扶桑皇国1945 残された者たち


横須賀 昭羽20年7月

 宮藤からの手紙が届いた。
 あいつは向こうでもうまくやっているらしい。
 あの人懐っこい性格と空戦の実力ならにべなるかな。

 現在、扶桑は大陸からのネウロイによる空襲に悩まされ、一人でも多くのウィッチが必要とされていた。
 大戦初期に活躍し、魔力を失いつつあったウィッチは後進の指導の為にストライクウィッチ養成校の教官となっているものが多かった。
 私もそんな中の一人だ。
 精強なウィッチを育て、戦場に送り出す事。それが今の私に出来る宮藤への最大の支援だと考えている。
「坂本教官、試験を始めるとの事で技官の方がお呼びです」
 物思いにふけるうちに、山川が来た。
 彼女は宮藤のはとこにして親友で、最近になって魔力を発現したウィッチだ。
 宮藤ほどの素質に恵まれているわけではないが、新機材の開発の為に癖のついていないウィッチが必要だと言う事で横須賀空技廠に出向している。
 同時に私も彼女の監督官と言う事でここ空技廠に通う身だ。
 格納庫へ向かう道すがら、山川が好奇心を押さえきれずに話しかけてくる。
「さっき見ていたお手紙って、芳佳ちゃんからのですか?」
「ああ、戦闘は大変だがうまくやってるらしい」
 宮藤も私や家族以外に手紙を送りたいようではあったが、忙しい防空任務の合間に手紙を書いている身ではどうにも出来ず、申し訳なく思っているようだ。 
「そうなんですか~。私も早くちゃんと飛べるようになって芳佳ちゃんの助けになりたいな」
「当然だ。私も宮藤の為に何かしてやりたいと思っているからな。今はお前を一人前にするのが、何よりも宮藤のためになるだろう」
「はいっ、がんばります!」
 新機材、ストライカーユニットJ7は野心的な設計の局地戦で、今までのユニットに慣れたウィッチには扱いにくいだろうと思われた。
 未完成な部分も多く、まさしく今この瞬間に山川と共に成長途上にあるといえた。
 だが、完成すればこの戦闘脚こそが扶桑の防空の要となる。そんな予感を与える機体でもあった。
 J7は兎も角、山川に関して心配事があるとすれば、宮藤に対する思いが少々強すぎる点か。
 まぁ、私もあまり人の事は言えんのだがな。


 実は、手紙はもう一件あった。
 ネウロイの猛攻の前に劣勢に立たされつつある扶桑での、連合部隊発足に関する連絡だ。
 元501統合戦闘航空団を中核とし、増強した混成部隊になるという。
 そして、部隊番号は現在欠番となっている501番が使われる。
 勿論この部隊には宮藤も呼ぶつもりだし、山川も推薦してある。

 宮藤は今、第三四三航空戦闘隊に所属し、西扶桑の空を護っていた。
 本来ならば私が赴くべき空だったのだが、魔力の低下は如何ともし難く、私はこの横須賀の地から宮藤の活躍を見守る他はなかった。
 宮藤がその名を上げたのは今年の2月の事だ。
 大型ネウロイ12機に対して単身防空戦を行い、内2機を撃墜。
 右手に機銃、左手に使い魔を具現化した護身刀九字兼定を構え奮戦するその姿は「空の二刀流」と写真つきで新聞にて報道された。
 今や人気は私や竹井、陸軍の穴吹や加藤すら凌ぐ勢いだ。
 そんな一般国民の盛り上がりと裏腹に、西の防空は過酷さを増しているらしい。
 余程状況が悪いのだろう。
 国民に知らせられ無い情報が多すぎて、同じ軍内部にいる私にすら正確な情報が入らないことがままある。
 今のところ帝都は無事だが、本格的なネウロイの攻撃が始まるのも時間の問題か。
 歯痒いものだな。
 手紙や新聞の宮藤は明るい部分しか見せていない。
 だが、私には分かる。
 防空任務についたウィッチ達の損害の表す数字。
 確実に宮藤の身近でも何人ものウィッチが帰らぬ人となり、或いは二度と飛べない体となっているはずだ。

