フクースノエ リツィエプト
太陽は水平線の向こうに沈み、空は真っ暗な闇に覆われている。いつもなら私は空の上で
夜間哨戒の任務に就いているのだけど、今日は夜間哨戒がない。
なので私は、いつものようにエイラの部屋に来ていた。暗い部屋の中、いつものように、同じ
ベッドで向かい合って、エイラと私はお話をしていた。
ふと窓の外を見上げる。
「エイラ、月が綺麗だよ」
「あぁ、ソウダナ。でもサーニャの方が綺麗ダヨ」
突然のエイラの甘い言葉…
エイラも言うようになったね。心の中でそう思いながらも私は、急に言われたせいもあり、嬉し
いのだけれど、少し恥ずかしくもあり、素直にありがとうと言う事が出来ない。
「もぅ、エイラったら。いきなりビックリするじゃない」
「ゴメン。でも本当のことだから」
エイラは本当に私を喜ばせるのが上手い。いやエイラが上手いんじゃなくて、エイラだから嬉しい
んだ。エイラに好きって言われると、他の誰に言われるよりも幸せな気持ちになる、嬉しくなる。
「ありがとう。嬉しいよ。エイラ大好き!」
エイラにカラダを寄せ、そっと頬にキスをする。
きっとエイラは私の突然の行動にビックリするはず。私だってイキナリのエイラの言葉にビッ
クリさせられたんだから、ちょっとくらい仕返ししてもいいよね。
でも、嬉しいという言葉も、大好きという言葉も、本当の私の気持ちだからね。エイラ…
「イ、イキナリ何するんダヨー」
エイラは顔を真っ赤にして私をジトっと睨む。思った通りの反応に私は嬉しくなり自然と笑ってしまう。
「ふふ。エイラもビックリした?さっきの仕返しだよ」
「わ、私は謝ったじゃナイカー!」
「許してあげるなんて言ってないもん」
そんな他愛も無い言葉のやり取り。でもこうしている時間がとても幸せで、エイラと付き合うことが
できて、本当に、本当によかった。私は心の底からそう思った。
「ねぇ、エイラ。」
「ナンダヨ」
私にからかわれたのが気に入らなかったのか、少し拗ねたようなエイラは、私より年上のはずなん
だけど、なんだかとっても可愛い。
「怒ってる?」
「別に。怒ってナイヨ」
「ねぇ、エイラ」
「ナンダヨ」
「からかったのは悪かったけど、大好きって気持ちは本当だよ」
「わ、私も好きダゾ」
私の言葉ひとつですぐに機嫌が直ってしまうエイラもやっぱり可愛い。こんなに幸せな時間が過ご
せるなんて、みんなに感謝しないと。
「幸せだね」
「ソウダナ」
「みんなに感謝しないとね」
「アァ、みんなのあの計画が無かったら、今こうして付き合ってることも無いんダヨナ」
「何かお礼しないとね」
「お礼?」
「そう。お礼。私まだちゃんとお礼してないから」
あのとき、突然現れたみんなに、私は恥ずかしくて、お礼を言ったといえば言ったけど、ちゃんと言え
てなかった。口下手な私では、感謝の気持ちをしっかり伝えられるか不安だから、できれば形のある
何かでお礼をしたいと思っていた。
「そうだ」
「ん、ドウシタ?」
ふいに私の頭の中にひとつのアイデアが浮かんだ。形のあるもの。そして私の感謝の気持ちが伝えら
れるもの。手作りの料理でみんなに感謝の気持ちを伝えよう。
「みんなに感謝の気持ちを込めてお料理作るのはどうかな?」
「ナルホド。それはいいアイデアだと思うゾ」
「じゃあそうするね。エイラも手伝ってくれる?」
「アァ、モチロンダ」
こうして私とエイラはみんなに感謝の気持ちを伝えるため、料理を作ることになった。計画の詳細を話し
合い、私とエイラは、明日の朝に近くの町に材料を買いに行き、そして昼食を振舞うことにした。
「明日がちょうど休みでよかったナ」
「そうだね。タイミングばっちりだったね♪」
「予定も大体決まったし、明日は早くから出かけるからもう寝るゾ」
「うん」
エイラにそう促され、明日のために私はエイラの胸の中で静かに目を閉じる。こうして私たちは明日に備
