Cross×Over
――告白する勇気が出ないまま、一週間が経った。
いい加減、自分でも告白した方が良いとは思ってるけど、やっぱり怖い。
やっぱり女同士というのが、あたしにとって大きな壁になっているらしい。
そんな事をいつまでもグチグチ渋っていたら、あたしにとってはとてつもないピンチが訪れた。
――ルッキーニが男の整備士からラブレターを貰ったのだ。
――Cross×Over――
あたしは見ちゃったんだ。
ルッキーニが男の整備士からラブレターを貰うところを。
ルッキーニに見せたい本があって、ハンガーへルッキーニを呼びに行ったら、あたしが一番見たくなかった光景が目に入った。
「あ、あのロリコン整備士っ…!…あたしより先にルッキーニに告白だなんてっ…!!」
…ルッキーニも心なしか嬉しそう。
ルッキーニがあの整備士からの告白をOKするかは分からない。
なのに、あたしはその日以来、ルッキーニを見ると、胸の奥がジンジンするような痛みに襲われるようになった。
「…………」
「最近のシャーリーは元気が無いな」
「ええ、そうね」
「なあ、ルッキーニ」
「ウニャ?なーに、坂本少佐」
「お前ならシャーリーの元気の無い理由、分かるんじゃないのか?」
「…それが…なんか最近、シャーリーがあたしを避ける様になって…」
(あらあら…)
「そうか…。いずれにしても心配だな…」
「シャーリィ…」
―――――――――――――――――――
……ダメだ…あのラブレターが気になって飯も喉を通らない。
…もし、ルッキーニがあの告白をOKしたら…
あたしはどうなる…?
…ただの友達で終わるのか…?
…ルッキーニの恋路を応援するだけのただの友達…?
…嫌だ…嫌だ…そんなのは嫌だ…!!
ルッキーニの隣にいるのはあたしだ!
あたし以外の奴にルッキーニの隣を奪われるなんて考えたくも無いっ…!!
怒りと悲しみ、そして何も出来ない自分への悔しさに涙がこみ上げてきた。
あたしはシーツをグッと掴んで、愛する人の名を呼ぶ。
「ルッキーニ…ルッキーニィ…!!」
シーツには涙が零れ落ちる。
コンコン
すると、あたしの部屋のドアを叩く音がする。
あたしは涙を拭いて、ドアを開けた。
開けたドアの先には…
「ミーナ…中佐…?」
「こんな夜遅くごめんなさい。
少し話、良いかしら」
「は、はい…」
ミーナ中佐はあたしのベッドに腰掛けて。
「あ、あの、何の用ですか…?」
「最近、貴女の元気が無いから、ちょっと様子を見に来たの」
「はあ…」
「坂本少佐やルッキーニさんが心配しているわよ」
「ルッキーニ…」
あたしがルッキーニの名前を口にした瞬間、ミーナ中佐の目の色が変わった。
「……シャーリーさん、ルッキーニさんの事が好きなのよね?」
「っ…!?…なっ、なんで知ってるんですかそんな事っ…!?」
「あら、貴女の目を見れば分かるわよ。
…ルッキーニさんが好きだって事。
シャーリーさんは考えた事が顔にでやすいから」
「……ミーナ中佐に隠し事は出来ませんね…。アハハ、なかなか、その…」
「勇気が出ないのね」
「…女同士だから…嫌われたらどうしようとか、余計な事を考えてしまって、なかなか言い出せなくて…」
「私は…女同士だから、とかはあまり関係ないと思うわ。本当に好きなら性別は意味の無い…そう思う」
「………」
(まったく世話の焼ける子ね…)
「シャーリーさん、手を出して」
「はあ…」
そうすると、ミーナ中佐はあたしの手の甲に軽く口付けをした。
「ちょっ…//////」
「これは、私が坂本少佐にいつもしてあげてる勇気のおまじない。ねえ、シャーリーさん」
「はい…」
「さっきも言ったけど、恋愛に性別なんて関係ないわよ。
その人が好きになったら、自分にとってその人がすべてになっちゃうの」
「ミーナ中佐…」
「勇気を持ってルッキーニさんに想いを伝えなさい」
「でも…」
「振られたらその時は、私が貴女を貰ってあげる♪」
「いや、それは…」
「フフ、冗談よ♪」
ミーナ中佐はあたしの肩に手をポンと置いて、耳元で囁いた。
「頑張ってね、シャーリーさん」
そう言うと、ミーナ中佐はあたしの部屋から出て行った。
「……性別は関係ない……か…」
今夜の空気は昼間と違ってざらついた寒さ。
あまりに寒くてなかなか眠れない。
でも、頭を冷やすには丁度良い寒さかもしれない。
時計の針の音だけが部屋に響く。
そして、あたしは。
「……よっし、そろそろ覚悟決めるか……!」
ラブレターなんて関係無い。
ましてや性別も関係無い。
あたしがルッキーニを好きだって気持ちが一番大事なんだ。
どっかの男にルッキーニを取られる前に、ルッキーニはあたしの恋人にしてやる。
もし振られたら、なんて考えるのは、あたしの想いを告げたその後だ。
決めた。あたしの決戦は、明日だ。
待ってろ、ルッキーニ!