 守りたい。

 そう強く、何度も語った宮藤の力強い眼差しを私は覚えている。

 私の命を繋いだ眼差しだ。忘れられるはずが無い。

 守れない。

 私が大戦初期に欧州で味わった絶望感。
 宮藤は、今その時と同じ気持ちで居るはずだ。
 私には、その時隣には竹井がいて、くじけそうな心をお互いに支えあってきた。
 勿論今一緒に戦っている連中も大切な仲間には違いないはずだ、だがそれを少し踏み越えた関係である者が隣に居る事がより望ましい。
 宮藤にとってはリーネや山川、そして自惚れるなら私といったところか。
 しかし、リーネは遠く海の向こう、山川は未だ実戦力とならず、私は既に戦う力を失った。
 それでも為すべき事はまだある。
 新生501の為に尽力してリーネたちをこの扶桑に呼び込み、一日も早く山川を一人前のウィッチとして鍛え上げればいい。
 私は、そう自分に言い聞かせながら格納庫への道を急いだ。


 夕刻、試験の項目を終え山川と共に帰還。
 山川は疲労の限界で自力でストライカーを脱ぐことも出来なかった。
「しょうがないやつだな」
「ご、ごめんなさい」
 自分のストライカー、零戦22型から機種転換した紫電21型を外すと、山川の除装を手伝ってやった。
 私の紫電もそうだが、山川の使用している戦闘脚J7は局地戦用だ。
 高い攻撃力、防御力、ダッシュ力を持っている代わりに魔力、体力の消耗が早い。
 私の場合はストライカーユニットそのものへの完熟度が高い為、衰えた魔力でもこの程度の飛行時間は問題にならないが不慣れな山川にとってはまだまだきついのだろう。
「まだ起き上がれんか?」
「た、立てます」
 と、上半身を起こすが、腕にも力が入らないのかそのまままた倒れこんでしまう。
「あっはっは。まったくしょうがないやつめ」
 私は頭を打たぬように手を差し伸べるとそのまま抱き上げた。
「汗びっしょりだな」
 まだまだ力を扱えていない証拠だろう。無駄に力が入ってしまっているのだ。

「あ、はい、ごめんなさい」
「まぁ慣れんうちは仕方があるまい。よし、報告書の前に風呂に行こう」
 多分に早く力になりたいと言う思いや新機材への周囲の期待が重圧になっている部分もあるのだろう。
 ならば、それをほぐすのはゆっくりと湯につかるのがいいだろう。
「ええ、いいんですか?」
「私が言うのだから構わんさ」
 視界の隅に未だ痙攣を続ける爪先が映る。まだ立てそうも無い、か。
 そう判断した私は山川を横抱きにしたまま格納庫を出、風呂のある棟へと向かった。
「き、教官、これはちょっと恥ずかしいです」
 ふむ、所謂お姫様抱っこで人目に触れる場所を歩くのは恥ずかしいものなのか。
「あっはっは、では恥ずかしい目に合わん様に飛行後もしっかり歩ける身体を作らんとな」
「もうっ、教官意地悪です」
「あっはっは」
 そのまま棟に入り風呂に向かおうとすると、従兵の土方が血相を変えて走りこんできた。
「少佐っ!」
「馬鹿モンっ! こちらの棟は男子禁制だぞ!」
「申し訳御座いません。報告がありまして、後姿を見かけたものですから……出直します」
 そう言う土方の表情は呼吸を荒げ、そして心なしか若干蒼褪めていた。
「構わん、急ぎの用ならさっさと報告しろ」
「はっ、本日正午頃、呉に対する大規模な空襲が発生。三四三空が全ウィッチを以って迎撃、これを撃退しました」
 呉、三四三空、宮藤の所属する部隊か。
「301隊の宮藤の戦果は?」
「地上の損害は軽微、三四三空の、活躍の、お陰です……」
 目線を逸らし、俯き気味に言葉を繋ぐ。
「おい土方! はっきりと答えろ! 宮藤の戦果はどうしたと聞いているっ!」
 言葉を切りながら、辛そうに報告を搾り出す土方。
 そのただならぬ様子に、私の心を不安が覆った。

