С Днём Рождения!!


目を覚ますと、基地に帰り着いた頃はまだ白んでいるくらいだった空がすっかり明らんでいて、太陽を真ん中にして青色のペンキで
満たされていた。
体を起こしてひとつ、大きなあくび。伸びをしようと腕を上げたら、その手が何かに当たる。…エイラだ。
と、言うことはここはエイラの部屋で、私が寝ているのはエイラのベッドと言う事になる。だって私の記憶の限りではエイラは部屋を
間違えて人のベッドに潜り込むようなへまをする人ではない。それが過失であるにしろ、故意であるにしろ。

良く見ると私の体にはしっかりと毛布がかかっていて、エイラはその端っこで体を丸めているのだった。足元を見ると、見事なまでに
綺麗に畳まれたエイラと私の衣服。…私が自身でそれをした記憶は…ない。
はああ、とため息をつく。どうしてこの人は、本当に、なんと言えばいいのか。仕方なしにただ、自分に掛けられていた毛布を本来の
持ち主である彼女に掛けなおした。

ベッドに座り込んだまま、私はぼんやりと傍らのエイラを眺めている。
腕の中にはぬいぐるみ。それは前にエイラと一緒に街に出掛けたとき私が目を奪われていたもので、確かエイラにはその事を告げて
いなかったはずだったのに。
でもエイラはきっときちんと見てくれていたし、覚えていてくれた。いつだってそうだ。エイラは私が何も言わなくたって勝手にそうして
気を回して、いつのまにか動いてくれている。

(誕生日オメデトウ)
次第に鮮明になってゆく、寝る直前の記憶。最後に掛けられた言葉。
ムードも何もなく手渡されたプレゼントをぎゅうと抱きしめて、私はそのときの自分の言動の幼さに一人顔を火照らせる。
わかっているのに。エイラが何の意味もなしに私に隠し事をするはずない、って。根拠なんてないけど、とにかくエイラはそう言う人だ。

けど、でも、だって。私はエイラのようにみんなと上手く話すことなんて出来ない、から。
理由なんて分かってる。わがままだって知っている。
けど、でも、だって。心の中で、繰り返す。傍らですやすやと眠っているエイラに、きっとこの気持ちは分からない。
羨ましいくらい自然に、みんなの輪の中に入っていけるエイラには。
もちろんエイラを責める気持ちはない。エイラは何も悪くない。けど、でも、ただ、ただ、思うのだ。

「…おいてけぼりは、さみしいよ。」
だからどうか、私の傍からいなくならないで下さい。
一人ぼっちにしないでください。

エイラが起きないように、小さい声で呟いた。反応なんてもとより求めていない。そんなもの実際目にしなくたってもう分かる。きっととても
悲しそうな顔をして「ごめん」と呟いて、手を私の方に伸ばしかけて、きっと止める。そしてまた、謝罪の言葉を重ねるのに違いない。私の
真意なんて拾わないまま、すべて自分が悪 いんだと、自分の不用意な言動が私を傷つけたにのに違いないと、勝手に思い込んで。
優しい優しいエイラはいつも悠々としているくせに時々不意に臆病になる。自惚れてもいいのなら、私に関する事なら殊更だ。…たぶん、
それは、私の性格や生活リズムがどうしてもチームの他のみんなと比べると浮きやすいものだから、と言うのが多分に含まれているの
だろうけど。

ねえ、エイラ。
あなたが私と一緒にいてくれるのは同情ですか?私をひとりぼっちにしたくないから?私が可哀想だから?
でも、でもね、エイラ。
私は違うよ。私は、あなたが一緒にいてくれるから甘えるんじゃない。傍にいるんじゃない。

ただ、ただ、わたしは、あなたが。


胸に募るこの想いを言葉にするには、私はまだまだ臆病すぎた。実際に目と目を合わせているときよりも、こうして一方的にエイラを
眺めているときのほうがなんだか気恥ずかしいのはどうしてだろう?伝えたいけれど伝えきれない想いばかりが募って、募って、行き場を
なくしてさまよって。
だからいつもどうしようもなくなって体を寄せる。たとえこの世界が暗闇に沈んだとしても、この傍らの温もりだけは絶対だ。目に
見えなくても掴み取れる、大切な私のよすがだ。
広い、広い、オラーシャのどこかで私の無事を祈ってくれている大切な人の存在を、私は昨日の晩に泣きたいくらいに味わった。けれど、
今、一番安心できる温もりはここにある。人の形をして、エイラ・イルマタル・ユーティライネンと言う名前を持って、私の傍に
いてくれている。そのことがどれだけ私を支えてくれているか、たぶんエイラは知らない。

けど。
…ここのところ、そのエイラの様子が何だかおかしかった。やけににこにこしているかと思えば不意に顔をしかめて。私が眠気にぼんやり
している横で大きな溜め息をついていることもあったっけ。

どうしたの?
悩みでもあるの?
私だったら何でも聞くよ?