えて一緒にエイラのベッドで眠りに付いた。
「サーニャ、起きろヨ、朝ダゾ」
肩を揺らされ、まだ寝ぼけた私の頭の中に、エイラの声が聞こえてくる。私は目を開けて窓の外を見る。
まだ太陽も寝むそうで、その光は弱々しかった。夜型の私がこんなに早く起きるなんて初めての経験
で、なかなか頭が目覚めてくれない。
「おはよぅ………」
「オハヨウ、サーニャ」
寝ぼけたままエイラと朝の挨拶を交わす。私はあまりの眠気に再び目を閉じる。
「ッテ、寝るナ!」
「んん…眠い……」
「起きろッテ!」
エイラの元気な声が私の頭に響く、段々と意識が覚醒してくる。そうだ、今日は昼食の材料を買うために
早く起きないといけないんだった。私はそのことを思い出し、ようやく起き上がる。
「マッタクー、サーニャは朝弱いナー」
「起こしてくれてありがとう、エイラ」
ようやく起きることは出来たが、まだノロノロしている私の着替えをエイラが手伝ってくれる。シャツを着せ
てもらい、ボタンも掛けてくれる。さらにネクタイを結んでくれる。きっとエイラは結婚したらいいお嫁さんにな
るんだろうな。
「ズ、ズボンは自分で穿くんダゾ!」
「うん」
そんな会話をしながら着替えを済ませ、顔を洗ったり出かける準備をする。
「ヨシ。じゃあ行くカ」
「うん」
ミーナ中佐に近くの町に行くことと、おおよその帰ってくる時間を書置きに残し、出掛る。エイラが車を運転して
私は助手席。なんか車を運転しているエイラはかっこよくて、さっきはいいお嫁さんになるなんて思っていたけ
ど、今はいい旦那さんになりそうな気がするかな。そんなことを思いながら町へと向かう。
一番近い町と言ってもそれなりの距離があって、少し時間が掛かると思ったけど、朝早く出てきたためか道が
空いていて、思ったより早く町に着いた。
車を止めて、朝市をやっている町に出る。そこには新鮮な野菜や魚、お肉など、たくさんの品物が店先に並べ
られ、人々で賑わっている。ブリタニアはまだネウロイに侵略されていないため、人々は幸せそうな日常を過ごし
ているみたい。
私たちは材料を買うために朝市を見て回る。
「そう言えば、何作るんダ?」
「えっとね、オラーシャ料理。ピロシキとボルシチを作ろうと思うの。あとサラダも作ろうかな」
「おっ、イイナソレ」
「そう?ありがとう!」
ビーツ、たまねぎ、ジョガイモ、キャベツ、レタス、トマト、パプリカ、エビ、スモークサーモン、アボガド、ベイリーフ、
サワークリーム、牛肉などなど、いろんなお店を回り、エイラと一緒に品物を見て、お話をしながら必要な食材を揃
えていく。それだけですごく楽しかった。ひとりで買い物するときとは全然違う。食材を一緒に選びながら買い物な
んて、なんかこう、夫婦みたいで胸がときめく。
「気合が入ってるナ」
「うん。みんなに喜んでもらいたいし」
「そのために料理を作るんだもんナ」
「そうそう」
「ア、私ニンジンキライ…」
話の途中で、私がニンジンを手に取ったとき、不意にエイラがニンジンを見て嫌そうな顔をする。私は構わず代金
を払いニンジンを購入する。
「ナ、何で買っちゃうんダヨー」
「好き嫌いしちゃだめだよ。エイラ」
「デ、デモ…」
「もしかしたら食べれるようになるかもしれないし。食べてみよう?」
「チェー、わかったヨー」
ニンジンが嫌いでワガママを言うエイラが可愛くて私は自然と笑顔になる。私が笑うとエイラも笑ってくれる。エイラ。
ニンジン食べれるようになるといいな。
「これで材料は揃ったナ」
「そうだね」
「まだ時間にも余裕があるし、少し休憩シヨー」
「うん」
そういって私たちは食材を車に積んだ後、近くにあった少しおしゃれなカフェに向かった。店内は落ち着いた感じの装
飾が施された木製のテーブルとイスが並んでいて、ラジオからは優雅なクラシックミュージックが流れている、さらに挽き
