無題
「なあ、サーニャ?」
「・・・ぅん?」
エイラが声をかけると、彼女のすぐそばにいたサーニャが寝ぼけた声で返事をした。
ここはエイラの部屋。
ネウロイの襲撃も、訓練もない穏やかな午後。
ベッドの上に腰かけタロット占いに興じていたエイラの隣で、サーニャは読書をしていたが、
昨夜の夜間哨戒の疲れからか、いつのまにかエイラの半身にべったりとよりかかるような格好で
お昼寝中だったようだ。
つまり、エイラにとってはこの上なく幸せな状態だったわけで。
彼女としても、できるならいつまでもこの体勢のままでいたいところだったが、
さすがのダイヤのエースも生理現象には勝てない。
「ちょっと、トイレ行ってくるから・・・」
そう言い残してサーニャのそばを離れた。
エイラはそのまま後ろを振り返ることなく部屋を出て行ったから、残されたサーニャが
少しだけ頬をふくらませてむくれていたことに気がつかなかった。
少しして部屋に戻ると、サーニャは起きていた。
「ただいま」
「お帰り」
サーニャの微笑みに迎えられて、嬉しくなる。
でもエイラはエイラだから、さきほどのようにサーニャのすぐ隣には座れず、ベッドのヘッドボード
に寄りかかり両足を投げ出して座る形になった。
そばにあった枕を抱きしめてみる。
タロットにも飽きてきたし、今度は何をしようか。
そんなことを考えていると、自分が抱えている枕をサーニャがじっと見ていることに気がついた。
「ん?どうした?」
サーニャは答えない。代わりに、エイラにすっと近づき、その枕に手をかけた。
おとなしく枕を手放すエイラ。
昼寝をするのに、枕がほしくなったのか?
しかし、エイラの予想は外れていた。
サーニャはすぐに、その枕を横に置いてしまう。
そして枕がなくなった分空いたエイラの足の間に入りこみ、エイラに背をむけるような形で
彼女にもたれかかった。エイラの人間座椅子と言ったところか。
ナ、ナンダコレハ・・・・
あまりの事態に固まるエイラ。自分の鎖骨の辺りに寄りかかるサーニャの頭からは
シャンプーのいいにおいがする。密着した体から、サーニャの体温が伝わってくる。
普段は控えめなサーニャだが、眠い時はエイラに寄りかかってきたり、部屋を間違えて
エイラのベッドにもぐりこんできたりしてその度にエイラはいつもびっくりしたりドキドキしたりと
振り回されていたが、今日も眠いからこんな可愛い行動をとってくるのだろうか。
こんなことをされては、理性を保つ方が難しいじゃないか。
そんなことを考えつつも、エイラは結局固まったまま。
すると、サーニャがふいにエイラを振り返った。
何か言いたそうに、じっとエイラを見つめる。
至近距離から見つめられて、心臓がばくばくうるさい。
いっぱいいっぱいなエイラは、サーニャが言いたいことなんて察することができるはずもない。
正面に向き直り、エイラに気づかないくらいの小さなため息を吐き出した後に、
エイラの両腕をつかんでサーニャのお腹の辺りに回させた。
つまり、エイラが後ろからサーニャを抱きしめるような格好になる。
もう一度振り返ると、ゆでだこみたいになったエイラが見えた。
エイラから抱きしめてくれなかったのは残念だけど、自分の行動でクールな顔が崩れる
エイラは何よりも可愛い。
そんな小悪魔的なことを考えながら、微笑むサーニャ。
エイラはというと、とりあえず今度トイレに行きたくなっても絶対に我慢しよう、なんて
どうでもいい決意を固めていた。
おわり