уже знает


止まっていたはずの運命が、ふとしたきっかけで動くことがある。
決して叶うはずのない想いが、突然叶うことがある。

奇跡なんていう間抜けな言葉を使わなくても、
もともと可能性という形で存在していたことなのだろう。

────────

そのあんまりな出来事に、わたしは自分でも驚くほど頭にきていた。

「エイラ」
「うわっ、サーニャ!?」

バン!とドアを開けると、ベッドに寝転がっていたエイラは飛び上がってこっちを見た。

「どういうことなのか説明して。」
「な、何の話だよ。」

つかつかと歩み寄ると、エイラはまるで悪いことをした子供みたいにずりずりと後ずさる。
本当に情けない人。空ではあんなに頼もしいのに、陸に降りた途端ずっとこの調子なのだから。

「宮藤軍曹から全て聞かせてもらいました。
 ユーティライネン少尉、納得のいく説明を要求します。」
「だっ……だから何の話だよって!!」

名字で呼んだのが堪えたのか、射止められたように動かなくなったエイラは、
わたしがベッドに乗りかかって、胸倉を思い切り掴んで、
瞳に自分の顔が映るまで近付いてもなお状況を理解していないようだった。

「どうして黙ってたの。」
「えっ?」

至近距離で見るエイラの顔はどこまでも魅力的で思わず腰が抜けそうになるけど、
ここでわたしが踏み出さないと、この人は一生このままだろう。

覚悟を決めなきゃ。

「エイラ。」
「な、何?」
「わたしのこと、"そういう"意味で好きなんでしょう。」

────────

言い終えてから死にたくなるほど恥ずかしくなったけど、
わたしはただ必死でエイラの目を見つめ続けた。
驚いた表情のまま完全に固まったエイラはしかし、
掴んだ襟を引っ張り直すとようやくハッとなってまばたきを繰り返した。

「それは……その……つまり、いや、その」
「どうなの?」

きつい口調で問いただすと、エイラはよりによって「ごめん」などと口走った。
だからどうしてこの人は……。

「サーニャを傷付けるつもりはなかったんだ。
 私がどうかしていただけなんだ。だからその、許して──」
「わたしが聞きたいのはそんなことじゃない!」
「ひっ!」
「わたしは"どっちなの"って訊いたの!イエスとノー以外はいらない!」

エイラのこういう、勝手な思い込みでネガティブに走るところは大嫌い。
そのせいでわたしは一体どれだけの間待ち望み続けたことだろう。
エイラの口から発せられた、この言葉を。

「私は……サーニャが、すっ、好きだっ!」

やっと────。

「ばか。」

言ってくれた。

「エイラの、ばか」
「……サーニャ」
「ずっと待ってたんだから……」

最後は声にならなかった。
煮え立った怒りがフッと消えて、代わりに涙だけが糸が切れたように湧き上がってくる。
それを見られるのが恥ずかしくて、わたしはエイラの胸に飛び込んだ。
押し倒すような形でエイラの身体に乗りかかる。

「好きなの……」
「えっ!?」
「エイラ、好き……」

力任せに抱き締めて名前を呼ぶと、エイラはやがて観念したように背中に腕を回し、
黙ってぎゅっとしてくれるのだった。

────────

頭が冷えてくるにつれて、嬉しさよりも恥ずかしさがこみ上げてきたから困った。
いつまでも抱きついているわけにはいかないけど、わたしは一体どんな顔でエイラを見ればいいんだろう。
ああ、そして、これはなんて贅沢な悩みなんだろう。
でも幸せな時間というのは永遠には続いてくれない。

「エイラ、サーニャ、いるかー?」

ドアをノックする音と、イェーガー大尉の声。
慌てて身体を引き離してしまったけど、大尉は部屋には入ってこなかった。

「そろそろ晩メシだってさー。」
「今行く。」

エイラは短く返事をした。大尉の足音が去ったあとで、
そろそろとわたしのほうに向き直る。
驚いたことに、エイラの頬にも涙の痕が残っていた。

「……掴みかかるなんてヒドいじゃないかー。」
「ごめんなさい……。」
「嫌われたのかと思ったんだかんな。」
「だって……」
「大体何で黙ってたって、サーニャだって同じだろ。」
「ごめん……」
「違う、謝って欲しいんじゃないんだ。ただ……」
「?」

その時わたしがどんな顔をしたのかは思い出せないけど、
エイラの気恥ずかしさを覆い隠したみたいな真っ赤な顔だけは、
多分一生忘れられないだろう。

「これからは、ずっと一緒なんだろ?だから、
 こんなことになる前に何でもちゃんと話してくれよな。
 隠し事はナシだ。私もサーニャにはちゃんと言うからさ。」

止まっていた涙がもう一度溢れてきそうになって、
わたしはただ無言で頷くしかできなかった。

『ずっと一緒』

……約束だよ、エイラ。


endif;


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