そう話し掛けようとして、いくじなしの私は直前でいつもためらってしまって。
そうこうしているうちにエイラは別の人のところに行ってしまうのだった。私の分からない、何かの相談を他のみんなとしている時のエイラは
ここのところの挙動不信さとは打って変わったように幸せそうな顔で。私はますます自分に自信を無くしてしまった。
エイラは私と一緒にいるよりも、私なんかの世話を焼くよりも、みんなと一緒にいたほうが幸せなのではないか。そう思っては、けれども
この温もりを手放したくない自分に戸惑って。

その気持ちを紛らわすように夜間哨戒に出かけて、そして「あの」ネウロイと出会った。

今にして思えば私は焦っていたのだろう。私一人で敵う相手では無いと分かっていたのに、一昨日の夜、無理をして締まったのはそのせいだ。
ただ、ひたすら認めて貰いたかった。誰?そんなの決まってる。エイラにだ。そしてたぶん、褒めて欲しかった。
結果的に私はネウロイを討ち漏らしてしまった。…けれどそのおかげでエイラと一緒の時間を過ごすことができたのが嬉しかったのはあまりにも
不謹慎だから絶対に言うことは出来ない。

けれどその合間合間にも、やっぱりエイラはリネットさんやシャーロットさんと言った人達と親しげに話していて。
意を決して尋ねたら、目を逸らしてはぐらかされた。何でもないとごまかされて…私は、それが、とてもとても悲しかったのだ、たぶん。
こんな気持ち他の誰かに対して抱いたことがないから何て呼べばいいのか分からないけれど、とても悔しい気持ちでいっぱいだった。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
心の中で繰り返す。何の謝罪のためだろう。いままでのこと?これからのこと?…たぶんどちらでもあるんだろう。
だってそれでだって私はこの温もりから離れることが出来ない。エイラが私を見捨てたいと思っていたって、私はエイラの心の片隅にある
ほんの小さな、私に対する同情心にさえすがっていたいと思うから。


こんこん。不意に扉がノックされる。私がはい、と答える前にエイラが飛び起きて、答えた。
「リーネ?」
はい、と答える声。ああ、また奪われてしまう。そんな恐怖に駆られて私は黙って倒れこんでエイラに抱き付く。うわっ、と声を上げたけれど、
エイラはそれ以上何も言わずに私の頭を撫でてくれた。
どうしたんですか、と尋ねるリネットさんの言葉になんでもないと慌てるエイラ。お腹の辺りに鼻を擦り寄せると「やめてくれよ」と懇願される。
でもやめない。私と一緒にいるのに、リーネさんの来訪にそんな嬉しそうな顔をするエイラが悪い。いつもはそんな顔しないくせに、今日は
どうしたの?やっぱり教えてくれないの?

「あのぅ、準備が出来ました。サーニャちゃんを起こしますか?」
「そ、そっか、いや、うん、大丈夫ダ!サーニャは私が起こすから、リーネは宮藤を起こしに行ってクレ。」
「はーい」
パタパタと音がするのはリネットさんが走り去って行ったからだろう。それを確認してから、エイラは呟いた。


「サーニャ、くすぐったい」
「…」
私は、何も答えないことにする。代わりにぎゅうと抱きしめて、その気持ちを伝える。
「……やっぱり、怒ってル?」
「…怒ってるって、言ったら…どうするの?」
顔を上げて質問に質問で返したら、その先のエイラはやけに真剣な顔をしていた。まるでネウロイと戦っているときのような、凛々しい顔。
優しい顔のエイラが好きだ。けれどこんな顔もすごく好きだ。どちらかなんて選べないし、選ぼうとも思わない。だってどちらも私の大好きな、
大切な、エイラだもの。

「謝ル。サーニャが、許してくれるマデ。」

そんな事言ってもどうせ、どうして私が怒っているかなんて分かってくれてないくせに。
それなのにどこまでもこの人は真摯だ。だってエイラと来たら『自分がサーニャに愛想を尽かすなんてありえない』と言った前提で
そんなことを言っているのだ。たとえ自分に全く非がなくたってエイラは私が怒っているなら本当に何度でも謝るだろう。根拠なんて
もはや必要ない。エイラはそう言う人だ。他の人が何と言っても、私はそんな風に思っているのだ。

行こう。みんなが待ってる。
まるで幼い子供をあやしつけるかのような優しい口調で、エイラが言った。いや。はっきり口にすると困ったように眉を寄せるエイラ。
だってそうしたらどうせまた、あなたは私を放って置いてしまうんでしょう?それならずっとここにいる。離さない。
背中に回した腕を強くしてそう主張した。エイラがそこまで汲み取ってくれたかどうかは知らないけれど。

「サーニャがいなくちゃ何も始まらないンダ。」
「…なにが?」
「行けば分かル!!…だから着替えて、行こう?」

私あっち向いてるから。足元の私の服を手渡して自分のものも取り上げると、エイラは反対側を向いてしまった。回していた腕は自然に
振り解かれて、私は綺麗に折りたたまれた自分の衣服を抱きしめる。背後からするすると、衣擦れの音。エイラは着替え始めたらしい。
私も観念して、ようやっとずっと腕の中にあったぬいぐるみを置いてシャツに腕を通した。



