あの日夢見た願い
――何度、何度貴女の夢を見ただろう。
何回夢の中で触れ合っても、心が満たされる事は無い。
それに夢の中の私は貴女とずっと一緒なのに、現実の私は、貴女に手を伸ばす事も出来ない。
今の私に出来るのは、貴女を私の力で出来る限り支えてあげる事だけ。
私の想いが届かなくたって、私は芳佳ちゃんだけ見てるから。
――あの日夢見た願い――
「よし、これで今日の訓練は終了だ!」
今日も苛烈な訓練が終わる。
みんな思い思いの場所へと散っていく。
でも、私は芳佳ちゃんからはせめて離れたくないから、いつも一緒にいる。
それが私に出来る、唯一のアプローチな訳で。
「リーネちゃん、ちょっと話さない?」
「うん、いいよ」
他の誰からでもない芳佳ちゃんからのお誘い。
もちろん断る訳が無い。断る理由も無い。
芳佳ちゃんに連れられてやって来たのは、大きな木の下。
向こうには海も見渡せる私も大好きな場所。
芳佳ちゃんはん~っと背伸びをして。
「坂本少佐の訓練って疲れるね」
「フフ、そうだね」
「でも、疲れててもここに来ると、疲れが消えてなくなる気がするよ」
「本当にここからの景色って、綺麗だよね」
私は無意識に芳佳ちゃんの肩に頭を預ける。
「リーネちゃん」
「ああっ、ごっ、ごめんなさいっ…!!//////」
「ううん、いいよ。リーネちゃんも疲れてるだろうから」
芳佳ちゃんのその言葉に安心した私の瞼はどんどん落ちて来て…
―――――――――――――――――――
気付けば、夕方。
でも芳佳ちゃんはまだ隣にいて。
うっすら芳佳ちゃんの声が聞こえる。
「リーネちゃんったら…無防備過ぎるよ」
…何を言ってるんだろう…?
「…ちょっとくらい、いいよね…?」
そう呟くと、芳佳ちゃんは、私にキスをした。
優しく、暖かいキス。
あまりにビックリした私は、そのまま、スッとまた眠りに落ちた。
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……………………………………
目を開けたら、天井が見えた。
私の部屋みたいだ。
っていう事はさっきまでのは、夢?
…そうか、そうだよね。
こんな都合の良い事、夢でしか有り得ない。
すると、私の部屋のドアがノックされる。
と、同時に芳佳ちゃんがヒョコッと顔を出す。
「リーネちゃん、起きた?」
「芳佳ちゃん!」
「ビックリしちゃったよ。私の肩で眠っちゃうんだもん」
「ごっ、ごめんなさいっ//////」
「それより、もうすぐ晩ご飯の時間だよ」
時計を見れば、もう7時前。
みんなも食堂で待ってるみたいだ。
「うん、そうだね、芳佳ちゃん先に行ってて」
「うん」
芳佳ちゃんはドアのノブに手をかけて。
「リーネちゃん」
「なに?芳佳ちゃん」
「―――――――」
私にも聞こえない声で何か呟いた。
「ま、待ってるから!」
そのあと、芳佳ちゃんは真っ赤な顔をして、足早に私の部屋を後にした。
―――もしかして、あれ、夢じゃなかったの…?
芳佳ちゃんの呟いた言葉は聞こえなかったけど、あれは夢じゃなかった。
そう思ったら、途端にまた眠気が襲って来た。
でも、これは夢じゃない。
そう、これは紛れもない、現実なのだから。
そして私はまた、眠りに落ちる。
起きたら芳佳ちゃんに聞いてみよう。
これは、夢じゃないよね、って。
END