「……301隊は未帰還が3。その中には宮藤少尉も含まれています」


 目の前が、真っ暗になった。
 全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。山川の重みを支えらなくなり、その身体を取り落とした。

「嘘です! 嘘って言ってください!!!」
 涙声の、搾り出すような叫びが聞こえた。山川がこんな声は初めて聞いた。
 山川は脱力した私とは逆に、土方の襟首をつかんで詰め寄っていた。
 土方はただ視線を逸らし、立ち尽くすだけだった。

「山川、防空任務だ、扶桑の空で戦っているんだぞ。今は未帰還でも、何日かすれば無事だってことがすぐ……」
「誤魔化さないでくださいっ!!」
 こちらに向き直った山川は、そう叫んで私の言葉を遮った。
 すでにその瞳は決壊し、とめどなく涙が溢れていた。
「そんな震えてっ、自分に言い聞かせるような言い方でっ、説得力なんか……無いって……う、ううう……」
「山川……」
 その通りだった。
 そして私は、自分がそんな声で喋っていた事も、視界が涙で歪んでいる事にもたった今まで気付けない程動転していた。
「うわああああああああああああぁぁぁぁぁっ!」
 山川は、泣きながら自室へと駆け込んだ。

 私は土方に退出するよう命じると、風呂へ向かい、冷たい水を被った。
 何度も。
 何度も。
 何度も。

 そして、覚悟を決めた私は山川の部屋へと赴いた。
 

「入るぞ、山川」
 鍵はかかっていなかった。
 山川は膝を抱え、うずくまっている。
「希望を捨てるな、山川」
 平静を装った声。
 自分で無い誰かが、どこか遠くで囁いている様な感覚だった。
 言っている私が一番希望を持てずにいるのだ。
 以前の宮藤なら、きっと無条件に生存を信じられたのだろう。
 だが、写真の向こうの、手紙の向こうの、疲れ切った空っぽの笑顔は死を予感せずにいられなかった。
「一番宮藤の近くにいたお前が、あいつを信じてやれなくてどうする」
 優しく微笑みかけながら、虚しく響く言葉を繋ぐ。
 大丈夫だ。
 今の私は、完全に自分を騙せている。
 尚早も不安も、一寸だって表に出して居はしない。
「あんがい寝て起きたらひょっこり帰っているかも知れんぞ。わっはっは」
 大人になったものだと思った。
 心にも無い台詞を言いながら笑える自分は、魔力を失って当然なのだと、今初めて実感できた気がした。
「坂本教官、嘘ついてる」
 少しだけ顔を上げた山川が口を開いた。
 そのぞっとする様な静かな言葉に、空気が凍りついた。
「わたしにはわかるんです。芳佳ちゃん、疲れてた、とても」
 私の認識が甘かった。
 山川にとって一番である宮藤の事など、当にお見通しだったのだ。
「わたしの知ってる芳佳ちゃんは、あんなに無理して笑わなかった。ブリタニアから帰ってきて、暫くは一緒だったのに、西へいって、有名になって、会えなくなってから、変わっちゃった」
 胸が痛い。
「きっと芳佳ちゃんは、みんなを助けたいって言ってた芳佳ちゃんは、それでも助けられない人がいっぱい居て……、だからあんなに無理して笑って」
 感極まり、詰まりながらつむがれる言葉の一つ一つが、刃となって私の胸に突き刺さってくる。
「私、知ってます。本当は坂本教官が三四三空に配属されるはずだったって。だから……」
 先が予想できた。
 頼む、その先は言わないでくれ。そう絶叫したかった。でも出来なかった。
 親友で、血の繋がりもある山川には私を責める理由も権利も義務もあるのだ。