食堂からはざわざわと、忙しない音が聞こえている。カチャカチャ、ガヤガヤ、ドンドン、ピューピュー。何が何だか分からずに私は
宮藤さんと目をぱちくりさせるばかり。
「あの、エイラさん、リーネちゃん」
「キニスンナ。大丈夫ダヨ。……多分、だケド」
一体これから何が起こるのかと、不安そうな顔をしている宮藤さんを見てエイラが肩をすくめて曖昧に笑った。ちょっとだけまた、
寂しい気持ちが湧いたけれど、私の肩の上にちゃんとあるエイラの両手の温もりを感じられたから、顔には出さないことにする。

「おーい、主役を連れてきたゾー!!」

エイラが中へと呼びかけると、「おー」と言うどよめき。行こうか。その言葉とともに後押しされて、宮藤さんはリネットさんに手を引かれて、
食堂へ、一歩足を踏み入れた、瞬間。

パーン!!
何かがはじける大きな音が、後ろから、前から。舞い散る紙吹雪と、「せーの、」と言う言葉の直後。

「「「「「「「誕生日、おめでとう!!!」」」」」」」

私たちの誕生を祝う言葉が、食堂中に響き渡った。驚きに目をぱちぱちさせて、すぐに後ろを見やるとこれ以上ないくらいに幸せそうな
顔をしてクラッカーを握り締めているエイラがいる。いたずらを成功させた子供のようにいたずらっぽい、けれども本当の本当に
嬉しそうな、その顔。
差し出されたケーキには『HAPPY BIRTHDAY』の文字。クリームの甘い香りがいっぱいに広がる。
「オメデトウ、サーニャ」
もう一度エイラが、耳元でささやいた。


直後に突然バン、と後ろから軽い衝撃。いつの間にかエイラの後ろに回りこんでいたシャーロットさんがエイラの背中をたたいたらしい。
「エイラを褒めてやってくれよ?誕生会をしたいって、提案してきたのエイラなんだからさ」
「あー!言うなって言ったじゃないカヨ!!シャーリー!!」
「あはははは、こう言うときは面白い方を優先するもんだろ~」
涙目でシャーロットさんを見上げて叫ぶエイラの耳は真っ赤で私と目が合うと、その瞬間に勢いよく逸らしてしまう。

「ケーキはリーネが作ったんだよ!!」
「へえ……美味しそう!!すごいね、リーネちゃん!」
「そ、そうかな?それほどでもないよお…」
その脇ではルッキーニちゃんと宮藤さん、リネットさんがそんな会話をしていて、そこで私はようやっと、エイラの最近の行動の意味を知った。
加えて、自分の事ばかりでその気遣いに全く気がつかなかった自分が本当に恥ずかしくなる。
エイラは私に対して意味のない行動をするような人ではない。そんなこと、私が一番良く分かっていたはずなのに。

ペリーヌさんは一人、そっぽを向いている。その指に絆創膏の跡が見えるのはきっと気のせいじゃない、と思う。
ハルトマン中尉は早くもテーブルの上の他のお菓子に手を出して、バルクホルン大尉にはたかれていた。その大尉はと言うと、
カメラを構えて先ほどから何度もフラッシュをたいている。

「おーい、みんなで写真撮るぞー」
以前よりもずっと柔らかい顔になったバルクホルン大尉がみんなに呼びかけた。私と宮藤さんを中心にして、みんなが集まってくる。
「お前も主役だ、主役!」
「な、なんでダヨ!」
「つべこべ言わずに真ん中行けぇ~」
シャーロットさんとルッキーニちゃんに押されてエイラが私と宮藤さんの間にやってくる。最初は心許ない顔をしていたエイラに笑いかけると、
エイラも安心したように微笑んで、私と宮藤さんの肩に手を置いた。
「サーニャ、ミヤフジ、誕生日オメデトウ!」
そのときのエイラの幸せそうな顔を、きっと私は一生忘れない。…写真にだって残っているんだから、忘れるはずがない。
瞳に熱いものがこみ上げてくる。誰に何を言ったらいいのか分からなくて、私はなぜか、この世界のどこかにいる家族に呼びかけていた
お父様、お母様。サーニャはここにいます。幸せです。

ありがとう、ありがとう。
いつも私の事、考えてくれていて。
一番お礼を言わなくちゃいけない人は、分かってる。エイラだ。今私のすぐ隣で誰よりも幸せそうに微笑んでいる人だ。
今夜も一緒に、寝かせてもらえないかな。そうしたら今度は黙りこくったりしないで、私の言葉の限りを尽くしてこの感謝の気持ちを伝えよう。
そう思いながら私はエイラに体を寄せた。


エイラ視点ver:0220
裏話1149

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