無題


私と宮藤が付き合いだして一ヶ月がたった。

宮藤から告白された時は上官と部下という関係上はじめは断わろうと思っていたのだが…

しかし…まるで捨てられた子犬のような目をされたら断れるわけがなかった。

ただ他の隊員に知られると面倒な事になりそうなので付き合ってることは秘密にすることにした。

だから私たちの逢引は夜中にこっそりと行われる。


「ん……んっく」
「ふぁ…ん…」
私たちが逢い引きするのは決まってハンガーである。
物陰には事欠かないし、なにより行きすぎた雰囲気になっても押し倒す場所がないため(なんとか)踏みとどまれるからだ。

今日も例に漏れず物陰に隠れながらお互いの唇を求める。

「ふ…あむ…んん」
「んちゅ…ふぁ…ん」
キスをする時は私の方が背が高いので私が屈んですることになる。

「はむ…ぷぁ、まて…ん…」
「んむ…ふぁ…いやぁ…」
宮藤は私が空気を求め、唇を離すために立とうとすると離れるのが嫌なのか必死に背伸びをしてキスしてくる。

「あ…くはぁ…んぷ…ぷは」
「んぁ…なんで…あむ…はなすんですか…」
立ち上がろうとする度に必死に背伸びをするその姿がかわいく、何度も立ち上がる意地悪をする。
あまり良い趣味ではないと自覚しているのだが、これはやめられそうにない。
「…あむ…ちゅ…」
「ふあ…ちゅ…んんん!」
いじわるをやめて屈み激しいキスを浴びせてると、感じてきたのか目がとろんとしてくる。

宮藤のような純粋な少女の口を犯している背徳感が私の興奮を最高潮まで引き上げる。
「はぁ、芳佳ぁ!」
「きゃっ」
私は劣情を抑えることができず、宮藤を押し倒してしまう。

ごちん

しかし押し倒した途端に宮藤が木箱に頭をぶつけ、ムード台無しの鈍い音がする。
「いたた…」
「す、すまない、大丈夫か?」
なかなか鈍い音がしたのでケガの有無をたしかめる。
幸いケガはなく瘤もできていなかった。
「すまん、やりすぎた」
私は盛り上がり過ぎた事に気が付き赤面しながら謝罪する。
「だ、大丈夫です…それより…その…」
「なんだ?」
「その…」
もともと真っ赤だった宮藤の顔がさらに赤くなり、懇願するように体をすり寄せてくる。

「さっきのつづき…してください」


それはあまりに魅力的な提案だった。

一度はおさまった劣情が津波のように押し寄せてくる。

本能が一線を越えてしまえと、このまま抱いてしまえと甘い誘惑をしてくる。

だが、それだけは決して許されない。

「それは…だめだ」

「坂本さん…」

秘密の関係なのだから我慢する必要は無い

「私からしておいて何だが、それは無しの約束だろう?」

「でも…」

この劣情をぶつけてもきっと受け入れてくれると理解している

「お願いだ芳佳、このままじゃ私はお前を傷つけてしまう」

正論を吐き、想い人を拒む自分に嫌気がする。

「それだけは駄目なんだ…」

それでも、明日にはどうなるか分からないこの身で応えることはできない。

だから、いつか平和になり隠すことなく堂々と好き会える日が来たら、そのときは精一杯その気持ちに応えたいと思う。

「…」

宮藤が泣きそうな顔になる。

想い人をを悲しませてしまった罪悪感にさいなまれる。

「宮藤…」
「…はい」
「すまない」
そう言ってなんの慰めにもならないと分かっていながら、宮藤の体を抱き寄せる。
宮藤はうつむいたまま身を固くしている。
(嫌われた…かな?)
それだけの事をしているのだから当然だと思う。

だが

「謝らないでください」

宮藤はそう言って抱き返してくれた。



私達はしばらくそうして抱き合っていた。

「ごめんなさい、私はしたない事口走っちゃて」
宮藤はそういっていつもの笑顔を向けてくれる。
今日もなんとか嫌われなかったようだ。
「ふふっ、目がとろんとして可愛かったぞ」
「むぅ、はじめに押し倒したのは坂本さんじゃないですか」
「うぐ…」
それを言われるとつらい。

「あとさっき、名前呼んでました」
「ん?」
「押し倒すとき『芳佳』って」
「あ、しまった」
本当は大切な日のために取っておこうとしていたのだが…自制しきれなかった戒めとしておこう…
「えへへ」
「ん?なにがおかしいんだ?」
「だって、はじめて名前で呼んでくれたんだもん」
そう言って太陽のように笑う
あまりのかわいさに本日数度目の押し倒したくなる衝動を抑えるのに苦労する

「ば、バカなこと言ってないで戻るぞ」
そこにいるのが恥ずかしく、抱きしめている手を離し自分の部屋へ向かう

「あ、待ってください」
宮藤が横に並び、部屋に着くまでの間の短いデートが始まる。

二人でいっぽ一歩幸せをかみ締めながら歩く。

日取りの窓から差し込む月明かりが幻想的なムードを作る。

(普段我慢しているんだからこれくらいは、許されるよな?)

いつもの私ならこんな事は考え付かないだろう。

きっと、月明かりに当てられたのだ。

歩みを止める。

宮藤が不思議そうに私を振り返ったところに

自分の唇を合わせた。

もうハンガーをでているため私達を隠すものは無い。
もし今見つかってしまったら二人の関係はばれてしまうだろう。

それでも宮藤はキスを返してくれた。

そのキスはいつもよりずっと甘かった。


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