温泉だから恥ずかしくないもん!
「さて、みんな集まったわね?」
「温泉かー!初めてはいるなぁ。な、ルッキーニ!」
「温泉♪温泉♪」
「しかし扶桑は平和だな」
「今度クリスをつれてきてやろう」
「……人の心を読まないでくれるかエーリカ」
「エイラ…もう荷物、もたなくても大丈夫だよ…?」
「いいんダ。旅館は目の前だしナ」
「よくきてくれた、ペリーヌ」
「さ、坂本少佐のためならわたくしどこまでだって行きますわ!!」
「楽しみだね、芳佳ちゃん♪」
「あ、あのー…」
「どうしたの?宮藤さん」
「は、話が読めません!!!」
○温泉だから恥ずかしくないもん!
「坂本少佐の言う通りついてきたら皆さん揃ってますし…ていうか温泉ってなんですかー!!」
「あら、細かいこと気にしてたら大きくならないわよ?」
この場に唯一疑問をもつ宮藤芳佳軍曹の極一部を見つめそう言うのはミーナ・ディートリンデ・ヴ
ィルケ中佐だった。
何故元501のメンバー揃い踏みでここ扶桑の温泉にくることになったのか、ていうか軍は、とか、
国放置か、なんてこと気にしてはならない。
なぜなら温泉ネタが王道中の王道だからだ。百合がジャスティスだからだ。それ以外にどんな理
由が必要だというのだろう。
だいぶ年季のはいっていそうな堂々とした佇まいの、昔ながらといった気品溢れる大きな木造建
築の建物を仰ぎ見れば早くも疑問なんか吹き飛んで、芳佳は隣でいいおっぱ…笑顔で微笑みか
けるリーネに楽しみだねと音符付きで笑いかけるくらいの素晴らしい順応力をみせていた。
他の隊のメンバーは言わずもがなやる気満点である。
―――そういう訳で、魔女たちのささやか(になればいいが)な小旅行への火蓋は切って落とされる。
○
「さーて、じゃあ早速温泉いきますかー!!」
部屋で荷物を置いて早々、元気にそう切り出すシャーリーに異議を唱える者などいるはずはなく、
賛成を掲げながらいそいそと準備を始める魔女たちの行動力は日々の鍛錬のお陰なのだ。きっと!
カポーン
そんな効果音のよく似合う広い広い浴槽で、眺めはというと最高だった。
まだお昼を過ぎたばかりの時間で抜けるような真っ青の空と臨む緑の爽やかな青さに息を飲むほ
どで、そんな露天風呂に感動する初体験メンバーに芳佳は自国に改めて誇りをもちながら皆と同
様に体を洗い流して静かに湯に浸かる。
するとビバノンなんてしてる暇もなく大きな水柱が黒の悪魔によってあげられた。
大人しくはいれんのか貴様はとモロにお湯をかぶったゲルトが怒声をあげるが語尾を消し飛ば
して第二波がグラマラスシャーリーによって放たれる。
鼻からはいった水に噎せながらわなわなと震えこの部隊一のたゆんとした胸の持ち主へびしっと指
を突き付け高らかに宣言した。
「リベリアン、買ったぞ。その喧嘩買ったぁ!!」
「いい度胸だ堅物が!」
空を切る平手!素早くかつ絶妙な角度で入水し、ターゲット目掛け放つ、放つ!
詰まるところただの水の掛け合いだがスピード狂とカールスラント軍人との攻防は呆気なくも味方だ
と思われていた同軍の裏切り行為によって終止符を打たれることとなる。
「ふははは!これで最後だスピード狂いが!!」
「くっ…!ここまでか…!?」
「あれ、トゥルーデちょっと大きくなった?」
「っひ!?」
何が、とはいわない。
その童顔に似合わず悪魔と称される少女は何の悪意もなくただの好奇心でまた、揉んだのだ。
何を、とはいわない。
しかしその様子をみたどこの星からやってきたのか、おっぱいの使者である彼女を引き寄せるには
充分だったのである。
「(ハルトマンさんの胸って私と同じくらいかなぁ…)」
自身のぺったんこな胸とエーリカの胸を見比べ至極失礼な思考を巡らしながら少しの俊巡をみせる
こともなく、彼女は動いた。
「ぅひっ!?ちょ、みみみみミヤフジぃ!?」
「え?…あ。」
かくも本能とは恐ろしいものである。
人間誰しもが持つ欲望というものに忠実なのは何も頭から否定されるべきことではないのだ。
ただ彼女のそれが“おっぱいおっぱい”そういうものであっただけである。
しかし物足りない。
そう心の隅の方、エーリカの胸に手を当てながら考えていることに果たして彼女は気づいているだろ
うか。
そして、背後からだだ漏れる大気をも染める黒いオーラに、気づいているのだろうか。
芳佳がふと視線をずらすと、目の前に豊満な二双の丘がみえる。
それは隊一を誇るグラマラスシャーリーその人の山だった。
制圧できるだろうか。
いや、せねばなるまい。
使命感のようなものをひしと感じ彼女の暴走は最早止まらない。
じり、詰め寄る。
伸ばす手は――――、
たわわに実るそれに届く前にガシリと、小さな褐色気味の手に掴まれる。
「コラー!芳佳ー!!シャーリーの胸はわ・た・し・の!!!」
叫ぶ声を聞くよりも顔をみるよりも、まず胸でもって誰かと判断した芳佳にはもう何も言うまい。
はたと我に返ると前方にはぽかんと口を開け立つシャーリーと腕を掴みながら唸るルッキーニを左手
側に確認し、右斜め後ろ側に僅か首を捻れば仄かに頬を染め拳を戦慄かせるエーリカと米紙を押さ
えるゲルト、そして黒さが怖い後方を振り返ったその瞬間、意外にも盛大にお湯をかけられた。
「ぅわっぷ!」
「よーしーかちゃん?」
「あれリーネちゃん…何か、怒ってる…?」
「すくなくとも私は怒ってるぞミヤフジぃ?」
「あ、ハルトマンさん!あの、さっきはすみませふぶっ!お湯、かけないでくださっ」
「覚悟しろ芳佳ぁ!おっぱいの恨みぃ!!」
「ルッキーニちゃんまで!?」
「お、なんか知らんが面白いことになってきたな。いくぞ宮藤!シャーリーいっきまーす!」
「わ、私だってやられてるばっかじゃないですよ!!」
「おいおいお前たち…へぶっ」
「ぷはっ!きいたか今!へぶっだって!カールスラントの軍人ともあろう者がさーぁ?」
「…いい度胸だリベリアン。さっきの決着つけてやらるえふっ!」
「きゃはは!トゥルーデちょーまぬけ顔ー!」
「うにゃはは!油断しちゃダメだよー!」
「…Ja,貴様ら全員まとめて水底に沈めてくれる!加勢しろリーネ!宮藤ぃ!」
『Yes,ma'am!!』
国境を越えた国と国との攻防戦が今ここに実現する。果たして勝つのはどちらだ!
