スオムス1943 幸運の青十字


 スオムスは相変わらずネウロイの脅威に晒されていたけど、あいつらに当初ほどの熱意は感じられなかった。
 わたし達スオムス空軍第24戦隊は、時折襲い来るネウロイの空襲に対しながらも結構のどかな毎日を送っていた。
 そんな初夏の昼下がり。
 わたしはスクランブル当番で、同じく当番のニパと一緒に詰め所に居た。
 そして二人で暇をもてあましていた。
「今日は結構暑いよな~」
「どうせ今日もネウロイが来ないなら、さっさと待機時間終わって欲しいよな~」
 最近のネウロイの低調ぶりは腹立たしい程だった。
 数日に一回は飛んでくるのだが、何よりも熱意を持っている私たちの当番の時に限って連中は現れない。
 そんな日が続き、私はもう2週間以上も獲物にありついていなかった。
「ほんと。さっさとサウナ行って水浴びしてイッル抱きたいな」
「オイ!」
 そんなニパの一言に、所在無くタロットを並べていたわたしは手を止めてツッコミをいれた。
「ニパおまえその趣味はやめろって言ってるだろ~」
「でもイッルだって毎度毎度まんざらでもないじゃない」
「毎度毎度なんて表現使われるほどしてない」
 わたしは不機嫌な表情を作ってぷいとニパから視線を逸らした。
 まぁ、実は本当にまんざらでもなかったんだけど、そんな事知られたらきっとニパは付け上がって行為がエスカレートするのは目に見えてた。
 だから、眉根に皺を寄せたこんな表情にしとかないと後々まずい事になるのは先読みの魔法を使うまでもなくわかった。
「ちぇ~、つまんないの~って……イッル頬赤いよっ」
「えっ、ソ、ソンナコトナイッテ」
 わたしは慌てて頬を押さえつつ否定したけど、時既に遅し。
 しかも押さえた手に持っていたタロットが恋人の正位置を示してたせいで余計にドギマギ。
「図星」
 ニパは嬉しそうな表情を浮かべると、あっという間に正面側からわたしの隣に擦り寄ってきた。
「じゃあほら、今日もネウロイこなさそうだし……」
 と言いながらわたしの太ももに手を這わせてきた。
「ばか~やめろよ……待機中だろ!」
 説得力が無いのはわかってたけどがんばって嫌そうにしながら抗議する。
「うん」
 ニパはあっさりと手を引いて立ち上がるとさっき迄座っていた正面側の椅子に戻った。
 で、嬉しそうににやつきながら鼻歌を奏で始める年下の少女を訝しげに見つめるうちに気付いた。
「あ」
「待機が終わったら~♪ サウナと水浴びとイッル~♪」
 うぇ、失言だった~。


