三 姉 妹


~プロローグ~
「まるで昔、お父さまの書斎で見かけた推理小説の登場人物になったみたい…」
なにか冒険が始まる、そんな予感にサーニャは胸を膨らませていた

~act1~「退屈な午後」
時間は少し巻き戻る
よく晴れた昼下がりのこと
エーリカとサーニャ、ルッキーニはミーナから資料の整理を命じられていた
「あ~資料整理なんて面倒くせ~」
「ぐぅ~なんであたしらがこんなんしなきゃなんないの~」
「…」
「でもな~サボるとミーナ恐えーからな、サーニャを見習ってわたしらも…」
「ねーサーニャ、なぁ~にみてんの?」
サーニャは無言で手にしたファイルを差し出す
‘当基地における怪奇報告書’と書かれている

「あ~あれだろ?夜な夜なおっぱいを揉みまくる怪人とかさ~」
「けっきょく正体は芳佳だったんよね~」
「でも…この基地は古いお城を改装したものだから…不思議な事があっても」
「さーにゃ~ロマンチストぉ~」

~act2~「結成!」
「おっとロマンなら負けないよ、すべての謎は…わたしが解明してみせる!」
「なになに?探偵みたいだんね」
「おっ!いい事言うねルッキーニ君!それだ!三姉妹探偵ここに結成だ!」

「三姉妹…」
サーニャの頬が薄紅に染まる
大はしゃぎの二人とは対象的だが
自分も仲間に入れて貰えていた事が、本当に嬉しかったのだ

~act3~「あたしがリーダー」
「やっぱ長女のわたしがこの探偵団のリーダーだよね!」
「んにゃあたしリーダーやりたいぃ」
「ルッキーニは…そう!マスコットだな」
「にゃにゃリーダーがいいの~リーダーやりたい~」
お子様だ…とは二人の心の声だ
シャーリーもよくこんな我儘に毎回付き合っていらるなぁと思った
「ねぇサーニャ?」
「どっちがリーダーに相応しい?」
とりあえずサーニャがリーダーという選択肢はないらしい
「えっと…、…ルッキーニちゃん…かな」
やったーとの叫びを背にエーリカはサーニャを睨む
「まっしょーがないっか」
大人な発言と裏腹にエーリカの表情はどんより暗い
「あの…ハルトマンさんはリーダーと言うより…ボスだから」
「!…ボス?ボスねぇ~いいねボス!いい響きだよ」
この人もお子様だ…とはサーニャの心の心だ

~act4~「私の特技」
「やっぱそれぞれ特技も必要だな~もちろんわたしはこの美貌だけど」
「ん~じゃあたしは頭脳明晰とこんで、サーニャはねー目からビームだすの」
「違うだろ!大食いだよ大食い!カレーが大好物なんだよ」
「…ひっくっ」
サーニャの泣きそうな顔に二人は戸惑う
ギャグだって!普通わかるだろ?なんて扱い辛い奴なんだ
エイラあんた凄いよ、よくこんな奴のフォローしてるよ…とは二人の心の声だ

「やっぱサーニャと言ったら美声だよな、なっ?」
エーリカは、おまえもフォローしろ!とルッキーニに目配せする
「歌姫サーニャってすってき~!」
サーニャの表情が心なしか緩んだ
とりあえず胸を撫で下ろす二人であった

~act5~「わたしの発案」
「美少女エーリカ!」
「えっと…サーニャです」
「違うだろサーニャ、真面目に、もう一度初めからやり直し、いくよ」

「超絶美少女エーリカ!」
「歌姫サーニャ…」
「そして頭脳明晰ルッキーニ!」
『我ら可憐な、三姉妹探偵、参上!』

「よし!決まった!さすがわたしが考えただけの事はあるね」
なんで名乗りの練習なんか、しかも超絶とか付けてるし…
バルクホルン大尉もよくこんな奴の手綱握ってるよ…とは二人の心の声だ
本当はちょっと楽しかったけど

~act6~「やっぱり退屈な午後」
「でもさ~そう簡単に事件なんて起きないよな」
なんやかんやで三人は資料整理の作業を再開していた
「なになにサーニャ~まだそれ見てんの?」
二人は‘当基地における怪奇報告書’と書かれたファイルを覗き込む
「え~と虹色の扉、これを見た者は二度と帰っては来れない?嘘くせ~」
「誰も帰って来れないのになんで書いてあんの~きゃっはっは」
笑い声を上げる二人を余所にサーニャは資料室の石壁を見つめていた
窓から差し込んだ午後の日差しが石壁の一点を照らしてしている
壁の一部が反射して虹色に輝き、窓枠に形取られたそれは、まるで扉の様だった
「サーニャいったい何…」
「んがが…」
「虹色の扉…」

