茜色の約束
「よくやったな、バルクホルン!」
出撃の後、ネウロイを撃墜した私は少佐から褒められた。
その言葉と同時に、私の頭の上には少佐の暖かい手の感触。
たったそれだけの事で、私は自分を見失いそうになる。
これは、他の誰にも抱いた事の無い感情。
そして、これからも誰にも抱かない感情。
……少佐、私は、貴女の事を―――。
――茜色の約束――
「ネウロイ襲撃!リーネさんとサーニャさんは待機!他のみんなは出撃よ!」
今日もネウロイ襲撃か。
全く、たまにはネウロイにも休んで欲しいものだ。
…そんな事愚痴っても仕方ない。
私達は世界を守る為に、ネウロイ撃滅の為に空を飛んでいるのだから。
―――――――――――――――――――
今日のネウロイは分裂型か。
くそっ、少し厄介だな。
「どちらかのネウロイにコアがあるのかしら…。美緒、少し見て貰えるかしら」
「ああ」
少佐は右目の魔眼でネウロイのコアを探り出す。
「…どうやら左側のネウロイにコアがあるみたいだ。
しかし、このネウロイの動きは素早い。
一点集中で狙撃する事はほぼ不可能だな」
「じゃあ分けましょう。右側のネウロイはエイラさん、ペリーヌさん、宮藤さん、ハルトマン中尉。
左側のネウロイは少佐、ルッキーニさん、シャーリーさん、バルクホルン大尉、そして私で行きましょう」
「ああ」
「みんな、行くわよ!」
みんな一斉に自分に与えられた役割を果たす。
「もう一体のネウロイは宮藤さん達がフォローしてるけど、問題はこっちね」
「本体を叩かないと、意味は無いだろうしな。
よし、バルクホルン、ついて来い!」
「はっ、はい!」
少佐が空を駆ける姿はあまりに勇ましく、そしてあまりに美しい。
私はそんな少佐につい、見とれていた。
「ウニャァ、このネウロイ固すぎ~!」
「なんだよ、この防御力!
半端じゃねえ!」
「みんな、諦めないで!
いくら防御力が高くても、攻撃を続ければそのうちボロが出るわ!」
「バルクホルン、今から私が指す場所へ向かって撃ってくれ。そこにコアがある」
「はい、分かりました」
「よし、行くぞ」
そう言うと少佐はネウロイへと向かって行った。
「ここだー、バルクホルン!
ここに向かって撃て!」
私は少佐の指示通り、銃を構える。
そして引き金を引く。
ギューン
見事に銃弾はネウロイに直撃、コアが現れた。
「よくやった、バルクホルン!
あとは私に任せろ!」
「気をつけてください、少佐!」
少佐は刀を抜いて、空高く舞い上がる。
その向かう先にはコアを剥き出しにしたネウロイ。
「うおおおおおおお―――――!!」
少佐の一刺しが、コアを粉々に破壊する。
すると、私達が相手していたネウロイと共に向こうで宮藤達が応戦していたネウロイも音を立てて崩れ始める。
「やっぱり対になってたのか…」
すると物凄い爆風とネウロイの破片が私達を襲う。
油断していた私はその爆風に飲まれ、破片で頬を切ってしまった。
「しっ、しまった、油断して…っ!」
すると、私を抱きかかえるように助けてくれた影一つ。
「少佐…」
「大丈夫か?バルクホルン」
「はっ、はい…///」
…私らしくも無い。
今、私の胸の鼓動は有り得ないくらい高鳴っている。
…少佐に抱きかかえられている。
その事実は、私を乱してしまう。
「ん?頬に傷があるな」
「あ、これは多分ネウロイの破片かと…」
「そうか、帰ったらすぐに治療せんとな」
「いえ、そんな大した傷では…」
「とりあえず止血しておこう。
しかし今は拭くものが無いな…。仕方無い…」
そう言うと、少佐は…
ペロッ
「少佐っ…!//////」
私の頬を舐めた。
「すまんな、今は拭くものが無くてな」
赤面する私をよそに少佐は話を続ける。
「それと、バルクホルン。
今回のネウロイはお前のサポート無しでは倒せなかった。お前のお陰だ。ありがとう」
「いえ、そんなっ…」
「やはりお前はストライクウィッチーズにはいなければならないな」
「…//////」
「坂本少佐ー!」
向こうから宮藤達の声がする。
全員無事だったみたいだ。
「帰るか、バルクホルン」
「はっ、はい」
「よし、総員基地へ帰還する!」
―――――――――――――――――――
夕方、怪我の治療も済み廊下でぼんやりしていると、少佐に話しかけられた。
「頬の傷、痛まないか?」
「いえ、このくらい」
「アッハッハッ、そうか、それは良かった」
「少佐」
「ん?なんだバルクホルン」
「もし今ここで、部下から告白されたら…少佐ならどうしますか?」
「…それは、お前からの告白と受け取っていいのか?」
「…それはっ…///」
「すまないが、今はお前をそういう対象としては見られない」
「…そう、ですか」
落ち込む私の肩に、少佐は手をポンッと乗せる。
「…だが、これからはどうかと問われたらそれは分からない」
「少佐…」
そして少佐はいつもの笑顔で私に返す。
「私を惚れさせるくらいの女になってみろ。
…お前にそれが出来るか?バルクホルン」
夕陽の中の少佐はいつも以上に美しく、そして眩しく私には映った。
「少佐、それは私に対する挑戦状として受け取っても良いのですか?」
「お前がそれでいいなら、な」
「私、少佐の為なら、どんな事でもする覚悟はあります」
「バルクホルン」
「そして、いつか貴女に振り向いて貰えるような女性になります。
だから、待ってて下さい。
いつか少佐は私しか見えなくなりますから」
「バルクホルン…」
「だからこれだけは言わせて下さい。
そしてこの言葉をその時まで覚えておいて下さい」
私は少佐への想いをこの言葉へ託す。
「少佐…いえ、坂本美緒…貴女の事が…好きです」
その言葉を何かの呪文みたいに、少佐にかける。
…もう逃げられないように。
「アッハッハッ、そんな情熱的な告白をされちゃ、忘れようにも忘れられないな」
「少佐…」
「待ってるぞ、バルクホルン。
お前がどんな女になるか楽しみだ」
「あ、あんまり期待しないで下さい」
そう言うと、少佐は私の頭に手を乗せる。
「いや、期待せざるを得ないぞ。
そんな大々的に予告されてはな」
「少佐…」
「もう日も落ちてきた。そろそろ晩御飯の時間か。
…行こうか、バルクホルン」
「…はい」
私達は並んで、廊下を歩く。
「…少佐、私本気ですから」
「ああ、分かってるよ」
「誰にも負けない女性になってみせます」
「…待ってるよ」
私が少佐好みの女性になるまでは時間がかかる。
それでも少佐は待っていてくれる。
これは、少佐の期待を裏切ってはいけないな。
「少佐」
「なんだ?」
私は少佐にも聞こえないほどの声で呟いた。
(…愛してます、少佐…)
END