立てのコーヒーのいい匂いがして、雰囲気がいいお店だと思った。
向かい合って座った私たちは、ブリティッシュマフィンとコーヒーを注文する。ちょっとしたデート気分で私たちは笑いな
がらお話をして料理が出来上がるのを待つ。
しばらくすると出来たての美味しそうなマフィンとドリンクが運ばれてくる。
「わぁ、美味しそう」
「ソウダナ。じゃぁ、イタダキマス」
「いただきます」
そう言って、私たちは少し早めの朝食をとる。
「おいしいね」
「ソウダナ。外見がおしゃれで入ってみたけど、味もイケルナ」
「ふふ、そうだね。あ、エイラこっち向いて」
エイラのほっぺたにはマフィンに塗ったブルーベリージャムが付いていた。私はそのジャムを指で拭って、その指をぺろ
りと舐める。
「ナ、ナニしてるんダヨー」
「なにって、ジャムが付いてたから…」
「ダ、ダカラッテナー」
「いいじゃない、私たち恋人同士でしょ?」
私がそう言うと、エイラは大人しくなる。ふとしたことで恥ずかしがったりするエイラが乙女チックでとっても可愛いと思う。
大人しくなったエイラとお話をしながら、マフィンを食べ、コーヒーを飲む。
本当に、エイラと町に来てよかった。買出しって言うとなんだかめんどくさそうな気がするが、エイラが隣に居ると、本当に
ドキドキなデートみたいで楽しかった。ありがとね。エイラ…
基地に戻るため、店を出た私たちは車へと向かう。その途中、私はエイラと手をつないでみた。エイラは初めビクリと反応
し、慌てていた。でも、私が微笑むとエイラも微笑んでくれて、繋いだ手を、そっと、握り返してくれた。
基地に着いた私たちは、ミーナ中佐に帰ってきたことを報告し、早速、調理に取り掛かる。
「私はどうすればいいんダ?」
「エイラはボルシチ用のブイヨンを作って、ビーツを蒸して。それから具材を切ってちょうだい」
「ワカッタ」
エイラにボルシチの下拵えをお願いして、私はピロシキの生地を作る。小麦粉にミルクやバターなどの材料を
混ぜ、捏ねる。捏ねた終えた生地を休ませる間に、ピロシキの中に入れる具を作る。牛肉をミンチにし、フライパ
ンで炒める。そこにキャベツのみじん切りを加え塩とブラックペッパーで味付けをする。エイラのブイヨンも煮込む
段階に入っていて、アクを取りながらボルシチの具材をリズム良く刻んでいる。
こうして2人で仲良く料理をするなんて、まるで新婚夫婦みたいだと私は思った。
「エイラ」
「ン?ナンダ、サーニャ」
「こうしてるとなんだか新婚夫婦みたいだね」
私はエイラを呼んで思ったことを素直に口にする。
「ナ、何言ってるんダヨ!」
エイラは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに私から目をそらす。そのとき、焦って手を滑らせたのか、エイラが包丁で
指を切ってしまった。
「イテッ」
「大丈夫!?傷口見せて」
「ダ、ダイジョウブ。少し切れたダケダヨ」
私は慌ててエイラの指先を見る。エイラの言う通り、傷は浅いようで、傷口からは血がうっすら滲む程度だった。私
はほっと一安心してから、止血するためにエイラの指を口に含む。
「サ、ササ、サーニャ!なにしてるんダヨ!」
「なにって、応急処置」
エイラは私の行動にビックリしたのか声が上ずっている。私は構わず、エイラの細くてすらっと伸びた綺麗な指を唾
液を絡ませながら舐める。
「あ、サ、サーニャ…ダメダヨ…」
エイラは口ではダメだと言いながらも、私に指先を舐められて気持ちよさそうな表情をしている。私は好奇心から、さ
らに、吸ってみたり、舌を使って傷口を丹念に舐め上げてみる。
「あぁ、ヤァ…ん…」
私が傷口を舐めるたび、エイラの口から漏れる嬌声にも似た吐息に、私は心の中で笑った。最後に舌先でぺろっと舐