「ふっふ~ん、これは大いなる謎ですよ探偵団の諸君!」

~act7~「冒険の予感」
「ね~あたしたちでさ~この謎、解決しちゃおーよ」
「おっ!いい事言うね~ルッキーニ探偵!」
さっきまであなた達鼻で笑ってたじゃないの!とは思ったが
正直な所、この二人以上にサーニャの胸はわくわくしていた
なにか冒険が始まる、そんな予感がした
昔父親の書斎で見かけた推理小説の登場人物の様に

「でも虹色の扉みちゃったし、あたしたちどーなるのかんな?」
「…(びくっ!)」
「大丈夫!三姉妹探偵に不可能はないよ!」

~act8~「虹色の壁」
三人はすくっと立ち上がり、その壁へと向い調査を開始した
オストマルクやカールスラントで城の石壁と言ったら大抵は大理石だが
アルサクレック島に近いこの古城の石壁は御影石で出来ていた
「たぶん…壁に含まれる石英が光を屈折させていると思うんです」
サーニャが提案する
「いや他の場所も同じ花崗岩だし、この部分だけ橄欖石の含有量が多いんだよ」
エーリカが分析する
「かこうがんだしかんらんせきのがんゆうりょうが???」
頭脳明晰ルッキーニには謎のセンテンスのようだ

「あ゙も~わがんな~い、あたしにもみせて~」
「あっ…ルッキーニちゃん…」
「ちょっと!押すなって!」
『うわっー!!!』
壁の一部「虹色の扉」が回転し、三人は壁の向こう側へと倒れ込んでてしまった

~act9~「お姉ちゃん頑張る」
三人は暗闇に閉じ込められていた
今自分達が入って来た扉は、先程の無理な衝撃で固く閉ざされていたのだ
だが普段はズボラなエーリカの頭は、この様な状況においてこそフル回転する
「サーニャさっきの怪奇報告書には何て書いてあった?」
「夜な夜なおっぱいを揉みまくる怪人?」
「違う!その次だ」
「正体は芳佳ちゃんだった…」
「おまえ…わざとだろ、虹色の扉について聞いてんだよ!」
「ごめんなさい…何も…」

「サーニャのバカ、あたしたちどうなるの~」
「大丈夫なんとかなるさ!お姉ちゃんに任せなさい!」
「おねえちゃん?バルクホルン大尉のこと?いないよ?」
「違うよ!わたしだよ!三姉妹、長女だよ!」

「大丈夫です…こっちに道が続いているみたい…出口に繋がっているかも…」
サーニャの頭にはアンテナが生えてていた、仄かな光が辺りを照らし出す
「サーニャお姉ちゃん大好き~」
ルッキーニがそう叫んだ
サーニャは照れた
そしてエーリカはむくれた

~act10~「仕返し」
エーリカは面白くなかった、手柄をすべてサーニャに持って行かれたのだから
だから少し意地悪をしてみたくなった
「ねえサーニャ、エイラとさ~もうキスくらいは…したの?」
「あっ、それ、あたしも気になるなる」
「なんで…そんな…」
「だってあんた達付き合ってだいぶ経ってるでしょ?」
「いっつもいっしょにいるよね~ん」
「私たち…別にそんなんじゃ…」
「うわっあんたら告白もまだだったの?ヘタレエイラじゃしょーがないか」
「エイラはいつもこんな私を守ってくれて!ヘタレなんかじゃないです!」


サーニャの声が暗闇に響き渡り、そして静寂が訪れた
こんなに荒立てたサーニャを目にするのは、二人にとって初めてだった
「でもエイラがサーニャの事、大切に思い過ぎて手を出せないのは本当だと思うよ」
「…」
「ねーサーニャはエイラのこと、すき?」
「…」
ルッキーニからの問いに、サーニャは少し間を置き、そしてこくりと頷いた
「いつもエイラに勇気貰ってるんだろ?少しはあんたも勇気出さなきゃ、ね?」
「…はい」

ありがとうエーリカお姉ちゃん、ルッキーニちゃん
…サーニャは心の中で呟いた

~act11~「しっぺ返し」
「さっすが上の姉ちゃんプロだねプロ、恋愛のプロだんね~」
「まぁねえ~当然よ、と・う・ぜ・ん!」
「あの…バルクホルンさんと…その…あの…キスしちゃってるんですか!」
「!!!」
なんて事聞くんだこいつは!…とはエーリカの心の声だ
どうやらサーニャの恋愛好奇心を目覚めさせてしまったらしい
「あっ、それ、あたしも気になるなる」
「とっ、とっ、とっ、とっ当然よ、と・う・ぜ・ん!」
閃光の眼差しがエーリカへと集まる
「実はもっとすんごい事もしてたりするんだな~(ごにょごにょ)」
『!!!』
エーリカは二人に耳打ちする、二人は声を失った
「まぁトゥルーデが求めてくるから仕方なしに…なんだけどねぇ~」

