フルハウス
毎週土曜の夕食後
ミーナと少佐、エーリカに私(ゲルト)を加えた四人
つまり501部隊における年長組は
いつからか私の自室に集まり作戦会議と称して
ワインを嗜みながらポーカーを興じるのが習慣となっていた
~アンティー~
今宵は未だエーリカしか訪れて来ていなかったが
既にボトルは半分空けられ私達はゲームを開始した
エーリカがテーブルへとアンティーチップ(参加料)を放り投げる
私もそれに続いた
~1st street~
【ファイブカード・スタッド・ワイルドポーカー】
このゲームのルールは
最初にブラインドカードが一枚づつ配られる
続いてオープンで一枚づつカードが配られる
この時点で今後の役を予想しベットするかフォルドするか決定する
以後もオープンでカードが一枚追加される度にこれを繰り返し
最終的に五枚揃った時点でベットを続けた者達により勝敗を決する
もちろん魔法の使用は禁止だ
自分の力量を見極めいつ戦場から撤退するか
勝機があるのならいかに相手を終盤まで引き摺り込むか
確立や運などよりも己の戦略が試されるゲームだ
ディーラーの私はエーリカに一枚、自分に一枚カードを伏せて配った
続いてお互いカードを確認する
【スペードのJ】
私はカードをテーブルへと伏せた
~2nd street~
二枚目のカードを配る
エーリカは【クラブの4】
私は【スペードのQ】
「そんじゃベット」
『コールする』
まだお互い仕掛けるタイミングではない
~3rd street~
三枚目のカードを配る
エーリカは【クラブの3】
私は【スペードのA】
エーリカにはストレートフラッシュの兆しが
私にはロイヤルストレートフラッシュの兆しがある
「20!」
エーリカが動いた、チップを投げながら更に言葉を続ける
「最近トゥルーデ変わったよな好きな奴でも出来たか~?」
『私は何も変わってなどいない、コールだ』
心理戦で来る気かハルトマンいい度胸だ
だが甘いぞ、ここは紛れもなく戦場だ
戦場においてその程度の攻撃で怯むとあってはカールスラント軍人の名折れだからな
だが攻撃は止まない
Qに寄り添うスペードのAを指差しながらこう言った
「そ・れ・と・も~ミーナとヨリが戻ったってことか~」
んぐぅ
私は咳き込んだ
『済んだ事だ』
それは言わない約束のはずだ
ここは戦場とは言ったがスマートじゃないぞハルトマン
~4th street~
四枚目のカードを配る
エーリカは【クラブの5】
私は【ハートのQ】
エーリカにはストレートフラッシュの兆しが強まり
私はロイヤルストレートフラッシュが崩れ、ワンペアが出来上がった
「20!」
今度はハートのQを指差しながら奴はこう続けた
「んじゃ、たとえば…そう…宮藤とか~?」
ぶぅー
ワインを吹き出しかけた
『何故そこで宮藤の名前が出てくる!20に20レイズだ!』
「さあ~ね~、コール」
相変わらずにやけた笑い方が気に食わんが侮れん奴だ
~5th street~
五枚目、最後のカードを配る
エーリカは【クラブの6】
私は【クラブのQ】
★手札状況
|エーリカ|ゲルト
1枚目| ?? |スペードJ
―――┼――――┼―――――
2枚目|クラブ4|スペードQ
3枚目|クラブ3|スペードA
4枚目|クラブ5|ハート Q
5枚目|クラブ6|クラブ Q
エーリカにはクラブの3、4、5、6が揃い
ストレートフラッシュの確立が益々高まった
私の場にはA、そしてQが三枚揃っている
ここからが勝負の山場だ
「20!」
スリーカードを前にしてなお吊り上げて来たか
少なくともフラッシュかストレートが完成したか
ストレートフラッシュ、あるいはブラフか…
エーリカはクラブのQを見つめながらこう続ける
