スオムス1942


 それはエイラがまだ故郷の戦線で戦っていた頃のお話。

「そう腐るなよー」
 わたしは部屋の隅で膝を抱えていじけてるニパを見つけると、その肩を叩いて慰めた。
「うっさい、あっち行けよ。あたしの気持ちなんてイッルに解るかよ」
「わかるよー。だからこうして元気付けにきてるんじゃないかー」
 そりゃあ人の気持ちなんて理解るのは難しいけどさ……、実績を上げてるのに配置換えなんてさせられたら悔しいってのは理解してるつもり。
「ダカラサー、とりあえず立って荷物まとめないと……」
「ほらやっぱりだ! あたしを追い出しに来たんだ! あたしだってエースなんだぞ! 何だってこんな目にあわなきゃいけないんだよ!」
 ニパはすごい勢いでこっちに向き直るとわたしに向かって一気にまくし立てた。
 う、地雷踏んだ~。
「いや、だからそういう訳じゃなくって……」
 と、わたしの台詞の途中でもう一回そっぽを向くとまた膝を抱えてしまった。
「も~……カッテニシロヨ」
 その態度に流石に腹立たしくなった私はドアの音を大きく響かせて部屋を出て行った。
 転属は命令なんだから仕方が無いじゃないか。
 こうなったらもう戦隊長直々に説得してもらおう。うん、そうしよう。

 ニパは私のちょっと後輩で、階級は下級軍曹。
 不幸な事故が重なってるとはいえ、貴重な機材であるストライカーユニットを、いくつもいくつも壊したんで軍の上の方から転属を命令された。
 で、転属先は地上勤務の倉庫整理。
 そりゃあいやんなっちゃうよなー。
 そういうわけで、現在いじけて手がつけらんない状態になってる。
 でも、一応軍隊だし命令は命令なんで守ってくれなきゃ困るから中隊の皆でかわるがわる部屋を訪ねたんだけどみんな説得失敗。
 階級的には上の准尉のわたしの言う事なんだから聞いてくれてもいいじゃないか~、と思わなくも無いんだけど、あんまりそういうやりかたっていうのも好きじゃないし性に合わない。
 なのでまぁやっぱり責任のある人に任せちゃうしかないよな。


 …………。
 暫くして、わたしはまたニパの部屋に来ていた。
 まぁなんというか、よくよく考えてみれば、
 あのレイヴォネン隊長じゃ癇癪起こした娘相手の説得なんて勤まるわけ無いよな~。
 指揮は的確なくせに威厳とかからっきしだしな。
「おーいニパぁ、いい加減機嫌なおせよ~」
「ヤダ。あたしはこの基地でメルス穿いて戦うんだ。ずっと」
 ニパは相変わらず部屋の隅で膝を抱えてる。
 なんだか丸くなったフェレットってイメージがぴったりしててかわいい。
 でもこの姿勢って背中が無防備でがら空きじゃないか?
 ふふ~。空戦なら初めから負けたも同然のポジションだよな。
 さっきとられた態度への仕返しの意味も含んだちょっとした悪戯心がわたしのなかで起き上がる。
「うりゃ」
 と、わたしはニパの背中をつつ~っとなぞった。
「ひゃ!」
 丸まっていたニパの背中が伸び上がる。お~、思ったより敏感なやつだな。
「ひひ、背中ががら空きだぞ」
「なにすんだよ!」
 向き直って睨みつけてくるニパ。ショートの薄い金髪が揺れ、済んだ空色の瞳が至近距離でわたしを射抜く。
 至近距離で向き合って今更ながらニパかわいいな、とか思ったりしてちょっとドキッとした。
 あ、まずいな、わたしちょっと赤面してるかも。
「そ、そういうわけで、おまえは今撃墜されたんだからおとなしく後送されろ」
 少し動悸の早まったわたしの状態をごまかすように言葉を繋ぐ。
 ちょっと、強引な持ってきかただったかな。
 間合いが近すぎてドキドキが聞かれないか不安になりつつも、こっちから話を振った手前動けないでいると、ニパが唇の端を吊り上げて、にやりと笑った。
「撃墜は、第三者の確認がないとな~」
「な、なんだよ~」
 ずいっと前進して身体を密着させてくるニパ。
「実は撃ち漏らしてて、落としたはずの敵機に逆襲されるなんて事もあるんじゃないの~?」
 わたしが身を引くより早く唇に柔らかい物が押し当てられていた。
「!?」
 同時にまだ発展途上の胸には右手が添えられ、腰を引こうとしても先回りしたその右手が重ね穿きのズボン越しにお尻を包み込んでいた。
「バ、バカ、ナニヤッテ……ンっ」
 一瞬唇が離れて、抗議の声を上げようとするけどそれも巧妙な罠で、
 わたしの唇はもう一度ニパの唇で塞がれ、中途半端に開かれていたそこには器用に良く動く舌が侵入してきた。
「ンンッ」
 トサッ、とそのままベッドに押し倒される。
 倒れる間もニパの身体は綺麗に動きに追随して、わたしと彼女の唇は繋がったままだった。
 ここまでの数瞬の内に既に上着の幾つかのボタンは外され、ズボンも半分ずらされていた。
 ちょ、ちょっと、何でいきなりこんな展開に……っていうか何でもっと積極的に抵抗しないんだよ、わたし!
 引っ込めていた舌を差し出したら、絡めとられて甘噛みされる。
 ん……これ気持ちいいかも……じゃなくて女同士でこんな事……。
 う~でも前から女の子見てかわいいとか思ってたしでもそれはそれはたぶんししゅんきとくゆうの~……。
 訳がわからなくなって思考がぐるぐる回ってくる。

 で、ニパがカウハバ一中の出身だって事を思い出したらなんか妙に納得して体の力が抜けた。
 いや、抜いちゃいけないんだろうけどなんかもうムリ。
 相変わらず頭の中はぐるぐる回ってたけど、
「イッルが最後まで付き合って撃墜されてくれたら、大人しく命令に従う」
 って言ってくれたんで、何がどうなったら撃墜のルールなんだかわからないままに、
「キ、キョウダケ……、ダカンナー」
 と返して何度か撃墜されるまで格闘戦に付き合った。


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