Flowers gone
ねえ、エイラ。もう少しだけ――。
もう少しだけ、このまま眠らせて―――。
意識が遠くなっていくの・・・頭が重いわ・・・。
考えるのが億劫なの・・・なんで、何でこんな事になっちゃったんだろ―――ねえ、エイラ?。
私はいつものように、夜間哨戒の任務に就いたの。いつものように出かけるまでエイラとお喋りをしていたの。
いつものように他愛もない話、エイラは「宮藤が来てからサーニャは変わった。」とヤキモチを妬くけれど、
私が想ってるのはエイラだけだよ。そう思ったけど言えなくて、代わりに
「・・・この戦いが終わっても一緒にいてね。」
と、言うのが精一杯だった。これがいけなかったの?ねえ、エイラ?
いつもね、夜の空に飛び立つとすぐにエイラのこと、恋しくなるんだよ。
早く帰って、また一緒に寝て、お喋りして、笑いたいなって思ってるんだよ。これがいけなかったの?ねえ、エイラ?
いつもと違ったこと。今日は哨戒中にネウロイに逢ってしまったということ。
ううん、いままでもこういうことは何度かあったわ。いままでは、基地から応援を呼んで
ネウロイをやっつけて、って何事もなく上手くいってたの・・・。
いつもと違ったこと。今日のネウロイは8体もいたということ。
気づいたときには、周りを取り囲まれて、基地に応援を頼んだときにはもう交戦が始まってしまっていたということ。
いつもと違ったの・・・。これがいけなかったの?ねえ、エイラ?
いつもと違っていたことに気が動転していたのかもしれない、
2体のネウロイを撃墜することはできたけど、魔力を使い切ってしまったの。
ちょうどその時だった。基地の方から弾丸が飛んできて、それがリーネちゃんのものだって分かったわ。
そして、応援が来たのが見えたの。エイラが血相を変えて先頭で飛んでくるのも見えたの。
そんなにあわてなくても大丈夫だよ、ねえ、エイラ?
「あっ・・・」
私の全身を激しい痛みが支配した。衣服の、機械の、肉の焦げたにおい。
痛い。傷口から血があふれ、飛ぶ力を失ってしまった私は深い夜に堕ちていく気がした・・・。
薄れ行く意識の中、ウィッチーズのみんなが残ったネウロイを落としていくのをただ眺めてた・・・。
堕ちていく体がふわりと浮いた気がした。エイラの声が聞こえた気がした。
意識が遠くなっていくの・・・頭が重いわ・・・。
考えるのが億劫なの・・・私、死んじゃうのかな―――ねえ、エイラ?。
意識は途切れた―――。
3ヶ月後。
私の部屋に住人が戻ることはなかった。
あの後、ロンドンの国営病院に運ばれた私は、そのまま手術室に運ばれ緊急処理を施され、一命を取り留めた。
ウィッチーズに復隊できるかどうか分からないほどの傷を負ってしまった私。
代わり番こにお見舞いに来てくれるみんな。エイラは付きっきりで看病してくれる。
もう少ししたら、退院できるみたい。そしたら、また一緒に空を飛びたいね。
エイラは苦笑いを浮かべて私の頭を撫でるけど、私はまた貴女と一緒に空を飛びたいの。だから――
ねえ、エイラ。もう少しだけ――。
もう少しだけ、このまま眠らせて―――。白百合が散るのはまだずっと先のお話だから。
「大好きだよ、エイラ。」
エイラの腕の中で堪えきれずに泣いた―――。