無題
「おいリーネ」
「は、はいっ!」
訓練から戻ってきたら、突然シャーリーさんに声をかけられた。
思わずルッキーニちゃんがいないか、胸を庇いつつきょろきょろしてしまう。
「そんなに緊張するなって。あたしとルッキーニはいつでもセットってわけじゃないぞ。ちょっといいか?」
「はい……あ、でも……」
と、一緒にこの後食事係の芳佳ちゃんを見る。
「いいよ、先わたしの方で準備してるから」
「うん」
芳佳ちゃんを見送ってからシャーリーさんに向き直る。
整備の途中だったのかツナギに工具入れ、手には少佐が扶桑から持ち込んだグンテっていう手袋をつけていた。
そして、思わず目線が止まってしまう場所は、やっぱりおっぱいだ。
相変わらず大きい。
大きいけど気にしないどころか誇ってる感じ。
私もあんなに自信いっぱいにいられたらいいな。
あ、でもでも、自信をつけるのにもっと大きさが必要だったらどうしよう!?
「なんであたしのおっぱい見てんだ?」
「え、あ、いえ! べべべべつに何も見てませぇん」
首をぶんぶん振りながらごまかす。うう、こんなんじゃごまかせないよ……。
「まぁいいや」
と、深みにはまりそうになった所でシャーリーさんの方からスルー。
「お前のスピットさぁ、セッティング変えたほうが良くないか?」
「え?」
「お前基本的にルッキーニよりも長射程で支援攻撃だろ」
「はい。狙撃が私の特性ですし」
「だったら……まぁ、あたしとしちゃあ不本意なんだが加速性能とか最高速度とかを犠牲にして、安定性と攻撃力強化に魔力を回せる方がいいんじゃないのか?」
「あ、はい」
「ヨシッ、じゃあセッティングしといてやるよ」
「え? いいんですか? あ、でもでも軍からの支給品ですから勝手に弄っちゃまずいと思います」
「大丈夫だって。RRマーリンはたっぷり弄りこんだし、前線での改装なんてよくある話さっ」
シャーリーさん既にやる気満々で、お話聞いてくれそうに無い感じ。
「じゃ、じゃあその、お願い……しますね」
後で叱られる覚悟をしつつなんとか笑顔を作ってお願いの一礼。
「おーしっ。早速やるか~」
そのまま楽しそうに私のスピットファイアmkⅨに向かう。
私はいろいろと心配しながらも食堂へと向かった。
食事の間もシャーリーさんはずっとハンガーに詰めていてルッキーニちゃんがちょっと詰まらなそうにしていた。
食事の後、心配だったストライカーユニットの改造の件をミーナ中佐に相談すると、ブリタニア軍にはミーナさんから説明をしてくれるとのことで一安心。
安心したら私が自分の事ばっかりしか考えていなかったことに気付く。
そんな自分が恥ずかしくて、シャーリーさんにちゃんとしたお礼を言いに行きたくなった。
シャーリーさんの分の夕食は残してあったけど、それを暖めてからちょっと手を加え、トレイに乗せてハンガーへと向かった。
「シャーリーさん」
「お、リーネいい所に。一人でやっちゃおうかと思ったんだけどやっぱやりにくいからな、ちょっとエンジン始動してくれよ。ってなんかいい匂い……あららっもうこんな時間だったのかよ。わざわざもって来てくれたんだな。サンキュ」
と、笑顔で振り返ってあっという間に用件を振ってから自己完結してお礼まで言われちゃった。
「いえ、お礼を言いたいのは私の方です。ありがとうございます」
「いいっていいって、半分趣味だしさ~……ま、とりあえず起動準備だけしててくれよ。その間に頂いちゃうからさっ」
外装を剥がして、エンジンとフレームのむき出しになっている私のスピットファイア。
結構周りは機械油でべとべと。
見ればシャーリーさん自身も結構汚れてる。
「シャーリーさん、後でそのツナギ、私がお洗濯しておきますね」
「ン? ツナギ? ああ、これなら汚れるの前提だしさ……あ、そうだ、それよりもさ、実は上着の部隊章ワッペンが剥がれかかってるんだ。そっちの直しやってもらえないか?」
「はい、いいですよ」
笑顔で答えて懐から簡易裁縫セットを取り出す。
そして壁に引っ掛けてある上着を見て「これですか?」と確認。
と、シャーリーさんはなんだか変な顔でこっちを見てる。
え?え?何でだろう? 私、気付かないうちに何か変な事しちゃったのかな?
「おまえ、いつもそんなの持ち歩いてるのか?」
「え?」
「裁縫セット」
「え、持ってないんですか?」
「いや、少なくともリベリオン娘とロマーニャ娘は持ってないな」
「スクールの人みんな持ってましたし、ミーナ中佐や芳佳ちゃんも持ってたから、みんな持ってるものかと思ってました」
「あたしが持ち歩いてるのは精密ドライバセットくらいかな」
「ぷっ、普通の女の子はそんなの持ってませんよ」
「あははっ」
なんとなく自然に笑いが漏れてきて、お互い笑いあったあと自分の仕事に入った。
周りの油が付かないようにしながらお裁縫するのには気を使ったけど、シャーリーさんの作業より私の作業の方が先に終わった。
その間、こっちは言われるままに魔力を込めたり抜いたりして、シャーリーさんは何かいろいろ計測してるみたいだった。
「終わりましたよ」
「お、流石にそっちの作業は早いな。こっちも幾つかパターン取れたからこれから組み上げとく。明日の午前の訓練には使えるようにしとくよ」
「すいません、本当にありがとう御座います」
もう一度お礼。
「いいっていいって、半分あたし用のデータ取りみたいなもんだしさ」
そういいながら手を休めず、手際よく組み上げを進めていく。
「シャーリーさん」
「ん?」
「あの、どうしたら……どうしたらそうやって自信を持って生きられるんでしょうかっ?」
目をつぶり、思い切って聞いてみる。
「自信ねぇ、特別そんなつもりは無いけどなぁ」
「そう……ですよね、私が自分に自信がなさ過ぎるんですよね……」
「お前、射撃には自信あるだろ?」
「はい、それなりに……でもルッキーニちゃんも凄いですし」
「だったらその辺から攻めて見ろよ。これに関しては私が一番!って思えるものを持っていれば自信につながるんじゃないか?」
「一番、ですか……」
「あとリーネが一番になれそうなのって言ったら……おっぱいだな」
「!?」
おもわず胸を庇う。
さっきまで作業を止めなかった手がストライカーから離れて宙で卑猥に動いてる。
「あっはっはっは。そんなんじゃいつまでたってもあたしを追い越せないぞ~」
「も、もうっ! そんなシャーリーさんキライですっ」
「ま、正直な話、あたしがセッティングしなおしたスピットならきっと自分に自信が持てるようになるさ」
「は、はいっ」
大笑いから急にまじめな顔になられると、こっちも焦っちゃう。
「じゃ、今日はオヤスミだ。明日の訓練での感想、楽しみにしてるよ」
そういってウィンクしたシャーリーさんから、私は一旦離れようとして立ち止まり、引き返して近づいて、ほっぺにキス。
「あ、あ、あ、あの、お、オヤスミの、あ、あいさつですっ! 失礼しますっ!」
私は自分の大胆な行為に驚いて、真っ赤になって自分の部屋まで廊下を駆け抜けた。
明日の訓練の事を、楽しみにしながら。