無題
ゲルトルートは誰もいない部屋に帰り、ため息をついた。
エーリカがいない部屋は何故だかガランとしていて、墓地のようなもの寂しさがただよっていた。
その時、ゲルトルートは初めてエーリカが自分にとってなくてはならない存在だと気がついたのだった。
ゲルトルートは息を切らしてエーリカの部屋に走って行った。
「ハルトマン……!!」
急いでドアを開けると、そこに見えたものは
ベッドの上で口付けを交わすミーナとエーリカの姿だった。
ゲルトルートは吃驚した。
そして二人もゲルトルートが来たことに驚きを隠せなかった。
エーリカはすぐにゲルトルートから目を逸らし、ミーナの胸に顔をうずめた。
「私はもうトゥルーデを愛してないよ。」
その声は震えていたが、はっきりとした鋭い響きを持っていた。
ミーナはゲルトルートに云った。
「トゥルーデの暴力のせいでエーリカはボロボロだったのよ」
ミーナはしがみつくエーリカを抱きしめた。
しかし下手にミーナを殴り、怪我でもさせれば、軍法会議になりかねない。
ゲルトルートは呆然としていた。
そこに支給品を届けに坂本少佐とペリーヌが来ていた。
ペリーヌはびっくりして支給品を落としてしまった。
「フラウ、もう大丈夫よ」
ミーナは静かに言った。
「ハルトマンがしたことはつまり・・、不倫ということか?」坂本少佐が冷静を保ちながら言った。
いつも大人の対応な坂本少佐はエーリカを別室に連れ出してやった。
ゲルトルートとミーナの事はペリーヌが対応することにした。
別室では坂本少佐がエーリカに話かけた。
「ハルトマン、ミーナと不倫したのは何が原因だったんだ?」
「トゥルーデが……私に暴力をふるうようになって…それから………」
エーリカはそこまで言うと声を詰まらせた。
「辛かったんだな・・」坂本少佐が背中を撫でた。
エーリカはゆっくり、頑張って話し始めた。
訓練が上手くいかなかったこと、素行不良にイライラして暴力をふるってくるようになった事、ある時はその暴力が酷くて死のうと思った事、そんな時ミーナがいたこと・・
坂本少佐はエーリカの気持ちがよくわかった。
「一つ聞いていいか?ハルトマンはもう…本当にバルクホルンの事はこれっぽっちも愛してないのか?」
坂本少佐は穏やかに言った。
「私・・トゥルーデに気づいて欲しくて・・・、わざとやっただけなんだ・・」
「そうだよ、私はトゥルーデ以外の人を好きになりっこないんだ・・・」
エーリカは俯いたまま自分に言い聞かせるようにそう言った。
「ハルトマン・・お前は悪くないぞ。たまたまバルクホルンに気づいて欲しくてミーナと不倫してしまったなんだな?しかしバルクホルンだってお前に暴力をふるって悪い、
だがお前もバルクホルンが暴力をふるうから他の人のところへ逃げてた。それだけだ。わかったらバルクホルンと仲直りできるか?」坂本少佐は穏やかに言った。
エーリカは小さくうなづいた。
そのころ・・・
ペリーヌはにらみ合うゲルトルートとミーナを前にしてうろたえていた。
上官二人、しかも隊長と福隊長とあっては流石のペリーヌも口を挟めなかった。
(な、なんですの、この空気は?坂本少佐、助けてください!)とペリーヌは思った。
その時タイミングよく坂本少佐とすっかり落ち着いたエーリカが戻ってきた。
「坂本少佐!」ペリーヌは助かった!という表情で言った。
エーリカはゲルトルートに近寄ってきた。
「トゥルーデごめん・・・、私のせいでこんなことになっちゃって」
ゲルトルートはそんなエーリカを抱きしめた。
「謝らなくていいんだぞ。悪いのは全部私なんだ」
ゲルトルートはエーリカから腕を放すと、そっとエーリカにキスをした。
「これで問題解決だな」少佐はわっはっはと笑いながら言った。