「それとも…私の事が好きだったりして~」
『馬鹿な事を言うな冗談は止せ、20に30レイズ』
「私じゃダメ…なのかな…」
エーリカはそう呟きながら30に加え50チップを差し出した
『本気で言っているのか?』
私はコールした
~ショーダウン~
「嘘!嘘!じょーだんに決まってるじゃ~ん」
そう言ってエーリカは伏せられていたカードをめくる
【ハートの3】エーリカの手役はワンペアだった
「はいはいあたしの負けっ、でも何で私の手札見破ったの?」
「まぁ確かに三分の一くらいしか勝つ確立なかったけどさ~」
『三枚目で勝負に出ただろ?あの時点でおまえは役が完成してたって読んだ』
『相手を翻弄するだけが能じゃない、おまえは堅実な戦い方をする奴だからな』
と、それらしい理由をでっちあげる
「で結局トゥルーデは…ってフォーカードじゃん、強気な訳だ」
私のブラインドカード【スペードのJ】ワンアイジャックはワイルドカード
いわゆるジョーカーと同じ万能カードとなる
私はその片目の騎士をスペードのAの隣へと寄せた
『よく見ろフォーカードではない、フルハウスだ』
そしてそのままエーリカの手をとり私は手を重ねた
『なあエーリカ…』
『私はこの501部隊のみんなを家族だと思っている、それ以外の感情はない』
『当然ミーナも宮藤も、そしてエーリカおまえもだ』
『父と母を支えねばならん、妹達を守らねばならん、もう誰も失いたくはないんだ』
『この戦争が終るまで私に休息はない、それでもおまえは待っていてくれるか?』
これがエーリカの告白に対する私の精一杯の答えだった
そして私は無表情に黙りこくるエーリカを見つめ続ける
「…あれ?ひょっとしてさっきの事、本気にしちゃった?嘘だってば!嘘!」
そう言ってエーリカは手を引き戻しニヤリと笑ってみせた
同時に左の鼻の穴が微かに吊り上がる
ブラフだ…私は察した
誰も気付いてない、おまえも知らない
私だけが知っている、おまえの癖だ
おかしな事だ、おまえの事などすべて把握していたつもりだが
肝心なおまえの気持ちに今まで気付いてやれぬとはな
すまん、おまえの気持ちに応える為にも一刻も早くこの戦争にケリを着けねば
そして私も嘘をつき返す
『きっ貴様~やっぱり騙していたのか!?』
「勝負だしね!まっそーゆー事だからこれからも仲間としてよろしくね!」
「あっ…仲間じゃなかったトゥルーデの頭ん中じゃ私も妹って事になってるんだっけ」
「じゃ~あたしの事もしっかり守ってよね、おねえちゃん!」
『おっおねえ…!煩い!黙れハルトマン!』
~セカンド・アンティー~
しばらくしてミーナと少佐がやってきた
ミーナの目は少し赤く腫れていた、二人の間でも何かあったのだろう
何もそんな時にまで私達に付き合わなくてもよかろうに
私も人の事など言える立場ではないが、少佐も律儀というか不器用な人だ
娘達も大事だか嫁の事ももっと大切にしてやってください父上殿
「も~おねえちゃんもあたしも待ちくたびれてたんだからね~」
空になったワインボトルを振り回しながらエーリカが叫ぶ
「オネエチャン??」
ミーナと少佐、二人揃って訝しげな表情でこちらをみる
『なっなんでもないぞ~なんでもないんですよぉ~』「うふふ」
ミーナが笑った、こちらでも一悶着あった事に気付いたようだ
テーブルを囲み私は皆へとカードを配る
「おねえちゃん!あたしブルーチーズ食べたい、戸棚の奥に隠してる超高級なやつ」
エーリカはアンティーチップを放り投げながら戸棚を指差す
私はしぶしぶと席を立ち戸棚へと迎う
そしてとっておきの一品を差出し、代りにかわいい妹の頭を一発殴った
おねえちゃんと言う名の奴隷生活が幕を開け、そして夜は更けてゆく
~Folded~