Count“0”


――人間には“理性”というものが存在する。

それが崩壊した時に、暴走するという描写が時折漫画とかでもよくあったりする。

でも、実際、理性が壊れたらその程度では済まない、とあたしは思う。

なにせ、実際理性が壊れたあたしが、ルッキーニを押し倒しているのだから。


あたしの理性のカウントは既に“0”になっていた。


―――Count“0”―――

「シャーリー…?」

ルッキーニが不安そうにあたしを見ている。

綺麗な目、柔らかそうな唇、そしてまだ誰にも触られていないであろう細い身体。

あたしはルッキーニの全てに欲情するようになってしまっていた。

「ルッキーニ…好きだ…」
「シャーリー…!//////」
「お前を…抱きたい…ルッキーニ…」

そう言った瞬間、あたしはルッキーニに肩を掴まれた。

あたしは悟った。

ルッキーニに拒まれたんだと。

ルッキーニの目には涙が溜まっていた。

「…ルッキーニ…」
「ごめん、シャーリー、あたし……」

あたしはフッと我に帰った。

自分は一体ルッキーニに何をしようとしていたのか。

自分のやろうとした事を思い返すと、激しく吐き気を覚えた。



「…ご…めん…」
「シャーリー…」
「ごめん……ルッキーニ…」

あたしはフラフラと部屋を出て行く。

…あたしは何て事をやったんだ。
理性が壊れた?

いや、それは言い訳にはならない。
例えどんな理由があろうが、あたしがルッキーニを押し倒したのは事実だ。

あたしは自分の欲望のままに、ルッキーニを手込めにしようとした。

あたしは言い様の無い罪悪感と絶望感に襲われたまま、ハンガーに向かった。


誰もいないハンガーは、やけに冷たくて、まるで今のあたしの気持ちを内包しているようだった。

「はあ…」

あたしは自分のストライカーユニットの前に腰掛ける。

嫌な事があった時はこのストライカーユニットでかっ飛ばせば気分も晴れるのに、今回はどうもそれだけでは晴れそうに無い。

…何せ、あたしは大切な親友を手込めにしようとしていたから。


ルッキーニを見ていたら、自分の中に隠れていた欲望が目を覚ましてしまった。

その欲望は、自分でも止められないほど、強い物だった。

それは紛れもない事実な訳で。



―――――――――――――――――――
「なあ、ルッキーニ」
「なぁに?シャーリー」
「お前ってさ、付き合ってる人とかいないのか?」
「ウニャッ…!//////いっ、いるわけないじゃん!///」
「…そうか…なら…」
「シャ、シャーリー…?」
「…今なら、お前を奪えるよな…?」

―――――――――――――――――――
頭を嫌悪感が支配して、頭の中がもうグチャグチャだ。
考えもまるで纏まらない。

…どうしてあたしはこんな形でしか愛を形に出来ないんだ。

素直に好きだと言えば良かったのに…。

今更どうにもならない後悔が頭を巡る。
そしてあたしはうなされた様に呟く。
愛しい人の名を。

「ルッキーニ……」
「なに?」

…あたしの真後ろから声がする。
聞き慣れた、あの声。

ルッキーニだった。

「ル、ルッキーニ…!なんでここにいるんだよ!」
「ニャハハ、シャーリーって落ち込んだ時はここに来るから。
もしかしたら、と思って」

ルッキーニはいつもの笑顔であたしを見る。

「…なんで来たんだよ」
「なんでって、あたしとシャーリーはいつも一緒でしょ?」
「…あたしはルッキーニを襲ったんだぞ?」
「例えそうでもシャーリーには変わりないから。
ああ、あたしの事そんなに好きでいてくれてるんだ、って」
「…バカ、どこまでプラス思考なんだよ」
「ヘヘヘ♪」

と、ルッキーニはピョンと後ろに跳ね出した。



「10」
「は…?」
「ほら、10数え終わる前にあたしを捕まえてよ」
「なっ、なんだよいきなり」
「いいからいいから」
「なんなんだよ、一体」

あたしは立ち上がる。
ルッキーニの遊びに付き合ってやる事にした。

『9』

ルッキーニはまた後ろに跳ねる。

「ちょっと…待てよ…!」
「早く捕まえてー♪」

ルッキーニはやけに楽しそうだ。

『8』
「ルッキーニ!」

『7』
「ほらほら早く来てー♪」

『6』
「ちょっと、少しは手加減しろって…!」

『5』
「早く捕まえないと、あたし逃げちゃうよー?」

『4』
「ああもう、調子乗るなぁ!」

『3』
「きゃー怖ーい♪」

『2』
「待てー!ルッキーニ!」

『1』
「あたしのところまで来て、シャーリー!」

「ゼ…」

…あたしはルッキーニが『0』と言い終わる前にルッキーニを後ろから、抱き締めていた。

「…あたしの勝ちだな、ルッキーニ」
「ハハ、負けちゃった♪
…どうシャーリー、楽しかった?」
「…ちょっとだけな」
「もう、素直じゃないんだから!」

…素直、か…。


「…なあ、ルッキーニ、お前は嫌じゃなかったのか?あたしに押し倒された事」
「別に嫌じゃないよ。…あれはちょっとビックリしただけ。
まさかシャーリーがあんな行動に出るとは思わなかったから」
「……って事は、あたしがお前の事が好きだって知ってたのか?」
「薄々気付いてた。だってシャーリーのあたしを見る目が明らかに変だったもん」
「…そうか…そうか…!アッハハハハ!」
「シャーリー…?」
「結局悩んでたのはあたしだけだったのか…!」

(やっぱあたしルッキーニには勝てないや)

あたしはルッキーニを抱き締めている力を少しだけ強めて。

「なあ、ルッキーニ、『0』カウントしてないよな」
「うん」
「じゃあ、最後に0カウントしようか。それでゲームセットだ」
「うん、分かった」
「じゃあ二人で言おう」
「うん!」
「じゃあ行くぞ!」
「「せーの!」」

『『0』』

あたし達はカウントと同時にキスをした。

今までの想いをすべて唇に込めて、深く口内で愛し合う。
キスの時間はたったの数秒のハズなのに、あたし達には数分、数時間にも感じた。

そして、唇は離れた。

「シャーリー…スゴい深い…//////」
「…今までの想いを全部込めたからな。そりゃ深くもなるさ」
「…ねえ、シャーリー」
「ん?なんだ」
「えっち…するの…?」
「……いや、それはもうちょっとしてからにしようと思ってさ」
「なに?トラウマ?」

ルッキーニがからかうようにあたしに話しかける。

「ハハハハ、トラウマというより…」

あたしはルッキーニに囁く。



「…この関係をもう少し、保っていたいんだ。
キスだけの関係を、さ」
「やっぱトラウマじゃん」
「トラウマじゃないさ。戒めさ。
ルッキーニを襲った戒め。でも」
「でも?」

あたしはもう一度ルッキーニに口付けた。
そう、これは戒め。

ルッキーニを好きになってしまったあたし。
そして、こんなあたしを好きになってしまったルッキーニ。

あたし達二人にとっては重い戒め。

だから、その分、深く口付けた。

「キスくらいは、許されるよな?」

あたし達のカウントダウンは、今始まったばかり。

END


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