それは、
夜には良い月の望めそうな晴れやかな午後のこと。
○
○
「ぅをー。扶桑にもサウナなんてあるんダナー」
「はいる…?」
「北欧の者としてチャレンジしなくちゃ軍人じゃナイ!」
「途中から支離滅裂…」
「い、いいんだヨ!とりあえずいくぞサーニャー!」
「うん」
優しく微笑むサーニャを視界の端に捕らえながら、彼女は今日、人知れず一大決心を固めていた。
サーニャと想いを通じ合わせてから暫く立つ。そこにこの旅行だなんていう絶好のシチュエーション
だ。彼女は決めた。今日、キスをして驚かせてやるのだ!と。私がへタレイラでないことを見せ付け
てやるのだ!心で静かに、けれど熱く、自分へエールを送る。やるときゃやるんダ!
「やっぱこれだよナー」
「うん」
サウナを満喫する2人を邪魔する者は誰も居ない。いい感じに汗もかいてきたし、これで私がもう爆
発しそうなほど緊張してるなんて気づかれないはずダ。自分に言い聞かせる。ちらとサーニャをみや
るとそのキレイな瞳とエイラのそれとがかち合った。彼女の心の葛藤をお送りしよう。
――今か!?いまがチャンスなノカ!?いや、まて、もうちょっとこう雰囲気的なあれが漂ってからみ
たいな…って尻込みしてるから駄目なんダロー!いくぞ!いっちゃうんダカラナ!
「サ、ササササさササーニャ!!」
「…うん」
手 !
彼女にはそれだけ確認するので精一杯だった。どんどん上昇する体温を蒸し暑いこの部屋のせいに
してふと意識はそこで途切れる。
エイラが次に目覚めたのは水風呂の中だった。どうやってここまできたかって、だってサウナの中にい
たんだから運ぶしかないじゃないか、あの華奢な身体でどうやって運んだんだろうかなんて考えてい
たけれど不意に視界にサーニャが現われてその近さに心臓が飛び出そうになっていた。
しかし意志は岩のように固かった。今日目的をやり遂げるまではフェードアウトしてる場合じゃない!
「エイラ…大丈夫?」
「あ、…あぁ、サーニャが運んでくれたんだヨナ?アリガト。…あ、あのさサーニャ、」
「なに?」
「その、急に何なんだが、キ、きキキキキきキ、…スを(超小声)、あの…」
や ら な い か ! ?
サーニャの肩を掴んですごい勢いで口走りそうになったところで静かに、頬に柔らかい感触が降りた。
頭が冷めるやら身体が熱をもつやら水風呂にいるせいで赤い肌を室温の所為にできないやら、もう爆
発しそうになっていると彼女は微笑む。
「ね、エイラ。私ね、本当に嬉しかったんだよ。エイラが私と同じ気持ちを持っていたこと。だからね?
ひとりで悩まないで。私だって、…その…、エイラとキス、…したいよ…?」
天 使 か ? そういう笑みだった。少なくともエイラの目には。世界中の誰が否定しても彼女だけ
は言い張るのだろう。
その背中には羽が生えていた!
普段多くを語らないその口はいま数えきれないほどの弾丸を発射した。
泣きそうなほどの幸せを噛み締めて本当にはやくネウロイとの戦争なんて終わればいいと思う。
世界が平和になって軍人もいらなくなってそしたらそしたら私が絶対サーニャをしあわせにしてやるん
ダ。いまもらってるしあわせの分だけいやもっとそれ以上たくさんいっぱい!しあわせに!
誰にでも何にでもいい。誓った。
彼女は上を向いてなにかを堪えてふと明るい空に浮かぶ白い月を見つける。
サーニャの髪の色にも似たそれを依然視界に捕らえながらぎゅっと重ねた手を握る。すぐに返ってくる
力強さに胸が締め付けらていた。
今夜はいい月になりそうだナ。うん。みんなではしゃいで、夜更かししようナ。うん。好きだからナ、サーニャ。私も、エイラのこと大好きだよ。
キス、しようか。
○To be continued!