 と、そこに出撃命令を告げる連絡が入った。
 緊張が走り、わたしたちはその一瞬で暇をもてあます少女から、スオムスの空の護り人へと変わった。
 先を争うようにメルスを装着し、タキシングする間すら惜しむようにして滑走路へと滑り込む。
 後はME109G-2のDB601魔道エンジンを全開にして、青空までは一直線。
 わたしもニパも久しぶりの獲物に歓喜する獣の様に加速、離陸し、高度をとりながら次の無線の指示を待った。
「不審な航空機~?」
「ネウロイじゃないの~」
 最新の通信によってわたし達の闘志は30秒と持たずに空回りした。
 航空管制が言うには、スオムスの識別証である青十字ではなく、国際救護の赤十字をつけた航空機が飛んできたらしい。
 でも、そんなのが飛んでくる予定は無いとの事。
 国同士の謀略なんて今更あるはずも無いんで見間違いかもしれないし、もしかするとネウロイによる何らかの罠の可能性もあるんで確認しろとの事だった。
「ツイテナイナー」
「でもネウロイだったら一大事だろ」
 早速やる気をなくして呟くわたしと逸る気持ちを抑えきれないニパ。
 管制によるとスオムスとネウロイ境界線よりかなり内側の監視塔の補助兵からの報告との事だった。
 補助兵って事は多分女性兵。
 人手の足りないスオムスではウィッチ以外の女性もかなり多くが軍務に就いていた。
 比較的最近になって24戦隊に復帰したニパはともかく、わたしは何度かどうでもいい報告に踊らされた事があったんで既にもうかなりだれてた。
 そして、案の定航空機は翼と胴体にでかでかと『幸運の青十字』の描かれたスオムス空軍の所属機だった。
 暫く同航して操縦者の男性パイロットから話しを聞くと、航法をミスって本来の航路をはずれ、通過するはずの無い監視所の近くを通ったと言う事を恥ずかしそうに、ばつが悪そうな感じに語ってくれた。
 まぁ、確かにファストエイドキットの収納場所を示す赤十字マークは小さく貼られてはいるけど……。
 この青十字はその昔にスオムスに現われた怪異を撃退したウィッチ、エリカ・フォン・ローゼンが幸福の印としていたもので、その一件以来空軍と陸軍の印として使われているものだ。
 わたし達スオムスに住まう者にとってはネウロイに対抗する為の意思の表れ、誇りの印と言ってもいいほど大切なもの。
「青十字を見逃すとかってありえないだろー」
 ぬか喜びの上に無駄骨な上に味方に裏切られたような気分になったわたしはさっきまでのやる気なさを何処へやらと奮起した。
「あ~……もう力抜けたわ、帰ろうよイッル」
「い~やおさまんない。監視所に行ってたるみきった連中に青十字がどんなものか見せ付けてやる~」
 ぐぐっと握りこぶしを作って主張するとニパものってきた。
「お~、確かにそれ面白そう。暇つぶしにはなるね~」
 そして、私たちは監視所に進路を向けた。


 …………。
「なんか、こう……ドキドキして来ないか?」
「ごきゅり」
 果たして、そこは桃源郷だった。
 麗らかな陽気に誘われて開放的になった少女たちは皆妖精のように素肌を晒していた。
 戦場のヒロインでもあるわたし達の突然の乱入は、そんな少女たちを熱狂させる事はあっても、慎みを持たせるような事は無くて……。
 青十字の教育なんてどこへやら。
 わたしとニパは夢の様な光景に見とれながら歓声をあげる少女たちに笑顔で手を振った。
「ニパ~、今日は来てヨカッタナー」
 にやけながら呟くとニパは隣でこくこくと頷く。
 と、ニパが鋭いロールで背後にまわりこんできたと思ったら、おもむろに抱きついてきてわたしのおっぱいを揉み始めた。
「わわ、ちょっと、なにしてんの!?」
「ん~、まぁ盛り上がった気持ちのお裾分けかな~」
「し、下から見られてるって」
 っていうか下の娘たちから口笛まで吹かれてるよ。
 恥ずかしくって顔から火が出そう……。
「や、ヤメロッテバー」
 胸とおなかの下の辺りから湧き上がる甘い感覚を必死に押さえ込んで、何とか高度をとりその場を離れる方向に向かう。
 で、絡み合ってるんで失速寸前、ふらついて進路もおぼつかないわたし達は小高い梢に突っ込んでしまった。
 衝撃だニパは枝で顔面強打して失神。
 わたしの背中の上だったんで事なきは得たんだけど……ニパってば調子に乗りすぎ。
「はぁ、人の気持ち盛り上げておいて勝手に気絶だもんな~……って、ダメだダメだ! 何流されてんだよも~」
 わたしは色々と凹みながら帰途に付いた。


 後日、ニパが哨戒飛行の当番の時に例の監視所に向かうと、そこにはムキムキマッチョな男性兵士がお出迎えしてくれたとか何とか。
 まぁ、わたしが手を回しておいたんだけどナ。


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