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「さーて、何処行こうか」
トボトボ歩きながら、あたしは石ころを蹴飛ばす。
501が解散になって二カ月。
あたし達は軍に戻る気にもなれず、いろんな所をブラブラしていた。
「リベリオンに戻るか、ロマーニャに行って、ロマーニャ征服するか、かな?ハハハ」
「もう、真面目に考えてよ、シャーリー」
「ゴメンゴメン。でも真面目な話どうすっかな」
「このまま駆け落ちとか?」
「それもいいな。んで扶桑に行って芳佳の実家に押し掛けるか?」
「ハハハ」
石ころを蹴り続けながら、あたしはルッキーニに問う。
「なあ、ルッキーニは軍に戻る気とかあんの?」
「う~ん、シャーリーがいないと物足んにゃ~い」
「だ、よな。あたしだってそうだ。
でもこのまま軍に戻らなかったらあたし達は、脱走兵の烙印を押されるワケで」
「…あたしは…それでもいい」
握ったルッキーニの手の力が強くなる。
「駆け落ちってそういうもんじゃん」
「ま、ね。そうなりゃ最悪除隊だよな」
「そうだね」
「二人とも除隊して、二人で幸せに暮らす。あたしはルッキーニとだったらそれが出来る自信があるな。
なんせ砂漠でパスタ食ったもんな」
「ニャハハ、そだね」
そしてあたしは空を仰ぐ。
「楽しかった、よな」
「…うん」
「なんだかんだ言ってみんな良い奴だったもんな。
いろいろあったけど、あたしにとっては、あの時間が一番幸せだったよ」
「うん、うん」
「それに、ルッキーニと出会ったのも幸せな思い出だよ」
「アハハ、シャーリーちょっと浸りすぎ~」
「ゴメンゴメン、なんかあたしらしくなかったよな」
「あたしはいつものシャーリーが好きだよ?
落ち込んだシャーリーなんか見たくにゃ~い」
「ハハハ、ゴメンって言ってるじゃん」
あたし達はそんな他愛も無い会話をしながら、いつもこの時間を過ごしていた。
いつものようにルッキーニとくだらない事話して、いろんな事をして。
あたしはそれが楽しかった。
でもそんな時間が長く続かない事くらい、二人とも分かっていたのかもしれない。
分かっていたとしても、それを口に出す勇気は無かった。
「もうそろそろ移動しよっか」
「そだね。もうちょっと色んなとこウロウロしたいしね」
「…今頃みんな何してんだろうな。まあ相変わらずなんだろうけどな」
「もう一回集まる機会とかあるかな」
「…あったら良いよな」
「…うん」
「…行こうか」
「うん!」
あたし達は手を繋いで外へ出る。
「…今日は曇りか」
「雨降りそうだね」
「も少しここにいるか」
「うん」
確かに今にも雨が降りそうだ。今外に出ようものなら、多分びしょ濡れだろう。
そう考えたあたし達はしばらくその場に立ち止まる事になった。
「うにゃ~雨って嫌い~」
「そうか?あたしは好きだけどな。なんかさ、雨のこの匂いが好きなんだよな。
上手く言えないけど、なんかこの切ない感じが好きなんだよ」
「ふーん、変なのー」
「それにさ、ルッキーニの服が透けるの見たいじゃん?」
「バカ!エロ!」
「ハハハ、冗談冗談」
雨がそろそろ本降りになってきた。
そのタイミングであたしはルッキーニにあの話を持ちかける事にした。
「…なあ、ルッキーニ」
「なに?」
「お前、このままで良いと思う?」
「…何が…?」
「あたし達の事だよ。…ルッキーニも分かってる筈だろ」
「……あたしは」
「…あたしは、このままじゃダメだって、正直思ってる。
…このままじゃあたし達、進まないだろ」
「……」
「…それでさあたし、一回リベリオンに帰ろうかと思うんだ」
「…えっ…?……軍に戻る…の…?」
「ちょっと違うかな。…除隊届を出して来るんだよ」
「除隊…届」
「うん、今の状態でルッキーニと一緒にいるのは多分無理だと思う」
「……あたしは…どうなるの…?」
「…ルッキーニも一回、ロマーニャへ帰るんだ。そこでルッキーニも除隊届を出して来るんだよ」
「あたしも…?」
「そう。んでルッキーニはロマーニャで待ってて。そしたらあたしが…」
「シャーリーッ…!」
ルッキーニが抱き付いて来た。
その顔はもう既に涙で濡れていた。
ルッキーニの涙に呼応するかのように雨が土砂降りになっていく。
「ルッキーニ」
「いやっ…だっ…!いやだっ…!
