無題
ン? 今、ドアをノックする音がしたナ。
これはもしかしテ……。
ハイハイ、入っていいデスヨ。
――アッ、なんダ、ルッキーニじゃないカ。
今日はなにしにここ二?
エ? 「エイラが恋愛相談室やってるのをリーネに聞いた」ダって?
そうカ、リーネからの紹介カ。
よくわからないけど、もしかして思いのほか評判よかったのカ?
はじめてのことをやる時はいつもドキドキダけど、世の中まんざらでもないってことカナ。
じゃあ報酬のことダけど、ルッキーニの胸は……
ア、別になんでもないゾ?
ホントなんでもないから、そんなに睨むナヨ。
――ア、そうダ、洗濯の当番を代わってくれないカ?
ここんところ毎日洗濯ばっかりで、いい加減ウンザリなんダ。
……なんダヨ、そのイヤそうな顔ハ。
だって世の中ギブアンドテイクダロ?
イヤダってんなら相談には乗れないからナ。
ていうかホント頼むヨ。このとおり、お願いダからサ。
……ヨシ、渋々ダけど引き受けてくれるカ。ありがとナ。
じゃあ交渉成立ダナ。
それで相談したいことってなんダ?
えーとナニナニ、「なかなか成長期がこなくて困ってる」ダって?
待テ、ここは恋愛相談室ダゾ。相談するなら恋の悩みにしてくれヨ。
エ? 「だから今のままだとあたしとシャーリーとじゃ不釣り合いなんじゃないか」ダって?
ああなるほどナ。
たしかにシャーリーは隊で一番おっきいからナ。背も、おっぱいも。
で、オマエは一番ちっさいからナ。背も、おっぱいも。
――ア、なんダ、そうこれは現在の状況を正確に述べてるだけダから。
だからそんなに落ち込むナヨ。
将来的にはどうなるかなんてわからないサ。
もしかしたらシャーリーより大きくなってるかもしれないダロ?
ほら、ルッキーニが前言ってたじゃないカ。
「あたしはミドルティーンになってから、成長著しいタイプなの。ロマーニャの女は、みんなそう」って。
そんでもって、中年過ぎるとみんなデブ、ってナ。
……もしかしてこの会話は著作権的になんかマズかったりするのカ?
ア、イヤ、なんでもない。だからあんまりキニスンナ。
しかしホント両極端ダヨナ、オマエたち。
なのにバッチリ気はあうんダヨナ、不思議なもんダナ。
アンバランスなバランスってヤツカナ。なんかグッとくるヨナ、そういうの。
ン? 言ってる意味がよくわからないって顔ダナ。
とにかく、私はそのままのルッキーニも悪くないと思うけどナ。
まあでも、オマエ本人が困ってるって言ってるんダから、なにか協力してやるヨ。
アッ、そうダ! あれなんていいんじゃないカ!
深夜の通販番組でその悩みにピッタリなものを見たことがあるんダ。
ちょっと待ってろヨ……たしか雑誌にも広告出てたはずダから。
そうそう、これダこれ――『シークレットかつら』
これなんていいんじゃないカ?
エ? 「全然シークレットじゃないじゃん」ダって?
まあ、頭のしかも頭頂部をかつらで高くしてるだけダからナ。
でも身長は伸びるゾ? これじゃダメカ?
……アア、やっぱりダメダったカ。
まあ、よく食べてよく寝てたら成長期なんてすぐやってくるもんダヨ。
ルッキーニはどっちも充分とってるダロ? むしろとりすぎってくらいにサ。
じゃあ大丈夫ダヨ。きっと……おそらく……たぶん……ナ。
エ? 「本当にそう思ってる?」ダって?
も、もちろんそうに決まってるダロ!
それにオマエまだ12歳ダロ? 私だってそのくらいの頃はそんなもんダったゾ?
とにかくオマエはペリーヌの胸とは深刻さが違うヨ。アイツはもう成長の余地ないからナ。
とりあえず下を見て安心しようゼ。ナ?
……ウン、そうカ。少しは気が紛れたカ。よかっタよかっタ。
エ? 「でもそんなに長く待てない」ダって?
そりゃそうサ。一日二日で急に身長が伸びたり、おっぱい大きくなったりするわけないダロ?
成長っていうのは、時間をかけてするもんダヨ。植物ダってそうダロ?
エ? 「だって背が低いままじゃ、シャーリーとキスできない」ダって?
ナニ言ってんダヨ? むしろ身長差がある方が萌えるくらいダゼ?
大きい方がちょっとかがんで、小さい方が背伸びして、そういう共同作業的なのがいいんダヨナ。
ちゃんとキスできるじゃないカ。なにが問題なんダヨ?
エ? 「かがまれるのは子供扱いされるみたいでヤダ」ダって?