もちろんすべて嘘である、キスもしていない
相手にすらされていないのが事実である
そして彼女は妹達にとって神となった、遺憾ではあるが、これも事実である

~act12~「おませな末っ娘」
「そーゆールッキーニ、おまえはシャーリーともうキスしたのか?」
「え!ルッキーニちゃん…まさか…」
「うん、とっくにしてるよん、まいにち」
『まいにち!!!』
うっ、こいつ、お子様のくせに!…とは二人の心の声だ

「だってシャーリーはあたしのママだもん」
はいはい、そーゆーキスね、それなら私達だってとっくの昔に経験済だもん
お姉ちゃん達のプライドは無事、守られた

~act13~「隠し部屋」
三人は恋話に花を咲かせながら歩き続け
そして暫くして、先頭を行くサーニャの足が止まった
「どうやらここで行止まりみたいです」
そこは小部屋になっていた

辺りを見渡すと装飾品ではない実用的なフルーレやレイピアなどが散乱していた
どうやら秘密の趣味部屋の類ではなく、戦時の隠れ家に使用されていた様子だ
エーリカは確信した、ここは行止まりではないと
「よく調べてみよっ、こういう場所は大抵抜け道として使用すからね」
サーニャは目を閉じレーダーで辺りを照らす
「ありました、あの瓦礫の上です…だけど」
その瓦礫の上の天井は筒抜けとなっていた
かつて存在していたであろう螺旋階段は崩落していたのである

~act14~「風の階段」
「ここまで来たのに、あたしたち死んぢゃうの~え゙やだぁ~」
「なにか…方法があれば…」
ルッキーニを安心させようとサーニャは必死に辺りを調べるが…
「ふふ~ん大丈夫!安心しなっ、次女にばかりイイ格好させれないからね」
二人はエーリカを見つめる
これから彼女が何をやろうとしているのかは、全くわからなかったが
その笑顔を見ているだけで、二人はただ安心した

「二人共わたしに抱きついて、いっくよーシュトルム!」
エーリカの掛け声と共に三人は穏やかな風に包まれた
それは上昇気流となり三人を上空へと運んでいった

~act15~「力を合わせて」
「サーニャあとどれくらい?」
エーリカが尋ねる
「あと10m、9、8、!、上空に障害物確認、薄い板状の物体、硬度は不明」
「サーニャ?薄いってどんくらい?」
今度はルッキーニが尋ねる
「16cm位だと思う」
「石壁は無理だけど、そんぐらいならぜんぜんへいきっ!」
「安心してっ!お姉ちゃん達にだけイイ格好させないよー」
二人はルッキーニを見つめる
その笑顔を見ているだけで、二人はただ安心した

「大丈夫!…だってあたしたち」
『三姉妹探偵に不可能はない!』
三人の声が揃う、何も不安はなかった

「愛と…」「勇気と」「ゆーじょーの」『三位一体魔法!』
『トゥリー・ヴィント・フレッチェ』
掛け声と共にその三本の矢は一筋の閃光となる
その閃光は薄暗い被膜を突き破り、天国への門を抉じ開けたのだった

~act16~「慌しい午後」
所変わって談話室
緩やかな昼下がり、三人以外の隊員達は三時のティータイムを楽しんでいた
「ルッキーニがおやつの時間を忘れるなんてありえるか?」
「あいつら仕事サボって、一体何をやってるのやら」
そんな会話が行き交っている
すると突然地響きが鳴り出す、次第にそれは大きくなり
爆音と共に暖炉の底から、当のおサボり三人組が飛び出して来たのだ

煤だらけの三人を見て隊員達は唖然としたが
一つの冒険を終えた三人にとって目の前に映る日常の光景は
とても懐かしく、とても輝かしいものだった

ルッキーニはラブリーシャーリーに抱きついた
サーニャは大好きなエイラに擦り寄った
エーリカは愛しのゲルトにダイブして
ゲルトはそれをひらりとかわし、エーリカは床に転がった
そして三人は一斉に泣き出した

シャーリーはルッキーニの頭を撫でてあげ
エイラはサーニャの背中をそっと擦り
ゲルトはエーリカを抱き起こすと、今度は優しく抱き締めた

ただただ三人は泣き続け、そして三人は抱き締め続けた
全員が三人の事情を理解するまで、それから数十分はかかった

~エピローグ~
「大変です事件です!リーネちゃんのブラジャーが何者かに盗まれました」
そう言いながら芳佳が駆けてくる
「ふっふ~ん、これは大いなる謎ですよ探偵団の諸君!」
「新たな…冒険の予感がします!」
「いっちゃうぅ~?」
『三姉妹探偵の出動だ!』

「究極超絶美少女エーリカ!」(究極?)
「歌姫サーニャ!」(もう怖気付いたりしない!)
「そしてリーダー・ルッキーニ!」(頭脳明晰やめました!)
『我ら可憐な、三姉妹探偵、参上!』

この基地に怪奇事件のある限り、三姉妹探偵の冒険は続いてゆく
~おしまい~


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