めて、ようやくエイラの指を解放する。
「ふふ、エイラ、気持ちよかった?」
「ソ、ソンナコト!」
「冗談だよ♪」
ちょっとからかってから、私は本格的にエイラの傷の手当をする。傷口を消毒し、ガーゼを当て、包帯を巻いておく。
「よし。これで大丈夫」
「ここまでしなくテモ。これじゃ料理できないゾ」
「大丈夫、下拵えは終わってるから後は私一人でも出来るよ。エイラはそこに座って見てて。今コーヒー淹れるから」
私はエイラをイスに座るように促し、コーヒーを淹れてエイラに手渡す。
「はい。エイラはブラックだよね?」
「アァ、アリガト」
「どういたしまして」
私はエイラに微笑み、調理を再開する。ピロシキは生地に具を包んで焼くだけだし、ボルシチもエイラが刻んでくれた具
材を出来上がったブイヨンに入れて味付けをするだけだ。サラダも簡単に出来るだろう。
「ゴメンナ。サーニャ」
「気にしないでゆっくり見ててよ。もうすぐ出来るから」
私はそう言ってピロシキとボルシチの仕上げに入る。ピロシキをオーブンに入れ、ボルシチも、ブイヨンに蒸したビーツ、
たっぷりの野菜、牛肉を入れ、塩、砂糖で味を調えて、後はもう少し煮込めば完成だ。
「ナァ、何でさっきあんなこと言ったんダ?」
調理している私にエイラが声を掛けて来る。あんなこととは、きっと新婚夫婦みたいだねという言葉だと思う。私は素直
にそう思ったからだよと返す。
「なんか、2人で一緒に料理って新婚夫婦みたいじゃない?」
「ソ、ソウダナ」
そう言って恥ずかしそうに顔を赤くしコーヒーを見つめてるエイラを見ると、何気なく言った私のほうまで恥ずかしくなってくる。
「デモ、確かに料理してるサーニャを見るといい奥さんになりソウダ」
さらにエイラがそんなことを言うから、私はますます恥ずかしくて、顔が熱くなってくる。顔、真っ赤になってるかも。でもそれ
を悟られないように何気なく返す。
「そう?ありがとう」
「ウ、ウン」
エイラも、私と結婚したらとか考えてるんだなって思ったら嬉しくなる。付き合ってまだ一ヶ月も経ってないのに、こんな想像
してるのもおかしいかもしれないけど、想像すると嬉しくなるんだもん。仕方ないよね。
そんなことを考えてる間にピロシキもボルシチも出来上がり、残りの一品、サラダを作る。レタスをちぎり、器に盛り付ける。
その上に、スライスオニオン、色鮮やかなパプリカ、アボガド、トマト、表面の色が変わる程度にソテーし、ブラックペッパーと
塩で軽く味付けしたミディアムレアのエビ、スモークサーモンをトッピングする。最後にサラダにつけるサウザンアイランドドレ
ッシングを作り、昼食が完成した。
「エイラ、出来たよ!」
「オォ!ウマソウダナ。味見シヨ味見」
「だぁめ。もうすぐ昼食の時間なんだから待ってね」
「チェ、ショウガナイナー」
つまみ食いをしようとするエイラを止めて、みんなを待つ。エイラのおかわりの分と私の分。2人分のコーヒーを入れて一息付く。
そこへ、お昼になり、お腹を空かせたみんながぞろぞろとやってきた。
昼食を食べるため、食堂にやって来たみんなは、それぞれの席に座る。
「(ホラ、サーニャ。何か言えヨ。折角、みんなに感謝の気持ちを伝えるために作ったんダカラ)」
エイラがコソコソと私に耳打ちしてくる。こうしてみんなを前にして喋るのは思った以上に緊張す
る。私がテーブルの前に立つとみんながこちらを見てくる。上手く言葉が出てこない。どうしよう。
「エットナ、今日の昼食はサーニャが作ったんダ。私も少しは手伝ったけどナ。ホラ、サーニャも
一言イエヨ」
そんな上手く喋れない私をエイラがフォローしてくれる。エイラの優しさが私に勇気を与えてくれ
た。みんなもそんな私を笑顔で元気付けてくれる。
「えっと、エイラと付き合えたのはみんなのお陰です。ありがとうございました!今日はその感謝