わがままなヤツダナ。
まあでも、そういう気持ちってわかるけどナ。
恋をするとついつい背伸びしちゃうもんダヨナ……ア、もしかして私、今うまいこといったカ。
じゃあ私がシャーリーがかがまないままで、ちゃんとルッキーニがキスできる方法を考えてやるヨ。
うーん、そうダナ…………
アッ、そうダ!
相手がかがまないとキスができないっていうのはつまり、二人とも立ってるからじゃないカ!
だからそもそも地面に立たなきゃいいんダヨ。
寝転がった状態なら、どれだけ背の高さが違ってもキスするのには何の問題もないダロ?
だからルッキーニがキスをしたくなった時は、シャーリーを投げ飛ばせばいいんダ!
エ? 「でも、あたしにシャーリーを投げることができるの?」ダって?
それはあれカ? 体の大きさが違うからってことカ?
……ウンウン、やっぱりそう思ったのカ。
でも、心配スンナ、大丈夫ダから。
オマエは知らないダろうけど、扶桑にはジュウドーっていう武術があるんダ。
「柔能ク剛ヲ制ス」って言ってナ、これは小さい人でも大きい相手を投げられるものなんダ。
これを習得すれば、ちっさいルッキーニでもおっきいシャーリーを投げられるようになるサ。
じゃあ今から私が教えてやるヨ。
いいカ、ルッキーニ。巴投げってのはナ……
ン? 今、ドアをノックする音がしたナ。
これはもしかしテ……。
ハイハイ、入っていいデスヨ。
――アッ、どうしたんダ、ルッキーニ!?
昨日きたばっかりなのに、もう新しい相談カ?
しかも「ウェ、フシュフルフルフル……」ってなってるじゃないカ!
なにか悲しいことでもあったのカ? 話してみロ。
……な、なんだっテ!? 「今日さっそく試してみたら、シャーリーにケガさせちゃった」ダって!?
ちょっと待テ、それはもしかして……アア、やっぱりハンガーでカ。
バカ、コンクリートの上に人を投げるヤツがあるカ。
投げるときは畳の上とか布団とか、とにかく柔らかい場所って決まってるダロ?
それにシャーリーはジュウドーは素人ダロ?
受け身も取れない相手に一体なんてことするんダ!
…………ア、そういえば昨日、そういうこと説明するのをすっかり忘れてたナ。
ホントごめんナ、ルッキーニ。
それでそのあとどうなったんダ?
ナニナニ……「坂本少佐に乱心したかと取り押さえられて、そのあとミーナ中佐におしおきされた」ダって?
それは災難ダったナ。まあ因果応報ダけど。
じゃなくて、シャーリーはどうなんダヨ?
……ウンウン、ケガは大したことなかったのカ。それはよかっタ。
それでサ、シャーリーからはナニか言われたカ? ……もしかしてすごく怒ってたりとかサ。
エ? そんなこと全然なかったのカ?
……ウンウン、事情を話したら笑って許してくれたのカ。
まあシャーリーがルッキーニを怒るところなんて想像できないからナ。
エ? 「それでそのあと……」ダって?
なにかあったのカ?
エ? 「やっぱりなんでもない」ダって!?
イヤ、途中まで言って言うのやめるナ! 気になるダロ!
……ダメ?
そうカ、話してくれないのカ。
まあ別にいいサ。そういうのは二人だけの秘密にしとケ。
これって雨降って地固まるってヤツダナ、きっと。
イイカ、ルッキーニ。
恋は気合ダ! ぎゅっと抱きしめて好きって言えばイイんダ!
あとで私が、シャーリーに受け身を教えといてやるヨ。
キスしたくなった時は、シャーリーを畳のあるところまで呼んで巴投げするんダゾ。
これで悩みはバッチリ解決したんじゃないカ?
……ウンウン、そうカ、それならよかっタ。
じゃあいい加減、「フシュルシュルルフルフル……」ってするのやめロ。本当にやめとケ。
エッ!? 「じゃあ洗濯の当番代わるのナシにして」ダって!?
それとこれとは話が違うダロ!
エ!? 「じゃあまだやる」ダって!?
わ、わかっタ。私にも非はあるしナ。今回は特別にそういうことでイイヨ。
そういえば昨日は特訓に夢中で占ってやるのをすっかり忘れてたナ。
待ってろヨ、今占ってやるからナ。
ウントコショドッコイショ…………よし、出たゾ、ルッキーニ。
オ、このカードは【魔術師の正位置】ダナ。
いいカ、ルッキーニ。これは可能性のカードなんダ。
要するに、ルッキーニは不可能を可能に変える力を持ってるってことサ。
はじめはちっぽけな種でも、そこから芽が生えてきて、そして花を咲かせたり、実を結んだりするダロ?
それと同じダヨ。ルッキーニにもきっとそうなる日がくるヨ。
でもそのためには、たっぷりの時間と栄養と愛情を与えてやらないと、ダけどナ。