「坂本教官がちゃんと飛べていれば、芳佳ちゃんは死ななかった」

 静かな声だった。心が空っぽになったような口調が告げるのは、紛れも無い真実。
「やめろ」
 私は力なく制止した。
 もう仮面を被る事など出来なくなって、ただその言葉を認める以外の選択肢は無かった。
 死。
 そう口にしてしまったら本当にすべてが返らなくなる気がしていて、無意識に避けていた言葉。
 未帰還という曖昧な状態に縋り、騙し続けていた坂本美緒の土台を、年下の少女はいとも簡単に打ち崩した。
 深呼吸をする。
 今の私には、どんな些細な行動すら覚悟が必要だった。
「私の事ならば、その通りだ。私が力を失わなければ宮藤が三四三空へ行く事は無かった。宮藤は、私が殺したも同然だ」
 瞬間。
 山川の体が動いた。
 その手には銀色のきらめき。
「うわあああああああああああああああ!」
 そして、私への体当たり。
「…………」
 山川が隠し持っていたハサミで私の腹を刺したのだ。
 だが、ハサミはそこそこ深く腹に刺さっていたが、致命傷にはなり得ていなかった。
 痛みはある。
 しかし、その傷は胸の奥で心に突き刺さっている宮藤の死よりも、痛くは無かった。
 返ってその現実の痛みが私を冷静にし、山川を見つめる余裕を与えてくれた。
 怒りと憎しみのこもった目。
 悲しみと絶望を湛えた目。
 そうか、私にそんな思いをぶつける事で、立ち直り、羽ばたけるのならば私は喜んでその礎となろうではないか。
「それでは、人は殺せん」
 山川がハッとなる。
 衝動でとった行動の理不尽さに気付いたのだろうか。
「人を殺すにはもっとしっかりした得物を用いる必要がある。そうだな……私を殺すなら私の軍刀を用いるがいい」
「な、何で……」
 山川に動揺が走った。
 その手は震えてハサミは取り落とし、怯える様に半歩下がる。
「だが、死ぬ前にお前に頼みがある。遺言と思って聞いて欲しい」
 そんな山川の様子を無視して下がられた半歩を詰め、鈍く響く続ける傷の痛みをこらえて続ける。
「さ、坂本教官……」
「聞けっ!」
「はい!」
「山川、お前はまだ半人前だ。だから宮藤の為にも、この扶桑を、いや世界を護る他の仲間達の為にも、一人前のウィッチになれ」
 私はまっすぐに山川の瞳を見つめ、言った。

「そして願わくば、その力をより多くの人を守る為に」


 山川はただ立ち尽くし、視線を交わしたまま暫しの静寂が流れた。
「……くっ……」
 そんな均衡状態は痛みにふらついた私によって崩された。
 
「坂本教官っ!」
「願い、聞いてもらえるか?」
 踏みとどまり、問う。
 山川は、半ば怯えたような悲しげな表情のまま目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。
 そうか。
 全身から力が抜けた。
 当たり前だ。
 誰よりも宮藤を大切に思っていた山川から、その宮藤を奪ったのは無力な私なのだ。
 そんな私が頼みなどと、全く片腹痛いというものだ。
 無力感に任せ、倒れこもうとした私を支えるものがあった。山川だ。
「山川……」
「私、無力です。まだネウロイと戦える力なんて無い。私にはまだ練習が必要なんです」
 抱きつくような姿勢で私を支え、囁く山川。
「でも、私……私……、ネウロイが悪いってわかっていても……やっぱりあなたの事を赦せない」
 わかってはいるんです。坂本教官が芳佳ちゃんの為に、私が早く芳佳ちゃんの力になれるように厳しく、優しく鍛えてくれてたんだって。
 だから、私きっと坂本教官以外の人の下じゃ強くなれない……。でも、でも……芳佳ちゃんを奪った教官の事、やっぱり赦せない!
 どうしたらいいか……わかんない。
 私、芳佳ちゃんの為に一生懸命だった教官の事を嫌いになりたくない……。
 これからも教官に教わって、一人前のウィッチになって、ネウロイを倒したい。
 いっぱいネウロイを倒して、芳佳ちゃんの仇を討つの。討たなきゃいけないの。
 でも、やっぱり……芳佳ちゃんを身代わりにして、こんな所で生きながらえてるあなたを、殺してやりたいほど赦せない。
 わかんないよ、助けてよ。芳佳ちゃん……」

