無題
「サーニャ・・・怒ってるノカ?」
ぷい。
ベッドの上、正面に座るサーニャに呼びかけるも、ふくれつらで横を向いてしまった。
「さーにゃぁ・・・」
我ながら情けない声が出てしまう。そしてサーニャからの反応はなし。
自分はいったい何をやらかしてしまったのだろう。
いくら考えてもわからない。
夜間哨戒で疲れているサーニャを一人部屋に残したのが悪かったのか?
そのあと、すぐに食堂に起きてきたからやっぱり寂しかったのかな。
それとも、知らない内にサーニャに何かひどいことを言ったりしてしまったのだろうか。
わからない。
でもはっきりしていることは、サーニャは今ご機嫌を損ねていること。
そしてどうやら、その原因はワタシにあるということ。
考え込んで我に返ると、サーニャが上目遣いでこっちをにらんでいる。
そんな顔も可愛い、なんて考えている場合じゃない。
食堂で声をかけてもそっぽ向かれて、部屋に帰ろうとするサーニャを引き止めて、
なんとかワタシの部屋に誘ってから数十分。
サーニャはむくれたまま、まだ一言も口をきいてくれていないのだ。
まずい、まずいゾ。
今までも小さいケンカをしたことはある。
いつだって全力であやまってきた。
だってサーニャに嫌われちゃったら生きていけないからナ。
今回も、何が悪いかわからないけどとりあえずあやまろう。
「サーニャ、」
「やっぱり、エイラは胸が大きい方がいいんだ・・・」
目線をそらしたまま、そんなことをつぶやくサーニャ。
なんだって?
一瞬わけがわからずぽかんとしてしまう。
そして、すぐに思い当たった。
そういえば、女はやっぱり胸がある方がいい、とかなんとかさっき宮藤とかと食堂で話したような・・・。
でもサーニャはまだ食堂に来てなかったはずなのに。聞かれてたノカー!
「あ、いや、それは」
必死に弁解しようとするが、やはりぷい、と横を向かれてしまう。
確かに、サーニャはあまり胸があるほうではない。
でもサーニャはまだ14歳だし、これから成長する可能性は十分・・・。
いや、そういう問題ではなくて、胸なんか関係なくサーニャがスキダ!
なんて言えたらどんなにいいだろう。
でも結局言えなくて、とりあえず勢いのまま口をついて出た言葉は。
「いや、ワタシは胸が小さい方が実はスキナンダ!」
・・・マチガエタ。これじゃあ変態だ。
案の定サーニャがジト目でこっちを見ている。
「いや、違う、そうじゃなくて!」
必死でこの場を切り抜ける上手い言い訳を考えていたら、いつの間にかサーニャが近づいてきたことに気がつかなかった。
足を開いて座っていたワタシの胸の中に、すっぽりおさまって首の辺りに頬をすりつけられる。
こんな風に、無防備にくっつかれることは初めてじゃないけど、それでもその破壊力は十分で。
ワタシは固まってしまった。
「もう、いい。・・・いっこだけ、お願いきいてくれる?」
胸の中のサーニャに言われて、ぶんぶんと首を縦にふって同意する。
「あのね・・・頑張るから、私が成長するまで、もう少し待ってて?」
恥ずかしかったのか、顔を赤らめながらそんなことを言われてはたまらない。
胸なんかどうでもいい。今すぐサーニャに触れたい。
そんな気持ちをぐっと我慢して、そっとサーニャの華奢な背中に手を回すだけにする。
赤らめた頬を隠すように、ワタシの胸に擦り寄るサーニャ。
そのまま召集がかかるまで、ずっとずっと、二人でくっついていた。
数日後。
食堂でまたまた胸の話になり、ワタシはもちろん前回の反省を生かして余計なことを言わないように
黙っていたんだが。
誰かが言った、「好きな人に揉まれると大きくなるらしい」
の一言で、茹でダコのように赤くなったワタシとサーニャが、皆にさんざんからかわれたのは、
また別の話。
おしまい