の気持ちを込めて、オラーシャ料理を作ってみました。上手く出来たと思うので、みなさん食べてく
ださい」
そう言ってみんなにサラダ、ピロシキ、最後にサワークリームを浮かべたボルシチを、エイラに手
伝ってもらいながら配る。
みんなに配り終わり、私とエイラも席に付く。そしてミーナ中佐の挨拶で食事が始まる。
「おー、うめー!サーニャもなかなかやるな」
「おかわりー!おかわり!おかわりー!!!」
「エビがプリプリしてるー♪」
「サーニャちゃん後で作り方教えて!」
みんな美味しそうに笑顔で食事をしている。よかった。うまくいったみたい。私は幸せな気持ちで食
事に手を伸ばす。ふと隣を見るとエイラも美味しそうに食べてくれている。
「ふふ、エイラ、美味しい?」
「アァ、サーニャの料理は最高ダヨ」
しかし、良く見ると、エイラはボルシチに入っているニンジンを綺麗に避けて食べていた。好き嫌いし
ちゃだめだって言ったのに…
「エイラ、ニンジンは?」
「エ!?コ、コレハ…ソノ…」
「ちゃんと食べなきゃダメ。はい、あーんして」
エイラは言い訳をしようとして、なかなかニンジンを食べない。私はスプーンでニンジンを掬い、そん
なエイラの口元に運ぶ。
「ア、アーンってサーニャ!恥ずかしいダロ!」
「エイラがニンジン食べないからじゃん」
「デモォ…」
「いいから、はい、あーん」
「ア、アーン」
なおも迫る私に、エイラはようやく観念したのか大人しく口を開ける。私はそんなエイラに、にんまりし
ながらニンジンを食べさせる。
ぱくっとニンジンを食べさせ、エイラの感想を待つ。
「ア、ウマイ…」
「でしょ?よかったね、エイラ。はい、もう一口、あーん」
「アーン」
美味しいと言ってくれたエイラにさらにもう一口食べさせてあげる。素直にぱくぱくと食べるエイラがとっ
ても可愛い。
「いいなー!私もあーんってして貰いたい!」
「よ、芳佳ちゃん!」
芳佳ちゃんが羨ましそうに、私を見つめてくる。しかし、そこにエイラのカラダが割り込む。
「サ、サーニャにあーんしてもらっていいのモ、あーんしていいのモ私ダケダ!ホラ、サーニャ、アーン」
「えっ、あ、あーん」
突然、エイラにあーんされて私は反射的にそれを食べる。エイラに食べさせてもらったボルシチはとって
も美味しかった。私は素直にお礼を言う。
「ありがとう、エイラ。美味しい」
「ソ、ソウカ!じゃあモット食べロー。アーン」
「あーん」
そうして、私はエイラにされるがままに料理を食べさせられていた。
「うっわー!見せ付けられてるよーシャーリー♪」
「まったく、やってくれるよなー♪」
「わっはっは!これがバカップルというやつか!」
「人前で何をやっているんだ…」
「とか言いつつ、トゥルーデも羨ましいんじゃなーい?」
「まったく、なにをしてらっしゃるのかしら」
私たちの様子を見ていたみんなが、からかってきて、私とエイラは、人前で自分たちのしていたことの恥ず
かしさに気付く。言われてみれば坂本少佐の言うとおり、バカップルみたいで恥ずかしい…
「………」
「………」
「うふふ、2人は付き合ったばっかりのラブラブカップルなんだら許してあげましょう。それに、2人がそうしてラ
ブラブしてくれると、私たちも頑張った甲斐があって嬉しいわ。さぁ食事を続けましょう」
私たちが恥ずかしくて黙っているところにミーナ中佐が優しくフォローを入れてくれる。しかし、そのフォローが
ますます恥ずかしい。みんなは何事も無かったように食事の続きを食べている。でもその表情はニヤニヤして
いて、なんとなく居心地が悪いというか、肩身が狭いというか。
こんな雰囲気になったのはエイラのせいだ。私は小さい声でこっそりとエイラに耳打ちした…
「(もぅ!エイラがニンジン食べられなかったせいなんだからね!)」
「(ナ、ナンデそうなるんダヨー!)」