ゴーゴンの楯
――その蛇の目に睨まれたら石になってしまう――
そんな怪物の伝説を昔、本で読んだ事がある。
その怪物の名をゴーゴン(メドゥーサとも呼ぶらしいが)。
私はそんな怪物はいないだろうと思っていた。
しかし、私の近くにその怪物はいた。
私を虜にしてしまった、美しい怪物が。
私はミーナの瞳からはもう、逃げられない。
――ゴーゴンの楯――
「お前は怪物だな」
「なに?いきなり」
夜、二人ベッドの上で過ごしている時、私はミーナにそう言った。
「お前に一度睨まれたら、もう逃げられない、という意味でだよ。
そういう怪物が伝説上に存在するんだ」
「あら失礼ね。私は愛を持って貴女に接してるのに」
「ん?私は褒めてるんだぞ?
よく私をここまで取り込めたな、という意味でな」
「フフ、私がその怪物なら、貴女はその楯ね」
「楯?」
「そう、怪物の私を護り支える頑丈な楯」
「アッハッハ、怪物と言われた事に関してはそんなに怒らないんだな」
「貴女を虜に出来るなら、怪物でも何でも構わないわ」
「…楯か。良いな。お前を護り支える頑丈な楯。
私はそうでありたいな。お前を護る楯に」
すると、ミーナは私を抱き寄せ、耳元で囁く。
「なら、命を賭けてでも私を護ってくれるかしら?美緒」
「ああ、怪物の命を護る楯になってみせるよ。…ただ」
「ただ?」
「私以外には力は使わないでくれないか?
…お前の虜になるのは私だけで良い」
「強い独占欲ね」
「何を言うか。楯の性だ」
ミーナは私の肩を掴み、優しく私をベッドの上に押し倒す。
「なら楯として私を楽しませる事も出来るわよね?」
私は苦笑いでミーナに言葉を返す。
「…なるべく期待に添えるよう頑張るよ」
――私は、怪物からは逃げられない。
だが、私はそれで良い。
怪物を護り支える頑丈な楯となる事を。
そして、その怪物を愛し続ける事を。
――私は、ミーナに静かに誓う。
END