無題
「ねぇねぇねぇ~」
後ろから声がする。
だが私は振り返らなかった。私を呼んでいるのだとは思わなかったからだ。
「ねぇねぇ、ねぇってば~」
全く、誰だか知らんが早く返事をしたらどうだ。
「無視しないでよー、バルクホルンっ」
「……は?」
思わず私は間抜けな声を出してしまった。
呼ぶ声の主は、フランチェスカ・ルッキーニ。なので私を呼んでいるとは思わなかった。大尉違いじゃないのか?
「イェーガー大尉はどうした」
「今日はバルクホルンに用があるの」
珍しい。一緒にいないうえ私に用だとは。
「聞いてくれる?おねーちゃん」
「ぶっ!!」
私は椅子からずっこけそうになった。
お、お お…おねーちゃんって…!!
いや、落ち着けゲルトルート。ルッキーニのことだ、何か企んでるのに違いない。
「な…なんだ、用というのは」
「あのねー、魔法見せてほしいなーって」
「魔法?」
「バルクホルンって、力は6600倍!になるんでしょ?」
「パー〇ンか私は」
思わずつっこんでしまった。
「まあ…別に見せるくらいならいいが」
「うにゃー、やった~!」
私は立ち上がり、楽しそうにぴょこぴょこと移動するルッキーニの後についていった。
着いたのは格納庫だった。
整備も終わった後のようで、誰もいない。
「これこれっ、いくつまで持てる?」
ルッキーニが指差した床には、ウィッチーズの皆が使う武器が山になっていた。
「…怒られるぞ」
「弾抜いてあるし、ちゃんと戻しとけばだいじょーぶだよ」
「そういう問題じゃない」
見つかったら怒られるのは二人一緒だろうが、私は後でミーナに何されるかわかったもんじゃない。あいつの仕置きは長いし怖いんだ。
「だめ?おねーちゃん~」
「ぐっ……」
だ…誰に教わったんだその上目遣い。可愛いじゃないか。
いや、あいつしかいないな。リベリアンめ…
「…誰か来たらすぐにやめるからな」
「は~い」
私は意識を集中させ魔力を高めた。
耳と尻尾が生え、体の周りを青いオーラが包む。
「はいっ」
まず私の銃を両手に持った。本来ならかなり重量があるが、ちっとも重く感じない。
「次これ、はい次っ」
ルッキーニは次々と私に武器を渡してくる。
持ちきれないのでストラップで肩にかけ、両手いっぱいに武器がぶら下がった状態になった。
さすがにちょっと重いので、魔力を強める。
「早くしろ…ん?ルッキーニ?」
突然、目の前にいたルッキーニが消えた。
だが迂濶に動けないので、首だけ振り向こうとしたその時…
むにゅ。
「!!」
私の脇の下から手が伸びてきて、胸を鷲掴みにした。
もちろん手の主はルッキーニだ。
「な、何をしているんだ!」
「ふ~ん、ホントだ~」
ルッキーニは私の言葉を綺麗に無視し、なんだか手慣れた様子で胸を揉んでくる。
「っ、何が“ホントだ”なんだ…!」
「バルクホルンは、固有魔法使ってる時胸がおっきくなるって聞いたから、確かめてみたかったんだ~」
「な…!誰にそんな…んんっ」
小さな手だが、強すぎず弱すぎず微妙な力加減で揉まれ、私は次第に力が抜けてきた。
「銃落っこっちゃうよ、バルクホルン」
「誰のせいだと…っ…」
なんとか腕に力を入れるが、脚ががくがくと震え始める。
「シャーリーほどじゃないけど、いいおっぱいだね~」
にひひ~、と笑うと、ルッキーニは徐々に手に力を入れ始めた。
「や…やめろ、こらッ…ぁ…」
びくっと体が震え、思わず銃を一挺落としてしまった。
まずい、このままじゃ立っていられなくなる…
「ん…も、それ以上…あ、ルッキーニ…!」
その時。
「あれ?ルッキーニにバルクホルン、何やってんだ?」
いつもはルッキーニとセットで聞くことの多いこの声は。
私はこれで助かったと確信した。
彼女なら、きっとルッキーニの暴走を止めてくれるだろう。ありがとうリベリアン、いやシャーリー!
「あ、シャーリー。バルクホルンのおっぱい査定してるの」
「おっ、楽しそうじゃん!あたしも混ぜて~」
「なっ!」
前言撤回。やはりリベリアンはリベリアンだ。
「ふむふむ、堅物でもやっぱここは柔らかいね~」
「いっそ脱がしちゃおうか~」
「や、やめろ!あっ、そこは…うわぁぁぁ!!」
――――
結局。
耐えきれず持っていた銃をみんな落としてしまい、その音を聞き付けたミーナ(よりによって)に私達は予想通り叱られた。
騒ぎの元凶とその保護者は、バケツを持って立たされているが、唯一の被害者である私は……
「さあトゥルーデ、みんなの武器を使って破廉恥な遊びをしていた罰よ」
「ち、違う!私は遊んでなんかいないっ!」
「どうせ“おねーちゃ~ん”とか言われてでれでれしてたんでしょう?」
「なっ…何故それを……じゃなくて」
「はい、お仕置き」
…私はその夜眠れなかった…