう。
「嫌だって言っても、あなたのなのよ?」
ミーナはそう言うと、今までそこを触っていた手を、あろうことか私の口に突っ込んできた。
「んんっ!?ゃ、うぅっ…」
「どうかしら?自分の蜜の味は」
どうもなにも、気持ち悪いに決まっているだろう…!
エーリカはたまに舐めたりして「甘くて美味しい」とか言うが、自分のなんか甘くも美味しくもない。
ミーナは微笑みながら指を抜き、再び濡れた場所に伸ばしてきた。
今度は、奥深くに。
「あっ、やあぁ…!」
ミーナの長い指は、普段エーリカには触られない場所まで届いた。
もう…声が抑えられない…
「ミ、…ナぁ…んっ、ふあぁ…」
「トゥルーデ…」
快感に耐えられず、手を伸ばす。
その手を取って抱き締めてきたミーナに、ぎゅっとしがみついた。
「ねぇ、トゥルーデ…恋人同士仲が良いのはいいけれど…」
「あんッ、ぁ、…」
「嫉妬する人間がいるってこと、忘れないでね」
「え…、ぁっんん…!」
耳元で囁かれたミーナの言葉。
意味がわからず聞き返そうとした瞬間、奥を強く擦られた。
「あぁぁんッ…!」
びくびくっと体が震え、一気に力が抜ける。
ぐったりした私の体を、ミーナが支えてくれた。
「トゥルーデは、本当に可愛いわね」
ちゅ、と汗ばんだ額にキスをされる。
「ミー…ナ、さっきのは…どういう…」
「ふふ、何のことかしら」
質問をさらりと交わしたミーナは、タオルをぽんと私の横に置いた。
「早く戻らないと、フラウに怒られちゃうわよ」
そう言ってミーナは部屋を出ていった。
自分でやっておいて…全く…
私は体を拭き、服を着て部屋を出た。
どうにもさっきのミーナの言葉が引っ掛かるが…
ああそうだ、エーリカを見つけ出して昨晩の事を説教しなければ。
…その前に風呂に入ってくるか。
ふらつく脚で廊下を歩きながら、心の中で少しだけ、エーリカに謝った。