誰も知らない~nobodyknows~
――誰も知らない。
あたしがカールスラントの堅物に想いを寄せている事なんて。
いや、誰も知らなくても良いのかも知れない。
告白したところで、結果なんて見えてる。
そしてあたしは知ってる。
堅物には好きな人がいる事。
ルッキーニがあたしに想いを寄せている事。
でも、それすらも、誰も知らない。
――誰も知らない~nobodyknows~――
あたしは見てしまった。
堅物がエーリカとキスしてる所を。
あたしが一番見たくなかった場面だったのに。
あたしはなんて運が悪いんだろう。
ああ、あたしの恋は終わったんだなって、まざまざと思い知らされた。
「シャーリー」
「なんだよ、ルッキーニ」
「残念…だったね」
「慰めてくれるのか?」
「……別にそんなんじゃないけど」
「…なあ、ルッキーニ」
「なに?」
「あたしと付き合わないか?」
二人の間には肌が痛く感じるほどの沈黙が走る。
「…それ、あたし大尉の代わりって事じゃん」
「ルッキーニ」
「代わりで付き合うって言うなら、あたしは嫌だ。
シャーリーには…本当のあたしを知って欲しいから」
「…ルッキーニ…」
「あたし、同情なんかでシャーリーと付き合ったりなんかしない。
…あたしそんなに軽くないもん」
「……ごめん…」
ルッキーニはあたしの手の甲を軽くつねって。
「あたし、いつかシャーリーが本気で振り向くような女性になるから。
…大尉に負けないような、魅力的な女性に」
「…ハハ、待ってる」
あたしの左手の痛みはその証か。
ルッキーニはイタズラっぽく笑うと、トテトテとどこかへと走り去って行った。
――誰も知らない。
あたしが堅物に恋をしていた事。
そしてその恋が終わりを告げた事。
誰も知らない。
あたしとルッキーニが交わした約束。
でも、これは、誰も知らなくて良い事。
この約束はあたし達だけの約束。
――もう、誰も知らない。
END