 私の胸に顔をうずめたまま、嗚咽する。
 割り切れ、などとは言え無かった。
 そんな事が出来るほど心が大人ならばきっと、魔力を授かる事も出来なかったのだろう。

 暫くそんな状態が続き、山川は私の胸の中で小さく呟いた。
「坂本、教官……。私にあなたを愛させてください。憎しみを消したいんです」
 無理だ。
 人の心は、そんな簡単じゃない。
 それでも……それでも私は、宮藤を冥府へと追いやったこんな私を、僅かでも想ってくれる少女の決意に応えたかった。
 支えてもらっていたはずの私の体が、いつしか震えて嗚咽する山川を支えていた。
 どうしていいか解らないのは、私とて同じ。
 錯乱しているだけだ、と突き放すのがきっと簡単で、後腐れも無いのだろう。
 だが、後に続く者へと未来を拓く義務が、私には在ると思った。
 それで空が飛べるなら、それで力を得られるなら、その錯乱した世界に私も飛び込むべきなのだと、私は結論した。
「山川……」
 肩を抱き、その頭を撫でる。
 そして、胸に埋められたその顔が程よい距離を保てる様に少しだけ肩を押し、離す。
 細い顎に指を当て、僅かに上向ける。
 美千子は素直にその動きに従い、その身を硬くしながらも私のくちづけを受け入れた。
 いつしか服を取り払い、まるでそうする事が当然の行為であるというかの様にお互いの肉体を愛した。
 降りた夜の帳の中、常夜灯の薄明かりに照らされた美千子の深い色の瞳は私を通して別のものを見ていた。
 私の傷に触れ、何度もごめんなさいと謝りながらその傷を舐める姿を見ながら、お互いに傷を舐めあっているのだと思った。
 身体が火照り、その炎に溺れるほどに心のどこかが冷えていく。
 これは偽りの愛の営みなどではなく、美千子が負の感情のぶつける先を、全てネウロイへと向ける為の儀式なのだ。
 そんな三千子を私は許容した。
 汚い大人である私もまた、ネウロイに対する復讐の為に傷心の少女を利用し、戦士を作り出そうとしていた。
 利害は一致している。
 だから悩む事は無い。
 
 真夜中、私の心と体に幾つもの痕を残し、儀式は終わった。

 昭羽20年8月。
 急速に力を伸ばした美千子と、奇跡が起きたのか少しだけ力を取り戻す事の出来た私は、帝都の空に居た。
 ネウロイで黒く覆われた空。
 くじけそうな心を奮い立たせる様に美千子と繋いだ手に力を込め、弾幕の中へと切り込んだ。


「っていう夢をミタンダ」
「キーッ! 何なんですのっ! その山川という娘はっ! よ、よりによって坂本少佐とっ! そのっ……ゴニョゴニョ……なんてっ!」
「夢に文句イウナヨナー」
「ね、ねぇねぇエイラさんっ! 私どうなっちゃってるんですか!」
「芳佳ちゃんどうなっちゃってるんですかっ!?」
「いや、夢の話しだしそんなに乗り出すナヨー」
「オイ、少佐はその後どうなるんだ?」
「続き気~に~な~る~! 教えてくれないとヤダ~」
「夢だからそこまでしかミテナイッテバ」
 朝食後の食堂の風景。
 エイラが見た夢の話をして、みんなが盛り上がってる。
 エイラは冗談めかしてるけど、本当は必死だって事、私はしってる。
 悪夢に飛び起きて、何度もタロットをかき混ぜて、毎回つかんでしまう正位置の塔が出なくなるまで何度も何度もタロットを並べなおした事。
 何十回も並べて最後に引いたのは、逆位置の死神。
 いいカードとはいえないけど、それでもエイラはそのカードを抱いてホッとしてた。
「タロットは自分の納得のいく並びが出るまで何度でも引いていいんだ。タロットだけじゃない。占いとかなんて、みんなそうだ」
 背中越しに、起きている私に気付いて教えてくれた。
 そのときは解らなかったけど、今わかった。
 エイラは夢の内容を回避するために、少しでも打てる手を打ってる。

 私には今は祈る事しか出来ないけれど、その時が来るのなら、そんな未来を回避するためにみんなの力になりたい。
 だから、エイラにはもっと頼って欲しいな……。


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