あたしっ…シャーリーと離れたく…っ…ないっ…!!」
「ルッキーニ、ごめん…でもこれは…」
「いやだよっ…!シャーリーと離れたら…っ…あたしっ…死んじゃうよっ…!」
「……」
「ずっと二人でいよ…?…あたし達二人なら、きっとどんな事だって…っ」
「ルッキーニ!」
あたしはルッキーニの言葉を大声で制止した。
ルッキーニの言葉は止んだけど、まだ泣いている。
「…あたしだって、ルッキーニとずっと一緒にいたい。
…でもその為には、しばらく離れる事も必要なんだ。
…ルッキーニが好きだから、あたしはそう決めた」
「シャーリー…」
「ルッキーニ、落ち着いて聞いて。あたしはリベリオンに戻る。
ルッキーニはロマーニャに戻る。それで除隊届を出す。
…ここまでは聞いたな?」
「……うん…」
「それで、ルッキーニはロマーニャに残っていて欲しい」
「……シャーリーはどうするの…?」
あたしはルッキーニの肩をガシッと掴んでルッキーニに言い放つ。
「…ルッキーニを迎えに行く。何があっても」
「シャー…リー…」
「絶対迎えに行くから。どれだけ時間がかかるかは分からない。
…でもあたしは絶対にルッキーニを見つける」
「シャー、リー…」
「泣くな…バカ……二度と逢えない訳じゃないんだぞ…?」
「…シャーリーも泣いてるじゃん……シャーリーの顔、ボロボロ…だよ…」
「バカ、これは…汗だよ…
…あたしがこの事をルッキーニに伝えるのにどれだけ緊張したか…分かってんのか…?」
あたし達は強く抱き締め合う。
雨もますます強くなる。
「シャーリー…!シャーリー…!大好き…!大好き…!……だから…だからね、あたしね…っ」
「うん…!うん…!」
「ずっと……ずっと待ってるからね…!?…何ヶ月でも…何年でも待ってるから…!」
「うん…!うん…!あたしもルッキーニを迎えに行くから…!!
…ずっと…待っててね…!?…愛してるから…!…ルッキーニ…!!」
あたし達は唇を重ねた。別れを惜しむかのように。
深く、深く、想いを伝える。
口の中の唾液が甘い蜜となって、お互いの口内を行き交う。
もう、長い事、そうしていた。
その時間はまるで永遠に感じられた。
降りしきる雨の中、あたし達はしっかりと抱き合い、想いを確かめ合った。
―――――――――――――――――――「…雨も上がったな」
「うん」
「さて、一旦お別れ…だな」
「…うん」
心配そうに俯くルッキーニの頭をあたしはクシャクシャと撫で回す。
「心配すんなって。あたしは約束は死んでも守るからさ。
それにあれだぞ、除隊さえすりゃあたし達自由なんだぞ」
「それは、そうだけど…」
「まったくしょうがないなあ…。よし、も一つ約束するよ」
「なに?」
「二人でリベリオンに着いたら、結婚しよう!」
「…えっ…でも…」
「大丈夫!リベリオンは自由の国!同性が結婚するなんてワケ無い!」
「シャーリー…」
「どうだ?これで少しは気が晴れたか?」
「…うん」
「ハハハ、現金な奴だなあ」
あたしはそう言ってまたルッキーニの頭をクシャクシャと撫で回す。
「…じゃあ、行くよ」
「シャーリー」
「ん、なに?」
「…墜落しないでね」
「…なんて縁起でも無い事を……
…大丈夫だよ。墜落してもルッキーニに逢えるまであたしは死なないよ」
「…うん…!//////」
「じゃあ…」
「あっ、ちょっと待って…!」
「なんだ?まだなんかあんのか?」
すると、ルッキーニは私に近寄って来て。
「ちゅっ♪」
あたしの頬に軽くキスをした。
「ルッキーニ…//////」
「…シャーリーはあたしの未来の旦那様だもん。…行ってらっしゃいのちゅーだよ」
「ルッキーニ…お前…」
あたし達の間に涼しい風が吹く。
「行ってらっしゃい、シャーリー」
「ああ、行ってくるよ、ルッキーニ」
バルバルバル…
飛行機のエンジン音が響く。
…ん、ルッキーニがなんか叫んでる。
「だーいーすーきーー!!」
ルッキーニってば…
「あーたーしーもー!!」
ありったけの大きな声で返した。
そして機体は空に飛び出した。
ルッキーニが小さくなる。
ルッキーニが何か呟いてる。
そして聞こえないと分かっていて、あたしも呟く。
「「ありがとう。」」
―――――――――――――――――――
《十ヶ月後 ロマーニャ
「シャーリー…」
ルッキーニは手紙を取り出す。
それはルッキーニ宛のシャーリーからの手紙だった。
そこにはたった一言だけ。
『○月×日 空を見ろ』
ルッキーニはその手紙に従い、一日中空を見ていた。
今日の空は雲ひとつ無い綺麗な空。
見ているだけでも飽きなかった。
バルバルバル…
すると、聞き慣れたエンジン音がどこからともなく聞こえて来た。
「これ…って…」
そしてその飛行機はルッキーニの元へ降りて来る。
「シャー…リー…!」
「ルッキーニ……」
――――ただいま。――――
END