ハルトマンにまかせろ!


 私たちは夕食を済ませ、後片付けを担当する者以外は談話室に集まっていた。ネウロイの
襲撃予報は当てにできないが、ブリーフィングの予定も無く、ミーナもここにいるので
特に手伝うこともない。私は空いた時間の中で、沈みがちな気分を持て余していた。
 向かいに座るサーニャの視線には気付いていたが、あえて放っておいた。しばらくして、
ようやく意を決したように話し掛けてくる。

「あの……バルクホルン大尉」
「何だ」
「これを読んでほしいの」

 そう言ってサーニャが差し出した紙には、カールスラント語で何か書かれていた。
手紙かと思ったが、見ると図と注釈が上から順に印刷されている。

「フリーガーハマーの使用説明書だな。これを訳せばいいのか?」
「新しいロケット弾と一緒に送られてきたの。今のランチャーで使う場合の注意を
書いてもらったみたい」

 今さら説明書で何を確認したいのかと思えば、そういうことか。紙の裏を見ると、
手書きで注意すべき点が細々と記されている。

「整備の人がお願いしますって」
「ふん。まあ、怠慢でもあるまい。戦場で使う者こそ、武器の手入れができなくては
話にならんからな」

 ブリタニア人の整備士にとっては、各国の技術協力によって開発されたストライカーユニットは
いいとしても、正しくカールスラント製の新兵器などは扱いかねるのだろうか。ともかく、
今後も彼らの力を借りなければならない。これを訳せば少しは協力できるだろう。

 ざっと目を通すと、表に刷られているのは基本的な扱い方だ。構えて撃つ、背面に注意、
弾は地面に落とさない。改めてサーニャに知らせるまでもなさそうだ。
 裏を見ると、丁寧なスケッチがペンで書かれていて、それに注意書きが付いている。しかし、
何々をする、何々してはいけないという説明ではなく、様々な状況に応じた体験談のようだ。
表側の素っ気なさとは対照的で、実戦を経験したウィッチが書いたのだろう。
 そして奇妙にも、私はこれを書いた人物をよく知っている気がした。署名などは見当たらないが、
この筆跡にも見覚えがある。

 そいつは今、机の向こうのソファに寝そべっている。私は、双子とは不思議なものだと感じていた。
もちろん、ここにいるエーリカ・ハルトマンではなく、双子の妹のウルスラがこれを書いたのだろう。
ウルスラはフリーガーハマーの開発に参加していたはずだ。私は彼女と会ったことはなく、双子でも
性格は違うと聞いていた。だが今では、よく似ていると思う。
 この注意書きのメモは、ウルスラからの手紙だ。これを読むウィッチが無事に生き残れるように
彼女は願ってくれている、彼女の姉と同じように。戦いの中でエーリカに守られている私の背中は熱い。
その熱さは心地よく、どんな勲章よりも仲間と共に飛び続けることが誇らしいと伝えている。

「今のところ不都合はないの。でも、せっかく書いてもらったから……」
「確かに、これを読まずに済ませるのは惜しいな。だが私よりも適任者がいるんだ。
おい、ハルトマン」
「んぅー」

 声をかけると、エーリカは首だけを起こして応じた。こちらに来る気はないらしい。

「わかりました。お邪魔してごめんなさい」
「勘違いするな。私も同席するのだからな」
「えっ?」
「な~に? なんなのトゥルーデ」

 さて、このだらしない姉は手紙に気付くのだろうか。私らしくないやり方かもしれないが、
これくらいの悪戯をされても文句は言えまい。


おまけ


 夕食の後片付けを終え、サーニャの様子を見ていたのだろう。ただならぬ表情のエイラが
叫びながら駆け込んできた。

「サーニャをイジメンナァーッ!!」
「わあっ、エイラ!? どうなってんの」
「バルクホルン大尉! 見損なったゾ」
「……ひょっとして」
「サーニャが一生懸命書いた、ラララ、ラブレターを……」
「やっぱり」
「他の人に見せるなんて、馬鹿にしてるのカッ!」
「うわ~、トゥルーデひどい。このおんなごろし~」
「カールスラント軍人の血は何色ダッ!」

 サーニャが泣き出したが、断じて私のせいではない。エーリカも状況を察したのか
茶化すのはやめて、フォローしてくれるようだ。いつもながら頼もしい。

「エイラ、よく見てよ。これがラブレターに見える?」
「……カールスラント語なのカ?」
「うん」
「大尉に読んでほしくて、辞書を引きながら書いたんダナ……」
「違うよ。ほら、フリーガーハマーの絵が」
「サーニャ! 大尉を撃つなんて、早まらないでクレ!」
「ごめん、トゥルーデ。無理だった」

 ああ、サーニャもエイラも、二人とも肌が白いな。日光浴などは要らぬ世話だろうか。
クリスの病室の日当たりは悪くないはずだが、あれで十分なのだろうか。

「エイラこそ、早まらないで……勘違いしないで」
「エッ?」

 戦場のような喧騒に半ば放心した私は、愛する妹のことを思い浮かべていた。その時、
私は電流のようなひらめきを得た。私の姉としての本能が告げている、これはいける! 
喜びと誇りが胸からあふれ、自然と口をついて言葉になった。

「よくわかった。お前たち、私の妹になれ」

 この場を静寂が支配する。サーニャの涙が、朝もやのように優しく溶けていく。
それを見て、私は新しい姉妹の絆を確信していた。

「ぷっ……ひゃひゃひゃ、あはははっ!」

 やがて再び、この場は喧騒と笑いに支配されたのだった。


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