スオムス1946 ピアノのある喫茶店の風景


大きな戦いが終わって除隊したわたしは、故郷で喫茶店を持つ事にした。

 カレリアにある閑静な田舎町の、木造の住居兼用店舗。
 裏庭は広めで、そこにはちょっと無理して買った自家用のフィーゼラーシュトルヒ。
 グランドピアノを置いたせいでちょっと手狭な、でも落ち着いた感じの店内。
 ぴかぴかのコーヒーミルや食器類。
 6月の麗らかな日差しに照らされて、軒先では狐と黒猫が日向ぼっこ。

 そして隣には、大好きなサーニャ。



 朝早くにヴィープリの駅でサーニャを迎えて、郊外からシュトルヒでひとっ飛び。
 1時間とちょっとでわたしの喫茶店。
 復興の進むオラーシャの実家に帰ってたサーニャと直接会うのは半年振りくらい。
 色んな所が少しづつ成長したサーニャは前よりもすっと魅力的になっていた。
 そして、二人でお店を始める準備を開始。
 
 再会から一週間。開店を明日に控えたわたしたちは、未だ準備に大わらわだった。
 この日の為に料理の得意な連中から色々聞いて練習したんで、私の方だって料理はバッチリ!とまではいえないけどそこそこいけてると思う。
 もちろんサーニャは完璧に仕上がってて、お母様の下で学んできたオラーシャの家庭料理の仕上がりは完璧!
 食文化的には比較的近いんで、サーニャの料理はスオムスでもきっと受けるはず。
 で、まぁ直前に色々と確認したら発注しておいた幾つかの物が届いて無かったりとか。
 何度も煎れる練習をしたせいで意外とコーヒー豆の在庫が少なかったりとか。
 知り合い様のネタとして用意したシュールストレミングの缶が、倉庫の中で落として弾けて大変な事になったとか。

 そんなこんなで駆け回ってるうちに開店直前の感慨も何も吹き飛んであっという間に夜。
 夜と言っても白夜なんで時計と睨めっこして無いといつの間にかアレッ?って時間になってるという感じ。
 サーニャから缶詰臭いって言われちゃったんで、サウナに入る前に扶桑式のお風呂でよく身体を洗う。
 スンスン臭いを確認しながらよく石鹸を泡立てて身体を擦る。
 と、人の入ってくる気配。
 って、サーニャ!?
「ダメだってサーニャ。臭い移っちゃうよ。あいつの臭い強烈なんだから」
「うん、知ってる」
「もうちょっとしっかり臭い落としたら遠くから確認してくれればいいからサ」
「ダメ」
「ナ、ナンデダヨ~」
「私も手伝う」
「あ、あのな~、明日は開店なんだから、もし二人とも臭かったら客さんに迷惑になっちゃうダロ」
「そうしたら、今日の事笑い話にして、お客さんと笑いたい。私、こんな事だって二人の思い出に出来ると思うから」
 ヤラレタ……毎回だけど。
 その天使すらもひれ伏す笑顔を私だけに向けてくれるサーニャ。
「だ、だったら……お言葉に、甘えます」
「うん。髪の毛って匂いがつくと落ちにくいって言うから、私がするね」
「ハイ」
 サーニャって普段は大して自己主張しないのに、こういうときだけは強い。
 ツマリ、ソノ、ナンダ……わたしがサーニャに対して遠慮した時に限って攻勢にでるんだ。
 今回の事意外にでも、わたしがサーニャの代わりに何かを負担しようとすると、押し切られて分け合ってしまう事になる。
 わたしはサーニャの為に何かしたいのに。
 こんなんでサーニャに苦労かけちゃいけないのに。
 これから二人、ずっと一緒だから、わたしががんばらなきゃいけないのに。

 目を閉じてそんな事を考えながらも、髪と頭を撫でるサーニャの優しい手の感触に心が温かくなって、動悸も早くなる。
 そしたら今度は脚に触れる感触。
「!?」
「落ちた缶から噴出したのって、下半身にかかったでしょ」
 すべすべの手とタオルの感触が私の脛からふくらはぎをなで上げて、感触が上に上がってくる。
 あわわわわわわ……!
「ダメーっ! サーニャ!」
 思わず強い口調で言ってしまい、驚くサーニャ。
 でも、あれ委譲されたら理性が崩壊って言うか、もうおしりの辺りの感触が石鹸じゃないものでぬるっとしてる気もするし。
 そんなの見られたらわたしがサーニャに対して『そういう事』考えてるのがバレチャウジャナイカ! 
 ダメっ! ダメッ! ダメダメダメダメ絶対ダメッ!
「どうして……」
 あああああ、サーニャに悲しそうな表情させちゃったよ……そんなつもりは無いんだっ!
 わたしはただサーニャを邪悪なわたしから守りたいだけなんだよっ!
「あ、脚はさっ! くすぐったいから自分でやるからっ……それより、ホラッ、髪っ、髪の毛」
「髪はもうしたよ」
「ホラ、鼻が慣れちゃってるかも知れないし、ここで油断せずに念入りにオネガイ」
「うん」
 嬉しそうに頷いて洗髪を再開してくれるサーニャ。

 その後はサウナ、水浴びの定番コースを辿ってから就寝。
 その間、ずっとあの感触が頭から離れなかった。
 髪の毛とか、背中を洗い会うことなんていつもの事なのに、跪いたサーニャに脚を触られる事がこんなに『くる』行為だなんて知らなかった。
 これから一緒に二人で生活を続けたら、わたし、理性持たなくなっちゃうカモ。
 がんばるんだわたしの理性!

 結局、開店を控えてるって言うのに、同じベッドに居るサーニャが気になって気になって気になって殆ど眠れ無かったよ。
 

 ま、何はともあれわたしとサーニャのお店、『喫茶ハカリスティ』本日開店ダ。



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